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最終話 好きになって良かった


「涼を見張ってるのはねえ。頼まれた仕事とはいえ、楽しかったんだよなあ」

「何言ってんの……ちっとも楽しくないよ……。じゃあ、居酒屋の話は嘘?」

「え? いや、全くの嘘じゃない。あの時その場にいたのは間違いない。ただし、隣の部屋にいた客だけどね。あんまりうるさいんで辟易してたところに涼が来た」

「ああ……そう、なんだ」


 なんだか僕は脱力した。晄矢さんは時々僕のバイト先に足を運んでいたらしい。適当な変装をして……。全く気が付かなかった。


「親父には感謝してるよ。おまえと面と向かえる口実を作ってくれてさ」


 ハンドルに手を置き、僕に顔を向けてニコリと笑う。


「金にものを言わせるつもりじゃあなかったんだ。けど、会ってすぐに断言されたのはちょっと戸惑ったかな」


 僕は体を売りませんってやつかな。だって、いきなり『俺の恋人になってくれ』とか言われたら、そういう危険な状況に何度も遭遇してきた僕としては警戒するの、当たり前じゃないか。


 僕は一緒に過ごすようになって気持ちが傾いていった。けど、晄矢さんはそうじゃなかったんだよな。なんだか複雑。


「ずるいよ、晄矢さん。そんな事情があったなんて……全然教えてくれなかったじゃないか……」

「言えないよ。涼や両親、おばあさんに危険が及ぶようなことは、どんな些細のことでも」

「そうだけど……」


 目の前を、晄矢さんの大きな手が通り過ぎ、僕の頬を捕まえた。


「許せよ。もう、なにもかも終わった」


 組織が壊滅した。晄矢さんは僕が帰省している間に、両親が岐阜に来れるよう手配していた。まさかその直前にばあちゃんが倒れるとは、思いもしなかっただろうけれど。

 今朝の髭剃りとネクタイは、両親が病院に着いたこと、知っての行動だったんだろうなあ。


「うん……」


 僕だけ知らなかったのは、子供扱いされたみたいでちょっとだけ残念。けど、何も知らないまま晄矢さんのこと好きになってよかったと思う。


「こっち向いて……」


 晄矢さんの体が、助手席の僕を覆うのがわかる。顔が近づき、息がかかる。僕は促されるまま顎を上げる。


「ありがとう……ずっと……」


 全てを言い終わる前、柔らかい唇が触れる。僕の体も感情も、熱いキスに全部持って行かれた。




 それから1週間、僕は想像もしなかった家族との休日を過ごした。ばあちゃんが無事退院したのを見届け、東京への帰路に着く。駅には晄矢さんが迎えに来てくれた。

 

 岩崎から漬物を貰ったのは、それから2日後の朝だ。長かった夏休みは終わり、後期が始まる。

 塾講師のバイトと予備試験の勉強に励む日々。僕らは須らく日常に戻った。








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