初顔合わせ
旅行に行っていて、半年は帰ってこない。そう聞いていたニコロのご両親が、つい先日旅行先から戻ってきたらしい。
が。
「できれば、本当は会わせたくない、と」
「そういう、わけでは……」
いや、どう考えてもそうでしょ。目は泳いでるし、そもそもさっきから私と顔を合わせようとしないし。
私に関する色々な噂も、陛下の発表で完全に修正されて。むしろ今では時折、同情されるくらいになっているから。私がニコロのご両親に会うことに、そこまで問題はないと思うんだけど。
(そんなに嫌がること?)
それはそれで、ちょっとショックなんだけど。
一応、夫婦関係続けましょうねって話に落ち着いているはずだし。なんなら私はニコロに告白と、ある意味でプロポーズまでされたようなものなのに。それなのに両親に会わせるのはちょっと、なんて。言われたらさ。
「浮気でもしてるの?」
「してない! 断じてしてない! するわけがない!!」
必死で否定してくるニコロだけど、こればっかりは疑いたくもなっちゃうでしょ。もしくは、他に好きな人ができたのか、とか。
(……まぁ、ほぼほぼあり得ないけど)
毎日楽しそうに研究の話をしてくれる、魔術オタクが。そんなことしている暇があるわけがなくて。
私の名前は、今もまだまだ簡単には呼べないみたいだけど。変な話、だからこそ私に向けてくれている思いを疑わないで済んでるとも言える。
(とはいえ)
こればっかりは、話が別だから。
「じゃあ、どうして会わせてくれないの?」
「それは、その……」
「それともなぁに? ニコロは、私を義理の両親にも会おうとしない、非常識な嫁だと思わせたいわけ?」
「な!? ち、違う! そんなわけがない!」
ニコロはそう思ってなくても、ニコロのご両親がどう思っているのかは、また別問題なんだから。
「だったら、会わせてくれないと困るんだけど」
「うっ……」
腰に手をあてて、いわゆる仁王立ちっていう姿で。一歩も譲らない姿勢を見せた私に対して、ニコロは一歩後ずさりしてから。
「……わか、った」
不承不承な様子で頷いた。
たとえ本心ではどう思っていようと、これで言質を取ったのは間違いないから。さっそく日程を調整して、ようやく会えたその日に。
「まぁ! 本当に?」
「本当よ~! 小さい頃はものすごく怖がりで、夜に一人で寝ることもできなかったんだから!」
「なんて可愛らしい……!」
「だから……! もうやめてくれって……!」
ニコロのお母様と、完全に意気投合して。楽しく彼の昔話に花を咲かせることができたのは、本当によかったと心の底から思ったけれど。
「だから会わせたくなかったんだよ!!」
顔を真っ赤にしながら、頭を抱えていたニコロの姿に。恥ずかしいからという理由で、ご両親との初顔合わせを渋っていたのだと、ようやく気づいた。それを知ったからって、会わないという選択肢は私にはないんだけど。
あと、もう一つ気づいたことがある。それは。
「諦めろ、ニコロ」
「親父も! こうなる前に止めてくれよ!」
生暖かい目で、私たちの様子を見ていたニコロのお父様は。あと二十年くらいしたら、ニコロはこうなりそうだなっていうくらいのイケオジだった。これは、明らかに若い時モテただろうな。
(ニコロのお母様も、すごく素敵な方だし)
確かにこのご両親からなら、この見た目の子供が生まれてきてもおかしくない。そういう意味で、遺伝子ってこういうことかと、私は彼女の世界の言葉の意味をまた一つ、理解することができた。
新たな気づきと、たくさんの思い出話を聞けて大満足だった私は。今度は二人でどこかに出かけましょうというニコロのお母様のお誘いに、笑顔で頷いたのだけれど。私たちのそんなやり取りに、今までに見たこともないほど絶望的な表情をして、こちらを見ていたニコロがいたのは。今後の良好な家族関係を築くのに、必要な犠牲だったと。そう思っておくことにした。
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