6.やりたかったことそのいち!
~他作品情報~
なんと!『幽霊令嬢』が!pixivコミック限定の週間ランキング8位にランクインしました!
一週間近く経とうとしているのに、前回よりもさらに順位が上がりました!!
ありがとうございます!(>ω<*)
ということで。
やりたかったことそのいち!
「んふふ~」
鼻歌を歌いながら、家の中にある食材をとりあえずかき集めてみる。
この家の主は基本的に研究室に引きこもってばかりみたいだけど、さてどのくらい何があるのかなという純粋な好奇心。
そしてなにより!
「夢の! お料理! お掃除! お洗濯!」
アルベルティーニ公爵家にいた時には、そんなこと一つもさせてもらえなかった。
当たり前なんだけどね。公爵令嬢がそんなこと、やる必要なんてないんだし。
でも! でも!
「一度やってみたかったんだよね~」
特にお料理!
私は魔術は扱えないけど、誰にでもできる魔法みたいじゃない!?
材料を組み合わせて作ると、あんなに美味しい物ができあがるなんて……!
小さい頃に一度だけお願いしてみたことがあるんだけど、当然ながら却下された。
以来私にとって、叶えたい夢の一つがこのお料理、だったんだけど……。
「ん~……」
目の前に引っ張り出してきた食材を並べて、どれをどう使うべきなのか頭を悩ませる。
クセのある金の髪をクルクルと指に巻きつけながら、さてこの中のどれを使って何が作れるのかと考えてはみるものの。
「わっかんない!」
そもそも目の前にあるのは、白い粉っぽいものが二種類と、乾燥させた麺と、たぶん何かの干し肉。あとは大きめの硬いチーズとオリーブオイル、かな?
え、逆に聞きたいんだけど、これで何かを作ることってできるの?
正直、明らかな食材不足だと思うんだけど。
「卵もなければ、お野菜もないし……」
本当にこの家で生活してないんだね、あの人。
むしろなんのためにあるんだろう、この家。もっと狭い場所でよくない?
いっそ食材がいくつかあっただけでもマシ?
「この白い粉は、一つが小麦粉で一つがお塩、だよね?」
片方は粉というより砂粒みたいだから、たぶんあってると思う。
ちなみにお砂糖が見つからなかったんだけど、なぜ?
というか、これじゃあお料理できないのでは?
早くも前途多難!?
「そもそもサラダすら作れないって、逆にどうしてこれらはあるんだろう?」
謎のチョイスに首をひねるけど、さっきから髪を巻きつけるためだけにしか手は動いてない。
というか、もはや手ですらないよね。指だけだよ。
「んー……」
クルクルと毛先をもてあそびながら、どうしようかと思案する。
この髪の毛を指に巻きつけるのって、私の考え込んでる時のクセっぽいんだよね。
自覚はあるんだけど、クセってすぐには直せないからクセなわけで。あとはまぁ、別に害はないしいいかなって。結局そのままにしてる。
もちろん人前ではやらないように気をつけてるけどね!
「よし! 諦めよう!」
そもそも私が持ってる知識だと、目の前にある材料だけで作れるものが皆無なんだよね。せめて卵とかトマトとかが欲しいところ。
なので、今回は潔く諦めることにして。
「じゃあ次! お掃除!」
気持ちを切り替えて、いざ!
と、意気込んだのはいいんだけど……。
私はこの時すっかり忘れてたんだ。ここが、魔導士の家だってことを。
そして私がこの家に来てから、すでに数日が経っているってことを。
そう、つまり……。
「なんで!? チリ一つ落ちてないんだけど!?」
床は常に磨かれたようにピッカピカ。窓には指紋一つない。
そしてそれは、私の部屋も例外ではなくて。
「……って! ちょっと待ってよ!」
誰がいつ掃除してたの!?
魔導士だから魔術でってこと!?
だとしても、本当にいつ!?
「え、この家って自動的にキレイになっちゃう系の、便利すぎる家だったの……?」
もし本当にそうなら、私の出番なくない?
というか、ちょっと待って……。
「そういえば私、この家に来てからお洗濯とかしてないのに……」
気がついたら服はキレイになってて、なんなら毎日同じ服を着ていても問題なさそうなんだけど……。
え、コワっ! そんなのアリ?
さすが魔導士。
(……ん? というか、これってもしかしなくても)
一部の人にとっては喉から手が出るほど欲しい、夢のニート生活?
「ご飯も作らなくていい、お掃除もお洗濯もしなくていい、って……」
それ、喜ぶ人は喜ぶよね。
むしろ貴族だって使用人を雇って、ようやくそれらをやらなくて済んでるのに。
人を雇う必要がないって、もしかしなくても貴族よりすごいんじゃない?
「でも私の場合、妻の役目全否定だよね?」
分かるよ? 確かに私は元公爵令嬢。そんな人間が、家事全般できるわけがないだろうって。
だから決まった時間に、必ず食事が用意されてるんだろうし。
作れるはずがないって思われてるよね。これは確実に。
本当に作れなかったら困るから、ありがたいと言えばありがたいんだけどさ。
あとね、たぶんなんだけど……。
私を苦労させたくて、わざと平民育ちの下級貴族に嫁がせたんだと思うんだよね、あの人たち。
そう考えたら、そっちもアテが外れてない?
「とはいえ食材がなさすぎて、作りたくても作れないし」
できるかできないかで言えば、まだ私には分からない。
というかお風呂もそうだったけど、お掃除とかお洗濯とか必要ない家にしたのはきっと、私のためじゃないと思う。
だってあの人、出来得る限り研究の時間を削りたくないですってタイプだったから。
そのために、嘘とはいえ悪名名高い令嬢との結婚を受け入れちゃうくらいだよ? 相当でしょ。
もしかしたら自分の時は、お風呂でさえ何かラクしてるのかも。本とか、ずっと読んでいられるように。
「うわ~、ありそ~」
でもそうなると、本当に退屈でしかない。
これは私が求めてた自由とは、またちょっと違うし。
と、いうわけで。
「よし! 次いこう! 次!」
できないことを考えてても仕方がない。切り替え切り替え。
私にはまだまだ、やりたいことがいっぱいあるんだから!