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【書籍化決定!】待ってました!婚約破棄!  作者: 朝姫 夢
本編

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30/66

30.電気ってご存じですか?

「ニコロ、付き合ってくれてありがとう!」


 今日はこの間約束してくれた通り、本当にドレスを一緒に選んでくれた。ドレスだけじゃなく、それに必要な一式全て、一度も嫌な顔をせず。

 しかも馬車までちゃんと用意してくれて!

 初めてドレスを新調することを楽しいと思えた、その感謝も込めて。こうして家に帰ってきて、一番にお礼を言ったんだけど。


「いや、まぁ、礼を言われるほどでは……」


 ふいっと、いつものようにそっぽを向いてしまう。

 でもそう言いながらも、まんざらでもなさそうな声色の彼は、今日も今日とて全身黒。……では、なかった。

 正直、魔導士のあの格好ってある意味正装だから、そのままで行くんだと思ってたんだけど。

 まさかまさかの、黒のパンツに白いシャツに、グレーのベスト。

 明るい色彩では決してないはずなのに、普段が真っ黒もしくは少しだけグレー混じりなせいか、今日はなんだかちょっとだけスタイリッシュに見える。


(意外だったけど、これはこれで似合うんだよねー)


 素材がいいから、基本的には何を着ても似合うんだろう。

 そして、私はといえば。この間ニコロが事前に準備してくれていた、貴族令嬢風の普段着一式をしっかりと着込んで出かけたのだ。

 襟や袖口は女性らしく丸みを強調した、柔らかい色のブラウスには。同じ色の糸で、刺繍が施されている。

 それに合わせるのは、裾に向かって広がっているグリーンのスカート。しかもその裾にもしっかりと、全面レースが取り付けられている。

 そして極めつけは、そのスカートと同じ色と素材をあしらった胸元のリボン。

 この可愛さたるや……!


 今までの私はこういう服装をしてこなかったから、似合うのかどうか不安だったけど。

 ニコロは似合うって、言ってくれた。

 それにこの状態でさらにヒールの高めの靴を履いても、まだ結構な身長差があるってことは。純粋に、ニコロが長身だということ。


 ちなみにこの高さだと、ダミアーノ殿下よりも高くなってしまうからと毎回禁止されてた。

 あのバカ王子、そういうプライドだけは高かったからね。


「私の気持ちの問題だから!」

「そうか」


 最近、こういうふとした瞬間の声が優しい気がするんだよね。

 やっぱり、あれなのかな。色々とぶっちゃけたというか、真実を伝えてきたからなのかな。

 腹を割って話すじゃないけど、本音で話した分だけ、心の距離って縮まるのかもね。


「じゃあ着替えて、夕食の準備――」

「やっぱり、外食でいいんじゃないか?」


 部屋に向かおうとした私の腕を掴んで、今日何回目か分からない言葉を口にするけど。

 そういうわけにはいかないって、私何度も説明してるんだよなー。


「あのね、どこに人の目があるか分からないんだよ?」


 バカだけど、あれでも一応第一王子だし。噂もしっかり広めてくれてるし。

 それなのに、世間的には悪名高い令嬢が嫁いだ先の旦那様を引き連れて、ディナーになんて行ってみなさい。あっという間に噂の的よ。


「今はこれ以上の噂は広げず、学園の卒業パーティーで陛下方が外遊から戻られるまで待つべきなんだって、言ってるでしょ?」


 なにより、これはニコロのためでもある。

 彼にとって研究が一番なのはよく分かってるけど、今後もそうとは限らない。

 これで私に懐柔されたとか、変な噂が立ったままの状態で好きな人とかできたら、困るでしょうが。

 そういう可能性をなるべくなくすためにも、今はまだ大人しくしてるほうがいいの。


「……だったら。せめて今日だけは、前のように食事を用意させてくれないか?」

「え? うーん……」


 それならまぁ、問題ない、かな。

 正直なことを言ってしまえば、久々の採寸でちょっと疲れてはいるし。

 楽できるなら、させてもらおう!

 あと、この家の設備だと、本当に簡単なものしか用意できないからね。


「じゃあ、今日はお願いしようかな」

「あぁ」


 ちなみにあのお料理は、魔導士たちのために直接契約が結ばれている、いくつかの店舗からの提供品らしい。

 どうやら仕事やら研究やらで食事を抜きがちな彼らに、健康な食生活だけでもと始まったことらしいけど……。

 うん、まぁ、なんていうか……。管理する人たちも色々大変なんだろうなって、聞いた時には少しだけ遠い目をしたくなったよ。


(それにしても)


 着替える必要もなくなったから、ニコロが用意してくれた服装のまま。ハーブティーの準備だけをしつつ、部屋の中を見回す。

 最初の頃より、かなり調理器具が揃ってきたとはいえ。


(基本的に食材が出しっぱなしっていうのも、ね)


 気になるというか、なんというか。できれば、冷蔵庫みたいなものが欲しいけど。

 この世界には電気なんて概念が、そもそも存在してないしなー。

 ニコロに言えば、魔術でなんとかしてくれそうな気はする。でもそれだと、私の望んだものとはちょっと違うし。


(だからって、電気ってご存じですか? なんて見ず知らずの小娘が、魔導士のトップに急に言い出すのも変でしょ)


 きっとそれを普及させるには、国の偉い人たちが有用性を認知した上で、何年もかけて実用化させていくしかないんだろうけど。

 でも……。


「ねぇ、ニコロ」

「ん?」


 テーブルの上に二人分のティーカップを置いて、ハーブティーを注ぎながら。


「雷を、動力として利用できないかな?」

「……は?」


 そっと呟いた言葉にニコロが返してきたのは、単純な疑問だった。


「どうしてそんなものを、急に?」


 まぁ、うん。そうだよね~。

 そうなんだけど、さ。


「冬の寒い日とかに、扉を開こうとしたらバチって痛くなること、あるでしょ?」

「あぁ、妖精の悪戯(いたずら)の話か」


 この世界では、まだ解明されていない不思議なことを『妖精の悪戯』として、ひとくくりにして呼んでいる。

 だけどそれは、解明されていないだけ。実際に妖精が何かをしているわけじゃあない。

 これはこれで、冤罪(えんざい)だよなぁ。ごめんね、妖精さんたち。


「あれと雷は、原理としては同じなの」


 正確に言えば、色々と違いはあるんだけど。

 私も詳しくは説明できないから、ここではとりあえず(はぶ)いて。


「可能なら、私はこの世界に『電気』を普及させたい」


 使える人が限られる、魔術ではなくて。

 みんなの暮らしを少しだけ豊かにする。本当に、それだけでいい。


 そのため、だけに。


「だからね。可能かどうか、話を聞いて考えてみてほしいの」


 私は、決意した。


「……前々から思ってたんだが、君のその知識(・・)はどこからきている?」


 ニコロに、全てを打ち明ける決意を。



~他作品情報~


 明日11/11は、ポッキー&プリッツの日!

 そして『幽霊令嬢』のコミカライズ版更新日です!


 寒くなってきたのであたたかい飲み物と一緒に、クスっと笑ってもらえたら嬉しいです♪



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