表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/66

19.ちょっとした提案

「ところで、旦那様」


 食事中ならゆっくり話せるだろうと思って話しかけた私に。


「なぁ」


 旦那様は一言で、待ったをかける。


「どうされました?」

「いや、どうもこうも。その"旦那様"って呼び方、やめないか?」

「あら」


 どうやらお気に召さなかったらしい。

 言われてみれば、私たちは強制的に結婚させられただけの仲。そんな相手から、まるで本当の夫婦のように呼ばれるのは、確かに納得いかないのかもしれない。


「大変失礼いたしました」

「いやだから! そうじゃなくて!」


 どこか必死に否定をしてくる旦那様が、何を訴えたいのかが分からなくて。私は思わず首を傾けてしまう。

 目の前では左手で目元を隠しながら、小さくうめく旦那様。


「だから、その……。あぁもぅ! ニコロ! ニコロでいい!」

「ニコロ様?」

「様はいらない!」


 察しの悪い私に対してなのか、それとも自分の発言に対してなのか。

 まるでなにかを吹っ切るかのように言い切ったその顔は、やっぱり赤くなっていて。


「俺は平民出身だから、そういう堅苦しい呼ばれ方に慣れてないんだよ!」

「まぁ。でしたら私のことも、気軽にジュリアーナと」

「呼べるかぁ!!」


 どうして!?

 平民出身だから、気軽に呼び合うことに慣れているのでは?

 え、違うの?


「あとその口調も! 君の素は昨日のアレだろう!?」

「アレ……?」

「第一王子への本音をぶちまけた時の!」

「…………あー……」


 確かに、そうだった。

 つい婚約中の時のことを思い出して熱くなりすぎて、口調とか気にする暇もなく言葉にしてた。


「それで、いいんだよ。別に無理に令嬢であり続けなくたって。俺は名ばかりの男爵位なんだし」


 これは、もしかして……。


「慰めてくれてるの?」

「ちっ……! ……がわ、なくも、ない……」

「っ……!!」


 待って! なにそれ!

 顔どころか首まで真っ赤にしながら、それでも一度否定しようとした言葉を飲み込んで、私の言葉を肯定したりとか……!


(なにそれ可愛いっ……!!)


 やっぱり私の旦那様メチャクチャ可愛いよ!?

 あ、違った! 旦那様じゃなくて、ニコロ!


「だから、その……俺からの、提案だと、思ってくれれば……」

「ん゛っ……!!」


 待って待って! これ以上私を悶絶させないで……!!

 なんでそんなに可愛いのよー!!


「……? どうした?」

「……イエ、ナンデモナイデス」

「なんでカタコトなんだよ」

「ちょっと……こういった経験は、はじめてなもので……」


 年上の男性に可愛いと思うのも、こんな風に不器用に慰めてくれるのも。


「そっ……! ……そう、か」


 一人納得したらしい旦那様は、スープを口に運んで食事を再開する。

 あ、違う。ニコロ、だ。


「でもそれならなおさら、私のこともジュリアーナって呼んで欲しい」

「ゴホッ」


 あ、むせちゃった。

 でもおかしくないよね? むしろ私だけが名前で呼ぶのはおかしくない?

 まだちょっと慣れなくて、普通に旦那様って言っちゃいそうだけど。


「それはっ、そのっ……」

「ダメ……?」

「うっ……」


 ちょっと上目遣いでお願いすれば、たじろぐニコロ。

 たぶんね、この人女性に対する耐性がないんだと思う。

 今まで魔術にばっかり目を向けてたから、興味も関心もなかったんだろうなぁ。


「ぜ……善処する……」

「愛称でもいいよ?」

「だ、からっ……!」


 真っ赤な顔で反論しようとしてるけど、真っ直ぐ見つめ返すと目が泳いじゃうし、言葉にも詰まっちゃう。

 こういうところが、本当に可愛すぎる。


「な、慣れたらな!」

「はーい」


 くすくすと笑う私を、真っ赤な顔のまま睨みつけてくるけど。

 それすら、可愛いだけなんだよなぁ。


「あぁでも。それなら私からも、ちょっとした提案をしてもいい?」

「……なんだよ」


 ちょっと警戒モード?

 なんかこう、猫が警戒してるだけのように見えて、ただただ可愛いだけなんだけど。

 これはまずい。ちゃんと私が真面目モードにならないと。


「家にあまり帰ってこない予定なら、ニコロの自室と書斎以外を色々と変更する権利が欲しいの」

「変更する権利? この家になにか不自由があるのか?」


 一転してどこか怪訝そうな顔つきになったのは、家主としてというよりは魔導士としてな気がする。

 だってこの家、ほとんど魔術で管理されてるもんね。


「不自由はないけど、気になることがあって……」

「どこがだ?」

「その……下水のニオイが……」


 部屋の中にいると気にならないけど、流しに近づくとどうしても気になっちゃう。

 この家って基本的に洗い物をする必要がないから、長時間いることはないんだけど。それでも気になるものは気になる。


「ニオイ、か。俺は使うことがないから、それは盲点だったな」


 そう言って、黙り込んでしまう。

 たぶん色々対策を考えてるんだろうけど、ここは魔術じゃなくて知恵で解決したいから。


「下水管の形を少し変更して、ニオイが上がってこないようにしたいの」

「形?」

「そう、形」


 定期的に水を流さないと、結局同じことだけど。それでも今よりはずっといいはず。

 そもそもこのニオイがするってことは、下水管が下水道まで真っ直ぐになってるってこと。

 それなら、途中で水を溜められる場所を作って、ニオイが上がってくるのをせき止めてしまえばいい。


「費用は私のいらなくなったドレスを売って出すから、お金の面では迷惑をかけないって約束する」

「は? 待て待て。別にそこまでしなくても」

「これは私の勝手な要望だから、私が費用を出すのが当然でしょう?」


 言ってしまえば、私のただのワガママ。そんなものにお金を出させようなんて、はじめから思ってない。

 ん、だけど。


「いやだから、そうじゃなくて。そもそも形程度なら、魔術で変えればいいだろ」

「…………はい?」


 なにか言い出したよ? この人。


「下手に他人が触って魔術の繋がりを断たれるのも、俺が困るんだよ。だったら形だけちゃちゃっと変更すれば楽だろ」

「ん……?」


 それは本当に、楽ですか?

 というか一般人にはそんなことできないし、最初から発想もないんですが?



~他作品情報~


 明日10/17は、コミカライズ版『王弟殿下のお茶くみ係』第3話の更新日です!

 よろしくお願いします(>ω<*)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ