“残念なイケメン“
新学期、校内にある大きな桜の木の下。風に靡くストレートな黒い髪、桜を見上げた時の横顔、風にのり俺の鼻をくすぐる柔軟剤の香り。その全てに
────俺は、初めての恋をした。
突然だが、皆に紹介したいと思う。俺は、私立桜薔薇高校に通う平凡な高校2年生赤城 春人。街を歩けば、皆振り返る様なそれなりに整った容姿をしている。全国模試を受ければ、全国2位に入ることが出来る程勉強もできる。俺が参加した部活は全国大会で優勝できる位にスポーツもできる。
そう。この俺は、完全無欠の所謂“イケメン“ってやつらしい。
そんな俺でもごく一部の人にしか言えていない秘密が一つだけある。
それは••••••
『女子の前だと緊張し過ぎて何もできなくなってしまう』
というものだった。これのおかげで、事情を知る者からは“残念なイケメン“と揶揄される。さらに、この特性だからか今まで彼女などできた事も無いのだ。だが、例外として親族や、2人の女子とは普通に会話をできる。
さて、そろそろ地の文だけでの話も読むのに疲れただろう。では、本編に入ろうと思う。
これはそんな“残念なイケメン“な俺が、初恋を経て“真のイケメン“へとなって行く物語だ。
♡♡♡
「春人ー! 起きなさい! 新学期から遅刻するつもりなの?」
「••••••ぁあーい」
新学期初日、俺は母親のモーニングコールで目を覚ました。俺は、ベッドから起き上がり着替えを済まして家族の待つリビングへと降りた。
「春人! 遅かったね!」
リビングへ入ると、よく知っている栗色の髪の毛を束ね、小柄な癖に胸の大きな女子が声をかけてきた。
「••••••なんで朝からお前が家で朝飯食ってるんだ?」
俺の幼馴染であり、“学内1“運動ができて“学内1“可愛い青山夏美が平然と朝ご飯を食べていた。
「え? 春人のこと迎えにきたら梅雨さんにご飯で持って••••••」
「ちょ、母さん! なんでそんなことするんだよ!」
「あんたねー、せっかくなっちゃんが迎えにきてくれているのに外で待って言うの?」
はい。怒られました。俺はまた夏美に負けたと思いながらも、時間がないので急いで朝食を食べ学校へと向かった。
「なあ夏美。お前毎日朝飯家で食ってるけど、よく食べ切れるよな。家でも食べてきてるんだろ?」
「勿論! いっぱい食べて大きくならないと、“残念イケメン“春人君に馬鹿にされちゃうからね!」
残念イケメンって言うなし! 腹が立った俺は、夏美に言い返すことにした。
「お前な、“残念イケメン“言うなって言ってるだろ! それと、夏美は食ったもん全部胸に吸収され••••••」
「うっさいわね! それ以上言ったら、殺るわよ?」
俺の言葉を遮るように、夏美の右平手打ちが飛んできた。
「何を!? むしろもう殴られてるんだが!?」
「あぁー! ごめん! つい! 悪気はないんだ!」
「いやいや、せめて悪気はあって? じゃなきゃ、条件反射で殴ってるようなもんだよ? むしろ怖いわ」
「えへへ! ごめんね! は・る・と・く・ん!」
全然謝る気がないのが癪だがまあ、いつも通りの通学風景。これはこの通学路を通る全ての学生の恒例の痴話喧嘩になっているらしい。
そもそも痴話喧嘩じゃないけどな? 俺ら付き合ってないし。少なくとも俺にその気は無い。夏美の気持ちはわからないが••••••
学校に到着し、新学期のクラス分けを見に向かっていると、先に走って行った夏美が走りながら戻ってきた。
「春人ー! 私たち同じ2年1組だったよー!あとねー••••••」
夏美がそこまで言うと、俺は急いで遮った。
「••••••お前なー! 盛大にネタバレしてんじゃねえええええええ!」
「えっ!? 春人そんなに楽しみにしてたの? “ただの“クラス替えだよ!?」
「“ただの“じゃないんだっつーの! お前も俺のあれ知ってるだろ? 誰と同じになるかは死活問題なの! それをこの目で楽しみたいって去年も言ったよね!?」
「あれー? そうだっけ? そんな後ろ振り返らないで、前に向かっていきようよ!」
「スケールがでかいわ!」
そう。これも毎年恒例の行事となっている。俺は決して楽しいとか思ってないからな? 本当だぞ。
その後、クラス割を確認した俺は心の中でガッツポーズをかました。なぜなら、夏美の他に親友の黒田 四季に、もう1人の幼馴染緑川 千秋も一緒だったからだ。この3人は、俺の秘密を身内以外で唯一知っている者達だ。
少しは気が楽になった俺は、始業式の開始までお気に入りの場所で少し休むことにした。それは、この学校にかなり古くからある一本の桜の木。何故だかそれを見ていると、心がとても落ち着くのだ。毎日あの幼馴染とのやりとりがあれば、気が楽とは言え疲れる。そんな日は、この桜を見て心を落ち着かせている。俺のお気に入りスポットだ。
桜の木が見えてきたと同時に、俺は歩みを止めてしまった。いつもは誰も来ることのない場所なのだが、今日は先約がいた。しかし、俺はその女生徒を見ると感じた事のない感情が胸をちくちくと刺した。
心臓が今までにないくらい早く鼓動し、夏美たちや、他の女子に感じる感情でもなく、何故だか彼女から目を離せなくなってしまっていた。その木の下に立つ彼女から届く柔軟剤の香りや、彼女自身から目を離せなくなった。
────こうして彼、赤城春人は初めての恋に落ちたのだった。
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