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第三章 第71話 元剣聖のメイドのおっさん、兄の憎悪の深さを知る。



「えっ・・・・? あ、貴方が、私の・・・・実の兄・・・・?」


「・・・・・・・・・・・」



 その衝撃の事実に、俺は瞠目し、口を開いて唖然としていまっていた。


 そんな俺を鋭い眼光で睨みつけると、ギルフォードは再びマスクを着け、踵を返し、颯爽と前を歩いて行く。


「ついて来い。人払いの魔法を使っていると言っても、ここは()の本拠地の真っ只中だ。立ち話をしている余裕などは無い」


「あ、あの、ちょ、ちょっと待ってください!!!! い、いったい何処に向かおうというのですか!?!?」


「良いから黙ってついて来い。・・・・コルルシュカ、周囲に監視の目は無いな?」


「はい。今のところ、【透視魔法(ビジョン)】の類が発動されている様子は無いと見て良いかと」


「そうか。引き続き、魔道具(マジックアイテム)を使用して周囲に警戒の目を向けておけ。ゴーヴェンにこの事を感づかれでもしたら厄介だからな」


「畏まりました」


 そんなやり取りをして、仮面の男ノワールは・・・・いや、ギルフォードは、カツカツと革靴を鳴らしながら、コルルシュカを引き連れて校門の外へと歩いて行く。


 そんな二人を呆然と立ち尽くし眺めていると、ふいにコルルシュカが足を止め、肩ごしに俺へと視線を向けて来た。


 そして彼女は、感情の起伏が見られない冷淡な表情をしたまま、口を開く。


「・・・・・アネットお嬢様。参りましょう」


「もう、何がなにやら・・・・・本当に、意味が分からない・・・・」


「混乱されるのも無理はございません。ですが、今はこのまま私共についてきてくださると幸いです。・・・・今、私たちがすべきことは、会話によってお互いの理解を深めることだと、そう思いますから・・・・」


「お互いの理解を、か。というかお前、今までのあのアホッぽい口調は全部演技だったのか? 急にしおらしい性格になりやがって・・・・もしかしてそっちが素なのか?」


「はい。コルルシュカというのも偽名です」


「はぁ・・・・本当に、わけがわからねぇ・・・・」


 俺は大きくため息を吐いて、ギルフォードとコルルシュカの後を追って、校門の外へと出る。


 そして、暗闇が広がる聖騎士駐屯区の街を、三人で静かに歩いて行った。






「・・・・・・着いたぞ。ここだ」


 聖騎士駐屯区を抜けて、橋を渡り、王都南西商店街通りへと辿り着くと、ギルフォードはレンガ造りの建物の前で立ち止まる。


 そして、その二階立ての建物の壁に向かって歩いて行くと----彼はするりと、壁に溶けるかのようにしてその建物の中へと消えて行くのだった。


「えっ・・・・?」


 目の前で起こったその光景に目を見開き驚いていると、コルルシュカが俺の前へと出て、壁へと手を触れる。


 すると、彼女のその腕はまるで水に沈んでいるかのように・・・・壁の中へと突き刺さっていたのだった。


 コルルシュカは壁に腕を突き刺したまま、こちらを振り返ると、抑揚のない口調で口を開く。


「・・・・御覧の通り、この建造物には【幻惑魔法】が掛けられております。なので、外からだと本当の入り口が分からない仕様になっているんです」


「げんわ・・・・はぁ!? 【幻惑魔法】だとッ!? そんなレアな魔法初めて見たぞ!? 魔法の国である帝国になら確かに使い手もいるかもしれねぇが、ここは王国だぞ!? そんな特異な魔法を使える奴がいやがるっていうのか!?」


「・・・・・いいえ。これは、魔道具(マジックアイテム)によって発動されたものです。王国出身であるギルフォード様と私に、このような特異な魔法を使える因子は当然、ありませんから」


「な、なるほど。まぁ、とりあえず、そのまま壁の中に入れってことだな?」


「はい。それではお先に失礼致します」


 そう言ってペコリと頭を下げると、コルルシュカはそのまま壁の中へと消えて行った。


 俺も続いて、壁に手を伸ばし、身体を沈めて行く。


 恐る恐るゆっくりと、全身を壁の中へと沈めて行くと、その中に広がっていた光景は----窓から青白い月光が差し込む、荒れ果てた様相をしている部屋の一室だった。


 椅子やタンスなどは横に倒れ、壁には『死ね』だの『殺す』だの、何者かに対する憎悪の言葉が所狭しと乱雑に書き記されている。


 その廃墟のような一室の様子に俺が息を飲んでいると、ギルフォードは倒れていた椅子を起こし、座る。

 

 そして彼は肘掛けに肘を乗せると、手を組み、こちらに鋭い眼光を見せてきた。


「座れ」


「へ? あ、あの、座れと申されましても、ええと・・・・」


「その辺に転がっている椅子を起こして、座れ」


「は、はい、分かりました・・・・」


 彼の言う通りに、地面に転がっている適当な椅子を起こして、俺はおずおずと座る。


 そうして向かい会うように座った後、何故かギルフォードは俺のを顔をジッと静かに見つめてきた。


 そんな彼の様子に、俺は思わず首を傾げてしまう。


「あ、あの、何か・・・・?」


「・・・・・やはり、お前は母上によく似ているな」


「えっ?」


「仕草と言い、声と言い、まるで生き写しかのようだ。こうしてお前の前にいるだけで、まるで死んだ母上と会話をしている・・・・そんな不思議な気分になってくる」


「お兄、様・・・・」


 彼のその目は、俺を見ているようで、見ていない・・・・そんな気配が感じ取れた。


 ギルフォードは目を伏せ、眉間に手をやりながらふぅと深くため息を吐くと、続けて口を開く。


「お前も知っての通り、私とお前は先代オフィアーヌ家の子息と子女に当たる。本来であれば私たちは、兄妹として、オフィアーヌ家の屋敷で共に暮らしていた未来もあったのだろう」


 そう口にした後、目を開き、ギロリと俺を睨むと、ギルフォードは憤怒の表情を浮かべ始めた。


「----だが、そんな未来は無かった。いや、奪われた。あの獣畜生であるバルトシュタイン家、そして腐った王家の手によって、な」


「・・・・・・・・・・・・・」


「我らの両親である先代オフィアーヌ家当主夫妻は、王家に反乱したという偽りの罪を着せられ、処罰された。その件については十分に理解しているな?」


「・・・・・はい。バルトシュタイン家の御屋敷で、ヴィンセント様とオリヴィア様に、そのことについては教えて頂きました・・・・」


「ヴィンセント、オリヴィア、か。懐かしい名前だな」


「お兄様は、お二人とは旧知の仲だったのですよね?」


「そうだな」


「でしたら、存命で在られたことを彼らに教えて差し上げてはいかがでしょうか? お二人とも、お兄様が亡くなられたことをとても憂いていられたご様子でしたよ?」


「・・・・・騙されるな、アネット」


「は?」


「奴らの言動は全て嘘偽りのただの演技にすぎない。バルトシュタイン家の人間は皆、血に飢えた悪鬼羅刹の畜生でしかないんだ。あの獣どもの甘言に惑わされるな」


「・・・・・・・・・・はい?」


 嘘偽り? い、いや、何を言っているんだ?


 オリヴィアとヴィンセントの二人が嘘を吐いて俺を騙そうとしていると、ギルフォードはそう言いたいのか?


 悪いが・・・・あの二人が邪な狙いを持って俺を騙そうとしているなど、どうにも思えない。


 俺は、自分に好意的に接してくれた彼らを信じていたい。


 この男は、あの二人に何か恨みでも抱いているというのか・・・・?


 ギルフォードのその発言に混乱していると、彼は続けて口を開く。


「お前は奴らが・・・・バルトシュタイン家が悪魔だということを知らないんだ。あの家の者どもは人の血を啜り、無辜の民を虐げる悪鬼羅刹の畜生なんだよ」


 そう言って一呼吸挟むと、ギルフォードは目を細め、突如優しい微笑を俺へと向けてくる。

 

「だが、安心すると良い。これからはこの私が一人残らず、バルトシュタイン家の獣どもは屠殺していってやる。だからお前は王都から離れて安全な暮らしを送っていろ。分かったな?」


「ちょ・・・・ちょっと待ってください、お兄様!! い、言っている意味が分かりません!!」


「? 何が分からない? 父上と母上を殺した獣どもに誅を下す、ということを私は言いたいだけなのだが?」


「お兄様が両親の仇を討ちたいというのは、理解致しました。ですが・・・・ですが、オリヴィア様とヴィンセント様は、貴方の敵なんかではありませんよ!? 彼らは間違いなく善人です!! 私はこの目で見たんです!! 幼少の頃に亡くなった貴方を守ることができなかったと、兄妹揃って悔いていられる御姿をっっっ!!!!」


 そう叫ぶと、ギルフォードはギロリと、まるで敵を見るかのように俺を睨みつけてくる。


「・・・・・まったく。案の定、バルトシュタインの屋敷に行って毒されたな、アネット。奴らはあの畜生の子供なのだぞ? 善人なわけがないだろう? バルトシュタインの血は絶やさなければならない。それは人の世のための決定事項だ」


「お兄様!! 親の罪に子供は関係ありません!! 恨むべきはゴーヴェンだけのはず、そうでしょう!?」


「私はな、アネット。幼少の頃、目の前で父上が殺されて行く光景を、草木の茂みからただジッと眺めていたのだ」


「え・・・・・?」


「聖騎士団というのは、人々を守る高潔な騎士などではない。奴らはただの血に飢えた殺戮集団だ。父は磔にされ散々嬲られた後、首を斬られ、その頭で球技の真似事をされて弄ばれていた。そこで突っ立ている女の姉・・・・私の付き人だったメイドは、聖騎士の慰み者にされた挙句、身体中を刻み付けられ、遊ばれていた。そんな非道なことをする連中が人間などと、そう思うのか? アネット」


「・・・・・・・・・・・・」


「誰がどう見ても、そんな行いをするのは人間ではないと言えるだろう。だからゴーヴェン、いやバルトシュタイン家もろとも、私は必ず聖騎士団を滅ぼさなければならないのだ。そして、あのような地獄を産み出すよう命じた王家も、必ず滅ぼさなければならない。私はそのためにあの地獄から生還し、生き残ったのだからな。だって、あんな畜生が笑って生きていたんじゃ、殺されたオフィアーヌ家のみんなの無念は晴らされないだろう? なぁ、そうは思わないか? アネット」


 瞳孔が開いたギルフォードのその目は・・・・暗く濁り、狂気を孕んでいた。


 どう見ても今の彼は、復讐に囚われ、精神が摩耗しきっている。


 姉の敵討ちのために復讐を誓っているグレイレウスは、まだ自分というものを見失ってはいないが・・・・・目の前にいるこの男は違う。


 聖騎士団と王家に関連する者を全て敵だとみなし、盲目的になり、本質というものを理解できていないでいる。


 なるほど、生きていたというのに、長年、俺とマグレットに会いにも来ないわけだな・・・・。


 だって彼は、今を生きる俺たち家族よりも、過去の亡くなった者たちにしか目を向けようとしていないのだから・・・・。


「アネット。まもなくこの国では巡礼の儀が始まり、各王子たちと四大騎士公の末裔たちが殺し合いを始める。だからお前は今すぐ聖騎士養成学校を退学して、王都から離れて・・・・・安全な場所で暮らしていろ」


「・・・・・・・・」


「あぁ、そうだ。なんならレティキュラータス家のメイドも辞めて、何処か辺境の地で居を構えて暮らしても良いぞ。そのための金なら私がいくらでもくれてやろう。オフィアーヌ家の令嬢として、格下のレティキュラータスにメイドとしてこき使われる日々はさぞ辛かったことだろうからな。これは今までお前の面倒を見てやれなかった、兄としてのせめてもの詫びだ。遠慮なく受け取れ」


 床の上に、ドサッと、大量の金貨が入った袋が投げられる。


 だが俺はそんな金貨に視線は向けずに、ただ、じっと、ギルフォードの目を見続けた。


「・・・・・・・・・」


「何だ? その目は?」


「・・・・・・・・・」


「この金貨の量じゃ足りないか? 言いたいことがあるのなら言ってみろ」


「お兄様・・・・私は、貴方の命令には従いません」


「・・・・・・・なんだと?」


「私は聖騎士養成学校を辞める気はございませんし、レティキュラータス家のメイドを辞める気も一切ございません。そして・・・・オリヴィア様とヴィンセント様に手を出す気ならば、申し訳ありませんが、貴方と対立する所存です」


 その言葉に勢いよく席を立つと、ギルフォードは怒り狂った形相で、甲高い叫び声を上げ始める。


「ふざけるな!!!!! 兄であるこの私の命令に従わないと言うのか!!!!! それも、バルトシュタイン家の兄妹を庇う、だと!?!?!? 正気か貴様!!!! 奴らは私たちの両親の仇の子供なのだぞ!!!!!」


「はい。お兄様も正気になればきっと理解するはずです。彼らが敵ではないということが」


「フッ、ハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!!! 正気ではないのはお前だろう、アネット!!!!!! 奴らに何を言われた!?!? 洗脳でもされたか!? 弱みでも握られたのか!?」


「・・・・・お兄様」


「・・・・止めろ。その顔で私を見るな。・・・・母上と同じ顔で私を否定するな、アネット!!!!!!」


 ギルフォードが拳を振るい、俺に殴りかかってくる。


 その拳は、余裕で避けれる速度のものだったが・・・・俺が回避の行動を取る前に、何故か、ツインテールのメイド少女が俺を庇うようにして前に出たのだった。


「ッ!!」


「!? コルルシュカ!?」


 彼女はギルフォードに頬を思いっきり殴られると、吹き飛ばされ、壁際へと叩きつけられていった。

第71話を読んでくださってありがとうございました!!

もうすぐ2022年も終わりですね!!

この時期になると、何故かいつもそわそわしてしまいます笑

今年は例年に比べて非常に寒くなった年の瀬ですので、皆様、お身体をご自愛くださいね。


いいね、評価、ブクマ、とても励みになっています!


次回は明日か明後日に投稿しようと思っていますので、また、読んでくださると嬉しいです!!


三日月猫でした! では、また!


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― 新着の感想 ―
[一言] コルルっ…!
[一言] アネットはやろうと思えば何時でも全員まとめて斬り捨てられるんだよなぁ…… むしろ中途半端な腕で戦いに出て人質に取られる未来しか見えないのでお前が隠居しろ
[一言] ま、まさかレイキュラタースの令嬢に手籠めにされてるのか!?弱みを握られてる、そうなんだろ!?
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