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第47話 元剣聖のメイドのおっさん、変態貴族の子息に出逢う。



「それで? この学校の情報を教えてくれるって、いったいどんなことを教えてくれるというのよ、ルナティエ」


「そうですね・・・・。私たちが知らないルールがあるというのなら、ぜひ、教えていただきたいところでございます。ルナティエ様」




 そう言って俺とロザレナは、この学食で一番値段の安かったメニューであるハンバーグ定食が乗ったトレーを手に持ちながら、前を歩いていくルナティエへと声を掛ける。


 するとルナティエは、そんな俺たちに対してフンと鼻を鳴らしながら、食堂の奥へと向かっていった。


「お待ちなさい。まずは席に着いてから・・・・そうですわね。あの、奥の窓際の四人席が宜しいのではないのかしら。ディクソン! 周囲に監視の目をー---って、あぁ、もう、彼はわたくしの従者を辞めたのでしたわね。まったく、仕方がありませんわね!」


 ルナティエは深くため息を吐くと、人気があまりない最奥の窓際の四人席へと座り、購入した料理のトレーを乗せ、こちらへと振り返る。


「さぁ、お座りなさい、お二人とも。それと、アネットさん。貴方、話を聞きながらで構わないから、常に周囲に監視の目を配っておいてくださるかしら?」


「ちょっと!! うちのメイドに勝手に命令しないでー----」


「いえ、お嬢様、ルナティエ様も意図があってのことだと思います。ですからどうか、お止めにならないでください」


「え? で、でも・・・・・」


「ルナティエ様、周囲の様子を観察するだけで構わないのですよね? でしたら、私は通路側に座らせてもらいます。お嬢様は、奥の窓際の席へとお座りください」


 そう言って渋々と言った様子で奥へと座って行くロザレナの後に続いて、俺は通路側の席へと陣取った。


 そんなこちらの様子を見つめると、ルナティエは目を細め、口角を吊り上げる。


「へぇ・・・・。貴方、わたくしに何の疑問の声を上げないということは、もしかしてこちらの意図を即座に汲み取った、と、そういうことなんですの?」


「まさか。私は超能力者ではありませんから、ルナティエ様のお考えを全て読み取るなんてことはできませんよ。ただ・・・・先ほど、他クラスの生徒たちがこちらに敵意を向けていた様子がありましたからね。それとルナティエ様も、ロザレナお嬢様がこの学校で注目を集めていると仰っていられましたし・・・・彼ら他クラスの生徒たちからの何らかの接触があっても対処できるように、常に周囲を警戒しておくのが、得策だと判断いたしました次第でございます」


 そう答えると、ルナティエは突如パチパチと優雅に拍手を鳴らし始めた。


「素晴らしいですわ。咄嗟にそこまでの現状を把握できる使用人は、中々いるものではありません。アネット・イークウェス、わたくしの中の貴方の評価をさらに上げなければなりませんわね」


 そして拍手を終えると、ルナティエはこちらにニコリと、満面の笑みを向けてくる。


「ところでアネットさん。貴方、フランシア家に鞍替えする気はありませんかしら? レティキュラータス家よりも良い待遇でお迎えすることを確約致しますわよ?」


「は、はぁぁぁ!?!? あんた!!! 何突然ふざけたこと言ってんのよ!!!!!!!」


 その言葉にロザレナは机をドンと叩くと、怒り狂った形相で席から立ち上がる。


 俺は、そんなガルルルと唸り声を上げる我が主人を手で制した後、ルナティエに向かってペコリと頭を下げた。


「申し訳ございません、ルナティエ様。私は今のところ、ロザレナお嬢様以外の主人にお仕えする気はないのですよ。・・・・けれどどうか、お誘いを断ったからと言って、私のことを嫌わないでもらえると幸いです。ルナティエ様とはこれからも良き友人として関わっていければと、そう思っておりますから」

 

 そう謝罪をして頭を上げると、ルナティエはガッカリした表情で、自身の巻き毛をクルクルと指で弄び始める。


「そうですの・・・・。主人に忠義深く、そして思慮深く、謙虚で、お金にも目が眩まない、と・・・・。あぁ、もう! 本当に惜しい逸材ですわね! もし、貴方が幼い頃からわたくしに付き従っていたパートナーであったのなら、わたくしも・・・・・いえ、何でもありませんわ!」


 彼女はそう口にし、コホンと咳払いをする。


 そしていつものような不敵な笑みを浮かべると、コーヒーカップを手に取って、ロザレナへと視線を向けた。


「話が大分逸れてしまいましたわね。では、本題に入るとしましょうか。まずロザレナさん、貴方、級長というものがどういう存在なのかをちゃんと理解していまして?」


「え? んー・・・・クラスのまとめ役? みたいな? 普通の学校でいう、学級委員長みたいな感じ?」


「このお馬鹿さん!! まったく違いますわよっ!! もう、こんな級長の価値も分からないバカに負けたのだと思うと、腹立たしくてしかたありませんわね!!」


「いちいちバカバカって言ってくるんじゃないわよドリル女!! 良いからさっさと級長のことを教えなさいよ!!」


「・・・・はぁ。良いですか、この聖騎士養成学校で級長に任命されるというのは、とても重大なことなのです。何故なら・・・・この学校は、卒業して騎士になるその時、クラスがそのままひとつの部隊として聖騎士団に組み込まれることになるのですから。ですので、これから四年間、黒狼(フェンリル)クラスが他クラスの生徒を多く蹴落とし、生き残ることができれば、級長である貴方はそのまま卒業と同時に師団長として抜擢されることになるのですわ。級長の座=出世街道まっしぐら、というわけなのです」


「へ? ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!!!! クラスがそのままひとつの部隊になる、ですって・・・・? え、こ、この学校って、各クラスの優秀な子が卒業と同時に騎士にスカウトされるとか、そういうんじゃないの・・・・?」


「ええ、違いますわ。最も優秀な生徒ではなく、最も優秀なクラスが、聖騎士になることが許されるのです。そして、そのクラスが無事に聖騎士になれるかどうかは、指揮権を担う級長次第・・・・お分かりですか、ロザレナさん。貴方は、黒狼(フェンリル)クラスの生徒たちの命運を握った立場にいるということを。つまりは貴方は黒狼(フェンリル)クラスの心臓とも言える役職に付いている、というわけなのですわ」


 その言葉に、ロザレナはポカンと口を開き、唖然とした表情を浮かべる。


 級長という立場の重さに、驚き、戸惑っているのかと思われたが・・・・ロザレナはその後、何故かケロっとした表情を浮かべ、口を開いた。


「ふーん? そう。軍の指揮とかよく分からないけど、まぁ、とりあえずは向かってくる奴は片っ端からブチのめしていけば良いのよね? だったら別に問題は無いわ。むしろ今は、早く強い奴と戦って剣の研鑽をもっともっと積みたいと思っているから」


「はい・・・・?」


「他の生徒の進退とか正直別にどうでもいいし。それに、あたしは聖騎士じゃなくて『剣聖』になりたいんだもの。級長として他の奴らに決闘を挑まれることが多くなればなるだけ、経験を積めるのなら好都合ってものよ。腕が鳴るわ!!」


 そんな、他人などどうでもいいと、暴君的な発言をした我が主人の姿に、俺は思わず笑い声を溢してしまっていた。


「プッ、クスクスクス・・・・お、お嬢様、さ、流石です。他人の命運がかかっている重要な役職にお付きになられたことを、今、告げられたというのに・・・・その自己中心さを貫き通せるずぶとさは、本当に尊敬に値するところです・・・・クククッ」


「・・・・・アネット、貴方、今あたしを馬鹿にしてるでしょ? そうなんでしょ?」


「いいえ。滅相もございません。私は心よりお嬢様のことを尊敬しております」


 そう言って一頻り笑った俺を横からジト目で見つめた後、ロザレナはハァと深くため息を吐いた。


「もう、本当にこのメイドは・・・・・。それで、ルナティエ、級長という役職の重さと、クラス同士が聖騎士を目指して戦うということは理解したけれど、教えたかった話はそれだけなの?」


「まったく、大物なのかバカなのかよく分かりませんわね、貴方は。プレッシャーを掛けようと思ったのに、まるで効いていないとは・・・・本当、好きになれそうにありませんわっ。貴方のことは!」


「お生憎様。で? もう話は終わり?」


「いいえ。まだまだ、貴方に話していないこの学校の話はありますわ。5つのクラスの生徒の特色など、ね」


「へぇ? その言い方だと、生徒ってランダムにクラスに配属されたわけじゃないんだ?」


「そうですわ。その話をする前に・・・・コーヒーのおかわりを貰ってきますわ。少し、待っていてくださる?」


「わかったわ。早く戻ってきなさいよね!」


 ロザレナのその言葉をフンと鼻を鳴らして無視をすると、ルナティエはカップを手に席を立って行った。


 そんな彼女の姿を見て、ロザレナはニコリと笑みを浮かべる。


「あいつ、思ったよりもちゃんと話せる奴なのね。最初はただのムカつく奴だと思っていたけれど、さっきのやりとりだけでちょっと印象が変わったわ」


「そうですね・・・・。今朝方ルナティエ様は、自分の周りに集まってくるのはお金や家の格を求めて来る者ばかりだと、そう仰っていました。ですから、そういったことを抜きにしてお話することができさえすれば、彼女とは友好的に接することができるのかもしれません。級長の座も・・・・名のある父の跡を継ぎたいがために、死に物狂いで勝利を掴もうとしていらっしゃったみたいですしね」


「へぇ? 今日初めてまともに話したばかりだというのに、何だかルナティエのことをよく知っている風なのね、アネットは」


「知り合いにルナティエ様によく似ている子がいましたから・・・・ああいうプライドの高い少女の扱い方には少々慣れていただけです」


「・・・・・知り合い? いったい、それは誰のこー----」


「!! ルナティエ様ッ!!」


「え?」



 その時だった。


 突如、食堂全体に、陶器が割れる音が盛大に鳴り響いていく。


 彼女に言われた通りに常に周囲に注意を向けてはいたが、まさか、コーヒーのおかわりを注ぎにいったルナティエに接触を図ってくるとは・・・・予想だにしてはいなかった。


 俺は即座に席を立ち、割れた破片と共に床に座り込むルナティエの元へと走って行く。


「ルナティエ様!! 大丈夫ですか!?」


 震える彼女の肩に触り、ルナティエの顔を伺う。


 突き飛ばされたのか、その顔は悲痛に歪んではいたが・・・・見たところ大きな怪我は見当たらない。


 カップの破片で足に擦り傷ができているくらいで、応急手当も必要は無く、一先ずは大丈夫そうだ。


 俺は大きく息を吐き、立ち上がると、目の前でニヤニヤとこちらを見下ろしている集団へと視線を向ける。


「・・・・・いったい、あなた方は何をなさっているのですか?」


 俺のその問いに、赤髪のツンツン頭をした男子生徒は、ゲラゲラと腹を抱えて笑い声を溢した。


「キヒヒッ!! 何って・・・・そこの女は『敗者の烙印』を押された負け犬なわけだろ? だったらこの学校の校則にある通りに、どこでだろうと誰であろうと嬲って良いはずだよなぁ? なぁ、そうだよな、お前ら?」


 その言葉に、彼らの後ろにいた数字の【1】と【大蛇】の腕章を付けた男女混合の生徒たちは、笑みを浮かべて頷く。


 そんな同意するクラスメイトの姿に赤髪の男は満足げな表情を浮かべると、足元に落ちているカップの破片をルナティエの顔へと目掛け蹴り飛ばした。


「キャッ!?」


「ッ!!!!」


 俺はルナティエの顔にその破片が届く寸前で手を伸ばし、キャッチすることに成功する。


 だが、掌は破片で傷付き、血だらけとなってしまった。


 俺のその手を見て、ルナティエは驚き、戸惑いの声を上げる。


「ア、アネットさん!! な、何故わたくしなんかのことを・・・・い、いいえ、それよりも、血が!!!! こんなに血が出てしまわれてますわ!!!!!」


「この程度、何も問題は無いです。それよりも・・・・・」


 俺は立ち上がり、ルナティエを庇うようにして前へと出る。


 そんなこちらの様子を、180センチはあるだろう長身で細見の赤髪の男は見下ろし、不気味に目を光らせた。


「キヒヒヒヒヒッ!! たかがメイドがいっちょ前にこの俺サマに吠えるってかぁ?? 低能な犬クラスの、それも使用人風情が、この毒蛇王(バシリスク)クラスの副級長であるアルファルド様に喧嘩売ろうとは・・・・生意気な雌だなぁオイ!!」


「私はただ友人が傷付けられるのが見てられなかっただけでございます。この場はお引き取り願いませんでしょうか? アルファルド様」


 そう言うと、アルファルドと名乗った赤髪の青年は背を折り曲げ、俺の耳元へと声を囁いてくる。


「この俺に命令するとは・・・・テメェ、誰を相手にしてんのか分かってんのか? テメェみたいな雌ガキなんぞ、拉致って、ダチ公全員でマワしちまっても良いんだぜ?? 俺サマはそういったことをしても、けっして処罰されない地位にいる。バルトシュタイン家の分家のダースウェリンの名は・・・・知ってんだろ?」


 バルトシュタイン家の分家か・・・・うんうん、こういうあからさまなクズ野朗こそバルトシュタイン家の血族って感じがして安心感があるな。


 やっぱりオリヴィア先輩は突然変異個体だったー----って、ん? ダースウェリン? 


 ダースウェリンって何処かで聞き覚えが・・・・・。


 あ・・・・・あぁっ!!


 ダースウェリンって、俺とロザレナが奴隷商に捕まった時に会った、あの・・・・俺とロザレナを買おうとしていた変態貴族のことか!


 こいつ、もしかしてあの時の気色悪いデブの息子か何かか?? 


 全然似てないな・・・・顔だけは。性格はめっちゃ遺伝してそう。


「あぁ? 何だテメェ、人のことジロジロ見て可笑しそうに笑みを浮かべやがって。その巨乳揉みしだいて、本当にブチ犯してやんぞ? 俺サマはそういったことをするのには何の抵抗もー----」


「アルファルドくん、やめてください」


 その時、廊下の奥からひとりの少女が姿を現した。


 彼らと同じように数字の【1】と【大蛇】の腕章を付けたその少女は、青緑色の長い髪を優雅に漂わせると、空のような青い瞳(・・・)をこちらにまっすぐと向けてくる。


 そして、彼女が歩いてくるその背後から、メイド服を着たツインテールの少女がついてきた。


 俺はその少女を見た瞬間、思わず呆けた声を出してしまう。


 何故なら彼女は、良く知っているある人物にそっくりだったからだ。


「コルルシュカ・・・・?」


「はい?」


 俺のその言葉に、ツインテメイドは不思議そうに首を傾げた。


 いや・・・・髪の毛や目の色は似ているが、声も雰囲気も全然違う、別人だな。

 

 コルルシュカのようなポワポワしている様子が彼女には無く、キビキビとした動きから、とても真面目そうな気配が感じられる。


 俺の呆けた顔を見ても、無表情で首を傾げていることから見て、コルルシュカとは異なる人物であることが明らかだ。


 俺はとりあえずメイドの少女から目を離し、青緑色の髪の少女へと視線を向けてみる。


 すると彼女は、俺とルナティエ、そして遅れてこの場に駆け寄ってきたロザレナへと、スカートの端を掴み、優雅にカーテーシーの礼を取ってみせた。


「お初にお目にかかります、黒狼(フェンリル)クラスの皆さま。私は、シュゼット・フィリス・オフィアーヌ。僭越ながら一期生毒蛇王(バシリスク)クラスの級長を務めさせていただいております。どうぞ、良しなに」


 そう言うと、彼女は口元に閉じた扇子の端を当て、愉快気に微笑んだのだった。

あと明日乗り切れば、休日ですね!

皆様、一緒に頑張って乗り切って行きましょう!!

続きは明日、投稿する予定です。

出来たら、評価、ブクマ、お願い致します。

毎日読んでくだる皆様のおかげでモチベーション維持に繋がっております、本当に感謝です!!

三日月猫でした。では、また!

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― 新着の感想 ―
最新話まで一周してから読むと、また違った印象を受けます。 いいなぁ…!
[気になる点] 小物丸出しのやつがきたなぁ、貴族だったらヒャハーなんて、笑わないし… イメージはモヒカンだな!見下されるタイプ!
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