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第37話 元剣聖のメイドのおっさん、お嬢様の決闘を見れないことを悔やむ。




「ごめん! みんな! 私、ガルゴくんとちょっとお話したいことがあるから、先に時計塔に行っててくれないかなっ!」




 そう言ってジェシカは、手を合わせて、俺たちに頭を下げてきた。


 そんな彼女に、オリヴィアは優しく微笑む。


「久しぶりに会えたお友達ですからね~。話したいこともたくさんありますよね~」


「う、うん・・・・。その、ガルゴくんはお爺ちゃんと仲違いして道場を出て行っちゃったからさ。彼、仲直りする方法を私に相談したいんだって。だから・・・・」


「分かりました、ジェシカさん。では、私たちは先に行っていますから、後で観客席で合流しましょう?」


「う、うんっ!」


 そう言って元気いっぱいにバイバイと手を振るジェシカと別れ、俺とオリヴィアとマイスは時計塔へと向かう。


 その途中、オリヴィアは「あれ?」と口にすると、キョロキョロと辺りを確認し始めた。


 そして、ある人物の姿がないことに気付くと、彼女は呆れたようにため息を吐く。


「そういえば・・・・いつの間にかグレイくんがいなくなっていますね。はぁ・・・・まったく、彼はどうしてこうも協調性が無いのでしょうか・・・・・」


「はっはっはー!! あんな剣にしか興味のない変態など捨て置けば良いさ!! なぁ、メイドの姫君!!」


「ちょ、てめぇッ!? どさくさに紛れて肩に手を回してくるんじゃねぇ!!!!!」


「マイスくん~? 今からロザレナちゃんの決闘が始まるのですから、発情をするのはやめてくださいね~?」


「ぬぉッ!? お、おい、眼帯の姫君!? 背中を抓ろうとするのはやめたまえッ!!!! 君の加護の力でそれをやられると、洒落にならないのだがッッッ!?!?!?」


 背中を抓られそうになったマイスは俺から手を離すと、即座にオリヴィアから距離を取った。


 そんな彼にオリヴィアは頬に手を当て、怖気立つような微笑みを浮かべる。


「私は、こと、壊す(・・)ことに関してはこの学校でもトップレベルの力を持っていると自負しています。ですから・・・・・マイスくんの大事な『玉』を、握り潰すことなんて造作もないのですよ~?」


「お、おおおおおお、恐ろしいことを言うんじゃない!!!! 俺の国宝的なこの『玉』は、誰にも壊せさせはしないぞ!!!!」


「玉、玉って、何なんですかこの会話は・・・・・」


 そう、俺が呆れたように呟いた、その時。


 時計塔の前へ辿り着くと同時に、賑わうエントランスホールの中から、俺の名を呼ぶ声が耳に入ってきた。


「あっ、いた! おーいっ! アネットさーんっ!!!!」


「え・・・・?」


 一瞬、それが誰なのかを理解するのに時間が掛かったが・・・・そこに居たのは黒狼(フェンリル)クラスの担任教師である、猫耳幼女のルグニャータだった。


 いつもと違って何処か覇気のある雰囲気を漂わせているルグニャータに首を傾げつつ、こちらに駆け寄ってきた彼女の元へと俺も近付いて行く。


「ルグニャータ先生・・・・ですよね? いつもの気だるげな様子と違って、今日は何だか元気な感じ?なんですね?」


「そりゃそうだよー、今は夜なんだからさ! 先生は夜行性の猫型の獣人族(ビスレル)だから、基本的には夜型なのだよー! もうめっちゃ元気元気!」


「そ、そうなのですか・・・・。それで、何か私にご用件があったのではないのですか?」


「っと、そうだったそうだった! ・・・・って、やっぱちょっと待って、この一杯だけ飲ませて!!」


 そう言うと、突如彼女は手に持っていた一升瓶を豪快にラッパ飲みし出した。


 あの・・・・・・今、勤務中なんじゃないの? 何で突然酒飲みだしてるの? この猫耳幼女教師・・・・。


「・・・・・ごくっごくっごくっ、ぷはぁーっ!! やっぱりマタタビ酒うまうまだニャー!!」


 そして幸せそうな顔を浮かべながら口元に付いた泡を袖で拭くと、彼女は俺に視線を向け、口を開く。


「実はね、さっき、先生のところにレティキュラータス家の使者?って言う人が来たんだ。何か急用みたいで、アネットさんのこと探しているみたいだったよー?」


「レティキュラータス家の使者、ですか・・・・。その方は今どちらに?」


「んーと、ここにはいないよって言ったら、次は満月亭に居ないか見てくるって、そう言って去って行ったっけかニャー・・・・。ロザレナさんが決闘をする時なのに、使者って、いったい何の用事なんだろうねー?」


「先生・・・・再度確認致しますが、その使者の方はお嬢様ではなく、()を探していたのですよね?」


「え? うん、アネット・イークウェスさんは何処にいるか知りませんか? って、入場整理していた私にそう聞いてきたよー?」


「そうですか・・・・。ありがとうございます」


 礼を言って、俺は背後を振り返り、オリヴィアとマイスに顔を向ける。


「申し訳ありません、先輩方。そういった訳で、私もジェシカさん同様、少々遅れて観客席に行くことになりそうです」


「お家の用事なら仕方のないことですよ、アネットちゃん。ロザレナちゃんが手を離せない今は、アネットちゃんが動くしかありませんものね。さぁ、行きましょう、マイスくん」


「ふむ・・・・今日はせっかくの休日故に、メイドの姫君と行動を共にしより愛を深めたかったのだが・・・・まぁ、仕方がないか。このマイス、他家の事情に首を突っ込むほど野暮ではない。また日を改めて愛を育むとしよう!」


 そう、訳の分からないことを言うマイスに苦笑いを浮かべつつ、俺は二人と別れ、ひとり満月亭へと向かった。


 そして、周囲に人の気配が完全に無くなったのを見計らって、俺はポツリと独り言を呟く。


「・・・・・どうやらルナティエの奴は、想定通りの策を打ってきたみたいだな」


 まったく・・・・どうやらあのドリル女は、勝利のためならどんな布石も打っておく性質のようだな。


 現状の情報だけでは、ロザレナがルナティエに勝てる要素などひとつもないというのに・・・・まさか、万が一を危惧してまでこの策を講じてくるとは、その用意周到さには頭が下がる思いだ。


 確かに、あいつが考えている通りロザレナにとってその策(・・)は最も効果的なものだと言えるだろう。


 何故なら自分が傷付くことよりも、大事な人が傷付けられることほど、彼女にとって堪えることはないだろうからな。


 その点で言えば、ルナティエの策略は正解といえる。


 だが・・・・・この俺が、ただのか弱いメイドの少女だと思っている時点で、お前たちは道を誤った。


 自分たちの実力を過信しすぎ、相手の力量を見誤った、それがお前らの最大の敗因と言えるだろう。


「さて、後は・・・・・・か弱いただのメイドの少女、アネット・イークウェスを演じてやって、まんまとその罠に乗せられてやるとするかね」


 この学校の関係者が居ない場所に連れて行ってくれるのなら、むしろそれは俺にとっても好都合なこと。


 我が主人が栄光を掴む晴れ舞台の裏で掃除をするのは、メイドである俺の役目だ。


「さぁ、やってやるとしましょうか、お嬢様」


 俺はそう呟き、満月亭へと続く道を進んで行った。


 少しばかり心残りなのは・・・・やはり、ロザレナの成長を見れなかった点、だろうか。









「ご来場の皆様方、今宵は騎士たちの夜典(ナイト・オブ・ナイツ)を見に来ていただき、誠に感謝いたします。私は当学校ルドヴィクス・ガーデンで『見届け人』を務めさせてもらっています、セバス・クリスチャンと申す者です。どうぞ、よろしくお願い致します」


 そう言って、ちょび髭の生えた聖騎士の男は歓声を上げる観衆に向けお辞儀をし終えると、左隣に立つあたしに手を差し向けて来た。


「さて、まずは青コーナーの決闘士の紹介です。名をロザレナ・ウェス・レティキュラータス。彼女は一期生の黒狼(フェンリル)クラスの級長であり、四大騎士公の一角、レティキュラータス家の息女であります。賭ける勝品は級長の座。剣の腕は低五級。どうぞご声援の程、よろしくお願いします」


 そう紹介を受けた瞬間、先ほどの喧騒が嘘のように辺りには静寂が訪れる。


 そして同時に、庭園を囲むようにして造られている観客席から、多くの視線があたしへと集まったのが分かった。


 その視線はけっして良い感情が含まれてものではなく、常日頃学校でルナティエの取り巻き立から発せられていた・・・・・あの、嫌悪と侮蔑が宿ったあまり気分が良くない視線と変わりがないものだった。


 (分かってはいたけれど・・・・まるで悪者ね・・・・)


 今まであたしは、レティキュラータスの一族だからと、周囲から馬鹿にされて生きてきた。


 けれど、それももうここで終わらせてやるわ・・・・この名を馬鹿にする奴は誰であろうと、これからはあたしのこの剣で黙らせてやる。


 ここで力を示してやるのよ・・・・・世界最強の剣士、アネット・イークウェスの弟子として、そして『剣聖』を志す、ひとりの剣士として。


「続いて、赤コーナー、名をルナティエ・アルトリウス・フランシア。彼女も黒狼(フェンリル)クラスの一員であり、四大騎士公の一角、フランシア家の息女でもあります。賭ける勝品は金貨500枚。剣の腕は中二級。どうぞご声援の程、よろしくお願いします」


 そう紹介がされた後、先ほどとは打って変わって観客席はわぁっと、盛り上がりを見せてきた。


「キャーーーーッ!! ルナティエ様、頑張ってぇー--っ!!!!!」


「そんな王国貴族の恥さらしの令嬢なんて、一瞬で倒してみせてー---っ!!!!!」


「四大騎士公ー-ーっ!! 策略の鬼神、フランシア家ー--ーっ!!」


「勝てー!! 俺はお前に有り金全部賭けたぞー!!!!!」


 そんな黄色い声援を受けた後、目の前の金髪ドリル女は口元に手の甲を当て、いつものように高笑いを見せてくる。


「オーホッホッホッホッホッホッ!!!!! 皆様方、ご声援、痛み入りますわぁー----っ!!! このルナティエ・アルトリウス・フランシア、必ずや、四大騎士公の名を穢す不届き者を成敗してみせますわぁ!! ぜひ、あのレティキュラータスの娘が無様に膝を付くその瞬間を、目に焼き付けてくださいましね!!!!!」


 彼女のその勝利宣言に、またもや観客席は盛り上がりを見せる。


 その光景に気分を良くしたルナティエは、木剣をレイピアのように手に持つと、ヒュンと、風を切って見せた。


 そして、あたしの方に視線を向けると、ニヤリと、嗜虐的な笑みを見せてくる。


「無様に敗北するお覚悟はよろしくって? ロザレナさん?」


「それはあたしの台詞なのだけれど? ドリルティエさん?」


「フフフ・・・・貴方、髪を切ったようですけれど・・・・もしかして、それで心を入れ替えて強くなった、とか思っているんじゃないかしら? だとしたら、バカも良いところですわねぇ! 正直言ってその髪型、似合っておりませんわよ? 品がない、下町の町娘みたいですわ!」


「貴方も、戦いの邪魔にならないように髪を結ったのかもしれないけれど・・・・そのツインテール、似合っていないわね。何というか、頭にドリルを二本ぶらさげているようにしか見えないもの」


「フフフフフ・・・・・」


「ふふふふふ・・・・・」


 あたしたちは目を細め、互いに笑みを浮かべる。


 そしてその後、笑みを消し、鋭い眼光を向け合うと・・・・同時に口を開いた。


「殺すわ!!!!」「殺しますわ!!!!」


「さ、さて、両者ともに闘志を燃やしているところで・・・・あと数分で、騎士たちの夜典(ナイト・オブ・ナイツ)の開催時刻となります。両決闘士は白いラインが引かれている距離まで離れ、私の開始の合図と共に試合を始めてください」


「分かりました」


「分かりましたわ」


 そうして、あたしとルナティエは8メートル程の距離を開けて離れ、互いに木剣を構え、待機する。


 その様子を確認した見届け人セバスはコホンと咳払いをすると、観衆に向けて大きく口を開いた。


「では、改めて、決闘のルールを説明致します。今回適用されるルールは『スタンダート』でございます。使用する武器は互いに木剣です。敗北条件は見届け人に棄権を宣言するか、剣を落とすか、10秒間膝を地面に付けていた場合となります。勿論、相手の決闘士を殺害するのは禁止事項であり、それも敗北条件に含まれております。魔法の使用に関しては自由です。戦い方に制限はございません」


 魔法の使用は自由と言っても・・・・今、あたしが使えるのは信仰系の低級治癒魔法の『ライト・ヒーリング』と低級状態異常治癒魔法の『レジスト・キュア』、あとは小規模の結界を張って範囲内の者の傷を3分程度、自動的に治癒する治癒魔法、『エリア・ヒーリング』だけ。


 これらの魔法は自分を癒すものだけであって、相手を攻撃できるような代物ではない。


 だから、つまりー---あたしにとっての攻撃手段は、この木剣から放たれる『唐竹』だけだということ。


「すぅーはぁ・・・・すぅーはぁ・・・・」


 あたしは静かに深呼吸をした後、遠くに見えるルナティエを見据える。


 あたしが今、成すべきこと、それはあの女を叩き伏せることだけだ。


 そう・・・・・確かアネットは別れ際、こう言っていたわね。


 何があってもひたすら前へと、目標へと突き進もうとする、勇往邁進な心が剣士として最も重要な心構えだと。


 剣での殺し合いは剣の技術で勝つものではなく、最後に立っていた者が勝利を掴むものなのだと。


 あたしは目を伏せ、ルナティエの喉元に食らいつく、自分の姿を想像をする。


 そして次にイメージし、トレースするのは・・・・・何百回も叩きこまれたあのアネットの剣。


 強烈で苛烈で、受けた側はその威力に後方へ飛ぶしかない、比類なき渾身の一撃。


 何度も受けてきたからこそ、分かるはずよ。


 彼女がどういった動作を持って、あの剣を放ってきていたのかが、今のあたしには、きっとー---。



「・・・・・はい、ただいまを持って午後八時を迎えました! では、これより騎士たちの夜典(ナイト・オブ・ナイツ)を開始いたします! 両者、ルドヴィクス・ガーデンに恥じぬ戦いを!!!!! いざ尋常にー----ファイトッッ!!!!!」


「オーホッホッホッホッホッホッ!!!! ロザレナさん、先行は譲ってあげてもよろしくってよ? 何と言ってもわたくしは中二級の腕前を持つ剣士。貴方のように最底辺の素人である低五級ではありませー-------」


 跳躍し、大上段に構え、穿つ。


 あたしはアネットの剣を頭の中に描きながら、駆け、跳躍し、そのまま木剣をー---ルナティエの頭上へと叩きこんだ。


「なッー-----!?!?!?!?」


 ルナティエは寸前で木剣を構え、受け切るが、あたしのその剣の威力に耐え切れなかったのか・・・・地面に膝を付けてしまっていた。


「カ、カウント開始です! 10! 9! 8ー----」


「ふ、ふざけてんじゃないんですわよォー-----ッッッ!!!!!!!!」


 剣を横薙ぎに払い、あたしの剣を弾くと、ルナティエは距離を取る。


 その顔は驚愕に満ちたものとなっており、ゼェゼェと息を荒げながら、彼女は瞠目した瞳であたしの顔を見つめていた。


「は・・・・・はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!? い、いったい何なんですの今の剣はッ!? この前素振りしていた時とは全然違ー----」


「貴方、おしゃべりが好きなのね」


 あたしは再び大上段に構え、跳び、ルナティエへと襲い掛かった。


 あたしにできることは、ひたすら何度も何度も『唐竹』を打ち込むことだけ。


 前へ前へと進み、標的が弱り切るまで大上段の剣を放ち続けて、その喉笛を狙って、食らい続ける。


 その泥臭い戦い方こそがこのあたしー---ロザレナ・ウェス・レティキュラータスという剣士の戦い方だ。

いいね、評価、ブクマ、ありがとうございます!!

本当に本当に励みになっています!!


最近、私生活が忙しく、1日2回投稿などができず投稿ペースが落ちていますが、必ず1日1投稿のノルマだけは達成しようと、必死に足掻いております笑


続きは明日投稿する予定です。


また読んでくださると嬉しいです!


三日月猫でした! では、また!



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― 新着の感想 ―
[一言] マジか、ロリ先生もグルか…もしくは脳みそまでロリですか… 学園長もあの様子ですから有り得るですけど、先生の印象が壊れるかも。
[一言] 毎日読ませてもらってます とても続きが気になります 体を大事に投稿してください
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