第11章 二学期 第368話 巡礼の儀―⑤ ロザレナVSアイリス
オリヴィアは、エルジオの身体に手をかざして、治癒魔法を唱える。
しかし、エルジオの身体に刻み込まれている切り傷は、一向に塞がらなかった。
「どうしよう……血が止まらない……!! 中位治癒魔法【ミドルヒーリング】を発動しているのに、どうして……!! 【ハイヒーリング】じゃないと駄目なの……!!」
オリヴィアがそう、声を張り上げた、その時。
水が入った桶を手に持って、やさぐれた修道女が村に現れた。
彼女はオリヴィアの姿を見つけると、驚いた表情を浮かべる。
「あんたは……」
煙草を口に咥えたシスター……以前アネットに信仰系魔法を教えた修道女、イザベラは、オリヴィアの側に駆け寄ると、傷だらけのエルジオを見つめて苦悶の表情を浮かべた。
「……そうか。エルジオ様を助けてくれたんだね。ありがとう」
「あ、貴方は……?」
「こんなところで治療も何もないだろう。うちの教会においで」
「は、はい!」
「子供たちを助けるためとはいえ……この御方に全てを背負わせてしまったのは私たち村人の責任だ。ほら……あんたたちも手伝って! 男衆はエルジオ様を教会の中へ! 女衆はアタシが川から汲んできたこの水を持って、みんなに飲み水を配りな! さぁ、早く!」
周囲に立って様子を伺っていた村人たちに、イザベラがそう声を掛けると、村人たちはせっせと動き出した。
その光景を見てふぅと息を吐いた後、イザベラはオリヴィアへと声を掛ける。
「すまないわね。私たちじゃ、どうしようもできなくて……全部、エルジオ様に背負わせてしまった。あんたは、旅の人?」
「いえ……私は、ロザレナちゃんのお友達です……だから、この方をお助けしたいのです……とてもお優しい人だったのに、どうして……」
「驚いた。ロザレナお嬢様が、帰って来ているの?」
オリヴィアは自分のミスに気付き、慌てて言葉を訂正する。
「あ、い、いえ、その! ロザレナちゃんは知り合いというか、何と言うか!」
「安心しなよ。私を含めてこの村の連中で、お嬢様を捕まえてどうこうする気がある奴なんてないさ。そもそも、ゴーヴェンにここまでされたら、あいつの言葉を信じることなんてできないよ」
「シスターさん……」
「さぁ、あんたもエルジオ様を助けるのを手伝って。あの人は……こんなところで死んではいけない人だよ」
「は、はい!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よろしいですか、お嬢様。お屋敷に潜入をしたら、まずは人質を解放します。それまでは、絶対に剣を抜かないように」
「分かったわ」
「うぅ……何故、妾も潜入組に入れられたのか……」
俺とロザレナ、フランは、アルフの村を出て行き、鎧騎士に扮し、森の中を歩いていた。
俺は鎧の上にフードマントを着用し、マントの裏に箒丸を隠している。騎士が箒を持っていたら、訝しげに思われる可能性が高いからだ。
フランだけは、鎧騎士に扮してはいない。彼女には、鳩を使って、屋敷の中の様子を確認してもらうため。
早急にナレッサ夫人やロザレナの祖父母ギュスターブ老やメアリー夫人、マグレットやコルルシュカたち……そして、人質にされたアルフの村の子供たちを救い出す。それが、今、俺たちがやるべきこと。
(アルフの村の子供たちは、夏にマリーランドへと向かう際に、村で明るく遊んでいたのを見かけたことがある。シスターイザベルに勉強を教えてもらうのが好きだったりと、レティキュラータス領の明るい日常の一部だった。無事だったら良いのだが……)
「ねぇ、アネット。オルベルフ家がバルトシュタインの傘下に入ったその目的って、レティキュラータス家の家督を奪うためなのかしら?」
「恐らくはそうだと思います。確か、先代当主メアリー様の代で、当時レティキュラータス家当主候補として有力視されていた人物が、突如馬脚を露わしたメアリー様に追いやられて、分家に落ちた……というお話を聞いたことがあります。そのことから分家オルベルフ家は、長年、レティキュラータス家に対して深い恨みがあるのだと思われます」
「そういえば王宮晩餐会で初めてアイリスに会った時も、本当は、レティキュラータス本家の座は私たちのものだったって……そう言っていたような気がするわ。アイリス、か。剣王試験で会った時は、そんな悪い奴には見えなかったんだけどな……」
「どうでも良いことじゃが、お主ら二人の顔が知らないオッサンになっているまま、ロザレナと師匠の声で会話しているのを見るのは違和感がすごいのう。まぁ、変装させたのは、妾なのじゃが」
「うっさいわね、フランエッテ。というか、脅威となる存在がアイリスだけなら、レティキュラータスのお屋敷を取り返すのは簡単なんじゃないの? あたしとアネットだけでも、十分戦力過多な気がするわ」
「しかし、バルトシュタイン家が絡んでいるとなると、ゴーヴェンが裏で何か仕組んでいてもおかしくありませんよ。油断はなさらない方が良ろしいかと。以前ルナティエから、フランシア伯がレティキュラータスの地に兵を連れて視察に行ったというお話を聞いたことがありますが、見たところフランシアの騎士を道中一度も見かけていませんし。フランシア伯のことも心配です」
「……ゴーヴェン、ね。あたしに手を出してくるだけならまだ良いけど、まさか、あたしの家族にまで危害が及んでいるなんて……。これで、マグレットさんやルナティエのお父さんも酷い目に遭っていたら、あたし、ゴーヴェンを許すことはできないわ。絶対にぶっ飛ばしてやる」
「そう、ですね……。この先、ゴーヴェンが巡礼の儀に勝利してしまったら、このレティキュラータスの地で起こった地獄のような光景が、各地で起こる可能性も高いと思います。必ず、平和的な理想を持つ陣営が勝利しなければ……」
そんな会話を、ロザレナとフランと交わしていた、その時。
ついに、お屋敷の姿が目に入ってきた。
「帰ってきましたね、お嬢様」
「ええ」
俺とロザレナは並んでレティキュラータスのお屋敷を見上げ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
すると、その時。ピカッと、雷のような音が鳴り響いた。
俺はロザレナとフランの手を引っ張り、木陰へと入る。
するとそれと同時に、ザーッと、雨が降ってきた。
「さて、辿り着くことはできましたが……フラン、屋敷の中に鳩を忍ばせることはできますか?」
「や、やってみるけど……屋敷の中にどうやって妾の鳩を紛れ込ませれば良いのかのう……? 見たところ、どこも窓なんて開いておらぬし、門の前には衛兵もおるし……」
「大丈夫です。まずは、私たちが巡回終わりの騎士として、屋敷に戻ります。その隙に、フランにはドアの隙間から侵入していただきます。陽動として、騎士たちの目を惹きつけてくれたら尚良しです」
「わ、分かったのじゃ……!!」
「人質の場所を見つけたら、私の念話の魔道具を使って、連絡をしてください」
俺はそう言って、左耳に付けていたピアスを外し、フランへと手渡す。
それを受け取ったフランは、コクリと頷いた。
「わ、分かったのじゃ」
「貴方の鳩は、自分の身にもダメージを負う代物です。危険だと判断したのなら、すぐに鳩を自分の元へと返してください。あと、本体である貴方が騎士に見つかった場合は、速やかに作戦を取り止めて、アルフの村へと逃げ帰ってください。良いですね?」
「な、何を言うておるんじゃ、師匠。妾はこう見えて、箒星の弟子なんじゃ。騎士ごときに、遅れは取らんぞ!」
「貴方の能力は稀有なものです。もしこの先、貴方を失えば、ジークハルト陣営はかなりの痛手を負うことになる、ですから……極力、戦闘は避けてください」
実際、戦闘員は多くいるが、フランの代わりになる能力を持っている人間はこの陣営にはいない。
それと、新たに身につけたこの変装の魔法は、この先の戦いで有効打になる可能性が高い。
例えば、ゴーヴェンが在籍していないジュリアン陣営に誰かが変装して潜入し、相手の情報を獲得することも可能だからだ。
純粋な戦闘力でいえばまだ箒星の三弟子には大分劣るが、諜報においてフランの右に出るものはいない。
「万が一、顔布が外れるような事態になった場合は、誰にも見られないようにここに戻ってきます。では、作戦開始です。行きましょう、お嬢様」
「ええ、分かったわ」
俺とロザレナとフランは、お互いに頷くと、作戦を開始した。
「ふわぁ〜」
お屋敷の門の前で、槍を持った衛兵は大きく欠伸をする。
俺とロザレナは巡回終わりの騎士を装い、門を守っている二人の衛兵に向けて手を上げた。
「お、帰ってきたか、お疲れさん。……って、あれ? 残りの奴らはどうした?」
この変装の魔法は顔を変化させただけで、声帯までは変わってはいない。喋ることができないというのは……難しいものだな。
俺は、咄嗟に彼らが賭け事をやっていたという会話を思い出し、カードを切るモーションを取る。
すると、男二人は「あぁ」と、納得した様子を見せた。
「なるほど。残りの3人は、村に残ってまた賭けをしてるのか」
「見たところ、負けたお前らが報告に行くよう任されたんだな。へへ、災難なことだな」
そう言って、二人は道を譲り、門を開ける。
第一関門クリア。
俺は見慣れた庭を通り、屋敷の門の前に立つと、ゆっくりとその門を開けた。
すると、中には、ロビーを警護している騎士の姿があった。
騎士の一人は吸い終わった煙草の吸い殻を床に捨てると、それを足で踏みつけて火を消す。
(野郎……俺とマグレットがいつも頑張って綺麗にしているロビーに、んなもん捨てやがって……!!)
俺が内心で怒っていると、三人の騎士たちが俺たちに気付いて、こちらへと歩み寄って来る。
「よぉ、戻ってきたのか、お前たち」
「元伯爵様の様子はどうだった? まだ、子供たちは助けてやってくれと、みっともなく泣き喚いていたのか?」
嘲笑う騎士たち。その姿に、背後に立っていたロザレナの表情がみるみるうちに不機嫌になっていく。
そんなお嬢様を見て、騎士たちは首を傾げた。
「何だよ、何怒っているんだよ、お前?」
「というか、さっきから何で喋らないんだ?」
彼らは、こちらが言葉を発しないことに、訝しむ。
このままの状態でいれば、俺たちが怪しまれることは必至だろう。
だが―――――――――。
「……フラン」
小声でそう声を発すると、白い鳩が飛んできて、事前に少しだけ開けていた扉の隙間から中へと入って行った。
すると、屋敷の中にいた騎士たちが、慌てた様子を見せる。
「な、何だ、この鳥!?」
「くそ、屋敷の中に変な鳩が入ってきやがった!」
第二関門クリア。
俺はロザレナを連れて、慌てて鳩を追いかける騎士たちの横を通り過ぎ、屋敷の廊下を進んでいく。
「……無事に潜入することができたわね。ここからどうするの? アネット」
「フランの報告を待ちつつ、私たちもお屋敷の中を捜索します。何度も言いますが、人質を解放した後に、オルベルフ家を武力で追い出します。人質を解放するまでは、絶対に剣は抜かないようにしてください」
「分かっているわ。大丈夫」
そんな会話をして、俺たちは2階へと辿り着く。
とりあえずフランには1階を任せて、俺たちは2階を捜索する。
恐らく2階の執務室には、オルベルフの現当主がいるとは思うが……。
「貴方たち、そこで何をしているの?」
その時だった。
廊下の奥から……一人の女剣士が姿を現した。
その女剣士は、オルベルフ家の息女、アイリスだった。
俺は即座に、アイリスへと頭を下げる。
すると、ロザレナも遅れて、俺の真似をして頭を下げた。
彼女は俺たちの前に立つと、声を掛けてくる。
「2階には、私たちオルベルフ家の人間以外近付かないように言っているはずよ。何故、バルトシュタインの私兵である貴方たちがここにいるの?」
なるほど。そういった屋敷のルールがあったというわけか。
俺は顔を上げると、会釈をして、1階へと戻ろうとする。
するとアイリスがそれを止めてきた。
「待って。貴方……その大きな剣は何? それ、騎士が常備しているアイアンソードじゃないわよね?」
ロザレナの背中にある大剣を見て、アイリスがそう疑問を投げる。
緊張で硬直したロザレナは、頬に汗を垂らす。
下手をすれば、ここで戦闘になってもおかしくない。
俺とロザレナが何も答えないと、アイリスは勝手に解釈をして、頷いた。
「何処かで武器を新調したのかしら。というか、そんな大きな剣、相当な腕力がないと扱えないと思うけど。それにしても……その剣、何処かで見た覚えが……」
アイリスはじっとロザレナの大剣を見つめた後、大きく息を吐いた。
「まぁ、良いわ。これから家族で晩餐会をするの。上には上がって来ないでちょうだい」
俺とロザレナは頷くと、そのまま踵を返した。
すると、その時。女性の大きな声が聞こえてきた。
「離して!!」
肩越しに振り返ると、そこには、執務室から出てきた男に手首を引っ張られているナレッサ夫人の姿があった。
手錠を付けられているナレッサ夫人は男の手を無理やり振り払うと、キッと、彼を睨みつけた。
「何度も言っているでしょう!? 私は、貴方のものにはならない!! 私は、レティキュラータスの伯爵である、エルジオ・ロディウス・レティキュラータスの妻です!!」
「今のレティキュラータス伯爵は俺だ!! 俺が何故、人質連中の中でお前だけをこうして自由にしているか分かっているのか? お前は、もう、俺のものなんだよ、ナレッサ!!」
「何で私にそこまで執着するの……!?」
「良いから、黙って晩食会に来い!! お前を正式に妻として迎えると、オルベルフの一族……いや、レティキュラータスの一族に宣言してやる!!」
「だから、私はエルジオの妻だと……!!」
「おとなしく言うことを聞かないと、エルジオがどうなるのか……知ったことではないぞ? あいつはロザレナを釣るための餌として、毎日村の広場で騎士たちに嬲られているからなぁ。俺の機嫌次第で、あいつは死ぬかもなぁ」
「……!! 貴方は……!!」
男を睨みつけるナレッサ。
話を聞くに、あれが……今のレティキュラータス伯爵か。エルジオとは正反対の、典型的な傲慢な貴族だな。
いや、今はそんなことよりも。
隣に立つロザレナの顔を覗き込むと、彼女はギリッと奥歯を噛み、怒りを堪えていた。
「なんなの……あいつ。お母様に対してなんてことを……それに、お父様をあんな風にした元凶があの男なのね……!!」
「お嬢様。耐えてください。まずは、人質解放の方が先です」
「……分かっているわ。行きましょう」
俺とロザレナはそう言葉を交わして、階段を降りて行った。
チラリと背後を窺ってみると、そこには……こちらをジッと見つめている、アイリスの姿があるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……いったい、どこに人質たちはおるのか……」
フランは手首が無くなった右腕を伸ばし、目を閉じて、鳩を操作する。
彼女の瞼の裏に映るのは、屋敷の中を飛ぶ鳩の視界だった。
何とか騎士たちを撒いた鳩は、屋敷一階の廊下をまっすぐと飛んでいく。
そして、鳩は、扉が開いているある部屋へと入った。
「ここは、どうじゃろう」
部屋へと入ると、そこには……部屋一面に貼られたアネットのポスターと、アネットの作りかけフィギュアがテーブルに置かれた、異様な雰囲気の部屋となっていた。
フランは一瞬硬直すると、「見なかったことにしておこう」と言って、廊下に戻って他の部屋を探すことに決める。
長い廊下をまっすぐと飛んでいくと、フランは、厳重にある部屋を警護している騎士を見つける。
「む……怪しい部屋発見じゃ。しかし、警備が厳重じゃのう……どうやってあの警備を突破すれば良いのか……」
フランがそう呟いた、その時。
彼女の背後の草むらからある人物が現れ、フランに声を掛けた。
「……そこの御方」
「ふひょぉあ!? な、何じゃ、誰じゃぁ!?」
フランは慌てて背後を振り返る。
するとそこには、老執事の姿があった。
「私の名は、ボルザーク。オルベルフ家の息女、アイリス様の執事です」
「へ? オ、オオオオオ、オルベルフのぉ!? わ、妾は別に、怪しいものじゃないぞぉ!? た、ただ、ここを散歩していただけの可愛い吸血鬼じゃ。ピュー」
口笛を吹いて、目を逸らすフラン。
そんな彼女に、ボルザークが口を開く。
「勿論、知っておりますとも。剣神フランエッテの知名度は、この王国では群を抜いていますからな。その様子から察しますに、貴方様はレティキュラータスの惨状を見て、人質を解放しようと動いている。違いますかな?」
「ピュー、ピュー」
「もしよろしければ……私にもそのお手伝いをさせてはもらえませんかな?」
「へ?」
「私は、我が主人をあの魔剣から解放してあげたいのです。今の我が主人は……暴走してしまっているが故」
「な、何か、訳あり……ということなのかのう?」
フランエッテは数秒ほど考え込んだ後、口を開いた。
「じゃ、じゃあ……一階の警護が厳重な部屋の前にいる騎士を、何処かへやってはくれんかのう?」
「分かりましたぞ。では、このボルザーク、調理場に潜入して、ボヤ騒ぎでも起こしましょう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ロザレナと共に一階へと戻った、その時。
突如、念話が飛んでくる。
俺は耳に手を当てて、その念話に応えた。
「はい」
『師匠かのう? 妾じゃ。世界一可愛い吸血鬼、冥界の邪姫フランちゃんじゃ』
「世界一可愛い吸血鬼、冥界の邪姫フランちゃん。どうしたんですか? 人質が囚われている場所を発見したのですか?」
『うむ! 一階、左の廊下をまっすぐと進んだ場所じゃ! 妾が案内しよう! ついてまいれ!』
その時。俺たちの前に、白い鳩が旋回して姿を現した。
白い鳩は俺たちを先導するように、廊下を進んでいく。
すると、同時に、前方から、騎士二人が慌てて走ってきた。
彼らは俺たちの横を通り過ぎていくと、そのまま姿を消して行った。
「今のは……」
『妾の協力者が、屋敷内の騎士たちの注意を惹きつけて陽動してくれておる。人質を解放するのなら、今のうちじゃ』
「協力者? それはいったい誰―――――――」
俺がロザレナに問いを投げかけた、その時。
フランの鳩が停止した先の部屋の扉が開き、そこから……子供達を外へと逃がしている手枷を付けたコルルシュカが姿を現した。
「ほら、今のうち。貴方たちはこのまま急いで、アルフの村に――――」
コルルシュカは俺たちの姿に気付くと、「げっ」とした表情を浮かべる。
「コルルシュカ先輩、どうしたんですか? 足を止めて?」
「……クラリス。貴方は先に行って。あの騎士は、私がどうにかするから」
「は? って、バルトシュタインの騎士!? ど、どうにかって、どうする気なんですか、コルルシュカ先輩!?」
「あの男は、以前、私をナンパしてきた奴だから。私が色仕掛けをして、時間を稼ぐ」
「い、色仕掛けって……ちょ、ちょっと、コルルシュカ先輩!?」
俺の元へと、緊張した面持ちで駆け寄って来るコルルシュカ。
そしてコルルシュカは、俺の胸にしなだれると、人差し指でクルクルと俺の肩を回した。
「あのぉ、ここはぁ、見逃して貰えませんかぁ〜? コルルぅ、聖騎士様ともっと深くお話ししたいなぁ、みたいなぁ〜?」
「気色悪い」
「あいたぁっ!?」
俺がコルルの頭をチョップすると、コルルシュカは頭を抑えて、涙目になる。
「な、何をするんですかぁ、聖騎士様ぁ!?」
「だから、お前のその演技は気持ち悪いからやめろって言ったよな、コルルシュカ」
「……え? そ、その声……ま、まさか、アネットお嬢様……?」
目をパチパチと瞬かせると、コルルシュカはブワッと瞳から涙を流した。
「うぅ、私のアネットお嬢様が……こんな、オッサンになってしまうなんて……!! コルル、ショックですぅ……!!」
「違うから!! これ、変装だから!!」
というか、元はオッサンなんだよ!! ショックとかいうな!! 傷付くから!!
「え? 変装?」
「そうだ。まぁ、元気そうで良かったよ。この部屋に囚われている人質は、子供だけか?」
「は、はい。そうです」
「メアリー様や、ギュスターブ様……マグレットはどこだ?」
「隣の部屋に閉じ込められています」
「だったら、コルルシュカとクラリスは、みんなを連れて一旦アルフの村へ……」
俺は言葉を止めて、ロザレナと共に廊下の奥へと目を向ける。
するとそこには、アイリスの姿があった。
「やっぱり……貴方たち、騎士に変装していたのね」
そう言って笑みを浮かべると、アイリスは腰の剣に手を当てる。
「そして、その大剣……貴方は、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス……!!」
アイリスは腰の鞘から剣を抜く。
その剣は、禍々しい紅い瘴気を纏っており……青狼刀と酷似した見た目をしていた。
(まさか、あれは、赤狼刀か……? いや、あのレベルの妖刀をアイリスが扱えるはずが……)
「あははははははははははは!!!! 会いたかったわ!! ロザレナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
剣を構えて、アイリスは、ロザレナへと突進して行く。
ロザレナは顔布を取り、地面へと捨てると……背中の大剣を抜いた。
「お嬢様!!」
「大丈夫よ、アネット。こいつの相手は……あたしに任せて」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!! ロザレナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」




