第11章 二学期 第367話 巡礼の儀―④ 魔剣使いアイリス
「はっはっはっ! お前、また賭けに負けたのかよ!」
「だせぇなぁ、この前はレティキュラータスのメイドをナンパしてフラれていやがった癖によぉ」
「うるせー。ほら、さっさとあの男の様子を見に行くぞ」
「ウサ晴らしに殴られる元伯爵様も可哀想なこったな」
「全然そんなこと思ってねぇ癖に。お前だって楽しんでんだろ」
そんな会話を交わしてこちらにやってくる、聖騎士たち。
そして彼らは、ようやく俺とロザレナの姿に気付き、訝しげな様子を見せる。
「おい、あれ……何だ?」
「旅人か? 面倒くせぇなぁ。さっさと追い出すぞ。ゴーヴェン様は、レティキュラータス領に何人足りとも近づけるなとのお達し……」
「あんたたちが……これをやったの?」
お嬢様は身体を震わせて、騎士たちに向けて声を投げる。
そんなお嬢様に対して、騎士たちは顔を見合わせると、背後にあるエルジオが磔にされている十字架へ目を向けた。
「あぁ? そこにある、元伯爵様の見せしめのことか? そうだが……それが何だ?」
「この人が、あんたたちにいったい何をやったっていうの? あんたたちの誰かを傷つけたりした? 誰かの大切な人に危害を加えた? そんなことしてないよね? 何でこんなことをするの?」
「そりゃ、その伯爵様の娘が、災厄級の魔物だからだろ」
その言葉に、ロザレナはピクリと肩を震わせる。
「災厄級の魔物……だから?」
「あぁ。だから、ゴーヴェン様によって新しくこの地を支配するよう命じられた領主様は、災厄級を誘き出すためのある策を思いついたんだ。屋敷から逃げ出した元領主エルジオを探し出して、ロザレナを誘き出す餌として使え、と」
「……」
「まぁ、逃げ出したエルジオを捕まえるのは簡単だったぜ。何でその元伯爵様は、甘ちゃんで有名だからな。村の子供たちを人質にしたら、呆気なく出てきてくれたのさ」
「本当、笑えたぜ。ガキと引き換えに娘を誘き出す餌に使われてるんだからな。話に聞く通りの、馬鹿そのものだ!」
「それに、自分が耐えることができたら、本気でガキどもを解放してもらえると思っていやがる! そんなわけねぇだろ。この領地の人間は全て、新しい領主様、並びにその背後に立つゴーヴェン様のものだ! 見込みのあるガキを兵隊にするのも、使えない村人を労働力にするのも、全てはあの御方たちの決定次第!」
「力もない癖に吠えるだけの無能伯爵なんて、ここで潰れて当然なんだよ! なぁ、お前たちもそう思うだろう?」
ハハハハハハと笑い声を上げる騎士たち。
そして彼らは一頻り笑い声を上げると、剣を抜いて、こちらへと近寄って来る。
「さぁて……悪いが、お前たちはここから出て行って貰おう。巡礼の儀の期間中、この地は誰も近付けるなとのゴーヴェン様のお達しだ」
「ほら、さっさと村から出て行きな。痛い目に遭いたくなければな」
嘲笑の声を上げながら、歩いて来る騎士たち。
俺はそんな彼らに向けて箒丸を構え、ロザレナに小声で話しかける。
「……お嬢様。フードマントを被っているおかげか、見たところ、彼らは私たちの正体に気付いていない様子。一撃で気絶させつつ、彼らから上に情報が漏れないように、どこかに縛り付けて……」
「ふざけた話ね」
「? お嬢さ―――」
俺がそう声を掛けた、その瞬間。
ロザレナは足を前に踏み出すと、【縮地】で姿を掻き消した。
そして彼女は、猛スピードで騎士たちに向かって走って行く。
「お前らかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! お父様をこんな風にしたのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
「は? お父様? ちょ、ちょっと待て! もしかしてお前、ロザ――――――」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
ロザレナは駆けながら大剣を抜くと、騎士たちの元へと一気に詰め寄る。
「!? まさか……お嬢様ッ!!」
俺の静止の声など、耳に入っていないのか。
ロザレナは、一番手前にいた騎士の胴体に目掛け、大剣を振り放った。
胴体が切り裂かれた男は、スプリンクラーのように血飛沫をあげる下半身だけを残して、ドサリと……地面に落ちていった。
俺はその光景を見て、目を見開いて、驚きの表情を浮かべる。
まさかロザレナが……騎士を殺すとは思わなかったからだ。
「は……な……え?」
仲間がやられたことに、動揺した様子を見せる聖騎士たち。
だが、即座に剣を構え、ロザレナに襲いかかった。
「この女っ……!!」
ロザレナは大剣に闘気を纏うと、一閃、自身に向かって剣を振りかざしてきた男の両腕を切り裂いた。
宙を舞い、後方へと落ちる両腕。
腕を失った騎士は、血飛沫が舞う両腕を見て、半狂乱になる。
「う、腕がぁぁぁぁ!? 俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!?」
「良い悲鳴ね」
ロザレナは次に、騎士の両足を切り裂く。手足を無くした男は地面に倒れ伏した。
達磨となった騎士。その姿を見て、二人の騎士は逃げ出した。
そんな二人の騎士に対して、一人残った騎士は腕を伸ばし、声を投げる。
「あ、おい! 待て! 逃げるな――――――――」
そんな騎士の真横を、ロザレナが【縮地】を使って通り過ぎて行く。
ロザレナは一瞬にして逃げ去った騎士の元へと到着すると、彼らの首を刎ね飛ばした。
その瞬間、二人の騎士の首から舞った血飛沫が、雨のようにロザレナの頭上へと降り注いでいく。
そしてロザレナはゆらりと身体を揺らしながら振り返り、残った騎士へと目を向けた。
「あたしの大事なものを奪うやつは、誰であろうと許さない」
風によってフードが外れ、ロザレナの長い髪が美しく靡く。
学園に入った当初。ルナティエと決闘する時、ロザレナは自分の長い髪を切っていた。
しかし、今の彼女は……ここを発った時と同じく、昔と同じ、長い髪へと戻っていた。
帰郷と同時に戻った昔の姿。だけど、その出で立ちは、過去のもとは異なるもの。
瞳孔が開いた紅い瞳に、頰に付着した赤い血。闇のように深い青紫色の髪。
その姿からは、見る者に恐怖心を植え付けるような、異様な気配が漂っていた。
「ひ、ひぃぃ!?」
最後に残った五体満足の騎士はロザレナの姿を見て、尻餅をつく。
ロザレナは無表情で、血に濡れた大剣を手に持ちながら、男の元へと歩いて行く。
俺はそんな騎士の前に立ち、彼女の前に立ちはだかった。
「……」
「……」
無言で見つめ合う俺とロザレナ。
そして俺は……振り返り、背後にいた騎士の首を箒丸で切断した。
そして、次に、四肢を無くした男の前に、俺は立つ。
「や、やめてくれ……た、助けて……! 俺にも家族が……!」
俺は最後まで男の言葉を聞かず、苦しまないよう、彼の首を切断した。
二人の騎士を殺し終えた後。俺は、お嬢様の方へと向き直る。
「お嬢様。私は彼らを捕縛するよう、言ったはずですが」
「生かしておく方が良くないと思うわ。こいつらがもし念話の魔道具を持っていれば、あたしたちがここに来たことがゴーヴェンに筒抜けになる。生かしておくのは危険よ。それに……貴方だって今殺したじゃない」
「こうなっては仕方ないと判断したからです。目の前で仲間を殺されれば、彼らがこちらに憎悪を抱く理由にもなる。なりふり構わない復讐心を抱いた者がいると、仲間たちにも危害が及ぶ可能性があります。それに……お嬢様は、絶対に、彼らを見逃すことはしないでしょう? だから、今、私は貴方の代わりに介錯をしたのです。苦しまずに死ぬことができるように」
俺はそう言った後、首と四肢を失って息絶えている騎士へと目を向ける。
「……何故、弄ぶような殺し方をしたのですか? 四肢を奪う必要は無かったのでは?」
「分からない。だけど、この方が良いと思ったの」
「……確かにこいつらは最低最悪の連中です。旦那様……エルジオ伯爵の優しさを踏み躙ったその行為には、反吐が出ます。ですが、はっきり言って、私は……彼らを殺しても胸中は不愉快なままです。当然です。人の命を奪うということは、奪った人間の人生の重さを背負うという行為なのですから」
俺は一呼吸挟むと、お嬢様に言葉を投げる。
「お嬢様。貴方は今、初めて人を殺しました。心が……痛くはありませんか? 苦しくはありませんか? 彼らにだって大切な人はいます。泣いてくれる人はいます。その全てを、貴方は、今、奪ったんです」
「だったら、あたしのお父様が傷つけられることを良しとしても良いの? 被害者は我慢し続けなければならないの? こいつらは多分、ここで生かしても、また同じことをするわよ。きっと、何処かでまた誰かを泣かせる。人はそう簡単には変わらないわ」
「……」
「―――――――――剣は、人を殺すために作られた道具である」
ロザレナはそう言って、俺の顔をジッと見つめる。
「アネット、貴方がいつの日か、あたしに言った言葉よ」
「……」
俺とロザレナは、再び見つめ合う。
闇属性魔法による暴走……なのか? にしては魔法の気配を感じられないが……。
もしかして……俺は何かを、勘違いしていたのか……?
闇属性魔法とお嬢様の変化は、関係がない……?
俺がじっと見つめていると、お嬢様はハッとした表情を浮かべ、俯いた。
「ごめん……あたし、間違ってしまったわよね。ごめんね、アネット。怒らないで。別に、誰かを傷つけて良いだなんてあたしは思っていないの。おかしいな……あたし……何であんなこと……」
「お嬢様……」
俺がお嬢様にどう声を掛けようか迷っていた、その時。
グレイとルナティエが、こちらへと駆け寄って来た。
「師匠!」「師匠!」
二人は、周囲に広がっている血溜まりと、息絶えている聖騎士の死体を見て、驚きの表情を浮かべる。
「な……なんだ、この惨状は……!」
「まさか……ロザレナさんが、これを……やったんですの……?」
口元をハンカチで抑えたルナティエがそう問いを投げると、ロザレナはコクリと頷いた。
「ええ。状況的に排除した方がリスクが少ないと思ったし……それに、こいつらは、お父様をこのまま痛めつけて殺そうとしていた。だから――――」
ルナティエはロザレナの肩を掴むと、彼女の目をまっすぐと見つめる。
「貴方……どうしちゃったんですのよ! 元から危ういところがある子だとは思っていましたけれど、それがこんな……!」
「……ごめん」
「別に、謝って欲しいわけじゃ――――」
「――――――――――力は、正しきことに使え」
グレイはそう言って、ロザレナに鋭い目を向ける。
「オレたち箒星が、師匠から教わった大事な言葉だ。ロザレナ、お前はこれが、正しいことだと思っているのか?」
「……分からない」
ロザレナのその言葉に、グレイは深いため息を吐く。
「起きてしまったことは、仕方がないな。一先ずはここから先、どうするかを考えた方が良い」
「そうですわね。……師匠。磔にされているレティキュラータス伯とアレフの村の様子を見て、レティキュラータス領が異常であることは理解致しましたわ。とりあえず、今分かっていることを教えてくださいまし」
「分かりました」
そう言葉を返すと、ちょうど、オリヴィア、ジークハルト、フランも、遅れて俺たちの元へとやってきた。
オリヴィアとジークハルトは転がっている聖騎士の死体に絶句し、フランは嘔吐していた。
そうして、その後。
俺は、エルジオから聞いた情報……バルトシュタインの傘下に入ったオルベルフ家がレティキュラータスの新しい領主となり、この地を支配していることを伝えた。
領地を支配しているオルベルフ家は、レティキュラータスの領民を都合の良い労働力としか考えていないこと。一度逃げ出したエルジオだったが、村の子供を人質にされた結果、子供たちを守るためにロザレナを誘き出す餌となってしまったこと。
その全てを話すと、オリヴィアは苦悶の表情を浮かべた。
「お父様……ゴーヴェンのせいで、この地がこんな目に……!! どこまで地獄が好きなのですか、あの人は……!!」
「恐らく、ゴーヴェンは既にレティキュラータスの祠を見つけた後なんだと思いますわ。それで、ここを、他の陣営が近寄らないようにするために、配下のオルベルフ家に守護させている。そして、ロザレナさんを誘き出すためにも」
「……ならば、無闇にこの地を散策するのは危険だな。それに、この先、ゴーヴェンが行った先はこうなっている可能性が高そうだ。やはり、あの男は混沌しか産まないようだな」
ジークハルトのその言葉に、フランは顔を青ざめさせながら、口を開いた。
「な、何なんじゃ、あの学園長は……!! 各地の土地を侵略しながら巡礼の儀をしておるのかのう!? イカれておるのか!?」
「フン。あの男が狂っていることなど最初からわかっていることだ。それよりも……レティキュラータス伯の容体が心配だ」
グレイの視線の先には、エルジオの拘束を解き、横たわる父親を心配そうに見つめているロザレナの姿があった。
その光景を確認した後、グレイは、オリヴィアに声をかける。
「オリヴィア。レティキュラータス伯の治療を頼む」
「は、はい! 勿論です!」
オリヴィアは頷くと、エルジオの側へとしゃがみ込み、治癒魔法を発動させた。
「レティキュラータス伯の治療は、オリヴィアに任せておいた方が良いだろう。その護衛は、オレが務める。無論、この村もオレが守り抜こう」
「分かりましたわ。では、わたくしとジークハルト、フランは、レティキュラータスの祠を探しますわ。それで、アネットさんとロザレナさんには―――――」
ルナティエが、少し逡巡した様子でロザレナを見つめる。
するとロザレナは立ち上がり、ルナティエに言葉を投げた。
「レティキュラータスのお屋敷に行って、オルベルフ家を追い出してくるわ。囚われている村の子供たちも……あたしの家族たちもメイドも、助け出す」
「……よろしいですか、ロザレナさん。オルベルフ家の人間は、殺さないでください。奴らからゴーヴェンの情報を聞き出したいですから」
「その他は構わないの?」
「なるべく……殺さないように。雑兵は気絶させてください。本来であれば、人質がいる以上、屋敷の中に隠れて潜入したいところですが……貴方にそんなことができるはずありませんものね。暗殺者タイプの速剣型の剣士も、仲間にはいませんし」
そう言ってため息を吐くルナティエ。そんな彼女に、グレイがそっと声を掛ける。
「……良いのか? ロザレナをレティキュラータスの屋敷に向かわせても」
「この状況になったら、あの子を止めても無駄ですわよ。それは貴方もわかっていることでしょう?」
「……まぁ、な」
ルナティエとロザレナがそんな会話をしている、その時。
フランが、口を開いた。
「うーむ、隠れて潜入する……か。確かアルザードは、他者の人間の顔を被って、剣王試験に参加しておったのだったか……。あの能力を妾も使えたら……って、あれはもしや、変化属性魔法の産物なのか? だったら妾にも……」
「何をブツブツ言っているんですの、中二病女」
「あの騎士たちの鎧を剥いで、潜入組に着せて……妾が騎士たちの顔を変えることができれば……うむ! やれるかもしれんぞ、潜入作戦!」
「また手品師がわけのわからんことを言い始めたな」
「ロザレナ、師匠! そこの騎士の鎧を脱がせて、装備してくれ! それとルナティエ! ハンカチを2枚ほど貰えるかのう!」
「はぁ? いったい何をする気なんですの?」
「いいから、言う通りにするのじゃ!」
そうして俺たちは、わけがわからないまま、フランの言う通りに騎士の死体から鎧を脱がすのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……」
レティキュラータスの屋敷の中を、アイリスは一人、歩いて行く。
するとその時、窓の外で大きな雷が落ちた。
その瞬間、ザーッと、雨が降っていく。
その光景を一瞥した後。
腰に紅い鞘を装備したアイリスは、執務室の前に立ち、コンコンとノックをする。
すると、扉の向こうから「入っていいぞ」と言葉が返ってきた。
アイリスは無言のまま扉を開けて、中へと入る。
するとそこには、エルジオがいつも座っていた席に座る中年の男と、手錠を付けられて隣に立たされているロザレナの母ナレッサ、そしてソファーに座っているモノクルを付けた老人の姿があった。
アイリスはナレッサを一瞥した後、無表情のまま、中年の男に声を掛ける。
「父上。その女は、牢に入れておくべきだと思いますが」
「アイリス。俺はな、昔からこの女を我が妻にしたかったのだ。若い頃から何度も口説いてきたのだが……あろうことか、こいつは、レティキュラータス本家の若造に嫁ぎやがった。オルベルフ家の人間としてプライドがズタズタにされたことは、お前も分かるだろう!? 本来レティキュラータス本家の人間は、俺たちだったはずなのに!!」
「……」
アイリスが無言で父……オズワルドを見つめていると、ナレッサが怒りの表情を浮かべた。
「私は、あの方以外に嫁ぐ気はありません! そもそも私とエルジオは幼馴染で、貴方は私たちとは関係な――――」
「黙れよ、ナレッサ。お前はいつか必ず俺のものになる。はっはっはっはっ! バルトシュタイン様様だ! レティキュラータス領主の座も、欲しいものも全て手に入る!! 最高の気分だ!!」
高笑いするオズワルドに対して、モノクルを付けた老人が声をかける。
「それで……オズワルド。ルーベンスの奴が連れてきたフランシアの兵士たちはどうなった?」
「だ、大丈夫だよ、父上! なぁ、アイリス! お前はゴーヴェン殿に魔剣をいただいてから、敵なしだもんな!! フランシアの兵士たちは全員、お前が撃退したんだろう!?」
「はい」
アイリスのその返事に、モノクルを付けた老人……アイリスの祖父、ヴィクトルは、目を細める。
「レティキュラータスの神具の方はどうだ?」
「青き刀以外は、依然、行方は分かっておりません」
「そうか……何としてでも、神具である狼の牙をこの屋敷に取り戻さなければな」
「何だよ、父上。あんな古い刀、取り戻す価値なんてあるのか?」
「黙っていろ、オズワルド。神具には、とてつもない力が宿っているのだ。特に……紅き刀は、レティキュラータスの一族が長年外に出さないように守っていたものでもある。あれが外に出れば、災いが降り注ぐともな。それを、我が祖父は財政難のために手放しおったのだ。アイリス。レプリカとはいえ、それを使いこなすことができるお前が……新しいレティキュラータスの当主となり、狼の牙を管理するのだ。それが、お前の使命だ。分かったな?」
「はい。その使命を果たしたその時は、キリシュタットお兄様も……」
「あぁ。我が家に戻してやっても良い」
ヴィクトルの言葉に、オズワルドはフンと鼻を鳴らした。
「黒狼に呪われたあんな出来損ないに、どうしてそこまで執着するのか。俺には分からないな」
その言葉に、アイリスは拳をギュッと握りしめるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「鎧を着てみましたが……ここから何をする気なのですか? フラン」
俺がそう声を掛けると、フランは地面に落ちている頭部に近寄り、両手を合わせて頭を下げる。そして、その顔を、恐る恐ると触れた。
次に、ハンカチを手に持って、それを、ロザレナの顔に被せた。
「……何なのよ、これ」
「いいから、そのままでいるのじゃ。いくぞ! ――――――我が魔法よ! この者の顔を、騎士の顔へと変貌せよ!」
するとボフンと煙が巻き起こり……ロザレナの顔が、先ほどフランが触れていた騎士の顔へと変貌していた。
「え? 何? 何なの、これ!? 何が起こっているの!?」
「男の顔なのに、喋るとロザレナさんの声なのは……不思議な感じがしますわね……」
「ハンカチに、先ほどの男の顔を投影したのじゃ。じゃから、顔に張り付いているハンカチを剥ぎ取ると、元の顔に戻るぞ」
「安易に喋ることができないのは弱点ですが……なるほど……確かにこれは、潜入に使えますね。バルトシュタインの騎士として屋敷に潜り込み、捕まっている人質をこっそりと解放したあとは、オルベルフ家を屋敷から追い出せば良い。素晴らしい能力です、フラン!」
「ぬへへへへへ! 師匠に褒められるのは、嬉しいのじゃ!」
「では、これで、各々の役割分担が決まったな。オレとオリヴィアは村に残り、伯爵の治療と村の警護を。ルナティエとジークハルト、フランエッテは、祠の捜索。ロザレナと師匠は、人質を解放して、オルベルフ家を打倒する」
「遅れてやってくる手筈の別働隊にも、この情報を後で共有しておきますわ。ジェシカさん、マイス、アルファルドも、祠探しに参加していただきます。それと……万が一顔布が取れる可能性も考慮して……フランエッテは、潜入組に参加していただきますわ」
「え」
「ということで、潜入組は、アネットさん、ロザレナさん、フランエッテで決定ですわ」
「待つのじゃ。それは聞いていないのじゃ」
「では……作戦開始ですわ! 無事作戦を終了させて、この場に合流いたしますわよ、皆さん!!」
「妾はジークハルト陣営の切り札故、温存しておいた方が……って、待つのじゃ!! まだ話は終わっておらんぞ!! ルナティエ!!!!」




