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【コミック1巻3月25日】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第11章 強欲の狂剣

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第11章 二学期 第361話 過去からの刺客


 マイスと握手を交わした後。


 彼は俺の手を離し、笑みを浮かべた。


「君がついてくれれば、百人力だ。あとは、レティキュラータスの姫君を助けるために、ジークには聖王になって貰わなければな。大丈夫だ。俺の弟はああ見えて、お兄ちゃんっこの良い弟だ。俺の頼みは快く聞いてくれるはずさ!」


「……そう、ですかね……?」


「うむ! よし、それではさっそく、ジークに頼みに行ってみるか! 行くぞ、メイドの姫君!」


「あ、ちょ、マイス!?」


 マイスは意気揚々と、階段を下って行った。


 俺も後に続いて、下の階に降りる。


 するとそこには、白い歯を光らせてジークハルトの前に立つマイスの姿があった。


 マイスは前髪を靡き、両手を開き、口を開く。


「はっはー! ジーク! レティキュラータスの姫君を助けるために、お前はこれから聖王を目指せ!! これより、満月亭の全員で一丸となって、ゴーヴェンと戦って行こうではないか―――――――――うぼぁ!?」


 ジークハルトが放った拳が、マイスの頰に直撃する。


 椅子や机を薙ぎ倒し、派手に倒れるマイス。


 そんな彼を見下ろして、ジークハルトは声を張り上げた。


「今更何を言っている、お前は!! あれだけ玉座や巡礼の儀に興味がない態度を取っておきながら、私に聖王になれだと!? ふざけているのか!!」


「マ、マイスくん!? 大丈夫ですか!?」


 マイスに駆け寄るオリヴィア。


 ジェシカはマイスを心配そうに見つめた後、ジークハルトを睨みつける。


「ちょっと!! 事情はわからないけど、殴る必要ないんじゃないの!? マイス先輩、可哀想じゃん!!」


「何もわかっていないようだな。あいつは……わざと(・・・)、殴られたんだ」


「え?」


 ……やはり、そうか。


 俺以外にもそのことに気付いていたのか、ロザレナ、グレイ、ルナティエは、神妙な様子でマイスを見つめている。


「ねぇ、グレイレウス、ルナティエ。あいつって……もしかして、結構強い?」


「わたくしも同じ感想を持っていましたわ。ずっと、違和感があったんですのよ。あれだけオリヴィアに殴られていて、何で、あの男はピンピンとしているのか、と」


「フン。あの色情狂が力を隠し持っていたことには、オレも薄々気が付いていた。前から少し、腹が立っていたくらいだ。あの男は、実力を表に出さずに、常にヘラヘラしているだけだったからな」


 マイスはオリヴィアの手を借りずに、首を抑えながら立ち上がる。


 そして白い歯を輝かせ、アルカイックスマイルを見せた。


「はっはー! まったく、ジークの愛情表現は激しいな! だが、俺も譲るわけにはいかん!! ジーク!! 俺たちと共に巡礼の儀に参加し、勝利するぞ!! 満月亭の仲間で一丸となり、レティキュラータスの姫君を助けるん――――――――ごはぁ!?」


 ジークハルトはマイスに近寄ると、腹に膝蹴りを叩き込む。


 よろめくマイスの背中に、ジークハルトは、拳を振り下ろした。


「ふざけるな!!!! 都合が良い時ばかり私に擦り寄るのか!? 今まで私がどれだけお前に声を掛けても、お前は、私を無視してきたくせに!!!!」


「ぐはぁっ!? ちょ、待て、ジーク!!!!」


「仲間を助けろだと!? 私は、生憎、お前のような甘ちゃんじゃない!! 私は己の勝利のみを追求してきた、利己的な人間だ!! 私がロザレナを助けるとでも思ったのか!? 勘違いも甚だしい!!」


「ふぐっ!? はぁはぁ……嘘を吐くな、ジーク!! お前は……そんな人間じゃない!! 誰よりも平和主義で、誰よりも優しい人間だ!!」


「お前に私の何が分かる!! マイス!!」


 ジークハルトに一方的に殴られ続けるマイス。


 俺はその光景を見て、ため息を吐いた。


「とりあえず、今は……このまま、様子を見るのが正解ですね」


 俺がそう呟くと、ジェシカが心配そうに声を掛けてくる。


「だ、大丈夫なのかな? あのままにして?」


「男というものは……時には、殴り合いをしなきゃ分からない時もあるんです」


「アネット、女じゃん。何で男の子の気持ちを代弁しているの?」


「………………」


 ガワだけね。うん、ガワだけだからね、ジェシカちゃん。


 そうして俺は、兄弟喧嘩を、見守り続けた。





 15分後。二人の喧嘩は、治った。


 地面に倒れ伏し、顔中を腫らしたマイスを見下ろした後。


 ジークハルトは、床に片膝を付け、肩を上下させた。


「はぁはぁ……」


「……満足したか? ジーク」


「……」


「俺を恨んでくれても良い。だが、頼む。俺は……何としてでも、レティキュラータスの姫君を助けたいのだ。また……みんなで、あの満月亭に帰りたいんだ」


「何故、そこまでして、あの女を助けたいんだ?」


「俺にとってあの場所は……皆で食事を囲み、笑い合ったあの寮は……ただひとつの帰るべき場所だからだ。王宮などではない。あそこが、俺にとっての帰るべき場所なんだ。オリヴィア、グレイ、ロザレナ、ジェシカ、フランエッテ、アネット……そして、ジーク。俺は、またあそこに、みんなで戻りたい。またみんなで、笑い合って、食事を囲みたい。一人でも欠けては駄目なんだ。だから、俺は、レティキュラータスの姫君を助ける。この命を賭けてもな」


 マイスはそう言って立ち上がると、瞳を潤ませ、優しい笑みを浮かべる。


「なぁ、ジーク。本当に大事なものっていうのは、金銀財宝なんかじゃなく、ああいう場所のことを指し示すのではないのかな。平穏な日常。剣のいらない世界というのは、ああいう場所のことだ。情けない兄で済まない。だけど、もう一度……大事なものを守るために、俺に手を貸しては貰えないだろうか?」


「……」


 ジークハルトは立ち上がると、視線を逸らし、眉間に皺を寄せながらため息を吐く。


「それが……今のお前の夢、なのか?」


「あぁ。そうだ」


「……マイスウェル。お前……私に何か嘘を吐いているだろう?」


「ん?」


「お前があのように馬鹿王子になったのには、何か背景があったはずだ。私は……そこまで間抜けではない。全て話せ」


「嘘など吐いていないさ。王宮が嫌になったから、ああなったんだ。そこに、背景も何もない。お前の思い過ごしだ」


「……そう、か。なら、良い」


 ジークハルトはふぅとため息を吐くと、こちらに振り返った。


「私が聖王となり、ロザレナが災厄級の魔物とは無関係だと、国民に告げれば良いんだな?」


 その言葉に、俺はコクリと頷きを返す。


「はい。ジークハルト様には聖王となって、お嬢様の身の安全を保証していただきたいです」


「分かった。だが、私は今のところ、本気で聖王になる気はない。私が玉座に座りロザレナの身の安全を守った後は、王命で、マイスウェルに次期聖王を丸投げする。それでも良いな?」


「え? ま、まぁ……私としては、どちらが聖王になっても、お嬢様が守られるのならば良いのですが……」


 俺がチラリとマイスに視線を向けると、マイスはキョトンした表情を浮かべた後、大きく開口した。


「ま、待て、ジーク!! 俺は、王になる気は――――――」


「悪いが、聖王になった後のことは俺の自由だ。まぁ、この私を勝手に利用しようとしたんだ。それくらいの意趣返しは許容して貰おう」


 そう言ってフフフと笑みをこぼすジークハルト。


 先ほどとは異なり、その表情は、どこか楽しげだ。


 自分が笑みを浮かべていたことに気付いたジークハルトは、すぐに真顔になり、ばつがわるそうに後頭部を撫でる。


「……それで? これから先、どのようにして戦っていくつもりだ? 現在相手はこの国の全てそのものといえる。ここにいる学生だけで、どうにかできる存在とは思えないが?」


 ジークハルトのその言葉を聞くと、ルナティエがぱんと手を鳴らした。


「まずは、テーブルと椅子を直して、会議しますわよ。ほら、皆さん、手伝ってくださいまし」


 ルナティエの言葉を皮切りに、満月亭の寮生全員で、テーブルを直していく。


 そして、その後。俺たち全員はそれぞれソファーや椅子に腰掛け、円卓のテーブルを囲んで座った。


「では、まず、状況を整理致しますわ」


 上座に座るルナティエは、これまであったことを、全員から聞いていった。


 そして話を聞きながら、彼女はテーブルに手帳を広げると、そこにペンで情報をまとめていく。


「まとめると……わたくしたちの第一の敵は、聖騎士団もとい、ジュリアン陣営を乗っ取ったゴーヴェンですわ。全ての元凶と言って良い存在ですわね。裏を返せば……ゴーヴェンを何とかできれば、わたくしたちの一番の障害は消えると言えます。第二の敵が、剣聖、剣神、剣王、称号持ちの剣士たち。第三の敵が冒険者たち。これが、ざっと、今のわたくしたちに敵対する人間たちですわ」


 ルナティエのその言葉に、ジェシカが手を挙げて、口を開く。


「はいはい! だったら、全員で一緒にゴーヴェンをぶっ飛ばすのが良いと思いますっ!」


「脳筋だわ!」


「フン。ロザレナに言われるのだから、終わっているな、アホ女」


「グレイレウス先輩!! うっさい!!」


「はい、そこ、静かに。そうですわね。ジェシカさんの言葉も一理ありますわ。ですが、流石に聖騎士団の団長が護衛も付けずに一人で歩くことは無いと思います。それに……たとえゴーヴェンを倒しても、国民の暴動はそう簡単には止まらないでしょう。逆に、ロザレナさんが聖騎士団団長を倒したと噂が広がると、災厄級の因子ロザレナは危険だと、国民がヒートアップする可能性がありますわ。ゴーヴェンを倒すには、状況とタイミングが重要と言えます」


「ロザレナを守るためには、ゴーヴェンを排除するだけでは危ういということだな?」


 ジークハルトのその言葉に、ルナティエはコクリと頷く。


「ええ。だからこそ、マイスが発案した作戦……新たに聖王となった者に、ロザレナさんは危険ではないと宣言して貰う必要があります」


「ん? だったら、ジークハルトの他に、エステルにも協力を―――――――――」


 そう口にした瞬間、ジークハルトがギロリとロザレナを睨みつけた。


「エステリアルに助力を願うだと? ならばこの話は無しだ。あの女は……俺が聖王を目指すと決めた時点で、確実に敵となる。冷酷極まりない白銀の乙女が、他の王子陣営と協力関係を結ぶはずもない。連絡を取れば必ず取って食われることとなる」


「はぁ? エステルのことならあたしとアネットの方がよく知ってるから! あの子のことを知りもせずにそんなこと言わないで――――――」


「お嬢様」


 俺は背後からロザレナの口を塞ぎ、小声で声を掛ける。


「今は……エステルのことは置いておきましょう」


「でも、アネット……!! エステルはあたしたちの友達で……!」


「まず今は、会議を進めるべきだと思います」


 俺がそう口にすると、ロザレナは渋々ながら頷いた。


 顔を上げると、そこには、マイスがこちらを見つめている姿があった。


 マイスは俺と目が合うと、コクリと頷く。


(マイスがエステルと交わした契約は、他王子との接触、そして、エステルに敵対行動を取った時に発動するもの。契約内容を聞くに、この契約はきっとエステルがそう感じとった(・・・・・・・)瞬間に、契約が履行される代物だろう。つまり……マイスがジークハルト陣営に付き、ジークを聖王にしようと動いたとエステルに知られたら、その時点でマイスの心臓が破壊されてしまうのは必至。エステルとの接触は、なるべく避けるべきだ。ロザレナのような素直な性格の少女は、特に)


 ……後で、俺自身がエステルと会って、エステルが聖王になった時にロザレナを助けて貰えるように懇願するのは、手ではあるがな。


 とはいえ、マイスがこちらの陣営にいることは、絶対に知られてはならない。


「話を戻しますわよ。わたくしたちジークハルト陣営の一番の目的は、ロザレナさんの救出ですわ。そのために必要なのが、12月に行われる巡礼の儀に参加し、ジークハルトを勝利させること。巡礼の儀の開催日は、12月1日。今日は11月7日ですから、あと二週間とちょっとですわ。それまでに……各自、巡礼の儀に向けて物資を調達しなければなりません」


「食料とか、キャンプ道具とかだよね? 了解! お爺ちゃんに頼んで貰ってくるよ! お爺ちゃん、冒険者ギルド長だし!」

 

「お馬鹿さん! ジェシカさんがロザレナさんを助けたいと思っていても、貴方の祖父、ハインライン・ロックベルトは元剣神でしょうが!! 剣神は、ロザレナさんの命を狙っていますのよ!? 絶対に、貴方のお爺さんには、ロザレナさんのことは言ってはいけませんわ!!」


「えー? お爺ちゃんなら、むしろ、味方になってくれると思うけどー?」


「わたくしは信用できませんわね。……良いですか、ジェシカさん。これから先、もしかしたら、友人やクラスメイトと殺し合う可能性だってありますわ。貴方の祖父だって……ロザレナさんの命を狙うために、貴方に剣を向けてくるかもしれない。そうなった時、貴方はちゃんと、戦うことができますか?」


「……そっか。そうだよね。ロザレナは今、王国中から狙われているんだもん。お爺ちゃんやお兄ちゃんが敵になる可能性だって……あるんだよね……」


「ジェシカ……」


 俯き、鎮痛な表情を浮かべるジェシカを、ロザレナは心配そうに見つめる。


「ジェシカ。別に、無理にこの戦いに参加しなくても良いわよ? 貴方は道場に戻った方が―――――――」


 ロザレナがそう声を掛けるのと同時に、ジェシカはパチンと両手で自分の頬を叩き、顔を上げ、覚悟の決まった表情を見せた。


「うん。大丈夫。ロザレナを助けるためだったら……お兄ちゃんだろうがお爺ちゃんだろうが関係ない。戦うよ。だったら、お爺ちゃんには何も言わずに、ギルドから食料とキャンプ道具を盗……借りてきた方が良いよね。任せて」


「……よろしいんですの? ジェシカさん、貴方、そういった行為は、嫌いだったのでは?」


「今は……ロザレナを助ける方が大事」


 そう言って力強く頷くジェシカ。


 そんな彼女に続いて、ジークハルトが開口する。


「だったら、あとは、馬車が必要になるな。巡礼の儀は、各地を巡り、四大騎士公と縁のある祠を巡る儀式だ。全員が旅に出ることのできる、馬車を、どこかで購入しなければならない」


「はっはー! それなら任せておけ、ジーク! 俺の7人目の彼女が、貴族の娘でね。何台か馬車を持っていたはずだ。それを拝借していこう。無論、父親には内緒で、だがね! 大丈夫だ! 娘の方は俺にゾッコンだから、快く馬車を明け渡してくれるはずだ!」


「最低」


「最低ですわ」


「最低です、マイスくん……」


 ロザレナ、ルナティエ、オリヴィアから冷たい目を向けられるマイス。


 まぁ……あいつの今までの軽薄な態度が全て演技だったと分かったとしても、やってることがやってることだから、あんまり印象変わんないな、こいつは。


 というか、演技で女性を騙して利用している点は、以前よりも酷く見えるんだが……。


「馬車、野営道具、食料については何とかなりそうですわね。それじゃあ、ロザレナさん以外の各自、必要となるものを手配するために、このアジトを出て解散……と、いきたいところですが、周囲には敵兵がいる可能性もありますわ。ということで……フラン。貴方の出番ですわ」


「ほへ?」


 今まで静かだなと思っていたフランは、鼻提灯をパチンと割り、目を擦っていた。……寝ていやがったな、この女。


「な、何じゃ。妾に何か用かのう? 寝ておらんぞ。妾は、寝てなどおらん」


「フランエッテ。貴方、確か、身体の一部を鳩に変えることができましたわよね? それを使って、外の様子を偵察することはできますか?」


「お安いご用じゃ。どれ、窓を開けてみせよ」


 その言葉に従い、アルファルドが窓を開ける。


 そしてフランエッテは腕を伸ばすと、詠唱を唱え、右腕を鳩へと変えて外に向かって飛ばしてみせた。


 その後、彼女は目を閉じ、数分ほど黙り込む。


「……ふむ。雨が止んできたな。見たところ、周囲に人はおらぬぞ。聖騎士の姿も見えぬ。ここは安全じゃ」


「あんた……すごいわね、その魔法。ただの手品だと思っていたけど、使い方によってはそれ、すっごく役に立つ魔法なんじゃないの?」


「ふふん。今更このフランエッテ様の凄さに気付きおったか! 遅いわい!」


「すっごーい、フランちゃん!! やっぱり剣神はすごいんだね!!」


 目をキラキラと輝かせるジェシカに、鼻を伸ばすフラン。


 そんな中、ロザレナが「あれ?」と、首を傾げた。


「その、身体を一部変化させた鳩、もし、誰かに剣で斬られちゃったりしたら……どうなるの?」


 そのロザレナの疑問に、フランは汗をダラダラと流し、視線を逸らした。


「…………多分………ダメージがそのまま返ってくるようじゃから……右腕が無くなってしまうんじゃないかのう……」


「それ……自ら弱点を分散させているようなもんじゃないの? しかも、鳩形態は攻撃できないし。使い勝手悪くない? その魔法……」


師匠(マスター)〜〜〜〜!! ロザレナが酷いことを言ってくるのじゃぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」


 泣き噦るフランが、俺に抱きついてくる。


 俺はフランの頭を撫でて、ため息を吐いた。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《ゴーヴェン 視点》




 ―――――――――私は、幼い頃から、この世界が窮屈で仕方がなかった。


『あははははは!』


 12歳の頃。中庭で本を読んでいると、目の前で、兄妹たちが地面に蹲るジェネディクトに対して殴る蹴るの暴行を加えていた。


 それを率先して行なっていたのは、妹のアンリエッタだった。


 私はただその光景を、無表情で見つめていた。


 この世界は残酷だ。強者しか上に立つことはできない。


 そしていくら力を極めようとも、セレーネ教を使って高位人族(ハイエンシェント)が支配するこの国に、真の自由はない。


 ならば、高位人族(ハイエンシェント)を……神を殺す力が必要となる。


 始祖を殺し、眷属たる人間たちが、自由を得る世界。


 それが、私が目指す世界。


 いや……違う。贄を必要としない、強者のみが安寧として暮らせる世界が、必要だ。


 贄として殺された、彼女のためにも。


 私は、進み続けなければならない。


 そうだろう? 我が友、ジェスターよ。






 回想を終え、目を開ける。


 そこにあるのは、時計塔最上階にある、見慣れた執務室。


 私は深く息を吐いた後、机の引き出しからペンダントを取り出し、開いた。


 そこにあるのは、若き日の自分と、親友ジェスター、そして……一人の女性の姿。


 私はペンダントを閉じると、それをギュッと握りしめる。


 すると、その時。コンコンと扉をノックされた。


 ペンダントを胸ポケットに仕舞うと、私は扉に向けて声を放った。


「入れ」


「失礼します」


 部屋に入ってきたリーゼロッテは、複数の人間を連れてきた。


 最初に入って来たのは、小柄で褐色肌の、鉱山族(ドワーフ)の女戦士。


 元剣神、ルティカ・オーギュストハイムだった。


 ルティカはキョロキョロと辺りを見回し、口を開く。


「ハッ。まさかこの俺が、聖騎士団と手を組むことになるとはな」


「ククク。ようこそ、【旋風剣】ルティカ・オーギュストハイム。こちらの誘いに乗ってくれて、何よりだ」


「勘違いするなよ、ゴーヴェン。俺は、災厄級の因子だっていうあのガキを殺したいだけだ。……災厄級はもう二度と、生み出すわけにはいけねぇんだ……絶対になァ……!!」


 そう言って、小刻みに震える己の手を見て、苦悶の表情を浮かべるルティカ。


 そんな彼女から視線を外すと、私は、次に部屋の中へと入ってきた男へと視線を向ける。


「元フレイダイヤ級冒険者【翼龍(ワイバーン)殺し】ディクソン・オーランド」


 そう声をかけると、後頭部で長い髪を纏った顎髭を生やした男は、ニヒルな笑みを浮かべる。


「どうも、団長殿。もう一度確認させてもらうが、今回の仕事で俺が災厄級の因子を殺したら、この俺を冒険者ギルド長にしてもらえるってのは本当の話かい?」


「あぁ、本当だ。私が巡礼の儀に勝利し、この国を完全に掌握した暁には、ハインラインをギルド長の座から下ろして、その座を君に与えるつもりだ」


「安心したよ。ならこの俺も、奴さんを討伐するのに手を貸すぜ。ただ……ひとつ言っておくが……理解できないかもしれないが……ロザレナのメイドに近づくのは、遠慮させてもらおう。俺じゃあアレはどうしようもできないんでねぇ。刺客として送り込む際は、その点を考慮してくれると有難い」


「承知した」


「? おいおい、そんなに簡単に受けて入れて良いのかよ? メイド如きにビビるなって、俺を馬鹿にしないのか?」


「君と同様、あの少女の力については理解しているつもりだ」


 その言葉に、リーゼロッテも眉間に皺を寄せ、緊張した面持ちを浮かべる。


 ルティカだけは状況が飲み込めていないのか、馬鹿にするように鼻を鳴らした。


「ハッ。冒険者っつーのはやっぱり、アイテム収集しかできない雑魚の集まりだな。警戒すべきは、災厄級の因子だろうが。何でメイドなんかに警戒してんだよ。アホかよ」


「おいおいおい。聞き捨てならないねぇ、お姉さん。冒険者ってのは、魔物狩りのスペシャリストなんだぜ? 今度の仕事は、元剣神のあんたよりも、俺たちの方が活躍できると思うけどねぇ。そもそもあんたは、暴食の王から逃げたんだろ? 今度も逃げないでくれると助かるけどねぇ」


 ディクソンがそう口にした瞬間、ルティカは闘気を纏い、強烈な殺気をディクソンに向けた。


「粋がんじゃねぇぞ、冒険者風情が」


「一個体の単純な戦闘能力なら確かにあんたの方が上だろうが、こっちには数と頭がある。逃げる獲物を追うなら、俺の方に利があるのは明白だ。こっちは魔物狩りのプロなんでね」


 ディクソンがそう口にして指を鳴らした瞬間、背後の扉が開き、複数人の冒険者たちが現れた。


「シルバー、ゴールド、プラチナ、アダマンチウム、中位から高位ランクの冒険者たちが、俺の下に付いてくれることになった。無論、王国に二パーティしかいないフレイダイヤ級のリーダーたちも協力してくれる手筈となっている。まぁ、フレイダイヤの奴らはハインラインを慕っているから、俺に全面的に協力するつもりはねぇだろうがな。――――――――とにかく、こっちには、50人の兵力があるってわけだ」


「くだらねぇ。烏合の衆がどれだけ集まろうとも、意味はねぇよ」


 睨み合うルティカとディクソン。


 そんな二人を呆れた目で見つめるリーゼロッテ。


 私はクククと笑みを溢した後、開口した。


「目指すのは災厄級の因子、ロザレナの討伐だが……もしかしたら君たちには、別の者たちと戦ってもらうことになるかもしれないな」


「? 別の者?」


「あぁ。ロザレナを狙えば、必ず、箒星という門下生の剣士が姿を現すだろう。リーゼロッテ、ルティカ、ディクソン。君たちには―――――――その対処を求めたい」


「箒星? 何だよ、それは?」


「新たに誕生した、剣王上位勢のことだ」


「剣王? ハハハハハハハハハハハ!! 馬鹿にするのも大概にしろよ!! この元剣神ルティカ様に、剣王如きの相手をしろだと? 舐めてんじゃねぇぞ、ゴーヴェン!」


「……それについては俺も同意だな。元フレイダイヤ級冒険者であるこの俺に剣王の相手を任せたいなんて、冗談キツイぜ、団長殿。こっちは出世欲の強い冒険者たちを口車に乗せて、こちら側の派閥に付かせたんだ。そんなぬるい仕事を任されたら部下たちが怒り狂っちまうぜ」


「ククク。今回諸君らに頼む仕事は、剣王という邪魔な壁を倒した後に、災厄級の因子ロザレナの討伐をすることだ。無論、任務達成後には、君たちには相応しいポストを付ける予定だ。……ルティカ嬢、剣神の座に戻りたくはないかね?」


「……どういう意味だ?」


 私は懐から、剣神の称号を取り出した。


 それを見て、ルティカは目を身開く。


「そ……それは……!?」


「これは、我が息子、ヴィンセントから取り上げた剣神の称号だ。これは、奴を仕留めたリーゼロッテに持たせることにしよう」


 私はそう口にして、称号を指で弾き、目の前に立つリーゼロッテへと投げる。


 するとリーゼロッテはそれをキャッチし、頭を下げた。


「はっ! 新たな剣神として、邁進して参ります! ゴーヴェン様!」


「ルティカ。君がもしこの任務を見事達成したその時は、リーゼロッテから君に、この称号を渡そう。勿論、剣士の流儀に則り、君がリーゼロッテに勝利した場合にのみ限る、がね」


「……面白れぇ。上等だ」


「ルティカには剣神の座を。ディクソンには冒険者ギルド長の座を。……リーゼロッテ。君もこの作戦の指揮を取る人間だ。欲しいものはあるかね?」


「では……再びこの私を、副団長の座に座らせて欲しく思います」


「良いだろう。さぁ――――――行け。ゲームの始まりだ」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「……ここ、は……」


 暗い牢獄の中。フレーチェルは目を覚ます。


 彼女はベッドから起き上がると、顔を上げ、額を手で押さえた。


「私……確か、奈落の掃き溜めで、聖騎士たちに取り囲まれて……それで……」


 フレーチェルがそう独り言を呟いた、その時。


 同じ牢獄にいたある男が、フレーチェルに声を掛けた。


「ようやく目が覚めたか、王女殿下」


「え……?」


 そこにいたのは、両腕を鎖で繋がれ壁に背を付けている血だらけの鎧騎士、ヴィンセントだった。


 その姿を見たフレーチェルが、急いで彼の側へと駆け寄る。


「ヴィンセント様!? そのお怪我は!? 【剣神】である貴方が、いったいどうしてそこまでのダメージを……!?」


「生憎……俺はもう【剣神】ではない。リーゼロッテに敗れ、奴に称号を奪われてしまった」


「そ、そんな……!!」


「早く……アネットたちに伝えねばならん。ゴーヴェンは、ロザレナを狩るために、報奨金を上乗せしてどんどんと強者たちを軍門に置き始めているということを。リーゼロッテは勿論のこと、元剣神ルティカ、それに、最上級冒険者たちも徒党を組み始めた。あの男は本気で、ロザレナを狩るつもりのようだ」


「何故、ゴーヴェンはそこまで躍起になっているのでしょうか? 災厄級の因子だから、と、安直な理由だけにはどうも見えないのですが……」


「もしかしたら……眠れる獅子を、呼び覚ましたいのかもしれんな」


「え?」


「いや、何でもない。それよりも、早くここから逃げ出す術を探した方が良いだろう。巡礼の儀までここに閉じ込められては、俺たちの敗北は確実だ」


「そうですね。そういえば……グリウスや、貴方の部下のコルネリアさんはこの場にいないようですね? 別のところに囚われているのでしょうか?」


「さてな。もしかしたら、我らの情報を部下から聞き出すべく、拷問にかけられている可能性も―――――――」


 その時。カツカツと革靴を鳴らす音が聞こえてきた。


 そうして、牢の前に―――――ゴーヴェンが姿を現した。


「気分は如何かな? ヴィンセント、フレーチェル殿下」


「噂をすれば何とやら、か。久しいですね、父上」


「ククク。ヴィンセント。あのミレーナという王女を祭り上げ、表舞台に上がってきたお前には少しばかり興味を惹かれたが……結局、お前では我が敵にすらなり得なかったようだ。些か、期待しすぎてしまったな。お前には、私と戦うための武力が足りていない」


 そう言ってゴーヴェンは、次に、フレーチェルへと目を向ける。


「フレーチェル殿下。貴方には、かなり驚かされました。まさか、争いの外側にいた貴方が、ここまで成長するとは思いもしなかった。だが……変化するのに、少々、時間がかかりすぎましたな。もう既に、貴方が参戦するには盤面が整いすぎていた」


「ゴーヴェン……!! ひとつ、質問いたします!! 貴方は、どうして、奈落の掃き溜めをあのままで良いと判断したのですか!? あそこにいる人々は、身を削る思いで暮らしている人ばかりだというのに!! 何故、貴方は薬物を蔓延させ、奈落を地獄のまま放置したのですか!? 答えてください!!」


「『死に化粧の根(マンドラゴラ)』を蔓延させたのは、我が父、ゴルドヴァークだが……まぁ、良い。その問いへの答えは簡単だ。生物というものは、常に、弱肉強食の世界で生きている。人間という生物も同様。自分よりも下にいる人間を見ることによって、ああはなりたくないと考え、人々は邁進し、堕落を拒む。堀の下に地獄があるのは、この国にとって、必要不可欠(・・・・・)な存在だからだ。人間は共通の敵、もしくは、共通の見下す対象があれば、一致団結するというもの。ククク……だからこそ、この国の人間はあんなにも災厄級の因子探しに必死になっている。この世界というものは、常に、贄を必要としているのだ。贄が無ければ、人は人足り得ないのだからな」


「ふざけたことを言わないでください!! 贄なんて、必要ありません!!」


「いいや、この国に贄は必要なのだよ、王女殿下。人類の守り手である剣聖、奈落の掃き溜め、亜人―――――弱者にとって贄があるからこそ、彼らは心の平穏を保つことができるのだ。なぁ、殿下。こうは思わないかね? 弱者さえいなければ……この国は、変わることができるのではないのかと。武力、精神的強さ、知能。守られるだけの弱者を排除し、真に強さを得た者だけが、この国に住むことを許される。そうすれば、きっと、この世界は贄がいらない平和なものになる。そうは思わないかね?」


「貴方が言っているのは……貴方が認める者だけを集めた、独裁的な国作りです。そこに、真の平和などありません……!!」


「ふっ。前にもアネット・オフィアーヌに、同じようなことを言われたな。……つまらん。弱者を救済することに、意味などはない。フレーチェル、せっかくお前も私の認める世界の居住者になり得たものを……がっかりだ」


 そう口にして、ゴーヴェンは去っていった。


 その背中が完全に見えなくなった後。


 フレーチェルは拳を握り締め、歯を食いしばる。


「絶対に……認めてはいけません……!! あの男の理想だけは、絶対に!!」


「同感だ。だが、このままでは、俺もお前も巡礼の儀に参加することは難しいだろう。どうしたものか―――――――」


「……だっさぁ。剣神ともあろう者が、こんな簡単に捕まっちゃうなんて、惨めすぎて言葉も出ないんですけどー」


「誰だ!?」


 突如、暗闇から聞こえてきたその声に、ヴィンセントは声を荒げる。


 すると、その時。闇の中から……人形を腕に抱えた少女が姿を現した。


 その黒髪サイドテールの少女は、鍵束を掲げ、笑みを浮かべる。


「こんにちは、惨めな子豚ちゃんたち」


 その姿を見て、ヴィンセントは不愉快げに眉を顰め、フレーチェルは安心したように笑みを浮かべた。


「キールケ……!!」

「キールケさん!!」


読んでくださってありがとうございました。

この作品の継続の要となる、コミカライズ1巻今日発売となります。

WEB版も書籍版も作品継続するためにはコミックの売り上げ次第となりますので、ご購入のほど、よろしくお願いいたします。

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