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【コミック1巻3月25日】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第11章 強欲の狂剣

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第11章 二学期 第355話 災厄級の因子ロザレナ


『これより先は……ジュリアン殿下の意思を引き継ぎ、この私が、ジュリアン陣営を指揮していく。セレーネ教の信徒たちよ! この国を愛する者たちよ! 私について来い!! この私が――――――この聖グレクシア王国を導いていこう!!』


「ゴーヴェン……!!」


 ヴィンセントは、ゴーヴェンのその発言に奥歯を噛み、眉間に皺を寄せる。


 そんな彼に、コルネリアは焦燥した様子で声を掛けた。


「ヴィンセント様! もしや、これは……!」


「あぁ……ゴーヴェンは、最初からジュリアンを聖王にする気など微塵もなかったのだ。あの男は、自分がこの国を掌握することを狙っていた。我が父ながら、恐ろしい……!」


 ヴィンセントのその言葉に、フレーチェルが慌てて声を掛ける。


「もしかして、ジュリアンが病に伏せたという話も、嘘なのでしょうか!?」


「その可能性は高いだろうな……」


「ジュリアン兄様……まさか、信じていたはずの配下にやられるなんて……」


 フレーチェルは、苦悶の表情を浮かべる。


 自分を殺そうとした兄に対して同情を見せるとは、優しい王女様だ。


「フレーチェル王女。こうなっては、予定よりも早くこの奈落の独立化を進め、貴方の復活と権威を示した方が良いだろう。そして、奈落で行われていたバルトシュタイン家当主の非道な行いも、街宣パレードで告発すると良い。多少なりとも、奴への牽制となるはずだ」


「は、はい。そうですね。これで、ジュリアンが私を殺そうとしたことを世間に告発しても、ジュリアンにダメージは入らなくなりましたからね。であるのならば、国民に対して、少しでもゴーヴェンの評価を落とす動きを取った方が……」


 フレーチェルがそう口にした瞬間、念話がまだ繋がっていたのか、ゴーヴェンが続けて口を開いた。


『さて……今日はもうひとつ、諸君らに伝えないといけないことがある』


「今度は何を言う気だ、ゴーヴェン……!!」


 空に向けて、咆哮を上げるヴィンセント。


 ゴーヴェンは「ククク」と笑みを溢すと―――ゆっくりと、口を開いた。


『先々月の騒動があって、今、このことを国民に伝えるのは街に混乱を呼び起こすので控えるようジュリアン殿下に命じられていたのだが……このような事態になっては致し方ないと、殿下から許可をいただいた。皆、心して聴くように』


 一呼吸置くと、ゴーヴェンは再度、開口する。


『聖女様はこの国で、新たなる災厄級の因子の誕生を、未来視で発見なされた』


 その言葉を聞いた瞬間、奈落の民たちは悲鳴を上げ始めた。


 その光景を見て、フレーチェルは口を開く。


「奈落には、ベルゼブブの被害に遭って家族を失った、元上層民もいらっしゃいます……! 騎士たちよ! 民を落ち着かせてください!」


 フレーチェルの指示で、恐慌する民たちを宥めようとする聖騎士たち。


 俺はただ、奈落の底から空を見つめていた。


 災厄級の因子というその言葉に――――――何処か、嫌な予感を覚えたからだ。


『七月に大森林に出現した【暴食の王】に、九月に王都の地下水道に出現した【傲慢の悪魔】。続いて出現を予言されたのが……【強欲の狂剣】。ただ、この災厄級は、まだ、完全に災厄級に転化しきっていないらしい。そのため、聖女様本人も、その正体をまだ掴めていないそうだ。……しかし』


 俺は、ゴクリと唾を飲み込む。背中を、一筋の冷たい汗が通っていく。


『しかし……私は、その正体を知っている。良いかね、諸君。災厄級の因子を持つ存在というのは、闇属性魔法を使用できる者だ。私は、今年の六月に、偶然……闇属性魔法を使用できる者を発見している。それも、私が運営している騎士学校の、学級対抗戦で、だ』


「え……?」


 ロザレナは、震えた声を発した。


「そう、か……」


 俺は以前から、何かを見落としているのではないのかと、漠然とした不安を抱えていた。


 その見落としていたものが、今、分かった。


 俺が見落としていたもの、それは……俺がお嬢様のお側にいることができなかった、学級対抗戦だ。


 あの時、俺はリーゼロッテと戦っていたため、シュゼットと戦っていたお嬢様の姿を見ていなかった。


 そして、思い返すと、学級対抗戦には……ゴーヴェンや王子たちが高台で、試合を観戦している姿があった。


 お嬢様が初めて闇属性魔法を発現したのは、シュゼットと戦っていたあの日。


 そこから導き出される答えは――――――――――――。





『災厄級の因子の名は……剣王【覇剣】ロザレナ・ウェス・レティキュラータス。四大騎士公、レティキュラータス家の息女だ』




「……は? あたしが……災厄級……?」



 俺の隣に立っていたロザレナは、呆然とした表情で立ち尽くす。


 近くに立っていたヴィンセントとフレーチェルも、信じられないと言った様子で、ロザレナを見つめていた。


「お嬢……様……」


 ドクンドクンと心臓が早計を打つ。


 深い絶望が、胸中を覆っていく。


『王国に住まう全ての者たちよ。再び王都が崩壊の一途を辿る前に……災厄級の因子を殺すのだ!! 私は聖騎士団の団長として、全ての国民に命じる!! 剣を持って戦え!! 【剣聖】【剣神】【剣王】【剣侯】【剣鬼】、剣の称号を持つ剣士たちよ!! 魔物を狩る術に長けた、【フレイダイヤ】【アダマンチウム】【ミスリル】【ゴールド】【シルバー】【アイアン】【ブロンズ】のプレートを持つ冒険者たちよ!! 今すぐに、ロザレナ・ウェス・レティキュラータスを……殺すのだ!!!!』


 ゴーヴェンのその言葉が、頭の中で反響する。


 この国の全てが、今、お嬢様を殺そうと動き出す。


 何でだ……何で、こんなことになるんだ……?


 俺が一番大事な人が、災厄級だって? ふざけるな。ふざけんじゃねぇ!!!!


 どうして、お嬢様が……こんなことにならなきゃいけないんだ……!!


 お嬢様は誰も殺してなんていない!! ただ、夢に向かって邁進しているだけの、貴族令嬢だろうが!!!!


 あまりの衝撃に俺が硬直していると、背後から、声が聞こえてきた。


「災厄級……お前さっき、自分をロザレナだと、そう言ったよな」


「え?」


「!? お嬢様ッ!!」


 俺はロザレナの手を引っ張り、自分の側へと引き寄せる。


 すると、先ほどまでお嬢様が立っていた場所に、巨大なハンマーが振り下ろされた。


 お嬢様に攻撃を仕掛けてきたのは……元剣神ルティカ・オーギュストハイムだった。


 ルティカは血走った目でロザレナを睨みつけ、咆哮を上げる。


「災厄級の芽は……ここで潰す!!!! 俺はもう、あんな化け物がいる世界は……懲り懲りだァ!!!!!!」


 全身に凄まじい闘気を纏い、殺気を見せてくるルティカ。


 その闘気の圧に気圧され、ロザレナは目を細める。


「な……何なのよ、いきなり!!!! あたしのどこが災厄級だって言うのよ!!!! あたしは人間よ!!!!」


「うるせぇ!!!! お前は災厄級になる可能性があるってことだろうがァ!! だったら、ここで殺すしかねぇよなァ!!!! 【旋風剣】!!!!」


 ルティカはハンマーを振り回し、ロザレナに向けて竜巻を放つ。


 生憎と、今の俺は箒丸を持ってきていない。


 ここは、お嬢様を抱えて、逃げるしか―――――――――。


「【アイシクルブレイド】」


 その時。俺たちの横を氷の刃が通っていき……竜巻を切り裂いた。


 そのまま氷の斬撃はルティカに向かって飛んで行くが、ルティカは軽くハンマーを横薙ぎに振ることで、難なく氷の斬撃を消し飛ばしてみせた。


「【氷絶剣】……てめぇ、何でここにいやがる……! 何の真似だ!!」


「それはこちらの台詞だ、【旋風剣】。まさかお前が奈落にいたとはな」


「何故、その女を守る、顔面凶器野郎!! 今の念話を聞いていただろう!! そいつは、あの暴食の王になるかもしれない奴だ!! ここで殺すのが、正解だろう!!」


「相変わらずお前は猪突猛進の馬鹿だな、ルティカ・オーギュストハイム。何故、ゴーヴェンの言葉をすんなりと信じる? それに彼女はどう見ても人間だ。罪を犯していない人間を殺すのは、【剣神】の仕事ではない」


「ハッ!! 俺がいない間に、ずいぶんと良い子ちゃんになったじゃないか、地獄の騎士ヴィンセント!! リトリシアの方がまだ、俺の話を理解しそうだぜ!!」


「たとえ、剣聖殿が彼女を殺すことに同意したとしても……俺は認めん。ゴーヴェンの言葉には従わない」


 睨み合うヴィンセントとルティカ。


 そんな状況の中、周囲にいた人々は……突如、角材やナイフなどを持って俺たちの側に寄ってきた。


「災厄級……」


「こいつを殺さないと、また家族が……」


「殺せ! 殺せ!」


 にじり寄って来る人々に対して、フレーチェルは手を広げて、声を張り上げる。


「ま、待ってください、皆さん!! 彼女が災厄級であるという証拠は、何処にもありませんよ!!!! 第一、彼女は人じゃないですか!! 落ち着いてください!!」


「そこを退いてくれ、お姫様!!!!」


「そうよ!! 国に見捨てられている奈落の民は、自分の身は自分で守らなければならないの!!」


「ここに災厄級がいるぞ!! みんな!! 手を貸してくれ!!」


 その言葉に、スラムの人々が広場に集まって来る。


 その光景を見つめていると、ヴィンセントが口を開いた。


「コルネリア! 力付くで民衆を止めて、アネットたちが逃げる道を作れ!!」


「はっ!」


 コルネリアは腰の鞘から剣を抜くと、民たちの前に立つ。


「グリウスも、加勢してください!!」


「了解したぜ、姫さん!!」


 騎士二人が剣を抜いたことで、怯む群衆。


 それを確認すると、ヴィンセントとフレーチェルが俺たちに声を掛けてくる。


「アネット!! ルティカは俺が何とかする!! お前はレティキュラータスの令嬢を連れて、何処か安全な場所に逃げろ!! 後で合流しよう!!」


「ご武運を、アネット様!! ロザレナ様!!」


「はい!! ありがとうございます、ヴィンセント様! フレーチェル殿下!」


 俺はロザレナの手を掴むと、【瞬閃脚】を発動させ、猛スピードで駆け抜けて……群衆の合間を走って行った。


 俺に手を引っ張られるままのお嬢様が、背後から声を掛けてくる。


「ねぇ、アネット……あたし、これからどうなるのかな? あたし、何か悪いことしたのかな?」


「……大丈夫です。例え世界の全てが敵になったとしても、私は、お嬢様の味方ですから。安心してください。私が絶対にまた、平和な日々を送ることができるようにしますから」


 絶対に、この手は離さない。


 俺はそう固く決意し、スラム街を疾走して行った。






 関所の前に辿り着くと、そこには既に、大勢の聖騎士たちの姿があった。


 あれは……ここに来る際に見かけた、王都を闊歩していた聖騎士たちだろうか?


 なるほど。王都に聖騎士がいたのは、全て、このためだったのか。


 俺は自分の背中にお嬢様を隠したまま、物陰から関所をジッと見つめる。


 あれだけ警備があったら、このまま関所を通って、上層に行くのは難しいか……。


 俺が聖騎士を全て蹴散らして、上層に行くという手もあるが、それをすれば確実に俺とロザレナの所在地が奈落であることをゴーヴェンに知らせてしまうことになるだろう。


 俺が思案していると、背後にいるロザレナが声を掛けてきた。


「ねぇ、アネット。わざわざ上層に行く必要はあるの? この奈落の方が、身を潜めやすい分、安全なんじゃないのかしら?」


「いいえ、お嬢様。奈落は完全に閉鎖された空間です。上層への道を完全に封鎖して、虱潰しに捜索されては……いずれ必ず所在を突き止められることでしょう」


「だったら、向かって来る連中をばったばった倒して行けば……!」


「お嬢様。ただでさえ今の貴方は、王国の人々から、災厄級の因子として恐れられているのです。そんな中、人を傷つけたら……悪印象がさらに膨れ上がります。私が許可した時以外は、剣は抜かないように。良いですね」


「でも、だったらどうするのよ……この先ずっと、あたしたち、逃げ続けなければいけないの? もう、満月亭にもお屋敷にも帰れないの? お父様とお母様、ルイスは……?」


「……必ず、帰ることができるように、私がしますから」


 いったい、どうやって……?


 現状、王国中に、お嬢様が災厄級の因子であることは広まってしまっている。


 いくら俺が元剣聖とは言っても、力で解決できることには限度がある。


 例え俺がゴーヴェンや聖女を殺したとしても、お嬢様が元通りの生活に戻れるとは限らない。


 一度付いた悪評を覆すのは難しい。それは、前世の自分で理解している。


 はっきり言って、この状況、今までの中でも一番絶望的だ。


 敵を倒せば良いという、簡単な状況ではないのだから。


(この絶望的な状況に、解決策があるとするのならば……)


 ロザレナが災厄級というのは間違いだったと、新たなる聖王が宣言すること。


 それでも多少、ロザレナの悪評は残るかもしれないが、聖王が宣言したことを覆すことのできる人間はこの国には何処にもいない。


 この国をゴーヴェンが実質的に支配したのだとしたら、これしか……お嬢様を救う方法はない。


「いたぞ!! 青紫色の髪……ロザレナだ!!」


 その時。背後から、そう、声が聞こえてくる。


 その声に反応した関所の騎士たちも、俺たちの方へと歩いて来た。


「チッ……! お嬢様、失礼いたします……!」


「え? わっ、ちょ……!?」


 俺はお嬢様を両手で抱え、お姫様抱っこをすると、跳躍して屋根の上へと着地する。


 そして俺はお嬢様を立たせると、【瞬閃脚】を発動させ、手を引っ張りながら屋根の上を飛び交って走って行った。


「アネットの言った通り、奈落の掃き溜めには、何処にも逃げ場はないみたいね!!」


「ここは元々、地上とは違って法律も何もない無法地帯ですから!! 人に害を成すことにためらいのない人間ばかりなんです!! これならば、まだ、上層の方が安全かもしれませんね!!」


 その代わり、上層の方が、聖騎士や剣聖、剣神など、強力な敵ばかりだと思うが。


 とはいっても、関所の番兵に俺たちの存在を知られた時点で、ここに強力な剣士を投入されるのも時間の問題か。


 もう、何処にも……王国に、安全な場所などない。


 俺は屋根から飛び降りると、キョロキョロと辺りを見回す。


 この通りには、人の気配は無いようだ。


 俺は思わず、安堵の息を吐いてしまう。


 すると……その時。俺たちの近くにある建物の扉が、開かれた。


 そこから出て来たのは、先ほどフレーチェルと和気藹々と会話していた、娼婦の女性だった。確か……リーリヤと呼ばれていた娼婦だったか。


 彼女は俺たちと目が合うと、驚いた表情を浮かべる。


 俺はすぐさまお嬢様の手を引っ張り逃げようとしたが、それを彼女は止めてきた。


「待ってください! 私は、貴方たちの敵ではありません!」


 俺は足を止めて、振り返る。


 リーリヤは周囲を確認した後、俺たちに向けて手を招いてきた。


「入ってください」


「……」


 俺は、お嬢様の顔を見る。


 疲れた様子は見せていないが、ここまでずっとお嬢様は走りっぱなしだった。


 休める場所があれば良いが……果たして、罠ではないのか……。


「早く。誰かに見つかる前に」


 俺はその言葉に頷き、お嬢様を連れて、建物の中に入った。


 その建物は、どうやら、娼館のようだった。


 何処からか聞こえてくる女性の嬌声に、ロザレナは顔を真っ赤に染めて、キョロキョロと顔を動かす。


「お嬢様、落ち着いてください」


「わ、わわわ、分かってるわよ!!!!」


 そうして、リーリヤの案内で、二階にたどり着いた俺たちは、彼女の部屋に通される。


 するとそこには、同じく先ほどフレーチェルと仲良く話をしていた、シェリーと呼ばれていた少女の姿があった。


 シェリーは俺とロザレナの姿を確認すると、「げっ」と、声を漏らす。


「リーリヤさぁ……また、厄介な人たち連れて来て……。どうすんの、この子たち。フレーチェルの時とは、訳が違うよ? 奈落中の人間が、今、ロザレナっていう貴族の女の子を探してんだから」


「私は……彼女が災厄級だとは思っていません。そもそも、奈落を地獄に変えた、ゴーヴェンの言葉を信じること自体、おかしいと思うのです。私が信じるのは、フレーチェル殿下とフランエッテ様、そして、ヴィンセント様のみ。そのお二人が、彼女を逃したと聞きました。であるのならば、私も彼女たちの味方です」


「フレーチェルとフランエッテは分かるけどさ。何で、ヴィンセント? あいつもバルトシュタイン家の人間じゃん? 敵じゃない?」


「そ、それは……」


 頰を染め、そっぽを向くリーリヤ。


 その姿を見て、シェリーはハッとした表情を浮かべる。


「そういえば、前にフレーチェルを拾った時に話をしていた、初恋の人って……漆黒の鎧を着ていた騎士だって言っていたけど……え? まさか、あの強面のオッサ……」


「シェリーは黙っていてください! コホン。というわけで、ロザレナさんとメイドさん。私たちは貴方の味方ですので、好きなだけこの部屋に居てくださっても大丈夫ですよ。あ、でも、私がお仕事をする時は、別の部屋に行っていていただきますが……」


「私は別に、味方になったつもりないけど?」


「シェリー!」


 シェリーに向けて頰を膨らませるリーリヤ。


 俺はそんな二人の姿を見て、笑みを溢す。


「ありがとうございます、お二人とも。ご厚意に、甘えたいと思います」


 俺のその言葉に、シェリーは首を傾げる。


「は? あんた、私たちのこと信用するの? 街中敵だらけになっているのに?」


「はい。過去、私は、奈落の娼婦に助けていただいたことがありますから。貴方たちを信じます」


 シエルのことがあるからな。


「ふーん? というか、何か、メイドちゃん、あんた……あんまり上層の人間っぽくないね? 雰囲気がどちらかというと、うちら奈落民っぽい気がする」


「シェリー? それは失礼なのではないですか? 仮にもメイドさんは、貴族のお家に支えている方なのですよ?」


「いえいえ、大丈夫ですよ。気にしていませんから」


 元奈落の住民であることは、間違いないからな。


 俺がそう、リーリヤとシェリーと会話をしていると、ロザレナが立ち上がり、窓の外を見つめた。


 窓の外はまだ午前中だというのに、薄暗くなっていた。


「お嬢様、あまり、窓の外には近寄らない方が良いですよ。貴方様の存在がバレたら、お二人にもご迷惑が……」


「雨が降って来たわ」


 その言葉に外に目を向けると、確かに、ザーッと雨が降り始めていた。


 娼館に匿われたとはいえ……困ったな。


 後で、例の抜け道を使って上層に行くとしても、雨の中歩くのは視界が悪い。


 ここで雨が止むのを待った方が、得策だろうか……?



 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 同時刻―――午前十時。満月亭。


 寮の玄関口には、大量の聖騎士を引き連れた、フォルターが立っていた。


 そんな彼の前に立ちはだかっているのは、腕を組んで仁王立ちしているオリヴィアだった。


 オリヴィアは眉間に皺を寄せて、口を開く。


「ここは、聖騎士養成学校の学生寮です。関係者以外、立ち入りを許可することはできません!」


「いえいえ。ですからね、お嬢様。先ほど、お父上の念話を聞いておられたでしょう? ここは、ロザレナ・ウェス・レティキュラータスが住む学生寮。我らは聖騎士として、災厄級の因子を討伐しなければいけないのですよ」


「ふざけたことを言わないでください!! ロザレナちゃんが災厄級の魔物!? そんなわけないでしょう!! ここは……この満月亭は、私たちの大事なおうちなんです!! 私は監督生として、寮長として、みんなの居場所を守る義務があるんです!! 帰ってください!!」


「仕方ありませんね。多少、手荒になりますが……お前たち」


 フォルターが顎を動かすと、背後にいた聖騎士たちが、寮の入り口へと向かって迫ってくる。


 オリヴィアは拳を構えると、戦闘態勢を取る。


 そして――――――手前にいた聖騎士に向かって、正拳突きを放った。


 【怪力の加護】によって発動された拳は、鎧を砕き、聖騎士の一人は吹き飛ばされ、地面に倒れ伏した。


 その光景を見て、フォルターは目を細める。


「ほう……これが、バルトシュタイン家に伝わる、最強の加護……【怪力の加護】ですか。素晴らしい力だ。ですが、お父上のお話では、オリヴィアお嬢様はこの加護を嫌悪し、他者に使うことを拒むと聞いていたのですが……」


「私は、アネットちゃんと出会って、変わったんです! 大事なものを守るためならば……私はいくらでもこの力を使って戦ってみせます! 私のこの力は、壊すものじゃない! 守るための力だって、学びましたから!」


 オリヴィアの脳内に過ったのは、いつの日かヴィンセントに挑み、アネットを守ってみせた、過去の記憶。


 オリヴィアは覚悟のこもった瞳でフォルターを睨みつけると、声を張り上げる。


「この満月亭は、私たちの大事な帰るべき場所……一歩も、立ち入らせはしません!!」


「――――――――――――そこまでだ。オリヴィア」


 その時。聖騎士たちが道を左右に開け、そこから……ゴーヴェンが姿を現した。


 ゴーヴェンの姿を視界に捉えたオリヴィアは、動揺した様子を見せる。


「お……お父、様……」


「ククク。ようやくお前も、その力を他者に向けて使う脳を得たのか。父は嬉しいぞ、オリヴィア。ようやく、バルトシュタインの娘らしくなったな」


「だ、黙ってください!! 私は、貴方とは違います!!」


「何が違うというのかね? お前も目的のために、暴力を使用したではないか」


「違います!! 私は、この場所を守るために……!!」


「お前に吹き飛ばされたその騎士にも、養うべき家族があった。だが、一度敗北を喫した者に、私はチャンスは与えない。そやつから騎士位は剥奪する。ククク……お前は、暴力によって、一人の騎士の未来を奪ったのだ。自分の目的のために、な。弱肉強食―――この世界は、強者にしか何かを得ることができない。おめでとう、オリヴィア。お前はもう、弱者ではなくなった」


「黙って……!」


「私も、己が目的のためにフィアレンス事変を起こした。私とお前は何も変わらない。同じく暴力を肯定する強者だよ、オリヴィア」


「違う!!!!!!!」


 オリヴィアは跳躍すると、ゴーヴェンに向けて回し蹴りを放つ。


 ゴーヴェンは笑みを浮かべたまま、顔を逸らし、その蹴りを難なく避けてみせると……オリヴィアの顔面を掴み、そのまま地面に叩きつけた。


 そしてゴーヴェンはオリヴィアの顔を見つめて、口を開く。


「迷うからこそ、お前は弱い。お前は素養だけ見れば、バルトシュタイン家の一族でも最たるものだ。先代当主ゴルドヴァークが求めていた武の頂点に至る戦士というのは、きっと、お前のことなのだろう。だが……お前は、誰かを本気で傷付けることに躊躇を覚えてしまう。先ほどお前が傷付けた騎士、本来の【怪力の加護】であれば、腹を貫き、殺していたはずだ。なのにお前は力を使うことに躊躇を覚えた」


「……!!」


「私を本気で許したくなければ……迷うなッッ!!!! でなければお前は何も守ることなどはできないッッ!!!! 中途半端……それがお前が失敗作たる所以だ!!」


「うっ……くぅ……!!」


「まだ、フィアレンス事変の時に私に挑んだ傷がトラウマになっているようだな。訂正しよう。お前はやはり強者などではない。過去に引きずられ、誰も守ることができない、弱者そのものだ。私はお前を侮蔑する、オリヴィア」


 そう言ってゴーヴェンは泣き噦るオリヴィアの顔から手を離し、部下に命令を下す。


「聖騎士たちよ。学生寮の中を隅々まで探すのだ」


 ゾロゾロと学生寮の中に入って行く騎士たち。


 その背中を見守っていたゴーヴェンの背後から、声が聞こえてくる。


「何だ、これは……!? オリヴィア!?」


 学生寮の前に現れたのは、マイスだった。


 マイスは戦意喪失したオリヴィアの元へと近寄ると、抱き起こし、声を掛ける。


「どうしたというんだ、オリヴィア!? これは一体……!? いや、説明など受けずとも理解できることか……!! 奴らはロザレナを探しているんだな……!!」


「マイスウェル王子、か」


 振り向いたゴーヴェンに、マイスは、鋭い目を向ける。


「……ゴーヴェン……!」


「ほう、珍しく道化師の顔を剥いでいるな、神童。いつものヘラヘラした顔はどうした?」


「俺にとって、この満月亭は、どんな場所よりもやすらぎを得ることができる、大切な場所だった。例え……お前が用意した箱庭だったとしても、な」


「ほう……やはり気付いていたのか。流石はマイスウェル王子だ。だが……その箱庭ももう終わりだ。まぁ、舞台から降りた君には、関係のないこともかもしれんがね」


「中には誰もいないぞ。グレイもルナティエもジェシカも、フランエッテもジークも、外出中だ。無論、お前が探しているロザレナも、な」


「そうか。だが、念には念のためだ。生憎、私は人の言葉は信じない主義でね。己が目で見たものしか、信じることはしない」


「……」


 マイスが無言でゴーヴェンを睨みつけ、思案に耽っていた、その時。


 満月亭の中から、ゴーンと、大きな音が聞こえてきた。


 その音を聞いたオリヴィアは、起き上がり、叫び声を上げる。


「やめて……寮を壊さないで……!! ここには、みんなの暮らしているお部屋があるの!! 私たちの大事な思い出があるの!!」


「オリヴィア!! 今はやめておくんだ!!」


 オリヴィアの腕を掴み、引き止めるマイス。


 そんなマイスに、オリヴィアは顔を向け、目にいっぱいの涙を溜める。


「マイスくん……!! 私、また、お父様に大事な居場所を壊されちゃう……!! もう嫌なの……お兄様やギルくん、アリサさんと一緒に過ごしたあの穏やかな日々と同じように、この満月亭も失うって考えたら……!! 私……うっ、ひっぐ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「……ッ!!」


 マイスの胸の中で泣き叫ぶオリヴィア。


 マイスはオリヴィアの肩をそっと抱き、苦悶の表情を浮かべる。


「俺だって……同じだ。ここは、俺にとって、大事な居場所だ。俺にとっても、帰るべき場所なんだ……」


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!」


 泣き叫ぶオリヴィアを一瞥した後、ゴーヴェンは無表情で、満月亭の中へと入って行く。


 荒らされた一階を通り過ぎ、ゴーヴェンは迷いなく3階へと辿り着く。


 そして、ロザレナの部屋を荒らしている聖騎士の一人に声を掛けた。


「いたか?」


「いいえ、どこにも。現在、行き先の手がかりになるものを調査中です」


「急いで探したまえ。国外に逃亡でもされたら、敵わないからな」


「はっ!」


 そう声を掛けた後。


 ゴーヴェンは、向かいにあるアネットの部屋の扉を開けて、中へと入った。


 そして、まだ荒らされてない部屋の一室を確認した後、壁に立てかけてある箒に目を向けた。


「……」


 ゴーヴェンは箒を手に取ると、それを意味深に見つめるのだった。


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ゴーウェンが箒丸を手にとって剛炎箒丸になったか…?!
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