第11章 二学期 第349話 巡礼の儀
「……そうか。フランエッテを殺すことは失敗した、か」
そう言ってエステルは、自分が営む服屋の屋上……隠れ家であるカフェテラスで、テーブルに座りながらカップに入った紅茶を揺らす。
そんな彼女の前に座っているのは、修道服を着た金髪の少女リューヌと、その背後に立つ従者バドランディス。
リューヌはニコリと微笑みを浮かべると、深く頭を下げた。
「申し訳ございません。市民から人気を集めているあの【剣神】を潰すことで、エステル様の采配がやりやすくなることは存じておりましたが、わたくしが仕向けた刺客よりも、どうやら想像以上に彼女の腕が立った様子で。これは全てわたくしの責任でございます。何なりと罰をお与えください」
「僕は殺せとは命じたけれど、端から君が、あの【剣神】をどうにかできるとは思っていなかったよ。ただ僕は、君があの【剣神】の人気を止めることさえできれば、それで良かったんだよ」
「というと……わたくしの実力を試されていた、と?」
「そうなるね。結果は、あまり良かったとは言えないかな。僕の想像した君だったら、君は僕の言葉の裏の意味を読んで、フランエッテの人気を地に落とすような一手を打っていたと思ったんだけど……期待しすぎたかな」
「期待に添えず、申し訳ございません」
「いいさ。生憎、今回の騒動でフランエッテに支持が集まったのは大多数が奈落の民からだ。王国でいない者とされている彼らの支持が集まったところで特に意味はない。次に期待するよ」
エステルのその言葉に、リューヌは「ありがとうございます」と礼を言って立ち上がると、踵を返す。
その背中に向けて、エステルは、声を掛けた。
「―――あぁ、そうそう。君が嗾けた刺客……アルザードと言ったっけ。彼が奈落でフランエッテと戦っている間、君がバルトシュタイン家とオフィアーヌ家の屋敷に侵入して、何かを探していたのは僕も知っているよ。アルザードが暴れてくれたおかげで、警備が手薄になり、ゴーヴェンも王都に出てきてくれたからね。探し物は、見つかったかい?」
エステルのその言葉にリューヌは足を止めると、目を血走らせ、瞳孔を開き、振り返らずに背後にいるエステルを睨みつける。
その見たことがない表情のリューヌを見て、バドランディスは汗をダラダラと流し、顔面蒼白となった。
しかしリューヌはすぐに表情を元に戻すと、口の端を指でぐにぐにとひっぱり、笑みを浮かべて……振り返り、エステルに微笑みを向けた。
「バレていたのですか。流石ですね」
「配下の動きを把握しておくのは当然のことさ。それで? ちゃんと【支配の加護】で操作していた手の者は排除しておいたのかい?」
「ええ。少し勿体無い気もしましたが、ちゃんと処分しておきました。特にオフィアーヌに寄越していた私の配下は、元々、アンリエッタの小間使いをしていた男ですから。彼がベルゼブブの封印を解いたと万が一にでも世間に知られたら、私の能力に勘付いた者が、こちらの暗躍に気付く可能性もあります。なので、早々に消しておきました。勿論、誰の目にも触れられない、自殺という形で、です」
「なら、良いが……リューヌ。ひとつ、君に忠告しておこう。君は、僕の配下となった。ならば、これからは僕の命令に背いて個人的な行動はやめてもらおうか。特に、今回のように手を抜いて自分の目的を優先させるような行動は、今後、控えてもらおう」
「はっ。申し訳ございません」
「それと、君がいったい、四大騎士公の家で何を探していたのかは知らないが……今後は、レティキュラータスの人間に手を出すのはやめてもらおうか」
エステルのその言葉にリューヌは肩をピクリと震わせると、先ほどよりも深い笑みを浮かべる。
「……何故、でしょうか?」
「僕の友人の家……というもっともな理由もあるが、単純に、今、そのような行動を取ってあの人に敵意を持たれるのは困るからだ。詳しくは言えないが、僕にとっても、敵に回したくない人間がいるということだ。もし君が僕の忠告を破り、レティキュラータス家の人間に手を出したその時は……悪いが、僕は君を切り捨てるつもりでいる。さっきの行動で分かっただろう。僕が、超常の天才であるということが。君が何のために僕の陣営に付いたのかは知らないが……下手なことはしない方が君のためだよ、リューヌ。君じゃ、僕には勝てない」
「……」
「僕は、君の行動を読むことができる。初めてなんじゃないのかな? 自分の行動を読まれたということが。君は元々、僕に並ぶ天才だからね」
「……いいえ? もう一人だけ、わたくしの考えを読んできた凡人がいましたよ」
「何だって?」
「何でもございません。エステル様の全てを見通す目、しかと理解致しました。恐らく貴方様は、王子たちの中で一番天才的な頭脳をお持ちの御方なのでしょう。これからはよりいっそう、貴方様が聖王になられるために、尽力して参ります」
そう言葉を残して、リューヌはバドランディスと共にカフェテラスから出て行った。
エステルはため息を吐くと、青い空に浮かぶ太陽を見つめる。
「……ギルフォードと言い、リューヌと言い、どうやら僕の元に集まってくる人間は、僕の言うとおりに動く人間ばかりじゃないようだ。……元気にしているのかな、アネットさん、ロザレナさん。君たちとここでお茶をした平穏な日が懐かしいよ」
そう言ってエステルは、カップの水面に映る自分を覗き込み、苦悶の表情を浮かべた。
「殿下」
その時。リューヌと入れ替わり、聖騎士の鎧を着た……元騎士が姿を現した。
その騎士に対して、エステルは目を細めて声を掛ける。
「フレーチェルは見つかったのかい?」
「……いいえ。王都の中にはどこにも、目撃情報はございません」
「そうか。やはり、彼女はジュリアンに消されたか。まぁ、万が一ジュリアンが仕損じてフレーチェルが生き延びていたとしても、あの箱入り王女には何もできないだろうね。ある意味では……あの子も、聖王家の被害者だな。ただの町娘に生まれていれば、こんなことにはならなかっただろうに」
「殿下は、フレーチェル殿下のことをお嫌いなのではなかったのですか?」
「嫌いだよ。聖王家の人間は全員、嫌いだ。だけど、自分で生きる道を定めることもできず、生まれに左右されているあの子を、憐れに思ったこともある。無論……僕が聖王になったのなら、王族は全員、処刑するけどね。例外はない。いくら憐れみをもったところで、フレーチェルも僕が殺すべき人間だ」
「聖王家を滅ぼし、世界の王族を滅ぼし、この世界で唯一の王となって……世界に真の平和をもたらす……それが、殿下の夢、ですからね」
「あぁ。そうだ。この大陸を僕が統べたその時こそ、この世界から理不尽な現実は消えてなくなる。僕は、聖王でなく、『覇王』となる。……あの日見た、箒で全てを消し飛ばしてみせた、彼女のように」
「彼女……?」
「いや、なんでもないさ。それよりも、君、その手に持っているものはなんだい?」
「あ、そうでした! こちら、セレーネ教の聖女から贈られてきた、書簡でございます!」
「セレーネ教が? 敵対している立場の僕にいったい何の書簡なのかな」
そう言ってエステルは、配下の騎士から書簡を受け取る。
そして彼女はその書簡の中に目を通して……笑みを浮かべた。
「そうか……ようやく、始まるのか」
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「ルクスは……ルクスはいったい、どこに行ったんだ!!」
王城三階。自室の窓際に立ったジュリアンは、苛立ち気味にトントンと革靴で床を叩く。
そんな彼の背後に立っているのは、ゴーヴェンだった。
ゴーヴェンは目を伏せ、微笑を浮かべながら、開口する。
「少し、落ち着かれては如何ですかな、ジュリアン殿下。現在、ルクスの行方は、我が聖騎士団を使って捜索していますので」
「奴がもし、エステリアルに寝返ってみろ!! 我が陣営からフランシアの血を一人、失うことになるのだぞ!? 確か、エステリアルのところもフランシアの配下はいなかったな!? こうなっては……フランシア家のルナティエを我が陣営に入れるしか……いや、もはや落ち目のルクスよりも、新たなる【剣王】になったルナティエの方が有望な血族か……!! くそっ! 巡礼の儀を目前にして、まさかこのようなアクシデントが起ころうとはな……!!」
「殿下。たとえルクスがいなくなろうとも、こちらにはバルトシュタイン家である私と、レティキュラータス家の血族がいます。残すオフィアーヌに関しましては、元聖騎士であるブルーノを誘うのがよろしいかと。彼は元々、アンリエッタを恨んでいた身。私の予想が正しければ、新しく当主となったアンリエッタの娘であるコレットにあまり良い感情は抱いていないはず。当主の座を餌に、勧誘してみればよろしいかと」
「そう、だな。私としたことが取り乱してしまった。巡礼の儀までにオフィアーヌのブルーノ、そしてフランシアのルナティエを勧誘することを念頭に置いておけば良い。……ん? レティキュラータス? レティキュラータスの血族というのは、お前が前から言っていた、分家のオルベルフ家の者か?」
「近いようで、違います。以前から私の配下として育てていたオルベルフ家の元嫡子、元剣王キリシュタットは、剣王の座を奪われた後、私の元を離れましてな。彼はもう、こちらの陣営に付くことはないと思われます」
「だったら、レティキュラータスの血族とは、いったい誰のこと―――」
「失礼致します」
そう言って部屋をノックして入って来たのは……紫色の髪の少女、アイリスだった。
ゴーヴェンの横に立ったアイリスは、ジュリアンに向けて頭を下げる。
「……アイリス・フェイン・オルベルフです。レティキュラータスの分家、オルベルフ家の正当なる後継者です」
「なるほど。キリシュタットとは別のオルベルフ家の人間を引き入れた、というわけか」
「私は……力が欲しいのです。私は、自分の目的ために、ゴーヴェン様の弟子となりました。これからはゴーヴェン様と共に、ジュリアン殿下を支えていく所存です」
「頼もしい限りだ。私が聖王となった暁には、君をレティキュラータス本家の人間として扱おう」
「ありがたき幸せでございます」
深く頭を下げるアイリス。
……その時。部屋の外から、コンコンと、ノックする音が聞こえてきた。
ジュリアンが「入れ」と声を掛けると、扉を開けて、ひとりの聖騎士が中に入って来る。
聖騎士は扉を開けて中に入ると、ジュリアンの前までやってきて、頭を下げながら丸まった羊皮紙を手渡した。
「ジュリアン殿下! セレーネ教からの書簡でございます!」
「聖女殿から、か?」
ジュリアンは首を傾げると、書簡を受け取り、広げて、目を通す。
そして彼は……驚きの表情を浮かべた。
「なん、だと……!? ならば、急がなければ……!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! もう嫌ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅこんな暮らしはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ミレーナはテーブルの上に載っていた書類を全て空中に放り投げ、脱兎の如く、部屋の入り口へと向かって走り出そうとする。
だが……ミレーナがドアノブに手を伸ばした瞬間、扉が凍りつき、動かなくなった。
「――――――【フリーズドライ】。ミレーナ、貴様……何処へ行く気だ」
背後から漆黒の鎧を着たヴィンセントが、ミレーナの頭を鷲掴みにする。
ミレーナはガタガタと震えながら、背後を振り返り、涙目になって吠えた。
「もう、ミレーナさんはこんな生活嫌なんですよぉう、オッサン!! 第一、うら若き乙女を誘拐して勉強漬けにさせるって、犯罪ですよぉう、これはぁ!! 訴えてやるですぅ!!!! 拉致監禁罪、ロリコン罪で訴えてやるですぅ!!!! いくらミレーナさんがロリ系美少女だとしても、オッサンの性奴隷にされるくらいなら、命を賭けてでも逃げてやりますですぅ!!!! 剣神がなんぼのもんじゃごるぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ヴィンセントはミレーナの頭を掴む手に、力を込める。
「ゴミが……ふざけたことを言うなよ? 誰が、ロリコンだ。誰が、お前を性奴隷などにした。お前の膨大な食費にお前の散らかしたものを、一体誰が片付けてやっていると思っている? お前の世話を、誰がやっていると思っている? この穀潰しが」
「ぴぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!! 頭、割れる、割れちゃいますぅぅぅぅぅ!!!!」
「俺は何度も言ったはずだ、ミレーナ。お前が俺の計画に同意した時点で、お前は俺についてくるか死ぬかのどちらかになったと。聖王家の名を偽ったことがバレてみろ? 俺もお前も、処刑されるぞ? 回避するには……お前が聖王になり、逃げ切るしか方法はない」
そう言ってヴィンセントはミレーナの頭を掴んだまま持ち上げ、先ほどまで彼女が座っていたソファーへと放り投げた。
「ぴぎゃう!?」
「お前は黙って、王族の教養、言葉遣い、王家の使用する能力を身につけろ。筆跡も元の汚いままではダメだ。お前はこれから先、他の王族に舐められるような態度を控えろ。繰り返すが……ミスをしたらその時点で死ぬと思え。いいな」
「オリヴィアママはどこですか!? ママに帰って来て欲しいですぅ!!」
「生憎、オリヴィアは学生だ。今頃、学園に通っている」
「ミレーナさんも学生なのですがぁ!? 留年したらどう責任取ってくれるんですかぁ、こんちくしょぉぉぉぉぉ!!!!」
「聖王になったら、もはや留年など関係ないだろう」
「じゃ、じゃあ、お父さんやお母さんが、ミレーナのこと心配しているんじゃないですかぁ!?」
「安心しろ。先日、お前を教育していると言ったら、我々の手ではどうしようもなかったんですと言って、お前の両親に泣いて感謝されたぞ」
「何でですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ミレーナさんを心配してくれる人は、この世に何処にもいないのですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ミレーナが泣き喚いた、その時。
部屋をコンコンと、ノックする音が聞こえてきた。
そのノックに対して、ヴィンセントは目を細め、扉を睨みつける。
「誰だ」
「コルネリアです」
「入れ」
「失礼します」
そう言って部屋の中に入って来たのは……ヴィンセントの秘書であり唯一の腹心、コルネリアだった。
コルネリアは頭を下げると、床にバラ撒かれた書類と、ソファーの上で駄々を捏ねているミレーナを見つめる。
そして、ボソリと、呟いた。
「……ろくでなし」
そう口にして、コルネリアはカツカツと靴を鳴らして、ヴィンセントの元へと歩いて行く。
「今、何言ったですかぁ、この腹黒秘書ぉぉぉぉ!!」
「ヴィンセント様の足を引っ張る貴方のことを言ったのですよ、ろくでなし」
怒り心頭なミレーナを無視して、コルネリアはヴィンセントの前に立つと、丸められた羊皮紙を手渡した。
「これは……何だ?」
「セレーネ教から届いた書簡でございます」
「ほう?」
ヴィンセントは書簡を受け取ると、それを広げて、目を通す。
そして、「ククク」と笑い声を溢して、開口した。
「なるほど。ついに、戦いの時が来た、というわけか」
「どうするおつもりで? 現在、我らヴィンセント陣営には、四大騎士公の末裔はヴィンセント様本人しかおられませんが?」
「ヴィンセント陣営じゃなくて、ミレーナ陣営ですぅぅぅ!!!!」
「そうだな。だが、下手に四大騎士公の末裔を我が陣営に引き入れた結果、俺とミレーナの秘密が他者に漏れても困る。何、時間はあるさ。安心したまえ。こちらにも考えはある」
「はっ。何なりとお命じくださいませ。王政と貴族制を打破し、この国に民主制を敷くために……このコルネリア、ヴィンセント様のために命を賭して働きましょう」
「命を賭してなどと、そんなことを言うな。お前とアレス、セイアッド殿は、俺にとって唯一無二の、本当の俺を理解してくれている存在だ。俺は、この戦いで、誰一人友たちを失いたくはない」
「あのぉ! そこにミレーナさんが入ってないんですけどぉ!! あれれぇ、おかしいですねぇ〜! 失いたくない人リストにミレーナさんが入っていないんですけどぉ!」
ヴィンセントは踵を返し、窓際へと近づく。
そして、空に浮かぶ太陽を眺め、口を開いた。
「……ギルフォード。最初の理解者であったお前を……俺は……止めてみせるぞ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《アネット 視点》
「ねぇねぇ、あれ、新しい【剣王】様たちじゃない!?」
「本当だ!! 全員、四大騎士公の血を引いている方たちなのよね!!」
「でも、あの先頭に立っているのって、確かレティキュラータスの息女なんじゃ……」
「いつまで昔のこと言っているのよ! たとえレティキュラータス家の一族だとしても、【剣王】二番手の実力を持っていることに、変わりないじゃない!」
ロザレナお嬢様とルナティエ、ヒルデガルト……そして従者であるアルファルド、ミフォーリアと共に街の中を歩いていると、学園の中と変わらずに、民衆たちがロザレナたちを見て黄色い声を上げていた。
どうやらレティキュラータス家への印象も……ロザレナの活躍で、変わりつつあるようだな。
子供の頃なんて、冒険者ギルドでレティキュラータス家であることを、お嬢様は散々馬鹿にされていたというのに……あの時とは、大きく、彼女への反応が変わっているな。
ある意味では、手のひら返しとでも言うべき状況だろうか。嬉しい反面、身勝手な民衆たちの反応に、少しだけ辟易としてしまう。
ただ……お嬢様の掲げていた目標のひとつ、レティキュラータス家の復興に近づいていることは、素直に嬉しいな。
「よかったですね、お嬢様。もう誰も、レティキュラータス家の名を馬鹿にしていませんよ」
「……」
「お嬢様?」
肩をプルプルと振るわせるお嬢様の姿に首を傾げた、その時。
ロザレナは顔を上げると、両手を上げて、方向を上げた。
「誰よーーーーーっ!!!! あたしのこと、二番手って言った奴はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「まだ気にしておられたんですか、お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
街の人にも噛みつきかねないお嬢様を羽交い締めにして、何とか取り押さえる。
これは、相当、グレイレウスに僅差で敗北したことを気にしている様子だな……。
まぁ、確かに、自分だったら相当悔しいだろうな、あの負け方は。
とはいえ、敗北は強い剣士になることには必須条件だ。
むしろ今までお嬢様は勝ち続けてきたのだから、たまにはこういった経験も必要だろう。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! グレイレウスぅぅぅぅぅぅ!!!! 絶対にぶっ飛ばしてやるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「まったく。いつまで引きずっているんですのよ、お馬鹿さん」
隣を歩いていたルナティエが、ロザレナの頭をコンと、小突いた。
ロザレナは額を抑えながら、涙目になる。
「あぅぅ……だって、あたし、もう少しで一番になれたのよ?」
「それを言ったら、わたくしだって、もう少しで二番になれた……ですわよ。よろしいですか、ロザレナさん。敗北は、いつまでも引きずってはダメなんですのよ。むしろ、貴方は今まで負けなさすぎだったんですわ。たまにはその悔しさを胸に抱いて、次にどう活かすのかを考えるのも良い機会なのではないかと思います」
「……そう、よね。うん。ルナティエの言う通りだわ」
「まったく。たった一度の敗北で、暴れすぎですわよ。いったいわたくしが何度負けてきたと思っていますの。もう」
そう言ってルナティエは大きくため息を吐いて、前を歩いて行った。
その背中を見て、ロザレナもようやく落ち着きを取り戻して、笑みを浮かべる。
「ルナティエの言う通りだわ。何度負けても、立ち上がらなきゃ、剣聖にはなれないわよね」
そんロザレナに、ヒルデガルトがポンと肩を叩く。
「そうだよ、ロザレナっち。あーしも、ルナティエに負けて、悔しかったけど……これからも頑張って行こうと思っているよ! もう、怠惰な自分には戻らない。やるだけやってみるよ」
ロザレナにウィンクするヒルデガルトに、俺は、声を掛ける。
「ヒルデガルトさんは、あの後、師匠に……ジェネディクトに会ったんですか?」
俺のその言葉に、ヒルデガルトは複雑そうな面持ちを見せる。
「あー……えっと、ね。なんか、あーし、破門されちゃったっぽいんだよね。あはは……」
「え……?」
「ルナティエに負けたことで、あーしから興味を失っちゃったっぽい。ジェネディーおじさん、飽き性なところあるからね。見放されちゃったのかなぁ」
まぁ……あのジェネディクトが、長く弟子を持つことは考えられなかったが……。
「でもでも、あーし、おじさんにまた認めてもらえるように、これからも剣を頑張っていくつもりだから! アネットっちも応援していてよね! よろよろー!」
そう言って横ピースをすると、ルナティエの元へと小走りに走って行くヒルデガルト。
二人だけとなった俺とロザレナは、ヒルデガルトの背中を見て、会話を交わす。
「まぁ、あのジェネディクトがヒルデガルトさんの面倒を見るなんて想像できなかったから、当然っちゃ当然の流れかもしれないけど……ちょっと可哀想ね、ヒルデガルトさん。これからは独学でやらなきゃいけないわけでしょ?」
「そう、ですね。ですが……私が意外だったのは、ジェネディクトが、興味を失ったヒルデガルトさんを殺さなかった点ですね。ルナティエに敗北したことは、ある意味、自分の顔に泥を塗られたことにつながります。幼い頃に出会ったジェネディクトならば、間違いなくヒルデガルトさんを殺したと思います。それなのに……あの男は、彼女を見逃した」
「確かに……でもそれって、ヒルデガルトさんが貴族だからなんじゃないの? 殺したら面倒事になるから、避けただけなんじゃない?」
「その線もあり得ると思いますが……」
何となく、そうじゃないような気もする。
まったく想像できない話だが、まさか、あのジェネディクトが、何だかんだ言ってヒルデガルトを気に入っていた……とかか?
確証はないが……あいつがエステルのことを自分と重ねて見ていたところを見るに、そういった変化も、あるのかもしれない。
「何やってんの、二人ともー! 早く行くよー!」
ヒルデガルトが手を振って、道の先でルナティエと共に待っていた。
その光景を見たロザレナが、隣に立っている俺に声を掛けてくる。
「行きましょう、アネット」
「はい、お嬢様」
そうして、ロザレナの後をついて行こうとした……その時。
背後から、声を掛けられた。
「……先代オフィアーヌ伯」
振り返ると、そこにいたのは、深くフードを被った男性だった。
その顔は……何処かで見た覚えのあるものだった。
「貴方は……?」
「私の名前は、グリウス。どうか、私と共に来ていただきたい」
グリウス。それは、フレーチェルの配下だった騎士の名だ。
「どうしたの? アネット?」
背後から疑問の声を投げてくるお嬢様。
俺は数秒程思案した後、振り返り、お嬢様に向けて口を開いた。
「お嬢様。急用ができたので、先に行っていてください。後で必ず合流いたします」
「? そう? わかったわ。後で必ず詰所に来なさいよね!」
そう言って、ロザレナたちはルナティエとヒルデガルトに合流して、去っていった。
俺は顔を正面に向けて、口を開く。
「私を呼び出したのは……フレーチェル殿下で、間違いありませんね?」
俺のその言葉に、グリウスはコクリと、頷くのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……まさか、剣王になって、すぐに……このような事が起こるとはな」
聖騎士団詰所――――――――――改め、剣王たちの居留地。
かつて元剣王たちが会議をしていたある一室で、グレイレウスはテーブルに広げた羊皮紙を見つめて、眉間に皺を寄せていた。
その羊皮紙には、こう書かれていた。
次代の聖王を決める戦い、巡礼の儀の開催日程とルールについて―――――と。
読んでくださって、ありがとうございました。
今日は皆様にご報告がございます。
何と! コミカライズ版剣聖メイドの発売日が、決定致しました!!
3月25日発売みたいです! 自分も昨日xの告知で初めて知りました!笑
コミック1巻は、ジェネディクト編にあたります!
ここまで読んでくださっている方には、懐かしいお話だと思います!
新しい感覚で読めるかも? モブキャラでルーベンスや、アンナやミレーナなどが出てくるので、先を知っている方もニヤリとできるかも知れません!笑
以前も書きましたが、この作品の継続の要が、このコミカライズの売れ行きにかかっています。WEB版もちゃんと終わらせたいですし、書籍版も暴食の王編まで出して、綺麗に終わらせたいです。(書籍のロザレナは去年の八月からずっと寝たきり状態です笑 アネットが薬草を探しに行くエンドです。このまま終わるのは、釈然としません)なので……どうか、コミカライズのご購入、本当にお願い致します……!
コミカライズのおまけ、書き下ろし小説には、WEBでも書籍でも明かされていないアネットが0歳〜10歳本編に繋がるまでのエピソードも収録しております。
WEB派の方にも、後悔させない出来に仕上げることができたと思いますので……コミックのご購入、よろしくお願い致します。スライディング土下座。
剣聖メイド コミカライズ版 ↓
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ほぼ打ち切り状態となっている書籍の応援も、よろしくお願い致します。
書籍4巻にはWEB版にはない、ロザレナがある未来を見たエピソードがあります。
その未来のエピソードに、段々と、本編が近付いて来ています。
WEB版もより楽しめる出来となっていますので、書籍版もよろしくお願い致します。
1巻→ジェネディクト編
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2巻→ルナティエ&ディクソン編
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3巻→ヴィンセント編
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4巻→学級対抗戦編(シュゼット編)
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5巻→暴食の王編まで出したいぃぃぃぃ!!!!(願望)
6巻→マリーランド編は高望みなので、ほぼ諦めです笑
皆様、どうか剣聖メイドの応援のほど、よろしくお願い致します!




