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第10章 剣王試験

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第10章 二学期 第327話 剣王試験編ー㊺ 雷光のヒルデガルト


《ヒルデガルト 視点》




『―――良いかしら、ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリン。魔法因子の12属性の中で、最も攻撃力が高く、最も速度のある属性は、雷属性なのよ。おめでとう。貴方は雷属性の魔法因子を持っている時点で、他の魔法剣士よりも一歩先をリードしているわ』


 そう言って、ジェネディーおじさんは、クスクスと笑った。


 夕陽が照らす王都の路地裏。あーしは素振りを止めると、おじさんへと疑問の声を返す。


『おじさんは、あーしが雷属性を持っていたから、あーしを弟子にしてくれたの?』


『雷属性魔法因子を持っている人間なんて、ざらにいるわ。それだけで貴方を弟子にするほど、私は酔狂な人間ではないわよ』


『じゃあ、なんで……』


『素振りを止めるなら、稽古は、ここまでにしようかしら』


『あ、ごめん! 続けるから!』


 あーしは意識を集中して、剣に、電気を走らせる。


 そして電気を纏ったまま、剣の素振りを再開させた。


 そんなあーしを眺めながら、背後に立つおじさんは続けて、口を開いた。


『貴方……顔には出していないけど、それ(・・)、かなりの痛みを感じているでしょ』


『え……?』


『雷の魔法を放つだけならば、才能がある人間なら誰でもできるでしょうねぇ。だけど、剣に雷を纏うとなるとそうはいかない。炎だの氷だの風だのを剣に纏う魔法剣士はいるけど、こと雷属性魔法の魔法剣士っていうのは殆どいないのよ。それは何故か。刀身に電気を走らせれば……己にも、痛みが発生するからよ』


『……おじさん、分かってたの? あーしが剣に雷を纏ってみせた時、痛みを我慢してたことが』


『クスクス……無知とは恐ろしいものねぇ。誰にものを言っているのか分かっていないのだもの』


『……え?』


『何でもないわ。とにかく、貴方は、一切苦痛を表に出すことなく、剣に雷を纏ってみせた。生半可なことでできることじゃないわ。今まで私以外で、それをできた人間は殆どいなかった。だから私は、貴方を拾ってみることにしたの。……ひとつ、問いを投げるわ。貴方は何故、その痛みに耐えることができたのかしら? 復讐? それとも、怒り? クスクス……貴方は私と同じで、痛みを堪えるほどの何かを、持っていたのかしら?』


『……こんな痛み、今まで痛みに耐えて生きてきた友達と比べたら、大したことがないと思ったから……』


『……はぁ?』


『あーしは、今まで、何かに本気で挑んだことがなかったの。適当に生きて行ければそれで良いって思ってた。だけど……それじゃ大事なものを守ることができないって、気付くことができた。あーしはね、守るための力が欲しいんだ、おじさん。そのためなら、こんな痛み……本当は泣きそうなくらい辛いけど……平気だよ』


 おじさんは唖然とした様子で固まった後、大きく、ため息を吐いた。


『……まさか、私が感じたあの痛みを、平気な顔で耐えてみせる剣士が……人を守るために耐えていただなんて、ね。くだらない。不愉快ねぇ、貴方』


『え? おじさん? ご、ごめん。何かよくわかんないけど、怒ったのなら謝るよ!』


『手、止まっているわよ』


『あ、ごめん! えい! えい! そりゃ!』


『ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリン。私がこれから貴方に教える【雷鳴斬り】という剣技は、二段階の強さを持つ技よ。一、雷を纏い、斬りつけた者の身体に電撃を奔らせる。二、雷を剣に纏うことで、迅雷の如く速さで剣を振ることができる。貴方は、速剣型並みの剣速を得ることも可能になるのよ』


『剣速……? 剣の速さって、意味あるの? 素早く動けるのが速剣型なんじゃないの?』


『はぁ……速剣型というのはね、大きく分けて三種類の剣士がいるのよ。一人目が、貴方の言う、素早く動くことに特化したスピードタイプ。大森林で出会った、グレイレウスとかいうガキはこれに当たるかしらね。二人目が、剣の速度……攻撃に転じる剣の速さに特化した剣速タイプ。これは、居合を得意とする剣聖リトリシアや先々代の剣聖アレス・グリムガルドが当てはまると思うわ。とはいえ、あのレベルの剣士は、歩法もできるだろうから……純粋な剣速タイプとは思えないけど。三人目が、隠密タイプ。気配を殺して相手の傍に近寄り、必殺の一撃を与えるのが得意なタイプね。基本、隠密タイプは、スピードや剣速タイプに比べて、速さは無いとされているけど……』


『けど?』


『恐らく、隠密タイプであるジャストラム・グリムガルドは、歩法も剣速も得意でしょうね。伝え聞く話が本物ならば、だけど』


『えー、どの人も結局全部得意なんじゃん……』


『上位の速剣型の剣士になればなる程、その色は強くなるわ。だからこそ……貴方は、魔法剣型だけを目指すのではなく、速剣型も目指しなさい』


『なんで!? あ、もしかしてあーしってば、速剣型の才能もあったり……』


『ないわね。貴方、どこからどう見ても純粋な魔法剣型よ。少しだけ、剛剣の才能もありそうね。少しだけだけど』


『じゃあ、何で……?』


『貴方が、剣に雷を纏うことができるからよ。さっきも言った通り、雷属性の剣技を使うことができる者は、自然と剣速を上げることができるの。これに加えて、速剣型の歩法を習得できれば、普通の速剣型(・・・・・・)よりも、速度を上げることができるのよ』


 その言葉に、あーしは、ポカンと口を開けてしまう。


 よく分からないけど、こういうことなのかな?


 雷属性の魔法剣士が速剣型の技を覚えたら、速剣型だけを極めている人よりも、早く動けるってことなのかな?


『良い? 魔法剣を主体にして戦って行くつもりならば、基本、他の型を必ず習得しなければいけないの。何故だか分かる?』


『……魔法剣による攻撃の命中率を上げられるから?』


『半分正解。もう半分は、魔法剣型は紙装甲故に、防御力や回避力が必要になるということ。補助魔法という手もあるけれど、あんなの上位の剣士になれば気休めも良いところよ。闘気や速度を前にしては、太刀打ちできなくなる。だから魔法剣士は、常に工夫して戦っていかなければいけない』


 魔法剣型は、色々と考えて戦っていかないといけないってことなのかな。


『―――だから私は、速度に賭けることにした。雷属性魔法を極めて、身体を雷の如く速さで動かし、補助魔法と魔道具で速度をバックアップ、そして……雷属性の魔法石で造られた双剣を持って、王国最速の力を得た。まっ、今の王国で最速というだけで、過去の剣士に比べたら……分からないけれどね』


『へぇ……王国最速……ん? 王国……最速……?』


『また、手、止まっているわよ?』


『あ、ご、ごめんなさい! そりゃ、えい! そりゃ! えい!』


 剣を素振りする度に、全身にビリビリッと、刺すような痛みが奔る。


 正直、すごく痛い。今すぐ剣を捨てて逃げてしまいたい。


 だけど……本気でやるって決めたから。今度はあーしが友達を守るって決めたから。


 こんな痛み、何とも無いよ。


『……フフフフ。さて……あの化け物メイドの弟子と、この子を戦わせて、どこまでやれるのか……見物ね。どうせだったら、グレイレウスとかいう速剣型の弟子と戦わせたいわねぇ』


 おじさんが背後でわけのわからないことを言っていたけど、よく分からなかったので、無視してあーしは素振りを続けた。




 回想を終え―――あーしは目を開く。


 目の前にいるのは、こちらをまっすぐと見つめるルナティエ。


 ルナティエのその目には、あーしが映っていない気がする。


 ……ムカツク。きっとあいつは、この期に及んで、ロザレナっちのことしか考えていない。


 分からせてやる。あーしがどれほど強くなったのかを。


 この一か月半、痛みの中で鍛えたあーしの剣を、ルナティエに叩き込んでやる。


 あーしこそが黒狼(フェンリル)クラスの副級長に相応しいって、分からせてやる!



「―――0! 試合開始です!」


 司会者のその言葉同時に、ルナティエは腰にある鞘からレイピアを抜くと、ヒュンと空を切り……眼前に真っすぐと構えた。


「箒星、三番弟子。ルナティエ・アルトリウス・フランシア。騎士の礼に則り、貴方をここで倒しますわ、ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリン」


「……!! 絶対に……あんたを剣王にはさせないから……勝つのは、あーし!! あーしは剣王になって、黒狼(フェンリル)クラスの副級長になって……ベアトリっちゃんや弱い立場の人たちを泣かせない世界を創る!!」


 あーしはそう叫んで腰にある鞘からサーベル剣を抜くと、そのままルナティエの元へと走って行った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






《ルナティエ 視点》




「ルナティエぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 ヒルデガルトさんはそう叫ぶと、剣に手を当て、こちらに向かって走って来た。


 彼女は純粋な魔法剣型。アルファルドと戦っているところを見るに、剛剣型や速剣型の技は持っていないように思える。


 対してこちらはオールラウンダー。魔法剣型が弱点とする闘気による攻撃が可能。


 戦況的には圧倒的にわたくしの方が有利なのは明白。


(……だからといって、慢心はしませんわ。慢心は足元を崩すもの。わたくしはどんな相手だろうとも、確実な手を持って相手を降す)


 体力は温存する。手の内も極力、ロザレナさんには明かさない。


 それでいて、ヒルデガルトさんも手早く片付ける。


 難しいようですが、問題ありませんわ。


 わたくしに、不可能はありませんもの。


「―――【水流・烈風裂波斬】」


 わたくしはレイピアを逆手に持ち変えると、ヒルデガルトさんに向けてヒュンと一閃、水の斬撃を放った。


「……っ!?」


 ヒルデガルトさんは急ブレーキをかけると、横に逸れて、寸前でその斬撃を避けてみせるが……わたくしは逆手を順手に持ち変え、再び斬撃を放っていく。


「ま、また……!?」


 ヒルデガルトさんは剣を横に構えて防御の構えを取り、水の斬撃を防ごうとする。


 水の斬撃がヒルデガルトさんの剣に直撃すると、ガァァァンと音が鳴り、彼女は後ろへと押されていった。


「な、なに、この威力……!?」


「まだまだ、終わりませんわよ」


 わたくしは再び逆手に持ち変え、斬撃を放つ。


 その後は純手に持ち変え、斬撃を放つ。


 連続して水の斬撃を何度も、ヒルデガルトさんに向けて放って行く。


 低威力である【烈風裂波斬】でも、ヒルデガルトさんは動くことはできない様子。


 これがロザレナさんならば気にせず突進してくるのでしょうが……闘気を持たない彼女に、そんな真似はできない。


 15発程放ち終えると、ヒルデガルトさんは全身水でびしょぬれになりながら、ゼェゼェと荒く息を吐いていた。


 その身体は水圧の刃によって傷だらけとなっており、制服もボロボロになっていた。


「くっ……! 何なの、これ……! あーし、前に出ることもできなかったんだけど……!」


「それがわたくしと貴方の実力の差、というわけですわ」


「はぁ!? ふっざけんな!!」


 そう叫んで、ヒルデガルトさんは再び剣に手を当てた。


 恐らくは、剣に雷属性を付与しようとしているのでしょう。


 ですが、それは――――――。


「お馬鹿さん。学級対抗戦の時に、わたくしがどうやってアルファルドを降したのか……覚えていないんですの?」


「……え? ぐっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」


 ヒルデガルトさんが剣に雷属性魔法を付与した、その時。


 彼女の全身に電気が奔り、ヒルデガルトさんは感電した。


 彼女は叫び声を上げた後、ガクガクと身体を震わせて、よろめく。


 地面に剣を突き刺して杖替わりにすると、ヒルデガルトさんは長い前髪の下から、わたくしに向けて鋭い眼光を見せた。


「はぁはぁ……水属性魔法の斬撃をあーしに放ってきたのは……ダメージを与えるためじゃなくて……これが狙いだったってわけ……?」


「ええ。アルファルドとの戦いで、貴方が雷属性魔法による攻撃を主体にしていたのは分かっていましたから。わたくしが扱う魔法剣は、水属性。普通に考えれば、わたくしの方が相性悪いと思いますでしょうが……こういうふうに、逆手に使うこともできる。これで貴方の雷属性魔法は封じられた。これから先、貴方は雷を剣に纏う度に、先ほどのように感電してしまうことでしょう」


「まさか……あーしが、あの時と同じ手法でダメージを与えられるなんて、ね」


 額の汗を拭い、地面に突き刺した剣を抜くと、ヒルデガルトさんは再び剣に手を当てる。


 わたくしはその光景を見て、眉を顰めた。


「貴方、お馬鹿なんですの? また、感電ダメージを喰らいますわよ?」


「うるさい。これくらいの痛み……我慢できるから。いや、我慢しなきゃ、あんたを倒せないから」


 そう言ってヒルデガルトさんは剣に雷を付与した。


 バチバチと青白い雷が剣に奔ったのと同時に、ヒルデガルトさんの身体にも電気が奔る。苦悶の表情を浮かべるが、彼女は地面に強く足を踏みつけ、咆哮を上げた。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 そして「はぁはぁ」と荒く息を吐くと、彼女はこちらに向けて、闘志を向けてくる。


「……感電の痛みを……耐えて、みせた……?」

 

「【雷光(ライトニング)】」


「!?」


 その時だった。一瞬にして、ヒルデガルトさんが目の前から消え去った。


 彼女は、歩法の構えを取ったわけでもない。


 これは、【縮地】でも【瞬閃脚】でもない。


 これは――――――魔法による、速度強化……?


「【雷鳴斬り】」


 その声が聞こえたのと同時に、わたくしは背後を振り返り、上体を後方へと逸らした。


 わたくしの目と鼻の先に……雷を纏ったサーベル剣が、するりと過ぎていく。


 わたくしは即座にレイピアに闘気を纏い、ヒルデガルトさんへと向けて剣を突く。

 

 ヒルデガルトさんの顔に向かって伸びていく剣の切っ先。

 

 しかし、その顔に、恐れの色はなかった。


「【雷光(ライトニング)】」


 再び、青白い光の線を残して、ヒルデガルトさんは目の前から消え去った。


「今のは……何なんですの……!?」


 「【雷光(ライトニング)】」だなんて魔法、聞いたこともありませんわ。


 あのような雷属性魔法による速度強化の魔法など……わたくしは知りません。


 一か月前のヒルデガルトさんは、クラスでも目立たない能力値であったはず。


 それなのに、ここまで魔法剣士として成長しているということは……彼女に剣を教えた師は、恐らく、名だたる魔法剣士なのでしょう。


「【サンダーエッジ】」


 瞬く間にわたくしの傍へとやってきたヒルデガルトさんは、わたくしに向けて、電気を纏ったハイキックを放ってくる。


(速い……!)


 縮地で回避するには、間に合いませんわ……! ここは―――!


 わたくしは左腕に闘気を纏うと、その蹴りを防いでみせた。


 蹴りの威力は大したことはありませんが……闘気を纏った腕に奔った雷で、わたくしの身体はビリビリと感電してしまった。


「ぐぅぅっ!!!!」


 わたくしは即座に後方へと下がり、腕を確認する。


 腕はびくびくと痙攣し、指全体が痺れていた。


 わたくしの闘気では雷魔法による攻撃を完全に防ぐことは難しい、ということ……ですか。


 チラリと前を見てみると、ヒルデガルトさんは自分の足を押さえて、跳ねていた。


「い、いったぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 何、これ!? 足が鋼鉄のように硬かったんだけど!! これが、闘気って奴なの!? 痛すぎなんですけどぉー!!」


「痛み分け……ということですの」


 わたくしは左手をグーパーグーパーと開いては閉じてみる。


 まだ痛みは残っていますが、指の痺れは取れてきていますわ。


 ですが、あの一瞬触れただけでこのダメージとは……なかなかにやばいですわね、あの魔法。


 ヒルデガルト・イルヴァ・ダースウェリン……想像していたよりも、厄介な力を持っていますわ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《フランエッテ 視点》





「これで、奴は完全に……息絶えたかの」


 妾は額の汗を拭い、ふぅと息を吐く。


 目の前にあるのは、ガラクタの山と、その下から滴る青い血の姿。


「青い血……やはり人間じゃなかったのか、こやつは……」


 自分がしたこととはいえ、なかなかにグロイ光景じゃの、これ……。


 だが、このまま奴が王都で暴れれば、多くの人々が死ぬ可能性があった。


 誰かを殺す覚悟など、妾にはまだなかったが……それでも、こやつを止めねばならないと、妾がやらなければならないと、そう思った。


 剣聖や剣神、剣王たちは今皆、王都郊外にある詰所におる。


 じゃから、妾以外に、この男を止められる者はいなかったのじゃ。


 これは、仕方のないことだったのじゃ。


 妾はガラクタの前に立ち、死したアルザードへと言葉を掛ける。


「このような殺し方をしてしまって、すまなかった。だけど、妾は、何としてでもお主を止めねばならなかったのじゃ。妾は、エルルゥと約束したのだから……この世界の人々に、笑顔を取り戻すと。だから……ん?」

 

 その時。ガラクタの下にある血だまりが、前方へと向かって動いて進んでいるのが見て取れた。


 妾は、血の向かう先へと視線を向けてみる。


 するとそこには……両手を無く上半身だけとなったアルザードが、ズルズルと地面を這っている姿があった。


「なっ……! お主、どうやってあの場から生き伸びておったのじゃ……! というか、よく、その状態で生きておるの!? 腸がはみ出ておるのじゃが……おえっ、グロすぎて吐きそうなのじゃ……」


「アァァァァ……血……血ィが足りぬゥゥ!! ウボォォアァァァ!! この我輩が、あのような異端者如きに殺されるわけがヌァアアイ!! 何なのだ、この状況は……何なのだ、今の我輩の姿はァァァァアア!! 夜……夜にさえなれば、我輩は不死身……だというのに……今はお日様が燦々ではないかァァァ!!!! うん、今日は布団干し日和だね、お母さん!!」


妾はアルザードの傍へと近寄ると、傘から仕込み剣を抜き、構えた。


「悪いが……トドメを刺させてもらうのじゃ。お主はきっと、また、無辜の人々を傷付けるであろう? お主は人間たちを餌だと、そう言い切った。だから妾は……お主をここで仕留めなければならぬのじゃ。人々の安寧のために……」


「ふざけるなァァァァァァァ!!!! 異端者風情がァァァァァ!!!! 我輩は百年以上生きる吸血鬼アルザード・ハイゼンベルクだぞぉぉぉぉぉぉ!!!! お馬さんだぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!! そう、我輩は、実はお馬さんだったのだ。疾走することこそ我が悦び。ぱからぱからひひーん!!」


「は? いったい何を言って……」


 その瞬間、突如アルザードの胴体から馬の足が生え、奴はなんと足だけで……地面を駆け始めた。


 妾はその光景を見て、思わず「は?」と、呆けた声を溢してしまう。


「血だ……大量の血を欲するゥゥゥゥゥゥ!!!! 治癒が間に合わぬぅぅぅぅぅ!!!! ぱからぱからひひーん!!」


 そう叫ぶと、アルザードは両足だけで壁を器用に伝い、屋根へと登って行った。


 妾はポカンと口を開けて固まった後、ブルブルと首を横に振り、奴を追いかけるべく道を走って行く。


「くっ! 今度は妾が追いかける番か!! 何なのじゃ、あやつは!! なんで下半身がないのに生きていられるのじゃ!? そういえば、あやつ、血を欲するとか言っておったな……? 誰か、他の人間を喰らうつもりか!? 全快されたら今度こそ不味いのじゃ!! 妾じゃ、不意打ち以外であやつを倒せる気がしないのじゃぁ!!!! 待つのじゃ、変態馬―――!!!!」


 そう叫んで、妾は、アルザードを追いかけて行った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「血……あっちに、大量に弱った人間の気配を感じる……」


 屋根の上に乗ったアルザードは、王都の堀の下……奈落の掃き溜めを見つめ、ニヤリと、不気味な笑みを浮かべるのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《アネット 視点》




 「これは……いったい、どういう状況ですか……?」


 王都に辿り着いた俺は、城門前の通りの露店が荒らされている姿を見て、ゴクリと唾を呑み込む。

 

 露店の周囲には、闘技場でアルザードという男が放っていた……血の槍のようなものが突き刺さっていた。


「アネットちゃん、待ってよ! そんなに急いでどこ行くのー!?」

 

 後ろからついてきたラピスが、荒く息を吐きながら俺に声を掛けてくる。


 ラピスの奴、ついてきたのか……正直、彼女の存在はフランエッテを助けようとしている俺にとって邪魔になる。


 何処かで上手く逸れることができたら良いのだが……。


 今は、周囲から状況を聞き出すことが先決か。


 俺は壊れた露店を補修している店主のおじさんに、声を掛けてみた。


「すみません。ここでいったい、何があったのでしょうか?」


「ん? あぁ……何か、街中で暴れている変質者がいてな。それを、剣神フランエッテ様が、止めてくださったんだよ」


 やはり、この光景は、フランエッテを襲ったアルザードの仕業というわけか……。


 続いて、店の近くにいた親子が、口を開く。


「フランエッテ様は、私の子供を救ってくださったのですよ。ね?」


「うん! フランエッテ様は、やっぱりこの街のヒーローだよ!」


 俺は目を輝かせる子供にニコリと微笑みを浮かべた後、母親へと顔を向ける。


「すみません。フランエッテ様がどちらの方向へ向かったのか、お分かりですか?」


「えっと……あっちの方だったかしら?」


「ありがとうございます」


 俺は頭を下げた後、母親が指さす方角へと、走って行った。


「ま、また走るの!? 待ってよ、アネットちゃん!」


 とりあえず、追ってくるラピスは、無視しておこう。


読んでくださってありがとうございました。

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