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【コミック1巻3月25日】最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!
第10章 剣王試験

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第10章 二学期 第321話 剣王試験編ー㊴ メリアVSキールケ/リトリシアの疑惑

《キールケ 視点》



 ……私、キールケ・ドラド・バルトシュタインは、産まれた時から、誰からも期待されていなかった。


 物心付いた時から、私の上には、バルトシュタインの恵まれた戦士だけが受け継ぐ怪力の加護を持って産まれてきた姉がいたからだ。


 周囲は姉を次期当主だとちやほやしていたが、姉の性格は、戦士には向いていなかった。


 姉オリヴィアは、誰かを傷付けることに酷く怖がる、臆病な性格をしていたからだ。


 どんな訓練を受けてもすぐに泣き、戦いから逃げ出す始末。結果、父から見放され、次期当主候補は兄ヴィンセントと末妹キールケとなったのだった。


 姉は、その得意な力のせいで、母から恐れられていた。姉は赤子の頃から母に抱き付き、何度も骨を折ったのだという。母が姉を見る目は、化け物のそれだった。


『……うぇーんうぇーん』


 父からも見放され、母からも化け物として扱われる。姉は、バルトシュタインの家で一人だった。


 私はその姿を見て、少しだけ、優越感に浸っていた。だって、歴代バルトシュタイン家の当主が受け継ぐ加護を持っていたとしても、姉は、魔法剣の才しか持たない私やヴィンセント兄様と同じ、失敗作だったからだ。


 父は私たち兄妹にもう、期待はしていない。なら、皆、スタートラインは同じだ。私だって当主になることはできるはず。


『姉様。何をそんなに泣いているのですか?』


 幼い私はそう、俯く姉に声を掛けた。


 最初は、この人は私と同じ存在だからと、同情的に声を掛けたのだと思う。自分より下の存在に接することで自尊心を満たしたかったのかもしれない。


 私は姉に手を差し伸べ、こう言った。


『姉様。私たち兄妹は皆、失敗作です。祖父ゴルドヴァークが求めていた、剛剣、速剣、魔法剣の、全ての素養を持つオールラウンダーの戦士は産まれて来なかった。でも、別に気にすることなないですよ。このキールケちゃんが、祖父の求める、アーノイック・ブルシュトロームを超える最強の戦士を目指しますから』


 だからお前はもう、当主になるなと、そう言外に伝えていた。


『キールケちゃん……』


 姉は、私が慰めてるのだと思ったのだろう。おめでたい頭をしている女。


『キールケちゃんは、優しいんだね。ありがとう。情けないお姉ちゃんでごめんね』


『別に。私が優秀になればそれで――――ぐっ、ぎゃあああああ!!!!』


 姉に手を掴まれた瞬間、私の腕が潰れた。


 私はぐちゃぐちゃになった腕を抱き、怯える姉に向けて鋭い目を向ける。


『キ、キールケちゃん、ご、ごめんなさい、私、そんなつもりじゃ……』


『近寄るな……この、化け物ッ!! 結局、お前も私を敵と見ていたというわけね!! よくも騙しやがって!! あーもう、ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁ!!!!』


 結局、誰かに歩み寄れば、こうなるんだ。


 バルトシュタイン家の教えは、正しい。


 孤高こそが己を強くする。他者に依存をするな。依存すれば、頼ることを覚え、己で解決することができなくなる。他者との関わりを持とうとする時点で、その者は強くはなり得ない。


 この日、私は、バルトシュタインの教えを忠実に守っていこうと誓った。


 オフィアーヌ家の子息と友人になった兄や、戦いは嫌いだと甘えたことを言う姉には、絶対に負けない。


 祖父ゴルドヴァークの想いを……バルトシュタイン家の思想を正しく受け継ぎ当主となるのはこの私、キールケだ。


 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「えー……謎のアクシデントは起こりましたが……皆様、ご安心ください! 暴走したクラウザー選手を追ったのは、災厄級を討伐した剣神フランエッテ様です。必ずや、捕まえて、観客に手を出そうとした罪を清算してくださるでしょう。では、引き続き、剣王試験を再開いたします! 第一試合は、不戦勝で、グレイレウス選手の勝利です! 皆様、拍手をお願い致します!」


 未だ何が起こったのか分からない観客たちは、唖然とした様子で、パチパチとまばらな拍手を鳴らしている。


 その光景にグレイレウスは「フン」と鼻を鳴らすと、踵を返し、闘技場から降りていった。


「くだらん。まさか、あの男、オレではなくあの手品師に突っ込んで行くとはな。第三次試験開始早々、不愉快甚だしい話だ」


 そう言って受験生たちの元に戻ると、ロザレナがグレイレウスに声を掛ける。


「災難だったわね」


「フン。まぁ、体力を温存できたと捉えれば、悪くはないだろう。それにしても、何故、あの不気味な男は手品師を追いかけていたのか。奴の知り合い……のようには、見えなかったがな」


 グレイレウスのその言葉に、ルナティエが近寄り、口を開く。


「恐らく、フランエッテは知らなくとも、あの男の方は彼女を知っていたのでしょう。見る限り、相当、フランエッテに対して怒っていたようですからね」


「あいつ、知らない間に誰かから恨みを買われていたのかしら。まぁ、アネットが行ったから、大丈夫だとは思うけど」


「フン。あのアホ手品師がどうなろうと、知ったことではない。こんな目立つ場で、師匠(せんせい)の手を煩わせて……許せんな」


 腕を組み、チッと舌打ち打つグレイレウス。


 そんな彼に、ロザレナは首を傾げる。


「グレイレウス。前から思ってたけど、あんた、フランエッテに対してかなり辛辣よね?」


「まぁ、大方、剣神の座を奪われたからでしょう。そうですわよね、グレイレウス?」


「……それもあるが……オレは、あの女がどういう剣士なのかを、まったく知らない。師匠(せんせい)が認められて弟子としたことについては、オレが口を出すべきところではないだろう。だが……オレ自身は同じ門下として、まだあいつを『箒星』に相応しい剣士であるか、見定めることができていないのだ。もし、あの手品師が師匠(せんせい)に害を催すような存在であるならば……師匠(せんせい)には悪いが、オレが秘密裏に排除する予定だ」


「うげぇ、相変わらずの信者っぷりね……って、そういえば、あんた……ルナティエが弟子になった時も、最初、ものっすごく反対していたわよね? それがいつの間にか、ルナティエについては弟子であることに何も言わなくなっていたけど……それって、今は、ルナティエを同じ門下生であることを認めたってことなのかしら?」


「そういえば、そうですわね。最初、わたくしを危険視して、この女は弟子にしない方が良いと、師匠に言っていましたわよね、貴方」


「フン。お前はマリーランドで己の弱さを乗り越え、力を示してみせた。それに、悔しいが……お前はオレたち3人の中で、一番、師匠(せんせい)に頼られている存在だ。民を救おうとしているところも、我が門下に相応しい思想といえるだろう。師に必要とされている『箒星』に相応しい弟子を、オレ個人の好き嫌いで反対などできるものか」


「お褒めいただき光栄ですけれど……貴方、最後の言葉は不要ですわよ。わたくしのこと、嫌いだと言っているようなものでしょうが!」


師匠(せんせい)に一番頼られるべき弟子は、オレであるべきだ。一番弟子だからな。だから、オレはお前が嫌いだルナティエ」


「だ~か~ら、一番弟子はあたしだって言ってるでしょうが、この片目隠しマフラー男!!!!」


 ぎゃーぎゃーといつものように喧嘩を始めるグレイレウスとロザレナ。


 そんな二人の間に立ったルナティエは、呆れたため息を吐く。


 そして、観客席の方を見て、口を開いた。


「確かに、わたくしたちはまだ、フランエッテが信用に足る剣士なのか、分かっていませんわね。ですが……彼女、さっき、観客を守るために敢えて囮となって逃げていましたわよ? わたくしたちの中で誰よりも弱い彼女が、民を守るために身体を張るのは……相当な勇気を必要としたはずですわ。それを、あの一瞬で判断して実行できたのは……評価するべき点ではなくって?」


 ルナティエのその言葉に、ロザレナとグレイレウスは口論を止め、ルナティエに目を向ける。


「観客を……助けた? え、さっきのあれ、ただ逃げただけなんじゃないの?」


「……フン。その点については、オレも気付いてはいた。あの手品師、身の丈に合わない地位について、ただちやほやされたいだけの奴ではないのだろう。あとは……あいつ自身が、実力を示すことができることができるかどうか、だ。これでもし、師匠(せんせい)の手をお借りして、師匠(せんせい)の実力を衆目に晒すことになれば……オレは間違いなくあいつを斬る。自身に降りかかった火の粉を払えない奴に、『箒星』の名を名乗らせるわけにはいかない」


「厳しい、ですわね」


「当然の話だろう。オレたちは、あの方の弟子なのだ。そしてこの門下は、お遊びの場ではない。剣の頂を目指す者たちの場所だ。『箒星』、ひいては師匠(せんせい)の名を穢すことがあれば……オレはお前たちにも容赦はしないぞ、ロザレナ、ルナティエ」


「何であんたが仕切ってんのよ。ようは、あれでしょ? 間違った道にはいくな、でしょ? 分かってるわよ」


「まったく。ひとつ年上だからと言って、説教はやめてほしいですわね」


 三人が、そんな会話をしていた――――その時。


 司会者が、大きく口を開いた。


「お待たせいたしました! それでは、第二試合、メリア選手とキールケ選手の試合を開始いたします!」


「あ、メリアとキールケの戦いが始まるって! あの二人だったら、どっちが勝つと思う?」


「難しいな。単純に相性で見れば、魔法剣型は剛剣型に弱いことから、メリアの方に分があるが……キールケという女の能力次第、といったところもあるだろうな」


「そうですわね。確か、キールケって、影を使って戦うんでしたっけ? 影の魔法……聞いたことありませんわね。いったい、何属性なんですの?」


「あたしは勿論、メリアを応援するわ! メリア、頑張りなさいー!」


「ロザレナさん……貴方、第二次試験では、キールケと手を組んでいたんじゃありませんの……」


「別に、メリアは友達だけど、キールケは友達じゃないもの。というか、今でも普通に嫌いだもの」


「嫌いなのに、手を組んだんですの? 結構、割り切っているんですのね……貴方……」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 第二試合が始まる直前。


 特別席に座っていたリトリシアは、顎に手を当てて、考え込んでいた。


 他の剣神たちはとくに気にしていなかったが、リトリシアだけは気付いていた。


 フランエッテが去った後……一人のメイドが、それを追って出て行ったことを。


「……少し、席を外します」


「? どうしたんじゃ、リトリシア? もうすぐ、第二試合が始まるが……」


「お手洗いです」


 そう言って、リトリシアは席を立つと、中庭から詰所の中へと入って行った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「さぁ、両者、並び立ちました! 龍人族(ドラグニクル)の少女、メリア・ドラセナベルVSバルトシュタイン家の地雷系令嬢、キールケ・ドラド・バルトシュタイン!! いったい、第二試合ではどんな戦いを見せてくれるのか……!! カウントを開始します!! 10――――」


 闘技場の両端に立ったメリアとキールケは、お互いに向かい合う。


 メリアは無表情。キールケは、腕にボロボロのクマのぬいぐるみを抱きながら、微笑を浮かべていた。


「まさかこんなところで珍しい亜人に出会うなんてね。お前、私の奴隷にならない? 奴隷コレクターのキールケちゃんのオモチャになってくれるのならぁ、衣食住だけは保証してあげるよぉう? 身体の保証はしてあげないけどねぇ~クスクス」


「……バルトシュタイン……多分、私にとって……ううん。この国に住む亜人たちにとって、貴方のような人間が一番の敵なんだろうね。目を見れば分かるよ。貴方は、自分以外の人間を常に見下している。他人を、オモチャとしか見ていない」


「うん、そうだよぉ。で、それが何? キールケちゃんに説教でもするつもりぃ?」


「――――――3!」


「……そんなつもりはないよ。ただ、可哀想だなって」


「――――――2!」


「はぁ?」


「――――――1!」


「……君、奴隷を集めているのは……一人になりたくないから……寂しいからなんでしょう? だから貴方は、オモチャ(奴隷)を求めている」


「――――――0!」


「【深淵なる影の庭(シャドウガーデン)】!!!!!」


 キールケは憤怒の表情を浮かべると、試合開始と同時に、影の領域を発動させる。


 それに対してメリアは背中に装備している自身の背よりも大きい戦斧を取り出すと、ブンブンと振り回し、構えた。


「誰が寂しいだってぇ!? お前、誰を相手にものを言っているか分かってる!? キールケちゃんは、この国で一番偉い貴族の娘……バルトシュタインの末裔だよ!?」


「……分かってる。君たちは、アレスが最も警戒していたゴルドヴァークの子孫たちは……私が踏破しなければいけない敵だということは、勿論、分かってる」


「お爺様の名を軽々しく口にするな、亜人風情がッッ!!!!」


 キールケはそう叫び、針の剣を腰から抜くと、メリアの元へと走って行く。


 メリアも斧を構えて、向かい討つべく、キールケの元へと走って行った。


 だが……メリアがキールケの影に足を踏み入れた瞬間、メリアの肩に穴が空き、血が舞い上がった。


「【影を支配する者(シャドウデーモン)】」


「……え?」


「あははははは! 能力が不確かな魔法剣型にそのまま突っ込むなんて、ばっかじゃないのー? 穴ぼこにしちゃうから、亜人!!」


 続いて、キールケがクマのぬいぐるみに針を突き刺すのと同時に、メリアの左手の甲に穴が空く。


 それと同時にメリアは背後へと飛び退き、影の領域から離れた。


「……なるほど。貴方の影に触れたら、その熊のぬいぐるみに与えたダメージが、私に反映されるんだ。見たことが無い、変な魔法だね」


「クスクス……キールケちゃんは自由に動いて貴方を追い詰めることができるけどぉ? お前はこの狭い闘技場の上で必至こいて私の攻撃範囲から逃れるしかできないよねぇ? 剛剣型に相性の悪い魔法剣型だからって、舐めてたでしょ? トーナメントのルール上は、私の方が有利なんだよ」


「……」


「ほらほら、どうする? 私が貴方に迫るごとに、貴方は闘技場の端へと追い詰められていく。自分で闘技場から降りるか、それとも私に挑んで穴だらけになるか。好きな方を選んで良いよ~?」


「……なら、全身を闘気でガードして貴方の元に向かえば良いだけのこと」


 そう言ってメリアは全身に闘気を纏うと、斧を両手に持って、キールケの元へと走って行く。


 その光景を見て、キールケは無表情になった。


「ま、そうだよね。貴方たち剛剣型がそういう行動に出ることは分かってた。だけど、キールケちゃんもその戦い方は学習しているの。いつまでも対策を怠る馬鹿じゃないから。我が身を守れ――――――【影の騎兵(シャドウガーディアン)】」


 キールケは針の剣を足元に広がる影の中へ突き刺す。


 すると、キールケの周囲に、4人の影の騎士が姿を現した。


 キールケはニヤリと笑みを浮かべると、影の騎士へ、命令を下す。


「やって。完膚なきまでに蹂躙してきて」


「……」


 4人の影の騎士は言葉を発することもなく、メリアへと向かって走って行く。


 メリアはその姿を見ると、斧を振って、1人の影の騎士を難なく消し飛ばした。


「……幻影……じゃない。実体があるようだけど……そこまで強くないね。こんな奴、いくら出されようとも私の敵じゃ……くっ」


 メリアの太腿に小さな穴が空き、血が噴き出す。


 キールケはくまのぬいぐるみの太腿から針を抜くと、冷静な表情で開口する。


「貴方たち剛剣型は、攻撃時、斧に闘気を纏うよね。だから、誰かと戦っている間には、隙ができる」


「……なら……!」


 ならばと、メリアは全身に闘気を纏いつつ、影の騎士へと斧を振る。


 また一人、影の騎士を倒すが……その瞬間、メリアの顔に疲労の色が見えた。


「当然、それをやったら、疲れるよね? だって、私たち受験生は、夜通し試験を討受けてきているのだもの。睡眠時間なんて、殆ど取れなかった。だけどぉ、キールケちゃんはぁ、魔力を温存することができてるのぉ。お前の足止めなんて、わけないということだよー?」


 そう言って、キールケは地面に針を突き刺し、再び影の騎士を追加する。


「ロザレナのような一刀で全てを吹き飛ばせるような化け物相手に、多分この手法は通じないだろうけど……お前のような普通の剛剣型相手には、十分、通じるみたいね。敵の懐に突っ込むことしかできない剛剣型相手には、ダイレクトに刺さる戦法でしょ? これ」


「……」


 これ以上闘気を消費するわけにはいかないと、メリアは身体に纏っている闘気を解除する。その瞬間、メリアの右足の甲に、穴が空いた。


「お前、馬鹿? そんな隙を、キールケちゃんが見逃すはずないでしょ?」


「……貴方、最初は、怒ったふりをしていたんだ。実際は、かなり冷静で、戦いの流れを予測して見ていた」


「そんなことないよ。お前に寂しい人間だと言われて、かなりムカツイていたよ。だけど、常に冷静でいなきゃ戦いの流れはつかめないって、以前の戦いで学習したから。キールケちゃんはぁ、この場にいる受験生たちと違って、剣の師がいないのぉ。だから己の剣は、己でプロデュースしていかなければいけなかったののぉ~。お前たちのように誰かに頼るような弱虫じゃないのよ、バルトシュタイン家の人間というのは。理解できた?」


「……バルトシュタインの人間は、最強であるために、孤高でいなければならない。友や恋人に依存すれば、それは心の弱さに繋がるから。だっけ? ゴルドヴァークがよく言っていた」


「何でお前がお爺様の名前を口にしているのかは分からないけど……まぁ、良いわ。その通りよ。バルトシュタインの人間に、友人なんていらない。恋なんてもってのほか。私はその教えを忠実に守ってきた、唯一の、バルトシュタインの正当後継者。あそこにいる兄や姉とは違うの。暴力、孤高、悪! それが、キールケちゃんの全て

!!」


 影の領域に触れないように闘技場の隅を移動していたメリアだったが、キールケが向かってきたことにより影を踏み、彼女の腕に穴が空いた。


 血だらけの自身の姿を見て……メリアはため息を吐いた。


「……流石に強いね。温存しようとするのも間違い、か」


「はぁ?」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「どうやら、バルトシュタインの末妹が圧しているようねぇ」


 ジェネディクトはそう言って、椅子の上で足を組み、笑みを浮かべる。


「私、あの子、嫌いだわ。幼い頃私のことを虐めていた妹……アンリエッタに似ているんだもの。あの女、勝手に死にやがって……私が殺してあげたかったんだけどねぇ……フフフフ……」


「……」


「あら、ジャストラム? 口数が減っているようだけれど……もしかして自分の弟子がボロボロになっている姿を見て、心でも痛めているのかしら? 常に物事をどうでもよさそうに見ている貴方でも、弟子には情があるのかしら?」


「強いね。あのキールケって子。あの年齢で召喚した使い魔を自在に操って、古代魔法を使役しているだなんて。大森林の森妖精族(エルフ)はあれくらいできて当然だけど、魔法に精通していない王国、それも人族(ヒューム)であれをできる魔法剣士は殆どいないよ。戦いのセンスにおいては、やっぱり、バルトシュタインは飛びぬけているね」


「チッ。何も思っていないのね。つまらない。掴みどころのない獣人族(ビスレル)だわ」


「ジェネディクト。同じ魔法剣士として、君は、キールケをどう評価している?」


「…………癪だけど、才能はあると思うわよ。ただ、純粋な魔法剣士のまま、上に上がって来られるかは微妙ね。速剣型の歩法を習得すれば、あの能力と相まって、化けそうな気はするわ。どうみても鈍足そうなあの子に、できるかは知らないけどね」


「そうだね。ここから先は―――【剣王】になるには、二つ以上の型が必要になってくるね。……メリア」


 ジャストラムの声に、メリアはビクリと肩を震わせ、振り返る。


 そんな彼女に、ジャストラムは静かに声を掛けた。


「あれ、使って良いよ」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「あれ、使って良いよ」


 ジャストラムの言葉に、メリアは額から流れる血を拭い、コクリと頷く。


 そして彼女はふぅと大きく息を吐くと、踵を二度―――地面にぶつけた。


「【縮地】」


 その瞬間、メリアの姿が、掻き消える。


「は?」


 キールケは姿を見失った瞬間、驚きの表情を浮かべる。


「……こっち」


 キールケの背後に現れるメリア。


 そして彼女は戦斧を構え、キールケに向けて振り回した。


「……【龍閃乱舞】」


「チィッ!!!!!」


 キールケは即座に針を構え、斧を防ぐ。


 だが、その威力に耐えることができず――――――キールケは、吹き飛ばされた。


「くそっ!!」


 彼女は足に力を込めてしゃがみ、ザザーッと、下がって行く。


 闘技場から落ちる寸前のところで……キールケは踏みとどまった。


「お前、速剣型も使えたのか……!」


「……ゼェゼェ……! 仕留め、きれなかった……!」


 体力を消耗したのか、汗だくで荒く息を吐くメリア。


 キールケは好機と見て針でくまのぬいぐるみを刺そうとするが……腕が思うように動かず。右腕を見てみると、剣を持っていた彼女の手首は、あらぬ方向に折れ曲がっていた。


「くっ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」


 腕を抑えて、無理やり元の位置に戻して……苦悶の表情を浮かべるキールケ。


 勝負は……拮抗していた。


 その光景を見て、司会者は、唖然とした様子で口を開く。


「ま、まさか、トーナメントが始まってすぐに、こんなすごい戦いが見られるとは思いもしませんでした……! す、素晴らしい戦いです!! どちらも【剣王】に相応しい力を持っています……!」


 お互いに大きなダメージを負いながら、メリアとキールケは睨み合う。


「やるじゃん、亜人。今のはかなり驚いたよ。だけどね、キールケちゃんも、敗けられない理由があるの」


「……私も、同じ。敗けられない」



「ロザレナに一矢報いるためにも!!!!」

「ロザレナにリベンジするためにも!!!!」




 メリアは全身に闘気を纏い、龍化を始める。


「【半・龍化】」


 キールケはくまのぬいぐるみを地面に落とすと、左手に針の剣を持ち変え、影の騎兵と影の領域を解除し―――全ての影を、針の剣に纏い、巨大な鉈へと姿を変貌させた。


「【影の戦刃(シャドウ・ブレイド)】」


 お互いに、残りの力を振り絞り、最大の技を放とうとする二人。


 数秒程睨み合い、じりじりとお互いに闘技場の中央へ歩みを進めた後。


 最初に動いたのは、メリアだった。


「【縮地】――――――【龍王戦槌剣】」


 【縮地】を使ってキールケの傍まで移動すると、巨大な戦斧を横薙ぎに振り放つメリア。


 彼女は、【絶空剣】を習得したく、剣速に拘っていた。


 その結果産み出されたのが、剛剣型と速剣型を組み合わせたこの技、【龍王戦槌剣】だった。


 速剣型のジャストラムが師であるからこそ、習得できた戦技。


 メリアは【半・龍化】で狂化に飲み込まれないよう、ギリギリのところで理性を保ち……今自分が放つことのできるギリギリのラインで、戦斧を振り放った。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 キールケは、その光景を見て、口を開く。


「……【影を支配する者(シャドウデーモン)】。私の爪と髪の毛をあげる。だから……もっと私に力をよこせ」


「…………ケケケ」


 その瞬間、キールケの両手の爪が剥がれ落ち、彼女のツインテールが切り落とされ、宙を舞った。


 両の手の爪が無くなったことで痛みに歯を噛み締めるが……キールケは笑みを浮かべて、剣に纏う影を増やしていった。


 その影は巨大な禍々しい包丁となり、キールケは剣を構え、襲い狂う獣、メリアへと吠える。


「あははははは!! さぁ――――勝負だ、亜人!! お前が勝つか、このキールケちゃんが勝つか……上に進むことができるのは、どちらかだけ!!!!」


「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


 猛スピードで振り降ろされる戦斧、それに対抗して振り放たれる影の戦刃。


 ぶつかり合う青い剣閃と黒い剣閃。闘気と魔力。斧と魔法剣。


 拮抗してぶつかり合っていた武器同士だったが……結果、キールケが徐々に圧され始める。


「くっそ……! 右手がこんなんじゃなかったらぁ……! きゃあ!?」


 メリアの闘気に弾き飛ばされたキールケは、闘技場の外へと吹き飛んでいった。


「かはっ!?」


 観客席の下にある壁に激突したキールケは、血を吐き出し、地面に倒れ伏す。


 剛剣型ではないため、キールケに、闘気を纏う術はない。


 ダイレクトに生身で壁にぶつかってしまったキールケは、その場で気絶してしまった。


 その光景を見て、メリアはブンブンと戦斧を振り回すと……戦斧を地面に置く。


 そして、無表情で開口した。


「……はぁはぁ。私の勝ち……」


「しょ、勝者、メリア・ドラセナベル……!!!!」


 亜人が勝利したことに、どよめきだつ観客席。


 観客の殆どが、拍手を鳴らしていなかった。


 だが――――――。


「メリア!! よくやったわ!!」


「メリア、第二試合勝利おめでとう!!!!」


 受験生の中から……ロザレナとジェシカが、メリアに賞賛の声を贈る。


 その言葉にメリアは笑みを浮かべると、彼女はフラリと、よろめいた。


「……速剣型の技は……やっぱり、私とは、相性が悪い……かなり、消耗してしまった……こんなに強い子が初戦の相手だなんて、思わなかった……流石はゴルドヴァークの孫、だね……」


 第二試合、メリアVSキールケは……メリアの勝利となった。


 メリアの次の対戦相手は、グレイレウスに決定した。




 そして、次の第三試合は――――第二ブロック目に入り、ロザレナVSジェシカ―――――だった。


 闘技場の傍でメリアを応援していた二人は、お互いに顔を見合わせる。


「ジェシカ。今度こそ、覚悟は良いわね?」


「……うん。もう、迷わないよ。誰かを多数でいじめるみたいなルールじゃなければ、私、全力で戦うことができるよ」


「別に、第二次試験は、多数でいじめるのがルールというわけではないのだけれど……まぁ、いいわ。どちらが剣聖に相応しい器か……勝負しましょう。ジェシカ・ロックベルト」


「うん!」


 ロザレナとジェシカは顔を合わせ、お互いに、笑みを浮かべた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




《アネット 視点》



「フランエッテは、いったい、何処に……!!」」


 俺は廊下に出た後、迷路のように入り組んでいる詰所の中で……二人を見失っていた。


 流石に、この短時間で、玄関口まで行って詰所の外に出ていることは……ないと思う。


 二人は、まだ、この建物の中で追いかけっこをしていると、俺は推測する。


 俺はその辺の扉を開けて回り、フランエッテを探す。


「フランちゃーん、どこですかー!」


「きゃー!」


 ルクスの部下と思われる、お着替え中の女騎士と遭遇してしまった。


 俺は何も言わず扉を閉めて、廊下を走りながら、他の扉を開けて回る。


 いかんいかん。何か覗きみたいになってしまったが、けっして俺は、そういった不埒な真似をする男ではない。迷子のフランちゃんを探しているだけです。


「くそ……流石にこんなに人が多くいる場所で、【瞬閃脚】を使うわけにはいかないが……これじゃあフラン探しで後手に回ってしまう……!」


 いや、そんなことを言っている暇なんてないか?


 ここに実力者はいない。誰にも見られないようなスピードで動けば―――。


「お待ちください」


 その時。俺の目の前に【瞬閃脚】を使って、リトリシアが現れた。


 俺は足を止め、突如俺の前に現れたリトリシアに、驚きの表情を浮かべる。


「リトリ……剣聖様? いったい、私に何の御用で?」


「そんなに急いで、何処に行かれるのですか? もうすぐ、貴方の主人の試合が始まる頃合いだと思いますよ」


「……少し、急用を思い出しまして。すぐにそこを退いてくださると助かります」


「誰を探しているのですか? もしや……先ほど出て行った剣神フランエッテ・フォン・ブラックアリアですか?」


「……」


「貴方が彼女を追いかける意図とはなんでしょう? ただのメイドと剣神……接点など何もないかと思いますが」


「フランエッテ様は、私と主人であるロザレナ様と同じ寮に住んでいる友人なんです。彼女は剣神ですが、騎士学校に通う騎士候補生でもありますので。なので、主人であるロザレナ様に、彼女の様子を見に行くように命じられたのです。ほら、さっきの不審者、少し様子がおかしかったですよね? だから……心配で、追い駆けて来たんです」


「…………それにしては、貴方は先程、率先して追いかけていきましたよね? 主人に命じられた、という感じではないように見えましたが」


 ――――――俺のことを見ていたのか、こいつ。


 もしかして、俺、何かを疑われているのか?


 それが俺の実力なのか、俺の正体なのかは分からないが……今は、リトリシアに構ってはいられない。フランエッテに剣神を押し付け、隠れ蓑にしたのは、俺だ。俺が、責任を持って守ってやらなければいけない。


「そう、見えたのですか? 仲の良い友人ですので……咄嗟に、先に声が出てしまいましたかね。その後、ロザレナ様とお話して、様子を見に行くよう命じられたのです」


 実際に、俺とロザレナは会話をしている。その光景は見ていたはず。


 獣人族(ビスレル)じゃないこいつに、会話の内容までは、分からないだろう。


「……そう、ですね。確かに」


「あの、先を急いでも良いでしょうか?」


「どうぞ」


 横に逸れたリトリシア。俺はそんな彼女の隣を、走って行く。


 その間際、俺に、言葉が投げられた。


「――――五年前のジェネディクト。七月の暴食の王。八月のアンデッド。九月のベルゼブブ。この全てに、貴方が関わっているのではないのですか? アネット・イークウェス」


「……」


 俺は何も答えずに、廊下を進んで行った。

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