第10章 二学期 第320話 剣王試験編ー㊳ トーナメントの開幕、フランエッテの逃走劇開幕
「さてさて。どんな粒が揃っているのかのう」
闘技場すぐ傍にある、観客席の下の特別席には、剣聖と剣神たちが座っていた。
6つ置かれたソファーにそれぞれ座る剣聖・剣神たち。
その中の一人、元剣神ハインライン・ロックベルトは、湯飲みの茶を啜りながら、闘技場の向こう側にいる受験生たちを見つめた。
「ワシとしては、やはり孫娘であり我が『蒼焔剣』門下の弟子である、ジェシカちゃんに勝ち進んで欲しいところじゃな。孫が二人揃って剣王になったら、我が一族も安泰じゃわい」
ハインラインのその言葉に、ボリボリとクッキーを食べるジャストラムが、言葉を返す。
「弟子じゃないけど、私が剣を教えたメリアという子もなかなか強い。加えて、剣を握る理由も良い。あの子は、この国特有のくだらない差別観念を無くそうとしている。弟子じゃないけど、今の剣王よりは好きかも。弟子じゃないけど」
「おい……それ、結構気に入っているんじゃろ。弟子として認めてやったらどうじゃ?」
「嫌。ジャストラムさんは、自由を愛する。何かに縛られたくない」
「ただ、仕事したくないだけじゃろうが! こんの引きこもり狼が!」
ジャストラムにそう突っ込みを入れるハインライン。
そんな彼に、ジェネディクトが不気味な笑い声を上げた。
「フフフフフ……そう簡単にはいかないかもしれないわよ? 老いぼれたち。既に、貴方たちの時代は終わっているの。もしかしたら……貴方たちの弟子たちを、私の教え子が踏破するかもしれないわねぇ……クスクス」
「あぁ? テメェ、確かにワシたちの方が歳食ってるが、お前だって新しいとは言えんじゃろうが。お前は新時代の剣士というよりも、リトリシアたち、中年勢の剣士じゃろうが!! こんの見てくれだけ若い五、六十代ども!! 少しはジジババを労われ!!」
「ちゅ、ちゅうねん……た、確かに、私は今年六十一ですが……ハインライン殿。私たち森妖精族の年齢を、人族の基準で当てはめるのはやめていただきたいです……私、まだ森妖精族年齢で二十代くらいです……」
「その通り。ハインライン。ジャストラムさんはババアではない。女性に対して、それは失礼。確かに私はセクシーキャラでやっているけど、まだ熟女の域には達していない。うん。獣人感覚で言うと実はもう大分歳だけど、まだ、ピチピチギャルだから。うん」
「どこがセクシーキャラじゃ、このロリババアが!!」
「ハインライン……」
「ハインライン殿……」
「な、なんじゃ! ワ、ワシが悪いの!? 元はといえばジェネディクトが悪いんじゃないのかのう!? この話の発端は、ワシとジャストラムを老いぼれ扱いしおった、あやつのせいじゃぞ!?」
ジャストラムとリトリシアに睨まれ、汗をダラダラと流すハインライン。
そんな険悪な空気が流れる中。ヴィンセントが、独り言を呟いた。
「……『箒星』……というのは、いったい何処の流派なのだろうか。第三次試験の受験者に、3人いるようだが、聞いたこともない門下だな」
ヴィンセントのその言葉に、隣に座っていたフランエッテがビクリと肩を震わせて、緊張した様子を見せる。
そんな彼女を無視して、ハインラインが開口した。
「確かに、のう。まさか、剣王試験の最終試験で、聞いたこともない流派の門下が生き残ってくるとは、思いもしなかったのう。それに、三人も。そのうちの二人は、四大騎士公の息女、か……騎士公たちが知っている、秘密の門下、というところなのかのう?」
「普通、流派の名前は、師である剣士の二つ名が使われることが多い。だけど、『箒星』という名前からは、どういう剣士が師範をしているのか、想像も付かない。まぁ、ジャストラムさんは長い間大森林の奥で生活してたから、最近の剣士を知らないだけかもだけど。リトリシア、貴方は知ってる?」
「気安く私の名前を呼ばないでください。ですが……そうですね。私も、聞いたことがありません。秘密裏に誕生した新興の流派なのでしょうか……それとも、師範が名を明かしたくないために新しい流派を作ったのか。いずれにしても、弟子たちの剣筋を見れば、『箒星』の師がどのような剣士なのかは見えてくることでしょう」
「フフフ……フフフフフフフフフ……」
「なんじゃい、ジェネディクト。不気味に笑いおって。そんなに可笑しなことでもあったのかのう?」
「さぁて、ねぇ? あの『箒星』とかいう三人の受験生が、どれだけの力を持っているのか……愉しみねぇ」
「わけのわからん奴じゃのう。にしても、ジェシカちゃんのお友達のロザレナ・ウェス・レティキュラータスに、冒険者ギルドで出った生意気なガキ、グレイレウス・ローゼン・アレクサンドロス、そして、夏にひと騒動あったマリーランドの領主フランシアの娘、か。何か、繋がりがありそうじゃが、分からんのう。うーむ」
深いため息を吐く、ハインライン。
そんなハインラインを一瞥した後、リトリシアは、箒星の三人に視線を向け、顎に手を当てて考え込む。
「……ジェネディクトの奴隷商団にいた、ロザレナ。暴食の王が出現した、大森林にいたグレイレウス……そして、ロシュタールが過去の英雄をアンデッドにして襲わせた、マリーランド……。もしかして、その全てに、あのメイドが……」
「あ」
リトリシアの独り言を聞いたヴィンセントは、思い出す。
それは……アネットがルナティエを使って、自分に、リューヌの悪事を伝えてきた一件だった。
それを思い出すのと同時に、マリーランドで、アネットがあの3人と一緒だったところを見たことを思い出すヴィンセント。
すべてが繋がり、全貌が見えたヴィンセントは、顔を青ざめさせる。
「お、俺は……やってしまったのか……何というポカを……」
自分のミスでアネットの暗躍をリトリシアに勘付かれそうになったことを、頭を抱えて後悔するヴィンセント。
そんな彼の横で、同じような想いで、フランエッテも汗をダラダラと流していた。
(な、なんかよくわからんが、これ、まずいのかの!? これは、師匠の存在が気取られそうになっているのかの!? ええい、この強面のおっさんめ!! お主のせいで、妾の胃が爆発しそうじゃ!! どうしてくれるのじゃ!!)
ヴィンセントとフランエッテは、二人して、リトリシアに絶望した顔を見せる。
リトリシアはそのことに気付くと、思考をやめ、ビクリと身体を震わせた。
「な、なんですか、二人して私を見て!? こ、怖い顔で見ないでください!! 私が何かしたというのですか!!」
「リ、リトリシア殿。最近王都で、美味いと評判の料理屋ができたのだ。ど、どうかね、今度一緒に食事でも……クククク」
「私をナンパしているのですか!? 汚らわしい!! 父以外の男と二人で外出なんて、するわけがありません!!」
「ち、ちが……俺はそのようなつもりでは……!!」
「剣聖リトリシアよ!! 妾は、その、なんじゃ。うむ。あれじゃ。妾は、スカートの中から、鳩を出すことができるのじゃ。見ておれい……ほれ!!」
フランエッテは立ち上がると、スカートを少し上げて、その中からバサバサと大量の鳩を飛び立たせた。
「どうじゃ!! 妾はすごいじゃろう!! お主にも今度、この天才的な技を教えてやろう!! フハハハハハハハハハハハハハ!!」
「意味が分かりません。それができたところで、何か得があるのですか?」
「……………」
フランエッテはスンと真顔になると、そのまま席へと着席した。
いきなりわけのわからない絡み方をしてきた二人の剣神に対して、リトリシアは、呆れたため息を吐く。
「もう……なんなのですか」
リトリシアたちが、そんな謎のやり取りをしていた……その時。
ルクスが剣王たちの集団から出て、剣聖・剣神たちの元へと歩いて来た。
ルクスは剣聖・剣神たちの前に立つと、深く頭を下げ、顔を上げる。
「改めまして。この度は私たち剣王が開催した剣王試験にお越しいただき、ありがとうございます。剣聖、剣神様方」
「ルクスか。剣王たちは皆、息災かのう?」
「はい。剣王全員、この国を守るために日々剣を鍛えています。大森林で起こった暴食の王の一件や、先月王都に出現したベルゼブブの一件。その二件の事件で、剣王二名を失いましたが……我らはその二名の意志も引き継ぎ、一致団結して、頑張っています」
「ほっほっほっ。そうか。それは何より……」
ハインラインが喋っている途中で、ジャストラムが菓子を食べながら、口を開いた。
「剣王の質も落ちたね。私とアーノイックとハインラインが殴り込みをした昔の剣王は、こんなレベルじゃなかったよ」
ジャストラムのその言葉に、ルクスは笑みを浮かべたままピクリと眉を動かす。
ハインラインはジャストラムの言葉にため息を吐き、「またか……」と、額に手を当てて首を横に振った。
「……厳しい御言葉、痛み入ります、ジャストラム様。その御言葉を胸に、私どもも頑張っていく所存で―――」
「君は、何のために剣を握っているの?」
「は?」
「剣士は、何か成したい想いがあるからこそ、剣を握る。私たちの世代の剣士には、必ず、剣を振る理由があった。大切な人を守るために剣を握る者。友を一人にしないために、友が怪物と呼ばれないように、友のために剣を振る者。好きな人の背中を守るために、好きな人を孤独にさせないように剣を振る者。圧倒的な力を得て、自身が最強だとこの世に知らしめるために剣を振る者。神の存在証明のために異常な信仰心を神に捧げ、自身に名付けられた一族の初代当主の名に恥じぬため、剣を振る者」
それは全て、最強の世代と言われた、過去の剣聖・剣神が剣士になった理由だった。
ジャストラムは一拍置いた後、ルクスに向けて、再度、口を開く。
「貴方は、何のために剣を握っているの?」
「私は……師であるキュリエールお婆様の意志を継ぎ、お婆様が目指した理想の国の成就のため、剣を振っています。セレーネ教の教えを守り、魔に属する者を全て断つ。それが、私が剣を握る理由です」
「それは、他の者の願い。貴方の願いではない」
その言葉は、いつの日か、ジャストラムがリトリシアに言った言葉と同じだった。
リトリシアは下唇を噛み、眉間に皺を寄せる。
ジャストラムはふぅと短く息を吐くと、再度、開口した。
「ハインラインに聞いたけど……貴方、キュリエールに破門されたんだってね。その理由が、今、少し分かったよ」
「……ッッッ!!!!!!」
ルクスは強烈な殺気をジャストラムに向ける。
しかし、ジャストラムは無表情。特に、驚いた様子もなかった。
「撤回してください。私は……御婆様に破門されたわけではない……」
「信念なき剣に、意味はない。これは、私の父、剣聖アレス・グリムガルドの言葉。私は、『絶空剣』の門下として、信念のない者を剣士として認めるわけにはいかない」
「ジャストラム、それくらいにしておけ。そう、若い者をいじめるな」
ハインラインはジャストラムにそう声を掛けた後、ルクスに顔を向け、口を開く。
「悪かったの。こやつは少し、口が悪くての。許してやってくれ。お主ら現代の剣王はようやっておるよ」
「……はい。剣王試験開始は、もうまもなくとなります。どうぞ、新たな剣王の誕生を、ご覧ください」
そう言ってルクスは頭を下げると、踵を返し、去って行った。
「…………この、時代に取り残された老いぼれが。何年もその席に居座って。さっさとその席を明け渡せば良いものを……」
誰にも聞こえない声で呟いたルクスのその言葉を、ジャストラムの耳は捉えていた。
ジャストラムは耳をピクリと動かすと、目を伏せ、首を横に振る。
「後進育成に失敗したね、キュリエール」
そう言って、ジャストラムは、箒星の三人へと目を向ける。
「貴方が育てたのかは知らないけど……あっちのフランシアの子の方が、将来性はありそうだよ」
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《アネット 視点》
「さぁ、皆様! 剣王試験、これより第一試合目を開始いたします!! グレイレウス・ローゼン・アレクサンドロス選手、クラウザー・トリステン選手、どうぞ、前へ!!」
「フン……」
「フフフフ」
グレイとクラウザーが、お互いに向かい合わせとなって、闘技場へと立つ。
二人は闘技場の左右の端に立ち、その間に立っている司会者は、続けて口を開いた。
「ルールは、至ってシンプル! 試合開始後、場外に落とされたら敗けとなります! また、気絶となり戦闘不能となっても敗北になります。棄権することは、可能です。対戦相手を殺めることは禁止されており、殺めてしまった場合は、即、退場となります。よろしいですね!」
ルールを聞き終えたグレイとクラウザーは、こくりと頷く。
司会者はその光景を見届けると、闘技場から降り、手を挙げて指を折り、カウントを始めた。
「では、試合開始のカウントを開始します! 10、9――――」
司会者がカウントを全て数え終える前に……クラウザーは、両手を広げ、笑い声を上げた。
「フ……ハハハハ……あははははははははははははははははははは!! ついにだ!! ついに、この日が来たのだ!!!! あぁ、我輩はこの日が来るのを、どんなに待ち望んだことか……もう、この顔はいらぬな」
そう言って、クラウザーは自分の顔に手を当てると……ベリベリと、顔の皮を剥いだ。
そこから出てきたのは……黒髪に長髪の男。
その光景を見て、観客席は唖然とし、司会のカウントも止まる。
クラウザーはまるで歌劇の主役のように、胸に手を当て、頭を下げた。
「我が名は、アルザード。愚劣な女神の眷属どもよ。我輩は、今日この日、貴様らが穢した我が姫の代わりに、愚かなる偽りの姫に鉄槌を降す」
そう言って顔を上げると、アルザードは腰の鞘から剣を抜く。
そして……その剣を横にひき、自分の手首を掻っ切った。
右手から、血しぶきが、舞い上がる。
それと同時に、観客席から悲鳴が上がる。
「なに、あれ……? なにを、しているの……?」
動揺したロザレナの声が耳に入ってくる。
生憎、俺にも何が起こっているのか分からない。
だが、クラウザー……いや、アルザードと名乗った男は、笑みを浮かべたまま……掻っ切った腕を……その血を、特別席に座る剣聖・剣神たちへと、振り放った。
「我が血を、槍へと変えよ―――【ブラッドリーランス】」
魔法を詠唱した、次の瞬間……血は無数の鋭利な刃となり、観客席へと降りかかった。
ハインラインやジャストラム、ジェネディクト、ヴィンセント、リトリシアは、即座にその場を跳んで、離れた。
だが……血の槍の殆どが向かった先は……フランエッテだった。
フランエッテは未だ状況を理解していないのか、口を大きく開けて、頭上へと顔を向けていた。
「フランエッテ!!!!!」
俺はそう叫び、特別席へと向かおうとする。
だが、間に合いそうになかった。
雨のように降り注ぐ、血の槍は……まっすぐと、フランエッテの元へと向かっていた。
「フハハハハハハハハハハハハハ!! 偽りの姫君に、鉄槌を下す!!!!」
「はっ……はっ……ブェックショォォン!!!!!」
盛大にクシャミをして、身体を大きく逸らすフランエッテ。
すると、血の槍は全て……運よく、フランエッテの背後へと飛んで行き、壁へと突き刺さった。
俺は足を止め、その光景をポカンと見つめる。
「は……え……えぇ……?」
何という、幸運……。そういえば、あいつ、今まで俺以外に誰にも実力を悟られずに生きてきたんだよな……神に愛されし運命力、と、いったところだろうか……。
「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
フランエッテは背後を振り返り、無数に突き刺さった血の槍を見て驚きの声を上げる。
そして、その後、特別席から離れている剣神たちを見て、ハッとすると、顔に手を当て謎のポーズを取った。だから何だそのポーズは。
「フッ……フフフフフ……。貴様ら、この程度の攻撃で、何を動いている? まったく、これなら、妾が剣聖になる日も遠くないかもしれぬな」
フランエッテのその言葉に、観客席は、「おぉぉぉ!」と沸き立つ。
逆に、闘技場に立つアルザードは、怒りの表情を浮かべていた。
「き……貴様……貴様貴様貴様貴様貴様ァァァァァ――――――ッッ!! 何故、死なない!! 貴様は、ただの人間であろう!! それなのに、何故……何故、我輩の攻撃を避けてみせたッッ!!!!」
「馬鹿かのう、お主。妾は、最強にして最凶の、冥界の邪姫……吸血鬼フランエッテ・フォン・ブラックアリアじゃ。妾を殺すことなど、誰にもできぬことじゃ」
そう言ってフランエッテは腕にかけていた真っ黒な傘を開くと、肩に載せ、青い口紅を塗った口を吊り上げて、不敵な笑みを浮かべる。
そんな彼女の言葉に、アルザードは闘技場の外へと降り立つと、叫び声を上げながらフランエッテに向かって走って行った。
「我が姫の名を騙るなァァァァァ!!!! 偽物の愚物がぁぁぁぁぁぁ!!! うるぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! うぼぉあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! んぐぬぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ひぃ!? なんじゃ、あやつ!? こわっっ!!!!」
「我が血を、槍へと変えよ―――【ブラッドリーランス】!!」
再び、アルザードは腕を振り、血の槍を産み出した。
しかし怒り狂い走っているせいか、その血の槍はフランエッテには当たらず、観客席の柱へと命中した。
被害者はいなかったが……その突然の魔法攻撃に、怯える観客たち。
その光景を見たフランエッテは、ギュッと唇を噛み、恐怖を押し殺した表情で……覚悟を決めた表情を浮かべた。
「よ、よく分からぬが、貴様、妾に用があるのじゃろう!? 妾についてくるが良い!! 無辜の人々を傷付けようとした貴様を、剣神である妾が仕留めてやろう!! 場所を変えるぞ!! フハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
フランエッテは背中を見せ、詰所の入り口へと向かって走って行った。
二人が消えたその後、会場は、静寂に包まれる。
「あ、え、えっと……よく分かりませんが……クラウザー選手は、自ら闘技場の外へと降りたので……失格となり、グレイレウス選手、第二試合へ進出です……!」
司会者のその言葉に、ざわざわと騒ぎ始める観客たち。
それと同時に、剣聖、剣神たちも、困惑した様子を見せる。
「なんじゃったんじゃ? あやつは? 血を槍に変えるという、見たことの無い魔法を使っておったが……」
「……どうする? 剣聖・剣神全員で加勢に行く?」
「別に、あの新参者に任せておけば良いんじゃないの? 見たことのない技を使うだけで、多分、大したことないでしょ、あれ。あれすら倒せないようなら、あの女も、大したことないわ」
「ジェネディクト……お前、さっきフランエッテに煽られたことを根に持っておるんじゃな……?」
そう会話を交わす、剣聖・剣神たち。
剣王たちも、動揺している様子だった。
「どうする、ルクス? 何かいきなり、意味の分からないことになったけど……」
「剣神フランエッテが、自分に任せろと言ったんだ。あいつに任せておけば良い」
「ルクスは、前、剣王トップ1だったフランちゃんのこと、苦手だったもんねー。手、貸したくないんでしょ?」
「ふん。あいつは何を言っているのかさっぱり分からないばかりか、まとめ役である私に従わない、キリシュタットと同タイプの剣士だった。奴に手を貸す義理はない。それに……あいつは剣神になったんだ。あんな薬中、一人で解決できるだろ。今は、剣王試験を続行すべきだ。四大騎士公や剣聖・剣神もいるのだからな。中止になどできない」
「それもそうだねー」
剣王たちも、フランエッテを助ける気はないようだ。
実力を隠していることが裏目に出たな、フランエッテ……!
こうなっては……目立つことはしたくなかったが、仕方ない……!!
俺は、地面を蹴り上げ、フランエッテとアルザードを追うべく、詰所の入り口へ向かって走って行った。
「アネット!?」
「お嬢様、すみません! 行かなければ……!」
「そうね……うん、分かってる」
フランエッテの実力を知るロザレナやグレイ、ルナティエは、俺の言葉の意味を即座に理解した。
「ここは、行って!! あの子を頼んだわ!!」
「はい!!」
そうして俺は、フランエッテとアルザードの後を、追って行った。
しかし、血を別の物質に「変える」魔法か……。
何処かで、似たような魔法を使う奴を……見たような気がするな……。
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「今の魔法……いったい、何だったのか分かるか? シュゼット」
ブルーノのその言葉に、シュゼットは首を横に振る。
「いいえ。知りません。通常、人間が使用できる魔法は、炎熱、疾風、氷結、電、水、土、毒、補助、妨害、情報、信仰系、闇……の12個だけ。先ほどの血を槍に変えるという魔法は、どの属性にも含まれていません」
「そうか……だとしたら……」
「ええ……失われし魔法……人の手には扱えぬとされる神秘、古代魔法の可能性が高いです」
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「ぎょえええええええええ!!!! 何なんじゃ、あやつはぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難し許し難しィ!!!!! 偽りの姫君に鉄槌をォ!!!!!」
詰所の廊下を走るフランエッテの背後から、錯乱した様子で、アルザードが追いかけてくる。
フランエッテは適当な部屋へともぐりこむと、即座に扉を閉めて、タンスを扉の前へと持ってきて、ロックをかける。
そして彼女は額の汗を拭い、ほっと一息吐いた。
「ふぅ。これで一安心……」
「許し難しィィィ!!!!」
「ぬおわぁぁ!?」
頭突きをして扉を突き破り、タンスを倒して、顔だけ出してくるアルザード。
彼は、床に座り込むフランエッテを見て、血走った目を見せた。
「偽りの姫君に鉄槌ォォ下ァス……」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
フランエッテはすぐに立ち上がると、窓を蹴破り、外へと転がり出た。
そして、受け身を取れず地面に腹を打ち付けると……立ち上がり、王都に向かって、走り出す。
「おんぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 何なんじゃ、あいつはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 妾が何をしたというのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「許し難しィィィ!!!!」
窓から飛び降り、受け身を取ると、立ち上がり……アルザードはドッドッドッと、規則正しい足音を立ててフランエッテを追いかける。
フランエッテは涙を流しながら、叫んだ。
「意味が分からぬぅぅぅぅ!!!!」
「許し難しィィィイイイイイ!!!!」
「許し難いのは、こっちじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




