第10章 二学期 第302話 剣王試験編ー⑳ 魔法とは、願いである
ヒルデガルトと別れた後。俺はマップを手に、深い森の中を進んでいた。
秋も深まったせいか、周囲は赤や黄色に染まった木々が乱立している。
このような状況でなければゆっくりと風景を楽しみたいところなのだが……現在俺は、剣王試験の真っ只中にいる。お嬢様を見守ると誓った以上、主人がいない状況下で敗退することは避けなければならない。気を抜いている暇などはないだろう。
(剣王試験では剛剣型と速剣型の技を封印し、魔法剣型だけに縛ると決めた以上、俺の実力は、受験者たちとそう変わりはしないだろう。現在使用できる魔法は相手に氷柱を飛ばす【アイシクルランス】と、箒の先端に氷の刃を産み出す【アイシクルブレイド】。あとは―――)
俺は自分の手のひらを見つめ、オフィアーヌ家で過ごした日々を思い出した。
『……アネットさん。魔法剣士や魔術師が一番最初に身に付けなければならない技術は、いったい何だと思う?』
オフィアーヌ家の屋敷の中庭。
俺の頼みで魔法剣の稽古を付けてくれたブルーノは、最初に、そんな問いをこちらに投げてきた。
彼の前に立っている俺は、首を傾げ、思ったことを口にしてみる。
『魔法剣士は、純粋な肉弾戦を好む剛剣型を弱点としています。ですから……相手に距離を詰められないこと、でしょうか?』
俺のその答えに、ブルーノは微笑みを浮かべ、コクリと頷いた。
『正解だ。では、何故、魔法剣士は、速剣型に強いと思う? 大抵の人間は、詠唱という段階を挟む魔法剣士に対して、速剣型の方が強く出ることができると思うだろう。だが実際、魔法剣士は速剣型よりも強いとされている。それは何故か』
『魔法剣型が、遠距離攻撃を得意とするからでしょうか? 速剣型の戦法は基本、ヒットアンドアウェイですから。周囲を駆け回る敵に対して、遠距離攻撃は大きな邪魔になります。あとは、補助・妨害魔法は、速剣型に対してかなりの痛手になります。肉体の防御力を上げ、魔法で動きを止めてしまえば、闘気を持たない速剣型は丸裸にされたも同然でしょう。【瞬閃脚】を使用できる相手には、詠唱破棄をしないと効果はないと思いますが……それでも、魔法剣型が速剣型の弱点であることは変わりません』
『驚いたな……君はそこまで知っていたのか。騎士学校では、まだ、そこまで深いことを教えてはいないと思うのだけど?』
『あ、い、いえ。その、これはロザレナお嬢様からの受け売りです、はい』
俺があわててそう訂正すると、ブルーノは納得した様子を見せて『戦い方の基礎はできている。これなら、たとえ魔力を封印されていても、すぐに戦えるようになりそうだね』と口にし、続けて開口する。
『……言い方は悪いけど、魔法剣士という生き物は、どういう魔法を使用したら相手が戦いにくくなるか、という一点を念頭に置いて戦っている。僕が使うのは、疾風属性魔法だ。そうだな……単純な攻撃技だと……こういう感じだよ。―――――――風の精よ、我が剣に鋭利なる刃を付与したまえ……【エアスラッシュ】』
ブルーノは剣に手を当てて詠唱を唱えた後、緑色の風を纏った剣を横薙ぎに振り、遠方へと向けて風の刃を放った。
風の刃は中庭の端にあった木を斬り裂き、薙ぎ倒す。
ドシャァァンと木が倒れ伏した後、ブルーノは俺に向けて笑みを浮かべた。
『これが所謂、剣に属性を付与させて飛ばす、魔法剣による攻撃技だ。杖を持たない魔法剣士は、剣に魔法を宿すことで、攻撃範囲を広げることができるんだ。アネットさんは、確か、魔法剣の攻撃技は習得しているんだよね?』
『あ、はい。最近使えるようになったばかりですが……』
『そうか。だったらここで見せてもらおうかな。あの木を狙って撃ってごらん』
ブルーノに頷いた後。俺は緊張した面持ちで彼の前に立ち、剣に手を当て、詠唱を開始する。
『……氷の精よ、我が剣に力を――――【アイシクルブレイド】』
その瞬間、剣の刀身が凍り付き、氷の刃ができあがる。
そして俺は、遠方に向けて剣を振り、氷の斬撃を放った。
氷の斬撃はその後、目標の木に衝突することはなく……目標から大きく外れて、遠くの方で魔力に変わり、消えてなくなった。
「あっちゃあ……外してしまいました」
コントロールにはまだ、慣れが必要みたいだ。
それと、見たところこの【アイシクルブレイド】は、ブルーノが使った【エアスラッシュ】とは異なり、回数制限があるみたいだ。
斬撃を放った瞬間、氷の刀身が溶けて小さくなっていた。
斬撃は放てて三回が限界といったところか。使い終わったら、また詠唱のかけ直しが必須だろう。
俺が氷の魔法剣を放った光景を見て、ブルーノは口を開く。
『魔法の効果範囲は、なかなかのものだ。これだけは元からの才能といえる。君は優秀だ。そして、氷結属性魔法、か……。アネットさん。ひとつ聞くけど、君はどうして氷結属性を選んだんだい? オフィアーヌの血を引いているのなら、他の四元素魔法の因子もあったはずだよね? 何故、炎熱や疾風、地属性などではなく、氷結を選んだのか、聞かせてもらっても?』
『え? それは、適当に選んだ結果というだけで……』
『そんなことはないはずだ。魔術師が最初に使用する魔法というのは、術者の人生で、深く関わりがあったものが多い。僕は幼い頃、貴族であることが嫌で、よく窓を見てはこのまま風に乗って旅に出たいと願ったものだ。君にもあるんじゃないのかな? そういった、何かのきっかけが』
『私に、も……?』
『それを理解できた時、君はさらに、氷結属性魔法への理解を深めることができるだろう。魔導書を読んで詠唱を覚えるだけが魔法じゃない。魔法は、いわば、想像の具現化。願いそのものだ。だから、君自身の中にある原風景を知ることで、君は、さらに成長することができる』
確か、ベアトリックスにも同じようなことを言われていたな。
想像の具現化。自分がどう在りたいかを願うのが、魔法。
目を閉じる。
俺が何故、無意識に、氷結属性魔法を選んだのか。
俺の根幹にあるのは―――――――――。
『……雪、だ』
瞼の裏に浮かぶのは、前世の俺が、死ぬ前に見た光景。
雲一つない青い空に、真っ白な白銀の世界。
背中が冷たい。だけど、俺の手を握る少女の手は、暖かい。
こちらを見下ろしているのは、泣くのを我慢して、笑み浮かべているリトリシアの姿。
あぁ……そうか。俺が氷結属性魔法を選んだのは……俺にとって、雪や氷というのは、一番、思い出深いものだったからか。
俺の心の中に残り続けている原風景。それは、リトリシアを一人置いていってしまうという、哀しみ。
心の中に残っているのは、あの日の後悔だった。
俺が目を開けると、ブルーノが口を開く。
『どうやら、分かったようだね。君の魔法の原風景が』
『はい。なんとなく、自分の奥底にしまっていた願いが、分かったような気がしました』
リトリシアは魔法剣の才能を持っていた。それなのにあいつは、俺を追いかけ、自らの能力を剛剣型と速剣型だけに縛った。
俺は……あいつを縛ってしまった自分の存在を嫌悪していたのかもしれない。
俺にもし魔法の才能があったら、リトリシアはあそこまで歪まなかったのではないか。リトリシアに、魔法剣の技術を教えることができたのではないか。真っ当な剣士にしてやれたのではないか。
ずっとそう、悩んでいた。
死ぬ間際まで、あいつをちゃんとリトリシア・ブルシュトロームという剣士に導くことができなかったことに、後悔していた。
だから俺はあの日の光景を原風景にして、氷結属性魔法を選んだのだ。
無意識に、後悔を忘れないように。
(……リトリシア。俺はもう、過去の俺とは見た目も能力も性格も大きく変わってしまったと思う。それでもお前は、アーノイック・ブルシュトロームを追い続けるのか? ありもしない幻想になろうとするのか?)
久しぶりに会ったリトリシアは、死んだ俺にいつまでも依存していた。だから、あいつが自ら気付き、俺から離れて独り立ちすることができたら、またあいつの元に行って話をすしようと……俺はそう考えていた。
だけど、多分、それは……俺がリトリシアから逃げていただけなのだろう。
俺じゃあもう彼女を救うことはできない。正体を明かしてもまた依存して終わりだと。
彼女から逃げて……リトリシアの代わりにロザレナを鍛えて、グレイに速剣を教え、ルナティエにオールラウンダーの技を教えて……最初の弟子を放りだして、俺は、代わりに弟子たちを育てることでその罪悪感を払拭しようとしていた。
それに気付くことができたのは、魔法剣型の弟子、フランエッテが来たからだ。
フランエッテをちゃんと魔法剣士として大成させることができたのなら、俺は、リトリシアを、今度こそ真っ当に導くことができるのではないのか。
1人目、いや、0人目の弟子を――――――今度こそ、最後まで鍛え上げることができるのではないのか。
『魔法とは、願い、ですか。なるほど。自分が何をやりたいのか、はっきりと、分かりました』
『それは良かったよ、アネットさん』
そう言って、ブルーノと一緒に笑い合った、その時。
こちらに向かって、シュゼットがものすごい形相で走って来る姿が見えた。
『ブルーノォォォォォォォォ!!!! 何故、アネットに魔法を教えるのが貴方なのですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!! もう我慢なりません!!!! 私の方が貴方よりも強い!!!! 貴方よりも優秀です!!!! 勝負しなさい!!!!!! 敗けたら講師交代です!!!!!』
『……まったく、やばい奴が来たな。少し休憩としようか、アネットさん。あいつがいたんじゃ、君に魔法を教えるどころではないよ』
『は、はは……我が姉ながら、何か、すみません……』
回想を終え、俺は目を開ける。
俺はオフィアーヌ家の屋敷で、ある程度、魔法の扱い方というものを覚えた。
書庫にあった魔導書を読み漁り、低級魔法の詠唱も、記憶した。
そして、いくつか理解したことがある。
俺は、魔封じの影響で、中級魔法以上は扱えないということだ。
まぁ、今のところ初心者に過ぎないのだから、中級魔法程度でちょうど良いのかもしれない。今後のことを考えると、やはり、帝国に行って魔封じを解いてもらうべきなのだろうが……その点はとりあえず置いておこう。
現在使用できるのは相も変わらず氷結属性魔法だけだが、何となく、ぶっつけ本番でも他の魔法も使用できるんじゃないかという自信がある。俺は、ブルーノとの稽古で、かなり手ごたえを掴むことができていたからだ。
シュゼットにも魔法を教えてもらったりもしたが……彼女は教える側というよりも、戦う側で活躍するタイプだったので、言っている意味がよく分からなかった。こういうふうにがーっと魔力が出て、こういうふうにびゃーっと魔法が発動するのです。さぁやってみなさいアネット……じゃ、ないですよ……それじゃあ永遠に分かりませんよ、お姉様……。
そう、心の中で姉に対して苦笑いを浮かべていた、その時。
俺の耳に、川のせせらぎが聴こえてくる。
どうやらようやく、目的地である川へと到達したようだ。
俺は林をかきわけ、川の前へと出る。
そして砂利を踏みながら、しゃがみ込み、川の水を手のひらで掬ってみた。
「見た感じ……水はかなり澄んでいて綺麗だな。フィアレンスの森の水は健康に良いと、王都の商店でもたまに飲み水として販売されているのを見たことがある。恐らくは、そのまま飲んでも大丈夫なんだろうが……とりあえず、安全のために火で煮沸消毒した方が良さそうか」
こんなこともあろうかと、ショルダーバッグに小型の鍋を入れていて正解だったな。元は、試験会場に食料がなかった場合に、お嬢様に料理を作るために持ってきていたものだったが、こんなところで役に立つとは思わなかった。
ええと……炎属性の魔法の詠唱は……いや、まずは木の枝を差が無さないと……。
「うぇぇぇん! うぇぇぇん!」
「……ん?」
その時。
対岸で、塞ぎ込んで泣いている幼い森妖精族の少女を見つける。
さっきまでリトリシアのことを考えていたせいか、一瞬、その姿を見て幼いリトリシアを幻視してしまったが……よく見れば別人だ。というか、あれは確か、マリィ・トゥ・ルゥという名の受験者の一人だ。
何故、彼女は泣いているのだろう? 他の受験者にネックレスを盗られたか?
それとも、大きな怪我でも負ったのか。何処かで仲間が潜んで見ている、罠の可能性もある。
本当だったら、無視するのが当然なのだろうが……身内がいるから、森妖精族には弱いんだよな……。
見たところ、川はかなり浅い。落ちても問題はないな。
俺はため息を吐くと、箒丸を手に持ったまま、川の中にある石を使って、器用に飛び、対岸へと着地する。
そして、マリィの前に立つと、彼女に声を掛けた。
「こんなところで、どうしたんですか? ネックレスでも盗られたのですか? それとも、怪我か何かを?」
「ぐすっ、ひっぐ。お姉ちゃん、マリィのお話、聞いてくれるの?」
「お話程度なら。もし、リタイアするのなら、一緒に試験官が来るのを待ってあげても―――」
「お姉ちゃん、優しんだね。でも―――馬鹿だね」
そう言って、マリィは素早く立ち上がり、俺の間合いへと踏み込んでくる。
そして彼女は、俺の首元にかけてあるネックレスへと手を伸ばし…………。
「氷塊よ、我が盾となれ―――【アイス・ウォール】」
俺は即座に箒丸で地面を叩き、詠唱を唱え、氷の壁を目の前に作り防衛する。
自分の伸ばした手が氷の壁に当たったマリィは、即座にバク転をして下がり、腰の鞘にあるナイフに手を当てた。
「なんだ、ちゃんと警戒してたんだ。やるじゃん」
「申し訳ございませんが、こちらも参加する以上、目的がありますので。やすやすとネックレスをプレゼントするわけにはいかないのですよ」
「ふぅん? ただ主人についてきただけのメイドじゃないってこと? まぁ、第二次試験を生き残っているんだし、それもそっか。他のボルザークとかいう従者も、ミフォーリアとかいうメイドも、そこそこ強そうだったしね。でも、俺の敵じゃなかったけど」
そう言って大きなバンダナを首に巻いた森妖精族の少女は、懐から二つのネックレスを取り出し、俺に見せてきた。
俺はそれを見て、状況を理解する。
「なるほど……従者を狙って、ネックレスを奪っていたというわけですか」
「当たり。森妖精族は目が良いんだ。だから、高い木の上に登って、他の従者組を探してたってわけ。運良く主人と別れてくれて助かったよ。流石に二体一で狩れるほど簡単だとは思ってないから」
馬鹿が。気分よく喋ってくれたおかげで、仲間がいないことを白状してくれたな。
一対一ということは、こちらにも好都合ということだ。
「……氷の精よ、我が剣に力を――――【アイシクルブレイド】」
俺は箒丸の先端に氷の刃を創り出す。
そしてブンブンと薙刀のようになった箒丸を振り回し……構えを取った。
こちらの姿を見て、マリィは目を細める。
「やめときなよ。お前、見たところ、魔法剣型だろ? 森妖精族に魔法で挑んで、勝てると思ってるの? 魔法に最も恩恵を得て産まれてきた種族が、森妖精族だ。下等種族である人族じゃ勝ち目ないよ」
それはその通りだろう。
森妖精族という種族と人族という種族じゃ、魔法の才能の差は歴然。蟻が人間に挑むようなものだ。
だけど俺は、純粋な森妖精族という種族がどれだけ魔法に精通しているのかを知らない。俺が知る森妖精族は、魔法を使用しないリトリシアだけだったからだ。
半・森妖精族であるジェネディクトでさえ、やすやすと特級魔法を使用できていた。並み大抵のレベルではないことは確実。
だけど、森妖精族と戦うことで、これ以上ない魔法剣士としての経験を得られるのは間違いないだろう。
一応、大きな怪我を負う前にネックレスを遠くに投げ捨てるような、撤退策も視野に入れておくとするか。
「さぁ――――――魔法剣士同士、戦いましょう、マリィさん」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ジェシカ・ロックベルトか」
「!? 誰!!」
森の中を進んでいたジェシカは足を止め、声が聴こえてきた藪の中へと視線を向ける。
するとそこから、筋骨隆々の大男……アグニスが姿を現した。
ジェシカはとても背が小さいため、その身長差に、彼女は「あわわわ」と驚き、戸惑いの様子を見せる。
アグニスはそんな彼女を気にも留めず、そのままジェシカを見下ろし、開口した。
「俺に策がある。ジェシカ・ロックベルト、俺とチームを組まないか?」
「え? アグニスくんと、チームを?」
「そうだ。あとは、メリア・ドラセナベルを探し出し、チームを組む。俺、ジェシカ・ロックベルト、メリア・ドラセナベルでチームを組み……剛剣型最強のスリーマンセルを作り出す。そうすることで……優勝候補である、あの箒星という門下生3人とも互角に戦えるはずだ。いや……違うな。現状、剛剣型最強と思しきロザレナ・ウェス・レティキュラータスを、超える。それが俺たちがチームを組む目的だ」
「ロザレナを……超える……?」
「既に、分かっているだろう。剣王の枠は4枠しかない。このままでは箒星の門下生たちが順当に勝ち進み、枠はひとつしかなくなってしまう。そうなると、俺とお前、そしてメリア・ドラセナベル、キールケ、エリニュスなどの上位実力者同士で争うことになる。そうなる前に……この第二次試験で、奴ら箒星を叩くしかない」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「箒星の3人をこのまま野放しにしていたら、絶対に敗けるよ。私の目的は、グレイレウス・ローゼン・アレクサンドロスを倒すこと。だから……私と協力しない? あんたもみたところ、速剣型でしょ?」
エリニュスはそう、踊り子の恰好をした女性……エイシャへと声を掛けた。
エイシャは耳に髪を掛け、妖艶に微笑みを浮かべる。
「魅力的な提案ね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「こうしてここで会ったのも何かの縁さ。皆の者! ここは一緒にチームを組み、箒星を叩こうではないか! 何、安心してくれ。アーノイック・ブルシュトロームの孫であるこの俺……ルキウス・ブルシュトロームがいるのだから。不可能はなにもないさ!」
キランと歯を輝かせるルキウスに、女騎士ブリュエットは手を組み、恍惚とした表情を浮かべる。
「ネックレスを奪われた私に、手を差し伸べてくださるなんて……流石は最強の剣聖の血を引く御方! どこまでもついていきます!」
その二人の様子を見て、遠くに立っていたジークハルトはため息を吐いた。
「何故、私は、こんな連中に遭遇してしまったのか……」
そんな彼に、鼠耳が生えた獣人族の少年、ポンティキ・ベンラットが、声を掛ける。
「君がルキウス様の配下にならないなら、僕がルキウス様の配下になるけど?」
「好きにすると良い。私は、あの男のチームに参加する気はない。話し合いがしたいと来てみれば……大部分はただの自慢話。付き合っていられない」
踵を返すジークハルト。そんな彼に、岩の上に立つルキウスが、口を開く。
「待つんだ、ジークハルト。俺は、何も、3人だけでチームを組む気はさらさらない。君一緒に来るんだ。俺が、剣聖の子孫として、君たちを導いてやろう」
「……いったい貴様は何を言っている? この試験のルール上、3組しか、チームは作れないだろう」
「チームを作らなくても良い。ただ一緒のグループに居れば良い。第二次試験を勝ち残れるのは、9人だけだろう? なら……三つのチーム同士で組み、9人で生き残ることは可能だ。9人で挑めば、あの箒星の門下生も敵ではない。この試験を支配するのは……このルキウスだ。ははっ!」
そう言ってキランと歯を輝かせるルキウス。
そんな彼に、ジークハルトは目を細めた。
「馬鹿な奴かと思ったが……意外に考えているのか。口が上手いところと良い、まるで詐欺師だな、お前は」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……きっと、他の連中も、箒星を叩くためにチームを組もうとしていると思うよ。まっ、馬鹿のひとつ覚えというか何と言うか。キールケちゃんからすると、浅い考えこの上ないんだけど」
そう言ってキールケは肩を竦める。
そして彼女は不気味に微笑むと……目の前に立つロザレナに、声を掛けた。
「子豚……いいえ、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス。私とチームを組まない? あんたと私で、確実に、この第二次試験を勝ち残るの。どう? 面白くない?」
キールケの言葉に、ロザレナは大剣を構えたまま……訝し気に眉を顰めるのだった。




