第10章 二学期 第300話 剣王試験編ー⑱ 第二次試験『サバイバル・ランニング』
「お前たち。第一次試験を見て、どう思った?」
二階にある来賓室。そこで、ルクスは剣王たちを呼びつけ、問いを投げる。
そのルクスの問いに、各ブロックの試験官だったラピス、ロドリゲス、クローディア、アレフレッドたちは、お互いの顔を見合わせる。
そして、ラピスから順に、口を開いた。
「や、どーだったかって言われても……異常だったとしか言えないよね。赤ブロックは、ほぼロザレナちゃんが無双していたわけだし」
ラピスに同意するようにロドリゲスは頷くと、悩まし気な表情で開口する。
「こちらも同じような結果であった。まさか、あのマフラーのボーイが、参加者の殆どを倒してしまうとはな……あれほどの剣士が何故、今まで無称号でいたのか、不思議でならない」
二つ目の穴が空いた紙袋を被っているクローディアも、恐る恐ると手を挙げる。
「わ、私の黄色ブロックも、同じような感じでした……。ドリル髪の受験者の子……ルナティエさん?が、とても目立っていてすごかったです。あとは、亜人の子もすご……」
ルクスにギロリと睨まれたクローディアは、「ひぃ!」と悲鳴を上げて、ラピスの背後へと隠れる。
そんなクローディアの様子にラピスはため息を吐き、肩を竦めた。
「ちょーちょー、ルクスくーん? いちいちクロちゃんを怖がらせないでくれるかなー?」
「……亜人が第二次試験に進むなど、世も末だと思っただけだ。それで、アレフレッド。お前は緑ブロックを見て、どう思った?」
「ふむ。俺のところは、こう、何て言うか、ガラの悪い連中が多かったな。だが、キールケ・ドラド・バルトシュタインの能力は、なかなかのものだった。どういう原理か分からないが、あいつは触れることなく、参加者たちを倒していったからな。他にも、アルファルドや我が妹ジェシカといった、粒が揃っていたが……」
歯切れが悪くなるアレフレッド。そんな彼に対して、ルクスは首を傾げる。
「どうした?」
「あ、いや、すまん。受験者の中に、妙な奴がいてな。言っていることは支離滅裂で、闘気を使わずに、他の受験者の手を折り曲げたのだ。キールケやアルファルドに比べて、そこまで目立ってはなかったが……少し、気にかかる存在だった」
「えー? 闘気を使わずにって、そんなことできるものなのー?」
「いや、俺も不思議に思ったのだが、実際、あの男から闘気の気配は無かっ―――ブフォア!?」
ラピスの姿を視界に入れたアレフレッドは、鼻血を出して、その場に倒れ伏す。
その光景を見て、ラピスが眉間に皺を寄せた。
「またか」
はぁとため息を吐くラピス。ルクスはそんな状況を気にもせず、話を進めた。
「お前たちは、どの受験者が気になった?」
「え? この状況で話を進めるルクスも、なかなかにおかしいと思うんだケドー……。ええと、赤ブロックの中でだよね? うーん、見込みがあるって言ったら当然、ロザレナちゃんだろうけどー、ラピスちゃん的にはぁ、アネット・イークウェスちゃんが気になるかなぁ」
「ほう? ロザレナ・ウェス・レティキュラータスのメイドか。理由はなんだ?」
「とっても不思議な子なんだよねー。美味しそうな匂いがするの。ウフフフ」
「まるで意味が分からない……」
首を横に振るルクス。そして彼は、隣にいるロドリゲスへと視線を向けた。
「お前はどの受験者が気になった、ロドリゲス」
「青ブロックは、どの受験者も美しい闘志を持っていた。だが、一際輝いていたのは、やはりマフラーボーイと言えるだろう。彼の【縮地】は、とても美しい音色を奏でいた……! 強いてもう一人を挙げるのならば、アグニスボーイだろう。あの男の均整の取れた筋肉は、マリーランドに建つ英雄像のような輝きを放っていた……! やはり、命を削り、剣に身を投じる者たちは、総じて美しい……!」
自分の身体を抱きしめ、恍惚とした表情を浮かべるロドリゲス。
そんなロドリゲスから視線を外し、ルクスは、ラピスの背後に隠れているクローディアに目を向ける。
クローディアはビクリと肩を震わせると、声を震わせながら、開口する。
「き、黄色ブロックは……ルナティエさんと、メ、メリアさんが凄かったかと。あと、ヒルデガルトさんも頑張っていたと思います……こんな私が意見を言うなんておかしいですよねすみません死ぬので許してくださいあぁもう駄目だ何で私は生きているんだろうだから言ったじゃないですか私が生きていても人様に迷惑をかけるだけだって何で私生きてるの神様何で」
「ちょーちょー、クロちゃん、ストップ! 落ち込む度に手首ガリガリするのやめー!」
慌ててクローディアを止めるラピス。
ルクスはそんな二人から目を外すと、最後に、床に倒れ伏しているアレフレッドへと目を向ける。
「アレフレッド。答えろ。お前は緑ブロックで、誰が一番見込みがあると思った?」
「……お、おれ、は……キールケとジェシカを……い、いや、あいつらには、胸がない……胸の将来性がない……見込みはない……」
「キールケとジェシカに見込みがないのなら、誰だ?」
「……」
「気絶したか。まったく、剣神の孫とは思えない程の馬鹿っぷりだな、お前は」
そう言ってため息を吐くと、ルクスは額に手を当て、疲れた表情を浮かべる。
「今回の剣王試験、どうやら私たちが思っていた以上に、荒れるかもしれない。良いか、お前たち。どんなことが起こっても良いように、心して、第二次試験の運営に励むように。分かったな?」
「「「はい!」」」
返事を返す剣王たち。
その姿に頷いた後、ルクスは、背後で、壁に背を付けて立つ男に声を掛ける。
「お前から何か言うことはないのか? キリシュタット」
「俺は、面白いと思ったら好き勝手やらせてもらう。以上だ」
「……【剣王】の長とは思えない発言だな」
そう言って、ルクスは、キリシュタットを鋭く睨み付けるのだった。
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無事に第一次試験を終了して、第二次試験の控え室に到着した、その後。
俺たち満月亭の寮生は、第二次試験の控室の床に座って円になり、昼食を摂りながら情報交換を行っていた。
「あたしのところの赤ブロックは、アイリスって子とその従者のボルザークって奴が、なかなかに強そうだったわね。上手く連携が取れていたわ」
お嬢様はそう言って、ベーコンを挟んだパンに齧り付いた。
そんなお嬢様に対して、グレイが質問を投げる。
「赤ブロックに、ラティカという奴がいただろう。あいつはどうだった?」
「もぐもぐもぐ……ん、ラティカ?」
「鉱山族の女だ」
グレイは視線を動かし、控室の奥でブリュエットと共に食事を摂る鉱山族の少女へと目を向ける。
ロザレナはその視線を追いラティカへと目を向けると、不思議そうに首を傾げた。
「あの鉱山族の子がどうしたの? 知り合い?」
「あいつの名は、ラティカ・オーギュストハイム。つまり……前任の【剣神】だった、ルティカ・オーギュストハイムの親族だ」
「【剣神】の……親族……!」
グレイのその発言に、全員、緊張した面持ちを浮かべる。
……なるほど。あの鉱山族の少女を見た時に何処かで見た覚えのある顔だと思ったのは、そういうわけか。大森林で出会った【剣神】『旋風剣』ルティカ・オーギュストハイムの血縁者。確かに、あの【剣神】とグレイはいざこざがあったからな。グレイがあの少女を気にするのも当然の話か。
「オレは……ルティカに再び挑むと誓った。なのに、あの女は暴食の王に恐れを成して、【剣神】をやめてしまった。だからこそ、オレは奴と戦い、問いを投げてみたいのだ。ルティカはどうしているのかとな」
「あんた、前任の【剣神】と知り合いだったのね。不思議な縁ね」
感心したようにロザレナはそう言う。
グレイはコホンと咳払いをすると、続けて口を開いた。
「青ブロックは、アグニスとエリニュスはなかなか素養がありそうだった」
「グレイ。アンナさんはどうでしたか? 一緒のブロックでしたよね」
俺がそう、先程から気になっていた質問を投げてみる。するとグレイはこちらに視線を向けコクリと頷いた。
「あぁ、アンナですか。あいつが試験に参加していたことにはびっくりしましたが……あいつの場合は……何というか生き汚さで勝ったようなものですね。オレが峰打ちで吹き飛ばした瞬間、あの女は闘技場の縁に捕まり、何とか難を逃れたようですから」
「そ、そうだったんですか……」
掲示板を見たところ、ギークは脱落し、アンナは合格しているようだった。
周囲をキョロキョロと見渡し、アンナの姿を探してみると……彼女は、壁の傍でうなだれ、死にそうな顔でお腹を摩っていた。ご、ご苦労様です……うちの弟子が何かすみません……。
俺が心の中でアンナに謝罪をしていると、次はルナティエが口を開いた。
「わたくしの黄色ブロックは、まぁ、やはりメリアさんが飛びぬけて才覚を見せていましたわね。あのバトルロワイアルタワーというルール上、純粋な剛剣型というだけで有利すぎますもの。あとは……ジークハルト、貴方はメリアさん程目立っていませんでしたが、なかなか地味に優秀な活躍をしていましたわね? 魔法によるバフを駆使して最後まで闘技場を生き残っていたのは、流石でしたわ」
ルナティエの言葉に、ジークハルトは呆れたように首を振る。
「勘弁しろ。どう見てもお前の方が凄かっただろう。私はやはり、サポート型の魔法剣士だ。単身で戦うとなるとどうしても限界がある。バトルロワイアルタワーも……一次試験を突破するだけでギリギリだった」
ため息を吐き、手に持っているパンを口に運ぶジークハルト。
そんな彼に対して、ロザレナは不思議そうな様子で声を掛けた。
「ねぇ、ジークハルト。あんた、どうして【剣王】試験に出たの? 自分で言っていたけど、あんたって、他の人間と組んだ方が強さを発揮できるタイプよね? この試験に出るの、結構キツイんじゃないの?」
「お、お嬢様……! 何でもそんな明け透けに聞いては……!」
「いや、構わない。お前の言う通りだ、ロザレナ。私は、自分の能力を知っていながら、この剣王試験に参加した。その理由は……言語化するのは難しいが……そうだな。何か、明確な強さの指標が欲しかったのかもしれない。今現在、王宮は酷く荒れている。聖王が崩御してからというものの、私もいつ、王位継承者に殺されるのか分からなくなった。だからこそ……力を手に入れたいと、そう思ったのかもしれない。何かをやっていないと落ち着かない、といったところだろうか。剣王試験を受けた理由はそんなものだ」
そう言って食事を進めるジークハルト。
フレーチェルもそうだったが、現状、力のない王子の未来は暗い。
フレーチェルは現実を理解できずに、兄の傀儡となり、あてもなく配下を探している。
ジークハルトは全てを諦めつつも、力を手に入れるべく一人で奮闘している……と、そんなところか。
満月亭に来た当初は、まだ、聖王になることに意欲的な様子だったジークハルトだったが……今の彼の目には諦念の色が見て取れる。やはり、聖王の死と、ジュリアンとエステルの政争には相当、堪えているのかもしれない。
「あ、あの、それじゃあ、次は緑ブロックの情報だね」
暗くなった空気を払拭するように、ジェシカが手を挙げてそう答える。
「緑ブロックは、まぁ、何というか、何か酷かった!」
「酷かったって、どういうことよ、ジェシカ?」
「うん。何かね、キールケが対戦相手を煽ったり、アルファルドが対戦相手を人質に取ったり、何か頭のおかしい人が対戦相手の腕を折ったりしていたよ。地獄絵図だった」
全員の視線が、ルナティエの背後に立つアルファルドへと向けられる。
アルファルドは自分に視線を向けられていることに気が付くと、ハンと鼻を鳴らした。
「オレ様は、最後まで生き残るための最善の手を取っただけのことだ。あんなサバイバルゲームで、全力を出して体力削るのもアホだからな。……あぁ? なんだよ、その目は。文句でもあんのか?」
「何というか……相変わらずね、あんたは……」
そう言ってため息を吐くロザレナ。
そして彼女は改めて全員の顔を見つめると、再度、開口した。
「みんな、何とか第一次試験を突破できて良かったわね。でも……ここから始まる第二次試験は、そう簡単にはいかないかもしれない。ここから、何人か脱落する可能性もあるわ」
ロザレナの言葉に、グレイがフンと鼻を鳴らして答える。
「あぁ。そうだな。最終試験、第三次試験に生き残ることができるのは、9人まで。【剣王】になれるのは、4人までだ。オレたちの中の誰かは、確実に脱落するだろう」
全員、顔を見合わせ、頷き合う。
ここから先、試験が進むごとに、受験者は全員敵同士となっていく。
果たして四席しかない【剣王】の座を、誰が獲得することができるのか。
元【剣聖】としては、少し、楽しみではある。
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一時間後。第二次試験の控室に、ルクスが現れた。
ルクスはキリシュタット以外の【剣王】を引き連れて受験者たちの前に立つと、無表情で開口した。
「では、これより、諸君らを第二次試験の会場へと案内する。ブロックごとの列に並び、私たちについてきたまえ」
そう言って、ルクスは、最奥にある扉へと向かって行った。
剣王たちもルクスの後をついていき、受験者たちもゾロゾロとついて行く。
その途中、俺と目が合ったラピスが、投げキッスをしてきた。
どうやら、よくわからない理由で、あの子に気に入られてしまったようだな……。
そういう行為は、隣を歩くロザレナの眉間に皺が寄るので、やめてほしいところだ。
ルクスは扉の前に立つと、鍵を差し込み、両手を広げて両開きに開ける。
そして彼はそのまま、まっすぐと続く廊下を進んで行った。
剣王たちと受験者たちも、続いて廊下を歩いて行く。
数分後、ある一室に辿り着く。
その部屋の中央には、学級対抗戦で見た時と同じ、転移の結晶が宙に浮いていた。
ルクスは結晶の前に立つと、振り返り、受験達に向け声を張り上げる。
「この転移の結晶石を使い、諸君らには第二次試験会場へと向かってもらう。会場に着いたら、先に行った【剣王】たちの指示に従い、待機するように」
ルクスがそう口にした後、剣王たちが、転移の結晶に触れて移動を開始し始めた。
「ばいび~。また、第二次試験会場で会おうね~」
ウィンクをしてラピスが消えていく。
それを皮切りに、他の剣王3人も、結晶に触れて消えていった。
それを確認し終えたルクスは、赤ブロック列の先頭に立つロザレナへと視線を向ける。
「では、赤ブロックから順に第二次試験会場へと向かってもらおう。ロザレナ・ウェス・レティキュラータス、前に出たまえ」
「分かったわ」
そう言って前に出て行くお嬢様の背中に、俺はそっと声を掛ける。
「お嬢様。変なところには移動せずに、ちゃんと、その場で待機していてくださいね」
「分かっているわよ。もう、子供じゃないんだから」
頬を膨らませながら、転移の結晶の前に立つロザレナ。
そして彼女は手を伸ばして、結晶に触れて―――その場から消えていった。
「次、ロザレナ・ウェス・レティキュラータスの従者、アネット・イークウェス」
「はい」
俺は頷いて前に出る。
そして結晶に触れて……その場から転移した。
視界がグニャリと歪み、平衡感覚を失った後。
徐々に視界が元通りになっていき―――俺の目の前には、広大な森が広がっていた。
俺は現在、丘の上に立っており、崖下に広がる紅葉した森と湖、青い空を見つめていた。
「ここは……」
「お、君も来たんだねー。やっぴー」
そう言って、背後から声を掛けられる。振り返ると、そこにいたのラピスだった。
俺は咄嗟に、ラピスの目を見ないように、視界を手で覆い隠す。
そんな俺を見て、ラピスはクスリと笑みを溢した。
「ちょーちょー、そんなあからさまに隠さなくたって大丈夫だよー。私の魔眼、室内、尚且つ大人数の時に効力が深まるものだからー。君、普通の男性よりも効果半々って感じだったし。ここなら私の目を見ても大丈夫大丈夫ー」
俺は恐る恐ると手を退けて、ラピスの顔を見つめる。
確かに……先ほどよりは効力が薄いように感じられる。
ラピスはニコリと微笑むと、俺に傍に詰めてくる。俺は逆に一歩、後退した。
「ねね、何で、君、私の魔眼が効くの? 何で男の子の匂いがするの? 教えて教えてー」
「そ、そんなことを言われても、私にも分かりませんよ! というか、逆に何でラピスさんはその、男性の匂い?が分かるのですか? それも加護の力か何かなのですか? 私はご覧の通り、生憎、女性、なの、ですが……」
自分で言っていて泣きたくなってくるが、ここはこう言うしかあるまい。
「んー? あー、そうだよねぇ。匂いって言われても分からないよね。そうだなぁ、説明、難しいなー、うーん」
目を瞑り、一頻り悩んだ後。ラピスは片目を開けて、いたずらっぽく微笑んだ。
「ねー、アネットちゃん。このことは、【剣王】の誰にも言わないで貰えるかな?」
「このこと……? 男性の匂いが分かること、ですか?」
「そそ。代わりに、第二次試験が終わったら、私のことをアネットちゃんに教えてあげても良いよ。見たところ、アネットちゃん、悪い人じゃなさそうだしね」
いったいラピスが俺に何を話したいのかは知らないが……俺としては極力、この子とは関わりたくはない。俺の正体に勘付かれる可能性があるからだ。
「よく分かりませんが、分かりました。それで、あの、ロザレナお嬢様は何処なのでしょうか? 周囲には見当たらないのですが……」
キョロキョロと辺りを見渡してみるが、そこに、ロザレナの姿はなかった。
この場にいるのは、俺とラピスのみ。帰りの結晶石も見当たらなかった。
俺の疑問を理解したのか、ラピスが「あー」と言って、口を開く。
「この第二次試験に転移した結晶はねー。転移先がランダムに設定されてるんだー。転移先は、転移石を持っている四人の剣王の内の誰かの傍だから、アネットちゃんのご主人様のロザレナちゃんは、別の剣王の元に転移したんだろうねー」
「え゛」
俺は思わず、汗をダラダラと流してしまう。
ということは、あれか? 俺、お嬢様とは別々の試験を受けることになるのか?
「あ、でも、安心してね。全員、受ける試験自体は一緒なんだよ。だから、試験中にロザレナちゃんに会うことはできるかもしれないねー……おっと、全員揃うまであんまり試験内容については話しちゃいけないんだった。今の聞かなかったことにしてねー」
そう言って後頭部を撫でて、「たはは」と笑みを溢すラピス。
どういう試験内容なのかは分からないが……お嬢様と会うことは一応、可能なのか。
赤ブロックで一緒になれたことを喜んでいたが、ここにきて離れ離れになってしまうとは、ついていないな。
「……あれ、ここは……?」
すると、その時。次の転移者である、ラティカが姿を現した。
その姿を見て、ラピスが「あ、次の子も来ちゃったから、待機するように言いに行くねー。あんまり出歩かないようにしてね、アネットちゃんー」と言って、その場を離れていった。
第二次試験会場の転移先はランダム、か。困ったものだな。
恐らく試験会場は、崖下に広がるあの森の中なのだろう。
あの広大な森の中で、敵に遭遇せずにお嬢様だけを探すとなると、骨が折れそうだ。
「にしてもあの森……どうにも見覚えがあるんだが……」
あれ……多分、オフィアーヌ領の……フィアレンスの森……だよな……?
まさか、暴食の王の痕跡を見つけたあの森が、第二次試験会場になるのか?
数分後。数人の受験者がこの場に転移してくる中、ようやく、知り合いの姿を見つけることができた。
「あれ? アネット?」
そこに現れたのは、キョトンとしているジェシカだった。
知らない人間だらけの中、心細かった俺は、思わず彼女に抱き着いてしまう。
「ジェシカさーん! 良かったー! 知り合いが来てくれて良かったー!」
「わ、ちょ、ちょ、アネット!? お、落ち着いて!」
ジェシカは俺を引き剥がした後、辺りをキョロキョロと見渡した。
「ここって……どこなんだろう? 見たことのない場所だけど?」
「恐らく、フィアレンスの森かと思います」
「え? フィアレンスの森? 大森林近くの? ええ~~~っ! 王都から随分と遠くに来ちゃったんだね~~!! ということは、ここが、第二次試験会場になるのかな!?」
「そうだと思います」
ジェシカは「はえ~」と、感慨深そうに周囲を見渡した。
すると、その時。背後から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「え、ここ、フィアレンスの森? やーりぃ! だったらここは私たち冒険者のフィールドじゃない! 単純な力比べじゃなければ、私にも勝機があるかもしれないわ!」
振り返ると、そこには、アンナの姿があった。
アンナは俺に気付くと、小走りで駆け寄って来る。
「アネットちゃん! やったわね! ここは前に私たちが来た場所よ! 暴食の王がたくさんの死体を吊るしていた場所と考えるとちょっと身の毛もよだつけど……でも、地の利は私たち冒険者の方が有利よね!」
「アンナさん。貴方も一緒の場所に転移したのですね」
「え? 一緒の場所? それってどういうこと?」
アンナとジェシカに、俺は、ラピスから聞いた、第二次試験会場へ向かう転移結晶は、ランダムに転移する設定になっていることを伝える。
すると二人は同時に、驚きの表情を浮かべた。
「ということは……別の受験者たちは、他の三つの場所に転移したということになるのね。何故、受験者を分ける必要があったのかしら? 最初の100人と違って、今はもう、24人しかいないのに」
「何かしらの理由で、別々のスタート地点に分ける必要があったのかもしれませんね。試験内容がまだ分からないので、その意図は計りかねますが」
「そうね……。それよりも、アネットちゃん、そこの子は貴方のお友達?」
アンナがそう言って、ジェシカに目を向ける。
俺はそんなアンナに、コクリと頷きを返した。
「はい。私とお嬢様が通う騎士学校の寮生なんです。名前は、ジェシカ・ロックベルト。元剣神、ハインライン・ロックベルト様のお孫さんなのですよ」
「ええ~~っ!?!? すっご!!!!」
「それで、ジェシカさん。この方は、冒険者のアンナ・ハーミットさんと言います。私とお嬢様の幼馴染で、お嬢様が病になった時に、冒険者の先輩として一緒に大森林に向かってくださったんです」
「あ、あの時、手伝ってくれた冒険者って、アンナさんのことだったんだ! 私の親友を助けてくださって、ありがとうございました!」
「いや、全然! ロザレナちゃんは私にとっても幼馴染だからさ! 助けるのは当然だよ! まぁ……幼馴染の中には、約一名、ロザレナちゃんを見捨てようとした奴もいたけど……」
「え?」
「な、なんでもないよー! あはははは!」
ミレーナさんとか、ミレーナさんとかな。
何となく、ジェシカとアンナは性格的にも相性が良さそうにみえる。
どちらも元気系キャラで、見ていて微笑ましくなるな。
そんな二人を眺めていると、試験会場に6名が転移し終わり、ラピスが全員の前に立った。
「ちゅうもーく。これから、第二次試験のルールを説明しまーす。よく聞くように!」
その言葉に、全員、一列横に並び、前を向いた。
「まず、第二次試験の名前ですが、『サバイバル・ランニング』と言います。ルールは簡単、皆さんにはこれを奪い合ってもらうだけです」
そう言ってラピスは懐から、宝石付きのネックレスを取り出した。
「このネックレスを、今から受験者に一人一つずつ、配っていきます。それを、このフィアレンスの森の中で……自分の分も合わせて、六つ奪って集めることが、第二次試験の勝利条件となっています」
第二次試験の試験内容は、他者からネックレスを奪い、六つ集めるということか。単純明快なルールだな。
「個人合格者に必要なネックレスの数は三つ、三人チームを組んだ場合は、六つになります」
「え……? 三人チームを組む……? チームを組むこともできるんですか!?」
アンナの疑問にラピスはコクリと頷くと、今度は腰のポーチから腕輪を取り出し、口を開く。
「今から皆さんに、ネックレスと共に、この腕輪を付けてもらいます。この腕輪は、チームを組みたい人の腕輪と接触させて『同盟』と唱えることで、腕輪の色が同じ色に変化します。そうすることで、チームを組むことが可能になります。ですが……一度チームを組むと、解散はできなくなるので気を付けてください」
つまり、チームを組んだら最後、第二次試験が終わるまで一蓮托生になるわけか。
もし、事前に他チームに買収されていて、夜間にネックレスを奪うように指示されている者が仲間入りした場合……大変なことになりそうだな。
一見、チームを組んだ方がネックレスを奪う数が減り、有利に進むように見えるが、お互いを知らない人間が多い以上、チーム決めは慎重な見極めが必要となってくるわけか。
「個人で六つ、チームで六つ、ネックレスを集め終えることができたら……フィアレンスの森の奥にある洞窟を抜けて、ゴール地点を目指してください。無事にゴールに到達できた者を、第二次試験の合格者とします。これは、早い者勝ちですので、九名の合格者が出た時点で、試験は終了となります。一応、試験範囲内に出ないように、第二次試験のエリア内にはロープで線が引かれています。その線を超えたら失格になりますので、注意してください。腕輪は発信器の役割も持っていますので、エリア外に出た瞬間、一発でバレますからね〜」
ラピスは顎に手を当て、「あとは……」と呟く。
「あとは……そうだ。マップだ。エリア内とゴールまでの道順が書かれているマップを、皆さんに配布します。ネックレス、腕輪、マップ。これらが皆さんが第二次試験を受けるために必要な道具です。一人ずつ配っていきますので、一列になって並んでください」
六名の受験者たちが、ラピスの前に並ぶ。
俺もジェシカとアンナと一緒に、ラピスの前に並んだ。
第二次試験……『サバイバル・ランニング』か……。
ラピスは、この試験に時間制限があるとは言っていなかった。
つまり……この試験、九人の合格者が出るまで、フィアレンスの森でサバイバルしないといけないということだ。
特別任務の時は事前に野営道具を貰えたが、今回はネックレスと腕輪とマップのみ。
なかなかに……ハードな試験かもしれないな。




