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第10章 二学期 第286話 剣王試験編ー④ どん底から這い上がった狼たち

「はぁい、みなさん、おはようございます~」


 ルナティエとヒルデガルトの激しい言い争いの後。


 席に着いて数十分程待つと、教室に、目を擦りながら猫耳幼女が姿を現した。


 彼女はダボダボの袖で目元を拭うと、ふにゃあと欠伸をし、教壇の前に立つ。


「……それじゃあ、さっそく出席を取りますよーっと。アリスさーん」


「はい」


「アストレアさーん」


「はいっ!!」


 手を挙げて元気よく点呼に応じるアストレア。


 肩越しに振り返り彼女を見つめていると、グッとサムズアップしてくる。


 オフィアーヌの御屋敷で会った以来だが、変わらず元気そうで良かった。


 教室の奥に目をやると、ガゼルの姿も確認できる。


 彼は俺と目が合うと、微笑を浮かべてペコリと頭を下げてきた。


 見たところオフィアーヌ傘下の貴族である二人に、問題は無さそうだ。


 きっとコレットたちが、うまくオフィアーヌを統治してくれているのだろう。


 まぁ、手を取り合った今のオフィアーヌ家のみんなに、最早心配などないのだが。


 俺は前を向くと、出席を取り続けるルグニャータをじっと見つめる。


「エイシャさーん」


 ぼけーっとした顔で出席を取り続けるルグニャータ。


 父の日記には、ルグニャータの存在があった。


 彼女は父ジェスターの冒険者仲間だということだったが、いったいどういう関係だったのだろう。


 彼女は……元聖騎士だ。ゴーヴェンの命令で父に近付いた可能性も捨てきれない。


 そう考えると、俺のことを監視するために、担任教師になった可能性もある。


 だけど、今までのルグニャータ先生のことを考えると、どうにも敵には思えない。


 先生は、リーゼロッテと同じくゴーヴェンの忠実な手下なのか、敵なのか―――――それとも……。




「はーい、それでは、出席も取り終えましたのでー、みなさん今から迎館ホールに行きますよー。今日は休校開けということもあり、ゴーヴェン学園長の朝礼会議があります。ベルゼブブの件や聖王陛下のこと、あと特別任務の成績についてお話があるみたいので、出席番号順で廊下に列を作ってくださいにゃ~」


 あふぅと大きく欠伸をした後、ルグニャータは猫耳の裏をポリポリと掻いて、廊下へと出る。


 それを皮切りに、生徒たちは席を立ち、気怠そうな様子で廊下へと向かって行く。


「あたしたちも行きましょうか、アネット」


「はい、お嬢様」


 隣の席から聞こえてきたロザレナの言葉に、俺は頷き、席を立つ。


「しかし、特別任務の成績について話すみたいだけど、あれ、ベルゼブブが出てきたから中止になったんじゃなかったの?」


「一応、二日間の集計結果だけ見て、成績を決めるのではないでしょうか?」


「あれ、あたしたちのパーティーが狩った魔物の部位って、どうしたんだっけ……?」


「確か、エリニュスさんが持っていたのではないですか?」


「そうだった。エリニュスの奴、ちゃんと教師に届けたのかしら? あと、ベルゼブブも一体倒したのだから、その部位を持って帰るべきだったわね。失敗したわ……あれ以上の獲物は、地下水路にはいないというのに」


 パシッと手のひらに拳をぶつけるお嬢様に、俺は呆れた笑みを向ける。


「お嬢様のお話では、級長たちと協力して倒したのでは? 一人の手柄にしてはいけませんよ?」


「むー。でも、トドメを刺したのはあたしなんだから。まぁ……確かに、アグニスとジークハルトの足止め、シュゼットとルーファスの一撃が無かったら、倒せてなかったかもしれないけどさー」


 頬を膨らませ廊下に向かって歩いて行くロザレナ。


 俺はそんな彼女に微笑みを浮かべた後、ジッと、お嬢様の背中を見つめる。


(兵隊の中では最弱の探索兵(シーカー)種とはいえ、お嬢様がベルゼブブを倒すことができるとは……正直、驚きだな)


 末端の兵隊といえども、腐っても災厄級。


 あの硬い装甲を持つベルゼブブ相手に一太刀を浴びせるとは、正直、今のお嬢様の実力では考えられない偉業だ。


 何か……剣とは別の力で、奴を倒したとしか考えられない。


(まさか、お嬢様、闇属性魔法を……? 俺に内緒で使ったのか……?)


 お嬢様をじっと見つめて思考していると、俺たちの進路にある人物が姿を現した。


「……やっほ。アネットさん、やっぱり貴方、凄い人だったんだね」


 そう言って声を掛けてきたのは、ルイーザだった。


 ルイーザは長い前髪を耳に掛け、クスリと、俺に妖艶な笑みを見せてくる。


「まさか、先代オフィアーヌ家の息女だったなんてね。それも、特別任務で死を偽装して、アンリエッタを策に嵌めて失墜させちゃうなんて。私もあの時、王宮晩餐会の会場にいたんだけど、びっくりしちゃった。ワクワク……しちゃった」


 口元に手を当て、フフフフフと笑い声を上げるルイーザ。


 そんな彼女に対して、ロザレナは不機嫌そうな表情を浮かべる。


「ねぇ、そこ、退いてくれない? あたしたち、早く廊下に行きたいんだけど」


 ロザレナの言葉を無視して、ルイーザは俺を見つめて、続けて口を開く。


「でも、メイドに戻ったのは意外だったかな。ね、君……本当はもっと色々なことを隠しているよね? どうしてその実力を表に出して使わないの? 君、本当は級長になれるくらいの能力があるでしょう? 貴族界で暴威を振るっていたあのアンリエッタを倒すくらいなんだからさ」


 ルイーザ、か。奴は元々、俺の実力を疑っていた。


 オフィアーヌ家の一件で、ますます、俺に対しての疑念が強くなった……いや、あの様子を見るに、確信に至ったというところか。


 流石に、俺がベルゼブブを倒したことまでは、予想できていない様子だが。その点については一先ず安心か。


「アネットさん。前に私、言ったよね。私は、この学園で最後に勝つ生徒の配下になるって。今、天馬(ペガサス)クラスは級長と副級長が失踪して、リーダーの座が不在になっているよね。ねぇ……もし、君のその気があるんだったら、私、君を級長と認めて、一緒に天馬(ペガサス)クラスに行っても――――」


「邪魔だって言っているのが、聞こえないの?」


 ロザレナが、ルイーザに強烈な殺気を見せる。


 その殺気に気付いたルイーザは、ロザレナを一瞥した後、俺にフフッと笑い掛け、踵を返した。


 そしてヒラヒラと手を振り、彼女は廊下に向かって去って行く。


「これからの君の動向、期待しているから、アネットさん」


「何なの、あいつ!」


 ロザレナは眉間に皺を寄せた後、続いて、誰もいなくなった教室から出るべく、足を進めた。


 俺はそんな彼女の後をついて行きながら、顎に手を当て思考する。


 今まではメイドであることで実力を隠し、学園内でも目立たずに過ごすことができていたが……オフィアーヌ家の息女であることを明かした以上、これからはルイーザのような聡い生徒に目を付けられる可能性があるな。


 はぁ……まぁ、クソ面倒臭いが、やることは変わらない。


 俺は元貴族のただのメイドということで、目立たずひっそりと生きて行こう。


 ガキどもの闘争には、興味もないし手を出す気もさらさらねぇからな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 迎館ホールに辿り着くと、そこには既に他の生徒たちが集まっていた。


 俺たち黒狼(フェンリル)クラスは二列になって最前列、一期生が並んでいる場所へと通される。


 出席番号順ではあるが、基本的に二列の先頭は級長と副級長がつくことになっている。


 なのでメイドである俺も必然的に主人の後ろ、つまり列から二番目に待機することになってしまった。何となく、気恥ずかしい。


 右の列の先頭にロザレナお嬢様、左の列の先頭にルナティエ。


 ロザレナお嬢様の背後に俺、ルナティエの背後、俺の隣にアルファルドが並ぶことになった。


「よぉ、久しぶりだな。元気だったか、お前ら」


 その時。右隣の列の先頭に立っている級長が、ロザレナとルナティエに声を掛けてきた。


 隣の列に視線を向けると、そこにはアグニスとルーファスの姿があった。


 ルーファスは二本の指を顔の横に掲げ、口笛を吹き、気さくに挨拶をしてくる。


 そんな彼に対して、ロザレナは呆れた様子でため息を溢した。


「相変わらず、能天気な顔をしているわね、ルーファス」


「おいおい、この端正なベビーフェイスを捕まえて能天気はないだろ、能天気は。まぁ、いいや。ロザレナ、ルナティエ。知っているとは思うが、どうやらこの前の特別任務の結果が公表されるらしいぜ。誰が勝つと思う?」


「あたしたちのクラスに決まってるでしょ!!」


「まぁ……二日間の成績を考えたら、牛頭魔人(ミノタウロス)クラス、黒狼(フェンリル)クラス、毒蛇王(バシリスク)クラスのどれか、でしょうね。級長の始末に失敗した天馬(ペガサス)クラスは間違いなく最下位、鷲獅子(グリフォン)クラスもキールケの策頼りみたいでしたし、成績は振るってないと思いますわ」


「ヒュー、冷静な分析だな、ルナティエ。概ね、俺も同じ考えだ。いや、ちょっと違うか。俺は、勝者は牛頭魔人(ミノタウロス)クラスか黒狼(フェンリル)クラスのどちらかだと思っているぜ。毒蛇王(バシリスク)クラスは面白い策を打ってきたが、シュゼットはベルゼブブに邪魔されて、俺たち級長を一人も狩ることができていなかった。あいつが単騎で無双できるスペックがあることは認めるが、所詮一人。魔物の部位を集めるには限界があると俺は見ている。転移の魔道具持っていなかったみたいだし、教師に魔物の部位すら届けられてなかったんじゃねぇかな」


「……二日間の成績で見たら……黒狼(フェンリル)クラスと鷲獅子(グリフォン)クラスの一騎打ち、というわけですか」


「あぁ。どれだけ魔物を狩れたかは、俺たちの……切り札次第だな」


 そう言ってルーファスは隣にいるアグニスに視線を向け、ルナティエも同じように、ロザレナへと視線を向ける。


 ロザレナとアグニスは睨み合い、両者、火花を散らしていた。


「っと、見ろよ。鷲獅子(グリフォン)クラスのお出ましだぜ」


 ルーファスのその声に、俺とロザレナ、ルナティエは、チラリと背後を伺って見る。


 すると、ちょうど、迎館ホールに鷲獅子(グリフォン)クラスが現れた。


 列の先頭に立っていたのは―――――キールケではなかった。


 そこにいたのは、真剣な表情をしてホールを堂々と突き進む、ジェシカだった。


「ジェシカ!! 貴方、鷲獅子(グリフォン)の級長になっ――――もがぁ!!」


「ちょ、静かになさい、ロザレナさん! 目立つでしょうが!!」


 ルナティエに口を抑えられるロザレナ。


 だが彼女はジェシカが級長になったことを喜んでいるのか、大振りで手を振っている。


 それに気付いたジェシカは一瞬、手を振り返そうとするが、隣にいたジークハルトに止められ、照れた様子で手を下げていた。


 そして鷲獅子(グリフォン)クラスは牛頭魔人(グリフォン)クラスの横に並んだ。


鷲獅子(グリフォン)の新級長は、ジェシカ・ロックベルトになったか。副級長はジークハルトみたいだな。よぉ、鷲獅子(グリフォン)のお二人とも、ご機嫌は如何?」


 ルーファスにそう声を掛けられたジェシカとジークハルトは、同時に口を開く。


「あははは……これから同じ級長としてよろしくね、ルーファスくん」


「ジェシカ、この男の言葉にはあまり耳を貸さない方が良い。奴は口八丁の詐欺師だからな。あまり交流を深めない方が適切だ」


「おまっ、ちょ、酷いこと言うなよ、ジークハルト。お前が級長の座を降りた時は、俺、結構悲しかったんだぜー? というか、キールケはどうしたんだ。列を見ても見当たらないが……どこ行ったんだよ、あの我儘お嬢様は」


「奴は、学園に来ていない。籍はあるようだが……恐らく、もう来ないと俺は見ている」


「あらあら。ロザレナにやられたことで折れちゃったのかねぇ。あいつ、性格は難ありだけど、実力だけはあるんだけどなぁ。惜しいねぇ。鷲獅子(グリフォン)クラスがいらないなら、うちに引き抜きたかったぜ」


「それは……本気で言っているのか? あいつをクラスに入れて、まともに動かすことができるとでも?」


「ふふん。まぁ、そこは俺の巧みな交渉術次第ってとこで」


「いくらお前でも無理だと思うがな。キールケは誰にも従わない」


 ルーファスとジークハルトが会話をしている途中、ロザレナがルナティエの制止を振り切り、手を挙げてジェシカに声を放った。


「ジェシカ! ジェシカ! 級長、おめでとうー!!」


「あ、こら、ロザレナさん! 二列先にいるジェシカさんに声を掛けるんじゃないですわよ!! 恥ずかしいっ!!」


 ハイテンションのロザレナに、ジェシカは「えへへ」と照れた様子で笑みを浮かべ、小さく手を振った。


 その様子を微笑ましく見つめた後、俺はチラリと、他のクラスを観察してみる。


 俺たちの左隣の列は、天馬(ペガサス)クラスだった。


 天馬(ペガサス)の級長、副級長が立つ先頭には、誰も立っていなかった。


 生徒たちは全員、お通夜のように顔を俯かせている。


 まぁ……リューヌとバドランディスはもう、学園には戻って来ないだろう。


 ヴィンセントによって『死に化粧の根(マンドラゴラ)』の保持を暴かれ、ルナティエによって完膚なきまでに叩きのめされた。あいつら二人が表に上がってくることは、金輪際ないと思われる。


 ルーファスの言う通り、最下位は天馬(ペガサス)クラスで決まりだな。


 最下位のクラスは退学者が出るというのだから、あのお通夜のような雰囲気も当然といえるか。


 俺は次に、最奥にある毒蛇王(バシリスク)クラスに視線を向ける。


 先頭には、シュゼットとエリニュスが立っていた……が……。


「じー」


 何故かシュゼットと、目が合った。いや、あの姉はずっとこちらを見つめていた。


 何……何なのですか、お姉さま? 何故、私のことを見つめていたのですか?


 シュゼットは俺と目が合うと、またしても両手を広げてくる。


 その手が、隣に居るエリニュスの頬にぶち当たり、エリニュスが頬を摩りながらシュゼットに何やら文句を言っていた。


 だがシュゼットは気にするべくもなく、ただ真顔でこちらを見つめ、両手を広げ続ける。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……!!!!!


 何なの、あのお姉さまは……! いったい何がしたいの……!?


 俺はシュゼットから視線を外し、壇上を見つめ、朝礼会議が始まるのを待つことにした。


 常に視界の端にいる姉、流石に怖すぎる。






 数分後。壇上に、ゴーヴェンが姿を現した。


 その瞬間、ホールに集まった生徒たちは一斉に雑談を止めて黙り込み、壇上に視線を向けた。


 ゴーヴェンは演説台の前に立つと、拡声器の魔道具に手を当て、口を開いた。


「おはよう、諸君。こうして諸君ら全員と顔を合わせることができて、私は、とても嬉しく思う。先のベルゼブブの一件は、大きな被害をもたらした。生徒たちが誰一人欠けずにこうして学園に集まれたことは、奇跡と呼ぶべきものだろう。まずは、この奇跡に対して、女神アルテミスに感謝を」


 俺が地下で暴れていたから、ベルゼブブ・クイーンは地下水道に残していた兵隊を最優先脅威である俺へと差し向けてきた。


 だから、ベルゼブブたちは地下水道の上層に上がることはなく、生徒に被害が及ぶことがなかった。


 俺も間接的にガキどもを守ることができて、何よりだ。


「だが、皆も知っての通り、先日、聖王陛下が崩御なされた。実に痛ましい出来事だ。我らが陛下を悼むために、これから亡き陛下に黙とうを捧げたいと思う。――――――黙とう」


 ゴーヴェンは目を瞑り、胸に右手を当て、頭を下げる。


 生徒たち全員もそれに倣い、胸に手を当て、頭を下げた。


 そして、数分程、黙とうをし終えると―――ゴーヴェンは顔を上げ、口を開いた。


「これで、黙とうは終わりだ。陛下がお亡くなりになられたこれからの聖グレクシア王国は、恐らく混迷を極める。よりいっそう、国を支える若き勇士が必要となってくるだろう。諸君ら騎士候補生たちにも、これからは厳しい任務を課していくかもしれない。だが、その全てはグレクシア王国の未来のため。諸君らの活躍を心から祈っている」


 その後、ゴーヴェンはこれからの学園についての話をしていった。


 そして数十分程が経ち、ついに、特別任務の成績発表の時間となる。


「さて。ではこれより、先月行われた一期生の、特別任務の成績を発表する。他の学年の生徒には関係のないことかもしれないが、しばし耳を傾けてくれると有り難い」


 ゴーヴェンのその言葉に、天馬(ペガサス)クラスの生徒が恐る恐ると挙手をした。


「あ、あの、ゴーヴェン学園長! ベルゼブブの出現で、特別任務は、中止になったのではないのですか!? 規定通り三日間行われていませんし、このまま成績を確定させるのは……あまりにも不条理だと思います!」


「ククク。甘ったれたことを言うなよ、小僧。任務とは、時に、予期しないアクシデントが起こり中断させられることもある。その時、聖騎士は上へ現状報告する責務がある。その時発揮できた実力を、上は判断し、部下を優秀かそうでないか評価する。騎士候補生も然り、だ。貴様らは二日間、私が命じた任務に応じた。ならば、私にはその二日間での能力を評価する義務がある」


 ゴーヴェンの言葉に、天馬クラスの生徒たちは顔を青ざめ、俯かせた。


 リューヌというイカれた級長を持ってしまったクラスは、可哀想なものだな。


「では、最下位から順に発表をする。――――最下位、天馬(ペガサス)クラス。総合ポイントは72」


 天馬(ペガサス)クラスは既にその結果を分かっていたのか、声も上げなかった。ただ彼らは、俯いていた。中には、泣いている者の姿もあった。


「4位、鷲獅子(グリフォン)クラス。総合ポイントは120」


 一先ず退学者が出なかったことに、ジェシカとジークハルトは安堵のため息を吐く。


 鷲獅子(グリフォン)クラスはキールケが好き勝手やっていたから、本来の実力はこの結果には反映されていないだろう。今後の任務や試験は、ジェシカとジークハルトの実力によって左右されるだろうな。


「3位、毒蛇王(バシリスク)クラス。総合ポイントは151だ」


 その発表に、毒蛇王(バシリスク)クラスの生徒たちは不満そうにシュゼットを見つめる。一番苛立ちを隠せなかったのは、エリニュスだった。


「あんた! 私に約束したわよね! 自分の策だったら、1位を取れるって!! なのにこの結果はどういうことよ!! 私、あんたの取引に応じてあんたの妹を守ってやったのよ!?」


「守って、やった? フフ、フフフフ。おかしなことを言いますね、エリニュスさん。結局貴方は護衛の任務をまともに完遂することができずに、彼女を見失ったではないですか」


「そ、それは……っ!」


「彼女の身に何かあったら、私は、貴方を朝礼の場で串刺しにしていましたよ? 感謝してくださいね。それと……勘違いしている者が多いようですから言っておきますが、私の計画に問題はありませんでしたよ? あの蠅が出てくることが無ければ、私は無能な皆さんの代わりに、大量のポイントを稼ぐことができていました。何か文句でもおありですか?」


 シュゼットの睨みに、毒蛇王(バシリスク)クラスの生徒たちは怯え、目を逸らす。


 そんな彼らに、シュゼットはつまらなそうにため息を溢した。


「―――――シュゼット・フィリス・オフィアーヌ。私語は慎みたまえ」


「はい。申し訳ございませんでした、学園長。どうぞ、お話を続けてください」


「……次、2位は――――牛頭魔人(ミノタウロス)クラスだ。総合ポイントは172」


 その言葉に、ルーファスはチッと舌打ちをして、手のひらを目の上に当てた。


 アグニスは「ふむ」と口にして、腕を組みながら目を伏せる。


牛頭魔人(ミノタウロス)クラスは、突出して非常に優秀なクラスだった。二日間でここまでのポイントを稼ぐことができたクラスはなかなかいない。賛辞の言葉を与えよう。支配者(ルーラー)級の魔物を倒したのも大きかったな。一位とほぼ僅差だった」


 支配者(ルーラー)級はベルゼブブに殺されたって話だったが……ルーファスの奴、ちゃっかり部位を持ち帰っていたってことか。


 ゴーヴェンはコホンと咳払いをすると、続けて、開口した。


 ロザレナとルナティエは、ただまっすぐに、ワクワクした表情で壇上を見つめていた。


「―――――――1位、黒狼(フェンリル)クラスだ。総合ポイントは186」


「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

「やりましたわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」


 手を合わせて喜ぶロザレナとルナティエ。


 ゴーヴェンはそんな二人にフッと鼻を鳴らすと、拡声器の前で声を発する。


「歴代の黒狼(フェンリル)クラスで、この時期の特別任務で1位を取った者は、数十年いなかった。実に、素晴らしい快挙といえる。何よりも凄いのが……ロザレナ級長とルナティエ副級長が稼いだポイントが、尋常ではなかった点だ。通常、級長と副級長は、実力に開きがあることが多いのだが……ルナティエ・アルトリウス・フランシアは、級長並の成績を持っていた。まさか、支配者(ルーラー)級を倒した牛頭魔人(ミノタウロス)クラスに勝つとはな。恐れ入った」


 ロザレナとルナティエが大量の魔物を狩った結果、支配者(ルーラー)級を倒した牛頭魔人(ミノタウロス)クラスにも勝つことができたということか。


 まぁ、俺は何となく、この結果が分かっていたような気がする。


 既にこのダブルお嬢様がたの実力は、他を凌駕しているからな。ゴーヴェンの言う通り、黒狼クラスには級長が二人いると言って良い。


「さて。特別任務の報酬だが、1位の黒狼(フェンリル)クラスには、勝ち星三つ・トレード券・金貨五百枚を与えよう。2位の牛頭魔人(ミノタウロス)クラスには、勝ち星二つ・銀貨五十枚を与える。3位の毒蛇王(バシリスク)クラスには、勝ち星一つを与える。4位の鷲獅子(グリフォン)クラスには、報酬無しだ。5位の天馬(ペガサス)クラスには、ペナルティとして退学1名を選出してもらう」


 歓声と悲鳴が同時に鳴り響く。


 ルナティエは、テンションが上がった様子で、ロザレナに声を掛ける。


「ロザレナさん! トレード券ですわよ! 他のクラスの強い生徒をクラスに引き入れることができますわよ! 誰にしますの!」


「え、それは、勿……論……」


 ロザレナは、二列先にいるジェシカへと視線を向ける。


 その視線に気付いたジェシカは、困った笑みを浮かべて、顔を横に振った。


「そうよね……元々、トレード券を狙っていたのは、ジェシカをクラスに引き入れるためだったけど……確か、トレード券は級長と副級長には使えないんだっけ。使えたとしても、それは、ジェシカが嫌がるわよね。あの子は鷲獅子(グリフォン)クラスで戦っていくことを決めたんだから……」


 うーんと悩むロザレナに、ルナティエが声を掛ける。


「後でじっくり考えても良いんじゃありませんの? 無理やり他クラスの生徒をこちらに引き入れても、黒狼(フェンリル)クラスに反抗的だったら意味ないですし」


「それもそうね。とりあえずは……保留にしておくわ」


 ロザレナがそう頷いたのと同時に、ゴーヴェンが開口した。


「特別任務の結果に応じて、クラスの総合勝ち星を集計する。黒狼(フェンリル)クラス勝ち星4。牛頭魔人(ミノタウロス)クラス勝ち星3。毒蛇王(バシリスク)クラス勝ち星2。鷲獅子(グリフォン)クラス勝ち星2。天馬(ペガサス)クラス勝ち星0。―――――今一番、聖騎士に近いクラスは、黒狼(フェンリル)クラスだ」


 ワーッと、黒狼クラスの生徒たちから歓声が上がる。


 ついに、落ちこぼれの黒狼クラスが、一期生の中の頂点に立った。


 どん底から這い上がり、クラスの頂点に立つことができた黒狼クラス。


 クラスメイトたちは涙を流し、友人と喜び合い、ロザレナ級長とルナティエ副級長を讃え合った。


 そうして―――特別任務は黒狼クラスが完全勝利を納め……朝の朝礼会議は幕を終えるのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 朝礼会議を終えた後。


 次の授業が始まる前にお手洗いを済ませたルナティエは、一人、ハンカチで手を拭きながら廊下を歩いていた。


 そんな彼女に……突如、天馬(ペガサス)クラスの生徒たちが駆け寄ってきた。


「あ……あの! ルナティエ様!」


 他クラスの生徒に声を掛けられることなど滅多にないことから、ルナティエは思わず動揺してしまう。


「なんですの……? あなた方は、天馬クラスの生徒……?」

 

 天馬の腕章を見て首を傾げるルナティエ。


 天馬クラスの3人の生徒は、ルナティエに頭を下げて、驚きの言葉を発した。


「ルナティエ様……どうか、私たち天馬(ペガサス)クラスの新しい級長になってくださらないでしょうか……!!!!」


「はい……?」 


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