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第8章 二学期 第263話 特別任務ー㉗ 復讐の悪鬼ギルフォード


《ギルフォード 視点》



『良いか、ギル。お前はここに隠れていろ』


『父上は!? 父上はどうするんですか!?』


 燃え盛るフィアレンスの森の中。


 父上はしゃがみ込むと、僕と目を合わせ、微笑みを浮かべる。


『父さんは、騎士たちと話しを付けてくる。お前は森を抜け、レティキュラータスの御屋敷を頼りなさい。そこに、お前の祖母であるマグレットさんがいるはずだ。良いかい、ギル。よく聞くんだ。この先……絶対に自分がオフィアーヌの血族であることは隠すんだぞ。良いな?』


『父上、どうして……どうして、こんなことになったのですか!? 母上は!? アネットは!?』


『ギル』


 父上はそっと、僕を抱きしめ、頭を撫でてくる。


『父さんと母さんは、お前のことを愛している。だからこの先何があったとしても、けっして、人を恨むんじゃないぞ。憎悪に駆られてはいけない。憎悪は、人を狂わせるからだ』


『父、上……』


『アネットを守ってやれ。お前は、オフィアーヌ家の長男なのだからな』


『――――――――見つけたぞ! オフィアーヌ伯!』


 その時。森の中から、松明を持った聖騎士たちが姿を現した。


 父上は草の影に僕を隠すと、前に立ち、声を張り上げる。


『聖騎士団よ! この襲撃は、ゴーヴェンの意思なのか! ゴーヴェンと話しをさせろ!』


『何を言っている? これは全て、ゴーヴェン様の意思だ! 聖王陛下に逆らい、宝物庫に足を踏み入れた反逆の徒、オフィアーヌ伯、ジェスターよ! 今ここで、貴様に天罰を与えてやろう!』


『何故、そのことを、既に聖騎士団が知っている……? 本当に、ゴーヴェンがやったことなのか? そんな、馬鹿な……』


 父、ジェスターは腰の鞘から剣を抜くと、構えた。


『私は、魔法剣士としてそれなりの研鑽を積んでいる。ただの騎士程度に、簡単にやられるつもりはない』


『貴様……あくまでも盾突くということか!』


『そうだ! 私は、一切、間違った行いなどしていない! 貴様らは分かっているのか!? 聖王家が何千年、宝物庫に何を隠しているのか! あれは、非人道的な――――』


『……だから、何だというのです?』


 その時。森の奥から、漆黒のハット帽を被った男が姿を現した。


 彼は帽子を取り頭を下げると、不気味に笑みを浮かべ、開口する。


『お初にお目にかかります、伯爵。私は、聖騎士団『黒獅子隊』の隊長、フォルター。『黒獅子隊』とは、ゴーヴェン様が身分、経歴を抜きにしてスカウトをした、実力主義で構成された殺戮隊です。他の聖騎士たちは騎士学校出身のボンボンだらけですが、私たちは違う。スラム出身の人を殺すしか能のないゴロツキや、剣の腕のある殺人鬼、将又、食人鬼など……ありとあらゆる殺しのエキスパートが、この隊には揃っている。ゴーヴェン様の隠し持っている騎士団の暗部隊。それが、私たち、黒獅子隊なのです』


『黒獅子隊、だと……?』


『ええ。私たちが派遣されたということは、それすなわち、ゴーヴェン様にとって貴方は殺して良い存在となっているということ。私たちは表には姿を現さない、ゴーヴェン様の懐刀なのでね』


 顔を上げて、ニコリと微笑む男。


 そんな彼を見て、父上はゴクリと唾を呑み込んだ。


『そんな……だって、私とゴーヴェンは、親友のはず……!』


『可笑しい方ですね。ゴーヴェン様に、友などいませんよ』


 不気味に笑みを溢すと、帽子の男は、父上を取り囲んでいる騎士たちに声を掛けた。


『何という、甘い方々だ。貴方たち、ここはいいから、リーゼロッテ隊と合流し、逃げたオフィアーヌ夫人とその娘を殺しに行きなさい。この男は……私たちが、直々に殺します』

 

 そう言って男がパチンと指を鳴らすと、森の中から……騎士とは思えぬ様相の、ゴロツキたちが姿を現した。


 その光景を見てコクリと頷くと、聖騎士たちは森の中へと去って行く。


 そんな彼らに対して、父上は必死の形相で叫び、手を伸ばした。


『待て……行くな! 妻と娘には、手を出すな!』


『この後に及んで、他者を守ろうとするのですか。素晴らしい心意気です。ですが……残念です。貴方にこれから待ち受けるのは、地獄の苦痛。さて、では、質問です。貴方の妻は、いったい、何処に逃げようとしているのですか? 何処に……赤子を隠すつもりなのですか?』


『答えるものか……!』


『でしたら……やりなさい』


 黒獅子隊の騎士たちは、父上に襲い掛かって行った。


 父上は魔法を使い応戦したが……複数人相手ではどうにもならず。


 最終的に、取り押さえられてしまった。


 そんな父上を見下ろし、黒獅子隊の隊長フォルターは、声を掛ける。


『もう一度、質問です。貴方がたは、何処に、赤子を匿うつもりだったのですか?』


『答えるものか!』


 男が指を鳴らすと、部下のゴロツキが父上の背中に乗って押さえつけ、父上の足の親指を……切断した。


『ぐっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 地面の上でのたうちまわる父上。


 フォルターは指を振る。


『ノンノン。それは、私が求めている答えではありません。私は、完璧主義でしてね。貴方がたが追い詰められた時、いったい、どこの家に協力を求めるのか知りたいのですよ。万が一、ということもありますしね』


『絶対に、妻と娘は、貴様らに売りはしな――――あがぁっ!?』


 今度は、足の中指を切断する騎士。


 その後、父は磔にされ、どんどん、つま先から切り刻まれていった。


 その光景を見て、僕は、思わず草の影から飛び出してしまう。


『父上ーっ! やめろ、お前たちーっ!!』


 突如姿を現した僕に対して、フォルターは僕の腕を背中から押さえつけると、地面に叩きつけた。


『オフィアーヌの嫡男ですか。わざわざ出てくるとは、殊勝なことです』


 そして彼は、僕の耳元で、囁いてきた。


『よく見ていなさい、オフィアーヌの嫡男。貴方の父が刻まれるその瞬間を……!』


『やめろ……やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ……!』


『あぁ、目を閉じるのは駄目だ。顔を背けるのも駄目だ。父がつま先から細切れになるのを、じっくりと見ていなさい。……伯爵。再三の質問です。赤子を匿おうとしている場所は?』


 わざと僕の瞼を押さえつけ、父上の拷問を見せてくる黒獅子隊の隊長フォルター。


 父上は口から血を吐き出しつつも、フォルターに向けて一言、言葉を放った。


『家族は、売らない』


『……よろしい。では、次は……そうですね。膝まで、足をみじん切りにするとしましょうか。まな板で切られる、ネギのように、ね。首から下は全て細切れにしてやさしあげます。貴方が答えるまで、拷問は続いていきますよ』


 僕は、無理やり、父の拷問を見せつけられた。


 父上は結局――――答えることはなかった。


 細切れになった肉塊を前に、フォルターは帽子を押さえ、ため息を吐く。


『結局、協力者の家を吐くことはしませんでしたか。オフィアーヌの嫡男、貴方は知らないですか? 伯爵から、何処かへ向かえと、言われませんでしたか?』


 フォルターへと顔を向けると、僕は、憎悪の声を張り上げる。


『貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 許さない……許さないぞぉぉぉぉぉ!!!!』


『許さない? 誰が許さないというのですか? 我らは女神アルテミスの神託者として、騎士として、この国に仕えている。故に、我らに神罰は下らない。我らの行いは、この国では正義そのものなのですよ』


 フォルターは僕の前に立つと、腰の鞘から剣を抜き、上段に構えた。


『聖王陛下に逆らいし悪魔の末裔よ。今ここで、お前たちの血に天誅を―――』


 フォルターに殺されると思った、その時。


 突如、黒獅子隊の騎士の一人が、フォルターに不意打ちをかましてタックルし……彼を吹き飛ばした。


 その騎士は涙目でこちらに視線を向けると、咆哮を上げる。


『逃げて! 早く、逃げて!』


 それは、白い髪の獣人族(ビスレル)の少女だった。


 彼女は黄色い瞳を潤ませ、戸惑う僕に向け、再度、声を張り上げる。


『私が時間を稼ぐから! だから、逃げて……逃げて、生きるんだニャァァァァァッ!』


『――――ルグニャータ。いったい、何をやっているのですか?』


 フォルターは起き上がると、部下の獣人族(ビスレル)の少女へと怒りの形相を向ける。


 ルグニャータと呼ばれた騎士は、黒いマントの下から8本の剣を取り出すと、それを両手の指の間に挟み、爪のようにして構えた。


 僕は対峙する二人を横目に、燃え盛る森の中へと駆けて行く。


『何をしているのです! 追いなさい!』


 後ろから黒獅子隊の騎士たちが追って来るが、僕は足を動かし、必死に逃げた。




『……ギルフォード様! 良かった、こちらです!』


 森の中を駆けている途中、メイドのオーレリアが姿を現した。


 その姿に、僕は思わず、ホッと安堵の息を吐いてしまう。


『オーレリア、良かった、無事だったか……』


『はい。妹のソフィーリアは、奥様とアネット様と共に裏口から逃げました。私は、ご当主様から事前に、ギルフォード様をオフィアーヌ領の外へと逃がすよう仰せつかっていましたので、森の出入り口の傍で待機しておりました。さぁ、こちらへ――――!』


 メイドのオーレリアに手を引っ張られ、共に森の中を走っている途中。


 僕は思わず彼女に、弱音を吐いてしまう。


『オーレリア。父上は……殺されてしまった。父上は僕に、人を恨むなと言っていた。だが、僕には、それはできそうにない。あんな惨い殺され方をした父上を、見てしまったのだから……僕は、もう既に、バルトシュタイン家を恨んでしまっている……』


『坊ちゃま。私は、坊ちゃまは何としてでも生きるべきだと思います。貴方様は、生きて、この国の闇を暴くべきだと、そう思います。以前、坊ちゃまは、ヴィンセント様とお約束されたはずです。この王国を、変えてみせると。ですから――――』


 その時だった。征く手に……一人の男が立っている姿が目に入った。


 オーレリアは男から6メートル程の距離で前で立ち止まると、腰からナイフを取り出し、構える。


 そんな僕たち二人を見て、男は……何故か、苦しそうな表情を浮かべていた。


『――――――正義。そう、私は幼い頃にある夢を抱いた。その夢を叶えるためならば、この手をどんなに血で汚そうとも、我が覇道を、我が決心を、鈍らせるわけにはいかない。そう覚悟を決めた。たとえ……我が唯一の友の死であったとしても』


 そう口にした後、「ククク」と不気味な笑い声を上げ、男は、笑みを浮かべる。


『こうして顔を合わせるのは初だな。ギルフォード・フォン・オフィアーヌ。我が名はゴーヴェン・ウォルツ・バルトシュタイン。聖騎士団団長にして、バルトシュタイン家を統べる者だ』


『ゴーヴェン……! お前が、この地獄を産み出した、張本人か……!』


 僕は腰の鞘から小さな子供用の剣を抜く。


 そんな僕を見て、ゴーヴェンはフンと鼻を鳴らした。


『お前たちの父は、禁忌を犯した。それは、聖王家が長年、宝物庫の中で秘匿していたものを暴いてしまったこと。この身は、聖王陛下の剣。王家の秘密を知ってしまった者は、断罪しなければならない』


 そう口にして、ゴーヴェンは……剣を抜いた。


 その姿を見て、オーレリアはナイフを構えて突進していく。


『坊ちゃま! お逃げくださ―――』


 最後まで言葉を言い終える前に、オーレリアは腹部を殴られた。


 彼女はカハッと息を吐き、地面に膝を付ける。


 ちょうどその時。ウォルターが、黒獅子隊を引き連れ、ゴーヴェンの元へとやってきた。


『おやおや。申し訳ございません、ゴーヴェン様。小僧を一匹、逃がしてしまいまして』


『……』


 何も答えないゴーヴェンに、ウォルターは、チラリと、地面に膝を付けるオーレリアに視線を向ける。


『まだ、殺戮がし足りないのでねぇ。この娘、私たちが貰っても?』


『構わない。好きにしろ』


『ありがとうございます。そうですね……板に磔にして、ナイフを投げて的当てをする……人間ダーツにして遊ぶとしましょうか』


『やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 僕はそう叫ぶが、ゴーヴェンに腹を蹴られてしまった。


 悲鳴を上げ、連れて行かれるオーレリア。


 そんな彼女を見つめ、僕は無力な自分に怒り―――地面を殴りつけ、咆哮を上げた。


『あぁぁ……あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!』


『全て、弱い貴様が悪いのだ、ギルフォード・フォン・オフィアーヌ』


『何故だ! 何故、お前らは僕から全てを奪っていく!! 僕たちがいったい何をしたというんだ!? 宝物庫の中身が何だというんだ!! ここまでされるようなことなのか!? 父上も、オーレリアも……何も悪いことなどしてはいないというのにッ!!』


『善し悪しを決めるのはお前ではない。国だ。王だ。全ては、王の決定で白黒が決まっている。この世界は……そのようにして回っている。弱肉強食。それが、この世の真理だ』


『ふざけるな……ふざけるなよ!! 絶対に殺してやるぞ!! ゴーヴェェェェン!!』


 僕は、ゴーヴェンに向かって突進して行く。


 そんな僕に向けて、ゴーヴェンは手を伸ばし……魔法を唱えた。


『怨嗟の炎よ、我が敵を燃やし尽くせ―――【インフェルノ】』


 その瞬間、僕の身体が、全て、燃えて行く。


 視界が赤い。熱い。熱い熱い熱い熱い熱い―――!!


『う゛……う゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!』


 僕は思わず暴れ狂い、林の中へと走って行く。


 そんな僕の背中に目掛け、ゴーヴェンは剣を動かそうとしたが……何故か僕を見送り、その場を動くことはしなかった。


『……その炎は、対象を燃やし尽くすまで、けっして消えはせぬ。だが、もし、貴様が生きることができたのなら……再び私を殺しに戻って来るが良い。ククク……クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 強者こそが、この世界の勝者だ、小僧!! 怒れ!! 憎悪しろ!! 弱者に生きる権利などはないのだからなッ!!』


 耳障りなその声は、一生、僕の耳の中から離れることはなかった。





 その後。気が付いたら僕は全身に大火傷を負って、フィアレンスの森の中に倒れ伏していた。


 何故、生きているのか、分からない。


 何故、消えない炎が消えたのか、分からない。


 未だに、痛みが消えない。ずっと皮膚を燃やされている感覚がする。


 喉が渇いた。苦しい。痛い。恨めしい。殺してやりたい。痛い。死ね。殺す。


『死体は見つかったか!?』


 騎士たちの声が聞こえる。早く、逃げないと。


 僕は身体をズルズルとひきずり、森の中を進んで行った。



 その後は酷いものだった。


 川まで身体を引きずり、何とか水を飲み。


 草木や虫、口に放り込めるものは何でも放り込み。


 動けるようになったら、小動物を狩り、生肉を齧り。


 そうして二週間程して……僕の体力は回復していった。


 歩けるようになった僕は、フィアレンスの森を出た。


 マントを被り、顔を隠して街に出てみると……王都の城門に父の首が吊るされ、身体中を切り刻まれたオーレリアは、見せしめとして広場に吊るされた。


 その光景を見て、僕は……いや、私は、深い憎悪を抱いた。


 この国の聖王に対して、この国の聖騎士団、バルトシュタイン家に対して。


 絶対に奴ら嬲り、踏みにじり、殺し、その首を死んだオフィアーヌの皆の前に捧げると、そう、決めた。


『……殺してやるぞ……ゴーヴェン……バルトシュタイン家の悪魔ども……!』







「そ……そんな……! ギルくん? ギルくん、なの……!?」


 回想を終え、瞼を開ける。


 目の前にいるのは、憎きゴーヴェンの息子と娘。


 奴らの中には、あの男の血が流れている。絶対に、この世界から排除しなければならない。


「その名はとうに捨てた。我は復讐の騎士、ノワール。バルトシュタイン家の悪鬼どもを誅し、聖王家を皆殺しにし、この国を変える男だ」


 そう答えると……バルトシュタイン家の娘は地面に膝を落とし、肩を震わせた。


 その行動の意味が、分からない。私が生きていたことに恐怖し、怯えているのか?


 見たところ、そうは見えないが……。


「ギルフォード。もう一度、問おう。お前の目的は、聖王家とバルトシュタイン家を滅ぼすことで……間違いないんだな?」


 ヴィンセントのその言葉に、私は、コクリと頷く。


「そうだ。私は聖王家と、聖騎士団、バルトシュタイン家を皆殺しにし、先代オフィアーヌの皆の墓前に飾ってやる。みんなが奴らを殺せと、いつもそう言ってくるんだ。だから、私は、フィアレンス事変に関わった者全てを皆殺しにすると誓った。父上の首と、オーレリアの死体の前でな」


「みんながそう言ってくる……? いったい、お前は何を―――」


「ギルくん!!」


 その時。バルトシュタイン家の娘が立ち上がり、大きな声を張り上げる。


「ギルくんが、私や兄……父を恨んでいるのは分かりました! ですが、ひとつお聞きします! ギルくんは、みんなを殺した後に、いったい何を求めているのですか!!」


「……殺した後、だと?」


「ギルくんは……アネットちゃんにちゃんと向き合ったことがあるのですか!! 失われたものばかりではなく、残されたものもちゃんと見てください! 人殺しの兄を持つ妹の気持ちも……理解してあげてください!」


「……? 待て、オリヴィア。アネットとはいったい誰のことを言っている? アレスは、弟だろう?」


 ヴィンセントがわけのわからないことを言っているが……私はそれを無視して、バルトシュタイン家の娘に言葉を投げる。


「オフィアーヌの問題に口出しをするな、バルトシュタイン家の娘。そも、私がこうなったのは、お前たち一族のせいだ。自分の父親が足のつま先から切り刻まれて行く光景を、私は、見せつけられたのだぞ? その怒りが……貴様らに分かってたまるものか!! 悪魔どもめ!!」


 私のその叫びに、オリヴィアはビクリと肩を震わせる。


 ヴィンセントはそんなオリヴィアに下がるよう手で制すると、再び口を開いた。


「お前は、聖王家を皆殺しにすると言ったな? だが、今、ノワールと名乗る謎の騎士は、白銀の乙女エステリアルの騎士となっていると聞いている。矛盾していないか? 何故、お前は、第三王女に付いている?」


「私は、あの王女に完全に肩入れしているわけではない。私はいずれ……エステルも殺す。奴の保護者気取りをしているジェネディクト・バルトシュタインも同様だ。ただ、今はその時ではないだけのこと。エステルと共に他の王位継承者とバルトシュタイン家を失脚させ、エステルの即位後、私が奴を殺す。それで、我が復讐は完遂される」


「……本気で、そんなことをできると思っているのか? 白銀の乙女は、そこまで馬鹿ではないぞ? 確実に、お前の考えを読んでいるだろう」


「黙れ……黙れ黙れ黙れ!! 私にはこれしかないのだ!! 奴らを殺せる道は、これしかないんだ!!!!」


 そう叫び、私は炎を纏った剣で、ヴィンセントに斬りかかる。

 

 ヴィンセントは氷の剣を振り、斬撃を放ってきた。


「【アイシクルブレイド】!」


「小賢しい! 【フレイムブレイド】!」


 炎の斬撃を放ち、氷の斬撃を相殺する。


 しかし、その直後。ヴィンセントの姿が視界から消えていた。


「こっちだ! ギルフォード!!」


 背後を振り返り、ヴィンセントの不意打ちを防ごうとするが……左腕が切り裂かれてしまった。


「くっ!」


 傷自体は浅い。だが、傷口から徐々に、腕が氷り始めていた。


 これは……奴の剣の能力か……!


 私は左腕の袖を破き、傷口に魔法を放つ。


「【ファイアーボール】!」


 低級魔法、【ファイアーボール】。


 小さな炎の球を傷口にに当て、凍り付いた皮膚を焦がし、氷の侵攻を止める。


 何とか難を凌ぐことができた私は、ヴィンセントと距離を取り、彼を睨み付けた。


 だが……ヴィンセント、そしてバルトシュタイン家の娘は、何故か、こちらを見て、唖然と立ち尽くしていたのだった。


「ギルフォード、お前、その腕は……」


「腕だと……?」


 自身の腕を見てみる。なるほど、『死に化粧の根(マンドラゴラ)』で木質化した左腕を見て、奴らは驚いていたというわけか。


「くだらない。同情する振りはよせ、悪魔ども」


「確かに、アレスから、お前が『死に化粧の根』を使用していたことは聞かされていたが……まさか、そこまでの状態になっているとは、な……」


「フ……ハハハハハハ!! 『死に化粧の根』をスラムに撒いた元凶であるバルトシュタイン家の末裔どもが、この腕を見てそのような顔をするとはな!! これほど滑稽なことはない!! 見ろ!! この地下室には、大量の『死に化粧の根』の被害者たちがいる!! この魔草は、服用することで、死した者の幻影を見ることのできる悪魔の薬!! 貴様らのせいで、愛する者を失い生きることに絶望した人々は皆、これを服用し、『死に化粧の根』の餌食となった!! この光景は、お前たち一族が産み出した光景だ!!」


 私は、両手を広げ、笑い声を上げる。


 そんな私に対して、バルトシュタイン家の娘は、涙を流した。


「何を泣いている? バルトシュタイン家の娘」


「……」


「何故、泣いているのか、聞いているのだ、オリヴィアァァ!!!!」


 オリヴィアはツカツカとこちらに向かって歩いて来る。


「お、おい、オリヴィア……!」


 止めるヴィンセント。だが、オリヴィアは歩みを止めない。


 私は剣を構えようとするが、それよりも先に……オリヴィアが、私の頬に平手打ちしてきた。


「ぐっ……!?」


 【怪力の加護】のせいか、私は、背後にあったテーブルに叩きつけらる。


 ケホケホと咳き込む私を見て、オリヴィアは、声を張り上げた。


「ようやく、私の名前を呼んでくれましたね、ギルフォード!!」


「……なっ……」


「私は、今、決めました!! 私は……ギルフォード、貴方のするべきことを、全て、否定します!!」


「何だと……!? バルトシュタイン家の悪魔が……っ!!」


「悪魔で結構です! 私はまず……『死に化粧の根(マンドラゴラ)』で身体を木質化してしまった人を治すための薬を開発します! そして、『死に化粧の根(マンドラゴラ)』で薬物依存してしまった人を治すための施設を、いつか王都に創り上げてみせます!」


「戯言を……!」


「そして、私は―――――――――バルトシュタイン伯になって、ゴーヴェンを倒します!! 聖騎士団を解散させます!! 私が、ギルくんのやりたいこと、全て、邪魔します!!!!」


「……は?」


 私はその言葉に、思わず、目をパチパチと瞬かせてしまう。


 ヴィンセントはそんなオリヴィアを見て、笑い声を上げた。


「ク……ハハハハハハ! 当主になるか! 大きく出たな、オリヴィア! 常に争いごとを嫌い、バルトシュタインの当主の座など興味もなかったお前が……笑わせてくれる! そうなると、俺もお前の敵となるな!」


「はい、お兄様! 敗けません!」


 そうヴィンセントに声を掛けると、オリヴィアは振り向き、怒った表情で私を指差した。


「貴方の好きなようにはさせませんよ、ギルフォード!! 私は、誓ったんです!! もう二度とアネットちゃんを泣かせないと!! 今日これより私は―――貴方の敵となります!! 覚悟してください!!」


「ん? アネット? だからそれはいったい誰なのだ……?」


 首を傾げるヴィンセントを無視して、私は苦悶の表情を浮かべる。


「意味が……分からん。私の邪魔をして、いったい、何の得が……」


 そう口にした、その時だった。


 ヴィンセントとオリヴィアの連れの……よく分からない小動物のような少女が、炎に包まれた扉を何とかこじ開けた。


「あち゛ぃっっ、あち゛ち゛っ! ふぅーふぅー、お手々が少し火傷してしまいましたが……これで、扉を開けることが……って、ぶわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 扉を開けたことで火災旋風が巻き起こり、部屋の中に突風が入ってくる。


 その衝撃に……地下室は崩壊していった。


「何をやっている、ミレーナァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」


「ぴぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「チッ!! オリヴィア、ミレーナ、こちらに近寄れ!! 【アブソリュート・ゼロ】を使用し、氷で崩壊を防いでみせる!!」


 そう言って、ヴィンセントは、剣を構えて魔法を発動させる。


 そして彼は、私を見つめ、声を張り上げた。


「ギルフォード!! お前も来い!!」


「……ふざけるな。貴様らの手など借りん」


 その光景を見つめた後、私は、転移の魔道具を掲げる。


 そして、魔道具を発動させる間際、オリヴィアを見つめ、声を掛けた。


「貴様に私の邪魔ができるというのなら、やってみろ。私はそれよりも早く、復讐を完遂させてみせる。私はエステルを王とし、全てを殺し尽くす」


「私は、全てを救ってみせます!」


「妄言を。バルトシュタインの人間に、何かを救うことなできはしない」


 そう口にして……私は、その場から【転移】していった。


読んでくださって、ありがとうございました。

剣聖メイド4巻、よろしかったら作品継続のために、ご購入の程、よろしくお願いいたします!

もしかしたら打ち切りになってしまうかもしれませんので……5巻の暴食の王編まで出したいので、どうか、ご購入、よろしくお願い致します!

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プレッシャーが増したけど、鍛えられて立派な剣士になれるならこれもまた試練(笑)
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