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第8章 二学期 幕間 回想・フランエッテ・フォン・ブラックアリア ②


《フランエッテ 視点》




『ハハハハハハハハハハハ!!!!』


 ゴルドヴァークは笑い声を上げながら穴の中を疾走し、蠅の頭を拳で粉砕する。


 しかし、次々と巨大な蠅は集まり、ゴルドヴァークへと襲い掛かっていった。


 そんな光景を眺めながら、3人の【剣神】は、彼の背後を平然とした様子でついていく。


『結局、ゴルドヴァーク一人でも十分だったのではありませんか? そうは思いませんか? ハインライン、ジャストラム』


『災厄級の魔物は、未知数の能力を持っていると聞いています。俺は……油断しない方が良いと思いますよ。過剰な戦力くらいで、丁度良いかと』


 ハインラインのその言葉に、ジャストラムは紙袋を抱え、もぐもぐとクッキーを頬張りながら口を開く。


『もぐもぐ……でも、アーノイックは、災厄級の魔物、憤怒の黒炎龍を一撃で倒したと聞いた。それも、【剣聖】になって間もない15歳の時に。その話から察するに、ゴルドヴァーク一人でも良かった説は確かにあると、ジャストラムさんはそう思う……もぐもぐ』


『ジャストラム。アーノイックが一撃で倒した敵の実力を計るのは、よした方が良い。あいつは敵の能力を開示させる前に【覇王剣】で消し飛ばしたのだろう? なら、黒炎龍にも恐ろしい能力があった可能性が高い。……って、お前はこんな時に何を食べている!?』


『軟骨入りのほねほねクッキー。美味い』


『いや、何を食べているかは聞いていない! 何故、任務中に食べているのかと聞いているんだ! というか、それ、本当に美味いのか!? 軟骨入りのクッキーとか、どう見ても不味そうなんだが!?』


『美味い。お菓子を食べている理由は、お腹が空いたから』


『はぁ……お前は相変わらずマイペースというか何と言うか……そういうところは、アレス師匠に似ているな……』


『む。似ていない。ジャストラムさんはあんな天然のアホじゃない』


『自分の父親をアホと言うな! アホと!』


 能天気な雰囲気で、穴の中を進んで行く【剣神】たち。


 彼らは残虐に民衆を喰い散らかしたあの蠅たちを前にしても、一切、動じた様子を見せていなかった。


 私はそんな彼らに、疑問を投げる。


『あ、あの……あの蠅の化け物は、そんなに強くないのですか……?』


 私の質問に、キュリエールと呼ばれた女性は、首を横に振って答えた。


『いや、強いですよ。一体の戦闘力は、おおよそ【剣王】以上【剣神】未満。それも、こんなに大勢いる。私たちでなければ、間違いなく対処できない相手ですね。災厄級の魔物は、世界を滅ぼす可能性がある。その言葉に間違いは無いと思います』


『じゃ、じゃあ、何で、あの男の人だけで、戦っているんですか?』


『彼だけで十分だからですよ。【怪力の加護】を持つ、彼だけでね』


 私は、チラリと、先頭で戦っているゴルドヴァークに視線を向ける。


 ゴルドヴァークは歯を剝き出しにして嗤いながら、いとも簡単に拳のみで、蠅たちを討伐していった。


『フハハハハハ! 災厄級、こんなものか! 口ほどにも無い!!』


 ゴルドヴァークが二十体ほどの蠅を討伐した、その時。


 奥から、トゲトゲした外皮を纏った、今までとは異なる蠅の怪物が姿を現した。


 今までの蠅とは異なるその姿を見て、ゴルドヴァークは「ほう」と面白そうに口角を吊り上げる。


『面白そうな奴が出て来たな。言うなれば、今までの蠅はアリでいうところの働きアリ、そして、このトゲトゲした奴は働きアリを守る兵隊アリ、と言ったところか。面白い。この俺をもっと愉しませろ!! 虫ケラ!!』


 そう叫ぶと、ゴルドヴァークは地面を蹴り上げ、跳躍し――――トゲトゲした蠅に襲い掛かる。


 そして、その拳を、蠅の顔面に叩き込んだ。


 だが――――。


『ぬぅ!?』


 トゲトゲした蠅は、頬に微かな痣を作っただけで、ほぼ無傷。


 その蠅はニヤリと笑みを浮かべると、拳を握り、ゴルドヴァークを殴りつけた。


 ゴルドヴァークは腕をクロスし、防御の態勢と取ることでその攻撃を防ぐ。


 その威力に、ザザザザと後方へと下がったゴルドヴァークは、足を止め、驚きの声を上げた。


『我が【怪力の加護】が……利いていないだと!? 馬鹿な……!?』


 ハインラインも、同時に、声を張り上げる。


『先ほどの蠅とは異なり、闘気の量が膨れ上がっている……!? それも、ゴルドヴァークと同等の……!?』


 キュリエールは顎に手を当て、思案した後、続けて口を開く。


『もしかして……大量の蠅と戦った記録が、本体の災厄級に流れている? それで、ゴルドヴァークに対処できるような、剛剣型の戦闘兵が造り出された……?』


『それだけではないかも。ジャストラムさん的に見て、【怪力の加護】が利かないのはどう見てもおかしいと思う。恐らく……物理無効の加護か何かが宿っているよ、その蠅』


 【剣神】たちの緊張感が一斉に増す。


『――――ゴルドヴァーク。下がりさない。その蠅は、私たちで仕留めます』


『邪魔をするな、キュリエール! こいつは、俺の獲物だッ!!』


『ゴルドヴァーク。お前が大量に働き蠅を討伐した結果、お前の能力を完全に封じた個体が産み出されたんだ。ここは潔く退け。俺たちが処理する』


『うん。なるべく、能力は開示させない方が良いかもね。あとは働き蠅にも能力は見せない方が良いかも。思ったよりもこの災厄級……面倒な相手だよ』


 キュリエールは腰の鞘から黄金に輝くレイピアを出し、ハインラインは背中の鞘から刀を取り出し、ジャストラムは左右に付けている腰の鞘から、牙のように湾曲したナイフを取り出すと、クルクルと回した後、逆手に持ち、構える。


 そうして……【剣神】たちは、戦闘種のベルゼブブとの戦いを、始めたのだった。




 その後、無事に、戦闘種蠅のベルゼブブを倒せた【剣神】たちだったが……ベルゼブブは思ったよりも、たくさんの種類がいた。


 まずは、一番数の多い、いわゆる働き蠅。

探索兵(シーカー)種のベルゼブブ。討伐難易度【剣王】クラス。

 外見はただの巨大な蠅。外皮が固いが、【剣神】たちにとっては造作もない相手。

 ただ、本体へとその情報を送る能力があるので、要注意。


 次に、ゴルドヴァークとの戦いで産み出された、圧倒的な闘気と物理無効を持つ、戦闘兵(ウォーリアー)種のベルゼブブ。討伐難易度【剣神】クラス。

 外見はトゲトゲした外皮を持つ蠅。異常な程の戦闘力を持つ。

 【剣神】3人掛りでやっと倒せるほどの強者。


 キュリエールとの戦いで生み出された、圧倒的な魔力と魔法無効を持つ、魔法兵(ウィザード)種のベルゼブブ。討伐難易度【剣神】クラス。

 外見は手に木製の杖を持った蠅。

 こちらも、【剣神】3人掛りでやっと倒せるほどの強者。


 道の端々に産み落とされている、肉塊。その中にいる巨大な蛆。

 幼体のベルゼブブ。討伐難易度―特になし。誰でも簡単に倒せるレベル。


 幼体の住む肉塊を巣として周囲を飛び交う、見た目はただの蠅、だが、人間の皮膚を突き破り蛆を産み付ける凶悪な能力を持つ、寄生(パラサイト)種のベルゼブブ。討伐難易度【剣鬼】クラス。小さいが故に、厄介な存在。


 この四種が、主に、ベルゼブブの巣穴に潜んでいた。


 いや、もしかしたら、これから先、色々な力を持つ者と戦うことで、たくさんの厄介な力を持った種を産み出すのかもしれない。


 だけど、新たなベルゼブブを産むのには、幼体が育つための餌、生き物の肉がいる。


 【剣神】たちは早期決戦を望み、ベルゼブブが発生してすぐに、巣穴を攻略した。故に、増えるための餌が足りていなかった。


 それが功を奏したのか、多種多様のベルゼブブを退けながらも、【剣神】たちはついに、蠅の主が住むフロア……ベルゼブブ・クイーンのいる領域へと到達することが叶った。


 そこには……エルルゥの姿はなかった。


 代わりにそこにいたのは――――芋虫のような巨大な尾を持つ、15メートルはありそうな、巨大な蠅の女王の姿だった。


 蠅の女王は、岩で作られた玉座に坐し、頬杖をつきながら、こちらを嘲笑するかのように見下ろしている。


 私はその光景を見て、声を張り上げた。


『エルルゥ!!』


 怪物は何も答えない。ただ、矮小なる存在である私たちを見下ろしている。


『――――まったく。てこずらせおって……!』


 ゼェゼェと荒く息を吐きながら、ゴルドヴァークは額から流れる血を腕で拭う。


 他の【剣神】たちも全員、疲労困憊の様子だった。


 それほどまでに、数の暴力ともいうべきベルゼブブの眷属たちは、【剣神】たちにとって厄介な敵だったのだ。


 ベルゼブブ・クイーンは玉座から立ち上がると、四本の腕を広げ、闇のオーラを全身に纏い……咆哮を上げる。


 最早、完全に、エルルゥの人格はどこにも無かった。


 目の前にいるのは、人類を滅ぼさんとする、怪物のみ。


 私が……私が、彼女を倒さなければならないと、思った。


 多分、エルルゥは、自分がこうなることを分かっていたのだと思う。


 だから、私を不死にした。だから、私の心臓を、彼女は持って行った。


 自分を殺して欲しいと……彼女は、そう願ったのではないのだろうか?


 私が手を振り払った、あの一瞬。あの一瞬だけ……エルルゥは、エルルゥだったのだと思う。


『で、でも、私が、勝てるような相手じゃ……!』


 ガクガクと足が震える。身体が震える。涙が出てくる。


 私は冥界の邪姫でも、最強の吸血姫でもない。ただの旅芸人。


 勝てるわけが……ない。


『死にたくなければ、下がっていろ、小娘』


 ゴルドヴァークは両手に爪の武具を装着し、前に出る。


 キュリエールも、ハインラインも、ジャストラムも、武器を構えて前に出た。


 全員、ボロボロだったのに、蠅の女王に立ち向かおうとしていた。


『行くぞ! お前たち!』


 ハインラインの号令で、4人の【剣神】たちは、一斉に蠅の女王へと駆けて行く。


 これが……後に伝記に残る、対災厄級、オフィアーヌ領都奪還戦争であった。


 




 その後。彼ら四人は何とか辛勝したが……完全にベルゼブブを討滅することは叶わなかった。


 最終的に、キュリエールの魔法によって女王の本体は結晶に封じ込められ、オフィアーヌの領都を襲った災厄級の災いは去った。


 アリューゼスの町は甚大な被害を受けたが、その後、生き残った民と領主は復興に力を入れていったのだという。


 私は……旅一座に戻り、その後も、冥界の邪姫フランエッテとして、各地を回って皆に笑顔を届けてきた。


 だけど、私は不死の身となった。


 当然、周りのみんなは先に老いて亡くなっていく。


 最後の団員を見送った後。


 座長となった私は、サーカスのテントの中で一人、ポツンと佇んでいた。


『……これから、どうしよう』


 エルルゥとの約束は、私が冥界の邪姫フランエッテとして、在り続けること。


 旅芸人として、みんなに笑顔を届けること。


 だけど、私のサーカス団は終わってしまった。これから新しい団員を探すのか、それとも違う旅芸人の一座に入団するのか。それとも……。


『……一人で、永遠に、同じことを繰り返す? みんなを笑わせるために、永遠に、私は、フランエッテのまま? それが私の罰なの? エルルゥ?』


 違う。エルルゥは、そんなことを望んでいない。


 きっと、エルルゥは……私に、本当のフランエッテになって欲しいんだ。


 私に、自分を殺せるほどの、実力者になって欲しいんだ。


 ――――自分の心臓を、取り戻そう。


 そのために、ベルゼブブを倒せる、最強の吸血姫フランエッテになってやろう。


 嘘を本当に変えて、あの子を、あの暗い底から……解き放ってあげよう。


 ベルゼブブが封印された結晶は、多分、今もセレーネ教の封印殿にあるはず。


 セレーネ教の封印殿に入れるのは、教団でも司教の立場にいる人間、もしくは、【剣聖】【剣神】のみ。


 まずは……【剣神】を目指そう。話は、それからだ。


『よし。サーカスで貯めたお金もあるし、まずは、騎士学校に入って実力を磨こうかな』


 私は、地図を広げる。


 そして、長年過ごしてきたサーカスのテントを片し、旅に出た。




 だけど――――その旅の途中、予期せぬ再会を果たした。


「え? え?」


 フランシアのある村。


 目の前で倒れているのは、首の無いワイバーン。


 そして、その前に立つ、狼の耳が生えた獣人族(ビスレル)の少女。


 彼女は、【剣神】ジャストラム・グリムガルドだった。


 何十年も経ったというのに、彼女は、若いままだった。


 いや……昔は少女の見た目をしていたけど、今は大人の女性の風貌になっていた。


 私は、自分を助けてくれた彼女に、声を掛ける。


『あ、あの……ジャストラムさん、ですよね……?』


『? 誰?』


『あの、50年前の、ベルゼブブ討伐の時に一緒にいた……』


『誰』


 どうやら私のことを、覚えていないようだった。


 私は意を決して、彼女に声を掛ける。


『あ、あの! 私を……弟子にしてくれませんか! ジャストラムさん! 私、最強の魔法剣士になりたくて! それで……!』


『嫌』


 そう一言だけ残し、ジャストラムさんは跳躍して、民家の屋根の上に乗る。


 そして、そのまま何処かへ、去って行ってしまった。


 その光景を見て、目をパチクリとさせていると……避難していたはずの村人たちが戻って来た。


 私は、彼らに、『この冥界の邪姫である妾が、龍と相対する! お主らは逃げろ!』と言って、避難させたはずだった。


 彼らは農具であるクワを手に持ち、ワーッと、声を張り上げる。


『嬢ちゃんだけに任せるわけにはいかねぇ! 自分たちの村のことだ! オラたちも、加勢する――――って、あれ?』


 驚いた顔をする村人たち。


 そして彼らは、感動した様子で、こちらに近付いてきた。


『ま、まさか、嬢ちゃん……そのワイバーンを、一人で倒したのだべか? それも、首を一太刀で切断して……?』


『え? あ、いや、これは違……』


『謙遜しなくても良いべ! その、傘から抜いた剣で倒したんだろ? すごい剣士だべなー!!』


 村人たちに囲まれ、賞賛される私。


 調子に乗ってしまった私は、そこで、こんなことを言ってしまう。


『そ……その通りじゃ! 妾は、冥界の邪姫、最強の吸血鬼であるからな! 我が名は、フランエッテ・フォン・ブラックアリア! 伝説上の吸血鬼の末裔であり、王国最強の魔法剣士じゃ!!』


 この時の出来事で……私は、ワイバーンを倒した功績から、【剣王】の称号を貰ってしまった。まだ実力が伴っていないのに、剣の称号を獲得してしまったのだ。







 ――――そうして、今に至る。


 私は、ガクガクと身体を震わせて、探索兵(シーカー)種のベルゼブブと戦うロザレナを、遠くから見つめる。


 何故、ベルゼブブが地下水路に現れたのか。その理由が分からない。


 恐らくは、誰かが、封印殿から結晶を持ち去り、この地下水路で砕いたのだと思うが……何故、そんな恐ろしいことをしたのだろうか。


 級長たちは確かに強いが、この閉鎖空間でベルゼブブが解き放たれた以上、どうしようもない。探索兵(シーカー)種のベルゼブブを圧倒するロザレナの実力には驚いたが、ゴルドヴァークやキュリエールの対処法として造られた戦闘兵(ウォーリアー)種や魔法兵(ウィザード)種が現れたら、もう、どうしようもない。


 現在の【剣聖】や【剣神】を呼ぶしか、最早、この状況を打開できる策は無いといえる。


 とはいえ……現在の【剣神】は過去の【剣神】に劣ると聞く。


 果たして、今の【剣神】たちでベルゼブブを対処できるのかは……分からない。


「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」


 ロザレナは咆哮を上げ、上段の剣を、ベルゼブブに叩き込む。


 闘気と魔力を闇属性魔法で奪われ続けた結果、ベルゼブブは弱体化し、真っ二つに裂かれ、死に絶えた。


「ギィユアァァアアアアアアアアアアアッッ!!!!」


 断末魔を上げ、バタリと倒れるベルゼブブ。


 はぁはぁと荒く息を吐いたロザレナは、額の汗を拭い、拳を握りしてめて、口を開く。


「よし!! 勝ったわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」


ロザレナは見たところ、剛剣型の剣士。元々魔力が少ない分、相手から魔力を奪って、無理やり闇属性魔法を発動させていたのだろう。その結果、敵がいなくなったことで、供給源が無くなり、体力の限界を迎えた。


 そう叫んだのと同時に、身体に纏った闇のオーラは消え失せ、ロザレナはフラリと身体をよろめかせる。 


 そんな彼女の身体を支えたのは……シュゼットだった。


 シュゼットは肩を支え、ロザレナに、微笑を浮かべる。


「まったく、大した方ですね。あの化け物を倒してしまうなんて。素直に賞賛致しましょう」


「はぁはぁ……ありがと、シュゼット……」


「ロザレナさん、こんな時に聞くのもなんですが……アネットさんはどうしたのですか?」


「アネット? アネットは、途中で、逸れてしまって……」


「逸れた? それは、何処で――――」


「おいおい、一番の功労者に立ち話させんなよ。今はとりあえず、地上に戻ろうぜ。こんな化け物が出たんだ。もう、特別任務どころじゃねぇだろうよ」


 そう言って、ルーファスはアグニスに肩を貸し、ロザレナの元へと向かって歩いて行く。


 そんな彼の背後を歩いていたジークハルトも、コクリと頷いた。


「あぁ。今は一刻も早く、全員の身体を癒すべきだ。ここにヒーラーはいない。全員の余力が残っていない以上、低級の魔物でもやられかねない可能性がある。まずは、帰るとしよう」


「違いねぇ。それじゃあ、みんな、さっさと上に――――」


「待って」


 ロザレナは、背後を振り返る。


 そこは地下水路の最奥にある祭壇のフロアであり、行き止まり。


 自分たち以外に、他の存在はいない。


 だが、ロザレナはジッと、壁を見つめていた。


「来る」


「は? 来るって、何が……」


 その壁が、突如、蹴破られ――――――――そこから、今まで決死の想いで戦っていた、蠅の怪物……大量のベルゼブブが姿を現した。


 その光景を見て、全員、目を見開いて驚きの表情を浮かべた。


「う、そ、だろ……? 一体倒すのにも全員で本気でかかって、やっとだったのに……それが、五、六、七……十体近い、だと……?」


 絶望的な状況に、唖然とする級長三人とアグニス、ジークハルト。


 驚くルーファスを横目に、ジークハルトは、咆哮を上げた。


「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! お前たちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 ジークハルトのその言葉にハッとすると、全員、入り口に向かって走り出した。


 私……フランエッテも、彼らに遅れて、走り出す。


 こうなることは、最初から……分かっていた。


 災厄級の魔物は、ただの生徒が勝てる存在ではないのだから。


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― 新着の感想 ―
聖女は傲慢の悪魔を封じたのは初代剣聖だと言っていたような? エルルゥとは別個体の話? ゴルドヴァークや若き日のハインラインが苦戦するということは戦闘タイプの蝿はリトリシアよりも強い?
アレは軽いジャブだった。って答えが物量で来るってシンプルに絶望する答えだなぁ…
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