第8章 二学期 第247話 特別任務ー⑩ レティキュラータスの加護
《ロザレナ 視点》
『―――もうすぐだ。もうすぐ、お前の力は完成する』
また、あの夢を見ている。
視界に映るのは、暗闇の中で、鎖に繋がれている……青紫色の髪の少女。
彼女は顔を俯かせながら、フフフフと不気味に嗤った。
「あんたはもしかして――――初代剣聖、ラヴェレナ?」
『私の名を覚えていたか』
「そりゃあね。あんたみたいな不気味女のこと、忘れるわけないもの。この夢を見るのも学級対抗戦以来、か……。ねぇ、あんたはどうしてそんなところにいるの? 何故、鎖に繋がれているの?」
『裏切られた』
「裏切られた……?」
『私は、忠誠を誓った祖国に裏切られた。そして、愛する者を奪われた。残ったのは……聖グレクシア王国への憎悪のみ。ロザレナよ、お前は、知っているか? 魔道具が、どうやって作られるかを』
「え? 知らないけど……突然何なの?」
『魔道具というものは、元来、人の魂を材料に造られるもの。今こうして語りかけている私は、聖女との戦に負け、魔道具に換えられる前の私だ。私の能力、レティキュラータス家の加護の力は……【引き継ぐ者】。自身の経験値と記憶と魂を、未来の【引き継ぐ者】の加護を持つ子孫へと引き継がせる力。すなわち……転生だ』
「てん……せい……?」
『私は、死の間際、将来産まれてくる者の中で、私と最も魂の形が近い者……【剣聖】としての素養を持つ存在に、私の能力を引き継がせることに決めた。だが……以前お前に私の記憶を見せた時、お前は強く反発し、私の記憶を受け取ることを拒否した。その結果、お前は、私と戦い、長い病に苦しむことになったのだ』
「もしかして……子供の頃のこと? あたし、産まれてからすぐに、病に罹って入院生活を余儀なくされていたから。もしかして、あれ、全部あんたのせいだったってこと……!?」
確かに、あの病は、ずっと謎だった。
長く苦しんでいた持病だったのに、10歳になったらすぐに完治して、今までのことが嘘のようにあたしはとても元気になっていたから。ずっと、不思議だったんだ。
「ふざけないでよ!! あの病気は、あんたとこの身体を巡って争っていたせいだったってこと!? あたしがどれだけあの時苦しんでいたか……分かっているの!?」
『……その件に関しては、すまなかったと思っている。元々、【引き継ぐ者】は、物心付いていない幼い赤子に使用するものだ。だが、私は逡巡して無駄に時間を浪費し……結果、3歳のお前に使用してしまった。私も、遠い子孫に自分の魂を上書きさせるようなことは、したくなったんだ。本当に、すまない』
「……」
『代わりと言っては何だが、お前には、私の経験値のみを受け取ってもらうことしよう。お前に、私が培った全てを与えてやる』
「そんなもの、いらないわ! あたしはあたしの力だけでやっていく! 余計なことはしないでよ!!」
『……そう言うと思ったよ。お前は本当に、私によく似ているな』
そう言ってフフフと嗤い声を溢すと、ラヴェレナは頭を横に振った。
そして彼女は、こちらに鋭い目を向けてくる。
『しかし、お前の時代にも、聖女は生きているのだろう。聖女が生きている限り、闇の魔法因子を持つお前は、絶対に目を付けられる。お前は……確実に、私と同じ道を辿ることになるだろう。全てを失い、死の間際に【引き継ぐ者】を使用して、未来の子孫へと全てを託すことになる。聖女は、闇属性魔法を扱う者に、容赦はしない』
「……以前、貴方は、お前は愛する人とは絶対に結ばれないって、そう言っていたわよね? それは……もしかして、あたしが傍にいることで、アネットにも被害が及んでしまうから、ってこと?」
『それは……』
――――お嬢様。
何処かから、アネットの声が聞こえてくる。
その声を聞いて、ラヴェレナは、悲しそうに目を細めた。
「懐かしい……彼女にそっくりな声だ。あぁ、一目で良いから、もう一度……あの子に会いたかった。もう一度、私……いや、あたしの手で、あの子を抱きしめてあげたかったわ」
「え……?」
一瞬、ラヴェレナは、あたしと同じような声を発した。
しかし彼女はすぐに表情を引き締め、口調を元に戻す。
『……今、お前は、自分のメイドに起こされようとしている。もうすぐ、この夢は、終わりを迎えるだろう。私が【引き継ぐ者】を使用してお前と会話ができるのは……あと一回が限界だ。それまでに、決めるのだ。私の力を引き継ぐか、どうかを』
「そんなこと、言われても……」
『私はお前に記憶を受け継がせることはできなかった。決めるのは、お前自身だ。……何、安心しろ。力を受け継ぐと言っても、私は、その扱い方を教えるだけだ。私はお前を尊重して、闘気も魔力も、引き継がせはしない。ただ、闇属性魔法の使い方だけをお前に教えてやろう。闇属性魔法は、聖女を殺すことのできる唯一の武器だからだ』
「その、聖女って奴が何なのかは分からないけど……もし、あたしとアネットを害する存在ならば……」
あたしは一呼吸挟んで、再び開口する。
「――――殺すわ。あたしの道を邪魔する奴なら、誰であろうとも容赦はしない。あたしのものを奪おうとする奴にも……容赦はしない。全員、斬り伏せてやる。あんたの力なんて、貰わずに、ね」
『……』
ラヴェレナは、あたしを見つめて、驚いた表情を浮かべる。
『ロザレナ、お前は……』
「何?」
『先ほど、私はお前と自分は似ていると言ったが、それはどうやら……少し、異……』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《アネット 視点》
「――――お嬢様。起きてください」
「んん……アネット……?」
テントの中でゆさゆさとお嬢様を揺らして起こすと、彼女は目をこすりながら上体を起こした。
俺はそんな寝ぼけまなこなお嬢様に、微笑みを向ける。
「おはようございます、お嬢様。とはいっても、地下水路の中なので……朝という感じはしないですけど」
「うん。おはよう、アネット……」
ふわぁと大きく欠伸をした後、ロザレナはハッとし、自分の手のひらを見つめた。
「……【引き継ぐ者】。それが、あたしの加護の力、か……」
「お嬢様?」
「アネット、あたし……」
ロザレナは、何かを言おうとしたが、途中で口を噤んだ。
「何でもないわ。それよりもアネット、貴方……あんまり寝れなかったの?」
「え? どうして、そう思うのですか?」
「目の下に薄っすらとクマができてるから」
流石は鋭いお嬢様だな。実際、昨日は色々あって、俺が床に就いたのは深夜三時過ぎだった。
今現在、七時ちょうど。
俺は4時間くらいしか、睡眠を摂ることができていなかった。
(……昨日、アストレアとガゼルと、特別任務後にアンリエッタを嵌める策略を練るために、明け方まで作戦会議を行っていたからな。二人は作戦を行うために、早々にリタイアして、外で待つと言っていた。今頃、スタート地点へと向かって来た道を戻っていることだろう)
二人に聞いたところによると、アンリエッタはもう一人、刺客を呼んでいた。
まぁ、その刺客の名前を聞いたら、俺は思わず「またお前か」と口にしてしまっていたが……後はあいつを処理できれば、俺の今後の作戦を邪魔する者はいないだろう。
とりあえず、俺は、お嬢様と共に地下水路を攻略し、その途中で何とかテンマさんを倒して、特別任務を終わらせる。それが、目下、今の俺のやるべきことだ。
「だけど……あの作戦を実行するとなると……」
俺は、ジッと、目の前にいるお嬢様を見つめる。
するとお嬢様は頬を赤く染め、唇を尖らせた。
「……何よ。も、もしかして、あたしの可愛さに見惚れちゃったのかしら? ふ、ふふん! 今更あたしの可愛さに気付いたとか、遅すぎるんだから! い、いいわよ! 特別に、あたしに触れることを許可してあげる! だから、ギューッ、って……」
「お嬢様。私は……絶対に、死にませんから。信じてください」
「え? 急に何? 当たり前でしょう? というか、貴方が死ぬはずないでしょ。貴方は、誰も傷を付けることのできない、最強のメイドなのだから。あ、でも、病気には罹るんだっけ。あたしが貴方と戦う前に死んだりしたら、許さないからね? 体調管理はしっかりしてよね」
「……はい。勿論です。お嬢様とあの約束を守るためにも、私は、死にません」
――――そう。
アンリエッタを策に嵌めるには、俺は一度……この地下水路で死ななければならない。
あの女が俺を始末できたと、勘違いさせなければならない。
そのためには、周囲を、完璧に騙す必要がある。
その対象には勿論、お嬢様も含まれている。
俺は主人に……少しの間、自分が死んだと思わせなければならないのだ。
「ふわぁ……顔を水で洗ったら、朝ごはんを食べましょうか、アネット」
「はい、お嬢様」
俺は、起き上がり、テントの外へと行こうとするお嬢様の背中を、ただ静かに見つめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
パーティー全員で簡易的な朝食を摂った後。
俺たちは地下水路を進み、さらに深層を目指して、歩みを再開させた。
貯水湖のエリアを出ると、今度は、薄暗い鍾乳洞のような場所へと辿り着く。
そこで、俺は、ひとつ違和感を覚える。
それは……昨日と違って、まったく、魔物が姿を現さなくなった点だ。
「何で魔物が全然出てこないのよぉ……もしかして、先に行ったルーファスに全部狩られたっていうのぉ……!?」
その状況にしびれを切らしたロザレナが、そう、愚痴をこぼす。
そんな彼女に、エリニュスが声を掛けた。
「流石に、ルーファスとアグニスでも、魔物を全部狩るなんてことできないでしょ。それにあいつらはどう見ても支配者級目当てだったっぽいし。わざわざ雑魚を狩り尽くしてまで奥へと進むとは思えないわ」
「じゃあ、これ、いったいどういう状況なのよ? 何で魔物が一匹もいないわけ?」
「私が知るわけないでしょ。状況的に、魔物が奥に逃げて行った、が、一番あり得そうな線だと思うけど?」
「何で逃げて行ったのよ?」
「だから、知らないって! 少しは自分で考えなさいよ! あんた、級長でしょう!?」
「……考えるのは、苦手」
「この、脳筋」
「誰が脳筋ですってぇ!? この、クール気取り女!! 速剣型って、どうしてこういう嫌味っぽい奴ばっかりなのかしら! 嫌になるわ!!」
「剛剣型こそ、少しは脳みそに筋肉以外を入れなさいよ!!」
ロザレナとエリニュスは、手を掴み合い、互いに圧し合う。
仲良くして! お嬢様、相性的に速剣型が苦手(主にグレイレウスのせい)なのは分かるけど、仲良くして!
「あ、あははは……何か、別の意味で仲良くなってる?のかな、二人とも……」
そう口にして頬を掻くプリシラ。
そんな彼女に、バドランンディスは声を掛ける。
「良かった……プリシラさん、ヤンキー口調じゃなくなってる……」
「? ヤンキー口調? あぁ、夜の私のこと? 何かごめんね。私、夜になると性格変わるからさー。実は、能力も変化するんだよ」
「そうなのですか?」
「うん。昼間の私は、剛剣型(防御タイプ)。夜の私は、剛剣型(攻撃タイプ)+速剣型。どちらかというと夜の私の方が、戦闘向きなんだよね。性格には難ありだけど」
「なるほど。では、厳しい戦いになったら、夜のプリシラさんを頼った方が良さそうですね」
「うーん。ただ、まぁ、地下水路……屋内だとあまり活躍はできないかなぁ。空が無いと、獣人族の本当の力を解放できないから」
「獣人族の本当の力とは、何ですか?」
「獣人族はね、月の光を浴びると、真の力を解放できるんだよ。身体能力がぐぐんと上がるの。ただ、力に溺れて暴走しちゃう子もいるから……全員が全員、月の光にメリットがあるというわけでもないんだけどね」
そう言って、あはははと笑うプリシラ。
獣人族にそんな能力があったとは驚きだ。
昼と夜で剣士のタイプが変わるのも、面白い。
他種族には、まだまだ俺の知らない情報があるようだ。
「……」
後方へとチラリと視線を向けてみる。
最後尾を懸命についてくるのは、フランエッテだ。
フランエッテは、誰とも会話せず、ただ暗い表情で皆についてきていた。
さりげなく、彼女を見つめていた……その時だった。
突如、上階の方で、大きな爆発音が鳴り響いた。
それと同時に地下水路内が揺れ、天井からパラパラと土塊が落ちてくる。
「きゃっ!? 今の、何の音!?」
ロザレナのその声と同時に、全員、足を止めて天井を見上げる。
その後、爆発音は止み、揺れは治まった。
まるで、爆弾でも爆発させたような大きな音と揺れだった。
いったい、上階で何が起こったのだろうか?
訝し気に上を見上げていると、突如、【念話】が飛んできた。
俺は耳元に手を当て、その【念話】に応答する。
『師匠! 聞こえていますか!』
「ルナティエ? どうしたんですか?」
『単刀直入に情報だけお伝えしますわ! リューヌが……天馬クラスの生徒を使って、第二階層の最奥へと繋がる全ての入り口を、爆発物を使って落石させ、塞ぎましたわ!!!!』
「入り口を……塞いだ、ですか……!?」
俺のその発言を聞いて、パーティーメンバー全員、驚いた表情を浮かべる。
『わたくしがちょうど、第三階層へと到達した直後に、天馬クラスの生徒たちが入り口を塞ぎましたの! 他の生徒たちにも聞いてみましたが、他の入り口も同様のようですわ!! つまり、第三階層以降へと到達した生徒は、地上へと戻れなくなったということです!!!!』
その話を聞いて、俺は、嫌な予感を覚える。
リューヌを除いた級長全員が最奥を目指して進んでいる現状で、リューヌはルナティエを最後に出入口を塞ぎ、帰り道を無くした。
まるで……級長たちを全員、そこで始末する算段が付いているかのような行動。
もしかしてリューヌは、アンリエッタが地下水路に首狩りを放ったことを予め知っていた?
だから、邪魔者を先に行かせ、閉じ込めた?
いや、確かに首狩りは生徒じゃ太刀打ちできない強者だが、リューヌの思惑通りにあの女が級長全員を手に賭けるメリットはない。
もしかして、アンリエッタが放った策は、首狩りだけではない……?
アストレアとガゼルは、そんなことは、一切言っていなかったが……?
漠然としているが、どうにも嫌な予感が、拭えない。
地下水路の奥に得体の知れない別の何かが潜んでいるような気がする。
俺は混乱するルナティエを落ち着かせ、後で合流しようと声を掛けた後、パーティー全員に、ルナティエから聞いた話を話した。
すると、皆、緊張した面持ちを浮かべた。
「閉じ込められた、って……マジで言ってんの? 食料も殆どないっていうのに、どうするの? こんなんじゃ、任務どころじゃなくない?」
エリニュスのその言葉に、プリシラは頷く。
「そ、そうだよ。一旦その閉じられた入り口に戻って、救助を待った方が……」
「――――駄目よ。あたしは、先に進むわ」
ロザレナのその言葉に、全員、驚いた表情を浮かべる。
「ほ、本気で言っているんですか、ロザレナさん! こうなった以上、支配者級を狩ることに、何の意味も……」
「学園長は、任務中止の宣言をしていないわ。なら、前へと進むのみよ。それに……岩か何かで道を塞がれただけなんでしょ? あたしだったらそれくらい、何てことないわ。破壊して出られるから」
「で、でも……」
「バドランンディス。貴方は、天馬クラスの副級長よね? リューヌがこういった策を取ること、初めから知っていたんじゃないの?」
ロザレナのその言葉に、他の仲間たちも全員、バドランンディスへと視線を向ける。
バドランンディスは首を横に振って、俯いた。
「私は……知りませんよ。現に、私も、ここで皆さんと一緒に閉じ込められているじゃないですか。リューヌ様は一人で策を練られる御方。下の者にも、知らされない時があります」
「……嘘、ね」
ロザレナはまっすぐとバドランンディスを見つめ、そう口にする。
バドランンディスは、意味が分からないと言った様子で、開口した。
「な、何を根拠に言っているんですか!?」
「勘」
「勘って……」
「あたし、人の嘘には敏感なのよ。貴方は、昨日、自分のことを話している時しか、本当のことを言っていなかった。常に嘘だらけなのよ、あんた。あたしたちに、一切、本当の自分を見せていない」
「……仰ってる意味が、分かりません」
睨み合う二人。
数秒間睨み合った後、ロザレナはため息を吐くと、前を向いた。
「まぁ、あんたとリューヌが何をしようが、あたしには関係ないけど。邪魔をするなら、斬る。ついて来るか来ないかは好きにして。あたしは任務中止の報せが無い以上、勝つために、進み続けるわ」
そう言って、ロザレナは奥へと向かって進んで行った。
俺もそんな彼女の後を追って、歩いて行く。
「よろしいのですか? お嬢様。奥に進むのは、ルナティエと合流してから後でも……」
「ルーファスとアグニスも、絶対に、諦めずに前へと進んでいると思う。多分、キールケもよ。あたしも、遅れるわけにはいかないのよ、アネット」
「畏まり、ました」
俺は頷き、箒丸を手に、ロザレナと共に歩いて行く。
そんな俺たちの後を、遅れて、パーティーのみんなが追って来た。
「ま、待ってよ! 私たちも行くよー!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「計画通りに、級長全員を、地下水路の第三階層に閉じ込めることが叶いましたぁ。アンリエッタさんに、大聖堂の封印殿からアレを盗むための手引きをしておいて、助かりましたねぇ。オフィアーヌ家使用人のレギウス。彼を【支配の加護】で我が信徒にしておいたのも、正解でしたぁ。やはり四大騎士公の家に一人は間者を入れておくのは良い手ですねぇ。これで……邪魔者は全員、排除することができたでしょう」
そう口にしてフフフと笑みを溢した後、リューヌは、ボードゲームのキングの駒を手に取る。
「あとは、誰かが入り口が塞がっていることに気付いて教師に報告するまで、第1~2階層での、魔物狩りゲームとなる。級長のいない戦場でのゲームでしたら、わたくしの勝利は確実となる。さようなら、ロザレナちゃん、ルナちゃん、ルーファスくん、シュゼットちゃん、キールケちゃん。貴方たちのことは、けっして、忘れませんよぉう。クスクス……」
そう言って、リューヌは、敵側の盤面にあるキングの駒に、チェックメイトをかけた。
その直後。リューヌに、【念話】が届いた。
リューヌは微笑を浮かべながら、応答する。
「はい。どなたでしょうかぁ? あら? 大聖堂の信徒さん?」
うんうんと頷き話を聞いていたリューヌが、突如、笑みを張り付かせたまま硬直した。
「……はい? 大聖堂に……王女を名乗る『ぴぎゃあ』と鳴く謎の人物と、漆黒の騎士が……襲撃してきた? いったい何を……言っているのですかぁ?」
 




