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第7.5章 第216話 夏季休暇編 四大騎士公のお茶会 ③


「ようこそいらっしゃいました、お客様方」


 屋敷の中に入ると、フロントロビーには、深くお辞儀をするマグレットとクラリスの姿があった。


 しかし、そこにはコルルシュカの姿は無かった。


 恐らく彼女は、エリーシュアと顔を合わせる気はないのだろう。


 シュゼットの背後にいたエリーシュアはキョロキョロと周囲を確認すると、ロザレナの背後に立つ俺にそっと声を掛けてくる。


「あの……以前アネットさ……んが、仰っていた、私に似ているメイドというのはどちらに……?」


「すいません。どうやら彼女は今、別の仕事をしているみたいでして……」


「そうですか……」


 しゅんとするエリーシュア。


 コルルシュカは以前、エリーシュアに対して複雑そうな様子を見せていた。


 この双子の姉妹の間には、多分、俺の知らない何かしらのわだかまりがあるのだろうな。


「それではお茶会の席へとご案内いたします」


 そう言ってマグレットは先導して廊下を歩いて行った。


 そんな彼女の背後を、ロザレナ、ルナティエ、オリヴィア、シュゼットがついていく。メイドである俺とエリーシュアは一番後ろだ。


 ……しかし、四大騎士公の令嬢たちがこうして並んで歩いているのを見ると、なかなかに壮観だな。


 やはり名家出身なだけあってか、皆、とても美しい顔立ちをしている。


 ロザレナは目鼻立ちが整っていて、その真っすぐと前を見つめる勝気そうな瞳と自信がある表情には、不思議な魅力が宿っているように感じられる。


 ルナティエは高貴で高飛車な雰囲気を持ちつつ、その顔は可憐さと美しさを併せ持ち、絵画の中に出てくるような美少女っぷりを発揮している。


 オリヴィアは少し陰があるが、親しみやすい雰囲気を持っており、この中では一番女性らしい身体付きをしている。恐らく世の男性が見たら、一瞬で恋に落ちること間違いなしだろう。


 シュゼットは妖艶で大人らしく、彫刻のように美しい。だが、その美しさの中には、近付きすぎると危険な気配も漂っている。魔の薫る美人。


 彼女たちはそれぞれ異なった雰囲気を持っているといえるだろう。


 王国でも、これほど美しいご令嬢たちは早々居はしないと思う。


 大きくなったら、さらに綺麗な貴族令嬢となることだろうな。


 一メイドとしてはその時が楽しみである。





 その後、マグレットの案内で俺たちはバルコニーへと通された。


 そこには丸いテーブルの四人席と、茶器や菓子の類が既に用意されていた。


 マグレットは「どうぞ、お座りくださいませ」と、ご令嬢たちに頭を下げる。


 その言葉に従い、ロザレナ、ルナティエ、オリヴィア、シュゼットは席に着いた。


 エリーシュアはシュゼットの背後へと待機した。


 その後、マグレットは「失礼致します」と言って、入り口へと戻って来る。


 入り口横に立ちながら、その光景を眺めていると……隣に立つクラリスが俺に声を掛けてきた。


「アネット先輩。あのオフィアーヌ家のメイドの方、何だかコルルシュカ先輩に似ていませんか?」


 クラリスの視線の先には、シュゼットの背後に立つ仏頂面のメイドの姿があった。


 まぁ、案の定、そこには気が付くよな。


 とはいえ、オフィアーヌ家の事情を知る由もない彼女には、適当に誤魔化す他ないだろう。


「他人の空似って奴ですかね?」


「空似ってレベルでしょうか? 彼女、雰囲気こそは全然違いますが、コルルシュカ先輩にとてつもなく似ている気がするんですが……」


 うーんと首を傾げるクラリス。


 マグレットはそんな彼女の前に立つと、コホンと咳払いをした。


「クラリス。お客様のお顔を見つめるのは失礼なことですよ」


「は、はい。すいません、メイド長」


 クラリスが慌てて謝罪をすると、マグレットは今度は俺に視線を向けて来る。


「いけるね、アネット?」


「はい」


 ここから先は、俺の仕事となる。


 俺は胸に手を当てて深呼吸をすると、仕事モードに切り替え、マグレットとクラリスに向けて頭を下げた。


「―――メイド長、クラリスさん。事前にお話させていただいた通り、ここからのお茶会の進行は私が担当致します」


「アネット、相手は他家のご令嬢様方だ。いくら交流がある方々といえども、けっして気を抜くんじゃないよ? 粗相があれば、レティキュラータス家の沽券にかかわってくるのだからね」


「ええ、分かっております、メイド長。お任せを」


 そう答えると、マグレットとクラリスはコクリと頷き、御屋敷の中へと入って行った。


 二人を見送った後。俺はそのままテーブル前へと歩みを進める。


 そして、ご令嬢たちの前に立つと、深く頭を下げて挨拶をした。


「ここからの御給仕を担当させていただきます、レティキュラータス家のメイドのアネット・イークウェスと申します。お嬢様方、何か御用がございましたら、お気軽に何なりとお申し付けくださいませ」


 そう口にして、頭を上げると、オリヴィアが元気よく手を上げた。


「はい! アネットちゃん! お申し付けがあります!」


「何でしょうか、オリヴィア様」


「御給仕が終わったら、アネットちゃんも一緒にお茶会しましょう!」


「それはできかねます。私はメイドで、お嬢様方は貴族のご令嬢なのですから。同じ席でのお食事はできません」


「え~~っ! やだぁ~~! お姉ちゃんは、アネットちゃんとも一緒にお茶を飲みたいです~~っ!」


 そう言ってオリヴィアが駄々をこねるように、両手の拳をテーブルに軽く載せた……その瞬間。


 無意識に【怪力の加護】を発動させてしまったのか、テーブルにバキッと亀裂が入ってしまった。


 テーブルのヒビから破片が飛び、その破片はシュゼットへ向けて飛んで行く。


 しかしシュゼットは特に動揺した様子も見せず。


 椅子に座ったまま閉じた扇子を横に振り、その破片を難なく空中で斬り裂いてみせた。


 そして彼女は、口元に閉じた扇子の先を当てると、微笑を浮かべたままオリヴィアを睨み付ける。


「フフフフフ。オリヴィア・エル・バルトシュタイン。どうやら貴方は先程から私に喧嘩を売っているようですね? バルトシュタイン家は脳筋の集まりだとよく聞きますが……【怪力の加護】の継承者がこうも馬鹿な女だとは思いもしませんでした」


「? 喧嘩なんて売っていませんよ~? というか、シュゼットさん今、私のこと馬鹿って言いましたか~!? 何で初対面の貴方に馬鹿って言われなきゃならないんですか~!! た、確かにお兄様にはよく馬鹿だとは言われますけど……わ、私は馬鹿じゃないですっ!!」


「……貴方、先ほどから随分とアネットさんと親しそうな様子でしたね。お姉ちゃんとは、いったい何なのですか?」


「言葉通りの意味ですっ! 私はアネットちゃんのお姉ちゃ―――」


「!? オリヴィア!!」


 俺がそう声を発する前に、シュゼットは扇子を横に振り、石の杭をオリヴィアに向けて射出した。


「【ストーン・バレッド】」


 その石の杭は、まっすぐとオリヴィアの顔に目掛け飛んで行く。


 しかしオリヴィアは席から立ち上がると、その石の杭に向けて拳を放ち……【怪力の加護】を発動させ、難なく粉々にしてみせた。


 睨み合うシュゼットとオリヴィア。


 その光景を見て、ルナティエは顔を青ざめさせ、額に手を当てる。


「な……なんでお茶会が始まる前からこんなに険悪になっているんですの!? テーブルも壊れていますし!? 戦闘も始まってますし!? 何なんですの、この状況はーっ!?」


「喧嘩かしら!?」


「そこ!! ワクワクしてんじゃありませんわよ!! 


 ルナティエによって脳天にチョップを叩き込まれるロザレナ。


 いや、本当、ルナティエの言う通り……何なんだよ……この状況は……。


 シュゼットが好戦的な性格なのは元から知ってはいたが、何故ロザレナではなく、オリヴィアに噛みついているんだ……?


 俺は動揺した様子を見せた後。すぐに冷静さを取り戻し、頭を仕事モードに切り替える。


「お、お席にお座りください、オリヴィア様。シュゼット様も、魔法の使用はどうかお控えくださると助かります」


「は、はい! ご、ごめんなさい、ロザレナちゃん、アネットちゃん。テーブル壊しちゃって……後で弁償しますね……」


「フフフ。まぁ、良いでしょう。この場はアネットさんの顔を立てて矛を納めて差し上げます」


 一先ず落ち着いた様子を見せる二人。


 俺はふぅと短く息を吐き、テーブルの上のポットに手を伸ばした。


 テーブルにはヒビが入ってしまったが、レティキュラータス家に替えのバルコニー用のテーブルはないため、このままお茶会を続行せざるを得ない。


 今のところテーブルが倒壊する雰囲気はないから……とりあえずは大丈夫かな。


「ま、まずは、お紅茶の準備をさせていただきます」


 俺はそう言って、慣れた手つきで、ティーカップに紅茶を注いでいく。


 四人分のお茶を注ぎ終えた、その時。


 ロザレナが何かに気付いたのか、「あ」と声を溢した。


「そういえば……シュゼット、何でさっきオリヴィアさんのことをバルトシュタインって呼んだの? 彼女の姓は、アイスクラウンでしょう?」


 オリヴィアはカップに口を付けたばかりだったのか、その発言に驚き、隣にいるルナティエの顔面に目掛けぶーっと紅茶を噴き出した。


 ゲホゲホと咳き込むオリヴィアと、前髪からポタポタと紅茶の水滴を溢しながら、唖然とした顔で硬直するルナティエ。


 俺は即座にテーブルの上にあったタオルを手に取り、ルナティエの顔を拭いていった。


「だ、大丈夫ですか、ルナティエお嬢様!?」


「わぷっ!? あ、ありがとうございますわ、アネットさん。……ドレスにシミがついてしまいますわね、これ……」


「ご、ごごごご、ごめんなさい、ルナティエちゃん~~!!」


 目をグルグルとさせるオリヴィア。


 そんな彼女を他所に、目を閉じ優雅に紅茶の香りを楽しんでいるシュゼットは、ロザレナに向けて口を開いた。


「おや、ご存知ではなかったのですね、ロザレナさん。彼女はあの悪辣なバルトシュタイン家の息女、オリヴィア・エル・バルトシュタインですよ。知らずにこのお茶会に呼んでいたとは驚きましたね。フフフ」


「え? オリヴィアさんって……バルトシュタイン家の人だったの!? ってことは、あの学園長の……」


「……………娘、です」


 縮こまり、萎縮した様子を見せるオリヴィア。


 恐らく彼女は、満月亭のみんなには夏休み明けに打ち明ける算段を付けていたのだろう。


 だからこの場でバラされるとは、思ってもみなかったのだろうな。


 俯き、今にも泣きそうな表情を浮かべるオリヴィア。


 そんな彼女にロザレナがどんな態度を見せるのだろうかと、我が主人の顔を見つめてみると……ロザレナはケロッとした表情を浮かべていた。


「なんだ。だったら最初から言ってくれたらよかったのに」


「……え?」


「ってことは、マリーランドで見たあの怖い顔をした【剣神】はオリヴィアさんのお兄さんなのかしら? 学園長と良い、全然似てないわね。オリヴィアさんは怖いというよりも、可愛いもの」


「ロザレナちゃん。私のこと……怖くないのですか?」


「何でオリヴィアさんのことを怖がる必要があるのよ?」


「ロ……ロザレナちゃぁーん!」


 わんわんと泣き始めるオリヴィア。


 そんな彼女を見て、ルナティエは肩を竦めた。


「だからわたくしも前に言ったでしょう? みんなに話しても問題はないと。特にこのロザレナさんは世俗的なものとは無縁な存在ですわ。バルトシュタイン家にどんなに酷い噂があったとしても、それとは切り離してオリヴィアのことを見てくださること間違いなしです。まっ、良い意味で単純馬鹿なんですわよ、この猿女は」


「誰が単純馬鹿よ!?」


 ルナティエに激怒するロザレナ。


 シュゼットはそんな光景を、紅茶片手に、つまらなさそうに眺めていた。


「面白くないですね。私としてはもっとドロドロとした汚いものを見たかったのですが。仲違いもしないとは……本当に面白くもない」


「あんたは本当に性格が終わってるわね、シュゼット」


「ええ、そうですよ? 貴方ならばご存知のはずでしょう? 私がどれくらい捻じ曲がった性格をしているのかを」


 フフフフフと笑うシュゼットに、ため息を吐くロザレナ。


 と、とりあえず、お茶会の進行に問題はないのかな?


 問題ないならおじちゃん、お菓子の準備しちゃうけど……もう喧嘩しない? 大丈夫そ?


 俺はドキドキとしつつ、ケーキスタンドから、ケーキの載った皿を取り出していった。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「んー! このケーキ、美味しいですね~! アネットちゃんが作ったんですか!? すご~い!!」


 フォークを片手に持ち、幸せそうに頬を膨らませるオリヴィア。


 ルナティエとシュゼットは優雅な所作で、ケーキを口へと運んでいく。


 そしてロザレナはというと……切り分けられたショートケーキの脳天にフォークを打っ刺し、まるでチキンを食べるかの如く丸々一つワイルドに食べている。


 食事のマナーランキングでいえば、マナーが完璧なルナティエとシュゼットが同率1位、少しマナーがなっていないオリヴィアが2位、まったくマナーがなっていない我が主人が最下位となっていた。


 オリヴィアのように可愛らしく食べるのならまだ分かるのだが、何故ロザレナは、ケーキもまるで肉にフォークを打っ刺すかの如くワイルドに食べるのだろうか……せめて一口サイズに切って食べてくれ……。


「お嬢様。お口にクリームがついていますよ」


「もぐもぐ。ありがひょう、あへっほ」


 背後からロザレナの口元をナプキンで拭いていると、ロザレナの隣に座っているルナティエが、ジト目を向けてくる。


「まったく。相変わらず品のない食べ方ですこと。いつかこの猿にマナーというものを教えて差し上げなければなりませんわね……」


「ごくごく……ぷはぁ! 紅茶も美味しいわ!」


「フフ。確かに紅茶もケーキも一級品ですね。これは、アネットさんが作られたのですか?」


「はい、シュゼット様」


「なるほど、素晴らしい腕前です。このレベルの技術をお持ちなら、きっと王都で店を開いても繁盛すること間違いなしでしょう。もし、本気でパティシエを目指すのなら……出資致しますよ?」


「い、いえ、そのような気はございませんので……」


「そうですか。それは惜しいですね」


 そう言って、シュゼットは心底残念そうな様子を見せる。


 そして彼女はケーキを食べ終えると、優雅にナプキンで口を拭いた。


 そんなシュゼットに、ルナティエは鋭い目を向けて声を掛けた。


「シュゼット。貴方、二学期からはどうするつもりなんですの?」


「? どうするつもり、とは?」


毒蛇王(バシリスク)クラスは学級対抗戦で黒狼(フェンリル)クラスに敗北し、成績は5クラス中、天馬(ペガサス)クラスと共に下位に沈みましたわ。そして副級長のアルファルドは学園を退学した……貴方、これからどう戦っていくつもりなんですの?」


「そうですね。私としてもロザレナさんに敗北したのは予想外のことでした。ですが……特に問題はございません。私は以前と同じように、ただ向かってくる者を排除するだけのことですから。副級長も、既に適任な生徒には目星を付けています。ご心配には及びませんよ」


「そう、ですの」


「フフフフフ。むしろ、学園での楽しみが増えました。ロザレナさんとルナティエさん、貴方がたにリベンジするのは先にしておきましょう。貴方がたは私にとってメインディッシュです。もっともっと、御互いに成長をしてから―――いつか頂上で再び殺し合いをしましょう。あぁ、想像するだけでも楽しみですね。ワクワクしてきます。ウフフフフフフフ」


 シュゼットが目を細め不気味な笑みを見せると、ルナティエはゴクリと唾を飲み込んだ。


「相変わらず恐ろしい女ですわね。それじゃあ、二学期からは黒狼(フェンリル)クラスではなく、他クラスと戦う気なんですの?」


「そうなりますかね。鷲獅子(グリフォン)クラスの級長、ジークハルト。牛頭魔人(ミノタウロス)クラスの級長、ルーファス。私が二学期から敢えて戦おうとするならば、この二人でしょうか?」


「? 天馬(ペガサス)クラスの級長リューヌは、貴方の戦う対象には入っていないんですの?」


 ルナティエのその言葉に、シュゼットは目を逸らし、あからさまに興が削がれたような表情を浮かべる。


「あの性悪女は私の好みではありません。そもそも私は真っ向から強者と殺し合いをするのが好きであって、謀略で相手を追い詰める非力な策士タイプと相対するのは趣味じゃないのです。まぁ……喧嘩を売られれば相手はしますが……天馬(ペガサス)クラスは非常につまらなさそうな相手ですね。興味も湧きません」


「驚きましたわね。シュゼット、貴方はリューヌをそれほど脅威とは考えていないんですの?」


「絡め手が得意そうな相手だとは認識しています。ですが、敗ける気は一切ありませんね。ロザレナさんには敗けましたが、私は未だに、一期生級長の中では自身が最強の個であると自負しておりますから。群を操る才能しかない小賢しい修道女など、この私の相手になるはずもない」


 リューヌは群を率いる策士タイプで、シュゼットは一人で群相当の実力を誇る強者タイプ、か。


 なるほど、この二人は、真逆な性質を持つ級長ということか。


 ある意味、級長と副級長にこの二つのタイプがいる黒狼(フェンリル)クラスは、安定しているともいえるな。


「これも良い機会、ですわね」


 そう言ってルナティエは口元に手を当てコホンと咳払いをすると、再度シュゼットに視線を向けて、口を開いた。


「シュゼット。二学期が始まったら……わたくしたち黒狼(フェンリル)クラスと同盟を結びませんこと?」


 その言葉に、ロザレナはもにゅもにゅとケーキを頬張りながらポカンとし、シュゼットは驚いた様子を見せる。


 そして彼女は目を細めると、扇子を開き、口元を隠した。


「フフフフフフフ。仲良くお茶会をしたからといって、私がその誘いに乗るとでも? 私は一人で敵を狩るのが好きです。誰かと馴れ合いなどしたくはない」


「ええ、そのスタンスで構いませんわよ。ですが恐らく、天馬(ペガサス)クラスは、二学期から黒狼(フェンリル)クラスに何か仕掛けてくると思いますの。わたくしと級長リューヌの間には、少しばかり、因縁があるのですわ」


「……なるほど。私がそそられない天馬(ペガサス)クラスを黒狼(フェンリル)クラスが潰し、私は鷲獅子(グリフォン)クラスと牛頭魔人(ミノタウロス)クラスを邪魔者なく相手できる、という話ですか」


「理解が早くて助かりますわ」


「フフフ。確かに面白いお誘いではありますが……次の試験の内容が分からない以上、安易に乗ることはできませんね。学級対抗戦のように、学校側が対戦相手のクラスを勝手に決めるというケースもあり得ますから」


「そうですわね。ですからこの話は、ある条件下のみで動く、と、そう考えてくださると嬉しいですわ。もし、対戦相手を選択できる試験、もしくはバトルロワイアル形式の試験だった場合、お互いに別のターゲットを選ぶ。これだけでも、同盟を結ぶ価値はあると思いますわよ? 今の黒狼(フェンリル)クラスに、勝ち星のない下位の毒蛇王(バシリスク)クラスを相手にするメリットはありませんもの」


 ルナティエのその言葉に、シュゼットは目を伏せ、賞賛するように手を叩いた。


「実に理に適っています。良いでしょう、その時は私たち毒蛇王(バシリスク)クラスは黒狼(フェンリル)クラスとは敵対しません。お互いに目下の敵を叩くと致しましょう」


「同盟締結、ですわね」


 そう口にして、微笑み合う二人。


 そんな二人を見て、ロザレナは大きく口を開いた。


「ちょっと!! 黒狼(フェンリル)クラスの級長はあたしよ!! あたし抜きで勝手に同盟結ばないでよっ!!」

読んでくださってありがとうございました。

売り上げが厳しいようですので、作品継続のために、書籍版1~3巻のご購入よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
シュゼットとリューヌは似てる感じがする。 シュゼットは性格捻じ曲がってるけど、 リューヌは純粋なダークサイドっぽい感じかな?
シュゼット本当にいいキャラしてますね! かっこよくて良きです♪ 黒狼クラスにルナティエがいて本当に良かったと思いました笑
おお、学級対抗戦が一層修羅場と化しそうな同盟設立が成立したった…
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