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幕間 帰る準備とこれからのこと ⑥


「単刀直入に言いますわ。アルファルド、貴方……わたくしの付き人になりなさい!」


「オレ様の方かよ!?」


 目を見開いて驚きの声を上げるアルファルドと、その横でアルファルドを睨み付けギリギリと歯を擦りわせるクラリス。


 フランシアの御屋敷に戻るや否や、修羅場が始まるのだった。


 俺はとりあえず、ルナティエに話を聞くことに決める。


「ルナティエお嬢様。先ほどお話されていたメイドのお二方はどちらへ? そして何故、アルファルドを付き人にしようと思ったのですか? 順序立てて説明していただけると助かります」


「アネットさん。わたくしはエルシャンテとマイヤーズから話を聞いて……リューヌの能力について情報を得ることができましたの。彼女の能力に対抗するには、ある程度の強さを持つ存在が必要不可欠。その点でいえば、アルファルドはわたくしの駒としては相応しい存在ですわ。キュリエールとの戦いで、この男がそこそこ使える人材であることは既に確認済みですし」


「おい、オレ様の意志は無視かよ……」


「アルファルド、貴方にとってもリューヌは敵のはず。彼女は先日の決戦時、下層の住民たちを見捨てる行動を取りましたわよね? あの子が当主になったら、先代司教のいる下町の教会は即座に解体させられることでしょう。わたくしが当主になった際は、下層の住民にもより良い政策を立てることを誓いますわ。だから……この手を取って、わたくしの駒になりなさい、アルファルド・ギース・ダースウェリン!」


 そう言ってルナティエはアルファルドに手を向けて、不敵な笑みを浮かべる。


 そんなルナティエを見て、クラリスは慌てて口を開いた。


「ま、ままままま、待ってください!! ルナティエ様!! わ、私も、貴方様の付き人になりたくて、ここに来たんです!!」


 ルナティエはクラリスに視線を向けると、首を傾げた。


「貴方、誰なんですの?」


「わ、私は、レティキュラータス家のメイドの、クラリス・フローラム・アステリオスと申す者です!」


「アステリオス!? まさか、貴方、没落した騎士公家の……血族の者、ですの!?」


 ルナティエは元騎士公であるアステリオス家の名を聞いて、驚いた表情を浮かべる。


 そして彼女は顎に手を当てて考え込む仕草を取ると、片目を閉じ、再び視線をクラリスへと向けた。


「元騎士公が、まさかレティキュラータス家でメイドをやっていたとは驚きましたわ。アネットさん、貴方、このことを知っていましたの?」


「ええと、まぁ、はい。一応は」


「そうでしたの。元騎士公の末裔。まぁ、なかなか面白そうな人材ではありますわね。いいですわ。ちょっと貴方、中庭で実力を見せてくださるかしら? アルファルドも一緒に来なさい。このわたくしに相応しいか、改めて審査してあげますから」


「何でオレ様まで……オレ様は別に騎士学校になんざ未練はねぇってのによ。普通にこのおさげメイドを採用すれば良いじゃねぇか」


「アルファルドさん!! 貴方には絶対に敗けません!!」


 気だるげな様子のアルファルドと、メラメラと闘志を燃やすクラリス。


 これは……どうやらメリアと共に王都に行くには、もう少し時間が掛かりそうだな。


 アルファルドとクラリスは中庭へと向かうルナティエの後を追いかけ、そしてコルルシュカは何故かフランシア家の天馬の像に関心を示しながら、フラフラと屋敷の中を散策していった。


 さて俺はどうしようかと、そう思った、その時。


 背後から、ある人物が声を掛けてきた。


「……申し訳ございません。今、よろしいでしょうか?」


 振り返ると、そこに立っていたのは、私服姿で荷物を手に持つエルシャンテだった。


 彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべると、俺に勢いよく頭を下げてきた。


「アネット様、でしたよね? あ、あの……今まで酷い態度を取って、申し訳ございませんでした!」


「貴方は……確か、エルシャンテさんでしたね?」


「はい。信じて貰えるかは分かりませんが……私、今まで何処かおかしくなってたんです。ある時を境に、自分が自分ではなくなるような、そんな感覚の中にいて。それは、ルナティエお嬢様の付き人に決まった時からでした。私は五年の間、ルナティエお嬢様のことをただひたすら憎く感じ、大恩あるリューヌ様を邪魔する悪しき者として見ていました。でも、本当の私は、ルナティエお嬢様のことがすごく大好きだったんです。あの方が言葉も喋れない小さな頃から、私はお嬢様のお傍にいましたから。おしめも代えて、離乳食も作って……私は本当の妹のように、あの方を愛していたのです」


 なんだ、この違和感は……?


 会話して、まず気が付いたが……彼女は以前とはまるで別人のようだ。


 人が変わったとかいう話ではない。まるっきり中身が変わったかのように、表情も仕草も、別人だ。


 ルナティエは先程、リューヌの能力に気付いたことがあると言っていた。


 この人の変わりよう、もしかして、あの女の力は……。


「ぐすっ。も、申し訳ございません、アネット様。ルナティエ様からお聞きいたしました。アネット様は、学園で孤立しているルナティエ様をずっと支えてくださっていたそうですね。私が言うのも何ですが、本当にありがとうございました。あの方が折れずに未だにフランシア家の当主を目指すことができているのも、全てはアネット様のおかげです。感謝してもしきれません」


「……エルシャンテさん……」


「私も昔は、ルナティエお嬢様の付き人になって騎士学校に一緒に通うのが夢でした。なのに、なんで、こうなってしまったんだろう……なんで、私、お嬢様に対してあんなことを……」


 そう言って悲しそうに目を伏せるエルシャンテ。


 俺は彼女に、そっと声を掛けた。


「今からでも遅くないのではありませんか? 貴方がルナティエ様の付き人になっても……」

 

「いいえ、それは絶対にできません。あの方はいずれこのフランシア家を背負って立つ御方。私は一度、あの御方に弓を引いてしまった。ですから、そんな私がルナティエ様のお傍に立つことなど許されるわけがないのです。それは……ルナティエお嬢様も理解しておられるはずです。同情で付き人を選んでは、あの方も夢へと進むことはできない。あの方には私よりも相応しい付き人がいるはずです」


 まっすぐと俺に信念のこもった目を向けてくるエルシャンテ。


 とても高潔な人だ。心から主人を想い、主人のためだったら自らが身を引く覚悟を持っている。


 もし、リューヌが何らかの力で人を洗脳できる力があると仮定すれば、エルシャンテは本来こういう性格のメイドだった、ということか。


 何かボタンがひとつ掛け違っていたら、ルナティエはディクソンではなく、彼女を付き人として従えて騎士学校に入学していたのかもしれないな。


 エルシャンテが付き人だったら……ロザレナと最初に戦ったルナティエは、もっと精神的に強くなっていたかもしれない。


「では、私はこれで。マイヤーズを門の前で待たせていますので」


 そう口にして頭を下げると、エルシャンテは旅行鞄を持って、廊下を歩いて行った。


 俺はそんな彼女の背中に向けて、声を掛ける。


「エルシャンテさん。本当にフランシア家のメイドを……辞める気なのですか? 今の貴方だったら、ルナティエ様は過去の無礼をお許しになられると思いますが?」


「お嬢様にも一度、残るように言われました。ですが私は、この五年間、ずっとお嬢様を傷付けてしまいましたから……。もう、あの御方のお傍にいることはできません。自分で自分が許せませんので」


 そう口にした後。「でも……」と呟いたエルシャンテは振り返り、こちらに笑みを向けた。


「でも、ルナティエお嬢様はこう言ってくださいました。自分がフランシア家の当主になったら、またここに戻ってきなさい、と。それまで実家で休暇を満喫していなさいと、そう仰ってくれて……お金まで、あの御方は私にくださいました……ぐすっ、ひっぐ。私、あんなに酷いことばかり言ったのに……ルナティエお嬢様……お嬢様は……っ!!」


 ハンカチで目元を押さえ、ボロボロと涙を溢すエルシャンテ。


 俺はそんな彼女に、優しく微笑みを浮かべる。


「……そうでしたか。じゃあ、また何処かでお会いすることもありそうですね。同じメイドとして」


「ぐすっ……はい。アネット様、ルナティエお嬢様のことをどうか、よろしくお願いいたします」


 そう口にして、また頭を下げると、エルシャンテは去って行った。


 とてもまじめで、忠義に厚いメイドだ。同じ職に就く身として素直に尊敬の念を抱く。


 そんな人を、誰よりも自分の一番大事な主人を陥れるように、歪める力があるとしたら……それは使用者の使い方と相まって、とても邪悪極まりないものなのだろう。


 俺が今まで戦ってきたジェネディクトも、リーゼロッテも、暴食の王も、ここまで邪悪な気配を感じることはなかった。


 だが―――リューヌ・メルトキス・フランシア。


 彼女からはやはり、何か、得体の知れないものを感じてしまう。


 ここまで悪意のある力が在るということを、俺は、初めて知った。


 



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「クラリスさん、貴方……ドジっ子ですわね!?」


 中庭に行くと、斧を手に持ちながらお尻を上げて地面に顔を擦り付けるクラリスと、肩に剣を乗せながら呆れた目でクラリスを見つめるアルファルドの姿があった。


 うん。どうやら試験は無事に終わったようですね。めでたしめでたし。


「さぁ、皆さん、帰りますかー。ロザレナお嬢様とメリア、グレイを呼んできますねー」


「待ってください、アネット先輩!! ルナティエお嬢様!! 私、多分、やればできる子だと思うんです!! こんなはずじゃないと思うんです!!」


「それ、典型的なできない人の言い訳ですわよ!? あーもう、試験は終わりですわ!! 騎士学校に行くための主人を探しているのなら、他を当たってくださいまし!!」


「そ、そんな~!!」


 ルナティエに縋りついて泣き声を上げるクラリス。


 う、うーん。あの子、アステリオス家復興のために騎士を目指している割には……微妙な腕前なんだよなぁ。


 同じ斧使いとしては、メリアの方が間違いなく格上だろうな、うん……。


 呆れたため息を吐いた後。俺はロザレナお嬢様とメリア、グレイを呼ぶために、中庭から屋敷へと戻って行った。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《クラリス 視点》


「あ……あぁー!! す、すいません! ちょっとゴンドさんのところに忘れ物してきました! 急いで取りに行ってきます!! アネット先輩が戻ってきたら、すみませんが転移するのは待つように言っていただけると助かります!!」


「え? クラリスさん!?」


 私はルナティエお嬢様とアルファルドさんにそう告げて頭を下げると、急いでフランシアの屋敷を出た。


 私としたことが、亡くなったお父様から貰った、アステリオス家の家紋と鍵の入った巾着袋をゴンドさんのお店に置き忘れるなんて……!!


 と、とにかく、アネット先輩が中庭に戻るまでに、巾着袋を取りにいかないと!


 私はフランシアの上層の町を猛スピードで坂を下り、下町へと向かって走って行った。


 ―――その途中。街の路地裏で、何やらコソコソと会話をしている、ある集団が目に入った。


 私は足を止めて、その路地へと近付いていく。


「……案の定、リューヌにはこっちの素性がバレていましたぜ、お坊ちゃん」


「まっ、そりゃそうだよな。共和国の鎧を流したのが誰って考えたらそりゃ、俺に繋がるのは必然だ。それよりも……そのお坊ちゃんっていうのやめてくれないか、ブラッシュ。俺はもう、そんな歳じゃない」


 そこにいたのは……騎士学校の制服を着た生徒と、数人の傭兵の姿。


 その姿を見た私は、壁に身を潜め、男たちの会話に耳を傾けた。


(あの制服を着た人、何処かで見た覚えが……亡くなったお父様に似てる……?)


「それにしても……まったく、あの化け物女め。こっちの策なんてお見通しってわけかよ。これは想像以上に天馬(ペガサス)クラスは厄介と見えるな。鷲獅子(グリフォン)クラスは【独裁】、天馬(ペガサス)クラスは【洗脳】、毒蛇王(バシリスク)クラスは【暴力】ときた。普通に考えたら黒狼(フェンリル)クラスが一番倒しやすい相手なんだろうが……ブラッシュの話を聞く限り、級長のロザレナって女の実力は未知数なんだろ? はぁ、しんど。何で俺の世代にはこんなに怪物が揃ってんだ? 面倒くさいったらありゃしねぇぜ」


「それでも野望のためなら、諦めることはしないんでしょう? ―――共和国、人族(ヒューム)の族長の嫡男、ルーファス・フォン・アステリオス様」


「ア……アステリオスですってぇーーーー!!!!」


「!? 誰だ!?」


 思わず叫んでしまった私に対して、ルーファスと呼ばれた騎士学校の生徒と傭兵たちは、一斉にこちらに視線を向ける。


 傭兵は武器を構えるが……それをルーファスは、手で制した。


「何だ、お前は。何処のメイドだ?」


「わ、私の名前は、クラリス・フローラム・アステリオスです!! 元騎士公アステリオス家の末裔です!! 私の父は、私がアステリオス家の最期の末裔だと言っていました!! それなのに何故、貴方がアステリオス家の名を語っているのですか!? おかしいじゃないですか!?」


「へぇ、お前、王国に残ったアステリオスの生き残りなのか。これはまた奇妙な偶然だな」


「王国に残った、アステリオス家の生き残り……?」


「知らないのか? 300年前にアステリオス家が没落した時、生き残りだった二人の兄妹は別々の道を歩んだんだ。兄は共和国に亡命し、妹は最後まで王家と戦い王国に残る道を選んだ。その兄の血族が俺であり、妹の血族がお前ってわけだ。分かったか、おチビちゃん?」


「な、何で、共和国に逃げたアステリオス家の貴方が、王国に戻って来ているのですか!?」


「それはまぁ、俺にも俺の目的があるんでね。何でもかんでも話すことはできねぇんだよ」


 そう言って「はぁ」と大きくため息を吐くと、ルーファスはポケットから指輪を取り出した。


「まっ、何だ、お前は好きに生きたら良い。俺は騎士学校で色々とやらなきゃいけないことがあるんでね」


「私だって、いずれ騎士学校に入学するつもりです!! アステリオス家を復興させるために!!」


「そうかよ。だったら、せいぜい頑張るこった。気が向いたら、牛頭魔人(ミノタウロス)クラスの級長として相手をしてやるよ。おチビちゃん」


「そのおチビちゃんっていうの、やめてくださ―――」


 その瞬間。ルーファスと傭兵たちは転移(テレポート)魔道具(マジックアイテム)を使用し、その場から姿を掻き消した。


 私はただ、その場で呆然と立ち尽くすことしかできなかった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「あ、クラリス、戻ってきましたね」


 俺は、中庭に現れたクラリスに手を振り、再度声を掛ける。


「クラリス! 早く来てください! みんなで王都に帰りますよ!」


「あ……はい、分かりました、アネット先輩」


 クラリスは俺の声に反応を示すと、こちらに駆け寄ってくる。


 何処かクラリスの様子おかしい気がしたが……気のせいだろうか?


 俺が首を傾げていると、隣に立っているロザレナが、メリアの口に人参を突っ込んでいた。


 自棄になったメリアは、牙をむき出しにして人参に噛みつき、ボリボリと物凄い勢いで食べていく。


「良い食べっぷりね!! 見なさい、アネット!! この子、あたしに慣れたわよ!!」


「うがぁぁぁぁぁぁーっ!! ボリボリボリボリ!!!!!!」


「……えっと、ただお嬢様の動物扱いに、自棄になっているだけでは……?」


 ボリボリと人参を貪り食べるメリアの食べカスが、隣に立つグレイの頬にびちゃびちゃと付着していく。


 グレイは隣でものすごい勢いで人参を食べるメリアに、困惑した様子を見せた。


「な、なんだ、この女は……!? ば、化け物か!? ご、豪快な食い方をする奴だ!! しかし何故だ、この食べ方には、何処か威厳すら感じるぞ……!!」


 びちゃびちゃと顔面からメリアの涎を被るグレイ。何で関心してんだこいつ……。


 グレイの様子に俺が呆れていると、ルナティエはロザレナとメリアの様子に大きくため息を吐いた。


「まったく。この二人は相変わらず馬鹿というか何というか……っと、そうですわ。アネットさん、ちょっと良いですか?」


 そう言うと、ルナティエは俺の耳元に耳打ちしてきた。


「後で二人きりでお話したいことがございますの。エルシャンテとマイヤーズのことについてですわ」


 恐らく、リューヌの能力について分かったことを相談したいのだろう。俺はその言葉に頷いてみせる。


 すると、その時。アルファルドが俺とルナティエに声を掛けてきた。


「オレ様はとりあえず、マリーランドに残るぜ。まだ教会の修繕も思わってねぇしよ。騎士学校が始まったら、ルナティエの付き人としてこの女の下で働いてやるよ。不本意だけどな」


 そう言ってアルファルドは背中を見せ、俺たちに適当に手を振ってきた。


 俺はそんな彼にニコリと笑みを浮かべる。


「アルファルド。貴方は本当に……変わりましたね」


「……ケッ。そうそう人の本質は変りゃしねぇよ。じゃあな、クソメイドとその仲間たち」


 そう悪態をつきながら去っていく背中は、何処か照れているように感じられた。


 そんな彼の姿を見て、グレイはフンと鼻を鳴らす。


「まったく、あのゴロツキは最後まで師匠(せんせい)に対しての敬語がなっていなかったな。許せん奴だ。一度お灸を据えてやった方が良いんじゃないですか? 師匠(せんせい)?」


 おい、マフラー変態男、俺を見るな、俺を。


「? 師匠(せんせい)って誰のことですか?」


「コホン!! ゴホォォォォン!!!!」


 クラリスの疑問の声に、ルナティエは盛大に咳払いをする。


 ちなみにコルルシュカはというと、端で、俺のフィギュアを手に持って真剣に眺めていた。


 あの、影を消して俺のフィギュアをローアングルで眺めるのやめてもらっても良いかな? ガチで変態っぽいんで。


「はぁ……。それじゃあ、帰りますよ、皆さん。私の肩に触れてください」


「分かったわ!」「分かりました!」「分かりましたわ」「……分かった」「分かりました」「分かりましたぁ」


 ロザレナ、グレイ、ルナティエ、メリア、クラリス、コルルシュカが俺の肩を掴んでくる。


 俺はそれと同時に天高く指輪を掲げ、呪文(スペル)を唱えた。


「――――――【転移(テレポート)】!」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「―――さて。弟子どもも帰ったようだし、またマリーランドに平穏な日々が戻ってくるのう」


 そう言って鉱山族(ドワーフ)のゴンドは酒瓶を手に持ち、展望台の上から、夕陽に照らされるマリーランドの町を眺める。


 彼の右隣にあるのは、剣聖アレスの像。さらにその隣にあるのが、アネットの像。


 ゴンドは立ち上がると、アレスの像の頭から、トクトクと酒を注いでいった。


「久しぶりに会ったお前は相変わらずじゃったな。一度死んだというのに、まるでヒョコッと旧友に会いにきたかのように来やがって。本当、昔からお前は大人になりきれない、純粋無垢な少年のような奴だわい」


 そう言ってゴンドは目を伏せて、昔のことを思い出した。


 それは――剣聖となる前のアレスが、友人であるゴンドの店に初めて顔を出した時のことだった。


『おい、ゴンド! 僕にこの青狼刀を売れよ!』


『誰が貴様なんぞに売るか!! これは売りもんじゃないわい!! これは師であるラルデバロン様が打った、神具と呼ばれる刀で――』

 

『だったらこの刀に見合う剣士になるまでは、僕はお前の打った剣を使うよ』


『何を言っておる? ワシはまだこの店を出したばかりのひよっこじゃ。他にも良い武器屋は揃っておるぞ? 剣聖を目指すなら、ワシが打つ剣よりも他に―――』


『いいや、僕はお前の造る剣が良い。僕はお前の剣で剣聖になる。今決めた』


『ふん、変わり者が。好きにせい』


『あぁ。剣に不調が出る度に君の店に顔を出すからな。覚えておけよ』


 若い頃のアレスの笑顔を瞼の裏に思い返したゴンドは、再び目を開けた。


 そしてアレスの像を見つめ、静かに口を開いた。


「――――――願いは叶ったか? アレスよ」


 石像の表情は変わらない。しかしゴンドには、その表情が笑って見えていた。


「そうか。良かったな。あとはお前の愛する子に任せて、ゆっくりと眠るが良い」


 そう口にした後、ゴンドはチラリとアネットの像を見上げる。


 そして小さく笑みを浮かべると、アレスの石像の前に半分残った酒瓶を置き、その場を後にした。


「一目でわかったぞ、お前の息子のことは。いや、アレは……今は娘か? まぁ良い。あやつならきっとこの世界を明るく照らしてくれることじゃろう。お前が残した種は、今、新たな新芽を産み出しつつある。楽しみだな、アレスよ。これからの世界が―――」


 その言葉は、誰の耳にも届くことはなく。夏の終わりの風に吹かれ、消えていった。

読んでくださってありがとうございました。

これでマリーランド編は完全に終了となります。

この一年間、気付けばずっとマリーランド編書いてましたね……笑 

長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

また次章も読んでくださると嬉しいです!


書籍版3巻、早いところではもう発売しているところもあるそうです!

そして、特典小説情報も公開されております!


・OVERLAP STORE様「想像を絶する怪物」 

アネットと対峙した、ヴィンセント視点の特典小説となっております。

・全国の特約店様「ルナティエの疑念」 

3巻にある新規シーンの、ルナティエ視点の特典小説となっております。

・ゲーマーズ様「シュゼットの求める戦い方」 

シュゼットと毒蛇王クラスの生徒たちの会話で、シュゼット視点の特典小説となっております。


後程Xの方で宣伝ツイートをさせていただきますが、そちらの方に口絵を掲載予定です。

シュゼットやヴィンセント、コルルシュカなどが登場しておりますので、チェックの程よろしくお願い致します。

各特典についての詳細は、オーバーラップ広報室様の方で記載されておりますので、ご確認をお願い致します。


早いところでは既に発売しているところもあるようですが……剣聖メイド3巻は、12月25日に発売します!!

あと3日……! 作品継続のために、どうかご購入よろしくお願いいたします(土下座)

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― 新着の感想 ―
マリーランド編お疲れ様でした! 全体を振り返ってみれば弟子たちの成長を大きく感じることができ、アネットとアレスの熱い戦いも見れて楽しかったです!(^^)! 次章も楽しみです!!
マリーランド編は色んな進展があって面白かったです! 新しい仲間が増えた次の章も楽しみにしています!
文字通り長編になって色々作中だったけど終えてお疲れ様で!
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