第7章 第208話 夏季休暇編 水上都市マリーランド 決戦ー⑧ ドリル髪のお嬢様と黄金剣の決着
《ルナティエ 視点》
『―――才能のない人間に、夢を叶えることは、難しいのでしょうか?』
決戦当日の夕刻。
課題を全て終えたわたくしは、アネット師匠にそう問いを投げた。
そんなわたくしに、アネット師匠は笑みを浮かべ、首を横に振った。
『そんなことはありません。確かに、才能のある人間の方が夢までの道のりは早く無駄のないものになるでしょう。ですが……真っすぐに進むだけが、正しいとは限らない。正道とは異なる道を歩み、人一倍時間を掛けて夢を叶える者だっています。一見、険しい道だとしても学ぶことは多く、夢の叶え方に正解はない。ルナティエ、貴方には貴方だけが進める道がある』
『わたくしだけが、進める道……それが、この修行で培ったもの……ですの?』
『はい。その経験はひとつひとつは小さなものですが、合わされば大きなものとなる。私が保証します。貴方は、この二週間の修行で十分に強くなった。……驚かしてやりましょう。貴方を愚物扱いした、あの【剣神】を』
『はい! 師匠!』
そう言って元気よく返事を返すと、アネット師匠は何かに気付いたようにポンと掌を叩いた。
『あぁ、そうだ。ルナティエ、まだ最後の課題が残っていました』
『え゛? ま、まだ、課題がありますの!? 【剛剣型】も【速剣型】も【魔法剣型】も、心月無刀流の課題だって、クリアしましたわよ!? 他にいったい何が……』
そう驚きの声を上げると、師匠は目を伏せ、口を開く。
『最後の課題。それは……この修行をするにあたって、当初、私が貴方に投げた、ある質問に答えてもらうことです』
『ある質問……?』
『コホン。では、改めて。――――ルナティエ、全ての課題をクリアした貴方に問いを投げます。【剛剣型】【速剣型】【魔法剣型】。貴方は、自分をこの中のどの型の剣士だと思いますか?』
『え……?』
『貴方は以前、自分を【速剣型】の剣士だと言っていた。ですが、修行を終えた今は……自分がどのようなタイプの剣士なのか、はっきりと見えてきたのではないですか?』
『それは……』
『これが、最後の課題です。さぁ、答えを、ルナティエ――――――』
「ハァハァ……!」
師匠とのやり取りを思い出しながら、わたくしは荒く息を吐き、レイピアを杖替わりにしながら身体を支える。
目の前にはこちらを見下ろす、白銀の騎士――キュリエールの姿があった。
彼女と戦い始めてから30分。
私はキュリエールに手も足も出ず、全身に傷を増やしつつあった。
やはりお婆様は一気に勝負を付けることはせず、じわじわとわたくしを嬲り続けている。
心を完全に折り、わたくしに敗北を宣言させるのが、彼女の目的なのだろう。
だけど、お生憎様。その行動は、わたくしにとって有利といえるもの。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
わたくしは剣を引き抜くと、キュリエールに向けてレイピアを突いた。
しかしキュリエールは軽く身体を逸らし、その攻撃を簡単に避けてみせる。
そして、呆れたようにため息を吐いた。
「何度も何度も同じことを。策もなくただ無鉄砲に突っ込んでくるだけですか?」
「あぐぁっ!?」
すれ違いざまに、お腹に膝蹴りを放たれる。
わたくしはよろめきつつ、すぐに剣を横に振った。
しかしその剣は、キュリエールによって剣に当て防がれる。
「まったく……実力の差はとうに分かっているはず。何故、諦めないのですか? 何故、勝てないと分かっていて挑んでくるのですか? 理解に苦しみます」
わたくしはガンガンと剣を振り続け、あらゆる方向に剣閃を放っていった。
袈裟斬り、左薙ぎ、逆袈裟、左切上げ、右薙ぎ、右切り上げ。
その剣をキュリエールは最小限の動きで全て、完璧に、防いでいく。
「お婆様には分からないでしょうね!! 才能のない者の気持ちは!!」
「ええ、分かりませんね」
「わたくしは、幼少の頃から、どんなに努力してもリューヌに勝つことができなかった!! 寝る時間を極限まで削り、剣を振り、本を読み、研鑽を続けた……!! それでも『天才』と呼ばれる者の領域には届くことができなかった!!」
「当然です。人には生まれついての領分がある。世の中の人間は、大抵、自身の領分というものを早々に理解し、夢を諦めて生きているものです。貴方のように才能が無いと自分で理解していながら剣の道を進もうとする者は、この世界には殆どおりません。己の才を理解せずに夢を抱くその在り方は、『愚物』と呼ぶに相応しい姿です」
「たとえ『愚物』だとしても!! わたくしはあらゆる手を使って、貴方を超えてみせます!! わたくしはいつか――――フランシアの当主になって、【剣神】になる女ですわ!!」
ブンと力強く剣を振り、キュリエールのレイピアを弾く。
負け犬でも良い。やられ役でも良い。卑怯な手しか使えない惨めな女でも良い。
今、この一瞬。今この一瞬さえ勝てれば、何と呼ばれようが構わない。
いくらでも泥に塗れてやる!! わたくしのような凡人には、それしかできないのだから!!
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
わたくしは足を一歩前に踏み出す。そして、彼女の首を刎ねるべく、全力で剣を振った。
しかし――――――。
「―――――だから貴方は愚物だというのです」
キュリエールは顔に迫ったその剣を――――左手で掴み、いとも簡単に止めてみせた。
「なっ!?」
その後、彼女はわたくしの頭を掴むと……地面へと叩きつけた。
「きゃっ!?」
そして何度も何度も、わたくしの顔を地面に叩きつけ、キュリエールは怒声を上げる。
「貴方如きが! 万が一でも! この私に勝てるとでも思っていたのですかッ!?」
「うぐっ、あぐっ、あうっ!」
「恥を知りなさい、ルナティエ!! 【剣神】を愚弄したその罪を、神の御許で償いなさい!! こんな屈辱、産まれて初めてのことです!!」
何度も地面に叩きつけられ、わたくしは吐血してしまう。
すると、その時。キュリエールの背後から、大きな声が聞こえてきた。
「これならどうだ、クソババァ!!」
背後から跳躍し、上段から剣を振り降ろすアルファルド。
しかしキュリエールは振り返ることもせず、背後にいるアルファルドの顔面に向け肘打ちを放った。
そしてわたくしを空中へと放り投げると、鼻血を流すアルファルドの腹を蹴り上げ、後方へと吹き飛ばした。
わたくしはそのままゴロゴロと転がって行き……ドッシャーンと奥にあった岩に衝突する。
アルファルドも同様にザザザーッと土埃を上げながら地面を転倒していった。
わたくしはフラフラとする身体を何とか持ち上げ、起き上がる。
すると目の前には、こちらに駆けて来るキュリエールの姿があった。
わたくしは急いでレイピアを構えて、防衛態勢を取る。
「遅い」
「あ」
わたくしのレイピアは弾かれ、弧を描くように飛んで行った。
そして、その後。「ズサッ」と背後にレイピアが突き刺さる。
それと同時に、キュリエールのレイピアが喉元へと差し向けられた。
「戦いの最中、剣を手放すとは……無様この上ない」
「……お婆、様……」
「これで完璧に勝敗は決した。貴方の負けです、ルナティエ」
「うぅ……ぐすっ、ひっぐ」
わたくしは先程とは一変、ボロボロと涙を流し、子供のように泣きじゃくる。
そんなわたくしの姿を見て、キュリエールは不快気に舌打ちを放った。
「……チッ。強気に私に挑んだことから、何か策でもあるのかと思いましたが……まさか本当に何もないとは驚きました。二週間という期間を与えたというのに、成長の兆しがひとつも見られないとは。やはり何年経っても愚物は愚物、ということですか」
「お、お婆様。ど、どうか、お許しを……わたくしが間違っていました……」
「はぁ!? おい、テメェ、何言ってやがんだ、クソドリル!!」
遠くで倒れ伏しているアルファルドがそう叫ぶが、わたくしは彼を無視して、懇願するように手を組み、涙を流しながらキュリエールに訴える。
「わたくしはお婆様の言う通り、才能のない愚物です。このわたくしが【剣神】であるお婆様を倒し、お父様を救ってフランシアを守るなど……大それた願いでした。ぐすっ、お許しください……」
「ようやく気付いたのですか。その通りです。貴方はどんなに努力をしようとも、どんなに剣を振ろうとも、『天才』という存在に追い付くことができない愚物です。フランシア家に産まれただけで、自分という存在を何か大きなものであるかと勘違いして、威勢よく吠えるだけのただの無能……己の実力を理解せず『天才』である私やリューヌに何度も挑む、愚かな孫娘……それが貴方という人間です」
「ぐすっ、ひっぐ」
「ですが……自分を理解する脳は持ち合わせていましたか。その点だけは褒めてあげましょう。特別に命だけは奪わないであげます」
そう言ってキュリエールは、剣を振り上げた。
「ですが、この私を愚弄した罰として、貴方の四肢の一本はいただきます。せめてもの慈悲です。欠損する箇所は、貴方自身に選ばせてあげましょう」
「い、嫌です! それだけは、どうか……っ!」
「これ以上、私を怒らせる気ですか? ルナティエ」
「ひうっ!? ……そ、それでは、左腕でお願いします。利き手の右腕は、失いたくないので……」
「分かりました」
そう返事をすると、キュリエールは剣を構えたまま、わたくしの左腕に目標を定める。
大人しく腕を斬られようとしているわたくしを見て、アルファルドは叫び声を上げた。
「バカ野郎!! テメェ、さっさと逃げ――――――」
「さぁ……罰を受け入れなさい、ルナティエ!」
大上段から剣を振り降ろす、キュリエール。
それは……『唐竹』の型。
剣の型で、最も隙が大きい剣の動きの一つ。
ロザレナさんのような【剛剣型】の『唐竹』であれば、その威力にわたくしは為す術もなく吹き飛ばされていただろう。だが、彼女は【魔法剣型】の剣士。
【剛剣型】や【速剣型】に比べて、【魔法剣型】は総じて身体能力が劣るもの。
それ故に――――いくら【剣神】であろうとも、上段の剣を振る時、その身は隙だらけとなる。
――――――――――――――――――この時を、ずっと、待っていましたわ!
わたくしは力強く足を一歩前に踏み出す。
そして恐れることなくお婆様の間合いに入ると、両手に闘気を纏い、そのまま右手で……剣を持っているキュリエールの腕を払いのけた。
キュリエールの剣は、弧を描き、背後へと飛んで行く。
「……は?」
突然の行動に唖然とするキュリエール。
わたくしはそのままキュリエールの腕を掴むと、唖然とする彼女を――――背負い投げをして、地面に叩きつけた。
「おりゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ガシャァァァァンと音が鳴り、キュリエールは激しく地面に叩きつけられ、カハッと乾いた息を溢す。
わたくしはそのままキュリエールに馬乗りになると、闘気を纏った拳で、彼女の兜を殴りつけた。
殴りつけた瞬間、兜はベゴッと凹む。
彼女は【剛剣型】のように闘気を纏う術を持っていない。故に、守り自体は薄い。
徒手空拳であるならば、闘気を纏うことができるわたくしの方が、拳での威力は上となる。
「おら! おら! おら、ですわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ちょ……調子に乗るなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その時。キュリエールが、わたくしのお腹に目掛け蹴りを放ってきた。
わたくしはそのまま後方へと吹き飛ばされるが……寸前でお腹に闘気を纏ったおかげか、無傷。
ザザザッと地面に足を付けながら踏みとどまると、わたくしは態勢を崩すこともなく、キュリエールに向けて【心月無刀流】の構えを取った。
キュリエールは起き上がると、こちらを信じられないものでも見るかのような様子で見つめる。
「は……?」
呆けたように声を溢した後、彼女は再度、口を開く。
「あ……あり得ない。私を……投げ飛ばした? 【剣神】であるこの私を、無称号の、愚物の、ルナティエが……?」
「……師匠。わたくし、やりましたわ……!」
思わず、涙が出そうになる。
師匠は、わたくしなら、あのキュリエールを倒せると言ってくださった。
邪道を進むわたくしだからこそ、正道を進むキュリエールを欺き、倒せると。
だけど、ここで泣いては駄目だ。わたくしの目的は、彼女を完全に打ち倒すこと。
現状、ここまでは全てわたくしの掌の上、作戦通りだ。
何も策が無いと思わせ、途中で剣を無くし、最後に油断した隙を突く。
キュリエールは今現在、剣を失っている。
徒手空拳での格闘技術ならば、こちらの方が上であることは、先ほど確認した。
状況はわたくしの有利に働いている……!
「素手でなら私を倒せると? 愚物が……舐めるなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
キュリエールは咆哮を上げ、徒手空拳のまま、襲い掛かってくるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《キュリエール 視点》
私は即座にルナティエへと詰め寄ると、彼女に向けて、蹴りを放った。
だがその蹴りは手で弾かれ、簡単に防がれる。
そしてルナティエはそのまま――――私の顔に目掛けて掌底を放ってきた。
「くっ!」
寸前で躱してみせたが、兜の左頬付近に傷が付く。
この威力、まさか……手に闘気を纏っているというのですか!?
あり得ない。ルナティエは【速剣型】の凡人なはず。
確かに世の中には、多種多様な型の才を持つ剣士はいますが……ルナティエに限ってそれは絶対にあり得ない。
何故なら私は、この子の才能の底を、幼少の時点で完璧に把握できていたからだ……!
【剛剣型】のように剣に威力を伴うこともなければ、【魔法剣型】のように有用な魔法を多く使える才もない。
【速剣型】としても、同年代の【速剣型】と比べて、圧倒的に速さが足りなかった。
武術の才がない凡人。それがルナティエのはずだ。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
まっすぐと拳が放たれる。私はそれを顔を横に逸らして回避してみせ、逆にルナティエの頬に向けてカウンターの拳を叩きつけた。
拳が頬に直撃し口元から血を流すが……彼女の顔にダメージはほぼない。
まさか……闘気でガードを? 闘気操作ができている……? そんな馬鹿な……ルナティエは【剛剣型】だったとでもいうのですか……?
「お返しですわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
唖然としていると、兜ごと顔面を殴られる。
私は兜の中で吐血しつつ、すぐに態勢を整え、ルナティエの腹に目掛けてフックを放った。
みぞおちに向けて放った強烈なフックだったが……ルナティエは寸前でその拳を弾き、すぐに拳を放ってくる。
またしても顔面を殴られ、私は、兜の中で唖然とする。
(な……何なのですか、この状況は……?)
【剣神】ともあろう者が、無称号の剣士相手に良いように殴られている。
ルナティエの取るその格闘術は、力を受け流す構え……そう、確か【心月無刀流】と呼ばれるもの。
【心月無刀流】と呼ばれるその古武術の使い手はとても少ない。
私が知っているのは、亡き【剣聖】アレス・グリムガルドの門下、ハインライン・ロックベルトと、あとは……。
(え……?)
その時。一瞬、ルナティエの背後に……肩に刀を乗せ、マントを靡かせる大男の姿を浮かんだ。
私が誰よりも畏敬の念を抱いていた剣士、怪物と呼ばれた【剣聖】アーノイック・ブルシュトロームの姿が……何故か、ルナティエの背後に見えた。
ルナティエの取ったあの動きは、基本的にカウンターの姿勢を取る、ハインラインの戦闘スタイルではない。
ひたすら攻勢に転じるその姿勢が、何故か、彼と重なって見えた。
『ビビッてんのか? キュリエール』
幻影が不敵に笑い、私を睨み付ける。
あ……あり得ない。ルナティエから彼の気配を感じることなど、あり得るはずが……。
「そ、そんなはずが……」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ルナティエは跳躍すると、そのまま私の顔に回し蹴りを放った。
その拍子に私の兜は脱げ、転がって行く。
私は空中でクルリと一回転すると、地面に着地をする。
そして、ルナティエを睨み付けた。
「ルナティエ……ッッ!!」
「あら? 相変わらずお若いお顔をしていらっしゃいますわね、お婆様。二十代後半と言っても遜色ないお顔でしってよ? まぁ、中身は? ただのババァなんですけどね? オーホッホッホッホッホッホッホッ!!」
「安い挑発を……!」
地面を蹴り上げ、ルナティエの元へと詰め寄る。
拳を振るう。ルナティエの顔面に直撃する。
拳が振るわれる。私の顔にルナティエの拳が直撃する。
お互いに血を流しながら殴り合う。
私は、魔法を主軸に戦う【魔法剣型】の剣士だ。
認めたくはないが……やはり、闘気を扱えるルナティエと拳で殴り合うにはこちらの方が圧倒的に不利か……!
「こんなもの、到底、騎士の戦いとは言えない……! 拳を使うのは、騎士として最も恥ずべき行為ですよ、ルナティエ……! 野蛮なバルトシュタイン家ならともかく、仮にも高潔な騎士の一族であるフランシア家の娘が……何をやっているのか分かっているのですか、貴方!!」
「ええ、そうですわね。わたくしも騎士として恥ずべき行為であることは、重々承知しておりますわ。以前までのわたくしだったら拳で戦うなど、最も忌避する行いでしたでしょう」
「だったら……!」
「ですが、わたくしは正道ではなく、邪道を進む者……。どんな手を使ってでも、勝つ! それがわたくしのやり方!! それがわたくしの戦い方!!」
闘気が宿った強烈な拳が、顔面に叩きつけられる。
その瞬間、ゴキッと、奥歯が折れた音が鳴る。
このままでは……まずい……!
先程、あのメイドに刻まれた胸部のダメージも残っている。
一旦離れて治癒魔法で回復を……その後、ルナティエには遠距離から攻撃魔法を放てば簡単に……。
(いや……何を考えているのですか、私は! あの愚物如きに私の魔法を使うと? そんなこと、あってはならない。認めてはならない!)
手元に剣さえ戻れば、ルナティエは拳を使えなくなり、私の勝利は確実となる。
冷静になれ……けっして本気は出さず、ただ剣の技術で圧倒してやれば良い……!
私はルナティエの拳を胸を逸らして避けると、バク転して後方へと下がる。
そして着地と同時に、背後を振り返り、先ほど落としたレイピアを拾うべく、地面を蹴り上げる。
すると、剣が落ちている場所に―――アルファルドの姿があった。
「ハッ! こいつを取りに戻ることは最初から分かっていたぜ、クソババァ!」
剣を拾い上げると、ポイッと、遠方へと放り投げるアルファルド。
その姿を見て、私は大きく舌打ちを放つ。
「雑魚が! 余計な真似を!」
「キヒャヒャヒャ!! さっきの泣き真似にはまんまと騙されちまったぜ!! 全て作戦通りってところか、クソドリル!!」
笑い声を上げるアルファルドの顔面に向けて、膝蹴りを放つ。
すると彼は口から血を吐き出し、そのまま吹き飛ばされていった。
あとは【瞬閃脚】を使用して、放り投げられた、あの剣を拾いに行けば良いだけ――――――。
「ええ。お役目、ご苦労様ですわ、アルファルド。――――疾風よ、我が身を魔術で加速させよ……【加速】!」
突如ルナティエは補助魔法を唱えると、自身の脚力を上げ、私の元へと詰め寄ってくる。
そして彼女はレイピアを逆手に持ち、私に目掛け、剣を振った。
「【裂波斬】!」
「なっ!?」
剣から、三日月型の青白い斬撃が放たれる。
私はそれを屈むことで、避けてみせた。
だが―――目の前には、補助魔法で脚力を上げたルナティエが迫ってきていた。
(ど……どういうことですか……? 【剛剣型】の闘気操作に、【速剣型】の剣技に、【魔法剣型】の補助魔法……? わ、わけがわからない……ル、ルナティエは、いったい……)
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
剣に闘気を纏い、突いてくる。
速度自体は大したことが無い。歩法を使わぬとも、余裕で回避できるスピードだ。
そうだ。相手は格下……!! 焦る必要はどこにも……!!
身体を逸らし、レイピアを避ける。
するとルナティエは、ニコリと不敵な笑みを浮かべた。
「勿論、回避されることも見越していましたわ!」
ルナティエは突如自身のスカートの中に手を突っ込むと、太股のベルトから一つの玉を取り出した。
そしてそれを投げつけた瞬間……視界が、煙幕で覆われていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《ルナティエ 視点》
煙幕玉を投げた瞬間、キュリエールは驚き、硬直する。
現状、お婆様はわたくしを舐め切っている。
本来であれば、わたくしは逆立ちしたってお婆様に敵う道理はない。
お婆様が最初から信仰系魔法を使用していたら、わたくしなど、アネット師匠との戦いの時に見たあの光の矢に貫かれ、一撃で絶命していたことだろう。
だけど彼女はプライドを優先し、わたくしに魔法を使用することを躊躇った。
それが功を奏し、【剣神】を攻略する、唯一の道筋となった。
煙玉を投げたのは、魔法の詠唱を行う時間を稼ぐため。
―――――わたくしは剣に手を当てる。
そして……脳裏に、師匠との会話の続きを思い浮かべた。
『貴方は以前、自分を【速剣型】の剣士だと言っていた。ですが、修行を終えた今は……自分がどのようなタイプの剣士なのか、はっきりと見えてきたのではないですか?』
『それは……』
『これが、最後の課題です。さぁ、答えを、ルナティエ――――――』
わたくしはその問いに一拍置いた後。静かに開口した。
『わたくしは……剣士としては、器用貧乏な性能をしていますわ。ロザレナさんのように強力な闘気も纏えなければ、グレイレウスのように速度を極めることもできない。魔法だって、シュゼットのような、直接的に攻撃性があるものは習得できなかった』
そう言った後。目を伏せ、わたくしは再度口を開く。
『この二週間の修行で得た、わたくしの能力は四つ。一つ目は、速剣型の剣技【烈波斬】と【烈風烈波斬】。二つ目は、剛剣型の能力【闘気操作】。三つ目は魔法剣型の能力、補助魔法【加速】。四つ目が、【心月無刀流】』
そして……まだ師匠にもしていない、自主的に造り出したあの合体技。
得た能力は合計五つ。それらを踏まえて分かること。
わたくしは――――――。
『わたくしは……どの型にも属さない……【オールラウンダー】、なのではないでしょうか?』
目を開いて口にしたわたくしのその答えに、アネット師匠はニコリと微笑みを浮かべた。
『正解です。ルナティエ、器用貧乏というのは、一つのものを極められない性質を持っていますが、逆に多種多様な技を覚えられるということでもあります。【オールラウンダー】の素養を持つ者は、自分に才がないと考え諦める者が多いですが……貴方は諦めずに努力し続けた。だからこそ、その能力を得られた。誇りなさい。その力は、誰もが持っていない、特別なものです』
『特別なもの……』
『加えてルナティエには戦況を見極める頭脳もある。生憎、相手は貴方のことをよく知った気でいる。ならば……自分に有利な状況を作り出せるのではないですか? 貴方ならお手の物でしょう? 奇策を用いて相手の盤上を支配するやり口は、ね』
そう口にして、師匠は、いたずらっぽく笑うのだった。
回想を終え、わたくしは煙幕の中、突進する。
そして剣に手を当て、魔法を唱えた。
「……水の精よ。我が刀身に汝の加護を与えたまえ……【水流剣】!!」
わたくしのレイピアに、水でできた刃が発現する。
【水流神のレイピア】は、水魔法の威力を高める能力を持っている。
その影響で、レイピアに纏った水の刃は、鋭利な太刀の姿に変化していった。
これだけじゃない。わたくしの全力は、ここでは終わらない……!!
「!? ルナティエ!?」
キュリエールは煙幕から現れたわたくしの姿を視認すると、剣に水魔法を宿した光景に、驚いた顔を見せる。
一歩後退しようとするが……彼女は足を踏み留めると、ギリッと歯を噛み締め、咆哮を上げた。
「こ、この【剣神】である私が!! 愚物如きに退くことなど、あり得ない!! ですが、しかし、この至近距離で魔法剣を喰らっては……!!」
「いきますわよぉぉぉぉぉぉ、お婆様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「チッ!! やはり、この状況は私に分が悪いですね!! 仕方ない!!」
キュリエールは天上に手を上げると、魔法を詠唱し始めた。
「……我が光は正義の鉄槌! 女神アルテミスよ、我に力を! 聖なる矢よ、降り注げ! 【ホーリースマ――」
信仰系魔法を発動しようとするキュリエール。
わたくしは地面を駆けながら、そんな彼女に目掛け……逆手に持った水の剣を構えた。
「魔法は、唱えさせませんわよぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ――――――【水流・烈風烈波斬】!!」
連続して左右に剣を振る。
その瞬間、キュリエールに目掛けて、三日月型の水の刃を飛んでいった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
一撃、二撃、三撃、四撃、五撃。キュリエールの腹部に斬撃が命中する。
至近距離で斬撃を放ったが、キュリエールは倒れない。
「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
六撃、七撃、八撃、九撃、十撃。それでもキュリエールは倒れない。
辺りに土煙が舞っていく。
視界が不透明になるが、それでも、わたくしは剣を横に振っていく。
十一撃、十二撃、十三撃、十四撃、十五撃。
十六撃。十七撃。二十撃。二十一撃。二十二撃――――。
「はぁ……はぁ……!」
剣を振る手を止めると、闘気と魔力が底を付き、わたくしはその場に膝を付いてしまう。
目の前は土煙が舞っていて、状況は分からない。
身体は最早限界に近い。これで倒れて欲しいですが……果たして、キュリエールは……。
「うるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その時。突如土煙の中から手が伸びると、その手はわたくしの首を掴み、持ち上げた。
苦悶の表情を浮かべながら目を開くと、目の前には……ボロボロの姿になっているキュリエールが立っていた。
キュリエールは憤怒の表情を浮かべると、大きく口を開く。
「この私が!! 愚物であるお前に敗けるはずなどない!! あってはならない!!」
「うぐっ……!!」
強く喉を締め付けられる。
意識が朦朧とし、このままでは死ぬと思った……その時。
突如、キュリエールの身体に紅い稲妻が奔り、彼女は私の首から手を離した。
「ぐっ!? ……ゼェゼェ!! 【服従の呪い】ですか!! ロシュタールめ、面倒なことを……ッ!!」
「おいおい、隙だらけだぜ、ババァ!!」
背後からロングソードを持ったアルファルドが、キュリエールに斬りかかる。
キュリエールはその剣を左手の小手で受けて防ぐと、アルファルドの腹に拳を放ち、転倒させた。
しかし先ほどの攻撃のダメージが残っているのか、彼女のその足取りは、フラついている様子だった。
わたくしはその光景を見て、何とか限界の身体を持ち上げると……レイピアを構えて、キュリエールに向かって突進して行った。
「これで……最後ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「!! そんな単調な攻撃、簡単に避けてみせ――――」
「させねぇよ」
地面に倒れ伏したアルファルドが、キュリエールの左足を掴む。
キュリエールは右脚でアルファルドを蹴り上げるが、彼がその手を離すことは、ない。
「き、貴様ぁ!! 離せ!! 離しなさい、愚物がぁ!!!!」
「キヒャヒャヒャ!! やられ役も最後には『天才』に一矢報いることができんだぜ? ……さぁ、やってやれや、クソドリル」
「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「しまっ……!」
地面を蹴り上げ、跳躍する。
わたくしはレイピアを構え、キュリエールの胸に向けて、突き出した。
――――――ザシュ。
傷い付いた鎧の装甲の隙間に、レイピアが突き刺さる。
その瞬間。キュリエールは青紫色の血を口から吐き出し、身体から力を失った。
辺りに静寂が訪れる。剣を伝って、ポタポタと、青紫色の血が滴り落ちていった。
「……」
「……」
「…………わたくしの勝ちですわ、お婆様」
「……」
お婆様は何も言わない。
すると、その時。彼女の指の先が……砂へと変わっていった。
これは……アンデッドにトドメを刺したことにより、本体が砂に帰ったと見て、よろしいのでしょうか?
その光景を見つめていると、ふいにお婆様が口を開いた。
「…………ルナティエ」
「はい」
「私は貴方を認めません」
「ええ、存じておりますわ。お婆様はこのような勝利では、絶対にわたくしを認めない。だけど、それで構いません。貴方が認めなくとも、わたくしを認めてくださる方は、他にいますから」
「師の存在、ですか……」
ケホッと咳をすると、お婆様は続けて口を開いた。
「一つ、聞きたいことがあります。二週間前まで、貴方は間違いなく何の才能もない愚物だった。ですが、今回の貴方は、以前までと戦い方を変えてきた。その多種多様な戦闘スタイル、一体、誰から学んだのですか?」
「アネット師匠です」
「アネット……それは、あのメイドのことですか?」
「はい」
その言葉に、お婆様はフッと乾いた笑みを溢す。
「なるほど……貴方からアーノイック・ブルシュトロームの気配を感じたことに、合点がいきました。彼の孫娘が貴方の師となったのなら、貴方のその変貌ぶりも納得がいくというもの。その多種多様な技を覚えるのには、生半可な覚悟では成し得なかったはず。その努力の成果だけは認めてあげましょう、ルナティエ」
「……アーノイック・ブルシュトローム……? アネット師匠が、あの【剣聖】の孫娘……?」
ゴルドヴァークも、キュリエールも。
皆総じて、アネット師匠をアーノイック・ブルシュトロームの血縁者だと断言している。
かの【剣聖】が使っていた【覇王剣】を使用していた事柄から見ても、その考えは的を得ているのかもしれない。
だけど、わたくしの推測では、眉唾な話ですが……恐らく彼女は―――――。
「ルナティエ」
キュリエールの声に、思考を中断させられる。
キュリエールの身体を見ると、彼女の身体は、腰から下が砂に変わっていた。
そんな自身の身体など気にする素振りも見せず、彼女は続けて開口する。
「貴方は、これから本気で……フランシア家の当主になるつもりなのですか?」
「はい。勿論ですわ」
「だったら……リューヌを何とか倒すことですね」
「お婆様。前々から気になっていましたが……リューヌはいったい、何者なのですか? 彼女は何処から来たのでしょうか?」
「……」
キュリエールは何も喋らない。
その時。胸から下は完全に砂となって崩れ落ちて、お婆様はわたくしの身体に寄り掛かってきた。
そして彼女はわたくしの耳元で、静かに口を開いた。
「……私は、フランシア家の未来のために、あの子を屋敷に迎え入れた。その考えは未だに間違っていないと思っています。あの子には目を見張るほどの才があった」
「それは……そうですわね。あの子は紛れもなく天才ですわ」
「ですが、あの子は異常でした。私はその異常性を理解しつつ、フランシア家に迎え入れる条件として【強制契約の魔法紙】で、あの子と契約を交わした。その契約内容、それは、リューヌがフランシア家の当主になった際、フランシアを完璧に統治し、民を守る、良き領主になること。私はそれをあの子に遵守させた」
「え……?」
キュリエールの肩から下は既に砂となっていた。
頭だけとなったお婆様は、クスリと、不気味に笑みを溢す。
「リューヌと戦うのなら、肝に銘じておきなさい、ルナティエ。彼女は……何処から来たのか得体の知れない『純粋な悪』です。ただ分かることは、出身が【奈落の掃き溜め】であることと、間違いなくフランシアの血を引いていること。それだけです」
「純粋な……悪……」
「私としては、当主が悪であろうとも、フランシアさえ守ってくれればそれで良い。紛い物である貴方とセイアッドよりも、優秀であるリューヌの統治に掛けた……それだけのこと」
そう言って……お婆様は砂となって消えていった。
わたくしは空中に舞う砂となったお婆様に、声を投げる。
「残念ながら、お婆様。わたくしは騎士学校でリューヌに勝利して、必ず、フランシアの当主となりますわ。それが……わたくしの夢ですから」
その声はお婆様に届くことはなく。空中へと霧散して消えていった。
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《アルファルド 視点》
「あっ……」
完全に砂となったキュリエールを見届けた後。
ルナティエはフラリと身体を揺らして……ドサリと、その場に倒れ伏した。
「!? おい、大丈夫か、クソドリル!?」
オレ様はボロボロになった身体を引きずり、倒れているルナティエの元へと近寄って行く。
ルナティエの前に立つと、彼女はスゥゥッと大きく息を吸い―――――叫び声を上げた。
「やってやりましたわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 死ぬかと思いましたわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 怖かったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
両腕を伸ばし、満面の笑みでそう咆哮を上げるルナティエ。
オレ様は「ケッ」と笑い、嬉しそうな様子のルナティエに声を掛ける。
「ったく、テメェが泣き出した時はどうなるかと思ったぜ。常につかず離れずの距離で攻撃をして、キュリエールの剣を注視しとけ、とは事前に言われていたが……何をするかオレ様にはさっぱり伝えられていなかったからな。正直、肝が冷えたぜ」
「敵を欺くにはまず味方から、と言いますでしょう? それに……貴方の演技力がどれほどのものか分からなかったんですもの。お婆様……キュリエールは、かなり観察力に秀でた御方。一つでもボロを出せば、一巻の終わりでしたから」
「ハッ! 大した玉だよ、テメェは」
「貴方も、思ったより使い勝手の良い男でしたわよ。剣を弾き飛ばした後、わたくしの意図を即座に汲んだ点と、最後のアシストはなかなかのものでした。特別にわたくしの従者にしてあげてもよろしくってよ?」
「うるせぇ。テメェは【剣神】を目指すんだろ? オレ様はもうこんな化け物だらけの戦いなんざ、まっぴらごめんだぜ。教会で平穏に暮らしてぇんだよ、オレ様は」
そう言った後。オレ様はルナティエに向けて拳を突き出す。
その光景を見て、ルナティエはキョトンとした様子を見せた。
「? なんですの?」
「あ? 勝った後は拳を突き合わせるのが普通だろうが?」
「あぁ、なるほど。まっ、クズ男にしては良く働いたと褒めて差し上げますわ」
「うるせぇ、クズ女」
そう言ってオレ様たちは拳を突き合わせた。
――――――その時だった。
「ドガァァァァァァァァァァァァン」と轟音が鳴り響き、丘の下に見える建造物が、次々に倒壊していった。
「な……なんだ、ありゃ!?」
まるで剣で斬られたかのように、次々と、町の中の建物が真横に斬られ、崩れ落ちて行く。
そして、その直後。地響きのような音が、マリーランド全体に広がっていった。
その光景を見つめていると……ルナティエがポソリと、口を開いた。
「……恐らくは……師匠と漆黒の騎士、アーノイック・ブルシュトロームが戦っているのですわ」
「はぁ!? う、嘘だろ!? 建物がスパスパと斬られてんだぜ!? あ、あんな状況の中に、あいつがいるのか……!?」
「貴方も先ほど見たでしょう? 師匠はゴルドヴァークとキュリエール、【剣神】二人の剣を、いとも簡単に止めてみせた。あの御方は、はっきり言って異常ですわ。師匠でしたらかの伝説の【剣聖】とも互角……いや……もしかしたら……」
「……!!」
その言葉に、オレ様はゴクリと唾を飲み込む。
元から化け物みてぇに強い奴だとは思っていたが……もしかして、オレ様の想像以上に、あのメイドはやばい奴だったのか……?
困惑しているオレ様に視線を向けると、ルナティエは真剣な表情で声を掛けてきた。
「アルファルド! わたくしを背負いなさい! そして……今から師匠の戦いを間近で見られる場所に移動なさい!!」
「……は? はぁ!? な、何を言ってるんだ、テメェ!? どう見てもあそこに行くのはやべぇだろうが!! 死ぬ気かテメェ!!!!」
「わたくしは……師匠のことがもっと知りたい。そしてわたくしは、現在、あの御方の正体に近付きつつある……。お願いですわ、アルファルド!! きっとこの機会を逃せば、師匠の本気の剣を見る機会は、早々に訪れない! 今しかないのです!!」
「いや、しかしだな……下手したら奴らの戦いに巻き込まれて死ぬぞ? オレたち……」
「いいから、早く連れて行きなさい、クズ男!! 貴方、それでもわたくしの従者なんですの!?」
「はぁ!? 誰も従者になった覚えはねぇんだが!?」
突如暴君のようになったルナティエに、オレ様は、ただただ困惑する他なかった。
第208話を読んでくださってありがとうございました。
あっさりと倒されましたが……キュリエールは結構強い設定です笑
最上位の治癒魔法で瀕死級のダメージを負っても即座に全快できて、尚且つ遠距離から光の矢を飛ばすことができ、鎧などの武装や武器などをすり抜けて本体に確実にダメージを当てることができる【ホーリーソード】という魔法剣もあります。(加護【折れぬ剣の祈り】を持つアネットの箒丸はすり抜けできません)。【閃光・瞬閃脚】を使えば、ジェネディクトよりも速いです。ただ純粋な【魔法剣型】のため本体はあまり強くはなく、ルナティエを見下し手加減した結果、虚を突く作戦で剣を落とされ、敗けてしまったという感じです。
速さはジェネディクトよりも上ですが、総合的にはジェネディクトの方が強い設定です。
いつも、いいね、感想、評価、ありがとうございます。
とても励みになっております(T_T)
次回も楽しみにしていただけると幸いです。
もうすぐマリーランド編が終わります……長かったです……笑




