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第7章 第206話 夏季休暇編 水上都市マリーランド 決戦ー⑥ 狼と龍の決着


《ロザレナ 視点》




「とりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」


 跳躍し、メリアの頭部に目掛けて、大上段に大剣を振る。


 しかしその唐竹は、寸前で横振りに振った斧によって防がれてしまった。


 それと同時に大剣に重い衝撃が伝わり、「ゴォッ」と周囲に衝撃波と土煙が舞う。


 あたしは斧を弾き、地面に着地すると、間髪入れずにメリアに向かって突進していく。


 袈裟斬り、左薙、左切上げ、右薙、逆袈裟、右切り上げ。


 ガンガンとあらゆる方向に大剣を振るが、全て斧によって防がれる。


 ……確かに、スピードも威力も、間違いなくあの子の方が上ね。


 さっき彼女の頬に傷をつけたられたのは、ほんの偶然。まぐれにも等しい一撃。


 前のめりになって、無我夢中になって剣を振っていたからこそ付けられた、奇跡の一太刀。


 だけど……この奇跡が、あたしが成長するきっかけとなるもの。


 もっと研ぎ澄ませろ! この剣の嵐の中、見つけるんだ! 勝利への道筋を!


 この戦いを乗り越えることができたら、きっと見えてくるはずだ!


 【剣聖】への―――頂に続く、最初の一歩めが!


「……チッ!」


 メリアは舌打ちを放つと、ブンと大振りの斧を振ってくる。


 あたしは屈み、その攻撃を寸前で回避する。


 そしてそのまま……あたしは大剣を横薙ぎに振り、メリアの口の下に傷を付けた。


 それと同時に、カウンターで顔に向けて膝蹴りが放たれる。


 回避してみせたが、少し掠ってしまったのか。あたしの額が裂け、血が噴き出した。


 あたしは笑みを浮かべ、額から流れてきた血を舐めると、そのまま連続で剣を振っていく。


 メリアも負けじと、あたしに向けて、斧を振り上げる。


 ザシュ。あたしの頬に斬り傷が付く。ザシュ。メリアの腕に斬り傷が付く。


 ――――――ザシュザシュザシュザシュザシュ。


 あたしの右手の甲が裂ける。メリアの腹部に傷ができる。あたしの鼻先が横一文字に斬られる。


 あたしの首元に浅い斬り傷が産まれる。メリアの耳に傷ができる。あたしの肩から血が噴き出す。


 剣と斧の剣閃が飛び交う嵐の中。お互いの鮮血が舞っていく。


「おりゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 全身血だらけになりながら、咆哮を上げ、剣を振るあたしたち。


 だけど……状況は明らかにこちらの方が不利。


 メリアの方が斧を振るスピードが速く、あたしの方が多くダメージを負っている。


 けれど、確実に一歩、前へと進んでいる。


 あたしはちゃんと、メリアに傷を付けられている。


 あとは、この戦いの中で、あいつの速度と闘気を超えてやるだけだ。


「あはははははははははははははははははははははははははははは!!!!」


「何がそんなにおかしいの!?」


 今まで冷静な様子だったメリアが、初めて動揺した様子を見せる。


 ―――アネットは、昔、あたしにこう言っていた。


 剣とは、心の折れた者が、敗けるものだと。


 あたしは絶対に折れない。例え、この身体が言うことを聞かなくなったとしても。


 絶対に獲物の首に食らいついてやる。敵の首を落とすまで、あたしは、絶対に止まらない。

 




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《メリア 視点》





 首に目掛けて袈裟斬りを放つと、ロザレナはその斬撃を大剣を横にして防ぐ。


 彼女はザザザザッと土煙を上げながら後方へと吹き飛ばされるが……すぐに態勢を整え、私に向かって突進し、すぐさま剣を振り降ろす。


 その剣を弾いて、ロザレナの頬に傷を付ける。


 だけど、彼女はまたも態勢を整え、襲い掛かってくる。


 何度も何度も何度も弾いても。何度も何度も何度も吹き飛ばしても。


 ロザレナは態勢を整えると、すぐにこちらに突進し、ガンガンと大剣を打ち付けてくる。


 その成長速度は目を見張るものがあるが……どう見ても、私の方が実力は上。


 闘気も剣捌きも、剛剣型の才も、彼女は私に全然ついてこれていない。


 このまま殴り合いを続けていたら、私の速さに追いつく前に、彼女のスタミナ切れは必至。


 ロザレナよりも闘気の保有量が多い、私の勝利は確実となる。


 それなのに……何故、私の心は、こんなにもざわつくのだろう。


 私、もしかして、何度も何度も笑い声を上げながら向かってくる、この子の姿を怖いと思っている? 


 そんなわけはない。私の方が彼女よりも強い。怖がる意味なんてない。


 いや……そもそも持久戦で勝とうと思っている自体、おかしいか。


 私の方が格上なのだから、一撃で勝負を決めてやれば良い。


 (……あれ?)


 そこで、ふと、気付いたことがある。


 それは、ロザレナが上段に剣を構えた時、爆発的に闘気の量が増えるということだ。


 彼女は何故か唐竹の型の時だけ、闘気の量が増え、異様な気配を見せる。


 とはいってもそれは私の闘気の量と比べれば微々たるもの。それに、唐竹は隙が大きい。


 私は上段に構えたロザレナの隙を見て、彼女のお腹を蹴り飛ばし、後方へと吹き飛ばす。


 その後。バンと足を地面に強く付け、深く腰を据えて、斧を構える。


 そして―――アーノイックの言葉を思い出した。



『―――良いか、メリア。君には才能がある。だが、唯一、君には欠点がある。それは……争いを嫌うその性格そのものだ』



 ザザザザザザザザザザザザッと土煙を上げながら、ロザレナは大剣を地面に突き刺し、足を踏ん張る。


 そして何とか転ばずに持ちこたえると、大剣を構え、彼女は笑みを浮かべた。


「へぇ? どうやら、本気で勝負を付ける気みたいね。いいわ! きなさい!」


 ……何なの、この子。


 どう見ても、私の方が剣士としては格が上だ。それなのに、一歩も退く気を見せない。


 まるで、死に急いでいるよう……いや、それは少し違うか。


 さっきも感じた通り、きっと彼女は、心の底から戦いというものを楽しんでいるだけなんだ。


 そして、ここで私を超えられると、明確な確信を抱いている。だから、逃げないんだ。


「なん……で」


「は? 何よ?」


「何で、貴方はそんなにも楽しんでいられるの!? これは、殺し合いなんだよ!? 死ぬのが怖くないの!? どう見ても、私の方が実力は上だよ!! なのに、何で、何度も何度も向かってくるの!? 馬鹿なの!?」


「はぁ?」


 ロザレナは呆れたようにため息を吐くと、やれやれと肩を竦めて、口を開く。


「あたしは、自分の夢のために死ぬのなら、それで構わないのよ」


「夢のために死ぬのなら……構わない……?」


「そう。まぁ、もっとも、ここで死ぬなんてあたしは思っていないけどね。こんなところであたしは死なないわ。あたしは必ず【剣聖】になってみせる。あんたはあたしにとって、通過点にしかすぎないもの」


 通過点に……すぎない……? この子はいったい、どこまで先を見ているの……?


 貴方が戦っているのは、私、なんじゃないの……? 今、私に殺されかかっているんだよ、君……?


 私が困惑していると、ロザレナはフフッと笑みを浮かべた。


「それに、この戦いで、自分がどんどん成長していく感覚があるのよ。それを楽しいと思うのは、可笑しなことかしら? あたしはもっと強くなれる。もっともっと、高みへ行ける……! 楽しくて仕方がないわ!」


「狂っているよ、君」


「前に戦った子にも同じことを言われたわ。だけど……そんなに可笑しいことかしら? 剣士として、戦いを楽しみ、自分の成長を喜ぶことは……普通のことだと思うけど?」


「死の間際で、自身の命も勘定に入れず、戦を楽しむのは……気が狂っているとしか言いようがない。君は、血を求め、争いを呼ぶ獣そのものだ。君の存在が、私には許せない」


 私は短く息を吐くと、全力の闘気を身体に纏う。


「……たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」


 その瞬間、腕と足に、ウロコのようなものが浮かび上がる。


 そして目が黄色く光り、スカートの中から、尻尾が姿を現す。


 これは、龍人族(ドラグニクル)の固有能力。【半龍化】と呼ばれる力。


 【龍化】は理性を失い完全に龍となってしまう龍人族(ドラグニクル)にとって最終奥義ともいえる技だが、【半龍化】は理性が残り、一定時間経つことで元の姿に戻ることができる。


 だが―――血中に宿る龍の因子を呼び覚まし、表に出すので、戦闘力と同時に狂暴性が増してしまい、尚且つ一時間のリミットを超えると全身が疲労で動けなくなる、リスキーな能力でもある。


 敵味方関係なく周囲のものにも攻撃するリスクも伴うが、【半龍化】することで鱗で身体は硬化され、動体視力や筋力は倍に上り、闘気の量も増加される。


 魔に返る能力故に、私はこの力を嫌悪し、今まで殆ど使ってこなかった。


 だけど―――今ここで、ロザレナを確実に倒さないと、きっと私は後悔すると思うから。


 あの子は争いの化身だ。私がここで仕留めなければ、確実に、平和を脅かす存在になる。


 ここで止めないと……将来、あの子は私よりも間違いなく強くなる。止めるなら今しかしない。


「へぇ? 随分と化け物みたいになったじゃない、ツノ女。まだ力を隠し持っていたなんてね。もう、出し惜しみはないのかしら? あるんだったら、面倒だからさっさと出しなさい」


「もう、ないよ。これが正真正銘の私の全力――――【半龍化】」


 私は小さく息を吐き目を伏せる。そして……目を開け、斧を構えた。


「……私が間違っていた。君は最初から、私を殺そうとしていたというのに。手を抜いて力を制限していた。その点は剣士として失礼だった。謝るよ」


「別にいいわ。さぁ、早く戦いましょう! ワクワクして仕方がないわ!」


「……行くよ、ロザレナ。私は君を、ここで……確実に殺す」


 私は地面を蹴り上げると、猛スピードでロザレナの元へと駆けて行く。


 【半龍化】した私の実力は、恐らく【剣王】と同等クラスだとアーノイックは言っていた。


 ロザレナは、闘気の量と唐竹の威力だけは凄まじいものがあるが、他はどう見ても【剣鬼】レベルに手が届くかどうかといったところ。私に敵う道理はない。


 私は獣のように咆哮を上げ、ロザレナに向けて斧を振り降ろした。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《ロザレナ 視点》



 メリアが怪物のようになってから数十分。


 あたしは何とか彼女の攻撃を凌いでいたが……そろそろ限界に近付いていた。


 視界が揺らぐ。上手く呼吸が吸えない。


 だけど、意識だけははっきりとしている。為すべきことは、ちゃんと理解している。


 目指すは、あの子の首ひとつ。


「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」


 獣のような雄たけびを上げ、メリアがあたしのお腹に強烈な蹴りを放ってくる。


 あたしは「カハッ」と掠れた声を上げながら、後方へと吹き飛ばされる。


 だけど、すぐに大剣を地面に突き刺し、足を踏ん張り、何とか持ちこたえる。


 顔を上げると、牙を剥きだしにして、メリアが斧を構えながら飛び掛かってくる姿が目に入った。


 あたしはその斧を大剣に当て弾き、防ぐことに成功する。


 そして即座に大剣を横に振り、未だ空中に浮かぶメリアの首に目掛けて剣閃を放った。


 だが――――――首に大剣が当たったというのに、メリアは無傷。


 硬い鱗に防がれ、メリアの首には傷一つ、付いていなかった。


 メリアは、そのままあたしの顔面に蹴りを放ってくる。


 あたしはその蹴りをまともに喰らってしまい、吐血してしまう。


 だけど、すぐに足をドンと地面に付けて、持ちこたえた。


「ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」


 その後、メリアは地面に着地すると、斧を使って乱舞を行う。


 周囲に剣閃が舞う、嵐のような、斧による猛烈な乱舞。


 あたしはその剣速に何とかついていこうとするが、メリアの放つ嵐のような斧の攻撃を、全て躱すことはできなかった。


 肩、腕、顔、足、腹。全ての箇所からプシュと血が噴き出し、衣服を真っ赤に染め上げていく。


 休む暇もなく、獣のようになったメリアは、続けて襲い掛かってくる。

 

 先ほどとは違い、メリアは、あたしの攻撃に対して防御の姿勢を取らなくなった。


 だけどその理由はすぐに分かった。


 彼女は【半龍化】をしたことによって、全身に鱗を纏い、防御能力を各段に上げていたからだ。


 あたしは大剣を振り、メリアの腕に剣を当てるが……またしても硬い鱗によって防がれてしまう。


 メリアはそんなこちらの攻撃を無視して、殺意をむき出しにして、獣のように襲い掛かってくる。


 まったくこちらの攻撃が通らない状況。


 今まで色んな人と戦ってきて、こんなことは、初めてのことだった。


 あの土の壁の魔法を使用する堅牢なシュゼットだって、本体にはダメージは通った。


 グレイレウスにだって、ルナティエにだって、あたしの剣は通った。

 

 なのに、メリアには一切、あたしの攻撃が通用しない。


 本来なら、絶望的な状況なのだろう。だけど、あたしは、楽しくて仕方がなかった。


「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」


「グギャァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」


 お互いに剣を振り、獣のように命を奪い合う。


 身体はもう限界に近い。でも、嬉しい気持ちの方が大きい。


 世の中には、あたしと同世代で、こんなにも強い女の子がいるんだ。


 もっともっと、戦っていきたい。そうすれば、もっともっと、あたしは強くなることができる。


 この戦いを乗り越えられれば、アネットの背中が見えてくる位置に、あたしはようやく立つことができる。


 だから、身体が悲鳴を上げても、膝を折ることはしない。こんなところで死んでなんかいられない。


 (えっと……あれって、どうやるんだっけ?)


 アネットに課された試練。大岩を斬る修行。


 あたしはあの時、大岩を真っ二つにして、海を割ることができた。


 あの一撃をまだ、あたしはこの戦いで、出すことができていない。


 意識を集中するんだ。この二週間、あたしはアネットから、何を教えられてきたか。


 あたしは両手で大剣を持ち、上段に構えた。


「アグギャァァァァァァァァ!!」


 その時。メリアは上段に剣を構えたあたしに強く反応を示した。


 彼女はすかさず襲い掛かり、斧を振ってくる。


 あたしはその縦振りに振った斧を真横へと飛び退き、回避する。


 だが―――メリアは斧を地面に突き刺したまま跳躍すると、あたしに向けて横薙ぎに尻尾を放ってきた。


「まずっ!」


 腕に闘気を纏うのが間に合わず、あたしは、闘気を纏ったメリアの尻尾を左腕に受けてしまう。


 ザザザザッと足を踏ん張って転倒を耐えると、左腕に強烈な痛みが産まれる。


 左腕を見ると……あたしの左腕は、プランと折れて、あらぬ方向に曲がっていた。


「アグァァ!!」


 その好機を見逃さず、メリアは斧を引き抜くと、猛追を仕掛けてくる。


 あたしは右手で大剣を持ち、そんなメリアに向かって駆けていく。


 剣と斧がぶつかり、交差する。


 あたしの姿を見て、何故かメリアは、強張った様子を見せた。


 メリアの黄色い瞳に映るあたしは―――瞳孔の開いた瞳で、笑みを浮かべていた。


「あはっ!」


 あたしは困惑するメリアの隙を突き、剣速を上げて、徐々にメリアを圧していく。


 メリアは腕を失っても尚スピードを上げるあたしの姿に動揺しながらも、ガンガンと大剣に斧を当て、応戦していった。


 あたしは意識を集中させる。思い出すのは、大岩を斬ったあの時の自分の姿だ。


「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 あたしはメリアのお腹に向けて全力で蹴りを放つ。


 すると彼女は後方へと吹き飛ばされて行った。


 しかし空中でクルクルと回転すると、メリアは地面に軽やかに着地をする。


 そして着地と同時に地面を蹴り上げると、こちらに向かって駆けてきた。


 その光景を見て、深く深呼吸した後。


 あたしは大剣を……上段に構えた。


「じゃあ、これならどうかしら!?」


 あたしは大剣にありったけの闘気のを纏い、メリアに向けて放つ。


 その攻撃を斧を横にして防いだメリアだったが―――衝撃波によって彼女の頬に傷が産まれ、プシュッと、鮮血が舞った。


「……は?」


 メリアは頬に手を当て、心底驚いた様子でこちらを見つめる。


「わ、私の硬化を貫いた……? と、闘気の量が……さらに上がっている……? な、なんで……?」


「あはははははははははははははははははははは!!!!」


 あたしは笑い声を上げながら、跳躍し、メリアの頭に目掛けてさらに上段の剣を振っていく。


 メリアは慌てて斧を使い、あたしの大剣を防いでいった。


 ドガァァァァァンと音が鳴り、メリアの足元の地面に亀裂が入る。


 今度は攻勢が変わる。あたしが攻め、メリアが防ぐ番となった。


「……な……なんなの、それ。君、どうして……闘気が減るどころか、増えているの……? 片手は奪ったはずなのに……」


「あはははははははは!!!!」


 ガンガンと連続して、メリアの斧に目掛けて上段の大剣を放って行く。


 その瞬間、闘気による衝撃波が産まれる。


 その衝撃波は、メリアの腕、腹、足、腕に浅い斬り傷を作り、血が吹き出していった。


 ――――まだだ。まだこれじゃあ、彼女を殺すには至らない。


 あの時の一撃には、程遠い。もっともっと剣を研ぎ澄まさなければ。


 もっともっともっともっともっともっともっともっと――――――!!!!


「左腕は折れているのに。か、片手で大剣を振り回してるのに、その威力……な、なんで? 意味が分からない……意味が分からないよ、君!!」


「あはははははははははははははははははははは!!!!」


 その時。メリアの左ツノが斬れて、空へと飛んで行った。


 その光景に、メリアは、怯えた様子を見せる。


「ちょ……ちょっと待って!! 待ってよ!! こんなの……おかしいよ!!」


「あははははははははははははははははははははははははははは!!!!」


 その時。あたしの剣が、斧を持っていたメリアの右手の手首を吹き飛ばした。


 その光景に、メリアは目を見開き、発狂する。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 スプリンクラーのように血が噴き出す手首。傷口を抑えて、メリアは、怯えた目であたしを見つめる。


 彼女の瞳に映るのは、紅い瞳を爛々と輝かせ、青紫色の髪を揺らす、黒いシルエット。


 あたしはそんな彼女に対して、上段に剣を構えた。


「これで終わり! 楽しかったわ、ツノ女!」


「ま、待って……!」

 

 あたしは、目を伏せる。


 そして―――大岩を斬った時の感覚を思い出し、右手に持った大剣で、斬撃を放った。


「君は……いったい、何なの!? どうして、止まらないの!? こ、怖い……怖いよ、君……!!」


「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 その瞬間。


 「ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン」と音を立てて爆発音が鳴り響き……視界は、白い煙でいっぱいになっていった。


 煙が開けた後。目の前には、地面に刻み付けられた巨大な斬撃痕と倒れたメリアが、横たわっていた。


 地下水道の入り口は……崩落していた。


 




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





《グレイレウス 視点》





「……あの爆発は……地下水道辺りか。フン。ロザレナめ、結局、大技で勝負を付けたようだな。闘気不足になってまた倒れていないといいがな」

 

 そう言ってオレは、マフラーを風に揺らしながら笑みを浮かべると、目の前に立つファレンシアに向けて双剣を構える。


「さて……そろそろオレたちも決着を付けようか、姉さん」


「グレイ……」


「さっきは邪魔が入ったが……師匠(せんせい)のおかげで、こうしてまた姉さんと戦うことができた。遠慮は無用。いくぞ、姉さん!」


 オレは地面を蹴り上げ、【縮地】を使用して、姉さんに突進する。


 姉さんは交戦しようと双剣を構えるが……オレは寸前で姉さんの前から姿を掻き消す。


 そして残像を産み出し、【影分身】を発動させた。


 周囲を駆け巡る影分身に、ファレンシアはキョロキョロと周囲を伺い見る。


 オレは背後に回ると、剣を横に振り、青白い斬撃を放った。


「【裂波斬】!」


 ファレンシアは即座に振り返ると、剣を振り、その斬撃を防いでみせた。


 そして彼女は、オレに対して驚きの声を上げる。


「【裂波斬】!? 貴方、その若さで【裂波斬】を使えるの!?」


師匠(せんせい)から習ったばかりの技だ。これも全ては、師匠(せんせい)の指導のおかげだ」


師匠(せんせい)……? 貴方、さっきのメイドをそう呼んでいたわね。もしかして、あの子が……」


「あぁ。そうだ。オレの師匠(せんせい)だ」


 ファレンシアは困惑した様子を見せた後。優しく笑みを溢した。


「メイドの子が何で、剣に覚えがあるのかは分からないけれど……さっき、不意打ちとはいえあのキフォステンマを簡単に吹き飛ばしていたのを見たのは紛れもない事実。彼女、相当な腕前なのでしょうね」


「相当どころではないぞ、姉さん! 師匠(せんせい)は箒で全てを破壊する力をお持ちなのだ!! あの方が歩んだ道の後には、塵一つ残らない!! まさに伝説に等しい御方だ!! そして、それだけじゃない!! あの御方は人格も完璧なのだ!! 強さに奢らず、弱き者にも手を差し伸べるお優しくも尊き御方……!! 今は実力をお隠しになられているが、オレには見えるぞ!! 師匠(せんせい)がこの世界に名を刻み、誰からも崇拝される、その瞬間がな!! フハハハハハハハハ!!!!」


 オレは影分身を解除し、拳を握りながら、姉さんにそう力説する。


 そんなオレを見て、姉さんは、何処か引いた様子を見せた。


「そ、そう……。で、でも、あんなにも誰かから剣を教わることを嫌がっていた、教師嫌いの貴方が、まさか同世代の女の子を師に選ぶなんてね。お姉ちゃん、ちょっと驚いたわ」


「……姉さん。昔、オレに言ってくれたよな。この世界は広い。だから、いつかオレにも、心の底から信じられる先生と出会える機会があるはずだと。姉さんの言った通りだった。幼少の頃、身体の小さいオレに剣士は向いていないと、見切りを付けた教師どもと師匠(せんせい)は違う。師匠(せんせい)は……こんなオレに【剣神】になれと言ってくださった!! そうだな、師匠(せんせい)がどれだけ素晴らしい存在であることをもっと説明するには……ううむ、言葉が見つからない。オレなどが説明しきれぬほど、師匠(せんせい)は素晴らしい御方であってだな―――って、ぬぐぉあっ!?」


 突如、ファレンシアがオレに向かって斬り掛かってくる。


 オレはその攻撃を身体を逸らし、紙一重で避けてみせた。


「あ、ご、ごめん、グレイ。私、目の前にいる敵に攻撃するように、【服従の呪い】で命令されているから……隙だらけだったから身体が勝手に反応しちゃった……」


「い、いや、今のはオレが悪かった。つい、姉さんに、師匠(せんせい)を自慢したくなってしまった。戦いの最中だというのにな」


 オレのその言葉に、クスリと、ファレンシアは笑い声を溢した。


「本当に好きなんだね、その人のこと」


「あぁ。あの御方はオレの恩人だ。あの御方のためなら、オレは、何だってできる。この先も、オレはあの御方についていく。そして、オレは……いつか必ず【剣神】となる」


「そう、【剣神】に……」


「最初は姉さんの夢を継ぐつもりで、その目標を掲げた。だけど、今は違う。オレはオレ自身の思いで、【剣神】を目指すことを決めたんだ。全ては―――あの御方に相応しい、弟子になるために」


「だったら……私に勝たなきゃ、いけないね」


「あぁ、そうだな」


 オレとファレンシアは剣を構い、互いに睨み合う。


 お優しいアネット師匠(せんせい)は、オレに、「俺がファレンシアを倒そうか?」と声を掛けてくださった。


 だけどオレはそれを断り、自らの手で姉を仕留めることを決めた。


 【剣神】を目指す上で、姉の影を追うことは切っても切り離せないこと。


 ならばこれは良い好機でもある。姉の幻影を斬り、一人の剣士として、前に進むためにも。


 アネット師匠(せんせい)の弟子に相応しい自分になるためにも。


 この壁は、己の手で乗り越えていかなければならない。


「行くぞ――――――ファレンシア」


第206話を読んでくださって、ありがとうございました。

次話でグレイレウスとファレンシアの決着、次にルナティエとキュリエールの決着。

その次にアネットと漆黒の騎士の決着を付けられたら良いなと、考えています。

あともう数話でこの章は完結予定です!

もうしばらくお付き合いくだされば、幸いです!


※メリアの怪我は、治癒して治る予定です。ご安心ください。

読者様の反応があまり良い感じではなさそうなので、もしかしたらこの話は削除して直すかもしれません。その時はごめんなさい!(内容は続けて読んでも問題ないようにします!)


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― 新着の感想 ―
[一言] ロザレナがどんどん人外に進化している
[一言] 笑っちゃってハイテンションになって楽しくて仕方がなくて…っと満ち足りてる一戦になりそう
[一言] 姉にアネットを自慢するグレイが可愛すぎました!! 姉にちょっと引かれてるところで笑いました笑
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