第7章 第205話 夏季休暇編 水上都市マリーランド 決戦ー⑤ 純然たる正義と悪
「ドッシャーン」と大きな音を立てると、土煙を上げながら豪快に市街に着地するゴルドヴァーク。
そんな彼の前に、ストンと、ジェネディクトは華麗に着地してみせた。
そしてジェネディクトは双剣を構えると、ゴルドヴァークに向けてニヤリと笑みを浮かべる。
「久しぶりね、お父様」
「……ククク。ジェネディクト、か。流石は我が息子だ。まさかこの俺を一太刀で吹き飛ばしてみせるとはな。どうやら俺が生きていた時代よりもさらに強くなったようだな。褒めてやろう」
ゴキゴキと肩を鳴らすゴルドヴァーク。
そんな彼に、ジェネディクトはクスクスと笑みを溢す。
「覚えているかしら、お父様。私は貴方のせいで、地獄に産み落とされたのよ」
「クククククク。地獄、か。それは、バルトシュタイン家のことか?」
「そうよ。私は望まれぬ子どもとしてあの家に生を受けた。そして、幼少期から私は、バルトシュタイン家の兄弟たちから稽古と称してリンチを受けてきた。幼い私は、父に助けを求めた。そんな私を見て、貴方は何て言ったか覚えているかしら?」
「弱い貴様が悪い、か。クククッ……この世界は『弱肉強食』だ。自然界において他より劣っているものは淘汰される定めにある。弱者を庇うのは人間だけだ。故に、人間の社会には不出来な者が多い。必然、間引きが必要なのは世の道理」
その言葉にジェネディクトは額に手を当て、大きく笑い声を上げる。
そして一頻り笑い終えると、ジェネディクトは口を開いた。
「貴方の死後。私はゴーヴェンに無実の罪を被せられ、この数十年、バルトシュタイン家への憎悪だけで生き永らえてきた。私は、母パトリシアを苦しめた貴方と、私から騎士団長の座を奪ったゴーヴェンが憎くてたまらない。貴方を殺した次は、必ず、ゴーヴェンも殺してやるわ! この忌まわしき血は、全て、根絶やしにしてやるッ!!」
「ゴーヴェン、か。ククク……クハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!」
「何が可笑しい!!」
ジェネディクトは鋭くゴルドヴァークを睨み付ける。
するとゴルドヴァークは、静かに口を開いた。
「ジェネディクト。貴様は、ゴーヴェンという男をどのように見ている?」
その言葉に、ジェネディクトは目を伏せ、過去の情景を思い出す。
中庭から去っていく兄弟たち。地面に横たわる、ボロボロになった幼き日の自身の姿。
そんな彼を見向きもせず、助けることもせず。ただ、中庭の切り株に座り、本を読む幼きゴーヴェン。
ジェネディクトは起き上がると、そんなゴーヴェンに声を掛けた。
『……ゴーヴェン。君は何故、僕に何もしないの?』
『……』
『……僕は、妾の子だから、兄弟たちに虐められるんだ。お父様も、僕が弱いのが悪いと言うだけで、虐められている現場を見ても助けてくれない。でも、君だけは……僕を虐めなかった。君だけは、酷い言葉を掛けてこなかった。それは……何で?』
『興味が無いから』
『え?』
『俺には、夢があるんだ。その夢以外、興味がない。お前を虐める兄たちも、戦にしか頭がない父も、この屋敷の全てに興味が湧かない』
『興味が湧かない、か。不思議な人だね。君がそんなに夢中になる夢って何なの?』
『それは言えない。でも、その夢を叶えるためなら、俺は何だってやるよ。なぁ、ジェネディクト、お前には夢はないのか?』
『僕に夢はないよ。僕は、この地獄のような御屋敷の中で生きるだけで、精一杯だから』
『そうか』
一拍置くと、ゴーヴェンはパタリと本を閉じる。
そしてジェネディクトに顔を向け、続けて口を開いた。
『……ジェネディクト。この家は知っての通り、弱肉強食の世界だ。弱ければ死ぬ。だから、強くならなければこの家で生き残ることはできない。強者にしか、己の世界は変えられないんだ。俺はいずれこの世界を変える気でいる。俺には、見たい景色があるんだ』
『見たい景色? それが、君の夢と関わりがあることなの?』
『あぁ、そうだ。なぁ、ジェネディクト。俺と一緒に剣の稽古をしないか? お前だったら……他の馬鹿な連中よりも、まともに話ができそうだ』
そう言ってゴーヴェンはジェネディクトに手を差し伸べ、ニコリと、優しく微笑みを浮かべるのだった。
ザザッと砂嵐が起こり、情景が切り替わる。
今度は、牢に入れられ両手を縄で縛られている二十代前半のジェネディクトが現れる。
牢の外にいるのは、同じく二十代前半のゴーヴェン。
ゴーヴェンは冷たい瞳でジェネディクトを見下ろしていた。
そんな彼に、ジェネディクトは憤怒の表情を浮かべ、叫び声を上げる。
『ゴーヴェンッ!! 何故、私にゴルドヴァークを殺した罪を被せたッ!! 何故、私の妻と子供を殺した!! 何故私の全てを奪ったんだ!! 答えろぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!!!!!』
『何故だと? 可笑しなことを聞く。幼い頃、私はお前にこう言ったはずだ。私には、夢がある、と。その夢を達成するためには、何だってやるとな。騎士団長の座に就いたお前も、お前の血を引く子供も、我が覇道の前では邪魔だった。だから、お前から全てを奪った。それだけのことだ』
『それだけのこと……だと? それだけのことで、産まれたばかりの赤子も殺したと言うのか?』
『そうだ。お前が私の夢の前に立ちはだかった。だから、バルトシュタイン家を継ぐ可能性のある者は排除した。お前が力を付け、騎士団長の座にまで上り詰めなければ……私はお前には手を出さなかった。全てはお前が招いた結果だ。この私の道の前に立ったお前が悪い』
その言葉にジェネディクトは眉間に皺を寄せると、血が出るまで下唇を噛み、咆哮を上げた。
『目的は、騎士団長の座かッ!? それとも、バルトシュタイン家の当主の座かッ!? それがお前の夢か、ゴーヴェンッッ!!!!』
『違う。それは私にとって、ただの通過点にしかすぎない』
『通過点、だと? 単なる通過点で、私を地獄に落としたのか、お前は……!?』
『あぁ、そうだ』
そう言葉を返すと、ゴーヴェンは踵を返した。
『ジェネディクト。貴様は私にとって邪魔な存在だ。さっさとこの舞台の上から降りるが良い』
『呪ってやるぞ、ゴーヴェンッ!! 私はお前を必ず殺す!! 私は半・森妖精族だ!! お前ら人族よりも長く生きる!! 貴様の生は、我が剣によって必ず終わりを告げるだろう!! その時を震えて待っていろ!!』
『クククク……さて。そう上手くいくかな。俺が目指すべき場所は、まだ遥か遠くにある。それまで、死ぬわけにはいかない』
『ゴーヴェェェェェェェェェェェンッッッッッ!!!!!!!!!』
回想を終え、ジェネディクトは目を開ける。
そして彼は、目の前に立つゴルドヴァークに笑みを浮かべ、口を開いた。
「奴は、自分のためなら手段を択ばない。利己的かつ、傲慢で狡猾な男。現にあの男は、アンリエッタと共謀し、親友であった先代オフィアーヌ家の当主を『フィアレンス事変』で殺してみせた。それも、全ては自分が聖王に気に入られるため。奴は、自分以外の人間は利用できる駒にしか見ていない。あの男は、そういう男よ」
「少し、違うな。その言葉は、ゴーヴェンという男の真に迫ってはいない」
「はぁ? なら、貴方から見たゴーヴェンは、どういう男だってのよ?」
「アレは――――――『正義』そのものだ』
「は……?」
予想だにしていなかった言葉に、ジェネディクトは目を丸くさせる。
そしてその後、ジェネディクトは狂ったように笑い声を上げた。
「あっはっはっはっはっはっは!! あの男が、『正義』そのものですって? 正気なの、貴方?」
「クククククク。いきすぎた『正義』というものは『悪』にもなる。ジェネディクト、俺から見れば貴様は純然たる『悪』ではない。環境や背景によって後天的に『悪』になる者は、どちらかというと『善』寄りの人間であろう。だが……この世界には、先天的に『正義』や『悪』として産まれてくる者がいる。奴らは、純然たる『悪』と言える存在だ」
「それが、ゴーヴェンだというの? 産まれついての正義? 到底信じられない話ねぇ」
「あぁ、それは当然だろう。我ら普通の人間に、狂人の考えは分かるまい」
そう言ってため息を吐くと、ゴルドヴァークはアイアンクローを構え、戦闘態勢をとった。
「さて、お喋りはそこまでだ、ジェネディクト。来い。俺は貴様よりも、先ほどのメイドに興味がある。さっさと貴様を倒して、俺はあのメイドと殺し合いがしたい」
「フフフフ……貴方程度じゃあ、あの子と戦うには相応しくないわねぇ。あの子とあの化け物の戦いを見た後では……貴方は少々、役不足にも甚だしいわ」
ジェネディクトはそう口にすると、青白い電撃を纏いながら、ゴルドヴァークへ向けて突進する。
そして彼は、横薙ぎに剣を振り、【雷鳴斬り】を発動させた。
バチィッと電気が周囲に舞い、双剣は、ゴルドヴァークのアイアンクローによって防がれる。
剣と鉄の爪が交差する中。ゴルドヴァークは兜の隙間から赤い目を光らせた。
「ククク……滅多に他者を認めないお前が、随分とあのメイドのことは評価しているようだな。では……そうだな。あのメイドの相手が、アーノイック・ブルシュトロームならばどうだ? ククッ、貴様の知り合いのキフォステンマとやらに聞いたぞ。俺の死後、お前は、あの【覇王剣】と激しく戦りあったそうだな。そして結果、その顔の傷ができた」
「……チッ。お喋りクズ女が。やはり大森林で殺しておくべきだったか」
アイアンクローを弾くと、ジェネディクトは瞬時に姿を掻き消した。
そしてゴルドヴァークの背後に青白い電撃が奔ったのと同時に、姿を現す。
そのままジェネディクトは剣を振るが、ゴルドヴァークは屈むことでその斬撃を回避する。
その後、ゴルドヴァークはジェネディクトに向けて強烈な回し蹴りを放った。
双剣をクロスして防ぐが、その蹴りは、闘気を纏った剛剣型の一撃。
ジェネディクトは威力を殺しきれず、後方へと吹き飛ばされる。
「ぬおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
直後。ゴルドヴァークは全身に闘気を纏う。地面が陥没し、周囲に暴風が吹き荒れる。
そしてゴルドヴァークは地面を蹴り上げると、ジェネディクトに追い打ちをかけるべく拳を突き出し、アイアンクローをジェネディクトの顔に向けて突き刺した。
その突きを紙一重で回避したジェネディクトは、髪の毛を散らしながら、続けて放たれる爪による突き、連続攻撃を避けていく。
「チッ! 一撃でも当たったら確実に死ぬわね!! この脳筋男が!!」
「ククク。ジェネディクトよ、お前から見てどうだ? 【覇王剣】とあのメイドの少女。戦ったら、どちらが強いと思う?」
その言葉に、ジェネディクトは攻撃を避けながら、真顔になる。
「【覇王剣】もアネット・イークウェスも、私たちとは見ている世界が違うわ。簡単に判断できる力量ではない。でも、そうね……どちらかといえば、【覇王剣】の方が強いでしょうね」
「そうだろうな。あの娘は圧倒的に筋力が不足している。【覇王剣】が放つような剣の重みがない。我が一生の敵である【覇王剣】の力量には、到底及ばない」
「クスクス。だけど、私は―――」
ジェネディクトは双剣で爪を弾くと、ゴルドヴァークの懐に入る。
そして、ゴルドヴァークの分厚い胸板に一閃、剣を放ち、彼の横を通って行った。
紫色の血が舞い、ゴルドヴァークは、驚きの声を上げる。
「何?」
「私は、【覇王剣】よりもアネット・イークウェスの方が好きね。【覇王剣】は人間味に欠けた目をしている。あまり私の好みではないわ」
そう言ってジェネディクトはゴルドヴァークの背後で、双剣に付いた血をヒュンと、払うのだった。
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《アネット 視点》
都市の中央にある、マリーランド広場。
俺は、広場に聳え立つ、時計台の上を見上げる。
屋根には、満月を背景に、一人の騎士が座っていた。
赤褐色のボロボロのマントを風に揺らしながら、騎士は静かに口を開く。
「―――本当に来たのか。見たところ、どうやら【剣聖】リトリシアは、連れて来てはいないようだな」
そう言って深くため息を吐くと、漆黒の騎士は時計台から飛び降り、俺の前に着地する。
そして立ち上がると、俺の顔をジッと見つめた。
「俺は言ったはずだ、アネット・イークウェス。お前では俺には勝てないと。ここは退け。退いて、リトリシアを連れて来い」
「いいえ、それは無理です。彼女は先月あった戦いで、現在、怪我を負っていると思います。そして、もし連れて来れられる状態だったとしても、私が、ここに彼女を連れて来ることはありません。何故なら貴方は……私が倒すべき敵だからです」
「倒すべき敵、か。君と俺には、何の因果もないと思うが?」
「貴方には無くとも、私にはあるのです。アーノイック・ブルシュトロームと名乗る貴方は、私が倒さなければならないのです」
無言で睨み合う俺と漆黒の騎士。
ヒュウゥゥと風が吹き抜けていく。周囲に、剣呑とした空気が広がっていく。
騎士は再び大きくため息を吐くと、やれやれと肩を竦めてみせた。
「メイド君。正直に言うと、俺はリトリシアと会話する以外に、この世界で為すべきことなどないんだ。俺は、俺の命の終わりに納得している。キュリエールやゴルドヴァークは再びこの世で暴れる気満々のようだが……俺にはそんなつもりはない。はっきり言って、君を斬る理由が俺にはない。分かったのなら、他を当たってくれないか? 俺はここでのんびりとこの街の行く末を観戦するだけさ」
「……テメェの理由など知ったことではねぇよ。偽物野郎が。いい加減、勝手に名前を使われてることに、うんざりしてんだ。ここでケリ付けてやるよ、キザ野郎」
俺は箒丸を上段に構え、闘気を纏う。
そんな俺の姿を見て、騎士は頭を横に振り、腰の剣の柄に手を当てた。
「君が怒っている理由はよく分からないが……こうなっては仕方ない、な」
彼の腰にあるのは、二本の剣だ。
ひとつは、紅い鞘に入った刀。もうひとつは、普通の鞘に入った剣。
彼が今手にしているのは、普通の鞘に入った方の剣。見たところどこにでもありそうなロングソードだ。
漆黒の騎士は腰の剣の柄に手を当てると、腰を低くし、こちらを静かに見据えていた。
対して俺は箒丸を上段に構え、騎士を見つめている。
その姿を見て、俺は思わず口を開いてしまう。
「妙な構えだな」
「妙な構えだね」
俺と同じことを考えたのか、漆黒の騎士と俺の言葉は、シンクロする。
剣は抜かず、腰の剣の柄を手にして構える型。見たところ、抜刀剣の態勢だろう。
何処かで見たことのある構え。奥底に仕舞ってあった過去の誰かの影が、騎士に重なって見える。
「行くぞ」
騎士はそう言って地面を蹴り上げると、腰の鞘から剣を抜いた。
その瞬間、光り輝く虹色の剣閃が飛び、俺に襲い掛かってくる。
「――――――【閃光剣】」
神速の抜刀剣。俺はその剣閃を、箒を横に振って、剣閃を弾いてみせた。
剣閃は後方へと飛んで行き―――民家を真っ二つに割り、空中へと溶けて消えて行った。
その光景に、俺は思わず額に汗をかいてしまう。
(とてつもない威力の【閃光剣】だ……! 俺やリトリシアが使うものとは威力が違う……!)
その剣の威力に驚いていると、漆黒の騎士は腰の鞘に剣を納め、剣の柄に手を当てながら……こちらに向かって駆けて来た。
「今の一撃で死んでくれていたら楽だったんだが……流石にそう簡単にはいかないか」
「ハッ! テメェ……随分と俺を舐めてくれるじゃねぇか!」
「悪いが俺は【剣聖】なんだ。君のような若い女の子にやられるほど、弱くはな―――何だ?」
こちらの雰囲気が変わった様子に、漆黒の騎士は足を止め、驚きの声を上げる。
俺は深く息を吸い、吐き出した。
深呼吸を終えた後。箒丸を両手に持ち、右下方に下げる。
その瞬間。胸の奥で、カチッと、歯車が合致した感触がする。
そして、不敵に笑みを浮かべると――――――全力で、箒を振り上げた。
「【覇王剣・零】」
「――――――――――――なっ!」
見えない斬撃が飛び、騎士に襲い掛かる。
「ドッシャァァァァァァン」と巨大な音が鳴り響き、騎士の背後にあった民家は倒壊。
広場には土煙と、巨大な斬撃痕が残された。
「……チッ、避けたか」
俺は肩に箒を乗せ、舌打ちを放つ。
土煙が開けると、斬撃痕の横に、マントを半分失った漆黒の騎士が膝を突いていた。
そして彼は、俺を信じられない物でも見るかのような様子で、口を開く。
「は、【覇王剣】……だと? き、君は、いったい……」
「分かったか、偽物野郎。これが、俺の剣だ」
……【剣聖】。
その称号を持つ者は、たった一人で、世界を破壊する能力を持つことを指し示す。
これより始まるのは、【剣聖】同士の、世界の削り合い。
剣の頂に立った者同士の、殺し合いである。
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「何ぃ!? それは本当の情報か!?」
地下水道・内部。そこで、死霊術師のロシュタールは、部下に動揺した様子を見せる。
そんな彼に、ローブを着た部下の一人は慌てたように口にした。
「はい。あの協力者の導きで、王都にある【剣聖】の墓所の、一番新しい棺をロシュタール様にお渡ししたのですが……どうやら、極秘の情報によると、かの【剣聖】は別の場所に埋葬されているらしく……」
「だったら……だったら、アレは何なんだ!? ワシはいったい何を蘇らせて……」
「お困りのようですねぇ、ロシュタールちゃん?」
階段をコツコツと音を立てて降りて、ロシュタールの前に、一人の少女が姿を現す。
その少女に、ロシュタールは怒りの形相を浮かべた。
「貴様ぁ……! 図りおったな!! わざとワシを【剣聖】の墓所に案内しおったな!?」
「クスクスクス。誰も、騙してなんていませんよぉう? 私は、貴方たちが【剣聖】の死体を所望していたから、案内したまで……そこに誰が埋葬されているかなど、私には知り得ないこと」
「このっ……!! うぐっ、ゼェゼェ……」
「ロシュタール様!」
部下の一人が、よろめいたロシュタールの身体を支える。
ロシュタールは口の端から血を流しながら、少女を睨み付けた。
「ワシは、フランシアの神具を使って、魔力を回復させなければならん……! でなければもうこの身はもう持たん……!」
「ええ、存じております」
「神具を使用させるために、フランシア伯を拷問にかけたが……奴め、今になって神具を扱えんことを吐きよった!! あの男は真の所有者ではなかったんじゃ!! じゃが、奴は、結界のことを漏らした!! ならば先にマリーランドの結界を解かなければならんのは必然のこと!! 言いたいことは、分かるな?」
「はい。マリーランドの結界は、結界内に入ったフランシア家の血族以外を、外に出すことはしない……。万が一【剣聖】や【剣神】が攻めてきたら、貴方は袋の鼠。結界を最優先に解きたいと考えるのは、至極当然のことと存じます」
「お前がもう何を企んでいても、終わり、ということじゃ。……あぁ、そうじゃ。お主も一応は、血族の者じゃったか。もしや、神具の所有者ということは……」
「あり得ませんねぇ。私、フランシアの神具の存在を今まで知りませんでしたからぁ」
「チッ、そうか。……じゃったら、アンデッドたちに告げなければならん」
そう言ってロシュタールは、配下のアンデッドたちに命令を出した。
『我が配下たちよ!! 結界を破壊する命令に加えて、フランシアの血族を捕縛する命令を追加する!! 生け捕りじゃ!! セイアッド、ルナティエの二人を、生け捕りにするんじゃ!!』
そう命令を下す彼の背後で――――――修道服を着た少女は「クスクスクス」と、不気味に笑うのだった。
第205話を読んでくださって、ありがとうございました。
最新話、ちょっと自信ないので……もしかしたら、修正するかもしれません!(お話に影響ない限りで)
前回、たくさんのいいねとご感想、ありがとうございます~(T_T)
皆様のおかげで、続けることができています!
また次回も楽しみにしていただけると嬉しいです!




