表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

223/331

第7章 幕間 その2 変わりゆく者



 ――――8月16日。決戦まで残り3日。


 午前10時。俺は現在、マリーランドの街の中を歩いていた。


 この一週間半で、弟子三人に教えるだけのことは教えてきた。


 あとは、あの三人が自らの剣と向き合い、ノルマを達成できるかどうかだろう。


 師の存在というのは、正しい道筋に導き、正しい努力の仕方を教えるだけのもの。


 師が優秀だからといって、弟子も優秀になるわけではない。


 弟子が優秀になるかどうかは、弟子本人の努力とどれだけの時間、真剣に剣と向き合ったかだ。


 あいつらの頑張りがノルマという壁を乗り越えることができるのかどうか。


 残り3日。俺は、影ながら応援することにしよう。


「……にしても、相変わらず、街は荒れ放題だな」


 ロザレナお嬢様と以前、買い食いをした商店街通りの坂道。


 そこは、見るも無残な廃墟群となっており、人の気配を一切感じられない場所となっていた。


 俺はその光景にため息を吐いた後。静かに、坂道を下って行った。


 坂を下りきると、辿り着いたのは、桟橋と海。


 俺は桟橋に立ち、目の前に広がる広大な海を眺め、潮風にポニーテールを揺らす。


「……アンデッドとして復活したアーノイック・ブルシュトロームが、俺の倒すべき相手、か」


 正直、自分がアンデッドとして蘇った事に関しては、未だに信じることができていない。


 だって、俺はここにいるからだ。既に俺は、新たな生を受け、ここにいる。


 恐らく、俺が最後に見かけた、あの黒い騎士がアーノイック・ブルシュトロームなのだと思う。


 …………アレが自分なのかは定かではない。だけどあの騎士を見た時、妙な胸騒ぎを覚えた。


 心の奥底にある記憶を無理矢理掘り返されたような……そんな、不可思議な感触がした。


「弟子たちが戦うと決めたのだから……俺も腹を決めるしかねぇな」


 相手が過去の自分なのだとしたら、相打ち覚悟で仕留めてやる。


 俺のことは俺が一番分かっている。


 いきなりメイドが【覇王剣】をぶっ放したら、過去の俺は間違いなく動揺するだろう。


 その隙を付いて、一気に勝負を決めてやる。


 長引けば、俺の敗北は必至。身体的ポテンシャルでは、こちらが不利。


 弟子たちの勝利を信じて、俺は、覚悟を決めて自分自身と決着を付ける。


「……帰るか」


 軽く散歩をして、屋敷に戻ろうと思い、振り返った―――その時。


 静寂に包まれていた街から、大きな声が響き渡った。


「やめろ、クリスティーナ!! テメェはそんなことをするんじゃねぇ!!」


 何処かで聞いた覚えがあるような、男の声。


 その声が聞こえてきた場所に視線を向けると、そこには……古ぼけた教会があった。


 教会の門の前にいるのは、シスター服の少女と、その少女の手を引っ張り引き留める長身の青年の姿。


 俺はその見覚えのある赤い髪の青年に、思わず、驚きの声を上げてしまった。


「……え? アルファルド……?」


「あぁん!? オレ様の名前を呼ぶのは誰だ……って、て、テメェは……!! アネット・イークウェス……!! な、何でテメェが、ここに……!!」


 ビクリと身体を震わせ、アルファルドは顔を青白くさせる。


 そんな彼の様子に、シスター服の少女は首を傾げ、アルファルドに視線を向ける。


「? お知り合いですか? アルファルドさん?」


「い、いや、まぁ……知り合いというか、何というか……」


 苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるアルファルド。


 俺はそんな彼の元に近付き、低い声で話しかける。


「……どうして、貴方がここに? まさか、また悪だくみをしているんですか?」


「……」


「貴方の実家、先代ダースウェリン家は崩壊し、貴方は貴族ではなくなった。察しますに……王国に復讐するために共和国の兵に与した……といったところでしょうか? 早くその女性から手を離しなさい。さもなくばまた、痛い目を見ることになりますよ」


 俺は箒丸を手に持ちながら、アルファルドへと鋭い眼光を向け、歩いて行く。


 そんなこちらの姿に、アルファルドは額から汗を流し、怯えた様子を見せた。


 しかし、その時。シスター服の少女がアルファルドを庇うように前に出て、俺の前に立ちふさがる。


「ま、待ってください、メイドさん! 何か勘違いしていらっしゃるようですが、彼は共和国の兵ではありません!! 二週間程前から、うちの修道院で暮らしている、ただの優しい人です!! アルファルドさんは悪い人じゃないです!!」


「え……?」


「クリスティーナ、やめろ」


「やめません!! アルファルドさんは、この二週間、私たちに良くしてくれました! 教会の力仕事や、孤児の子の面倒も見てくれて……!! あと、お婆ちゃんのお仕事の、てつ、だいも……」


 突如、クリスティーナと呼ばれた白髪の少女は、瞳からボロボロと大粒の涙を流し始める。


「お婆ちゃん……!! お婆ちゃんがぁ……っ!! どうしよう、アルファルドさぁん……!! 私、どうすればぁ……!!」


「……ケッ。泣くんじゃねーよ、クソシスター。やかましいんだよ……」


 アルファルドは悪態を突いてはいるが……以前のような覇気を感じられない。


 そんな彼の様子に首を傾げていると、アルファルドは深くため息を吐き、俺に視線を向けてくる。


「……………こいつを教会の中へと連れていきてぇ。ついて来たければついてくれば良い」


 そう口にすると、アルファルドはクリスティーナの手首を乱暴に引っ張り、教会の中へと去って行った。


 俺は、以前と様子の違う彼に疑問を覚え、とりあえず、彼の後をついていくことに決めた。







「……丘の上にも教会がありましたが……街の中にもあったんですね」


 俺はそう呟き、こぢんまりとした木造の教会の中――長細い廊下を歩いて行く。


 そんな俺の言葉に、前を歩いていたクリスティーナが、口を開いた。


「この教会は、丘の上の教会と対立した、私のお婆ちゃんが立てたものなんです」


「対立……?」


「元々、私のお婆ちゃんは、丘の上の教会の大司教でした。ですが……リューヌ様が修道女になられてから、他の修道士たちはみんなリューヌ様の派閥についてしまって。半ば強引に大司教の任を降ろされ、三年程前から、お婆ちゃんはこの古い教会で暮らすようになったんです」


「クーデター……ということでしょうか?」


「有り体に言えばそうですね。あと、旧体制派のお婆ちゃんと革新派のリューヌ様があまり仲が良くなかった……ということも問題だったのかもしれません」


 リューヌ……あいつ、常にニコニコ顔していて、やっぱり裏で色々とやってんじゃねぇか。


 何が争いは嫌いです、だ。バリバリ教会内部で争ってんじゃねぇか。


 脳裏にあの胡散臭いシスターを思い浮かべながら、ため息を吐く。


 すると、廊下を抜け、広間へと辿り着いた。


 簡素な広間だったが、奥にある教台の向こうに、色鮮やかなステンドグラスが見える。


 天馬と聖女を描いたそのステンドグラスは、なかなかに美しいものだった。


 その光景に感嘆の声を漏らしていると、アルファルドはボソリと呟く。


「……ガキどものメシの面倒を見て来る。クリスティーナ、お前はこの化け物メイドをババアの元に連れて行け。この化け物だったら、テメェの悩みも解決してくれるかもしれねぇぜ」


「あ、はい、分かりました。……化け物メイド……?」


 首を傾げるクリスティーナを置いて、アルファルドは教会の奥へと去って行った。


 その後ろ姿を見送った後。俺は、クリスティーナに先ほどから気になっていた疑問を投げる。


「あの、貴方は何故、あの男と一緒にいるんですか? 何故、彼がこの教会に……?」


「アルファルドさんと出会ったのは、二週間前です。彼は路地裏で、血だらけの状態で横たわっていたんです。そんなアルファルドさんをここに連れてきて、私が介抱したんです」


「なるほど……。あの、つかぬことをお聞きしますが、その後、彼に何かされませんでしたか? お金を奪われたりだとか、脅しをかけられたりだとか……」


「全然。アルファルドさんは、私の化けの皮を剥いでやる……とか何とか言って、この修道院で色々な仕事を手伝ってくれたんです。子供たちの面倒を見てくれたり、料理を作ってくれたり、壊れた床を直してくれたり。彼は自分のことを悪人だと言いますが、私にはそうは思えません」


「……そう、ですか。あのアルファルドが……」


「メイドさんは……彼とは、以前からのお知り合いで?」


「まぁ、そうですね。彼には私の大切な杖を破壊されたり、私の友人に男を嗾け、襲わせようとしたりと……正直、良い印象はまったくないですね」


 俺は頭を横に振り、再度口を開く。


「ですから、クリスティーナさんから聞く彼の話は、別人の話を聞いているようでした。彼はどうしようもない根っからの悪人……それが、私の中にある、彼の印象でしたので」


 一度、再起不能になるくらいに叩きのめしてやったから、もう悪さはしないだろうとは思っていたが……教会の仕事を手伝うようになるとは、想像も付かなかったな。


 人は変わる、ということなのか……正直、未だに信じられない。


 アルファルドの変化に困惑していると、クリスティーナは静かに口を開いた。


「……人が残した罪は消えません。他人を傷つけた者は一生、その業を背負うものです。……ですが、償うことはできます。彼はきっと、その償いの最中にいるんじゃないかと、私は思います」


「……そうですね。そうだと、良いですね」


「はい。では、お婆ちゃんのところに行きますね。あの……メイドさん。忙しくなかったら、その、御力をお貸しして欲しいのですが……アルファルドさんは貴方のことを、信頼している様子でしたので……」


「信頼、しているかは分かりませんが……」


「信頼していますよ。アルファルドさんは問題の解決を誰かに任せたりはしませんから」


 いや、化け物メイド呼ばわりされてたけどね? 


 一回ボコボコにしてやったから、多分、恐怖しているだけだと思うんだけどね? うん……。


 俺は短く息を吐き、口を開いた。


「私で力になれるかどうかは分かりませんが……ここまで来たので、事情くらいはお聞きしたいと思います」


「ありがとうございます!」


「では、行きましょうか?」


「はい!」


 その後。俺はクリスティーナの後に続いて、教会の奥へと歩いて行った。


 アルファルドが本当にこの教会に悪さをしていないか……気になるからな。


 とりあえず、彼女の事情を、聞いてみることにしよう。





 キシキシと軋む廊下を歩き続け、辿り着いた部屋。


 クリスティーナはドアをノックして、「お婆ちゃん、入るよ」と声を掛ける。


 そしてドアを開け、部屋の中へと入って行った。


 俺も彼女に続き、部屋の中に入る。


「おや、クリスティーナ。お客さんですか? ……アレ? 貴方は……?」


 ベッドに横たわる老婆と目が合う。


 何処かで見た覚えがある人だが、上手く思い出せない。


 だが老婆は俺のことを覚えていたのか、クスリと笑みを溢した。


「やっぱりマリーランドに来ていたんだね、メイドさん。ご主人様は大丈夫?」


「えっと……?」


「ほら、レティキュラータス領アルフの村から、王都行きの馬車で一緒に乗り合わせた……」


「あ……あぁ! あの時のお婆さんですか!」


 お嬢様とマリーランドに行く時に、王都行きの馬車で同乗していた、修道士のお婆さん。


 確か、マリーランドで孫娘と一緒に暮らしていて、休日を利用してレティキュラータス領に行っていたとか言っていたな……。


 まさかこんなところで再会するとは思わなかった。


「え? メイドさんとお婆ちゃんも、知り合いだったのですか?」


「王都行きの一緒の馬車に乗っていたんですよ。それにしても、メイドさん、無事で良かったです。あれから二人のことは気になっていたのですよ? 観光中にごめんなさいね、街がこんな状態になってしまって……」


「お婆さんもご無事で何よりです。それにしても驚きました。先ほどクリスティーナさんから聞きましたが、お婆さんはこの街の教会の大司教だったのですね」


「元、と言った方が良いかもしれませんね。あぁ、遅ればせながら自己紹介を。私の名前は、マリアンナ。メイドさんのお名前は?」


「アネットです。アネット・イークウェスです」


「おや? イークウェス……ということは、貴方は、レティキュラータス家の……」


「イークウェスの名をご存知なのですか? マリアンナ様」


「ええ。マグレットさんとはお茶友ですから。それと、アネットさん。私には、最早大司教の地位も何もありません。様付けなんてせずに、気楽にして構いませんよ。…………ゴホッ、ゲホッ!」


「お、お婆ちゃん!」


 クリスティーナがマリアンナに近寄り、彼女の背を摩る。


 マリアンナの口からは……血が、滴り落ちていた。


「え? 大丈夫ですか、マリアンナさん!?」


「……大丈夫です。少し、身体が弱ってしまっただけですから」


 口元を布で拭うマリアンナ。


 クリスティーナはそんな彼女から離れると、俺に不安そうな目を向けてくる。


「お婆ちゃん、元々持病持ちで、定期的に王都に薬を取りに行っていたんです」


「薬が切れた……ということですか?」


「はい……。それと同時に今回の騒動で、怪我人の治療のために、多くの魔力を使ってしまって。魔力を消耗してしまったせいで、持病が悪化してしまったんです……」


「怪我人の治療……? ちょっと待ってください。丘の上の教会で、街の人たちは治療を受けていましたよね? マリアンナさんが怪我人を治療する必要はないんじゃ……」


「――――リューヌは、地位と財力のある人間しか受け入れねぇ。だから、カーストの低い孤児や浮浪者、ゴロツキなんかは、お人好しのババアがいるこの教会を頼るしかねぇんだよ」


 その時。水の入った桶を片手に、アルファルドが部屋の中に入ってきた。


 彼は俺を一瞥すると、マリアンナさんの元へと近寄り、彼女を起こして、腕や首の汗を拭い始める。


「ありがとうねぇ、アルファルドくん」


「ケッ、勘違いしてんじゃねぇぞ、クソババア。オレ様はいつかテメェらの善人面をひっぺ剥がして、化けの皮を剥いでやりてぇだけだ。だから……だから、ここで死なせるわけにはいかねぇんだよ。テメェが死んだら、クソガキどももうるせぇだろうしなぁ」


 心底嫌そうな顔をしながら、アルファルドはマリアンナの介護をする。


 俺はその光景に驚き、思わずポカンと口を開けてしまっていた。


「……んだよ、その目は」


 マリアンナさんを横にして、アルファルドは肩越しに視線を向けてくる。


 俺はその視線に真っすぐと見つめ返し、開口した。


「……変わりましたね、アルファルド」


「変わってなんかねぇよ。忘れたか? オレ様はベアトリックスを地獄に叩起き落とした、ダースウェリン家の長子だ。今だってどうやってダースウェリン家に戻るか、考えてんだ。勝手に勘違いをして、変わっただとか抜かしてんじゃねぇ。オレ様は『悪』だ。分かったか、化け物メイド」


 ……いや、変わったよ。


 以前までのお前だったら、クリスティーナやマリアンナさんの考えを一蹴していたはず。


 弱き者を助ける善人など、鼻で笑っていたはず。


 悪人が善行を積んだところで、許されることはない。


 過去を顧みず、自分で自分を変わったと言う人間に、碌な奴はいない。


 だけどお前は、自分という人間の本質を理解して、変化しようとしている。


 なかなかできることではない。お前はやっぱり間違いなく変わったよ、アルファルド。


「……私、やっぱり王都に行って、お医者様を連れてきます! このまま放置していたら、お婆ちゃんは……っ!!」


「だからそれはやめとけって言ってんだろ、クリスティーナ!! キュリエール大橋は破壊されたんだ!! この街から出る方法なんざ、ねぇんだよ!!」


「か、川を泳いででも……っ!!」


「馬鹿か!! ただのシスターが死にに行くようなもんだ!! 街の外には、共和国の兵もいるかもしれねぇんだぞ!!」


「だったら……だったらどうすれば……!!」


 頭を抱え、悩むクリスティーナ。


 俺はそんな彼女に、声を掛ける。


「マリーランドに、お医者様はいらっしゃらないのですか?」


「いるにはいらっしゃるのですが……この街にいるお医者様は二人だけで。そのお二人はリューヌ様の派閥の人間ですので、敵対したお婆ちゃんの治療は、多分、してはくれないでしょう……」


「……少々、驚きました。この街で彼女の権力は、そこまで及んでいるのですか?」


「知らなかったのか、化け物メイド。あの女は実質、マリーランドを牛耳っているも同然の立ち位置にいる。フランシア伯なんざお飾りの伯爵だ。リューヌはこの街にカースト制度を入れて、教会に寄付した者に医療と治療を提供している。低カーストの人間には見向きもしない。リューヌのご機嫌を取らなければ、この街の人間は安心して暮らせねぇのさ」


 初耳の情報だ。恐らく、このことをフランシア伯もルナティエも知らないのだろうな。


 ―――人心掌握。


 リューヌはカースト制度を用いることで民を操り、自分に良いように人を動かしているのだろう。


 あいつを初めて見た時に嫌な気配を感じたが……どうやら、その予想は当たっていたようだ。


 俺は大きくため息を吐き、マリアンナさんに声を掛ける。


「マリアンナさん。単刀直入にお聞きします。あと三日……持ちこたえることはできますか?」


「ゲホッ、ゴホッ。……ええ。孤児たちのためにも死んでいられませんから。三日と言わず、半月は耐える気でいます」


「了解しました」


 そうして俺は、クリスティーナとアルファルドへと視線を向ける。


「三日後。この街で、敵との最後の決戦が行われます。なので、お二人は安全な場所でマリアンナさんを見守っていてください」


「み、三日後、ですか!?」


「はい。恐らく、三日後には街全体が戦場になる。丘の上の教会が一番安全な場所だとは思いますが……やはり、リューヌ派の修道士たちがいる教会に、マリアンナさんを連れて行くことは難しいでしょうか?」


「はい……。一度掛け合ってみたのですが、門前払いをされてしまいました……」


「そうですか。だったらフランシアの屋敷……も、安全とは言い難いですね。あそこは戦場になる可能性が最も高い」


「だったら、この教会の地下室で良いだろ。ドアに鍵を掛けて、そこでババアを匿っていれば良い」


 そう言ってアルファルドはクリスティーナを押しのけ、威圧的に俺の前に立った。


 何を言うのだろうと奴の顔を見上げていると……突如、アルファルドは頭を下げてきた。


「――――――頼む。その三日後の決戦……参加させてくれ」


「え……?」「ア、アルファルドさん!?」


 動揺の声を溢すクリスティーナ。


 そんな彼女を無視して、アルファルドは床に手を付き、土下座をする。


「虫のいい話だってのは分かってる。テメェにとってオレ様は、到底許せねぇ存在だろう。信頼だってできねぇのは当然だ。だけど……だけど!! オレ様は、剣士として、このままこの現状を見つめ続けるなんてことはできはしねぇ!! 先の襲撃で死んでしまったガキのためにも……傍観者にはなりたくねぇ!!」


「……死んでしまった、ガキ……?」


 俺の疑問の声に、クリスティーナは沈痛そうな様子で答える。


「伯爵様が広場で民兵を募った現場で……突如現れた大男が、建物を破壊したんです。その影響で振ってきた瓦礫が下敷きになって、孤児院に住んで居た一人の男の子が……亡くなってしまいました。アルファルドさんに、よく懐いてくれていた子でした……」


 ハンカチで目元を拭うクリスティーナ。


 俺はそんな彼女の顔を見つめた後。再び、目の前で頭を下げる赤髪の青年に視線を向ける。


「……貴方は以前、私に挑み、敗けた。貴方はその時に剣を落とした。剣を持つ意義を見失った」


「…………その通りだ」


「以前の貴方は、権力のために剣を持った。自分のために、剣を握った」


「…………あぁ」


「今一度問います。貴方が再び剣を持つ意味は、何ですか? 貴方は何のために、剣を握るのですか?」


「――――――弱者が虐げられる、このクソみてぇな理不尽な世界を変えるため」


 顔を上げ、アルファルドは真剣な表情でそう口にする。


 俺はそんな彼に笑みを浮かべ、コクリと頷きを返した。


「悪くない答えです。戦いに参加されるのなら、ご自由に。三日後の朝、フランシアの屋敷に来てください」


 俺はそうアルファルドに声を掛け、部屋を出る。


 背後から「ありがとう」と、アルファルドの小さな声が聞こえてきたが……反応せずに、俺は廊下を歩いて行った。

読んでくださって、ありがとうございました。

マリアンナは、第178話に出ていたお婆さんです。

よろしければいいね、評価、感想、お願いいたします。

感想、全て拝見させていただいております……!!

お優しい御言葉、いつもありがとうございます(T_T)

お返事がなかなか書けず、申し訳ございません!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 1度間違えた者が再起するシーンはいいですね!好きです
[一言] ア、アルファルドっ!! まったく予想していませんでした、、!笑 彼の参戦で戦いがどう影響されるのか、、、楽しみにしておきます( ᷇࿀ ᷆ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ