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第7章 第195話 夏季休暇編 水上都市マリーランド ㉘


《ロザレナ 視点》


「……うぅ……あれ? あたし、今まで何をして……」


「お目覚めですかぁ? ロザレナちゃん」


「え? リューヌ……?」


 目が覚めると、そこには、あたしの顔を覗き込むリューヌの姿があった。


 そして横には、あたしの手を握るアネットの姿もあった。


 あたしは二人の姿に驚きながらも、上体を起こす。


 周囲を確認してみると、そこは、教会の大広間だった。


 辺りには包帯を巻かれて横になる、多くの怪我人たちの姿が散見される。


 あたしの身体にも、肩口から横腹にかけて、斜めに包帯が巻かれていた。


 あたしはその斬り傷に触れた後。意識を失う前の出来事を思い出す。


「そうだ……あのツノ女……!! こ、こうしちゃいられないわ!!」


 横に置いてあった剣を掴むと、あたしは立ち上がる。


 そんなあたしに、アネットは慌てて声を掛けてきた。


「お嬢様、いけません! 立ち上がっては!」


 アネットがそう止めた、次の瞬間。


 フラッとよろめき、あたしは、その場に膝を突いてしまった。


「あ、あれ? な、何で……?」


 上手く足に力が入らない。


 そんなあたしを見下ろして、リューヌは小さくため息を吐く。


「ご無理はしない方がよろしいですよぉ? ロザレナちゃんの傷は、かなり深かったみたいですからぁ。わたくしの治癒魔法で傷は塞いだと言っても、失った血までは元には戻せません。今は、安静にしていた方がよろしいかと」


「血? そういえば、グレイレウスやルナティエはどうしているの? あの後、御屋敷はどうなったの!?」


「二人とも、今は治癒し終えて、教会二階にあるお部屋で待機しております。グレイは大丈夫そうなのですが、その、ルナティエ様は……」


「? ルナティエがどうしたの? アネット?」


 苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるアネット。


 そんな彼女に首を傾げていると、リューヌの背後から声が聞こえてきた。


「リューヌ様! こちらの方を見てくださいますか!」


「あ、わかりましたぁ~。それでは、ロザレナちゃん、アネットちゃん。何かありましたらいつでも声を掛けてくださいねぇ~」


「私の足の骨折だけでなく、お嬢様の怪我を治療してくださって……ありがとうございました、リューヌ様」


「いえいえ。このような状況ですから。修道女として当然のことをしたまでですよぉ。主、アルテミスのご加護があらんことを」


 そうして、リューヌは手を組み祈ると……ペコリとお辞儀をし、次の患者の元へと小走りに歩いて行った。


 そんな彼女の後ろ姿を見て、あたしはポソリと呟く。


「治療してもらったことには感謝したいけど……なんだか、相変わらず胡散臭い奴ね」


「助けていただいたのですから、そんなことを言わないでください……と、言いたいところですが……正直、同感ですね。彼女とは、あまり深く関わるのは避けた方が良いかもしれません」


「そういえば……ここ、教会、よね? もしかしてここって……」


「ええ。ご察しの通り、ここは、フランシアの御屋敷の上にある、丘の上の教会です。ここには、負傷した民間人や逃げてきた人たちが収容されております」


「ねぇ、アネット。あの後、いったい何があったの? 貴方は、あの大男を倒せたの? フランシア伯爵は? みんなは?」


「そうですね……お二人が待っていますので、二階にあるお部屋に向かいながらでもよろしいでしょうか?」


「ええ。分かったわ」


 アネットの肩を借りて、あたしはよろめきながらも立ち上がる。


 そして、その後。多くの避難民が居る大聖堂を出た。


 渡り廊下へと出ると、外の太陽が目に突き刺さる。


 太陽の位置を確認した感じ、早朝、といったところかしら。


 中庭の木々の上で、小鳥が騒いでいるのが見て取れる。


「お嬢様とグレイと別れた後。私は、あの大男と徒手空拳のまま交戦致しました。ですが防戦一方しかできず、不意を突かれ、屋敷の外へと吹き飛ばされてしまいました」


「アネットが? あたし、貴方なら素手でも普通に倒せそうな気がしたんだけど?」


「素手ではとても相性が悪い相手でした。私はある程度格闘術の心得はありますが、私の本質は剣士です。格闘術を極めた相手に素手、しかも女性の身では、遅れを取るのは必須です」


「貴方にも、相性の悪い敵っているの?」


「当然でございます。以前もお話しましたが、どんなに武の極致に至ろうとも、戦士には相性というものがございます。【剛剣型】【速剣型】【魔法剣型】の三竦みのように、私にも戦い辛い相手というものがいます。それが、『拳闘士(グラップラー)』と呼ばれる者たちです。まぁ……剣を持っていない場合の、相性の悪い相手、という前提ではありますが」


「なるほど、ね。それで、大男に吹き飛ばされた後は、どうなったの?」


「すぐに御屋敷へと戻りました。ですが、到着すると同時に、目の前で複数人の襲撃者たちが『転移の魔道具』を使用して去って行きました。残されたのは……酷い大怪我を負ったルナティエ様だけでした」


「え? ルナティエが、大怪我……?」


「その後、ルナティエ様と二階で倒れていたお嬢様とグレイを背負い、私は丘の上の教会を目指しました。教会は、避難所になっていると、事前に伯爵様から聞いていましたからね。修道女の使用する治癒魔法なら、あるいはと、そう思って皆様を連れて行ったんです」


「さ、三人を背負って? 貴方、さっき、リューヌに足を骨折したって……」


「―――着きましたよ」


 いつの間にか、教会二階の、ある部屋の前に辿り着いていた。


 ドアの前で、アネットは神妙な顔をして呟く。


「……お嬢様。今回の一件、ルナティエ様にとってはとても辛い状況かもしれません。どうか、友人として、お嬢様が支えてあげてください」


「え?」


 アネットのその言葉に首を傾げていると、そのまま彼女はドアノブを押して中へと入って行った。









《アネット 視点》


 ロザレナに肩を貸しながら、部屋の中へと入る。


 壁際には沈痛そうな様子のグレイが腕を組んで立っており、部屋の中央には、全身に包帯を巻かれたルナティエが立ち、剣の素振りを行っていた。


 彼女の足元には血だまりができている。その光景に、ロザレナが驚きの声を上げた。


「ル、ルナティエ!? だ、大丈夫なの!? た、たくさん血が出てるけど!?」


「はぁはぁ……こ、このくらい、どうってことはありませんわ!」


 そう答えるルナティエに、グレイは呆れたようにため息を吐く。


「……まったく、この馬鹿女は……師匠(せんせい)に止められていたというのに、何度注意しても剣の素振りを止めはしない。おかげで治癒魔法で塞いだ傷が開いて、ダラダラと血を流し続けている有様だ。愚かすぎて掛ける声もない」


「お父様が敵に捕まっておりますのよ!! 休んでいる暇などありませんわ!!」


「……ルナティエ様。まずは、剣を置いてください。今後のことについて、みんなでお話いたしましょう」


「…………例え師の言葉であろうとも、拒否致しますわ。第一、師匠は、あの大男に敗北なさったのでしょう? だとしたら、この地を守れる者は一人もいないということ……っ!! ならばわたくしは、命に代えても、お父様を……!!」


「――――――ルナティエ・アルトリウス・フランシア!!」


 俺の一喝に、ルナティエはビクリと肩を震わせる。


 俺はソファーにロザレナを優しく座らせた後。ルナティエの前に立った。


 そして、ドスの利いた声で、声を掛ける。


「座れ。頭に血を登らせるな」


「ですが……っ!!」


「ここは最早戦場と化した。戦場では、状況を読めない奴が真っ先に死ぬ。お前は俺の弟子になったはずだ。だったら、今は俺の言うことを聞け。聞けないのなら、破門だ。ここから出て、好きに死ね」


「………………っっ!!!!」


 ルナティエは俺を鋭く睨み付けるが、こちらの言葉が正しいと気付いたのだろう。


 剣をテーブルへと立て掛けて、大人しく向かいのソファーに座った。


 俺はその光景にふぅと短くため息を吐いた後、ロザレナが座るソファーの隣に立った。


「……さて。では、改めて状況を整理致しましょう。三人とも、私と別れた後、それぞれ違う敵と戦ったんですよね? その時の状況を、全て、私に話してくださいませんか?」


 そう口にすると、ロザレナは悔しそうな表情を浮かべ、グレイは暗くなり、ルナティエは複雑そうな面持ちを浮かべる。


 三者三様のその様子に首を傾げながらも、俺は、三人の戦いを聞いていった。







「お嬢様は、龍人族(ドラグニクル)の少女、メリアと戦い、グレイは、亡くなったはずの姉、ファレンシアと。ルナティエ様は亡くなった祖母、【剣神】キュリエールと、ですか」


 情報を整理し、俺はひとつ、結論付ける。


「お嬢様の相対した少女は置いておくとして……グレイとルナティエ様の話を聞く限り、現在、亡くなったはずの人間が何故か蘇っている、という状況なのは間違いなさそうですね。やはりゴルドヴァークの言っていた通り、何者かが過去の英傑たちをアンデッドとして復活させ、使役していることは確定のようです」


「ゴルドヴァーク? って、誰?」


「門の前で私が戦っていた、あの大男です。アレは、元【剣神】『滅殺』のゴルドヴァークと、自らをそう名乗っていました。ゴルドヴァークというのは、先代バルトシュタイン家の当主にして、歴代最強の【剣神】だった男です。その力量からして、偽物ではないと思われます」


「ゴ、ゴルドヴァーク、ですか!? せ、師匠(せんせい)、ゴルドヴァークといったら、伝説の【剣神】の名前ですよ!? かの歴代最強の【剣聖】アーノイック・ブルシュトロームの次に強かった男だとか……!!」


 動揺するグレイ。そんな彼に、ルナティエは頷き、同意を示す。


「もし本当にゴルドヴァークが蘇って、フランシアの地を狙っているのだとしたら……最悪な事態ですわね。歴代最強の【剣神】など、誰も止められませんわよ。伝説の【剣聖】アーノイック・ブルシュトロームの次に強かった戦士が相手では……師匠が敗北したのも、当然ですわ」


「そうかしら? あの時のアネットは万全ではなかったわ。もし、アネットが剣を持って対峙していたら、絶対に敗けてなかったとあたしは思うけど。……って、ちょっと待って? アーノイック・ブルシュトローム……?」


 ロザレナは何かに気付いたのか、ハッとした表情を浮かべる。


「あ、そうだわ。ツノ女と一緒に居たあの漆黒の鎧騎士、確か、アーノイックって呼ばれていたわね。あれって、もしかすると……」


 ロザレナのその言葉に、俺たち三人は硬直する。


 そして、グレイとルナティエは、同時に叫び声を上げた。


「お、おい、それは本当なのか、ロザレナ!? 最強の【剣聖】までもが、アンデッドになっているのか!?」

「アーノイック・ブルシュトロームまで復活しているんですの!? う、嘘でしょう!? な、何ですってぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」


 大きな叫び声を上げた後。


 傷に響いたのか、グレイとルナティエは苦悶の表情を浮かべる。


 俺は、そんな二人とは別の意味で、思わず目を見開いて驚いてしまっていた。


(漆黒の鎧騎士……そ、そういえば、転移で逃げる間際、目が合った奴がいたな。あ、あいつが……アーノイック・ブルシュトローム……だったのか?)


 そっかー、先代剣聖までもがアンデッドになっていたのかー。


 それはそれはとても大変な事に―――って、待て待て待て待て!! 


 いやいやいやいや、それ、いったいどういうことだよ!?


 俺はここにいるんだぜ!? 


 転生して見た目は別物になっちまったが、俺は間違いなく、アーノイック・ブルシュトローム本人だ。


 アネットに転生したのだから、そもそもアンデッドとして復活するはずがない。


 ……死霊術の仕組みはいまいちよく分からないが……もしかして、もう一人の俺が復活する可能性も、ある、のか……?


 だとしたら、かなりやばいな。


 間違いなく今の俺……アネットよりも、アーノイック・ブルシュトロームの方が圧倒的に強い。


 俺が全力を出しても、恐らくアーノイック・ブルシュトロームには勝てないだろう。


 特に、全盛期の二十代の俺が召喚されていたら終わるな。


 街ごと【覇王剣】で消し飛ばされて、全てが消え去って終焉を迎えるだろう。


 今の俺に、街ごと吹き飛ばす程の【覇王剣】は使えない。


 そう考えると、相打ちすらも……難しいだろうな。


「アーノイック・ブルシュトロームが何よ! こっちには、アネットがいるのよ!」


「そ、そうだな、ロザレナ。師匠(せんせい)なら、かの最強の剣聖も倒せるかもしれない……!! こっちには、最強の【箒剣】、アネット師匠(せんせい)がいらっしゃるんだ……!! 恐れることは何もない!!」


「な、何を言っているんですの!? アネットさんは、ゴルドヴァークに敗けたのでしょう!? なのに、さらに強いアーノイック・ブルシュトローム相手に、歯が立つはずがありませんわ……!! と、というか、逸話が本当だったら、あんなでたらめな力を持った剣士、誰にも勝てるわけが……」


「だから、アネットは万全じゃなかったって言ってるでしょ!? 話聞きなさいよ、このドリル女!!」


「その通りだ! 貴様……前から思っていたが、師の力を随分と過小評価しすぎなのではないのか? お前が想像している百倍、いや、千倍……一億倍、師は強い。まったく、これだから師匠(せんせい)の御力を見ていない者は困る……」


「な、何故、お二人がそんなにもアネットさんの強さを過信しているのかは分かりませんが……本当にアーノイック・ブルシュトロームが復活していたら、絶望的な状況ですわよ? 当代の剣聖ですら、勝てるかどうか……」


 確かに、ロザレナとグレイは俺を過信しすぎている節があるな。


 今の俺じゃあ、どんなに奮闘しても、アーノイック・ブルシュトロームに勝利するのは……かなり難しいだろう。


 それほどまでに、前世の自分は強すぎたんだ。


 最強の剣聖が復活したことに、騒然とする室内。


 俺は、言い争う三人にパチンと両手を当てて鳴らし、口論を止めさせた。


「……一先ず、アーノイック・ブルシュトロームのことは置いておきましょう。まずは、皆様の意志を確認させていただきます。今後、どうするのかをね」


「今後?」


「はい。退くのか、戦うのか。私は、退くことを強く推奨いたします。【剣聖】【剣神】レベルのアンデッドが出現した以上、貴方たちでは、為す術はありません。王都に急使を出し、リトリシア・ブルシュトロームと【剣神】たちを派遣してもらうしか、フランシアを救う道はないでしょう」


「……待ってくださいまし、師匠。あの鎧騎士の男……アーノイック・ブルシュトロームは、こう言っていましたわ。『―――二週間。二週間後に、我らは再びこの地にやってくる。それまで強くなって我ら五人を討滅してみせよ。俺としては……【剣聖】を呼ぶことを推奨するがな』……と」


「二週間、ですか。それも、自ら【剣聖】を呼ぶことを推奨してくるとは……」


 もし自分がアンデッドとして使役されたら、果たして、リトリシアを呼ぶ行為をするだろうか?


 ……何者かに支配されるくらいならば、愛弟子に自身を殺させるくらいはするかもな。


 だが、リトリシアの実力じゃ、自分を殺せないことくらいは知っている。


 成長したリトリシアに賭けたのか? 


 博打好きの俺らしいといえば俺らしいが……。


 まだ、漆黒の騎士の考えが、よく読めないな。


 情報があまりにも少なすぎる。まだ、本当に俺なのかも分かっていない。


「二週間ね! 二週間あれば十分よ!」


 ロザレナは元気よくそう答えると、俺に不敵な笑みを見せてきた。


「アネット、あたしの答えは最初から決まっているわ! あたしは、あのツノ女を絶対に倒す! あいつはあたしの前で【剣聖】になると言ってきた!! だったら、あいつは、今のあたしが越えなければならない壁よ!! 正直、フランシアなんてどうでもいいわ!! あたしは、あいつを倒せればそれで良い!!」


 ギラギラと赤い目を輝かせるロザレナ。


 相変わらずお嬢様は、止まることをしないな。


 彼女は倒すべき敵が見つかれば、容赦なく噛みついていく。周りなど関係無しに向かっていく。


「お嬢様のお考えは分かりました。では、グレイは?」


「オレは……」


 そう声を掛けると、グレイは表情を暗くさせる。


 亡くなった姉と遭遇してしまったグレイ。


 グレイは、亡くなった姉の夢を叶えるために、今まで剣を握ってきた。


 こいつにとってファレンシアと敵対することは、自身の肉を絶つくらい、辛いものだろう。


 俺は短く息を吐き、グレイに優しく声を掛ける。


「……グレイ。辛いなら、別に逃げたって構わない。何も、お前の姉を、お前自らが倒す必要は―――」


「…………ぬぐぁっ!!!!」


 グレイは突如、剣の柄を額に当てる。


 そして、額から血を流すと、彼は俺に真っすぐと視線を向けて来た。


師匠(せんせい)。オレは……オレは、自分を殺せと願うファレンシアを、ただ困惑して見つめることしかできませんでした。これでは、剣士失格です!! オレは、偉大なる貴方の弟子として、恥ずかしくて仕方がない!!!! ロザレナやルナティエのように、倒れるまで挑むことすら、しなかったのですから!!」


「……」


「……ですが。ですが、もう、逃げることはしません!! 姉は、オレが絶対に倒さなければならない!! オレが、悪しき死霊術師の手から、姉を救わなければならないのだからッッ!!!! オレは今一度、尊敬する貴方様に誓います!! 貴方様の弟子として、もう、迷うことはしないと!!」


「……そうですか。覚悟は……もうできているんですね?」


「はい!! お願いします、師匠(せんせい)!! オレに、姉を……倒させてください!!」


 グレイは迷いを振り払い、俺に視線を向けてくる。


 ……強くなったな。最初に出会った時よりも、こいつはずっと強くなった。


 俺はグレイから視線を外し、最後に、ソファーに座るルナティエに目を向ける。


「ルナティエ様は、どうお考えですか?」


「この地は……わたくしが守るべき場所です。お父様を人質に取られた以上、わたくしが逃げるわけにはいきません。わたくしは、四肢が残る限り、戦い続けます。それと……わたくしは、御婆様を、何としてでも倒さなければなりませんの。彼女を倒し、わたくしは、フランシアの令嬢としての誇りを……取り戻しますわ」


「キュリエールは、【剣神】の座に就いた本当の強者です。ロザレナお嬢様やグレイと違って、貴方が相手にするのは最も難易度の高い相手……当然、死ぬこともあり得ますよ?」


「それでも、わたくしは戦わなければなりません!! 誰に何と無理だと言われようとも!!」


 全身ボロボロであろうとも、ルナティエの意志は固いようだ。


 その身から、強い闘志を感じる。


「……了解しました。では、皆、戦うことに迷いはないのですね?」


「ええ!」「はい!」「ですわ!」


 全員の意志を確認した後。


 俺は、大きくため息を溢した。


「本当でしたら、さっきも言った通り、逃げることを推奨したいところですが……」


 そう呟いた後。俺は、ロザレナの隣に腰かけ、股を大きく開いた。


 そして背もたれに手を掛け、男である自分を表に出し、不敵な笑みを浮かべる。


「――――何でだろうな、お前たちの挑戦を止める気にはならねぇぜ。よし、分かった。これから二週間、俺がお前たちを全力で鍛え上げてやる。ロザレナお嬢様は、龍人族(ドラグニクル)の少女、メリアを倒せ」


「分かったわ!」


「グレイは、ファレンシアを倒せ」


「仰せのままに」


「ルナティエは、キュリエールを倒せ」


「はいですわ!!」


「そして俺が……ゴルドヴァークとアーノイック・ブルシュトロームを倒す。一人余るから、必然的に俺の仕事量が増えるが……戦員が足りない以上、仕方ないな。まぁ、別に問題はない。やってやるさ」


 俺のその発言に、ロザレナとグレイは目を輝かせ、ルナティエは動揺した様子を見せる。


「アネットならやれるわ!! くぅ~~!! ワクワクしてくるわね!!」


「伝説の英雄たちと、我が最強の師が戦う……!! な、何とも心躍る戦いだな!! ち、近くで見たい……!!」


「い、いやいやいやいや!! 歴代最強の【剣聖】【剣神】を、二人相手取るつもりなんですの!? さ、流石にそれは、き、厳しいのでは……!?」


 三者三様の様子を見せる三人に、俺は朗らかに笑みを溢した。

第195話を読んでくださってありがとうございました。

二巻、発売中です。

作品継続のためにご購入していただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新まってました!! グレイ・・・本当に成長しましたね。。。! 剣の腕だけでなく心の成長がすごいです(≧▽≦) ルナティエが一番厳しそうな気がしますが・・・どうやって戦うのか気になります…
[良い点] リューヌの圧倒的胡散臭さ、頭おかしいのは間違いないっぽいんだがなぁ 覚悟は改めて決まったし後は鍛えて勝つだけ、死ぬ気で頑張れ [一言] 偽アーノイックは誰なんだろうね
[一言] そういえば晩年、弱りに弱ってた状態だったけ。その先がTSって転生なのだから奇妙な人生を歩んでるもんで
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