第7章 第185話 夏季休暇編 水上都市マリーランド ⑰
「―――……ど、どうして、こんなことになってしまったんだ……」
俺は現在、ロザレナとルナティエと共に、とある店の中に居た。
その店とは―――女性モノの水着が売られている、海辺近くにあった水着屋だ。
店内にあるのは目のやり場に困る、色とりどりの華やかな水着の姿。
男はカップルでなければ入ることが難しい、禁断の花園。
そんな男子禁制の店の入り口に―――元筋骨隆々のオッサンメイドは、何故か立っていた。
「うわぁ~! 色んな水着があるわね! 流石は海辺の街! 可愛いものが多いわ!」
そう言ってお嬢様は店の中に入ると、楽しそうに、商品棚をキョロキョロと見回し始める。
そんな彼女の後に続き、ルナティエは優雅に巻き毛を靡かせながら堂々と店内を進んで行く。
「オホホホホ。マリーランドは美しき街並みもさることながら、店の多さも王国一の領都。この街で手に入らないものなど何もないのですわぁ! 存分にフランシア家の威光を理解しなさい、ロザレナさ――」
「あ! これなんていいじゃない! アネット、貴方、これ着なさいよ!」
「ちょ!? 無視しないでくださいまし!?」
ロザレナは目をキランと輝かせると、商品棚から、ハンガーに掛かったひとつの水着を取り出す。
それは……布面積が極端に少ない、ピンク色のマイクロビキニだった。
「……なん……ですか、これは……?」
……え? ナニコレ? ほぼ紐じゃないの……?
お嬢様? これを俺に着せる気なんですか? マジですか?
俺はガタガタと身体を震わせ、お嬢様へと視線を向ける。
するとそこには、鼻血を垂らし、目を輝かせているお嬢様の姿が。
「アネット! 主人命令よ! これを着なさい!」
「絶っっっ対に、嫌です!!!!!! 逆に聞きますが、お嬢様はこれを着れるんですか!?!?」
「着れるわけないでしょ!! 痴女じゃないんだから!!」
「だったら私に着せようとしないでくださいよ!? 私だって別に痴女じゃないですよ!!!!」
「あたしが見たいのよ!! 貴方はあたしのメイドなんだから、大人しく命令聞きなさいよ!!」
俺の肩をがっしりと掴んでくるロザレナお嬢様。
俺は咄嗟に、彼女の脳天にチョップを食らわしてしまった。
「職権乱用も良いところです、お嬢様!! エロ親父ですか、貴方は!!」
「ぬぐぁっ!? ちょ、何すんのよ、アネット!! 酷いじゃない!!」
「ロザレナさん……流石にその水着をアネットさんに着せるのは、わたくしも酷いと思いますわよ……」
俺たちのやり取りを見て呆れたため息を吐くと、ルナティエはこちらへと近寄って来る。
そんなルナティエに対して、ロザレナは頭を抑えながら口を開いた。
「アネットっていっつもメイド服しか着ないし、オシャレとか、そういうもの全然気にしないのよ。こんなにすっごい身体しているのに、それを活かさないとか……勿体ないと思わない? だから、こういう機会に露出度高めな水着を着せるべきだと、あたしは思うの!」
「マイクロビキニの件は置いておくとして……わたくしは、アネットさんの魅力は女性らしい外見ではなく、中性的な内面だと思いますけれどね。以前、アルファルドが蹴り上げたガラス片から、わたくしを守ってくれた時なんて……すっごくかっこ良かったですもの。髪を結んだだけの美少年に見えましたわ」
ルナティエは俺と目が合うと、何故か視線を横に逸らし、頬を染め……クルクルと巻き毛を弄り始める。
そんな彼女の様子に、ロザレナは微妙な反応を見せた。
「うげぇ、何よその反応……気持ち悪っ!」
「う、うるっさいですわねぇ!! と、とにかく、そんな水着は、アネットさんには似合いませんわ!! わたくし的には……そうですわね。アネットさんは肌を見せることに抵抗がある様子ですし、こちらなんてどうですの?」
ルナティエが手に取ったのは、比較的布面積が多めなワンショルダービキニだった。
片方の肩にだけ紐が付けられており、フリルの付いたその黒いビキニは、衣服のように見えなくもない。
とてもオシャレで、ルナティエらしいチョイスと思う水着だった。
俺的にはとても好感触だったが、ロザレナは明らかに不満気な様子を露わにする。
「えー? アネットにクール系とか似合わないと思うけどー? あたしはアネットにはもっとこう、胸を強調した派手なビキニとかの方が似合うと思うんだけどなー」
「まったく……彼女の主人だというのに、貴方はなんにも分かっておりませんのね。アネットさんについては、ロザレナさんよりもベアトリックスさんの方が話が合いますわ。アネットさんはもっとクール系のファッションをすべきです」
その後、ルナティエとロザレナは無言で睨み合う。
「……へぇ? 随分と調子に乗ったことを言うじゃない、ドリル女。このあたしが、アネットのことを分かっていないって? あたしとアネットは十歳の頃から一緒に居るのよ? まだ半年しか関わっていないあんたが、アネットのことを語ってんじゃないわよ」
「オホホホホ……時間の差など、関係ないですわね。アネットさんの魅力は間違いなく、王子様のような内面のかっこよさですわ。貴方が病で倒られている間、既に騎士学校では、アネットさんファンの女子生徒がたくさん出てきているんですわよ?」
「はぁ!? ファンですってぇ!? それ、どういうことよ!?」
「ベアトリックスさんが、ダースウェリン家から開放してくれたアネットさんのことをクラスメイトたちに話していて……それに感化された女子生徒たちが、アネットさんを慕い始めたのですわ。その後、ヒルデガルトさんが協力して、アネットさんファンクラブなるものを作ろうと動いていましたの。新学期には、そのファンクラブが始動されると思いますわ」
え? 何それ? 俺、まったく知らないんだけど?
俺が【暴食の王】と戦っている間に、いったい何やってるの? あのオカッパちゃんは……。
くそっ。ベアトリックスには事前に、俺がアルファルドと賭けをしたことは、あまり触れないよう釘を刺しておくべきだったか……。
そう後悔していると、ロザレナは俺に視線を向けて笑みを浮かべた。
「こうなったらアネットに決めて貰おうじゃない!! あたしが選んだ水着とルナティエが選んだ水着、どっちが良いのかをね!!」
「良いですわね。望むところですわ!!」
「お嬢様方……私が水着を着ないという選択肢は……」
「ないわ!!」「ないですわ!!」
同時にそう答えるダブルお嬢様。
君たち、本当は仲良いんだろ? そうなんだろ?
「アネットは、このマイクロビキニは嫌みたいだから……別なものを選んでくるわ。今度はもっと良い奴、持ってくるんだから!」
ロザレナは商品棚へと戻ると、マイクロビキニを戻し、今度はド派手な深紅のビキニを手に戻ってくる。
何故、お嬢様は、毎回布面積少なめな派手な水着をチョイスしてくるんのろうか……?
その水着に俺が困惑していると、ロザレナはそれを俺の前へと掲げて見せてきた。
「ふふん! どうかしら、アネット! なかなか良いチョイスでしょう?」
「では、わたくしは、先ほどの水着を選出致しますわ。さぁ、アネットさん? どちらがよろしいでしょうか?」
ルナティエは、先ほど選んだ黒いワンショルダービキニを俺の前に掲げる。
目の前にあるのは紅い水着と黒い水着。
その二つの水着を交互に見つめた後……俺は、大きくため息を吐き、ルナティエの方へと指を差した。
「では……ルナティエお嬢様の方の水着で」
「なん……ですってぇ!?」
床に膝を突き、絶望した様子を見せるロザレナ。
そんな彼女の横でルナティエは、いつもの高笑いを上げた。
今日もルナティエ様がお元気そうで何よりです。
「オーホッホッホッホッホッホッ!!!!! 大・勝・利、ですわぁ!! あら? あらあらあらあらぁ? ロザレナさぁん? 貴方、本当にアネットさんの趣味、分かっていらっしゃるんですのぉ? それでも本当に主人なんですのぉ?」
「く、くぅぅぅ~~~!! 絶対にこっちの方が、似合うと思うのに~~~!!!!」
うん。何でも赤いものを身に着ける癖があるうちのお嬢様よりも、ルナティエお嬢様の方が間違いなくファッションセンスはあると思うな。おじさんはそう思います。
「それでは、アネットさん。こちらの水着をお渡ししますわ。更衣室はあちらです。ショップからは海も近いですし……そのまま着替えて行くと致しましょう」
「あ、はい、わかりまし―――」
…………って、いや、いやいやいやいや、待て待て待て待て。
何で普通に水着を着る流れになってるんだ? 可笑しいだろ、おい!!!!
俺はオッサンなんだぞ!? 何故ビキニを着なければならんのだビキニを!!!!
「……そうだ、アネットさん。その水着、わたくしがプレゼントしてあげますわ。ですからお代は結構です」
「ちょ、ちょっと待ってください、ルナティエお嬢様!?」
レジへと向かうルナティエへ声を掛けると、彼女ははにかみながら、こちらを振り返った。
「……わたくしの水着を選んでくれて、とっても嬉しかったですわ、アネットさん。わたくし、今まで誰かに選ばれたという経験があまりなかったですから……で、ですから、その……大事にしてくださいましね!!」
思わずドキリとしてしまいそうな可愛らしい笑みを浮かべ、ルナティエはレジへと向かって行った。
そんな彼女を呆然と見つめていると……背後から、暴君お嬢様が現れる。
「アネット~~? あんたまさか、ルナティエに主人を変えようだとか、そんなこと思っていないわよね~~~?」
「お嬢様……貴方様はもう少し自重してください……何故、胸元を強調した水着ばかりを選ぶのですか……」
「いつか絶対に、あたしが選んだ水着も着せてやるんだからっ!!!! むっきぃぃぃぃぃ~!!」
不機嫌そうに地団太を踏むとと、お嬢様は自分の水着を選ぶために、商品棚へと向かって歩いて行った。
その後、一人になった俺は、手に持ったワンショルダービキニを静かに見つめる。
「……どうした、ものか……」
ふと前方へと視線を向けると、そこには、ウキウキとして会計をするルナティエの姿があった。
逃げられるものなら逃げたいが……あの姿を見たら、どうにも、な……。
流石に……彼女の期待を裏切るわけにはいかない、か……。
「うわぁ~~!! 綺麗な海ね~~!!」
深紅のビキニを身に着け、腕を組み、仁王立ちをするロザレナお嬢様。
そんな彼女の前にあるのは、青い空に広大な海、砂浜。
海岸には出店も多く、人の数もそれなりにあった。
その光景を見つめて目を輝かせると、ロザレナは背後を振り返る。
「それで? どうかしら、アネット!! あたしの水着の感想は?」
腰に手を当て、自信満々に小ぶりな胸を強調するお嬢様。
お嬢様の身体はスラッとしていて、足が長く、紅い水着を着るととても大人びて見えた。
猫科の肉食動物のようにしなやかで、健康的な肢体。
俺は彼女のその身体から目を逸らし、思わず縮こまってしまう。
元が女性経験が無いオッサンだっただけに、この状況はかなりキツイ。
顔が茹でダコのように真っ赤になってしまいそうだ。
「よ、よくお似合いだと思いますよ、お嬢様。お、お美しいと思います……」
「ありがとう。ふふん、まぁ、当然よね! あたしはどんな格好をしても可愛いもの!」
「わ、わたくしはどうですの? アネットさん」
背後から遅れてやってきたルナティエが、ロザレナの隣に並び、恥ずかしそうに巻き毛をいじる。
ルナティエはロザレナとは対照的で、青いワンピースタイプの水着を着ていた。
ツバが長い白い帽子を被っており、髪もツインテールに結び、清楚感溢れる装いだ。
いかにもな、お嬢様の水着といったイメージだろう。
ルナティエの中サイズの胸から目を逸らし、俺は足元の砂浜に視線を向ける。
「ル、ルナティエお嬢様も、とっても可愛らしい水着だと思います……ルナティエ様は、青がよくお似合いになられますね」
「!! あ、ありがとうございますわ……。わたくし、青色が大好きなので、とっても、その……な、何でもありませんわ!! このルナティエ・アルトリウス・フランシアは、何を着ても絵になる絶世の美少女なんですわぁ!! オーホッホッホッホッホッホッ!!!!」
「ルナティエの水着は置いておくとして……」
「置いておかないでくださいまし!?」
「アネット、貴方……」
ロザレナは俺の姿を見つめて、眉間に皺を寄せる。
そんな彼女に対して、俺はビクリと肩を震わせた。
「な、何でしょう? お嬢様?」
「貴方……どうして、タオルで身体を隠しているのよ!? そろそろそのタオル、取りなさいよ!!」
くそ、やはりそこに突っ込んできたか……!!
そう、俺は現在、マントのようにタオルを巻いて、肩から下を全て覆い隠していた。
このまま水着姿を公に晒さず、なぁなぁに済ませようかと思っていたのに……流石にお嬢様はスルーしてはくれないか……。
俺は引き攣った笑みを浮かべ、お嬢様に向けて開口する。
「お嬢様? あちらにバナナボートの貸し出しがあるみたいですよ? 乗ってみては?」
「アネット~? あんた今、あからさまに話を逸らしたわね~?」
「お嬢様? バナナ、お好きでしょう?」
「誰が猿よ!!!! もう、こうなったら無理やり脱がしてやるわ!!」
「ちょ、お嬢様!?」
ロザレナから逃げようと一歩後退すると、背後からルナティエに羽交い絞めにされる。
「アネットさん。わたくしも貴方の水着姿、見たいですわ」
「ルナティエお嬢様!?」
「フッフッフッ、さぁ、覚悟しなさい!! 大丈夫、痛くしないから……天井のシミを数えてたらすぐに終わるから……」
「それ、男の台詞ですからね、お嬢様!? って、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
タオルがはぎとられ、黒いワンショルダービキニが露わになる。
胸を腕で隠すようにして立つ俺の姿を見て、二人は、それぞれ違う反応を見せた。
「……ルナティエが選んだものにしては、な、なかなか良いじゃない。それにしても……やっぱりアネットって、胸、でっかいわねぇ……同じ環境で育ったのに、何故、こんなにも差が出たのかしら……」
「鼻血を流しながら真顔で私の胸を見つめないでください、お嬢様……」
「やっぱり、わたくしの見立ては正しかったですわね。アネットさんはクールな黒系の水着が似合いますわ。まぁ、清楚な白でも、良かったとは思いますけれど……とっても綺麗ですわよ、アネットさん」
「ありがとうございます、ルナティエお嬢様…………女性モノの水着を着て似合うとは、言われたくはありませんでしたが……」
正直、この姿で外をウロチョロしたくはない……恥ずかしくて死にそうだ。
「なぁ、あの子、可愛くね?」
「顔も可愛いけど、身体もすっごいな……何だよ、あの胸……」
周囲にいる男性から、視線を感じる。
何だ、これ……? 今までに感じたことのない、嫌な視線だ。
思わず背筋がゾゾッとする。メイド服を着ていた時はこんなこと、無かったのに……。
「ほら、縮こまってないで行くわよ、アネット!!」
手を握られ、砂浜を引っ張られて行く。
まぁ、周りの視線は気持ちが悪かったが……ロザレナお嬢様のこの満面な笑みを見られただけで、プラマイゼロ、といった感じかな。
ロザレナが楽しそうで、本当に良かった。
「さぁ、遊ぶわよー!! 二人ともー!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――――これに懲りたら二度と調子に乗るんじゃねぇぞ? 元貴族のお坊ちゃんよぉ? ガッハッハッハッハ!!」
バカみたいな大笑いを上げ、大柄な男は背中を見せて去って行く。
領都マリーランドの路地裏。
そこでオレ様―――アルファルド・ギース・ダースウェリンは、ボロボロになりながら、壁に背を付けて座り込んでいた。
まったく、ダースウェリン家の次期当主とまで言われたこのオレ様が、今じゃあ、ゴロツキに良いようにされるとはな。
挙句、ダースウェリン家再興のためにわざわざマリーランドにまで金を借りに来たというのに、フランシア家にも門前払いされる始末。
本当に、ザマァねぇ結果だぜ。
「……好き勝手やってきた悪人にとっちゃ、当然の末路ともいえるか」
オレ様はあのクズ親父から産まれた、同じクズなのだからな。
犯罪者のガキが未来永劫周囲から白い目で見られるのと同じ理屈。
クズの子はクズの子。世間の目は代えられない。
まぁ、後悔なんてしてはいねぇし、反省なんてしちゃいない。
オレ様はあのメイドにしてやられた敗北者。ただ、それだけのことだ。
「……!? ちょ、ちょっと、貴方、大丈夫ですか!?」
修道服を着た白髪の女が、オレ様の傍に近寄って来る。
女は血だらけのオレの姿を見ると、か細い悲鳴を上げ、顔を青ざめさせた。
「ひ、酷い大怪我……!! 早く治療しないと……!!」
「うるせぇ、クソ女。オレ様のことなんて放っておけ」
伸ばされた手を、乱暴に弾く。
すると修道士の女はどこか怯えながらも、意を決した様子で口を開いた。
「このままでは、貴方、死んでしまいますよ!? いいんですか、死んでも!!」
「……ハッ。てめぇ、見たところセレーネ教の信者……修道士か?」
「そ、そうですが、何か?」
「……オレ様の親父はな、根っからのクソ野郎だったんだ。幼い子供を奴隷にしては屋敷で飼う変態でなぁ」
「あ、あの……?」
「そんなクズの子供であるオレ様は、親父と同様に、てめぇと同じ年頃の女を地獄に落としたことがある。親父が、麻薬中毒になったある女の借金の肩代わりをしてな。その女の娘を、親の借金完済を餌に、オレ様の使い勝手の良い人形にしてやった。そいつを操って、これから入学する学園で優位に動こうとしたのさ」
「……」
「だが、学園に入学後、調子に乗りすぎちまってなぁ。触れちゃならねぇ、ある化け物の逆鱗に触れちまって今はこのザマだ。親父は汚職を摘発された後、男爵位を剥奪され、今じゃあ牢獄の中。オレ様は化け物に挑むも返り討ちに逢い、浮浪者になっちまった。今までやってきた悪行のせいか、オレ様の元には復讐を誓うクソ野郎どもが集まって来る毎日。……クックックッ。悪人としちゃあ、最高の顛末と言えるだろ。なぁ? 女神の信徒さんよぉ」
「…………ウチで治療します。肩、貸します。歩けますか?」
修道服の女は、オレ様に肩を貸すと、そのまま歩き出そうとする。
オレ様はその行動に眉をひそめ、女に対して口を開いた。
「正気か、テメェ。オレ様は神も見放す極悪人だぜ? 放っておけば良いだけのことだろ。くだらねぇ正義感をかざしてんじゃねぇ」
「……」
「オレ様は、死んで良い人間って奴だ。手ぇ、離しやがれ」
「死んで良い人間なんて、この世に居ませんよ」
「それはテメェが甘ちゃんだからだ。オレ様は怪我が治った後、テメェの家の金品を強奪するかもしれねぇぜ? もしくは、テメェにナイフを突きつけるかもしれねぇ」
「貴方はそんなこと、しません」
「……何でそんなことが分かるんだよ。テメェにオレ様の何が分かる?」
「目を見れば分かります。貴方の目は、自分が進むべき道を見失って、路頭に迷っている……そんな目です」
「はぁ?」
「根っからの悪人は、反省などしません。自分を、悪人だなんて言いませんよ」
「意味が、分からねぇ……」
女のわけのわからない発言に、オレ様は思わず呆けた声を溢してしまった。
第185話を読んでくださって、ありがとうございました。
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