第7章 第182話 夏季休暇編 水上都市マリーランド ⑭
ロザレナの作法にルナティエがドン引きしつつ、その後、お茶会は和やかに進んで行った。
「そうですわね……。ロザレナさんにお茶の作法を学ばさせるためにも、今度、オリヴィアも交えてお茶会をしても面白そうですわね。題して、四大騎士公の令嬢茶会、ですわ!」
ルナティエはティーカップを優雅に揺らしながら、そんなことを言い始めた。
そんな彼女に対して、ロザレナは首を傾げ、フィナンシェを頬張りながら疑問を口にする。
「四大騎士公の令嬢茶会って……オリヴィアさんは別に、四大騎士公とは何の関係もないじゃない」
「あぁ、そういえば、あの子は貴方には何も話していなかったんですのね。まったく……礼儀を知らないゴリラ女といい、アレも、大概に面倒臭い女ですわね……」
確かルナティエは、オリヴィアの出生を最初から知っていたんだったな。
俺が大森林に行って不在の間に、オリヴィアとルナティエは随分と仲が良くなったと聞いている。
これを機に、オリヴィアが他の寮生にも自分がバルトシュタイン家の人間であることを打ち明けられるようになれると良いのだが……それはまだ難しいのだろうか。
「ルナティエ? どうしたのよ?」
「コホン……なんでもありませんわ。四大騎士公の末裔は二人いるのですから、別に、四大騎士公の令嬢茶会と呼んでも良いでしょう? 些末な問題ですわ」
「じゃあ、今のこれも……四大騎士公の令嬢茶会とやらに入るんじゃないの?」
まぁ……確かに。
俺も本来だったらオフィアーヌ家の令嬢だったわけだし、あながち間違いではないな。
「はっ。そんな茶器をコップみたいに持つ女が、茶会だなんて笑わせないで欲しいですわね」
「作法なんかなくても、お茶も御菓子も胃に入ればどれも一緒でしょう? ……にしてもこのフィナンシェ、美味しいわね! バクバクいけちゃうわ! はむ、もぐもぐもぐ」
「こら! 淑女がそんな勢いで菓子を貪るものではありませんわ! ……って、ロザレナさん!? テーブルにボロボロと食べカスを落としていますわよ!? 貴方、本当に貴族の令嬢なんですの!? はしたないですわ!!」
そう言って驚きつつ、ルナティエはナプキンを手に取り、ロザレナの落とした食べカスを拭いていく。
本来であればそれは俺の仕事なのだが……この子、思ったよりも面倒見がいいな。
金の髪と青紫の髪なので、見た目こそは異なるが、まるで姉妹のように見えて来る部分がある。
「作法って、そんなに大事なものなのかしら? うちの家督はどうせ弟が継ぐんだろうし……【剣聖】を目指すあたしにとっては、そんなもの、別に必要ないと思うんだけど?」
「はぁ……まったくこのお馬鹿さんは。良いですか、ロザレナさん。【剣聖】は国の顔とも言うべき重要な職ですわ。したがって、貴族とも親交を深める立ち位置にありますの。貴方、今日の茶会相手がわたくしだから良かったものの、もしこの先、他の貴族と茶会をすることがあったら……絶対に悲惨な目に遭っていますわよ? レティキュラータス家を復興させる気があるのでしたら、もっと考えを改めなさい」
「なんか……珍しくルナティエがあたしに優しいんだけど。雨でも降る?」
「……ッッ!! わたくしは、倒すべき敵である貴方が、こんなにも貴族らしくないのが嫌なだけですわ!! こんな、作法も覚えられない馬鹿に負けたとあっては、わたくしの名に傷が付きますもの!!」
そう口にして、ルナティエはロザレナから離れると……カップを手に取り、頬を赤らめて紅茶に口を付ける。
そんな彼女の様子を、微笑ましく眺めていた……その時。
突如ロザレナが、驚きの言葉を呟いた。
「…………ねぇ、ルナティエ。さっき言ってた、その四大騎士公の令嬢茶会? なんだけど……シュゼットの奴も呼んで良いかな?」
「ブフォッ!?」
「ちょ!? あたしの顔面に紅茶吐き出さないでよ!! あんたの方も全然作法なってないじゃない!!!!」
「お、お待ちなさい、ロザレナさん!! 貴方、今……あのシュゼットを茶会に呼ぶなんて言いましたの!?」
「え? うん……そうだけど?」
「馬鹿ですか、貴方は!! あの女の恐ろしさを、もう忘れたんですの!?!?」
今度は頬を膨らませ、プンプンと怒り出すドリル髪のお嬢様。
ルナティエはコロコロと表情が変わって面白いな。見ていてとても楽しい。
「馬鹿馬鹿言うんじゃないわよ!! ただ、シュゼットの奴とはあの学級対抗戦以来会っていないから、ちょっと気になっただけよ! あとあいつ、何となく、そこまで悪い人間ではないと思うのよね。あたしが【剣聖】を目指すって言っても全然笑わなかったし。……まぁ、性格が歪んでいるのは確かなんだろうけど」
「貴方は……本当に恐れ知らずというか何というか……ついこの前まで、あの女に殺されかかっていたというのに……その豪胆さには正直、恐れ入りますわ」
心底呆れた表情を浮かべるルナティエ。
ロザレナはそんなルナティエの様子を気にすることも無く、続けて口を開いた。
「ねぇ、思ったんだけどさ。この先、クラス間で同盟とかって組めないのかな?」
「まさか……シュゼットと同盟を組もう、などと考えているのですか?」
「ただ、可能性としての話よ。ねぇ、どう思う、ルナティエ?」
「そうですわね……もしこの先、クラス合同で競い合う試験のようなものがあれば、敵クラスと同盟を組んで他を叩きのめす、なんてことは可能ですわね。……まぁ、あのシュゼットの性格を鑑みるに、彼女は同盟を組んで一緒に敵を倒すよりも、自分の手で直接始末を付けたいタイプだと思いますが。同盟の話をしたところで、一笑に付しそうですわ」
「まぁ……確かに」
「ロザレナさん……ひとつ、疑問ですわ。何故策略とは無縁な貴方が、こんな策を思い付いたんですの? 今までは、他クラスなどには一切、興味無さそうでしたのに」
「何か……チクチクとくる言葉ねぇ……。まっ、いいわ。言ってなかったけど、あたしたち、ここに来る前に偶然天馬クラスの級長に会ったのよ。それで、他クラスから生徒を引き抜きするって策を聞いたら、何となく同盟の策を思い付いて―――」
ロザレナが言葉を言い終える前に、ルナティエがテーブルを叩き、立ち上がった。
ルナティエの様子は先程までとは打って変わり、顔を青ざめさせ、驚愕した様子を見せていた。
「ル、ルナティエ? どうしたのよ?」
「今、貴方、天馬クラスの級長……と、言いましたか!?」
「言ったけど? 何? 何かあるの?」
「い、いえ……何でもありませんわ。そ、それで、引き抜き、とは?」
そう言って、ルナティエは佇まいを正し、再び席へと着く。
そんな彼女の様子に困惑しつつも、お嬢様は口を開いた。
「あ、あぁ、うん。何か、天馬クラスの級長は争いを避けるために、他クラスの級長や強い生徒を自分のクラスに引き抜いて、無血で勝利を目指しているみたいなのよ。でも、そんなの普通に考えて上手くいくわけないじゃない? でも、あたしはこういう策略? とかには疎いから、まだよく判断できなくて……ルナティエはどう思うかしら、この話?」
「……普通に考えれば、貴方と同じ感想ですわね。誰もが一度は考えて、無理だとすぐに気付く、幼稚で浅はかな策略。ですが……あの女であれば……何らかの手があるのかもしれませんわね。それも、邪悪で悍ましい、奇策の一手が……」
「さっきから気になってたんだけど、もしかして……ルナティエとリューヌって知り合いなの? あいつも何か、ルナティエのこと知っている感じだったみたいだけど?」
「まぁ……古くから知っている仲……ではありますわね」
そう口にしてため息を溢すと、ルナティエは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて、首を横に振った。
もうこの話は終わりとばかりに、ルナティエはあからさまに話題を変える。
「そうですわ、ロザレナさん。貴方、先ほどわたくしと揉めていた傭兵を倒して、エンブレムを貰っていましたわよね?」
「あぁ、うん。これのこと?」
ロザレナはポケットから、小さなバッジ……エンブレムを取り出す。
その、剣とオーガの骨の紋様が描かれたエンブレムを目にして、ルナティエはニコリと微笑みを浮かべる。
「良かったではありませんか。それは、【剣鬼】のエンブレム。貴方はやっと、目標である【剣聖】への最初の一歩を踏み出したのですわ」
「? どういうこと?」
呆けた顔で瞬きし、フィナンシェに手を伸ばし、もぐもぐとリスのように頬張るお嬢様。
そんな能天気なお嬢様の様子に、俺とルナティエは同時にガクリと、椅子から滑り落ちそうになってしまう。
「お、お嬢様……前に、剣の称号のことはお話しましたよね?」
「称号? 何だっけ?」
「……良いですか、ロザレナさん。貴方が目指す【剣聖】は、剣士の称号の頂点。その下には、四つの称号があるのです。【剣聖】が1名。【剣神】が4名。【剣王】が10名。【剣候】が30名。【剣鬼】が50名―――。つまり、貴方は最下級の【剣鬼】を倒し、50名の内の一人になったのですわ」
「え? いつ!? あたしはいつ【剣鬼】になったの!?」
「だから、貴方がさっきぶっ倒したではありませんかぁ!!!! 【剣鬼】剛切斬のブラッシュを!!!!!」
ルナティエは席から立ち上がると、ロザレナの脳天へと盛大にチョップをかます。
ロザレナは両手で頭を抑えながら、フィナンシェを口からぶら下げ、机に突っ伏した。
「い、いった~い!! もう、何も叩くことないでしょ!!」
「ムカツクんですわよ!! わたくしだって、いつか称号を持ちたいと、日々研鑽を重ねているというのに……!! 【剣聖】しか目に入っていない貴方にとって、【剣鬼】などどうでもいいのでしょうけれど、その50名の内に入りたくても入れない人がいるんですわよ!! むきぃぃぃ~~!!」
「……何言ってるのよ。あたしは【剣聖】になるんだから、あんたはいつか【剣神】にくらいなりなさいよ」
「……は?」
「あんたは、いつかこのあたしを倒すんでしょう? だったら、それくらいになって貰わなきゃ、ライバルとしてあたしが困るわ」
「……ッ!」
ロザレナのその言葉に、ルナティエは口を閉じ、眉間に皺を寄せる。
そして目を伏せると、短く息を吐いた。
「まったく……貴方という人は……わたくしを少し、過大評価しすぎなんじゃありませんの……」
「ん? 何か言った?」
「何でもありませんわ。話は変わりますけれど、お二人とも、今日はどうなされるの? 列車でここに来たみたいですけれど……破壊されたキュリエール大橋の修繕まで、ある程度日数が掛かると思いますわよ? 今日は宿を借りるか、それとも、船で王領に戻るつもりなのか……どうなされるおつもり?」
俺とロザレナはお互いに顔を見合わせる。
そして同時に、ルナティエへと再び顔を向けた。
「どうするか、まったく考えてなかったわ。橋が壊されるなんて予想外だったし」
「同じくです」
「……だと思いましたわ」
ルナティエは本日数度目の大きなため息を吐くと、席から立ち上がり、腰に手を当てる。
「でしたら、今日はフランシアの御屋敷に招待してあげますわ。ただし、ひとつ、条件がありますが」
「え? 泊めてくれるの!? 本当に雨でも降るんじゃないかしら!?」
「……泊めるの、やっぱり、止めにしようと思いますわ」
「ごめんごめん。それで? 条件って?」
「……わたくしのお父様は、レティキュラータスの名を酷く嫌っております。わたくしが騎士たちの夜典で敗北したことも、レティキュラータス家が何らかの汚い手を使って勝利したと思い込んでいますの。ですから、貴方がロザレナさん本人だと知られれば、激怒するのは間違いないと思いますわ。なので貴方たちは、レティキュラータス家とは無関係の他の生徒、ということにしてもらいたいんです。いえ……何処かの他の貴族の家名を、偽名で名乗った方がよろしいですわね。フランシア家の人間は、貴族同士としか交流を認めない仕来りがありますから」
「何か……色々と面倒くさいわね、あんたの家」
「気軽に下々と関わって民を贔屓しては問題が生じる……貴族としては当然の考え方ですわ。ですが、お父様がレティキュラータス家を過剰に嫌っているのは、確かに、疑問に思うところではありますわね。わたくしも幼少の頃から、レティキュラータス家は四大騎士公の恥さらしだと、お父様から何度も聞かされていましたわ。ですが……今のわたくしとしては少し、その評価はいきすぎているのでは? と、思うところもあります」
「あんた……本当に熱とかあるんじゃないの? あたしと初めて会った時は、レティキュラータス家のことを散々馬鹿にしていたじゃない?」
「ですから……わたくしだってものの見方くらい変わる、ということですわ!! まぁ、貴方に関しての評価は一切、変わっておりませんけどね!? 猪突猛進で、脳筋で、まともにお茶もできない野生児という評価は!!」
そう言ってルナティエは懐からサイフを取り出し、銅貨を数枚、テーブルの上に叩きつける。
「今日は、特別に、ここの代金はわたくしが御馳走してあげますわ。レティキュラータス家の財状はかなり困窮しているみたいですからね。わたくしの温情に感謝すると良いですわ、貧乏令嬢さん? オーホッホッホッホッホッホッ!!」
「……ちょっとは見直したあたしが馬鹿だったわ。誰が貧乏令嬢よ、成金令嬢!!」
「フン。お茶も菓子も無くなったことですし、さっさと店を出ますわよ。とりあえず、その大きな旅行鞄、うちに置いていきなさい」
ルナティエのその言葉に、お嬢様は怒りながらも、床に置いたショルダーバッグに手を伸ばす。
俺も同じようにして、椅子の隣に置いている旅行鞄に手を伸ばした。
……その時。ルナティエが、俺に声を掛けてきた。
「……アネットさん、わたくし、先ほどから気になっていたのですけれど……」
「? はい、何でしょう、ルナティエお嬢様?」
「何で……鞄の横に、その……箒を括りつけているんですの……?」
ルナティエの視線の先にあるのは、鞄の横にロープで括りつけられている相棒箒丸の姿。
何処か引いている様子のルナティエに対して、俺は微笑みを浮かべる。
「これが傍にないと安眠できないんです」
「……は? え、そ、それ、抱き枕じゃありませんわよ……? 箒、ですわよ……?」
「ルナティエ。うちのメイドのその奇行は無視してもらえると助かるわ。この子、どこにでもその箒を持って行くのよ。箒丸とか名前を付けて、たまに、箒に頬ずりしているくらいだし」
「…………アネットさん……お疲れのようでしたら、わたくしと一緒にエステにでも行きましょうか?」
「え? エステ……? い、いや、あの、私、別に疲れてなんか……」
「ロザレナさん! アネットさんを少し、扱き使いすぎなんじゃありませんの!? 自分の使用人の精神状態を慮るのも、貴族としての責務ですわよ!」
フランシア家、使用人としては、ホワイト案件かもしれないな。
常に人員不足のレティキュラータス家よりも、職場環境、福利厚生、共に安定してそう。
「いや、アネットが素で頭おかしいのよ。あたしは関係ないわ」
「お嬢様。人を変人扱いしないでください。それ、パワハラですよ?」
「箒に名前を付けて頬ずりする人間の、何処が変人じゃないっていうのよ……」
そりゃあ、仕事面でも荒事でも常に一緒だった箒丸に愛着が湧くのは当然のことだろう。
当然のこと……だよな……?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……いやぁ、ロザレナお嬢様とアネット先輩を追って、ここまで来たわけですが……」
マリーランドの市街地外れ。
街を一望できる高台の上に、ツインテールのメイド……コルルシュカの姿があった。
コルルシュカは手すりに手を当て、高台から街を静かに見つめると、背後へと振り返る。
「残念ながら、二人を完全に見失っちゃいましたねぇ~。てへへっ! コルル、ドジっ子しちゃいましたぁ~☆」
「てへへっ……じゃないですよ、コルルシュカ先輩っっ!! は!? 何で私たち、フランシア領まで来ているんですか!? 私、途中で何度も帰りましょうって言いましたよね!? なのに何でこんなところまで来ているんですか!? 意味が分からないです!! 馬鹿なんですか!?」
激昂するクラリス。そんな彼女に、コルルシュカは無表情でコツンと、自身の頭を叩いて舌を出す。
「何か……つい、ノリで? 王都からマリーランド行きの列車に乗るのを見ちゃったら、こう、コルルも列車に乗ってみたくなっちゃったと言いますかぁ……? まっ、そういうこともありますよね~」
「ないですよ!! というか、何で私の腕を引っ張って無理やり列車に乗せたんですか!? お嬢様たちの行先がフランシア領って分かった時点で、御屋敷に戻るべきでしたよね!?」
「まぁまぁ、そう怒らないでくださいよぉう。せっかくなんですし、観光でもして帰りましょう~? ……って、うぉぉぉぉ!? 何ですか、これ!! すごい造形です、この石像っ!!」
高台に聳え立つ勇ましい英雄の石像を見て、コルルシュカは目を輝かせる。
そんな彼女を呆れた目で見つめるクラリス。
そんな二人の元に、一人の男が近づき、声を掛けた。
「ほう? そいつの造形が分かるとは、あんた、見る目があるじゃないか」
その声に、コルルシュカは振り返る。
そこにいたのは……髭モジャで背の低い、鉱山族の男だった。
王国では珍しい異種族の姿に、クラリスは驚きの声を上げる。
「鉱山族……!! 私、初めて見ました……!」
「そうまじまじと見つめてくれなさんな、メイドのお嬢ちゃん。フランシア領は、鉱山族の里とも近い位置にあるからな。ここではそんなに珍しいことじゃねぇよ」
「あのぉ、鉱山族のおじさん。この像を造った方って、この街におられるのですか?」
「ん? あぁ、その像……剣聖アレスの像を造ったのはワシだが……?」
そんな彼の返答に、コルルシュカは彼へと物凄い勢いで詰め寄って行く。
そして、懐から、一体のフィギュアを取り出した。
「おじさん。これ、どう思います?」
「お、おう? む、こいつは……あまり見たことが無い種類の人形だな。材質は粘土石、小さい割には、線密に造形しようとした工夫が見られる……だが、造りがまだまだ甘いな。お嬢ちゃん、これはお前さんが造ったのか? 人族にしては、悪くない腕前だ」
「ありがとうございます。おじさん、ひとつお聞きますが……この人形、もっと精度を上げてリアルにすることは可能ですか? あと、量産も考えているのですが……布教のため」
「あぁ、可能だ。このワシ……石工の道60年のゴンド様に不可能は無い。ただ、モデルの写真が数枚あればの話だがな。ん……? 布教……?」
「写真なら、大量にあります」
エプロンのポケットからアネットが映った大量の盗撮写真を取り出すと、それを指の間に挟んで見せる、コルルシュカ。
コルルシュカとゴンドは数秒真顔で見つめ合った後。
何かが通じあったのか……ガシッと、硬く握手を交わす。
「小さな粘土像造り……か。フッ、面白そうだ、良いだろう。そろそろ後継者が欲しいと思っていたところだ。お前さんにワシの技術を教えてやる。工房はこの先にあるのでな、ついてこい」
「よろしくお願い致します」
「え? は? ちょ、コルルシュカ先輩!?」
鉱山族についていくコルルシュカ。
そんな彼女の姿に絶望した表情を浮かべなら……クラリスも慌ててついていった。
「ちょ……!! どこに行くんですかぁ!? この馬鹿先輩はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」




