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第18話 元剣聖のメイドのおっさん、老婆に殴られない。





 真っすぐと前を見据えて、意識を集中させる。


 目標は、眼前にユラユラと降り落ちてくる、あの小さな木の葉だ。


 かつて『剣聖』と呼ばれていた俺にとって、落ちてくる葉っぱを粉々に切り裂くことなど、造作もないこと。


 腰に箒を携え、抜刀の構えを行い、タイミングを見計らって足を前へと踏み出しー----そうだ、ここで、横薙ぎに剣閃を放つ!!!!



「こらっ! アネット!! 中庭でチャンバラごっことは何事か!!」



 後頭部に向かって、拳を振るわれるがー---俺はそれを身体を軽く逸らすことで回避する。


 すると、一瞬で回避の行動を取って見せた俺に、祖母のマグレットは空ぶった拳を確認したと同時に、呆れたようにため息を吐いた。


「まったく。図体が大きくなったと同時にすばしっこくなって。昔は私に簡単に殴られていたというのに」


「ははは、お婆様ももうお歳ですからね。身体が鈍ってきたのではないのですか??」


「バカ言うんじゃないよ。私は今も昔も変わらず現役さ。お前さんの動きが良くなったんだよ、アネット」


 腰まで伸びた栗毛色の長いポニーテールが、春風に静かに揺れる。


 もうすぐ、ロザレナお嬢様と別れて五年の月日が経つ。


 俺はというと、この五年で背がぐんぐんと延び、一見すれば大人の女性と相違ない様相へと変化を遂げていた。


 胸が大きくなり、お尻も大きくなり・・・・最早、生前の男の身体とはまったく異なる体形になってしまったと言えるだろう。


 まさか髭モジャ筋骨隆々マッチョメンだった俺が、こんな、ナイスバディのポニーテール美少女に転生してしまうとは・・・・・・改めて考えると本当に意味が分からないな、この状況。


 この世界に神様がいるのだとしら、お前は何してくれてやがるんだと、しばき倒してやりたいところだ。



「ついに、明日、お嬢様が帰ってくるんだね」



 そう、お婆様が感慨深そうに呟いた。


 俺もその言葉に頷いて、新緑が芽吹き始めている老木に、静かに視線を向ける。


「そうですね。五年・・・・長かったようで短かったような気がします」


「フフフ、年を取ると、時の流れが早く感じるからね。私にとってはついこの間のことのようだよ、ロザレナお嬢様がこの屋敷を旅立たれて行ったのは」


「そうですね。その気持ちは非常によく分かります。年を取ると、本当に時の流れが早く感じるものです。今の私の感覚では・・・・生前に比べれば、遅く感じるのかな?? うーん、どうなんだろ??」


「生前・・・・? いったい何を言ってるんだいお前は?」


「あーっと、何でもありません。えへへへへ・・・」


「ったく、お前さんは昔から突然訳の分からないことを言う子だったよ。確か6歳くらいの時だったか。丁度この場所で、自分が先代の剣聖だとか何とか言っていたっけね」


「も、もう、昔のことは良いではありませんか!! 中庭の掃除をしましょう掃除!!」


「お前さんのその時折変なことを呟く癖。そいつを無くさないと、不気味がられて、嫁の貰い手がいなくなってしまうかもしれないよ??」


「別に良いですよー。私、結婚する気なんてさらさらありませんから」


 中身はむさいオッサンなので、男と結婚とか・・・・そんな誰得地獄展開、マジで勘弁して欲しいッス・・・・。


 そんな俺の心の声など、マグレットには当然届かずー---彼女はニヤリと、口角を吊り上げた。


「私、知っているんだからね。この屋敷に食材を仕入れてくれている農家の若造が、ここに来る度にあんたのことを目で追っているのを」


「それは・・・・きっと、私のこのポニーテールが人一倍長いから、不思議に思って視線を送っているんです。そういうことです」


「ふーん? そうなのかい?? 一度私と王都に買い物に行った時には、道行く男たちに声を掛けられまくっていたと記憶しているけれど??」


「・・・・・本当に、勘弁してください、お婆様・・・・・私、そういう恋愛事、本当に苦手なんですから・・・・」


「フフフフ、からかってすまないね。でも、私も老い先短いからね。アネットが素敵な人を見つけて幸せになるまでは、安心してあの世に逝くこともできないのさ」


「もう、老い先が短いだなんて・・・・・そんなことを言わないでください。私にとってお婆様はたった一人の家族なんですから」


 父親は生きているのか死んでいるのかも不明だが・・・・母であるアリサ・イークウェスの傍に最後までいなかったんだ。


 生きていたとしても、15年経っても俺に会いに来ないことから鑑みて、碌な人物とは言えないであろうことは明白だろう。


「長生きしてくださいね、お婆様」


「さて、どうだかねぇ。ひ孫の姿を拝めたら、もっと長生きできるかもねぇ」


「もう、最近はそればっかりなのですから。まったく・・・・・・ん?」


「せんぱぁーい、ちょっとこっち、来てくださぁい!」


 声が聴こえた方向に視線を向けると、屋敷の窓を開け、クリーム色の髪のツインテメイドが俺を呼んでいる姿が目に入ってきた。


 俺はそんな彼女に対して呆れたため息を溢すと、マグレットに視線を向ける。


「申し訳ございません、お婆様・・・・」


「あぁ、いいよ。新人の教育も次期メイド長であるお前さんの仕事だ。中庭の掃除は私がやっておくから、行っておいで」


 その言葉にお礼を言いつつ、俺は、ツインテール姿のメイドの元へと歩みを進めた。








「すいません、せんぱぁい、コルル、ちょっとお茶の入れ方で分からないところがあるっていうかぁ。教えてもらっても良いですかぁ??」


「はい。構いませんよ。では、厨房に向かいましょうか」


 彼女の名前は、コルルシュカ・ルテナー。

 

 先代当主のギュスターヴ老とメリディオナリス夫人の元で長年雇っていたメイドの・・・・娘らしい。


 俺とロザレナを聖騎士養成学校に入学させるための入学金を工面するために邸宅をすべて売り払った先代当主とその妻は、現在、ここ本邸に移り住み、息子夫妻と共に暮らしている。


 その経緯を知った先代当主夫妻の専属メイドだったルテナー婦人は、世話係として娘のコルルシュカをここへと派遣してきたのだが・・・・。


 何というか正直、唐突すぎてよく事情を理解しきれていないのだが・・・・ルテナー婦人はどうやら娘のコルルシュカを立派なメイドにさせたいようで、メイドの一族として歴史長く有名なイークウェスの元で修行をさせたかった・・・・らしく。


 娘を半ば無理やりこの家に派遣し、レティキュラータス家の使用人にしてくれと、ルテナー婦人はエルジオ伯爵に直接直談判してきたのだ。


 けれど・・・・この家も、財政的に厳しい状況にある。


 だから、新しい使用人を雇えるほどの蓄えは無いみたいだった。


 そう、蓄えは無いはずだったのだが------父と母が世話になった使用人の娘だからと、お人好しな伯爵は、彼女をこの家の使用人として受け入れてしまったのだ。

 

 まぁ、そのような経緯があって、だな・・・・今のこの家には、俺とマグレットに加え、コルルシュカというメイドが新たに仲間に加わっているのだ。



「せんぱぁい、こういう感じですかぁ??」


「あ、えっとね、なるべく音を立てずに注げるかな?? こう、カップとポットが垂直にならないように意識して」


「うーん、お茶ひとつ入れるのも難しいんですねぇ。勉強になりまぁす」



 見ての通り彼女は、メイドの仕事は素人に近いレベルだ。


 炊事、洗濯、掃除、どれを取っても俺とマグレットの水準とは大きくかけ離れているレベルの技術といえるだろう。


 正直、最初はあまりにもメイドの仕事ができなさすぎて、ルテナー婦人の娘を騙った暗殺者か何かなのかと、勘ぐったくらいだ。


 でも、まともな暗殺者だったら怪しまれないようにメイドの仕事を勉強してくるだろうし・・・・こんなあからさまに家事下手設定のキャラ付けをしてこないだろう。


 それに時折、試しに遠くから彼女に殺気を放ってみたりしているんだが・・・・まったく俺の気配に気にした素振りを見せない時点で・・・・戦事とは無関係のただの一般人の人間であることが察せられた。


 というか、まぁ・・・・ギュスターヴ老とメリディオナリス夫人が彼女とは昔から面識があったみたいだから・・・・その時点で暗殺者っていう線は限りなくゼロに近くなったわけなんだけどね、うん。


 でも・・・・・だ。


 でも・・・・何か臭いんだよな、この子。


 仕草というか、雰囲気というか・・・・。


 そうだな・・・・俺の長年の勘を信じて、ちょっと、試してみるのも悪くないか。




「おおぉ~、やっぱりせんぱぁいのお茶の入れ方は綺麗ですねぇ~、惚れ惚れしますぅ~」


「・・・・・ねぇ、コルルシュカちゃん」


「あ、コルルで良いですよぉ~~? てかせんぱぁい、私がこの屋敷に来てから一週間くらい経つのに、何で未だにフルネーム呼びなのぉ?? 距離感じてコルル、悲しいです~」


「コルルちゃん、貴方、もしかして・・・・暗殺者だったりしないよね??」


「暗殺者?? え、何それ、どういうことぉ??」


「・・・・・ロザレナお嬢様が帰ってくる直前にこの屋敷に現れたんだ・・・・・どう見ても、てめぇは怪しいんだよ!! 白状しやがれ!!!」



 壁際にコルルシュカを追い詰め、ドンと、壁に手を付いて逃れられないようにする。


 俺が突如暴挙に出たというのに、コルルシュカの表情は動かない。


 彼女は眠たそうな半開きの目で、ジッと、静かに俺の顔を見つめていた。


「ほう? 驚いた反応が無いな・・・・やはり、てめぇ、旦那様かお嬢様を狙った暗殺者だったわけー----」


「めっちゃかっこいいっすぅ~~」


「は?」


「いや、私、壁ドンとかされるの夢だったっていうかぁ。てか、乱暴な口調のせんぱぁいも素敵っすねぇ。もしかしてそっちが素なんですかぁ~~??」


「いや、あの、コルルシュカさん?」


「はい?」


「貴方、本当に暗殺者とかじゃないの??」


「だから暗殺者って何スかぁ~? 私、レティキュラータス領の南西部の村出身のただの村娘ッスよ~~??」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・い、いや、俺は絶対に警戒を緩めないぞ。


 明日帰ってくるロザレナお嬢様に危害を食わないように、四六時中見張っててやる。


 お前の尻尾は絶対にこの俺が掴んでやるからな!!!!!!



「はふぅ、眠すぎぃ~。あの、お茶の入れ方、続きを教えて貰っても良いですかぁ?? 壁ドン、飽きたんで」


「は、はい・・・・じゃ、続きの講座を再開しますね」


 第二部 成年期 聖騎士養成学校編の始まりです!!


 ここからがこの小説の本編となりますので、頑張って執筆したいと思います!!


 ・・・・5年後アネット・・・・思ったよりも内面の女性化が進んでいるな、と、自分で書いて自分自身でツッコミを入れてしまいました笑


 また明日、続きを投稿すると思いますので、読んでくださると嬉しいです!!


 では、三日月猫でした!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 寧ろ思ったより上手く女性化を進んでいないだと思いますけどw
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