剣聖メイド エイプリルフール回 「オッサンメイド、乙女ゲーム世界線で逆ハーレムを作る」【キャラ崩壊注意】
「いっけなーい、入学初日から遅刻しちゃう~!!」
御屋敷から飛び出し、口から食パンをぶら下げながら、私は急いで王都の街を駆け抜けていく。
……私の名前はアネット・オフィアーヌ、十五歳! 今春から騎士学校に通う一年生なの!
四大騎士公オフィアーヌ家の娘で、将来は立派な騎士になるのが夢よ!
私はいつか絶対に聖騎士になって、伝記に載っている英雄様のような、弱い人たちを守れるかっこいい存在になりたいんだ!
「そう、いつか私は憧れの【剣聖】リトリシア様のように、かっこいい剣士になりたいの。だから、騎士学校では絶対に好成績を納めてみせ―――って、きゃあっ!?」
近道しようと、路地裏に入った、その時。
突如目の前から出て来た何者かにぶつかり、私は思わず尻もちを付いてしまった。
後頭部を抑えながら目の前に視線を向けると、そこには、同じように転倒している天然パーマの青年の姿があった。
青紫色の髪の彼は、私に鋭い視線を向け、立ち上がる。
そして、頭を抑えながら大きく口を開いた。
「……いったいなぁ。あんた、どこ見て歩いてるんだよ!!」
「あ、貴方こそどこ見て歩いているんですか!? 私だけが悪くないと思うんですけど!! 路地裏で走らないでください!!」
「へぇ? この俺に対して怯まずにものを言うなんて、生意気な奴だな」
スカートの埃を払って立ち上がると、彼はものすごい勢いでこちらに詰めてきて―――私を壁際まで追い込み、ドンと、壁ドンしてきた。
その紅い目は獲物を追い詰める獣のように爛々と輝いており、その様子からして彼は、私をか弱い女子として見下していることが察せられた。
「俺は、ロザレナ。レティキュラータス家の御曹司であり、いずれ【剣聖】になる男だ」
「え? あの四大騎士公の?」
「そうだ。おっと、お前、間違っても没落寸前の貴族だとか、ふざけたことを言うんじゃねぇぞ? 俺は自分の家を貶す奴には容赦しない。今までこの名を穢した者は誰であろうと、一刀のもとに叩き伏せてきた。レティキュラータス家の血に飢えた狼とは……俺のことだ」
そう言って彼は私の手を強く掴むと、ニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。
確か、レティキュラータス家の御曹司は手が付けられない暴れん坊だったと、聞いたことがある。
気に入らない人間がいたら、すぐに剣を持って襲い掛かるとか。
剣は人を傷付けるものではなくて、人を守るための道具なのに……貴族の風上にもおけない奴!
イケメンだけど……心象は最悪だ! イケメンだけど!
「……は、離しなさい! 貴方、女性にこんな真似して恥ずかしくないの!?」
「うるさい奴だ。その可愛い顔に傷が付く前に、さっさと素直に俺に謝った方が身のためだぜ?」
彼はそのまま、私に顔を近づけてきた。
ま、まさか、こいつ、このまま私にキスをするつもりなわけ!?
なんて男なの!? 最低最低最低!! 嫌な奴!! やっぱりちょっぴりイケメンだけど!!
「……や、やめてぇぇぇぇぇぇぇっっ!! えっちーーーーーーっ!!!!!!!!」
「ぐほぁっ!?」
私は思いっきり、彼の頬にビンタを放つ。
すると彼は吹き飛ばされ、向かいにある建物の壁へとぶつかり、めり込んだ。
壁に亀裂が走り、ロザレナは血を吐き出し、地面に膝をつく。
「な……!! なんだ、お前、その力は……!!」
ロザレナは苦悶の表情を浮かべながらも、よろめき、立ち上がった。
そして彼は腰の剣を抜いて、先ほどとは違い、私に強烈な殺意を向けてくる。
「平和ボケしたただの女と思ったら、お前……!! そんな能天気なツラしてなんだ、その闘気の圧は……!! 化け物か……!!」
「え? な、何言ってるんですか? 私、ただ貴方を引っぱたいただけで――――」
「殺す!!」
ロザレナは剣を上段に構え、私に襲い掛かってくる。
かよわい令嬢である私は、ただただ悲鳴を上げることしかできなかった。
「きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! 来ないでぇぇぇぇぇ!!!!」
「……そこまでです」
―――その時。ロザレナの首元に、背後からナイフが付きつけられる。
彼の背後に視線を向けると、そこには、長い髪を一本に結んだ執事――コルルシュカの姿があった。
突然現れた彼に対して、ロザレナは両手を上げると、私から離れる。
「チッ、これでいいか? まったく、暗殺者の護衛がいるとは予想できなかったぜ」
「僕はアネットお嬢様を陰からお守りしている、彼女の執事です。幸運ですね。貴方がもし彼女に傷一つでも付けていたら……僕は、貴方の首を即座に搔っ切っていたところでしたよ」
「何を言ってやがる。俺よりも、どう見てもこの女の方が化け物だろうが」
「……次にお嬢様を貶す言葉を言ってみろ。僕がお前を殺す」
そう言って首に当てたナイフをさらに強く押し当てるコルルシュカ。
そんな彼に、ロザレナはニヤリと挑発的な笑みを浮かべた。
「はっ、随分と実力に自信があるようだな、無表情男。いいぜ、やれるもんならやって……ん? お嬢様? そいつ、貴族なのか?」
確認するように、ロザレナは私の顔を見つめてくる。
私はゴクリと唾を飲み込んだ後、胸に手を当て、彼に対して口を開いた。
「私はオフィアーヌ家の息女、アネットです。貴方と同じ四大騎士公の末裔です!」
「……何? オフィアーヌ家? ってことは、あんた……」
「? 何でしょうか?」
「あんた……俺の婚約者、か……?」
「は?」
ロザレナのその言葉に、私は、思わず目をパチパチと瞬かせてしまう。
―――この時の私は知らなかったのだ。
私には、幼い頃から、両親によって取り決められた婚約者がいたことを。
――――――――――――次回予告!
王都の路地裏でぶつかった嫌な男は、なんと、私の婚約者だったの!
困惑しながらも何とか騎士学校の入学式を終えた私は、休む暇も無く……同じクラスの四大騎士公フランシア家の御曹司ルナティエに目を付けられてしまうことになっちゃった!
「あーっはっはっはっはっは! アネットさん、君をボクの妻にしてあげるよ! 栄光あるフランシア家の嫡男であるこのボクに見初められたんだ。光栄に思うと良いよ!」
「え? 嫌です」
「……なん、ですわ、と……?」
クラスメイトたちの前で盛大にフラれたルナティエは、憎悪を抱き、私に対して嫌がらせ行為をしてくるようになり。
入学後、机に落書きをされ、上靴を隠され、箒マニアの変態だと変な噂を流され、地獄の日々を送ることになった……可哀想な私!
その嫌がらせの毎日に―――私は思わず膝を付き、昇降口でわんわんと涙を溢してしまった。
そんな泣きじゃくる私の姿を発見した、同じクラスで犬猿の仲の婚約者ロザレナくんは……ルナティエの元へと向かうと、彼へと手袋を投げつけた。
騎士が手袋を投げる。それは、決闘を申し込むときの合図。
「おい、成金小僧。よくも俺の婚約者を泣かしたな。決闘だ。今すぐ剣を執れ」
あんなに嫌な奴だったのに、あいつは、私を庇ってルナティエに決闘を申し込んだ。
その姿に、私は思わずキュンとしってしまったの。
……でもでも、私にアタックしてくるのは彼だけじゃなかったの!
同じ寮の優しいオリヴィア先輩は、いつも私に、異臭のするお弁当を届けてくれたり。
「今日もお弁当を作ったんだ~。お昼、一緒にどうかな、アネットちゃん? ……ん? これ? これは、トロールの太腿の煮付けだよ~?」
隣のクラスのムキムキジェシカくんは、頻繁に私をランニングデートに誘ってくるの。基本、筋肉の話しかしないけど。
「筋肉!! 筋肉は全てを解決するんだよ、アネットちゃん!!!! プロテインは飲み物!!」
禁断の愛。実の兄のシュゼットお兄様は、いつも私にアプローチをかけてくるの。ちょっと怖いけど。
「アネット。お前を本当に分かってあげられるのは、私だけだよ。この兄に全てを委ねて生きなさい。クスクスクス……お前に近寄る悪い虫は全部、串刺しにしてあげるからね」
執事のコルルシュカは、変態だけど、私のことをいつも陰ながら思ってくれているの。変態だけど。
「アネットお嬢様の盗撮写真が結構溜まってきたな……フフフフフフ。タペストリーを張るには壁が足りなくなってきましたね」
小柄な年下系男子、ベアトリックスくんは、私のことを何故かお姉ちゃんって言ってくるの。残念ながら私に弟はいない。
「お姉ちゃん!! 今日の下着は何色ですか!!!!! 弟である僕に教えてください!!!!」
そんなこんなで―――学校に入学したばかりなのに、色んなタイプのイケメンに言い寄られる毎日!!
もう! 私、どうすればいいの!?
仲の良いグレイ先輩♀とマイス先輩♀に相談しても、良い返事は全然返ってこないし!
「やっぱりアネット師匠はモテモテですね! 私もその姿を見て学びたいと思います!!」
「男なんて性欲で生きている生物だから、期待するだけ無駄と思うがね。私なんて、この前ナンパしてきた男の股間に蹴りを放ってやったぞ!! ハッハッハー!!」
私、これからどうなっちゃうの!?
色んな男からアプローチを掛けられて、もう大変~~!!!!!
次回、オッサンメイド、乙女ゲームで逆ハーレムを作る。
楽しみにして待っていてね!!
「――――――ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!? な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!? ……ゼェゼェ……え、ゆ、夢ぇ……?」
ミレーナはベッドから飛び上がると、キョロキョロと周囲を見回す。
そこは多くの植木鉢と薬品の瓶が転がった見慣れた寮の自室であり、特に変化は何も見当たらなかった。
額の汗を拭うと、ミレーナは疲れた様子で口を開く。
「ぶ、不気味な夢でしたぁ……。な、何か、知っている人たちがみんな性転換していたようなぁ……。何故かうちだけ出てきませんでしたがぁ……ま、まぁ、ミレーナが男になったら? イケメンすぎで物語が破綻するでしょうけどねぇ……? ぐふふふふ」
そう言ってミレーナは口元に手を当て、不気味な笑い声を溢す。
するとその時。部屋の扉をコンコンと叩かれ、外から声が聴こえてきた。
「ミレーナー? もう昼過ぎだよー? 夏休みだからって寝すぎ!! 早くギルドに行くよ!!」
「あ、ご、ごめん、アンナちゃん!! 今行きますぅぅぅ!!!!!」
そう言ってミレーナはベッドから飛び降りると、寝間着のボタンに手を掛けるのだった。
エイプリルフール回でした笑
ちなみに、ミレーナはギャンブル代をアネットにせびるクズ男化して、リトリシアはストーカー男と化します。
ハッピーエイプリルフールでした!!笑笑




