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第6章 第164話 学園に潜む亡霊 ④


「……今の人影は……フン、どうやら噂は本当だったようだな。よし、亡霊とやら、オレが成敗してやるとしよう」


「そうね。良い腕試しになりそうだしね。これも剣聖になるための第一歩よ!」


 グレイレウスとロザレナは率先して、実習棟の中へと入って行く。


 そんな彼らの後ろで、オリヴィアは怯えた様子で声を発した。


「ちょ……ちょっと待ってください!! ほ、本気で、本気で学校の中に入るのですか!?」


 ガクガクと身体を震わせるオリヴィア。その横でマイスは「ふむ」と顎にてを当て開口する。


「聖騎士養成学校の土地は、女神によって祝福された土地と呼ばれている。故に、信仰系魔法を苦手とする幽霊(レイス)はいないと思っていたのだが……まさか、ロックベルトの姫君の話していた噂が本当だったとはな。ハッハッハー! これは俺も想定外の出来事だ!」


「笑っている場合ですか、マイス君! 魔物がいるかもしれない場所に生徒だけで行くのは危険です! だ、誰か、大人を……先生か騎士の方を呼んできた方が良いと思います!」


「大人を呼んだ場合、俺たちが何故夜の学校に居るのかを問いただされることになってしまうだろう。まぁ、光合石の件を話せばお咎めなしで済むだろうが……面倒なことになるのは避けられないだろうな。下手したら、学園長が出てくる事態にもなりかねない」


「学園長……」


 父の名が出たことに顔を俯かせるオリヴィア。


 その時、ルナティエが前へと出て、高らかに笑い声を上げた。


「オ……オーホッホッホッホッホッ!! オリヴィア、そんなに恐れることはありませんわぁっ!! わたくしがついているのです!! いずれ常勝の指揮官になるこのわたくし前では、幽霊など造作もなくってよぉっ!!」


 そう叫ぶと、ルナティエはグレイレウスとロザレナの後に続き、校舎の中へと入って行った。


「あ、ま、待ってください、ルナティエちゃん!! う、うぅ~~!! 私も監督生として、ついて行きますぅっ~!!!!」


 オリヴィアも泣きながら、その後に付いて行く。


「ハッハッハー! 待ちたまえ、諸君! 絶世の美女の幽霊だったらどうする!! その場合はこの俺に任せたまえ!! ぜひ、幽霊を口説き落とせるのか試してみたいのでな!!」


 マイスも、謎の発言をしながら四人についていった。


 残されたのは俺とジェシカのみ。


 ジェシカはチラリとこちらに視線を向けてくると、眉を八の字にして、不安気な表情を浮かべた。


「だ、大丈夫かな。私が話した噂話のせいで、学校に侵入することになっちゃって……。さ、さっきの人影、本当に幽霊とかじゃないよね?」


 うるうると瞳を潤ませるジェシカ。俺はそんな彼女にニコリと微笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ。もし本当に幽霊(レイス)が居たとしても、魔法で攻撃すれば良いだけのことです。ロザレナお嬢様は炎熱属性魔法、ルナティエお嬢様は水属性魔法を使えます。私も一応、氷結属性魔法を扱えます。ですから、何も問題はありませんよ。それに、学校に潜入することになったのはマイス先輩の発言のせいです。ジェシカさんは何も悪くはありません」


「アネット……」


 俺のその発言にパァッと明るい表情を浮かべるジェシカ。


 だがハッとして、彼女は俺との距離を少し取った。


「そ、そうだ、アネットは関わる人みんなを洗脳させる、サキュバスメイドだったんだ……危ない危ない、私の貞操が奪われるところだった……!」


「あの、まだそれ言ってるんですか? いい加減、サキュバスメイド呼びはやめていただけませんかね……」


 俺はため息を溢しつつも、ジェシカと共に実習棟の中へと入って行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 満月亭の全員で、実習棟の中へと入る。


 中は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っていた。


 玄関口には白銀の鎧甲冑が来客を出迎えるように横二列で飾られており、今にも動き出しそうな様相をしている。


 俺はそんな光景を静かに見つめた後、空中に手のひらを浮かせ、魔法を唱えた。


「遍く光の渦よ、聖なる加護で汝の眷属が征く道を明るく照らしたまえーーーー【ホーリーライト】」


 俺が唯一使用できる信仰系魔法、低五級【ホーリーライト】。


 半径2メートルほどの周囲を明るく照らす光の球を発現させ、俺はそれを松明代わりに使用する。


「おぉ! アネット、そんな魔法使えるんだ! すごいなー!」


 俺の右手の上に浮かぶ光の球を見つめて、ジェシカはパチパチと拍手をして感嘆の声を漏らす。


 そんな彼女に対して、グレイレウスは自慢げに鼻を鳴らした。


「フン。我が師の凄さはこの程度のものではない。しかし……自分の師匠(せんせい)を褒められるのはとても気分が良いな。おいアホ女、もっと師匠(せんせい)を褒め称えると良い。師の威光に敬服しろ」


「……アネットを褒めたのに、何でグレイレウス先輩が喜んでいるの? 意味分からないんだけど?」


「見ろ、アホ女! 師匠(せんせい)はこんなにも眩しい存在なのだ! 眩しくて直視できないだろう! フハハハハハハハハハ!!!!」


「いや、そりゃあ【ホーリーライト】を使ってるからでしょ、グレイレウス先輩……」


「おぉ、ま、眩しい!! やはりアネット師匠(せんせい)は光り輝く存在なのだ……!!」


「もうやだ、この人! 本当に分けがわからないよ! 満月亭の中で一番の変人だよ!」


 顔の前に手をかざし、俺を眩しそうに見つめるグレイレウスと、呆れた様子でげんなりとするジェシカ。


 本当に何なんだこのマフラー野郎はと馬鹿弟子にジト目を向けていると、隣へとやってきたマイスが優雅に前髪を靡き、口を開いた。


「グレイは常識というものを知らないからな! 困惑するのも無理はないぞ、ロックベルトの姫君! ハッハッハー!」


「貴方がそれを言うのはどうなんでしょうか……マイス君……」


「オリヴィアさんの言う通りよ。この寮の一番の問題児はあんたでしょ、マイス……」


 騒がしい学生寮の仲間たち。そんな彼らに笑みを浮かべていた――――その時。


 再び、悲し気なピアノの音色が耳に入って来た。


 その音を聴いたルナティエは、顔を青白くさせる。


「な、ななななな……なんですの!? ま、また、ピアノの音が鳴り響いてきましたわよぉっ!?」


「が、学校に誰かいるってことなのかな!? それとも、本当に幽霊(レイス)が――――」


 ――――――カタン、カタン、カタン。


 上階から、何者かが廊下を歩く音が聴こえて来た。


 その音を聴いて、フラリと身体をよろめかせるルナティエ。


 倒れかかった彼女を、オリヴィアは背後から優しく受け止める。


「だ、大丈夫ですか、ルナティエちゃん!?」


「も、問題ないですわ。べ、別に、驚いたとかじゃないですから!! 怖くなんかなくってよぉ……!!」


 小刻みに身体を震わせ、どう見ても焦燥している様子のルナティエ。


 マイスはそんな彼女をジッと見つめると、俺たちに声を掛けて来た。


「ふむ。ここは、三つのグループに別れようではないか」


「三つのグループ、ですか?」


「そうだ、メイドの姫君。一つ目のグループは、四階にある魔道具(マジックアイテム)研究室から光合石を拝借してくるチーム、二つ目のグループは、幽霊の正体を見破るために、六階にある旧音楽科の教室を調査するチーム。そして三つ目のグループが、フランシアの姫君と共に外で待機する組。どうかね?」


 マイスのその発言に、グレイレウスは腕を組み「フン」と鼻を鳴らす。


「貴様に仕切られるのは癪だが……良いだろう。勿論オレは、音楽科の教室を調査するグループに入らせてもらう」


「あたしも」


「お嬢様が行くのなら、私もそちらのグループに――――」


「こ、これしきのことで、弱音など吐いてられないですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「あ、ちょ、ルナティエ!! 何処に行くのよ!!」


 ルナティエは突如叫ぶと、一心不乱に階段を駆け上って行ってしまった。


 そして、それを追いかけるロザレナ。


「お嬢様!? お、お待ちください!!」


 俺たちも慌てて階段を登り、二人を追いかけていく。


 だが―――。


「え……?」


 階段を登り、二階に辿り着くと、そこには二人の姿が無かった。


 そして上階から「出ましたわぁぁぁぁぁぁ」「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」という、二つの悲鳴が聴こえてくる。


 …………うーん。何か、一名、何処かで聞いたことのある悲鳴が混じっていたけど、まぁ、良いかな。


 俺は小さく息を吐き、皆に視線を向ける。


「みなさん。ここから先は戦力を分散させましょう。四階組は、マイス先輩とオリヴィア。六階組は、グレイとジェシカさん。私は、ロザレナお嬢様とルナティエお嬢様を捜索してまいります」


「承知しました、師匠(せんせい)


「ちょ、ちょっと待ってよ! 何でアネット一人でロザレナたちの捜索に行くの!? 戦力を分散させるのなら、グレイレウス先輩一人の方が良いんじゃないの!? この人、一応級長なんだし!!」


「私も……アネットちゃんが一人になるのは心配です」


 ジェシカとオリヴィアが、俺が一人で動くことに即座に反対してくる。


 マイスとグレイレウスは俺の実力を知っているからか、特に反対の声は無かったが……ジェシカとオリヴィアは、俺に剣の腕があることは知らないからな。


 魔法一つ使える程度のメイドを放置するわけにはいかないと、心配してくれているのだろう。


「……おい、オリヴィア、アホ女。師匠(せんせい)は一人でもやっていける。無用な心配は止めるんだな」


「何言ってるの、グレイレウス先輩!! アネットはただのメイドなんだよ!? そりゃあ、頭も良さそうだし、みんなのリーダーシップを率先して取ってくれる子ではあるけれど……剣に関しては素人でしょ!? 私やオリヴィア先輩が一緒について行った方が絶対に良いって!!」


「フン、笑わせてくれる。師匠(せんせい)がどれほどの存在か理解していないというのは、滑稽なことこの上ないな」


「? いったい何を言って――――」


「コホン。分かりました。では、ジェシカさん、私と一緒について来てくださいますか? グレイは一人で音楽科の教室を調査してきてください」


「……了解しました」


 何処か不満げな様子のグレイレウス。


 俺は奴に小さくため息を溢した後、三階へと続く階段に一歩、足を掛けた。


「先ほど、上階からルナティエお嬢様の声が聴こえて来ました。私は、上階の教室を回ってみます」


「では、私とマイスくんは四階の魔道具(マジックアイテム)研究室に行ってみますね」


「オレは、六階の旧音楽科の教室に行ってみます。フフフ、待っていろ、魔物よ」


 こうして俺たち満月亭の仲間たちは、三つに分かれて学園の中を調査することになったのだった。


第164話を読んでくださって、ありがとうございました。

この章は年内に、あと3~4話ほどで終わらせられたら良いなと思っております。

すぐに本編第7章を開始したいと考えていますので、お付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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[一言] >ジェシカ「……アネットを褒めたのに、何でグレイレウス先輩が喜んでいるの? 意味分からないんだけど?」── ──それはね。信者は、信仰対象が持て囃されると自分事の様に嬉しくなるものなんだよ…
[一言] ぴぎゃー!来ましたね!!! なんだかんだのミレーナ好きです(#^^#) アネットにいつも付き従ってるので、グレイレウスが級長であることをよく忘れてしまいます(笑) いつか級長として活躍して…
[気になる点] ぴぎゃあっていう分かりやすい悲鳴(笑) 上のタイトルが第五章、下のタイトルが第六章になっています。下のが正しい?細かくてすみません
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