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第149話 元剣聖のメイドのおっさん、地雷を踏まれ、キレる。


「ヴィンセントよ。お主……あの魔法剣(・・・)を使う気はあるのかの?」


 ハインラインはオークを見据えながら、隣にいるヴィンセントへとそっと声を掛ける。


 その声にヴィンセントは兜の中で小さく息を吐くと、静かに答えた。


「剣聖殿にも話したが、俺の【氷絶剣】は広範囲に攻撃が展開してしまうものなのですよ。仲間にも危害が及ぶ可能性がある……故に、この場において使用するのは悪手かと思われますぞ、ハインライン殿」


「範囲内にいる全ての者を凍てつかせる氷の領域結界、特二級魔法【アブソリュートゼロ】……その力があれば、奴の足止め程度は叶いそうだと思われるが?」


「いや、どうでしょうな。見たところあの化け物に通用するとは思えないのが本音です。逆に味方の足を凍らせてしまい、味方を窮地に陥れてしまうことになると予想します」


「……まさに、万事休すといった状況か。見たところ、ジェネディクトの奴も相当な深手を負っていると思われる。アーノイック亡き今、王国最強格と名高い男があのザマか……実に、弱ったのぅ」


 長い髭を撫で、ハインラインは疲れたような笑みを浮かべる。


 左腕を失ったハインライン、肩を喰われ負傷したリトリシア、左腕を深く損傷したジェネディクト。


 怪我をした仲間が周囲に多く居る状況で、奥の手を使用することのできないヴィンセント。


 状況はまさに、最悪と言っても良い状態だった。


「――――かかってこないのならば……こちらから行くぞ?」


 オークは【瞬閃脚】を使用すると、一気にヴィンセントへと間合いを詰める。


 速剣型ではない彼はその速度に追いつくことが出来ずに、対応が一歩遅れてしまった。


「【雷鳴斬り】」


 青白い電気の軌跡を描きながら、肩口に向かって剣が振るわれる。


 ヴィンセントはその攻撃を、寸前で前に出した剣で受けることで防ぎきるが―――衝撃に耐え切れず、そのまま後方へと吹き飛ばされてしまった。


 多くの木々なぎ倒しながら、ドォォォンと、土煙を上げながら森の奥へと転がって行くヴィンセント。


 その光景を見たハインラインは目を見開き、叫び声を上げた。


「バルトシュタインの小僧!?  チィッ!!」


 ハインラインは目の前にいるオークへと鋭い目を向ける。


 そして跳躍すると、上段に剣を構え、オークの脳天へと振り降ろした。


 だが、オークはその振り降ろされた剣を冷静に見つめ、静かに口を開くのだった。


「せっかく逃走の猶予を与えてやったというのに、まさか、何の策も弄せずに我に向かってくるとはな。そんなに死にたいのか? 老剣士」


 オークは横一閃に剣を振り払う。するとハインラインの剣はバキッと、簡単に折られてしまう。


 ――――その直後。ハインラインの胸が横一線に斬り開かれ、宙に鮮血が舞った。


 自身の身体が斬られたその光景に、ハインラインは瞠目して驚く。


 そして彼はそのまま地面にドサリと、力無く倒れ伏してしまうのであった。


「ハインライン殿!? 貴様ッ!!!!!」


 リトリシアは痛む身体を無理矢理起こして起き上がると、鞘に入ったままの青狼刀を振り上げ、オークへと襲い掛かった。


 だが、その攻撃を、オークは身体を逸らすことで難なく回避する。


 その後、オークは空に剣を振り降ろしたままのリトリシアの髪を掴み上げると、そのまま彼女を地面へと叩きつけた。


 そして、肩口にある傷口をグリグリと踏みつけ、不気味な嗤い声を上げる。


「フハハハハハハハハハハハ!! まるで相手にならぬな!! 貴様らの力を全て手に入れた我は、最早、世界最強の生物へと進化を遂げたと言っても良い存在だろう!! 何人たりとも我を止めることはできぬ!!」


「ぐっ、う゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」


 傷口を踏みつけられ、叫び声を上げるリトリシア。そんな彼女に邪悪な笑みを浮かべるオーク。


 そしてオークはリトリシアをジェネディクトの傍へと蹴り上げると、ジェネディクトにクイクイッと挑発するように手を招いた。


 そんなオークにチッと舌打ちして、ジェネディクトは右手にある双剣の一対を構える。


 オークの実力と王国の剣士たちの実力は、既に大きく乖離している。


 この化け物を倒せる策も、奥の手も、彼らには何も残されてはいない。


 だが―――。


「このワシを、舐めるんじゃねぇぇぇぇぇ――――!!」


 ハインラインは起き上がると、折れた剣を放り投げ、背中からオークへと襲い掛かる。


 そしてオークの首へと右腕を回し、ヘッドロックすると、両足でオークの腕を押さえつけた。


 その後、彼は血だらけの顔で、咆哮を上げる。


「これでお主の身体は押さえたぞ!! もう、離しはしない!!」


「!? 貴様ーーー!!!!」


 オークは激しく背中を揺らし、ハインラインを振り降ろそうとする。


 だがハインラインは腕を外すことはしない。ググッと、首の骨を折るつもりで力を込めて行った。


「ふざけた真似を!! 我の首と腕を押さえられたところで、足は動いている!! 貴様をこのまま大木へと叩き潰してやれば良いだけのことだ!!」


「残念ながら、その願いは叶わぬであろうな。――――氷雪の精霊よ、汝の力で愚者の運命を閉ざし給え……【フリーズドライ】」


 ヴィンセントは片膝を付き、地面へと手を当てる。


 すると、その瞬間。手から放たれた一直線に伸びた氷が、オークの足元へと向かって行った。


 オークの足元へと氷が到着すると、パキッと、オークの足が凍り付き始める。


 その光景を見つめ、動揺した様子を見せるオーク。


 そんなオークの様子にハインラインは「ヒャハハハ」と笑い声を上げ、大きく口を開いた。


「やるじゃねぇか、バルトシュタインの小僧!! あとは……ジェネディクト、リトリシア!! ワシごとこいつを粉々に斬り刻め!! 斬り刻んだ後、こいつの手にある【蒼焔剣】を使って、二度と復活できねぇように燃やし尽くしてやるんじゃ!! 良いな!!」


「そ、そんな……無理ですよ!! わ、私が、ハインライン殿ごとオークを殺すだなんて……そ、それじゃあ、まるっきり、あの時のお父さんと同じ――――」


「早くしろ!! このワシの覚悟を無駄にしてぇってのか!!」


「私は……私、は……っっ!!!!」


「良いわ。私がやる」


 ジェネディクトはリトリシアの前に立つと、右手で双剣の一対を構え、ふぅと深く息を吐く。


 そして彼は地面を蹴り上げると、ニヤリと、笑みを浮かべた。


「ハインライン。貴方を殺すことに、私は何の躊躇もない。安心してそいつと共に死になさい」


「まさか、お前に感謝する日が来るとはのぅ。カカッ、人生、何が起こるか分からないものだわい」


「や、やめてください、ジェネディクト・バルトシュタ――――」


「【雷鳴斬り】」


 リトリシアの制止の声を無視し、ジェネディクトは雷の纏った剣をオークへと向けて放つ。


 剣神ハインライン・ロックベルトが命を賭して作った好機。


 人類にとって、この好機を逃す以外に、この怪物を倒す道はない。


 この場にいる皆は一様にそう考えていた。


 しかし―――――彼らにはひとつ、誤算があった。


 それは、目の前にいる化け物は、ここにいる全員が想像しているよりも――――邪悪で、凶悪だったということだ。


「こ、このままでは、この我が!! この我が……!!」


「アハハハハハハハハハ!! 潔く死に果てなさい、猪頭!!!!」


「……なんてな」


 オークは向かって来たジェネディクトに笑みを浮かべると、その身に、闇のオーラを展開する。


 ……その瞬間。ハインラインは苦悶の表情を浮かべながら、オークの背中から地面へと落ちて行った。


 闇のオーラに触れた瞬間、オークの足元にある氷は一瞬にして消え去っていく。


 その光景を見つめ、ジェネディクトは思わず歩み止め、呆然とその場に立ち尽くしてしまった。


「なっ……い、今のは……まさか、闇属性魔法……ッッ!?」


「ほう。これは闇属性魔法というのか。先ほど貴様の腕を喰らった時に、新たな力の予感を感じていてな。どうやらこれは……想像していたよりも、使い勝手が良い魔法と見える」


 オークは自身の手のひらに視線を向け、身に宿る漆黒のオーラにフフフと笑い声を溢す。


 そんな怪物の姿に、ジェネディクトはギリッと歯を噛み締めた。


「魔力や闘気を還元消滅させる、生命の力を奪う闇魔法……まったく、厄介な力を目覚めさせていたものねぇっっ!! そういえば、何十年か前に王都に現れた災厄級【黒炎龍】も同じような力を持っていたと聞いているわ。人間の世界ではレアな因子である闇属性を、災厄級は素質として最初から持っている……というわけなのかしら!?」


「ふむ……どうやらこの魔法、色々と試すことができそうだ」


 そう口にすると、オークは手のひらの上にバチバチッと青白い雷を発現させる。


 その魔法は、ジェネディクトのが使用する特二級魔法【ライトニング・アロー】の前段階のものだった。


 だが……突如、その雷は黒く変色していく。


 オークはその光景に笑みを浮かべると、ジェネディクトに目掛け、手の平を向けた。


「喰らい尽くせ――――【黒雷】」


 手に平の先に漆黒の雷の蛇が浮かび上がると、黒い軌跡を描きながら……ジェネディクトへ向かって射出される。


 ……その瞬間。爆発音が鳴り響き、周囲一帯の全てが、暗黒へと飲み込まれていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なっ……何だ、今の爆発音と地響きは!? ぐっ!!」


 アレフレッドは、前方から吹いて来る突風に目を細め、ゴクリと唾を飲み込む。


 大地を揺るがすような、とてつもない力の波動。


 明らかに、この先に尋常ではない存在がいるのは明らかだった。


 アレフレッドは森の先をジッと見つめ、肩を小刻みに震わせる。


 彼は、怖くて怖くて仕方がなかった。この先にいるであろう、超常の化け物の存在が。


「くそっ、足の震えが止まらない……!! 止まれ、止まれ……っ!!!!」


 ガシガシッと右腕で膝を叩くアレフレッド。そんな彼に、幼い少年は怯えた様子で口を開いた。


「お、お兄ちゃん、大丈夫……?」


 アレフレッドの横にいる、不安げな表情で彼を見つめる兄妹たちの姿。


 彼らの姿を瞳に捉えたアレフレッドはハッとし、すぐにニコリと、ぎこちない笑みを浮かべる。


「だ、大丈夫だ、子供たちよ! 何と言ってもここには俺がいるのだからな!! 俺は【剣王】アレフレッド・ロックベルトだ!! どんな者であろうとも倒してみせるぞ!! 努力は必ず勝つのだ!!」


「努力は必ず勝つ?」


「そうだ。これは、祖父の受け入りでな。気合と努力さえあれば、何とだってできる。怖いものなど、何もないのだ」


 そう言ってアレフレッドは歩みを再開させる。


 そして、道の先を睨み付け、小さく言葉を呟いた。


「大丈夫だ。お前たちは何があっても、俺が助けて見せる。だ、だから、あ、安心しろ! 例え災厄級と出くわしても、俺が囮になってお前らを逃がしてやる!! 大船に乗ったつもりでいるが良い!! ふは、ふははははっ!!!!」


 どうみても声が上ずっている様子のアレフレッド。そんな彼に兄妹たちは顔を見合わせクスリと笑みを溢す。


 そして三人はそのまま、森の中を進んで行くのであった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……終わりだな」


 オークはジェネディクトの頭を掴み、宙へと浮かせる。


 ジェネディクトは全身、血だらけになっていた。


 だが、満身創痍なのは、彼だけではなかった。


 ハインラインは闇魔法に触れた影響で闘気と魔力を失っており、地面に倒れ伏して気絶している。


 ヴィンセントは雷属性魔法の爆風によって吹き飛ばされ、砕けた岩の上に横たわって気絶している。

 

 リトリシアは意識はあるが、肩の傷を押さえながら呼吸を乱し、地面に座り込んでいる。


 状況は、先ほどよりもさらに悪化していた。


 最早誰が見ても、勝者は明らかな光景となっていることだろう。


「ハハハハハハハハハ!! こうして闇魔法を身に纏い、貴様の首を掴んでいるだけで、貴様の残り少ない魔力と闘気が我の身体に入って来ているのが分かるぞ!! 闇魔法というのは、触れた者の力を奪うことができるのか!! 本当に便利なものだな!!!! この力があれば、一生、体力に限界がくることはない!!!! 人間がいる限り、我はいつでも力を供給することができるようだぞ!!!! フハハハハハハハハハ!!!!!」


「ぐっ!」


 ジェネディクトは剣を持ち、オークの腕を切断しようと振り上げる。


 だが、その剣はオークの腕に刺さることもなく、ガギンと、石にでも当たったのかのように弾き飛ばされてしまった。


 その光景に瞠目して驚くジェネディクト。オークはそんな彼を見てククッと笑い声を上げた。


「老剣士と貴様の闘気を吸収させてもらった結果、闘気の質が以前よりも段違いに上がってしまってな。貴様らの闘気をこの身に纏えば、我が身体に刃が通ることはもう無いと断言できる。我は、無敵の防御力も手に入れることができた! そして―――」


 オークは口を大きく開けると、ジェネディクトの首元へと噛みつく。


 そして肉を噛み契り、咀嚼すると、オークは口元を血に濡らしながら大声で笑い声を上げた。


「人類最強の剣士たる貴様を喰らえば、我はさらに強くなることができるのだ!!!! フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」


 オークの身に纏う闘気がさらに膨れ上がり、筋肉がボンと膨れ上がる。


 その光景に、リトリシアはギリッと歯を噛み締めた。


「もう……もう、駄目なのでしょうか? あの魔物を倒せる手段は、もう、どこにも――――」


「―――――【裂波斬】!」


 その時。小さな斬撃が飛び、オークの頭部へと着弾する。


 その攻撃は、【烈風裂波斬】の下位の剣技、低級の斬撃だった。


 オークは不快気に眉をひそめると、ジェネディクトを放り投げ、攻撃が飛んできた方向へと視線を向ける。


 そこにいるのは、ロングソードを構えた、オレンジ色の髪の青年だった。


 彼の後ろには、不安げな表情の兄妹の二人の姿がある。


 青年―――アレフレッドは大きく口を開き、跳躍した。


「マルク、ローザ、お前らは早く逃げろ!! お、俺は、ここでこいつを足止めしてみせる!!!!」


「お兄ちゃん!!」


「……何だ、貴様は。この場に相応しくない雑兵、脆弱な剣士だ」


 オークに目掛け、上段に構えた剣を振り降ろす青年。


 オークはその攻撃を避けることもなく。振り降ろされた剣に向かって、デコピンを放った。


「ぐっ!? ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!?!?」


 単なるデコピンの威力に、吹き飛ばされるアレフレッド。


 彼は立ち竦む兄妹たちの元を通り過ぎ、背後の森の中にある大木へと叩きつけられていった。


 ドシーンと音が鳴ったと同時に、大木が横になぎ倒される。


 その光景を見て、兄妹たちは同時に叫び声を上げた。


「「アレフレッドお兄ちゃん!?」」


「……興ざめだ。よくもせっかくの楽しい宴の終演に水を差してくれたな、愚物よ」


 オークは歩みを進める。


 そして兄妹たちの目の前に立つと、彼らを紅い瞳で見下ろした。


 その光景に、兄妹たちは尻もちを付き、ガタガタと肩を振るわせ始める。


 だが――――――。


「そいつらには、指一本、触れさせはせんぞ!!!!」


 アレフレッドは起き上がると、【縮地】を使用し、兄妹たちを庇うようにして前に立つ。


 そして剣を構え、額から大量の血を流しながら、大きく声を張り上げた。


「俺は、アレフレッド・ロックベルト!! 偉大なる祖父ハインライン・ロックベルトの血を継ぐ者として、貴様には絶対にやられはしないぞ!! 気合と努力、それさえあれば、怖いものなど何もない!!!!」


 ガクガクと足を震わせ、涙で顔をグチャグチャにするアレフレッド。


 そんな彼を見つめて、オークは静かに口を開く。


「どう見ても、お前は、我を怖がっているように見えるが? お前はここにいる剣士たちとは違い、脆弱だ。我に勝てる道理はどこにもない。どうして我に立ち向かってきた? 死にたがりか?」


「正義は、けっして、悪から逃げたりはしないからだ!!」


「……は? 正義だと?」


「俺は、正義のヒーローを目指している!! そりゃ、怖いさ!! お前みたいな化け物、俺じゃ逆立ちしたって勝てないのは分かっている!! だが――――幼い兄妹たちを逃がすためならば、この命、投げ打っても構いはしない!! お前のような化け物なら、恐らくは、俺たちの存在にも最初から気が付いていたのだろう!! ならば、剣聖、剣神たちを倒せば、次はどこにいようとも俺たちを襲うにきまっている!! この現場から離れて逃げたところで、特に意味はないことだろう!!」


「ククク……その通りだ。我は、この近辺にいる貴様らの存在に気が付いていた。お前たちがどこに逃げようが、追いかけ、我はその肉を喰らう。正解だ。褒めてやろう。しかし―――」


 オークに顔面を殴られ、膝を付くアレフレッド。


 そんな彼をオークは見下ろすと、ギラリと、瞳を赤く輝かせた。


「……絶対に逃げたりしない、だと? クククッ……本当か? 我がお前を痛め続けても、逃げたりはしないと言うのか?」


「当たりま―――――ぐぎゃっ!?」


 起き上がろうとしたところを、再び殴られ、膝を付くアレフレッド。


 オークは再度、口を開く。


「恐怖しろ。命乞いをしろ。我は、この世界で最強の生物だ。貴様の命など、我の匙加減によってはどうとでも終わらせることができる。ここで死なない程度に極限の痛みを与えて、貴様を殺すことだってできるのだぞ? 我と貴様とでは、生物としての格が異なる。お前は我にとって、蟻以下でしかない」


「……はぁはぁ……断る!! 俺は、逃げな――――ぎゃああああああ!!!!!」


 腕を捕まれ、握力で骨を折られるアレフレッド。

 

 だが彼の闘志は消えない。アレフレッドは歯を噛み締めると、背後へと視線を向け、叫び声を上げた。


「何をしている、マルク、ローザ!! 逃げろ!! ここから早く、逃げるんだぁぁぁぁ!!!!!」


「む、無理だよ、アレフレッドお兄ちゃん!! だって、お兄ちゃん、言ってくれたよね!? 僕たちの新しい家族になってくれるって……僕たちのお兄ちゃんになってくれるって!!!!」


「そうだよ、お兄ちゃん!! ここでお兄ちゃんを置いていけるわけ――――」


「さて。どれだけ痛めつければその心が折れるのか。少し、貴様に興味が沸いてきたぞ」


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」


「「お兄ちゃん!!!!!!」」


 オークによる、拷問劇が始まったのだった。






「――――――ほう? 随分と耐えたものだな。まだ立てるとは……驚きだ」


 一時間後。アレフレッドは兄妹たちを庇いながら、血だらけになりながらも立ち続けていた。


 その顔は腫れあがり、以前の顔の原型を留めていなかった。


 両の腕の骨は折られ、ダランと、だらしなく垂れている。


 だが、彼は……立ち続けていた。背後にいる、幼い弟と妹を守るために。


「お兄ちゃん……もういやだよぉう、お兄ちゃん……っ!!!」


 泣きじゃくる兄妹たち。その姿を見つめたオークはニヤリと、不気味な笑みを浮かべる。


「ククク……あの黒髪の剣士の肉を多く摂取したせいだからだろうか。以前に比べて我は、どうやら弱者をいたぶることに快感を覚えるようになったみたいだ。自称正義の味方よ、貴様の前でこの幼子らを嬲ったら……さぞ、面白い光景が見れそうだなぁ。クククク……」


「や、やめ゛ろ……」


「さて、お前のその心、どこまで折れないか見ものだな」


 震える兄妹たちに向けて、オークの手が伸びる。


 ……その時。最後の力を振り絞り、リトリシアは鞘に入った青狼刀を構え、オークの背中へと不意打ちをかました。


「や、やめなさい!!!!!」

 

 だがその不意打ちは呆気なく避けられ、リトリシアは頭を掴まれる。


 そしてそのまま――――彼女はアレフレッドたちの向こう側、前方へと投げ飛ばされて行った。


「貴様を喰ってやるのは後だ、森妖精族(エルフ)。最早お前など、我はいつでも殺せるのだぞ?」


「ぐはっ!」


 リトリシアは大木に叩きつけられ、地面に横たわる。


 その反動で彼女の手にあった青狼刀は、カラカラと音を立てて地面を転がっていった。


「……うぅ……お父さん……嫌だ……助けてよぉ……」


 肩から大量の血を流し、倒れ伏すリトリシア。


 彼女は悲痛気に眉を八の字にさせ、うつろな瞳で、ボロボロと涙を溢した。


「お父さん……」


 リトリシアは、森の奥へと転がっていく青狼刀へ、震える手を伸ばす。


 その視界は涙で歪み、殆ど何も見えていなかった。


「お父さん……お父さん……」


 地面を転がっていった青狼刀は……ある少女の足元で止まった。


 その少女は地面に落ちた刀を一瞥すると、小さく口を開く。

 


「……何でしょうね、この状況は」



 ――――――オークはその声に、一瞬、硬直する。


 彼はリトリシアを投げ飛ばした、前方の森の中へと視線を向けた。


 そこには、箒を手に持った、メイド服を着た少女の姿があった。


 少女は足元に落ちている刀を手に取ると、鞘を掴み、鞘から刀身を少し抜いて見せた。


 その青黒い靄のかかる刀身を静かに見つめた後、刀を鞘に戻し、少女は静かにリトリシアの元へと歩いていく。


「なっ……誰、です、か……?」


 意識が朦朧としている横たわるリトリシアの横に立つと、少女は手に持っている青狼刀を、彼女の手のひらの上にそっと乗せ、握らせた。


 そして、静かに声を掛けた。


「これは、お前にやった刀だ。だからもう手放すな。ちゃんと大事に持っていろ」


「誰……目がかすんで見えない……お父……さん……?」


 少女はリトリシアのその言葉に何も返さず。箒を手に持ちながら、そのまま歩みを進めて行く。


 そして、今度は兄妹たちの元へ辿り着くと、二人のその頭を優しく交互に撫でた。


「よく、無事でいてくれましたね」


「お、お姉ちゃん!? 今まで、どこに―――!?」


「ちょっと野暮用で。でも、もう、大丈夫ですよ」


 少女は兄妹たちを安心させるようにそう声を放つと、次に、前に立つアレフレッドの肩にポンと優しく手を乗せる。


「よく頑張った。お前の勇気、根性、正義の心、全てを賞賛する。ムッツリスケベだとか心の中で言って悪かったな。幼子たちを守ったお前は、本当の戦士だった」


「……そ゛、そ゛の声は……ボ、ボイン、ちゃん……? で、でも゛、口調が……目が、よく、見えなくて……」


「後は任せろ。ゆっくり休め」


 少女がそう声を掛けた、次の瞬間。ドサリと、アレフレッドの身体が背後へと倒れていく。


 そんな彼を泣きながら抱きとめる兄妹たち。


 少女はその光景にフッと笑みを溢すと、前方へと身体を向け、オークを見据えた。


「よう。初対面だが……俺は、お前には結構腹が立っているんだ。ガキから親を奪って孤児にした点といい、俺の愛娘をあんなボロボロにした点といい……ったく……俺の地雷をこうも踏み抜きやがって。ふざけんじゃねぇぞ、猪野郎」


「? 何だ? 貴様は?」


「アネット・イークウェス。メイドだ」


「メイド? やれやれ……先ほどから場違いな連中が現れ、我の宴を悉く邪魔してくるな。貴様のような矮小な人間の雌が、我に対等な口を利くんじゃない。我は生物界最強の生物である【暴食の王】だ。お前のような迷い子など、指先一つで消し飛ばしてみせ――――」


「フッ、アハハハハハハハハハ!! これで終わりねぇ、猪ちゃん! 貴方、そんなガキで遊んでいないで、すぐに私たちを食べていれば良かったのに……!! そうすれば、まだ――――いいえ、例え私たちを食べていたところで、結果は変わらないかしら。まったく、登場が遅すぎるのよ、メイド剣士ちゃん」


「うるせぇ、カマ野郎。てめぇ、ボロボロにやられてんじゃねぇよ。情けねぇ」


 そう、奥で倒れ伏すジェネディクトに言葉を投げる少女――――アネット。


 そんなアネットの様子にため息を吐き、オークは剣を振り上げる。


「どうでも良い。もう、お遊びは終わりだ。この場にいる全員、すぐに我の胃袋の中に――――」


 その瞬間。オークの身体が宙を舞い――――吹き飛ぶ。


 そして、ドゴォォォォォォォォォンという爆音が聴こえた後。


 森に巨大な穴が空き、下半身だけを残して、オークの上半身が消し飛んでいたのであった。

第149話を読んでくださって、ありがとうございました……!

昨日は投稿が遅れてしまい、申し訳ございませんでした!

さて、みなさま。剣聖メイド1巻、絶賛発売中でございます!!

各書店にて1巻が発売中ですので、続巻のためにも、ご購入の程、よろしくお願いいたします!


今回、文字量多すぎてすいません~。

2話に分けようかとも思ったのですが、やっぱり、アネット登場のラストにしたかったので1話にしました!

次回もまた読んでくださると嬉しいです!

もうすぐ新章も始まる予定ですので……! 楽しみにしていただけると幸いです!


前回のご感想、明日ご返信します!

ちょっと疲れているので、今から寝ます! すいません!

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― 新着の感想 ―
[一言] さぁ、やらかした分の数万分の一の代償をしっぺ返しに会う時間の始まりだ
[良い点] ついにきた! 残り数話とはいえ楽しみです!
[良い点] うおお~ー!やっと来た! ブチキレのアネット ジェネディクト強い、未だ気絶してない 今のリティを見てるとめちゃくちゃ心が痛い
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