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第148話 元剣聖のメイドのおっさん、一度帰還する。


 地面の上には、オークの腕や足、頭部が、何十個も転がっていた。


 その異様な光景の中、ジェネディクトは息を乱しながら双剣を構え、オークを見据える。


「はぁはぁ……いくら斬ってもすぐに再生してしまうなんて……ずるいにも程があるわねぇ!!」


「……ククッ。一体これで我は何度、死んだのであろうな」


 オークは首元から斬られた頭部を即座に生やし、再生すると、コキコキと首を鳴らした。


 そして、ジェネディクトへと不敵な笑みを浮かべる。


「速いな。貴様は我が今まで相対してきた剣士の中で一番動きが速い。察するに、貴様は速さだけを追求してきた剣士の極致、といった存在だろうか?」


「クスクス……そうねぇ。私は肉体強化魔法(バフ)を使用し、動体視力と反射神経を極限まで引き上げている。そして雷属性の魔法石で造られたこの三日月剣(シミター)を併用して、雷を身に纏い、人知を超えた速さで剣を振ることができるのよぉ。王国最強の魔法剣士なんて言われているけれど、私の本質は速剣型なの。王国最強の速剣型は、そこにいる金髪の森妖精族(エルフ)なんかじゃ断じてないわぁ。この私よ」


「なるほど。速さに命を掛けている、というわけか。クククッ……だが、そこの森妖精族(エルフ)と戦ったときも思ったが、速剣型に分類される剣士というのはどうにも、剣の一振りに威力が伴っていないように思える。筋力がないからこそ速さを追求した、手数で押し切るだけの剣……再生の加護を持っている我には、最も相手にしやすいタイプだといえるだろうな」


「……そうねぇ。速剣型は、筋肉馬鹿が多い剛剣型とは違い、攻撃力に特化していない剣士が多いもの。貴方のその推察は当たっているわ、正解よ。私たち速剣型は、防衛力の高い相手は特に苦手とする。貴方のように数十秒で腕を再生するような化け物とは、最も相性が悪い関係にあると言えるわねぇ」


「さて、ではどうするのだ? この我を一気に消滅させることができる、何か策でもあるというのかな?」


 そう口にして手を広げるオーク。


 ジェネディクトは何やら思案気な表情を浮かべた後、微笑を浮かべた。


「貴方を一瞬で焼き焦がす方法は、無くはないのだけれど……その魔法を使用すれば、私の魔力は一瞬にして枯渇する。避けられればそこで終わり。今、賭け事に興じる気はないの。泥臭く、貴方を剣で叩き伏せることにするわ」


 そう言葉を放つと、ジェネディクトは右手に持っていた双剣は空中へと放り投げ、再びキャッチする。


 そして、腰を低くすると、剣を眼前で構え、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「さて。そろそろ全力を出させてもらうとするわ。ついて来られるかしら? この速さに」


 地面を蹴り上げる。青白い電撃が軌跡を描きながら、ジェネディクトはオークへと一気に間合いを詰めた。


 オークは手に持っていた剣を横薙ぎに振るう。だが、ジェネディクトは屈むことで回避することに成功。


 即座にオークはジェネディクトの頭部へ向けて剣を構え、振り降ろす。


 しかしそれも、ジェネディクトは【瞬閃脚】を使用して姿をかき消し、回避してみせた。


 そしてジェネディクトはオークの背後へと現れると、彼の頭に目掛け剣を振るう。


 オークは振り返り、剣を横にして寸前で受け止め、弾き飛ばす。


 ジェネディクトはその光景に対して特に反応を示すことも無く。


 バチッという音と共に青白い電撃をその場に残し、再び姿をかき消した。


 瞬時に姿を現わしては、縦に伸びた電気を残し、一瞬にして消え去る最速の剣士。


 周囲に幻影のような影が舞って行く姿にオークは目を伏せると、剣を鞘に納め、静かに立ち尽くした。


「……」


 そして、次の瞬間。目を開けると、オークはある箇所に向かって抜刀剣を抜き放った。


「【閃光剣】」


 キィィンという音が鳴り響き、オークの剣が双剣と交差する。


 ジェネディクトとオークは交差した剣の間で数秒見つめ合うと、即座に後方へと飛び退き、剣を構える。


 オークはヒュンヒュンと剣を左右に振り、目にもとまらぬ速度でジェネディクトへと斬撃を放って行った。


「【烈風裂波斬】」


 ジェネディクトはオークへと突進すると、青白い電気の軌跡を描きながら、その斬撃の全てを躱してみせる。


 そして―――剣を逆手に持ち、笑みを浮かべた。


「【雷鳴斬り】」


 青白い電撃を纏った一閃。剣を横薙ぎに振り払い、オークの左腕を弾き飛ばすジェネディクト。


 だがオークは宙を舞う自分の腕を蹴り上げ、そのままジェネディクトの顔面へと投げ放つ。


 その腕を剣で斬り裂き、ジェネディクトはオークへと突進していく。


 再び双剣と剣が交差し、ドォォォンと、辺りに衝撃波が轟いて行く。


 圧倒的な闘気を持つ者同士の戦い。それを後方で見つめていたリトリシアは、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「これが……王国最強の魔法剣士との呼び名がある【迅雷剣】の実力、ですか……悔しいですが、流石は父の不俱戴天の敵だっただけはあります。ですが……」


 リトリシアは理解していた。この勝負、もう既に決着が付きつつあるということを。


「ゼェゼェ……まったく、タフな奴ねぇ、貴方」


 ジェネディクトの額には、玉のような汗が浮かんでいる。


 彼は肉体強化魔法(バフ)を常時発動させながら剣を振っている。


 つまり、彼の魔力は常時減っているということだ。


 【迅雷剣】の弱点。それは、長時間での戦い。魔力切れ。一瞬にして決着が付かない戦闘であった。


 そのことを、リトリシアはこの戦いを見て、既に理解していたのだった――――――。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さぁ、行きましょう! メイドボインちゃん、子供たちよ! しっかり俺についてきてください!」


 先行して歩いて行くアレフレッド。俺は深くため息を吐きつつ、兄妹と共に彼の後ろをついていった。


 まったく……かよわい少女に間違えられるのは、実力を隠す俺にとっては好都合なことが多いのだが……逆にマイナスに働くこともあるのだな。


 今は急いでいる時だってのに、糞。彼が悪意ではなく善意から行動していることなのが、なかなかに厄介なところだ。


 仕方ない。ちょっと気には病むが……途中でフェードアウトして消えることにしよう。そうしよう。


「お姉ちゃん、ありがとう! お兄ちゃんと再会することできたよ!」


 隣からそう笑みを浮かべ、声を掛けてくる少女。俺はそんな彼女にニコリと微笑を浮かべる。


「私は何もしてはいませんが……無事に合流できて良かったですね」


「うん! あとは、村を襲ったあのばけものが倒れると良いんだけど……あのばけもの、お母さんやお父さん、村のみんなを食べたから……ぐっす、ひっぐ」


 隣で歩く泣き始めた妹の頭を撫でながら、少女の兄は、必死に涙をこらえる。


「泣くなよ、ローザ。お母さんやお父さん、村のみんなが僕たちを逃がしてくれたんじゃないか。その恩に報いるためにも、僕たちは生きなきゃならないんだよ。だから……泣くな」


「うぅぅぅ、うぇぇぇぇぇぇん!!!!」


 ついには足を止めて大声で泣きじゃくり、瞳からボロボロと涙を溢し始めるローザと呼ばれた少女。


 それにつられて、少年も泣き始めてしまった。


「な、泣くなってぇ……言ってるだろぉっ!! うぅぅぅっ……うわぁぁぁぁん!!! 父さん、母さぁぁん!!!!」


 大声で泣き喚く兄妹二人。そんな彼らの姿に、俺は思わず眉間に皺を寄せてしまう。


 まさか、平和になった現代でも、親を失った子供たちを目にすることになるとはな……。


 泣きじゃくる二人を見て、一瞬、脳裏に幼い時のリトリシアの姿が蘇る。


 孤児となった兄妹たちの姿に悲痛気に奥歯を嚙みしめていると、アレフレッドが背後を振り返った。


 そして彼は兄妹二人の前でしゃがみ込むと、腕を伸ばし――――二人をギュッと、優しく抱きしめたのだった。


「大丈夫だ、お前たち!! 俺の祖父は王国最強の剣士なのだ!! 一度奴にやられたところで、問題は何もない!! ロックベルト家は、気合いと根性で全てを乗り越える家系だ!! 必ずお前たちの両親の仇は討たれることになる!! だから、泣くな!!」


「うぅぅぅぅぅ!!」「う゛えぇぇぇぇぇん!!!!」


「ぐすっ、行く場所が無いのなら、俺の家に来るが良いっ!!!! ロックベルト道場は、どんな者だろうとも歓迎するぞ!! これからお前らを、俺の弟と妹にして可愛がってやる!! だから泣くなぁぁぁ!! 俺も涙が止まらなくなるぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!! ぬ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 兄妹と共に号泣し始めるアレフレッド。俺はそんな彼を見つめクスリと笑みを浮かべる。


 こいつは本当にそっくりだな。若い頃の、あの野郎に。


 将来、良い剣士になりそうだ。年頃も近いし、グレイレウスの良きライバルになってくれそうな奴だと思える。


「ずびっ、あっ、す、すまない、少年! 君の服に俺の鼻水がついてしまったようだ!」


「え? うわぁぁっ!! 汚い!! 汚いよ、お兄ちゃん!!」


 少年に何やら怒られているアレフレッド。俺はそんな彼へと、問いを投げた。


「あの、アレフレッドさん。ひとつ、聞いても良いですか?」


「はっ! こ、これは、メイドボインちゃんにみっともないところを見られてしまった……!! 何でしょうか!!」


 起き上がり、直立不動するアレフレッド。俺は続けて口を開く。


「さっき、大森林に災厄級の魔物が出た、と、そう言っていましたよね? その後、祖父がやられたとも……。ローザちゃんは、村にやってきた魔物が真っ黒(・・・)だと、そうも言っていました。あの、災厄級の魔物というのは、ゴブリンの王……なのではないのですか?」


「ゴブリンの王……? いったい何を言っておられるのですか? 災厄級の魔物は、オークですよ?」


 俺はその言葉を聞いて、自分が今まで致命的な思い違いをしていたことに気付く。


 そして、それと同時に、エステルたちを置いて来てしまったことに焦燥感が募った。


「――――ッ!!」


 背後を振り返り、森の奥に引き返そうかと足を一歩踏み出すが―――別れ際にエステルに言われた言葉が脳内に蘇り、俺のその行動を止めて来た。


『アネットさん。心配してくれるのは嬉しいよ。だけど、今は取捨選択が重要な時だということを理解して欲しい。誰を一番に救いたいか、よく考えるんだ。君がいくら強くても、君の手のひらで救える人の数は限られているのだからね』


 俺が今、やるべきこと。それは、お嬢様にラパナ草をお届けすること。


 今、エステルたちを助けにいくことはできない。それは、送り出してくれたエステルの意志に反することになるからだ。


「―――さて、大森林を出るべく、急ぎましょう。マルク、ローザ、俺から離れないように気を付けるんだ。災厄級の出現で大多数の魔物が大森林の奥に逃げ込んだと言っても、ここが危険な場所なのには代わりないのだからな」


「はーい」「分かったよ、アレフレッド兄ちゃん」


 再び歩みを再開させ、前へと進んでいく三人。


 俺は、そんな彼らの姿を後ろから見つめた後、小さく謝罪の言葉を口にした。


「……ごめんなさい、アレフレッドさん」


 俺は彼らが気付かない内に地面を蹴り上げ、道の脇にある林の中へと入る。


 そして【瞬閃脚】を使用し、大森林を抜けるべく、高速で駆け抜けて行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……ククッ、察するに、肉体強化魔法の効果が切れたようだな。身体の動きが随分と鈍くなったぞ、黒髪の剣士よ」


 オークはそう言って剣を振り上げる。


 それを交差した双剣で受け止め、ジェネディクトはギリッと歯を噛んだ。


「まったく……本当に化け物ねぇ、貴方。その加護の力と良い、剣聖や剣神たちの剣技を扱えるところと良い、規格外の強さを持っているわ。剛剣型と速剣型、どちらも究めているだなんて、あの男以外にそんな化け物がいただなんてびっくりよ」


「あの男?」


「気にしなくて良いわ。もうこの世にはいない男だから。でも……ハインラインやあの子(・・・)も同じようなタイプだったかしら。案外、少なくないのかもしれないわ。二つの型を真に極めた剣士、というのも」


 そう口にすると、ジェネディクトはオークの剣を弾く。


 そして、跳躍すると、オークの首元目掛けて双剣を放っていった。


 だが――――オークはその剣を身体を軽く逸らすことで簡単に回避してみせた。


 そしてジェネディクトの腹に、強烈な膝蹴りを放つオーク。


 カハッと掠れた息を吐き出し、ジェネディクトは大きく目を見開く。


 そんな彼の腕を掴むと、オークは不気味な笑みを浮かべた。


「貰うぞ、貴様の力」


 口を大きく開け、オークはジェネディクトの左腕へとかぶりついた。


 ジェネディクトは肉を喰い千切られる痛みに苦悶の表情を浮かべるが、逆にオークの頭を右手でしっかりと腕へと押さえつける。


 そして、咆哮を上げ、オークの身体を持ち上げながら大木へと突進していった。


「私の腕にしっかりと喰らい付いていなさい、化け物!! アハッ、アハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 左腕に噛みついていたオークを、大木へと叩きつける。


 そして、何度も何度も左腕ごとオークを大木へと叩き付け、ジェネディクトは狂乱の声をあげた。


「腕に食らいついたのは逆に好都合よ!! このままお前の頭を昼夜問わずにカチ割り続けてやる!! 貴方の再生の力も、一生攻撃され続けたら流石に追いつくことはできないんじゃないかしら!? ハハハハハッ!!!!! 私は絶対に貴方を離しはしない!!」


「……こ……小賢しい!!!!」


 オークはジェネディクトの頭を掴むと、逆に彼を大木へと叩きつけた。


 そしてゼェゼェと息を吐きながら間合いを取ると、オークは目玉が飛び出た、グチャグチャになった顔面を即座に治癒していく。


 ジェネディクトも起き上がり、すぐにオークから間合いを取ると、額に青筋を立てながら口を開いた。


「貴方……よくもこの私の美しい顔を傷付けてくれたわね? 醜い顔面猪男風情が。ふざけるんじゃないわよ? ぶっ殺してやるわ!!」


「ぶっ殺す? この我をか? お前にもう後は残されていない。お前を喰らった時点で、我の勝利は確定している」


 そう口にして、オークは手のひらをジェネディクトへと向ける。


 その構えに、ジェネディクトは驚いたように目を見開いた。


「お前、まさか――――」


「射抜け、【ライトニング・アロー】」


 雷の槍が、青い軌跡を描きながら……ジェネディクトへ向かって射出される。


 特二級魔法、【ライトニング・アロー】。それは、ジェネディクトが持つ奥の手、最強の雷属性魔法だった。


 ジェネディクトは「チッ」と舌打ちすると、剣を腰の鞘へと仕舞い、後方へと視線を向ける。


 そして、地面に膝を付くリトリシアを庇うようにして抱くと、森の奥へと転がっていた。


 ――――その直後。雷が落ちたかのようなドォォォンという爆発音が鳴り響き、森の中に火の海が広がって行った。


 パチパチと倒木した木々が燃え盛る焦土と化した森の中。オークはしゃがみ込む二人に近付き、不気味な笑みを浮かべる。


「我が喰った左腕に、雷の魔法が触れたか。終わりだな。貴様はこれでもう、双剣を振ることはできなくなった」


「はぁはぁ……」


 肉を喰われ、骨が見えている左腕。その腕はさらに、焼け焦げたように全体が黒ずんでいた。


 ジェネディクトは自身の左腕を右手で押さえ、立ち上がると、リトリシアを庇うようにして前に立つ。


 その姿に、リトリシアは動揺の声を漏らした。


「な、何故、私を庇ったのですか!? ジェネディクト・バルトシュタイン!! 貴方は、誰かを助けるような人間ではないはずです!!!!」


「さぁて、ね。母に似た貴方をここで失うのが癇に障ったのかしら。ただの気まぐれよ。気にすることはないわ」


 ジェネディクトは右手で剣を引き抜くと、荒く息を吐きながら、オークへと剣を構える。


 そんな彼に対して、オークが嘲笑の声を上げた――――その時だった。


「喰らえ、化け物!!」「死ぬが良い!!」


 背後からハインラインとヴィンセントが現れ、オークの首目掛けて剣を振り上げる。


 だが、オークは瞬時に背後を振り返ると、剣を横薙ぎに振り払った。


「【旋風剣】」


 突風が巻き起こり、ヴィンセントとハインラインは風によって阻まれ、後方へと吹き飛ばされて行く。


 そしてオークは一度剣を鞘に納刀する。そして、空中を舞う彼らに向けて、抜刀剣を放った。


「【閃光剣】」


 横一閃に放たれた剣閃はヴィンセントの漆黒の鎧に大きな傷を付け、ハインラインの胸に切り傷を作った。


 その光景に、リトリシアはか細い悲鳴の声を上げる。


「ヴィンセント・フォン・バルトシュタイン!! ハインライン殿!!」


 ハインラインは地面に倒れ伏した後、身体をガクガクと震わせながら起き上がる。


 ヴィンセントも遅れて、膝立ちで立ち上がった。


「チッ、まさか、ワシらの奇襲すら防いでみせるとはのう。もう既に、誰にも止められぬほどの化け物に育ってしまった、というわけか」


「はぁはぁ……同感ですな、ハインライン殿。あのオーク、以前相対した時とは違い、各段に強くなっている様子。察するに、リトリシア殿か、あそこにいる黒髪の剣士の肉を喰らったのか……む? あそこにいるのはジェネディクト叔父様か? 何故、こんなところに?」


「!? お前の着ているそれは、私が聖騎士団団長だったころに身に着けていた――――バルトシュタイン家の家宝『黒獅子の鎧甲冑』……ッッ!! そこのお前、ゴーヴェンか!!!!」


 敵意向きだしでヴィンセントを睨み付けるジェネディクト。


 そんな彼に対して、ヴィンセントは慌てて開口する。


「ジェネディクト叔父様!! 俺は、ヴィンセント・フォン・バルトシュタインです!! 父ではありませんぞ!!」


「ゴーヴェンの倅……? そう。クスクスクス、普段だったらオークよりも先に貴方をこの場でブチ殺したいところなのだけれど……まぁ、そんなことしている場合じゃないものねぇ。特別に見逃してあげるわ」


「叔父様。貴方はやはり、未だにバルトシュタイン家のことを――――」


「ヴィンセント、今そんなことを言うておる場合か!! 眼前の敵を見据えよ!!」


 ハインラインは右腕で剣を構え、オークを睨み付ける。


 ヴィンセントも慌ててロングソードを構え、オークに闘気を放った。


 その光景を見てジェネディクトはフッと微笑を浮かべると、右手で双剣の一対を構える。


「そうね。お互いに蟠りがあったとしても、今私たちが先決すべきは奴を討伐すること。とはいっても……魔法の力を手に入れたあの化け物を止める手段が、満身創痍の私たちにあるとは思えないけれどねぇ」


「ククク…………フハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」


 オークが笑い声を上げた、その瞬間。周囲にとてつもない邪悪な闘気のオーラが放たれる。


 天空へと舞い上がり、半径30メートル程に、そのオーラは広がっていった。


 その闘気に触れた瞬間。ジェネディクト、ハインライン、ヴィンセント、リトリシアは理解した。


 もう、この化け物は――――人間の手には負えない力を手に入れてしまったのだということが。


「剛剣、速剣、そして、魔法――――我は全てを手に入れた。貴様ら人間たちの武芸の経験を得ることで、我は今、最強の生物へと昇華することができた。感謝するぞ、愚かなる人間たちよ」


 そしてオークは不気味な笑みを浮かべると、両手を広げ、周囲を囲む四人に対して声を放った。

 

「全員でかかって来い。一人ずつ、戦意を失った者から喰らってやる」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「よし。無事に大森林の外へと抜けることができた!」


 第5界域から【瞬閃脚】を使用して走ること2時間。


 無事にパルテトの村へと戻った俺は、急いで手にある指輪へと視線を向ける。


「ヴィンセントから貰ったこの【転移の魔道具(マジックアイテム)】があって、本当に助かったぜ」


 【転移の魔道具(マジックアイテム)】は、基本的に三つの場所を登録しておくことができる。


 俺が一つ目に登録したのが、バルトシュタイン家の御屋敷。


 そして二つ目が、聖騎士駐屯区にある、学区内の学生寮、満月亭。


 最後に三つ目が、さっき登録したばかりの、第6界域にあるオフィアーヌ家の別荘。


 新しく別の場所に登録すると、古い順から登録が消去されるらしいから―――その時は、バルトシュタイン家の御屋敷が登録から削除されるのだろうな。

 

 そのことをよく、頭に入れておいた方が良さそうだ。


「よし。じゃあ、【転移の魔道具(マジックアイテム)】を使用して満月亭に戻ろう。ラパナ草を早くブルーノ先生に渡して、調合薬を作ってもらわないと」


 俺は指輪を天高く掲げる。そして、詠唱を口にした。


「【転移(テレポート)】 満月亭」


 そう声を放った、その瞬間。身体が掻き消え、視界が真っ白になっていった。


 ……正直、災厄級の魔物がいる大森林に置いて来た、エステルたちやアレフレッドたちが心配ではある。


 だが、運よく、第6界域にあるオフィアーヌ家の別荘は転移先として登録済みだ。


 薬草をブルーノ先生に渡したら、彼らを助けに、すぐに大森林へ戻ろう。


 俺はそう決意を胸にして、満月亭へと転移していった。

第148話を読んでくださって、ありがとうございました。

多分、あと1話か2話で、オーク編の山場であるアネット対オーク戦が始まると思います。

楽しみにしていただければ、幸いです。


さて、本日は、11月24日です!!

そうです! ついに、明日、書籍1巻が発売致しますー!!

WEB版にはない新規書き下ろしエピソードもありますので、ご一読いただけると嬉しいです!

オーク編と合わせて序盤を読むと、面白くなっていると思いますので……!!

ご購入の程、何卒よろしくお願い申し上げます!


……以前、25日までオーク編を終わらすと言いましたが……できる限り、頑張りたいと思います笑

みなさま、良い休日をお過ごしください! 三日月猫でした!

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― 新着の感想 ―
あと少し、クライマックスまであと少しなんだけど、めちゃくちゃ焦らされる展開…!!! アネットちゃんと締めてくれよっっ
[一言] ◯太郎飴みたいに生える回復力なだけに辺りに散らばるパーツの光景が 怖い筈なのにちょっとシュールに想像してしまいましたw
[良い点] ジェネディクト~ーーー! [一言] リティは天才ともろもろのせいで力が強くなる一方、心は未だ過去に捕らわれている。 アーノイック/アネットもしてきた 姉時はアレス師匠 師匠の時はリティ そ…
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