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第147話 元剣聖のメイドのおっさん、ムッツリスケベと遭遇する。


 ――――アーノイック・ブルシュトロームは、翌年の冬、臓器が石化する謎の奇病によって亡くなった。


 いや、違う。父の命に直接終止符を打ったのは、病ではなく、この私だ。


 彼の最後の願い。それは、病で苦しみベッドの上で亡くなるよりも、剣で死ぬことだった。


 剣に生き、剣に死ぬ。それが、歴代最強の剣聖である父の願い。


 最初は何度も断った。私が大好きなお父さんを殺すことなど、できるわけがなかったから。


 でも、日に日に病で苦しみ、衰弱していく父を見ている内に、私の考えは変わっていった。


 これ以上お父さんを苦しませたくない気持ちが、強くなっていたんだ。


 そうして、父の願いを受け入れてから数ヶ月――――晴天が広がる、晴れた冬のある日。


 私は決闘を受け入れ……病気で弱った父を剣で降し、トドメを差した。 


 彼の最後の願いを聞き入れ、私は、最愛の人を斬り殺したのだ。



『――――お父さん、私、頑張ります。ですから、お空の上で見守っていてくださいね』



 父の墓に別れを告げ、私は墓前に供えている刀を手に取る。


 その刀は、父が生前使っていた愛刀―――【青狼刀】。


 斬った者の傷を治癒させない呪いの効果が宿る、最凶の妖刀だ。


 私はその刀を脇に差し、踵を返し、雪の中を歩いて行く。


 父は亡くなった。これからは私が父の意志を継ぎ、【剣聖】としてこの国を守っていく。


 森妖精族(エルフ)が持つ長い寿命を活用して、何世紀にも渡り、父の墓があるこの大地を守護していくのが、私のやるべきこと。


 私は、最強の剣聖アーノイック・ブルシュトロームの娘なのだから―――不可能など、どこにもない。


 



『あれ? もしかして、リトリシアさん?』


 街を歩いていると、ふいに、声を掛けられる。


 そこにいたのは、以前私に告白してきたハインライン殿の息子、クロード殿だった。


 彼の腕の中にはお団子頭の小さな女の子の姿があり、足元には、少し大きめの男の子の姿があった。


 私は首を傾げ、彼へと声を掛ける。


『クロード殿? おや? その子供はいったい何ですか? 託児所のアルバイトか何かを始めたのですか?』


『え? いやいやいや! 僕の息子と娘だよ! 足元にいるのが息子のアレフレッドで、腕の中にいるのが、娘のジェシカ!』


『娘? そういえば……クロード殿、随分と更けましたね。ついこの前までは、私よりも背が低かったのに、随分と大きくなりました』


『いや、そりゃあそうだよ。僕、もう四十近いもん』


『四十? まだまだ若いではないですか? 私も今、それくらいの年齢ですよ?』


『若くないよ!! 人族(ヒューム)で四十歳はもうおじさんだよ!! 人生の半分近いよ、もう!!』


『…………なる、ほど。最近は剣聖の仕事が忙しく、時の流れが上手く掴めていませんでした。そうですか。子供ですか。早いのですね、人族(ヒューム)の繁殖期間は』


『繁殖って……まぁ、良いや。リトリシアさんは本当に変わらないね。15歳の時から見た目が変わらないって、流石は森妖精族(エルフ)だなぁと思ったよ』


『まぁ……はい。老化した感覚は一切、ありませんね』


『そうなんだ。あっ、道場に寄ってく? お父さん、いると思うけど?』


『いえ。私は剣聖の仕事がまだありますので、これで。ハインライン殿にはまた近い内にご挨拶に行くとお伝えください。では』


 頭を下げ、私は踵を返そうとする。


 すると、その時。クロード殿の腕の中にいる女の子がこちらに向かって手を伸ばしてきた。


『あぅぅぁっ!! あうぅぅぁっ!!』


『こらこらジェシカ! リトリシアさんのお仕事の邪魔をしては駄目だよ!』


『……構いませんよ。ジェシカ、というのですね、この子は』


 私は人差し指を差し向け、ジェシカに握らせる。


 まったく……時の流れというものは、残酷なものだ。


 もう既に、アーノイック・ブルシュトロームの武勇伝はこの国では風化されつつある。


 中には、彼の偉業は全部作り話だと言う者までもいた。


 どんどん、どんどん、この国から父の面影がなくなっていく。


 どんどん、どんどん、この国で私を知る者たちが年老いていく。


 その風景はとても辛く、人族(ヒューム)の中で森妖精族(エルフ)が生きるという過酷さを、これ以上なく現していた。


『……でも、これで良いのです。これで……』


 もうこの世にはいない最愛の人を想いながら、私は一人、この国を守って行く。私はそれで良い。


 だって、私は―――彼の娘なのだから。普通、子供は親の願いを叶えるもの、そうでしょう? 


 お父さん……。どこかで……今の私を見てくれていますか……?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「―――――280!! ゼェゼェ……これで、最後です!!!!」


 三百近い【烈風裂波斬】を放った後。私は剣を鞘に仕舞い、腰を低くして、抜刀の構えを取る。


 そして、未だ土煙の舞うオークが立っていた場所に目掛け、神速の一刀を繰り出した。


「【閃光剣】!!」


 この一刀に、全てを込める。


 今までの……剣に生きて来た人生の全て、そして、父への想い、その全部をこの刀に込める!


 剣の先端は折れてしまっているが、まだ、刃は生きているのだから!


 最後まで地面に立っていた者だけが、剣の世界では生き残る。


 どんな苦難の中に居ても、最後まで諦めなかった者だけが、剣の頂に立つことが許される。


 ならば、私は諦めない! 父から教わったこの剣で、目の前にいる邪悪なる怪物を討滅してみせる!!


 これで、全部、終わりだ――――暴食の王!!!!


「え……?」


 キィィンという音と共に、フレイル・ソードは中ほどから折られ、弧を描きながら刀身が飛び――背後の地面へと突き刺さる。


 その光景を確認した後、眼前へと視線を戻すと、土煙の中から紅い瞳がギラリと光ったのが見えた。


 そして、その直後。煙の中から腕が伸び、私の首をガシッと掴んでくる。


「ぐっ!? な、何……!!」


 その腕は私の首を掴んだまま、宙へと持ち上げた。


 足がブラブラと空を蹴り上げ、息がままならなくなってくる。


 私は苦悶の表情を浮かべながらも、土煙から現れた怪物を鋭く睨み付けた。


「ククク……何だ、今の軟弱な攻撃は。ただ土煙を巻き上げるだけなのか?」


「そ、そん、な……!! ば、馬鹿な……!!」


 煙の中に立っていたオークは―――――無傷だった。

 

 いや、少し傷を負ってはいたが、すぐに加護の力を使用して、斬り傷を縫合、再生している様子だった。


 私が本気で放った剣技は、単なるかすり傷しか与えることができておらず。


 オークのマントをボロボロにするくらいしか、効果を発揮していなかった。


「離せ!! 離せぇぇぇ!!!!」


 私は剣の柄の部分を使い、オークの腕へとガンガンと叩きつける。


 だが、その腕は、地面から生える太い大木のようにビクとも動かない。


 オークは暴れる私の姿をジッと観察すると、可笑しそうに笑い声をあげた。


「フハハハハハ!! まさか、数時間前まで手も足も出なかったお前に対して、これほどまでに圧倒できるとはな!! あの老剣士の本来の力、全盛期は、貴様とは比べられない程の力を持っていたと見える!! 奴こそが、真の最強の剣士であったというわけか!!」


「ろ、老剣士!? ハ、ハインライン殿のことですか!?」


「フフフフ……さて。これから貴様に、真の絶望を見せてやるとしよう」


 オークは大きく口を開けると、牙を剥きだしにし―――私の肩に噛みついて来た。


 その突然の行為に、肉を引きちぎられる痛みに、私は思わず発狂してしまう。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 美味いぞ!! 貴様の肉は、実に美味い!!」


 私の肩の肉を噛み千切ると、目の前で咀嚼するオーク。


 そして飲み込むと、再び私の肩を喰らおうと、口を開く。


 その悍ましさに震えながらも、私は即座に攻撃に転じ、折れた剣の柄をオークの目玉へと突き刺した。


 オークは「うぐ」とくぐもった声を漏らし、私の首から手を離す。


 地面に落とされた後。私は急いで後方へと飛び退いて間合いを取り、肩口を押さえながら折れた剣を構えた。


「はぁはぁ……!! ば、化け物!! この化け物めぇ!!!!」


「ククク……貴様の肉を少し喰らっただけで、さらに自分が強くなったことが分かるぞ……!! やはり、貴様の肉は良い!! お前は、我の獲物だ!! 必ずその身を、全て、喰らい尽くしてやる……!!」


 瞬時に潰れた目を加護の力で縫合、再生し、邪悪な笑みを浮かべるオーク。


 その身から漂う闇のオーラは、先ほどよりもさらに濃くなっているのが分かった。


 喰らうことで、相手の能力、闘気を吸収する加護の力―――その在り方そのものが、あの魔物の本質そのものなのだろう。


 ただ、本能のままに世界の全てを喰らい尽くす。人間の七つの罪の一角に坐する王、【暴食の王】。


 アレは……まさしく、人類を滅ぼす災厄級。厄災そのものだ。


「ハハハハハハハハハ!! 貴様の力、少し、試させてもらうぞ!!」


 オークは【瞬閃脚】を使用すると、一気に間合いを詰め、私の腹部に向けて回し蹴りを放った。


「カハッ!!」


 掠れた息を漏らし、私は後方へと飛んでいく。そんな私を追いかけると、オークは拳を握りしめ、私の顔面に――――――強烈な拳を叩き込んでいった。


「グルァァアァアァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!」


 鼻が折れ、歯が欠け、私は血を吐き出しながら、猛スピードで吹き飛ばされて行く。


 そして槍のように聳え立った石の柱に叩きつけられると、柱をブチ折って、地面へと転がって行った。


「あがっ……あがっ!!」


 息が上手くできない。痛い。身体中のどこもかしこも、痛くてたまらない。


 怖い。怖いよ、お父さん……!!


 ガクガクと身体を震わせながらも、私は立ち上がる。


 蹴りを喰らわせられた時に何処かに吹き飛んでしまったのか、折れた剣は手の中にはなかった。


 残されたのは―――腰にある、【青狼刀】だけ。私はすぐに刀へと手を当てる。


 だが、鞘から刀が抜けることは、ない。【青狼刀】は、未だに私を主人としては認めていない。


「どうして!! どうして、抜けてくれないの!! 何で私の言うことを聞いてくれないの、【青狼刀】!!」


「……終わりだな」


 オークがこちらへとゆっくりと近寄って来る。奴は、背中の剣を鞘ごと取り出すと、その剣を腰に当て――――抜刀の構えを取った。


 その姿は、私の良く知っている剣の構え。


 ……あり得ない。あり得るわけがない。


 だって、その剣は、世界でも私しか使用できない必殺剣のはずなのだから。


 私は鞘に入ったままの刀をベルトから引き抜き、構え、咆哮を上げた。


「はぁはぁ……敗けない……私は、剣聖なんです!! 私は、この地を守ると、父に誓ったんです!!」


 鞘に納刀されたままの青狼刀を両手に持ち、オークへと突進する。


 だがオークはそんな私に腰の剣を抜き、神速の一刀を放って行った。


「――――【閃光剣】」


 私の手にあった青狼刀は、神速の抜刀剣に弾かれ、回転しながら後方へと飛んでいく。


 そして、次の瞬間。私の目と鼻の先に、剣の切っ先が向けられた。


「児戯に等しい真似はやめろ。もう、策が無いのであれば……貴様の命はここで終わりだ」


「終わ、り……?」


「貴様の力、全て、我が貰い受けるぞ」


 オークは、その紅い眼光でこちらを見下ろしてくる。


 そして、剣を上段に構え、笑みを浮かべた。


「最後まで抵抗しようとした貴様への手向だ。戦士としてのせめてもの情けで、生きたまま喰らうなどということはせぬ。その頭蓋を斬り裂いた後に、ゆっくりと、貴様を喰らうとしよう」


 そう言葉を放った後。そのまま、剣が――振り降ろされる。


(お父さん……お母さん……!!)


 脳裏に浮かぶのは、父、アーノイック・ブルシュトロームの姿と―――戦争時に生き別れた母の姿だった。


 バルトシュタイン家へと愛妾として迎えられた母は、精神を病み、自殺してしまったらしい。


 黄金の髪に美しい碧の目をした母の姿は、今でもよく覚えている。


 私は……彼女のように美しくなれたのだろうか。お父さんに、少しでも可愛いって思われるような女性に成長することはできたのだろうか。


 二人の親を失った今では……その答えは一生、分かることはない。


「……これで、もう、終わりなのですか……お父さん、お母さん」


 瞳から涙が零れ落ちる。オークの振るった剣が、私の頭部に触れようとした―――――その瞬間。


 青白い光が奔り、目の前にあるオークの剣を……真っ二つに両断した。


 私はその光景に、瞠目して驚きの声を上げる。


 眼前に居たのは……黒い長髪を揺らした、コートを身に纏った男だった。


 男は肩越しにこちらをチラリと見つめると、可笑しそうにクスリと笑みを浮かべる。


「無様ね、今代の剣聖、リトリシア・ブルシュトローム。貴方がその程度の実力ならば、私が【剣聖】になるのもそう難しくはなさそうね」


「あ、貴方は……な、何故、ここに……!?」


「クスクス。こうして会うのは初めてだけれど、貴方、まるで生き写しのように母に似ているのねぇ。それに……その手に持っているのは、もしかして【青狼刀】? フフッ、まさかこの顔に傷を付けたその剣に、再び相まみえることになるだなんて、可笑しなものねぇ」


「ジェネディクト・バルトシュタイン!? ど、どうして貴方がここにいるのですか!!」


 私のその叫び声を無視して、ジェネディクトは双剣を構えながら、オークへと鋭い目を向ける。


 そして、目を見開き、歯をむき出しにして嗤い声を上げた。


「クッ、アハハハハハハハハハ!! なるほど、さっきの言葉は訂正するわ、剣聖!! こいつは確かに強いわねぇ!! 対峙しただけで分かる……本物の化け物だわ!! 貴方が敗北するのも当然ねぇ!!!!」


 そう言って一頻り笑い声を上げた後、サングラス越しに、ジェネディクトは漆黒の目をオークへと向ける。


「笑えるわねぇ。まさかこの時代に、こんな力を持つ者が現れるなんて。信じられないわぁ」


「……」


 オークは表情を強張らせると、後方へと飛び退く。


 そして折れた剣を放り投げると、背中の剣を取り、眉間に皺を寄せた。


「……貴様も、なかなかの強者と見受けられるな。名を聞いておこう、黒髪の剣士」


「あら、化け物の癖に随分と武人肌なのねぇ。私は、【迅雷剣】ジェネディクト・バルトシュタインよ。よろしくね、醜い猪ちゃん」


「我は貴様ら人間に【暴食の王】と呼ばれている者だ。クククッ、貴様になら……我の今の全力の力を放っても、問題は無さそうだな。さて……遊んでやろう。かかってくるが良い、双剣使いよ」


「……化け物の癖に随分と生意気な口を……と、言いたいところだけど、困ったわねぇ。貴方、普通に厄介そうだわぁ。のんきに王女ちゃんの護衛なんてやっている場合じゃなかったかもしれないわねぇ。すぐに貴方を捜索すれば良かったわぁ」


 そう口にして、ジェネディクトはチラリと背後にいる私と視線を向ける。


 そして、前を振り向くと、眉間に皺を寄せた。


「母に愛されたお前には恨みしかないのだけれど……まぁ、良いわ。お前を死なせる理由も、特に、私にはないからねぇ」


「……母? やはり、貴方は……」


「アハハハハハハハハハハハハハ!! さぁ――――ワルツを踊りましょう? 猪ちゃん? この神速の剣の領域の中で、踊り狂い、死に果てなさい」


 ジェネディクトは青白い電気を発しながら、地面を蹴り上げ、一瞬にしてオークへと間合いを詰める。


 そして、次の瞬間。オークの腕が、宙へと舞って行くのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うぇぇぇん!! うぇぇぇん!! お兄ちゃん、どこぉぉ!!!!」


「ん?」


 俺は【瞬閃脚】の発動を止め、足を止める。


 第5界域の森の中に、おさげ髪の幼い少女の姿を発見したからだ。


 彼女は両目を手で覆い隠し、一人、大声で泣き喚いている。


 急いでいるとはいえ、流石に幼い子供を見過ごす、というのもなぁ……。


 俺は後頭部を掻きながら少女に近付き、目線を合わせるようにしてしゃがみ込むと、優しく声を掛けた。


「君、どうしたの? ここ、大森林の中だよ? 危ないよ?」


「ぐすっ、ひっぐ……え? お姉ちゃん、だあれ?」


「俺は……じゃなかった。私は、アネット・イークウェスという者です。メイドをしています」


「メイド……? 何でメイドさんがここにいるの?」


「うーん、話すと長くなるので割愛しますが、一応、冒険者もやっておりまして。ある目的のために大森林を探索していたんですよ。それで、君は? どうしてこここにいるのかな?」


「私……パルテトの村に住んでたの。でも、突然真っ黒でおっきな怪物がやってきて、みんなを食べちゃったんだ。お母さんが囮になって、その化け物から私とお兄ちゃんを村の外に出してくれたんだけど……でも、結局、その化け物に追いつかれちゃったの」


「なるほど。逃げている最中に、そのお兄ちゃんと逸れちゃったのですね?」


「ううん。そこで逸れたんじゃないの。化け物に追いつかれた後、剣を持った長い髭のお爺ちゃんが助けてくれたんだ。だけど、そのお爺ちゃんもやられちゃって……その後、ハンマー持った女の人が現れて、その人が竜巻を起こして、私とお兄ちゃん、大森林の奥に吹き飛ばされちゃったの」


「……ん? んん?」


 何か、めちゃくちゃすぎてよく分からないな?


 とにかく、ハンマーを持った女の人が、パルテトで出会った剣神のルティカだということは理解したが。


 俺は短く息を吐き出し、少女の頭を撫で、ニコリと微笑を浮かべる。


「じゃあ、お姉ちゃんがお兄ちゃん、見つけてきてあげましょうか?」


「本当!? お兄ちゃん、探してくれるの!?」


「はい。でも、君はまず、安全なところに行った方が良いと思います。さっきからこの辺りは謎の衝撃音が聴こえてきて―――――」


「ローザー! どこだー! どこにいるんだー!」


「あっ、お兄ちゃんだ!」


 声が聴こえてくる方向へと視線を向ける。


 するとそこには、草木をかき分けこちらにやってくるオレンジ色の髪の剣士と、小さな男の子の姿があった。


 男の子は少女の姿を視界に捉えると、急いでこちらに駆け寄って来る。


「ローザ! 良かった! 無事だったのか!」


「お兄ちゃん、怖かったよぉ! お兄ちゃぁん!」


 目の前で抱き合う兄妹。俺が探しに行くこともなく、すぐに再会することができて良かったな。


 俺は再会に涙する二人に小さく笑みを浮かべた後、奥にいるオレンジ色の髪の青年へと視線を向ける。


「貴方は……確か、冒険者ギルドで出会った、ハインライン様の御孫様の……アレフレッド様、ですよね?」


「……天使だ……あの時のボンキュッボンのメイド天使ちゃんが目の前にいる……何故……相変わらずめっちゃえっちだ……」


 顔を真っ赤にして俺を見つめるアレフレッド。俺は引き攣った笑みを浮かべ、再度、彼へと声を投げる。


「いや、あの……アレフレッドさん?」


「はっ! い、いえっ! な、なんでしょうかっ、メイドボインちゃん!!」


「メイドボインちゃん……その呼び方は切に止めていただきたいところですが……まぁ、今は良いです。アレフレッドさん、彼らを貴方にお任せしてもよろしいでしょうか?」


「お任せ? どういう意味ですか?」


「私は先を急いでおりまして……このまま一人で森を抜けたいのです。ですから、申し訳ありませんが、この二人を貴方にお預けしたいのですよ」


 俺はそう言ってニコリと微笑む。


 今はいち早く、森を抜けるのが先決だからな。それにハインラインの孫なら実力はそこそこあるのだろう。彼に子供たちを任せることに、不安はあまりない。


 だが、俺のその言葉に、アレフレッドは慌てた様子で首を横に振った。


「ひ、ひとりで森を抜ける!? む、無茶ですよ!! 君、その首にあるプレートを見るに、ブロンズプレートだよね!? ブロンズプレートがソロで第5界域に居ること自体危ないことですし、今は何より災厄級の魔物が発生していますので!! 絶対に、俺の傍から離れないでください!!」


「え?」


「このアレフレッド・ロックベルト。か弱い女子を一人で放置するような真似など、絶対にできません!! 剣士とは、弱き立場にいる者を守るためにあるもの!! 子供たち含めて、君たちは俺が絶対に守って見せます!! お任せを!!」


 拳を握りながら瞳の中の炎を燃やし、暑苦しくそう言葉を言い放つアレフレッド。


 その、真面目で暑苦しい様相は、かつての俺の兄弟子にとてもよく似ているように感じられた。


「ぬ、ぬへへへ……ボインちゃんと森の中で過ごせるなんて思いもしなかったな……魔物が出て怖がった時に、腕にギュッと、抱き着いてくれないかな……やばい、想像しただけで鼻血が出る」


 あと、そのムッツリスケベ具合も、奴の若い頃にそっくりだ。


 普通に不快なので、やめてほしい。

第147話を読んでくださって、ありがとうございました!!

2話投稿……明日こそは……(吐血

あと数話で終える予定なのですが、リトリシアの回想が長くなりすぎてしまいました……反省です!!


実は、今日、本屋巡りをしてきました!!

まだ25日ではないのに、色んな本屋さんに既に剣聖メイドの1巻が置いてありました!!

めちゃくちゃ感動しました……!!

中学生の時から通わせてもらっている地元の本屋さんにアネットの姿があって、泣きそうになりました笑

これも全ては、WEBで支えてくださったみなさまのおかげです!!

本当に、ありがとうございました!!

よろしければ続巻のために、1巻のご購入、よろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 書店に行ったら、売ってましたーwすぐに買いましたよーw
[一言] ジェネディクトが行った場所はもしかしてー、、と思っていましたかまたがやはりオークの所でしたか!! 登場の仕方がカッコ良すぎました!! ジェネディクトの株爆上がり中です笑
[一言] メイドボイン…、いや響きはいいよ(笑)わかる(笑) それを証明するかのような絵や文や絵を、発売する本に求めてもいいのだろうか?(笑) 初見殺しもあるけど、リトリシアの力も含めたオーガの腕を…
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