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第14話 元剣聖のメイドのおっさん、初対面の爺さんに怯えられる。







「ふむ。久々のレティキュラータス本邸はやはり懐かしいな。お前もそうは思わないか? メリー」


「ええ、そうですね。エルジオに当主の座を譲ってからもう10数年経っていますから・・・・この家の門を潜るだけでも、感慨深いものが込み上げてきます」





 そんなやり取りをしながら、身なりの良い老夫婦がレティキュラータス家の門前に姿を現す。


 俺は、隣に立つマグレットにあの人たちがそうなのかと、アイコンタクトを送ってみる。


 すると、彼女はまっすぐと前を見つめたまま、コクリと静かに頷いた。


「ええ、そうだよ。あの方々が先代レティキュラータス家当主とその奥方様さ」


「そうですか・・・・・では、あのお二人がロザレナお嬢様のお爺様とお婆様である、ということなのですね」


 以前から、どうもロザレナは旦那様と奥方様に似ていないなと思っていたが・・・・なるほど、あの子の顔は祖母似だったわけか。


 猫のようなアーモンド型の切れ長の紅い瞳に、所々ウェーブがかった白髪の長い髪。


 ロザレナが年老いたら、丁度あのような感じになるのかなといった様相の姿が、そこにはあった。


「ロザレナお嬢様のお婆様は、とても70代後半には見えない・・・・・整ったお顔立ちをしていらっしゃいますね、お婆様」


「・・・・・・・・・・・」


「? あ、あの、お婆様?」


 返事が返って来ないことを不思議に思い、隣へ視線を向けると、そこには昔を懐かしむような顔をしたマグレットの姿があった。


 まるで旧知の仲の友人に再会したかのような、そんな穏やかな笑みを浮かべた表情をしていた彼女は、ただボーッと、仲睦まじそうに会話をする老夫婦の姿を静かに見つめている。


 俺はそんな不思議な彼女の様子に対して、思わず首を傾げてしまった。


「あ、あの・・・・お婆様? もうそろそろ、お二人のお出迎えに向かった方がー---」


「あら? もしかしてそこにいるのはマグレットですか??」


 俺たちの姿を発見したのか、老婦人が門の向こう側から凛とした笑みをこちらに向けてくる。


 そんな彼女の声にマグレットはビクリと肩を震わせると、佇まいをただし、急いで門の前へと移動を開始し始めた。


「お久しぶりです、ギュスターヴ様、メリディオナリス様」


 門を開けた後、そう挨拶して深く頭を下げるマグレット。


 俺もそんな彼女に続き、同様にして彼らに対して深くお辞儀をする。


 するとそんな俺たちの姿に、ロザレナの祖母ー---メリディオナリスと呼ばれた老婦人は、口に手を当て、淑女然とした小さな笑い声を溢した。


「変わらないのね、マグレットは。私たちはもう貴女の雇い主でもないのですから、もっと楽にしても構わないのよ??」


「い、いえ、先代ご当主とその奥方様に、そのような不躾なことなど・・・・できるはずもありません」


「何言っているのよ。私たち、幼い頃から身分関係なくこの御屋敷で遊んでいた仲じゃない。だから、今更気にしなくても良いのよ? ねぇ? ギュスターヴ?」


 そう、メリディオナリス夫人に微笑みと共に問いを投げられた先代当主は、何処か居心地悪そうに、フンと、短く鼻を鳴らした。


「フン。ワシはこの強面ババアにはまったく良い思い出は無いからな。いくら過去を振り返って見ても、毎回泣かされていた記憶しかありはしない」


「あら? そんなこと言っても良いの~?? 私、ギュスターヴの初恋の人がマグレットだって知っているのよ~~??」


「なっー---ー----い、いったいいつのことを言っているんだお前はっっっ!!!!」


「いつって・・・・確か私が貴方と婚約を結ぶ以前の・・・・・7,8歳くらいの頃かしら?? よくこの御屋敷に遊びに来ては、メイド業に勤しむマグレットのことを遠目で見つめていたじゃない??」


「そ、そんな大昔のことを今更持ってくるんじゃない!! しかも本人の前で・・・・馬鹿か貴様は!!」


「馬鹿はギュスターヴの方じゃないかしら?? マグレットは貴方を弟としか見てなかったというのに、貴方、大きくなるまで延々とアタックし続けていたんですからね。それも、本人にまったく気付かれないという道化っぷりで・・・・うぷぷっ、思い出すだけでも笑いが抑えられないわぁ」


 そう言って、お腹を抱えだし、何とか笑いを堪えようとするメリディオナリス夫人。


 そんな彼女の姿を、マグレットは何処か呆れた表情で・・・・困ったように笑みを浮かべて見つめていた。


「メリーお嬢様も相変わらずでございますね。この屋敷から別邸に移り住んでもう17年も経っていらっしゃいますのに・・・・・昔とお変わりようがありません」


「あっ、やっと昔のようにメリーお嬢様って呼んでくれたわね、マグレット。嬉しいわ!」


「フン、何でも良いから早くワシらを屋敷に案内してくれないかね?? 冬も間近だというのに、老体を外に晒し続けているとどうにも・・・・関節が痛んできてたまらんわい」


「畏まりました。アネット、お二人のお荷物をお願いできますか?」


「了解致しました、メイド長」


 俺は静かに頷いた後、マグレットの指示通りに、二人が手に持っている旅行鞄を受け取ろうと歩みを進める。


 まずは、先代当主であるギュスターヴ様の荷物を預かろうと、彼の手にある鞄に手を伸ばそうとした、その時だった。


「ッ!?!? な、なんだ、こいつは!?!?」


 突如俺から飛び退くようにして距離を取ると、目をまんまるとさせ、ギョッとした表情を浮かべてこちらを見下ろしてくるギュスターヴ老。


 俺は彼のその反応の意味が分からず、思わずキョトンとした表情で、小首を傾げてしまった。


「あ、あの、ど、どうかしましたでしょうか??」


「しゃ、しゃしゃ、喋ったぁ!?!?」


「え、えぇ・・・・・?」


「メ、メリー!! マ、マママ、マグレットが!! 幼少時のマグレットがここにいるぞ!? 何なんだこいつは!? 幻術か!?」


 慌てふためくギュスターヴ老に対して、メリディオナリス夫人は眉間に手を当てて疲れたようにため息を吐く。


「はぁ・・・・まったく、何を言っているのですかギュスターヴ。事前にマグレットから手紙を貰っていたではありませんか。その手紙に載っていた、娘から預かった孫というのが・・・・きっと彼女のことですよ」


 そう口にすると、老婦人は俺と目線を合わせるようにしてしゃがみ込み、優しい笑みをこちらへと向けて来た。


「貴方がアネットちゃんですね。まぁ、ギュスターヴが驚くのが分かるくらい、本当に子供の頃のマグレットにそっくり。とっても可愛いお顔をしていることで」


「あ、は、はい。私はアネット・イークウェスと申します。先代ご当主、ギュスターヴ様とその奥方様、メリディオナリス様がご快適にお屋敷でのご生活ができますように、精一杯心を込めてメイド業に従事しますので、何卒、これからよろしくお願いいたしま・・・・・」


「んもーっ!! 声も可愛いわ!! 昔のマグレットみたい!! 持ち帰りたいーっ!!」


「わわっ、ちょっ!!」


 突如、抱っこされるようにして持ち上げられ、人形のように抱きしめられてしまう、俺。


 そして、背後でまるで幽霊でも見ているかのように怯えた顔でこちらを見つめている、ギュスターヴ老。


 傍目から見たら意味が分からない状況が、現在、レティキュラータス家の門前で、繰り広げられているのであった。










「お久しぶりです、お父様、お母様」


「お久しぶりでございます、お義父様、お義母様」


「おぉ、エルジオにルナリナ。久しぶりだな」


 荷物を持って、二人を屋敷の中に案内すると、玄関には既に旦那様と奥方様の姿があった。


 そして、二人の間に隠れるようにして来客をジッと警戒心高めの様子で睨みつけている、ロザレナの姿もあった。


 そんなロザレナの姿に気が付いたギュスターヴ老は、眼をキラキラと輝かせて、孫の元へとゆっくりと近付いて行く。


「お、おぉぉっっっ!!!! そこにいるのは我が愛しの孫、ロザレナちゃんではないか!!!! じ、じいじだよ!! 覚えているかね!!!!! 王都の医院で入院していた時には、何度もお見舞いにー-----」


「・・・・・・・・・・・・・・」


 ロザレナは伸ばされた祖父の腕をサッと避けると、両親の後ろを回って、今度は俺の背後へと隠れるようにして身を潜めてくる。


 そうして、俺の肩ごしに祖父へと鋭い目線を向けると、威嚇する猫のように背中を丸め、ううううと唸り声を上げ始めた。


「ロ、ロザレナちゃん!? ど、どうして・・・?」


「あ、あはははは・・・・お父様、既にご存じでしょうが、あの子は人見知りが激しくて・・・・長期間顔を合わせていないだけでも、あのような状態になってしまうのですよ」


「ま、毎年数回は顔を合わせているワシよりも、その憎たらしい顔をしたメイドの小娘の方が良いと、そう言うのかい!? ロザレナちゃん!?・・・・・ぐうぅぅ、うぬぬぬぅぅぅぅぅ~~~っ!! おのれイークウェス!! 末代になってもワシを苦しめてくるかっ!!」


 ついには膝を付いて、玄関のど真ん中で泣き始めてしまう爺さん。


 何というか、大の大人が・・・・それもかなりの年齢の行ったジジイがガチ泣きしている姿は、こう、見るに堪えない光景だな。


 そんなに孫に拒否られたのが、悲しかったのかい? ギュスターヴ老よ・・・・。


 久々に自分の家に帰ってきて即号泣するなんて、何だか思わず可哀そうになってくるな。


 仕方ない、ここは少し、フォローでもしておくとしようか。


「・・・・・お嬢様、お爺様がお可哀そうですよ?? もう少し、お優しく接してあげては・・・・」


「嫌よ。あの手に掴まったら最後、人形のように持ち運ばれて、その後ずぅっと延々と抱きしめられてしまうんだから。今泣いているのも全部罠よ、罠。近付いたら即トラップに捕まってしまうわ」


 え、えぇ・・・・何か、構いすぎてペットに嫌われた飼い主みたいな構図になってるじゃねぇか・・・・。


 ロザレナが人見知りとかそういうの関係なく、こりゃ全部、爺さんの自業自得のような気がしてきたぞ、俺は・・・・・。


「そう、ロザレナちゃんは相変わらず人見知りなのね。それじゃあ、ロザレナちゃんが来ないのなら・・・・アネットちゃーん、いらっしゃーい??」


 膝を付くギュスターヴ老の背後で、手をわきわきとさせながら、俺の名前を呼んでくるメリディオナリス夫人。


 先程は、仕事があると告げたら渋々メレディオナリス夫人は俺を抱く手を離してくれたが・・・・なるほど、もしかしたらあの夫婦は小さい子供を抱きしめることが趣味なのかもしれないな。


 自身の祖母に対しても獣のように警戒心を露わにする背後のロザレナに、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。


 子供の目線だから、分かること。


 過剰なスキンシップを取ってくる大人は、嫌われる。


 まさかオッサンである俺が、今更こんなことに気付かされるとは、思いもしなかった。











 その夜。


 和気藹々としたレティキュラータス家一族の食事の席は無事に終わりを告げ、俺とマグレットはテーブルに残った皿を片し、後片付けに奔走していた。


 そんな俺たちの姿を、一人テーブルに残って微笑ましく見つめていたメリディオナリス夫人は、誰に声を掛けるということもなく、静かに残ったワインを口に運んでいた。


「ごくごく・・・・・フフ、本当、この屋敷には懐かしい光景がずっと残っているわね」


 そう言って小さく熱っぽい息を溢すと、彼女はせっせと空いた皿を重ねていく俺に、さり気なく視線を向けて来た。


 その視線に気付いた俺は、夫人に顔を向け、首を傾げながら口を開く。


「あの、どうかなさいましたか? メリディオナリス様」


「ううん、アネットちゃんとロザレナちゃんの姿を見てたらね、何だか昔のことを思い出しちゃって」


「昔のこと、でございますか??」


「うん。私はこの御屋敷・・・・レティキュラータス家の三女に産まれてね。上二人はとっても優秀だったから、いつもお父様とお母様には怒られてばっかりいたのよ」


 ん・・・・? てっきり俺は、レティキュラータス家の血を継いでいるのは、ギュスターヴ老なのだとばかり思っていたのだが・・・・その言葉から察すると、どうやら彼女がこの家の正当な後継者、だったというわけか??


 だったら、ギュスターヴ老は婿養子ということになるのか・・・・そのあたりのことは詳しくマグレットから聞いていなかったから、俺も情報を正確に把握できてはいなかったな。


 そう、ひとりでレティキュラータス家の背景の考察をしていると、メリディオナリス夫人は続けて言葉を発し始めた。


「もうね、幼い頃からお父様もお母様もみーんな身内の人は私に興味を抱かなかったの。どうせ家督を継ぐ才能がないんだからといって、ろくな教育もさせずに、ほぼ放置よ放置。本当、酷いわよね??」


 王国の貴族において、最も重視されるもの・・・・それは、生まれついての才能だ。


 剣術、魔術、算術、話術、商易術・・・・・当主の代に就く者にはそれなりの格が求められる。


 幼少時からその才覚を精査し、貴族の当主たちは自身の子供を競い争わせ、より良い逸材を自身の後釜に据えるように、教育をする。


 彼女は、メリディオナリス夫人は、早々に両親から見切りを付けられ、端から期待を持たれないほどに・・・・貴族としての格が無かったのかもしれないな。


「でもね、誰も私を見てくれなったんだけど、マグレットだけは違ったのよ。あの子だけは、私の傍にずっといてくれた。・・・・何だか、今のロザレナちゃんとアネットちゃんのこと見てたら不意にそのことを思い出してね。私もロザレナちゃんみたいに、昔はずっとマグレットの後ろに引っ付いてたなぁ、って」


「お婆様ととても仲がよろしかったのですね、メリディオナリス様は」


「ええ。大親友だったのよ、私たち。今の貴方たちのように、ラブラブだったのですから」


 そう言って眼を細めながら、赤いワインを口に運ぶ夫人。


 そんな彼女に、どうして、今のレティキュラータス家を夫人の家系が継いでいるのかを質問してみたかったのだが・・・・背後から飛んできたマグレットの呼ぶ声に、俺はメリディオナリス夫人との会話を止めることにした。


「フフ、何か聞きたい顔をしていたようでしたけれど・・・・良いのかしら??」


「はい。これ以上仕事をサボっていたら、お婆様にゲンコツを頂いてしまいますので」


「あら、まぁ、マグレットってば相変わらず怒るとすぐに手が出るのねぇ」


 そう言って互いに笑い合った後、俺はお皿を持って厨房へと戻ることにした。











「せいっ!! やぁっ!! とりゃあっ!!」


 翌日。午前5時。


 あたしはー--ロザレナは、誰も起きてこない明朝の朝に、日課の素振りを行っていた。


 日々、剣を多く振っていた者こそが『剣聖』に最も近付くことができる。


 アネットの言っていたその言葉は間違いなく真実だ。


 部屋のベッドで過去の英雄の伝記を読んでいたところで、あたしは強くなれない。


 あの時の・・・・一太刀ですべてを切り裂いたアネットの剣技に近付くには、ただボーッとしているだけでは絶対に到達することはできはしない。


 だからあたしはあれ以来、剣の素振りを欠かさずに毎日こうして行っているのだ。


 とはいっても、持っているのは模造刀ですらなくただの箒で、剣を振っているのも、別に何かの型の練習をしているわけではなく、ただあの時のアネットの真似をしているだけにすぎない。


 だから今行っているこの行為は、ただの子供のチャンバラごっこ。


 剣の練習にもなっていない、ただ棒切れを力いっぱい振るだけの、ただのお遊びだった。


「・・・・・・本当だったら、アネットに剣を教わりたかったのだけれど・・・・・・」


 アネットはあたしに、今後剣を握ることはしたくはないと、ただのメイドでいたいと、そう言ってきた。


 その彼女の意思が強いものだと理解したからこそ、あたしは彼女から剣を教わることを諦めた。


 まったく、あれだけの才能があると言うのに・・・・・本当、なんてバカなのかしら。


 正直に言えば、あたしは、あの子の力は世間に広めるべきものの類だと思っている。


 だって、世界最強と言われる『剣聖』の、リトリシア・ブルシュトロームの剣を直にこの目で見たけれど・・・・はっきり言ってアネットの剣に比べれば彼女の剣からは全然凄みを感じなかったから。


 だから確信を持って、あたしは言える。


 アネットの剣は間違いなく、『剣聖』を越える、段違いのレベルのものなのであると。


 自分で言うのは可笑しいかもしれないけれど、彼女の剣は、こんな辺境貴族のお抱えメイドをしていて腐らせて良いものではない。


 然るべき場所で、学校で、あの子の剣は衆目に晒され、認められるべきものだ。


 だからあたしはあの子を何としてでも騎士養成学校にー---ううん、ちょっと違うかな。


 あたしは、アネット・イークウェスという憧れの剣士を追いかけたいからこそ、あの子に剣を握っていて欲しいのだ。


 きっと、あの子以外の剣士なんて憧れを抱く対象にすらなりはしない。


 あの、何度瀕死になっても立ち上がり、前を見据える澄んだ青い瞳。


 美しく、気高く、そして女の子なのに何処か男らしい荒々しさを併せ持つ、絶対的強者の貫禄。


 あんなかっこいい人、この世界にアネット以外に絶対に居はしない。


 あたしの憧れ・・・・あたしの愛しの人・・・・・。


 もう、本当、大好き。


「へ、へへへ・・・・アネット・・・・すき」


「あら、ロザレナちゃん、それはもしかして・・・・剣の練習かしら?」

 

「ッ!?!?!?!?!?」

 

 突如中庭に現れた自身の祖母の姿に、あたしは思わずビクリと肩を震わせて、手から箒を落としてしまっていた。


 そんなあたしに対して申し訳なさそうな顔をすると、メリディオナリスお婆様は、こちらへとゆっくり近付いてくる。


「ごめんなさいね、驚かせてしまったかしら」


「・・・・・・今の、聞いてた?」


「何のことかしら?」


「そう・・・・聞いてないなら良いの」


 思わず安堵の息を吐いてしまう。


 そんなあたしの姿をニコニコと見つめながら、お婆様は頬に手を当て、クスリと笑い声を溢した。


「あぁ、もしかしてアネットちゃんが好き、とか、そういったことを言っていたことかしら??」


「ー-----ッッッッ!!!!!!!!!!」


「あら、お顔が真っ赤ね。大丈夫? ロザレナちゃん?」


 祖母は、昔からこう、何処かバカにした態度であたしをからかってくるから、どうにも苦手だ。


 父と母のような穏やかで優しいような雰囲気を持っているが、その実、一番うちの家系で性格が悪いのはこの人なのである。


「フフフ、そんなに睨まないでくれるかしら。ロザレナちゃんはお爺ちゃんに似てるから、ついついからかってしまうのよね」


「・・・・・・お婆様のそういうところ、本当嫌い」


「ごめんなさいね、ロザレナちゃん。でも安心して。ロザレナちゃんがアネットちゃんのことを好きなのは、誰にも言わないでおいてあげるから」


 そう言って無理やりあたしの手を取ると、小指を絡ませ指切りをしてくるお婆様。


 あたしはそんな彼女にムスッとした顔を向けると、落ちた箒を拾い、再び剣の素振りを再開させる。


「ロザレナちゃんは、騎士になりたいのかしら?? それとも冒険者??」


「・・・・・・・・・・」


「あら、だんまりね。せっかく、お婆ちゃんが剣の練習に付き合ってあげようと思ったのに・・・・残念ね」


「剣の・・・・練習??」


 その聞き捨てならない言葉に思わず手を止めると、祖母はニコリと微笑んだ。


「あれ、知らなかったかしら?? 私、こう見えても聖王様から騎士位を叙勲しているのよ?? 風の噂で聞いた・・・・ロザレナちゃんが行きたがっている聖騎士養成学校、『ルドヴィクス・ガーデン』の卒業生なのよ、私」


 そう言うと、祖母は、懐から取り出した双剣とグリフォンの絵が描かれた騎士位のバッジを・・・・あたしへと見せつけてきたのだった。

 




いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます!!


本当に本当に、執筆の励みになっております!!


恐らく、あと2、3話くらいで、第一部の幼年期編を終えることができそうです。


第二部の成年期編は、あらすじにある通り、騎士養成学校編となっております。


多分、明日の夜に続きを投稿すると思いますので、また、ぜひ、読んでくださると嬉しいです!!


皆既月食を見ながら執筆していました、三日月猫でした! では、また!

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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいい〜
[一言] ぜひ完結してほしい! 最後まで読みたいです。
[気になる点] 皆既月食を見ながら執筆ってどうやってやったんですか?? 窓からでしょうか? 月を見ながら小説を書く、ぜひやってみたい! ロマンティックな感じがしますね。 [一言] 第二部も楽しみにして…
感想一覧
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