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第125話 元剣聖のメイドのおっさん、月を見て、お嬢様に想いを馳せる。【あとがきにお知らせがあります】


「ロザレナちゃん。大丈夫ですからね。きっと、アネットちゃんが何とかしてくれますから」


 そう言ってオリヴィアは桶の中にタオルを浸し、水を絞ると、それをロザレナの額へと当てた。


 アネットが出掛けてから半日。未だに、ロザレナは眠り続けていた。


 顔を真っ赤にしてゼェゼェと荒く息を吐くロザレナ。


 そんなベッドの上の彼女に対して、オリヴィアは悲痛そうに眉を八の字にさせる。


「……大丈夫です。ロザレナちゃんは絶対に治ります。だって、あのアネットちゃんが自ら動いているのですから。あの子は、ご主人様のためならどんなことでも絶対に成し遂げる。それは……アネットちゃんのことを誰よりも傍で見て来たロザレナちゃんが、一番分かっていることですよね」


「はぁはぁ……」


「どうして……どうして、ロザレナちゃんがこんなに苦しい目に遭わなきゃならないんでしょうか、女神様。ロザレナちゃんがいったい何をしたっていうのですか? この子は、とっても良い子なのに……」


 オリヴィアの瞳から涙が零れ落ちる。


 そんな啜り泣く彼女の背後から、ある人物の声が聴こえてきた。


「……オリヴィア。そろそろ休んだらどうですの?」


「えっ、ルナティエさん……?」


 いつの間にか、扉の脇に、腕を組んで立つルナティエの姿があった。


 オリヴィアは目を擦り、肩越しに、ルナティエへと微笑を見せる。


「全然、大丈夫ですよ。今日は夜通し、ロザレナちゃんを看病するつもりですから。心配しないでください」


「はぁ……貴方、まさか食事も摂らないつもりなんですの?」


「? 食事? あっ、もうお昼ご飯の時間ですか!? ごめんなさい、今、支度を―――」


「お馬鹿さん。もうとっくに日は落ちていますわよ。外をご覧なさい」


「え?」


 オリヴィアは窓の外へと視線を向ける。そこには夜空に浮かぶ三日月の姿があった。


 その光景を見て、オリヴィアは驚いたように目を丸くさせる。


「き、気付きませんでした。もう、夜だったんですね……」


「ジェシカが、貴方のことを心配していましたわよ。今日一日ロザレナの部屋から出る気配もなく、声を掛けても上の空でボーッとしていると。貴方、ロザレナさんの看病に集中するのは良いですが、少しは周りの目も気にしなさい。この寮にいるのは、何も貴方だけではないのですから」


「ご、ごめんなさい……」


 オリヴィアはしゅんとした様子で顔を俯かせる。


 そんな彼女を見てルナティエは深く息を吐くと、オリヴィアに近付き、肩をポンと叩いた。


「夜の看病はわたくしにお任せなさい。貴方は十分な食事を摂り、明日に備えなえてさっさと寝ると良いですわ」


「え? ル、ルナティエさんが、ロザレナちゃんの看病を……?」


「何か文句でもありますの?」


「い、いえ、その……こんな状況でこんなことを言うのもアレだとは思うのですが……ルナティエさんって、ロザレナちゃんと、その、入学してすぐに決闘をしていたではないですか? 今は、ロザレナちゃんと仲……良いんですか?」


「はぁ? 変なこと仰らないでくださいますか? わたくしとそこのゴリラ女は、一度も仲が良かったことなどなくってよ。わたくしにとってそいつは今でも敵に変わりないですわ。勘違いしないで欲しいですわね」


「……だったら、何故、ロザレナちゃんの看病を? 嫌いな相手を看病するなんて、変じゃありませんか?」


 そう口にすると、オリヴィアは敵意剝き出しでルナティエを睨み付ける。


 だがルナティエは気にも留めずに、ふんと、鼻を鳴らした。


「この前の学級対抗戦……ロザレナさんがいなければ、わたくしはシュゼットに一矢報いることさえできなかった。わたくしにとってその女は、クラスを躍進させる上で必要不可欠な存在―――いいえ、少し違いますわね。わたくしにとって、ロザレナ・ウェス・レテキュラータスは、生涯を通して踏破すべき難敵。そんな難敵が、わたくし以外の、それも病にやられるだなんて……認められるはずもありませんもの。このゴリラ女には、絶対に生きてもらわなければなりませんの。今後の剣士としてのわたくしのためにも、ね」


「……ルナティエさん……」


「まっ、そういったわけで、安心すると良いですわ。貴方たち寮生の仲良しこよしに混ざる気など毛頭ありませんが、今回だけは特別に協力してあげても構いません。この栄光あるフランシア家の才女が協力をするのですから、大船に乗ったつもりでいなさぁい!! オーホッホッホッホッ―――うぐっ!?」


 オリヴィアは席を立ち、高笑いを上げるルナティエに抱き着くと、満面の笑みを浮かべた。


「ルナティエさん……いいえ、ルナティエちゃん!! ありがとうございます!! 私、今まで貴方のことを勘違いしていました!! 本当はとっても優しい子だったんですね!!」


「や、やざじい……? そ、そんなつもりは……ちょっ、く、苦しいですわ!! 貴方、どんだけ馬鹿力なんですの……!? 背骨がぐきっっていきましたわよ!? ぐきって!!」


「あ、あぁ……ご、ごめんなさい!! ルナティエちゃん……!!」


 慌ててルナティエから離れるオリヴィア。そんな彼女に対して、ルナティエは引き攣った笑みを浮かべる。


「バルトシュタイン家の息女は、とてつもない怪力だと噂で聞いたことがありましたが……なるほど、噂は本当だった、ということですのね……ケホッケホッ」


「え? ル、ルナティエちゃん、私が、バルトシュタイン家の娘だって……気付いてたんですか!?」


「? ええ。わたくし、敵方の御家……特に四大騎士公の血族の者は大体調べてありますの。ですから、名前を隠したところで、貴方の情報など最初から筒抜けでしってよ。この天才の抜かりのなさに、恐れ慄きなさい!! オーホッホッホッホッ―――うぎゃっ!!」


「嬉しいです!! バルトシュタイン家の娘だと知っても、ルナティエちゃんは普通に接してくれたんですね!! アネットちゃんに続き二人目です!! 私の背景を知っても普通でいてくれたお友達は!!」


「ちょ―――死ぬ!! その馬鹿力で、抱き着かないで欲しいですわぁぁぁぁ!!!!!」


 午後七時過ぎ。満月亭の寮に、金髪ドリルお嬢様の叫び声が、響き渡っていくのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ゴトゴトと音を立てて、馬車は畦道を進んで行く。


 俺は馬車の荷台の端に座り、足をブラブラとさせながら、空に浮かぶ月を見つめた。


「……三日月だ」


 空には虫に食われたような欠けた月が浮かんでおり、満天の星空が輝いている。


 とても神秘的で美しい情景だ。


 その光景を静かに見つめていると、背後から声を掛けられた。


「本当だ。綺麗だねー」


 振り返ると、そこにはアンナの姿があった。


 アンナは、俺の横に座ると、同じようにして空を見上げる。


 そして、ニコリと笑みを浮かべ、俺に顔を向けて来た。


「町の明かりがないせいか、普段よりも星がずっと綺麗に見えるよね。冒険者って、過酷なことが多いけど、こういった綺麗な自然の風景を見れるから良いこともあるんだよ」


「ですね。王都から離れて、各地の世界を見て回ることができる―――それは、開拓者である冒険者の特権なのかもしれません」


 ロザレナにも、この景色を見せてあげたかったな。


 我が主人のことだから、見るもの全てに感動して、大はしゃぎしそうだ。


 思い返してみれば……俺とロザレナは、不思議と月とは縁がある。


 ロザレナと五年ぶりに再開した時、夜中にこっそり庭に出て、二人で満月を眺めていたこと。


 その後、聖騎士養成学校に入り、ルナティエとの決闘を決意したロザレナに剣を教えようと思った時も、空には三日月が浮かんでいた。


 何だか、ロザレナとの重大な出来事がある日は彼女と共に月を眺めていたような気がする。


 月を見ると、どうにもお嬢様のことを思い出してしまって仕方がない。


「? アネットちゃん? 急にボーッとして、どうしたの?」


「あ、いえ、何でもありません。……そうだ、今ここは、どの辺なのでしょうか? アンナさん」


「ちょい待ってねー」


 アンナは懐から丸められた地図を取り出すと、それに目を通し始める。


「うーんと、多分、王領のメルクセリア領だと思う。オフィアーヌ領に着くのは、夜中くらいになるんじゃないかな」


「そうですか。それにしても、オフィアーヌ領……ですか。まさか、こんな形でかの地に行くことになるとは思いもしませんでした」


「? 何か、オフィアーヌ領に思い入れでもあるの?」


「いえ。一度も行ったことは無いのですが……少しだけ、縁がありまして」


 ……亡くなった父と母、先代オフィアーヌ家夫妻が暮らしていた土地。


 兄、ギルフォードが暮らしていた場所。そして、俺が、産まれた場所。


 今現在は、分家の親戚たちが暮らす土地になっている。


 現オフィアーヌ家の人間で知っているのは、今のところシュゼットだけだ。


 そういえば、シュゼットの奴はロザレナに敗けた後、どうしているのだろうか。


 ロザレナによって無敗に傷を付けられ、プライドを粉々にぶち折られて意気消沈しているのか。


 それとも、ロザレナをライバルと認め、新たに成長をしようと再スタートを切っているのか。


 あいつは分家の娘だから、多分、俺の従姉妹にあたる存在なのかな。


 平穏に生きたい俺としては正体を晒す気などさらさらないが、シュゼットとは、今後も仲良くしていきたいものだな。


 家族は、多い方が絶対に良いに決まっている。


 直接血は繋がっていなくとも、俺に従姉妹がいることを知ったら、マグレットだって喜ぶはずだ。


「……いや、オフィアーヌ家はどうにもきな臭い。できる限り関わらない方が無難、か」


 俺の両親やコルルシュカの姉が亡くなった、フィアレンス事変。


 あの出来事に関わっているのは、バルトシュタイン家と聖騎士団、そして、王家だ。


 駒であるリーゼロッテの奴は倒したが、あの女はやはり、何の情報も持っていない兵士でしかなかった。


 兵を動かしているゴーヴェンや王家が元凶であり、奴らが上で騎士を操っていたと見るべきだろう。


 それか……オフィアーヌ家の者が、裏で画策していた、とかな。


 確証は持てないが、オフィアーヌ家の血縁者が、当主の座を求めて父を謀殺した可能性もある。


 故に、オフィアーヌ家の者と関わるのは極力避けた方が良さそうだ。


「アネットちゃん、何だか怖い顔しているけど……大丈夫?」


 隣からそう、アンナが心配そうな顔で声を掛けてくる。


 俺はそんな彼女にニコリと、微笑みを返した。


「少し、考え事をしていました。最近はどうにも、色々なことが起こりまして。脳がパンクしそうなんですよ」


「無敵のメイド、アネットちゃんでも、悩みなんてあるんだ?」


「私は無敵なんかじゃありませんよ。病で苦しむ主人を救うこともできない、ただの無力なメイドです」


「アネットちゃん……」


 そう、俺は、一人じゃ何もできない。


 ロザレナをオリヴィアや満月亭のみんなに任せ、大森林を捜索するためにアンナたちに同行を申し出ていることからしても、それは明白だろう。


 いくら剣の腕があったところで、主人の病を治すのには、何の解決にもならない。


 剣士は孤高であるべきだ、なんて言う奴がたまにいるが、それは違う。


 剣の道を究めたところで、一人の剣士が出来ることなどたかが知れている。


 仲間がいるからこそ、己の剣は強度を増す。そんなことを、俺は、転生してから学ぶことができた。 


「アンナさん。どうか、私に御力をお貸しください。ロザレナお嬢様を救うための、力を」


 そう言って俺は、アンナに頭を下げる。


 アンナはそんな俺にクスリと笑みを溢すと、俺の肩をポンと叩いて来た。


「当たり前じゃん。私たちは、奴隷時代に一緒に捕まっていた仲間でしょ? 友達なんだから……そんなに畏まらなくても良いんだよ、アネットちゃん」


 顔を上げると、アンナは目を細め、優しく微笑を浮かべていた。


 その顔に、俺は思わず涙が出そうになってしまった。

第126話を読んでくださって、ありがとうございました!


今日は、みなさまにご報告がございます!

Xの方のアカウントを見てくださった方は、何となく知っているかと思いますが……なんと、剣聖メイドの書籍版第1巻、各店舗様で予約開始致しました~!!

ゲーマーズ様では、タペストリー付き限定版が販売されています!!

ゲーマーズ様の販売サイトで調べていただくと、ロザレナとアネットのタペストリーのイラストが見れますよ!!

何気にロザレナのイラストは初公開です!!

イラストを担当してくださったazuタロウ先生の描いてくださった綺麗で可愛いロザレナを、ぜひ、ご覧ください!!

めっちゃ可愛いです!!  


お知らせは以上となります!

では、みなさま方、また次回お会い致しましょう!!

次回はできたら明日投稿する予定です!


ここまで読んでくださって、ありがとうございました!

みなさま、良い休日をお過ごしくださいませ~!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍限定版予約しました!楽しみにしてます!
[一言] オリヴィアは新に信頼できる友達ができて良かった アネットはやはり危機感知が半端ないね、絶対にぬんか起きるからなぁ
[一言] 連日投稿とっても嬉しいです!(^^)! この時間帯に更新ボタンを押すのが日課になってます(笑) ただあまりご無理のないようにとも思っておりますm(__)m
感想一覧
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