第112話 元剣聖のメイドのおっさん、姫カットの少女と再会する。
午後六時半。土砂降りの雨の中、俺は…城下街の街路を駆けて行く。
そして、目的地である本日17件目の医院に辿り着くと、その扉をノックし、大きく声を張り上げた。
「すいません! 病院、空いてますか!? 往診して診てもらいたい人がいるのですが!」
そう叫ぶが、無反応。休診の札がドアノブにぶらさがっていることからして、この医院もどうやら今日は休みのようだ。
俺はチッと舌打ちをして、再び人気のない街路を駆け抜けて行く。
――――――学級対抗戦から四日。ロザレナは未だ、目を覚ましていない。
意識が戻るどころか、日に日に熱が上がっていき…ついには、苦しそうに咳を出し始めてしまっていた。
日が経つごとに衰弱していく彼女の姿に、俺の心は焦る一方で。
彼女を診察してくれる医者がいないか、現在、王都の医院の方々を訪ねて回っているところだった。
「すいません! 患者がいるんですが、診てもらえないでしょうか!?」
本日18件目の医院を訪ねるも、またしても無反応。
この嵐の日に、外に出ているわけでもあるまい。俺は扉から一旦離れて…助走を付けて跳躍し、目の前の扉を、勢いよく蹴破った。
「なっ―――――!?」
リビングで寛いでいたと思しき医者と、その妻と娘が、テーブルに座りながらこちらを驚いた顔で見つめてくる。
俺は、夕飯のパンを食べようと手を止めていた初老の男性に近付くと…そのまま彼の前に立ち、静かに口を開いた。
「………何故、無視するのですか?」
「な、何だ、お前は!? 何でメイドが、ここに…!?」
「無礼は先んじて謝罪しておきます。お食事中、誠に申し訳ございません。……単刀直入に説明させていただきますが、我が主人…レティキュラータス家の息女、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス様が病に伏してしまいました。今からその病を、診てもらうことはできないしょうか? 診察代はいくらでも出します。ですからどうか、お願いします。ロザレナ様をお助けください」
そう言って深く頭を下げると……医者はパンを喰いちぎり、嘲笑の声をこちらに向けてきた。
「はっ! レティキュラータスだと? 放蕩貴族の娘を、何で俺が助けなきゃならねぇんだ! 他所の医者も、誰もそんなゴミを診る奴なんざいねーぜ! 死ねば良いんだよ、税金喰らいの無能貴族なんてな!」
「……」
俺は顔を上げ、そのまま彼に近付いて行き――――医者の胸倉を掴み、椅子から引きずり降ろして、勢いよく地面へと叩きつけた。
「うぎゃっ!? た、たかが、メイドの女のどこに、こんな力が……!!」
「悪いですが私は今、非常に虫の居所が悪いんです。言葉には気を付けてください」
「ッ!? なん、だ、お前……!!」
「良いから答えてください。今から私と共に患者の元に行くのか、行かないのか」
鋭い眼光と共にそう言い放つと、男はハンと鼻を鳴らして、怯えながらも開口した。
「町医者ならともかく、王都の医院は完全予約制なんだ。今日みたいな嵐の日にわざわざ往診する医者なんてどこにもいるわけがねぇ! 分かったんならさっさと帰んな! 聖騎士団を呼ぶぞ!」
「…………クソが」
俺は医者の胸倉から手を離すと、近くにあった椅子を蹴り飛ばし、そのまま外へと出る。
傘も持たずに王都を駆け巡っていたため、全身びしょ濡れだが、そんなことを今気にしている場合じゃない。
ロザレナは今こうしている間も、原因不明の病に苦しんでいるんだ。
あの子を助けるためならば、俺は…俺は、何だって、やってやるさ。
俺は、最強の剣聖、アーノイック・ブルシュトロームだ。できないことなんて、何もないはずだろう…!!
「次の医院を探さなきゃ……」
再度街路へと出て、石畳を蹴り上げ、豪雨の中を駆け足で駆け抜けていく。
だが、午前中から夕刻時まで走り回っていたせいか…足がもつれ、俺は、そのまま石畳の上に前のめりに倒れ伏してしまった。
苦悶の表情を浮かべながらも、頬に泥が付いたまま、俺は立ち上がり―――歩みを再開させる。
「お嬢様…待っていてください、私が必ず貴方様をお救いしてみせます…っ!」
『――――――あたしは、何があっても貴方からは離れない。例え、貴方があたし以外の人を好きになったとしても、あたしはアネットのことを嫌いになったりなんてしないんだから。アネットが許してくれる限り、ずっと、傍にいるわ』
俺の傍から離れないって、そう、言ったじゃないですか。
なのに、何で、何で……俺を置いていったんですか、お嬢様……!!
また、目を覚ましてくださいよ! また、俺のからかいの言葉に、不機嫌そうに唇を尖らせてくださいよ…!
俺、転生して、貴方のメイドになれて……心の底から良かったと、幸福だと、そう思っているんですよ!?
俺は、貴方を、一人の女性として愛していると……やっとそう、自覚したんだ。
それなのに、何で…何で、こんなことに……。
「――――あっ!」
またしても足を滑らせ、俺は前のめりに盛大に転倒する。
打ち付けた身体がじんじんと痛む。リーゼロッテとの戦いで残った擦り傷が、雨に染みて痛い。
「くそ……! くそっ……!!」
身体が重い。頭が痛い。思うように、立ち上がることが出来ない。
雨と共に涙が頬を伝って行く。俺は、この国で一番の剣士だったというのに…何で、何でこんなに無力なんだろう。
何で、愛した人を救うことができないんだろう。
悔しくて、仕方がない。
「…おや?」
…その時。振り続けた雨が止み、目の前に人影が現れたのに、俺は気が付いた。
「―――――もしかして……そこで倒れているのは…アネットさんか?」
「え?」
うつ伏せになった状態で顔を上げる。すると、そこには…聖騎士養成学校の教師、ブルーノ・レクエンティーが目の前に立ち、俺に傘を差している姿があった。
その光景に思わず、俺は瞳をパチクリと瞬かせてしまう。
「ブルーノ…先生…?」
「こんな嵐の日に傘も差さずに地面に倒れているとは…いったいどうしたのかな? ふむ…一先ず君は、服を乾かした方が良い。そのままじゃ風邪を引くよ」
「……ご心配、ありがとうございます。ですが、私は、お医者様を探さねばならないのです。私の主が、今も、病に苦しんでいるんですよ……!! ですから……!!」
「病…?」
俺は立ち上がり、スカートに付いた泥を手で払うと、そのままブルーノに深くお辞儀をして、彼の横を通り抜けようと歩みを再開させる。
だが…そんな俺の腕を、ブルーノはがっしりと、掴んできた。
「待ってくれ、アネットさん。他クラスの生徒とはいえど、教師として、このまま君を放置するわけにはいかないよ」
「離してください。私は、お嬢様を何としてでも救わなければならないのです…!!」
「駄目だ。離さない」
「そう仰るならば……!!」
俺は右手を掴んでいるブル―ノの腕の骨を、バキバキに折ってやろうと、手を伸ばした。
だが――――彼の次の言葉で、俺はその行為をすんでのところで止めた。
「病に伏しているといったね。今から僕に彼女の病状を見せてもらえるかな」
「え……?」
「忘れたのかい? 僕はこれでも魔法薬学の教師だ。ある程度、医術もかじっているんだよ」
そう言って、ブルーノは小さく笑みを浮かべた。
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「はぁはぁ……はぁはぁ……」
ベッドの上で苦しそうに呻き声を上げるロザレナ。
そんな彼女の様子を上から見下ろすと、ブルーノはロザレナの首元に手を当てて、小さく呟いた。
「……脈が早いな。体温も高い。ふむ…40度近い高熱だ。発汗も、もの凄い。目の充血は…見られないか」
ロザレナの下瞼を開けたり、口の中の状態をある程度確認して診断した後、ブルーノは顎に手を当て考え込む。
そして数分程思考した後、彼はこちらを振り返り、無表情で開口した。
「………彼女は確か、学級対抗戦で多くの血を流したと、そう言っていたかな? アネットさん」
「はい。お嬢様は、シュゼットさんとの戦いで身体中に無数の穴を開けられて…出血多量で危ない状況だったそうです。ですが、保険医のマーガレット先生が治癒魔法で回復してくれたので…何とか一命は取り留めたと聞きました」
「そうか。なるほど。………血を流した、場所…。やはり原因はフランシア平原と見るべき、か……」
「え……?」
「学級対抗戦が始まる前、僕は君に、フランシア平原は遺物が眠る土地だと…そう言ったのを覚えているかな?」
「え、ええ、はい。覚えていますが…」
「フランシア平原は人の手が入っていない、言うなれば、古代の大地だ。あの土地には未知の遺物の他に、未知の地下性生物、そして…未知の細菌も眠っているとされている」
「未知の、細菌…?」
「そうだ。僕たち考古学者は、あの土地を発掘する際、けっして血を流してはいけないと教えられてきている。……とはいっても、採掘するのは2,30メートルはあろう深き穴の中での話だ。地表の上に、細菌が観測されたケースは今まで見られていないからね。だから…地表の上で戦っていた彼女が、何故、病に伏してしまったのかは…正直言って分からない」
「………そういえば…」
確かルナティエが、ロザレナはシュゼットの造り出した土の杭によってダメージを与えられたと、そう言っていた。
彼女が大地から魔法を創造する、地属性魔術師なら…地下深く眠っていた細菌を掘り起こしてしまった可能性も、あり得る、か…。
「どうやら、何か、思い当たることがありそうだね」
「…はい。シュゼットさんは地属性魔術師です。ですから―――」
「――――――アネットちゃん、タオルを持ってきましたよ!」
その時、バンと勢いよく扉を開けて、オリヴィアが室内へと入って来る。
そして彼女は背後から俺の頭にタオルを被せると、わしゃわしゃとタオル越しに髪を撫で回してきた。
そしてその後、オリヴィアは怒った口調で俺に声を掛けてくる。
「もうっ! つい先日に無理はしないでくださいとあれほど言ったのに! こんなにビショビショになって! 風邪でも引いたらどうするつもりなんですかっ!」
「ご、ごめんなさい、オリヴィア…」
「今から私と一緒にお風呂に入りますよ! ついて来てください!」
「わっ、ちょ、オリヴィア!?」
手首を掴まれた俺は、そのまま扉の前まで連れていかれる。
そんな俺に、ブルーノはニコリと、優しく微笑みを浮かべた。
「それじゃあ、僕は一旦学校に戻るとするよ。落ち着いたら、実習棟の四階にある、魔法薬学科の教室を訪ねて来ると良い。効くかどうかは分からないけれど、とりあえず、彼女に処方する解熱剤を用意しておくから。僕は魔法薬学部の顧問だから、研究室はずっと開けておくよ」
「あっ、は、はい! 分かりました、ブルーノ先生!」
「うん。ロザレナさんの看病は、リビングにいたジェシカさんに任せておくことにするよ。それじゃあね」
そう言って、ブルーノは俺とオリヴィアの横を通り過ぎて、一階へと降りて行った。
そんな彼の姿をじっと見つめた後、オリヴィアは俺に視線を向けて、声を掛けてくる。
「私も、一応、ブルーノ先生が担当する魔法薬学部の部員なんです。お風呂に入った後、一緒に研究室に行きましょう、アネットちゃん」
「あっ、そうなんですね。……そういえば、オリヴィアは、バルトシュタイン家の御屋敷の自室に、たくさんの自作の魔法薬液を精製して保存していましたね。魔法薬学部に在籍しているのも、その…左目治療のため、ですか?」
「はい。以前に言った通り、私は、父に付けられたこの火傷の跡を治療したい一心で、魔法薬学の研究に没頭しています」
そう言って彼女は左目の眼帯に手を当てて、にこりと、悲しそうに微笑を俺に向けてくる。
………消えない火傷跡、か。
前から思っていたが、恐らくゴーヴェンの奴は、生前の俺が持っていた刀『青狼刀』と似た効果の妖刀を保持していると推察できるな。
オリヴィアの治癒できない火傷跡は、外傷と言うよりも、呪いの一種に近いものだろう。
………自分の娘の顔に消せない傷を残すだなんて、本当に、どうかしている父親だな。
「ほら、早く行きますよ、アネットちゃん! そんな泥だらけの姿でいたら、お嫁さんに行けなくなってしまいますよ!」
「お、お嫁さんには絶対に行きたくないですよ!! オリヴィア!!」
オリヴィアは俺の手を引っ張ると、部屋から出て、ずんずんと廊下を進んで行く。
彼女は以前まで、人に顔の傷を見られないために、深夜に湯浴みをしていたみたいだが…もう、俺には、その顔の怪我を見られる抵抗はないみたいだな。
彼女が、一部の人間だけとはいえども、その素顔を他人に晒せるようになったのは…喜ばしいことだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―――――夜の帳が落ちた後。午後七時半。
湯浴みを終えた俺は、新品のメイド服に袖を通して、オリヴィアと共に実習棟を歩いていた。
夜に学校を訪れるという経験は今までに一度も無かったため、何というか、新鮮な感覚がするものだな。
歩きながら、チラリと、廊下の窓から外へと視線を向けて見る。
相も変わらず外は土砂降りの雨が降っており、強風が、窓をバンバンと強く叩きつけている姿が見て取れる。
緑風の節――七月に入った途端に嵐に見舞われるとは、な……。
ロザレナの病気が発症した直後に天気が荒れるだなんて、本当に、ついていない。
「着きました。ここが、魔法薬学部の研究室です」
オリヴィアと共に、魔法薬学部の教室の前へと辿り着く。
そして彼女はガラガラと扉を開くと、中に入り、開口した。
「すいません、ブルーノ先生、いらっしゃいますかー? ロザレナちゃんのお薬を取りに来たのですがー」
研究室の中へと入って行くオリヴィアに続いて、俺も教室の中へと足を踏み入れる。
すると、鼻を刺すようなツーンとした薬剤の匂いが、俺を出迎えた。
魔法薬学部の研究室は、とても薄暗く、照明は、天井からランタンが吊るされているだけだった。
黒板に向かって四列の長机が配置されており、その上には、フラスコやビーカーなどの器具や書物などが乱雑に置かれている姿が散見できる。
床には何故か顔を模した穴の開いたカボチャが置かれているなど…室内はとても不気味な内装をしていた。
「………あ、あれ、オリヴィア先輩、ですか…?」
最奥にある机に座っていた1人の女子生徒がこちらの姿に気付き、声を掛けてくる。
そんな彼女に、オリヴィアは柔和な笑みを浮かべ、声を掛けた。
「ミレーナちゃん、まだ、学校にいたんですね。……もしかして今日も、泊まりで研究、ですか?」
「は、はい。うち、一人暮らしなので、家に帰っても誰もいないですし……。だったら、家に帰らずに研究室で魔法薬を合成していても良いかな、と。ここには、あの子たちもいるから……」
「あの子たち? あぁ、ミレーナちゃんの育てている薬草さんたちのことですか?」
「ですです! うちの可愛い子供たちですぅ!!」
そう言って頬に両手を当て、恍惚とした様子を見せるミレーナと呼ばれた少女。
……ん? ミレーナ…? その名前、どこかで聞いた覚えが……。
「と、ところで…先輩の後ろにいらっしゃる方は、ど、どどどど、どなたでしょうか?」
「あぁ、この子は、私と同じ寮のお友達なんです。とっても良い子ですから、ミレーナちゃんもきっと仲良くなれると思いますよ~」
「う、うぅぅぅぅ、うちは、極度の人見知りでして、し、知らない人は怖くてしかたがないですよぉ~~!!」
「大丈夫ですよ~。アネットちゃん、彼女は、二年生のミレーナ・ウェンディさんです~」
オリヴィアの言葉に頷いた後、前に出ると、俺は、教室の最奥で机に突っ伏して身体を震わせている女子生徒へと声を掛けてみる。
「初めまして。私はアネット・イークウェスと申す者です。あの、先ほど、薬草を育てていると聞きましたが、何か病に効くような薬草をご存知ではないでしょ―――――」
「アネット・イークウェス……?」
驚いた様子で机から顔を上げる、ミレーナと呼ばれた少女。
そして彼女は、俺と目が合うと……その顔を、恐怖で青白くさせた。
「ぴ、ぴえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!! 貴方はぁぁ!! 人殺しメイドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
「き、君は……奴隷商団で一緒に捕まっていた…水色の髪の、姫カットの女の子……」
「や、殺られるぅぅぅぅぅぅ!! 髪掴まれて顔をガンガン地面に殴りつけられるぅぅぅぅぅ!! うちのトラウマが掘り起こされるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!! 悪魔メイド!! 拷問メイド!! ぴぃぎぃぃややゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」
そ、そういえば、この子、この学校に入学する前にロザレナと学校前で出くわしていたっけな。
同じ学校の二年生とは言っていたが……まさか、この魔法薬学部の部員だったとは思いもしなかった。
「アネットちゃんが…人殺しメイド? いったいどういうことですか、ミレーナちゃん?」
「そ、その人は、子供のころ、一緒に奴隷商団に捕まって、そ、それで、男の人の頭を地面に叩きつけて拷問したり、ダガー1本で敵の親玉やっつけ………もがぁっ!?」
俺は急いで駆け寄り、ミレーナの口を右手で塞いだ。
そして、至近距離でにこりと、有無を言わせずに彼女へ微笑みを浮かべる。
「………少し、黙りましょうか? ね? ミレーナさん?」
「むごごごがぁぁあぁぁぁ!?!?!?」
涙目でガクガクと震え始めるミレーナ。
しかし…そうだったな。この女は、俺がジェネディクトを倒したあの現場を、見ていたんだっだな。
冷静に考えれば、この学校で俺の実力を知る人間は、ロザレナとグレイレウス以外にもいたのだった。
何でこのことにもっと早く気付かなかったのか。下手したら、ゴーヴェンなどに情報が渡り、先のリーゼロッテを無力化する計画にも支障をきたすところであった。
ふぅ、危ない危ない……。致命的なミスとなる前にこのことに気が付けて良かったぜ……。
「むがぁぁぁぁぁ!!!! ほがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「……ミレーナさん、私の過去のことは、誰にも言わないでください。分かりましたか?」
「もがががががぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
「分かりましたよね?」
「ふがががぁぁぁぁぁぁあぁぁ!! んぱぱぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
何とも言えない少女の悲痛な叫び声が、魔法薬学部の教室に響き渡っていった。




