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第111話 剣聖の少女、剣神たちの議会に参加する。


《リトリシア視点》


 ―――――50年前に起こった帝国と王国の大戦時。


 物資が不足した聖騎士団は森妖精族の住まう共和国を襲い、そこで、聖騎士団の手によって大量のエルフが捕虜として捕らえられ…私と母は王国へとやってくることとなった。


 母はその美しい美貌から、バルトシュタイン家に愛妾として迎えられ、私は…戦災孤児として、奈落の掃き溜めへと放り捨てられた。


 当時12歳だった幼い私が、異国のスラム街で真っ当に生きられる手段など、あるはずもなく。


 喉が渇いても、泥水を啜ることしかできず、食べ物も、蠅がたかる腐った残飯にしかありつけない。


 夜は人攫いが来るから、軒下に隠れて震えながら眠る毎日。


 残酷で非情な現実が、スラムでの生活。その日々の連続に、私は徐々に疲弊していき……2ヶ月後には、極度の栄養失調によって筋力が低下し、自力で立てることもできなくなってしまっていた。


『……うぇっ! なんだよ、こいつ、死にかけの森妖精族(エルフ)か!? くっせぇなぁ!』


 道行く人々が、スラムの道端に倒れている私に侮蔑の目を向けて、去って行く。

 

 汚らしいと、見るに堪えないと、臭くて敵わないと、人々はそう言って私の前を通っていった。


 悲しかったけど、涙は出なかった。私の心はもう、死んでいたから。


 心を殺せば、どんな状況でも辛くなくなる。他人に見下されても、どうでも良く思える。


 私は……無だ。道端に転がる、石ころなんだ。そう、思い込むようにしていた。



『………ガキ、そこで、何をしていやがる』



 いつの間にか、私を見下ろしている一人の男がいた。


 熊のように大きな身体の、無精髭が生えた、大男だ。


 彼は、光のない漆黒の目を私に向け、再度、口を開く。


『……喋れねぇのか、お前』


『……』


『世の中のすべてに絶望したって顔をしていやがるな。こんなにガリガリにやせ細っちまいやがって。メシ、食ってねぇのか』


 そう言って、大男は深くため息を吐くと……突如、悲しそうに微笑みを浮かべた。


 そして、私に向けて、その大きな掌を差し出してくる。



『俺と一緒に来るか?』



 ……その瞬間。ブワッと、瞳の奥から熱いものが込み上げ…大粒の涙が頬を伝っていくのが分かった。


 さっきまで、上手く感情を殺しきっていたと思っていたのに。私は、道端の石ころだったはずなのに。


 何故だか、止めどなく流れ落ちる涙の奔流を止めることができない。感情を、抑えることができない。


 ――――彼は、ゴミ同然の私を見つけ、手を、差し伸べてくれたのだ。


『あ……あぅ…あぁ……』


 震える手を伸ばす。腕を上げるのも限界だったけれど、最後の力を振り絞って天へと手を伸ばす。


 救いを求めるように、高く、高く、高く、手のひらを伸ばしていく。


 そして、私は、その大きな指を……ギュッと、強く握りしめた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……また、あの時の夢…ですか……」


 ベッドから起き上がり、私は額に手を当て、ふぅと短く息を吐く。


 ………初めて見た彼の顔は、今にも死にそうな表情をしていたのを、よく覚えている。


 亡くなる二日前に父、アーノイックは、私にこう言っていた。


『あの時の自分は、自殺するつもりだった。だけど、お前と出逢って、俺は救われた』…と。


 ………二人で共に過ごした、彼との最期の時間……あの蜜月の時は、今でも忘れることができない。


 剣を忘れて、安穏と二人で過ごした雪山の別荘での日々は、とても…とても、愛おしい思い出だった。


 もう一度、あの人に…お父さん、に、会いたい。


 どれだけ私が彼を愛していたのかを、直接、あの御方に伝えたい。


「………お父、さん…」


 ベッドの上で、ギュッと自分の身体を抱きしめ、顔を俯かせる。


 今代の剣聖として、こんな情けない姿を、誰かに見せられはしないだろう。


 剣聖とは人類の護り手であり、王国の剣士の頂点に君臨する存在だ。


 故に、常時、強者然としていなければならない。剣の国の英雄として、弱みなど見せてはならない。


 ……でも、父を失ってから30年。


 私は、未だに、毎朝、父の面影を思い出してはこうして涙を流してしまっていた。


 何年経っても、あの人を失った悲しみが癒えることは、なかった。いつも、父の夢を見てしまう。


『――――一介の剣士だなんて、自分をそんなに卑下するんじゃねぇリトリシア。俺様は世界最強の剣聖だぞ? そんな俺様の弟子なのだから、もっと胸を張りやがれ。てめぇは強い。この俺の自慢の弟子…いや、お前は俺の自慢の娘だったぜ、リティ』


「……そうだ。私は、最強の剣聖アーノイック・ブルシュトロームの娘なんだ。だから――」


 パジャマの袖で涙を拭いて、ベッドから立ち上がる。


 父から貰った剣聖の名に恥じないように、私は、最強の剣士の娘として堂々と生きなければならない。


 きっと、どこかで…空の上で、あの人は、私のことを見ていると思うから……。


 彼に笑われないためにも、頑張らなきゃ。


 私はベッドから降り、衣服を着替えるべく、クローゼットの扉を開いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「………剣聖・剣神会議、か…」



 そう呟いて、私は、長い廊下をまっすぐと進んで行く。


 緊急の招集ということでこの場に赴いたが…聖騎士団の本舎に来るのは、いったい何年ぶりのことだろうか。


 ええと、確か…ジェネディクト・バルトシュタインを捕獲した、五年前の事件以来…だったでしょうか。


 今思えば、あの事件は、色々と不可解なことが多かったように感じる。


 報告書では私がジェネディクトを討伐したことになっているが、真実としては、彼は、私が倒したのではない。


 私が任務に赴く前に、あの男はもう、死に体となっていたのだ。


 結局、いくら調査しても、ジェネディクトを倒した人間の目星は付かなかった。


 あのレベルの剣士を倒せるとしたら、【剣聖】である私に近い実力を持つ剣士だけだろうが…そんな人間が果たして今、この聖王国にいるのだろうか。


 もし、いるのだとしたら、その人間は…人の領域を逸脱した力を持って尚、その力を隠し、日常生活を送っているということになる。


 だけど、あの現場にいたのは、囚われていた少年少女たちだけ。


 幼い彼らが、かの【迅雷剣】に何かできるとは思えない。


 だが―――――。


「………何か、何か私は……見落としてしまっているように感じられる…」


 欠けたピースを合わせれば、答えは出てきそうなのだが…そのピースに思い当たるヒントは出てこない。


 しかし、ひとつだけ、あるとしたら……。


『……そいつを倒した人が誰かを答えたら、■■■■に魔法薬液(ポーション)を使ってくれるのかしら』


「……? そういえば……?」


 あの時、闇組織に捕まっていた貴族令嬢が、あの男は自分のメイドが倒したと、そう言っていたような気がする…。

 

 当時は子供の戯言だと考えて無視していたが、明確に調査はしていなかった。


 確か、あの少女の名前は………何でしたっけ?


「よぉ、剣聖、待っていたぜぇ!」


 顎に手を当て考え事をしていたら、ふいに、前方から声を掛けられる。


 会議室の大きな扉に背中を預け立っていたのは―――鉱山族(ドワーフ)の少女、剣神、【旋風剣】ルティカ・オーギュストハイムだった。


 彼女は扉から離れて、背中に装備していた巨大なハンマーを取り出すと、ブンブンと振り回し始める。


 そして、ガンと地面にハンマーの柄を叩きつけると、私に対して不敵な笑みを浮かべてきた。


「さぁ! オレと今から決闘をしろ! 剣聖! 今日こそテメェのその頂点の称号を、オレ様が奪い取ってやる!!」


「……ルティカさん。今日は、バルトシュタイン家から会議があると、そう言われてこの場に招集されたのですよね? それなのに何故、私と決闘をするなどと言い始めたのでしょうか?」


「はっ! 何をくだらねぇこと言ってやがるんだ! 強者に出逢ったら決闘を挑むのは、剣士としての性だろうが!! 眠てぇこと言ってんじゃねぇぞ!! 王国最強の剣士!!」


 そう言って、ルティカは、ハンマーを構えて――――強烈な闘気をこちらに向けてくる。


 聖騎士団本舎でこのような不祥事はなるべく避けたかったのだが……剣を向けられた以上、仕方ない。


 私は、腰にある剣の柄に手を当て、腰を低く屈めた。


「ほう! お得意の【閃光剣】か! いいぜ! オレの【旋風剣】とどっちが早いか、勝負といこうじゃねぇ―――」


「何やっとるんじゃお主らは。邪魔じゃぞ、デカケツ女」


「どわっ!?」


 背後から蹴られたのか、ルティカは前のめりにドサリと倒れ伏す。


 彼女の後ろに居たのは――――パーカーのポケットに手を突っ込んだ、白髪モヒカン頭の老人だった。


「ハインライン殿!?」


「よぉ、久しぶりじゃな、リトリシア」


 三十年程前に亡くなった、私の偉大なる養父…アーノイック・ブルシュトロームの兄弟子である、ハインライン・ロックベルトが、そこには立っていた。


 私は父の兄弟子である彼に対して、深く頭を下げる。


「お久しぶりです、ハインライン殿。五年ぶりですね。お変わりなさそうで何よりです」


「リトリシアもな…って、お前さんは森妖精族(エルフ)だから、たった五年じゃそんなに変化はないか。……む、確か、五年前もこんな会話をした気がするのう」


「あははは、そうですね。そういえば……ジェシカはお元気ですか?」


「我が愛しの孫娘は、今は聖騎士養成学校に通っておるよ。お前さんのような女剣士になりたいそうじゃ。…まったく、ワシではなくお前に憧れを抱くとは、悲しい話じゃのぅ……」


「ジェシカは相変わらず剣の道を志しているのですね。それにしても、聖騎士養成学校、ですか…」


 ということは、かの学校に今年入学すると手紙で書いていた…私のかつての教え子のシュゼットと同級生になった、ということだろうか。


 彼女たちがどのように成長したのかは、少し、気になるところではありますね。


 いつか、暇ができたら、あの学校に顔を出して見ても良いのかもしれない。


「うむ。……それにしても…」


 ハインライン殿は突如しゃがみ込むと、お尻を突き上げて倒れているルティカを前にして…「むほほー」と、髭を撫でながら彼女の臀部を鑑賞しだした。


 そんな彼に対して、がばっと起き上がったルティカが、激昂した様子を見せる。


「何してやがる、エロジジイ!! ぶっ殺すぞ!!」


「何を言っておるんじゃ小娘。獣の皮を衣替わりに胸と下半身に履いている、ドエロイ恰好をしているお主が悪いんじゃろ」


「いつまでも剣神の座に居座っている老害が!! この場で叩き潰してやろうか!!」


「ほっほ、やれるものならやってみると良い。この【蒼焔剣】、お主程度にやられるほどまだ耄碌してはせんよ」


「んだと、このジ―――――」


「騒がしいな。何事かね?」


 その時……廊下の奥から、全身漆黒の甲冑鎧(フルプレートアーマー)を着た男が、姿を現した。


 フルフェイスの漆黒の兜を被ったその男は、バイザーの奥から黒い瞳を光らせ、静かに口を開く。


「すまないが諸君、ここは聖騎士団の本舎である。剣神である君たちが騒動を起こせば、聖騎士たちに混乱を招きかねない。あまり騒ぎを起こさないでもらいたいところだ」


「【氷絶剣】ヴィンセント・フォン・バルトシュタイン……ケッ、相変わらず不気味な野郎だ」


「そこは同感じゃな、小娘。ワシも、バルトシュタインの人間はどうにも昔からいけ好かんわい。彼奴らは、貴族の皮を被った、マフィアとしか思えない極悪非道な連中じゃからのう」


「クククッ、ハインライン殿、そう邪険に扱わないで貰いたい。俺は貴方のことを、別に嫌ってはいないのだがね」


「バルトシュタイン家の後継者がどの口で言っておるんじゃい。お主もゴーヴェン同様、この聖王国を腐らせる癌であることは間違いようがない。黒獅子の一族が、善人なわけがあるか」


「クククククッ………。実に、困ったものだな……」


 そう言って疲れたように大きくため息を吐くヴィンセント。


 彼は、四名いる剣神の中でも、最も邪悪な剣士であると言われている。


 赤子を縊り殺しただとか、人間の腸を好んで食べているとか、闇市で度々奴隷を買っては遊びと称して拷問を繰り返しているとか。


 不気味な笑い声を上げ、常に何かを企んで居そうな様子を見せるこの男は、剣神の中でも要注意すべき人物だと言えるだろう。


(ハインライン殿曰く、聖騎士団団長のゴーヴェンよりも、ヴィンセントの方が、厄介そうだという話でしたしね……。それに、一度だけ見たことがあるその兜の中身も、とても邪悪そうな顔をしていました)


 バルトシュタイン家の悪名は、この聖王国で広く知れ渡っている。


 かの一族は、全員が総じて性根の捻じ曲がった極悪人である、と…そう、私も父から聞き及んでいた。


 人々の安寧を守る剣聖として、この男は常にマークしておいた方が得策かもしれない。


「……さて、さっそく、会議を始めるとしようか」


 そう言って会議室の中に入ろうとしたヴィンセントの背中に、ルティカが声を掛ける。


「待て、【氷絶剣】。最後の剣神、【死神剣】ジャストラム・グリムガルドの姿がまだ見えてねぇぞ?」


「そうか。ルティカ、お前さんは五年前に剣神になったばかりの新参じゃから…ジャストラムがどういう奴なのかを知らぬのか」


「? どういうことだ?」


 首を傾げるルティカに、ハインラインはコホンと咳払いをして、再び開口する。


「ジャストラムは、超弩級のひきこもりでな。人前には滅多に姿を現さん。というか、ワシも、50年くらいまったく姿を見ておらん。今現在どこにいるのかもまるで分からん」


「……は? んだよそれ、死んでるとかじゃねーのか?」


「いや、生きてはおる。毎年、年の初めには律儀に奴から年賀状が届くからの。……まぁ、そんなわけで、あの女は、会議などには絶対に参加はしない。だから、無視して構わん」


 ……ジャストラム・グリムガルド。半獣人族(ハーフ・ビスレル)の先々代剣聖の実娘であり、父、アーノイックと、兄弟子ハインラインの兄弟弟子だった人物。


 相当な腕前の短剣使いだと聞いたことがあるが、私は、今まで彼女には一度も出会ったことはない。


 ……まぁ、正直に言うと、そもそも、会いたいという気持ち自体、あまりないのだが。


 まず、私の知らない父の過去を知る女というだけで、腹立たしくて仕方がない。


 彼を最もよく知り、愛している女性は自分だけで良い。


「―――――では、諸君、会議室に行くぞ。今日、貴殿ら聖王国最強の剣士を招集したのは、緊急の大事な話があったからだ。ついてきたまえ」


 そう言って、ヴィンセントは室内へと歩みを進めて行く。


 そんな彼に続いて、私たち三人も、静かに歩みを進めて行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「………クチャクチャクチャ……」


 ――――――深き森の底。そこで、ある獣は、同族である仲間を喰らい、飢えを凌いでいた。


 獣は、自分が『異端』であることに気付いていた。


 産まれた直後から自分が喰らう者であること、世界は、自分に喰らわれる側であることを、理解していた。


 だからその獣は、住処の周囲一帯にいる全ての生物を喰らっていった。


 植物も、動物も、魚も、魔物も、総じて全て。


 だが、彼の渇きが治まることはけっしてない。食欲が、止まることは無い。


「―――――――ハラガ、ヘッタ…」


 同族であるオークの足の肉を喰いちぎり、咀嚼した後、獣は立ち上がる。


 この森の中にいて、自身の渇きが治まることはない。

 

 彼は、新たな獲物を探すために、森の外へと出るべく、歩みを進めて行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


《リトリシア視点》


「大森林から、SSSランク相当の…災厄級の魔物が、発生したのですか…!?」


 私のその言葉に、ヴィンセントは向かいの席からコクリと頷く。


「あぁ。聖女殿が昨晩、【未来視】を使って、視たそうだ。森の中で一生を過ごしてくれれば問題は無いのだが……近々、王国領に降りてくるらしい。それで、甚大な被害が出るという。我らの中の何名かは死ぬそうだ」


 ヴィンセントのその言葉に、ルティカは椅子の背もたれに深く頭を預け、ハンと、鼻を鳴らす。


「聖女の予言も外れることはあるんだろ? 過去にSSランクの魔物とは戦ったことはあるが…大したことはない相手だったぞ? ひとつランクが上がっただけで、剣聖、剣神がやられるほどとは思えねぇけどな」


「果たして、それはどうかのぅ、小娘。過去にSSSランクの魔物が発生した時は…王都は、半壊状態になってしもうたんじゃぞ?」


「『黒炎龍』の件、か。ハッ! 先代剣聖の【覇王剣】が一撃で殺した奴だろ? 正直、オレ様は【覇王剣】の逸話は突拍子もなさすぎてあんまし信じちゃいねぇんだ。そのドラゴンも、伝記などではすげーやばい奴だと書かれちゃいるが……一撃でやられるとか、どうせ、しょうもねぇ奴だっただけの話だろ。吟遊詩人たちは脚色というものが大好きだからなぁ! ガッハッハッハ!」


 その発言に、私は思わずバンと机を叩きつけながら席を立ち、ルティカを鋭く睨みつけてしまう。


「…我が父である先代剣聖のことを愚弄する気ならば……この場で貴方を斬りますよ、ルティカ・オーギュストハイム」


「へぇ? 面白れぇ。やるか! 剣聖!」


 テーブルを挟んで互いに睨み合う私とルティカ。


 そんなこちらの様子に、ハインライン殿はハァと、大きくため息を吐いた。


「やめんか、お前ら。リトリシアも、アーノイックのことを馬鹿にされて怒るのは分かるが、安い挑発に乗るんじゃない。剣聖として、どっしりと構えておれい。お前さんの父ならばそう言うじゃろうよ」


「……申し訳ございません、ハインライン殿」


 私は席に座り、頭を下げる。


 そんなこちらの様子にうむと、頷くと、ハインラインはヴィンセントに視線を向けた。


「それで……どうする気なんじゃ、【氷絶剣】。ワシらでその魔物を先んじて討伐するのかの?」


「あぁ。今日は、諸君らにその話をしにきたのだ。聖女殿が見た未来では、聖王国の王都で、我らは魔物と相対していたのだと言う。だから…被害を抑えるために、かの魔物とは郊外の僻地で戦うこととする。大森林は、フィアレンスの森と直接繋がっている。故に、恐らく我らはオフィアーヌ領を舞台に戦うこととなるだろう」


「この時期が夏で助かったぜ。オフィアーヌ領は冬になるとまともに足を運ぶこともできねぇくらい寒いからな。寒さに弱い鉱山族(ドワーフ)にとって、あそこは地獄のような場所だぜ」


「オフィアーヌ領、ですか…」


 私は顎に手を当て、そう、小さく呟いた。


 そんな私に一瞬視線を向けた後、ヴィンセントは静かに開口する。


「これは、王都を襲った『黒炎龍』事件以来の、最大の魔物災害である。最強の剣聖【覇王剣】亡き今、この場にいる我ら王国最強の剣士たちで、事に対処しなければならない。【蒼焔剣】【旋風剣】【氷絶剣】【閃光剣】。この四人で協力し合い、聖王国の未来を守って行こう」


 そう言うと彼は不気味にクククッと、笑い声を上げたのだった。

第111話を読んでくださって、ありがとうございました!

次回は明日投稿する予定です。


よろしければモチベーション維持のために、評価、ブクマ、いいね、よろしくお願いします!

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