幕間 分岐点
《シュゼット視点》
―――――――あれは、まるで、黒い獣のようだった。
ロザレナさんは、その命を焚火に焼べ……空中を飛び、黒い炎を轟々と燃やし続けていく。
その闘志は、何度身体を石の刃で貫こうが、けっして折れることはない。
きっと彼女は、足がある限り、身体が動く限り、止まることはしないのだろう。
頂だけを見据え、牙を向きだしにし、踏破すべき敵へと向かって行く。
あれはまさしく、狂人といえる存在だ。どこか、頭のネジが外れてしまっているに違いない。
……過去に一度だけ見た剣神『ハインライン・ロックベルト』も、あのように狂った男だった。
剣豪と呼ばれる者たちは、命のやり取りを、血肉の削り合いを、真に楽しんでいる。
ああいった狂い人は戦いの最中、始終、不敵に笑みを浮かべているのだ。
私とは違う。私は、自分が強者であることを確認したいから、戦いに悦楽を見出していたにすぎない。
それは、真の強者の考えではない。奪われたくないから力を求める…それは弱者の言動だ。
『――――良いですか、シュゼット。私も貴方も、天才ではありますが、狂人ではありません。私たちは常人です。ですから、いつの日か必ず、到達が叶わぬ頂の近くで…常人の限界というものを知る日が来ます』
オフィアーヌ家で一か月だけ、私に剣の指導をしてくれた――【剣聖】リトリシア・ブルシュトローム師匠は、そう、私に言葉を掛けてくれた。
私は一時、彼女のような剣聖になることに憧れを抱いていた。
だが、剣の頂に立つ【剣聖】はそんな私に『自分を目指すことはするな』、と、そう言ってきた。
彼女曰く、自分は、偉大なる父の影にしかすぎない存在だと。
そんな存在を目指したところで、真の頂に到達することはけっしてできない、と。
彼女は、何処か、寂しそうな顔で……私と同じ、大切な人を亡くした者の顔をして、そう呟いた。
その悲痛な横顔がとても印象的だったのを、私は、今でもよく覚えている。
「………私は……狂人ではない…か。それは私と貴方がよく似ていたから、掛けてくださった言葉だったのですね…リトリシア師匠」
ベッドの上で目を覚ますと、側に人の気配を感じる。
ベッド脇からこちらを見下ろしていたのは、付き人のメイド、エリーシュアだった。
彼女はとても心配そうな顔をして、瞳の端に涙を貯めてこちらを見つめているのが見て取れる。
「……シュゼットお嬢様。お身体の具合はいかがですか?」
「エリーシュア…? どうしたのですか? そのような顔をして」
「シュゼット様……ぐすっ、申し訳、ございません…。私は失策を犯し、今回の学級対抗戦に参加することができませんでした…。私は、役立たずのメイドです……」
「何を言っているのですか貴方は。その件については、ルナティエさんの策謀に気付けずに、まんまと貴方というカードを潰されてしまった私の全責任です。間違いなくこちらの不手際ですよ」
「そんなことはありません! あのような卑怯な女の手に嵌ってしまったのは、絶対に私のせいです!」
そう言って、深く頭を下げてくるエリーシュア。
私はそんな彼女の様子にふぅと短く息を吐いて、上体を起こした。
「ここは……私が王都で借りている借家ではありませんね。見たところ、オフィアーヌ家の本邸、でしょうか?」
「はい。学級対抗戦で大怪我をなさったことを知った奥様が、お嬢様を本邸へと連れてお帰りになられました」
「連れて帰った……? もしや、お母様は、学級対抗戦のあの場にいたのですか?」
その言葉にコクリと頷くエリーシュア。
その時に、彼女の左の頬が赤く腫れているのがチラリと見えた。
私はその姿を見て、チッと、思わず舌打ちを放ってしまう。
「また勝手に私の所有物を傷付けて……。貴方のその頬をぶったのは、お母様ですか?」
「……」
「まったく。あの人には呆れ果てて言葉も出ません。話の通じる怪物ならばまだマシですが、あれは、アリサ・オフィアーヌという幻影に取り憑かれた、会話のできない怪物です。‥‥もしかしたらあのような人間もまさしく、狂人、という存在なのかもしれませんね」
そう口にして、私はベッドから降り、立ち上がる。
そんな私の片腕をエリーシュアは支え、立ち上がるのを介助してくれた。
「ありがとう、エリーシュア」
「いえ。私は、お嬢様だけの付き人ですから。貴方様以外に、私が仕えるべき御方は、どこにもおりませ……」
「? どうか致しましたか? 顔色が優れないようですが?」
「い、いえ、何でもございませんっ!」
何処か様子のおかしいエリーシュアに首を傾げつつも、私は彼女と共に部屋を出て、廊下の奥へと歩いて進んで行く。
窓際に立ち、崖下を見下ろしてみると、そこには朝陽に照らされたフィアレンスの森の深い新緑が見える。
御屋敷を出て、王都で一人暮らしを始めて、三年と少し。
このオフィアーヌ家の長い廊下を歩くのも、久々のことだ。
その光景にどこか懐かしさを感じつつ、私は廊下をエリーシュアと共に進んでいく。
―――――その時だった。
突如、耳をつんざくような甲高い叫び声と共に、パリンと、何か陶器のようなものが割られる音が聴こえてきた。
その音に瞠目して驚いていると、隣にいるエリーシュアが、身体を震わせ…顔を俯かせながら、恐る恐ると口を開いた。
「お嬢様。奥様は…アンリエッタ様は、二日前の学級対抗戦の見学から帰って来て以来、少し、おかしくなってしまわれているのです。ですから、その……」
「…なるほど。私がレティキュラータスの娘に敗北してしまったから、あの人は怒っているのですね。察するに、今回の失態で…オフィアーヌ家次期当主候補一位から私は外され、変わりに、ブルーノお兄様が当主候補の座に据えられた、と。あの人が怒り狂うことで思いつくことと言えば、こんなところでしょうか」
「……それも…ありますが…どうやら、別件で、奥様はお怒りになられているようです」
「別件…?」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべるエリーシュアに困惑しつつも、私は、母のいるとされるリビングへと向かって、歩みを進めて行った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! ふざけやがって聖騎士団がぁぁぁぁ!!!!! 私を馬鹿にしやがってぇぇぇぇ!!!!!!」
リビングに入るや否や、甲高い怒号の声が耳を突き刺してくる。
その後、母、アンリエッタは、ひとつ50万金貨はするだろう高価なツボを棚から取り出し、地面に叩きつけて「ああああああ!!」と、発狂したように叫び声を上げた。
彼女が暴れるのは、別段、珍しいことではない。
先代オフィアーヌ家の話…ひいてはアリサの話が晩餐会などで上がると、時折、このように発狂しだす時はある。
だが……今日はいつにもまして癇癪を起してしまっている様子だった。
私はふぅと大きくため息を溢し、次々に花瓶やら壺やらを割っていく母の元へと歩みを進め、声を掛ける。
「お母様、どうかしたのですか? 此度の失態の件ならば、さして問題はないでしょう。後からいくらでも取り返しは付きます」
「はぁ…はぁはぁ………あらぁ、シュゼットちゃん?」
アンリエッタは肩で息をしながら、こちらにゆっくりと顔を向けてきた。
翡翠色の髪はボサボサと乱れ、幽鬼のように揺らめく長い前髪の奥からは、深いクマと焦燥した顔が伺える。
ここまで母が荒れるとは……確かに、私が学級対抗戦で敗けた件だけではなさそうですね。
いったい、母の身に、何が……?
「シュゼットちゃん、貴方……もしかして、あのことを知っていたの? 知っていて、黙っていたのぉ?」
「? 何のことでしょうか、お母様?」
「フフッ、ハハハハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!! 貴方は昔からそうだったものねぇ!! 私よりも、父、ジェスターと、義母アリサを……とてもよく慕っていた!! 実の母である私を差し置いて、貴方は、血の繋がっていない卑しい下民出身のアリサを、母と呼び、懐いていた……!!」
そう言って、アンリエッタは私のことを鋭く睨みつけてくる。
まったく、誰がお前のような怪物を母親として慕うことなどできるものか…と、心の中でそう悪態を吐きつつ、私は首を傾げ、母に返事を返す。
「………? 仰られている意味が、よく分かりませんが……?」
「あは、あはははははははははははははは!!!!!!!! ………―――――アネット・イークウェス。貴方は、その名前を……知っていますね?」
「は? アネット、さん……?」
アネット・イークウェスといえば……ロザレナさんのメイドである、あのアネットさんのことだろうか。
何故、母の口から、あのメイドの少女の名が出るのか、理解が追い付かずに、私は思わず眉を八の字にして動揺してしまう。
そんなこちらの様子に、母は、不気味に口角を吊り上げた。
「私は、先日の学級対抗戦を、バルトシュタイン伯や他の四大騎士公、そして、王位継承権を持つ王子殿下方と共に、丘の上に立てられていた展望台の上から観察していました。望遠鏡越しに、ね」
「はぁ…。そうだったのですか…?」
「シュゼットちゃんが、あの見窄らしい小娘…レティキュラータスの息女に油断して敗北したことも見ていましたよ。オフィアーヌ家の次期当主ともあろう者が、情けない。母は心底落胆しました」
「お母様。私は油断したわけではございません。ロザレナ・ウェス・レティキュラータスは、まごうことなき強者です。あの者は、確かに、私に届く牙を持っていました」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッッ!!!! オフィアーヌが格下のレティキュラータスに敗けるなど、あってはならないことなのです!!!! ……良いこと、シュゼットちゃぁん? 貴方は、油断して敗けたのです。そうですよねぇ?」
私は母のその言葉に大きくため息を吐いて、目を伏せた。
「それで……アネットさんが何だというのですか? 学級対抗戦を見学していたという話と、いったい何の関係が?」
「そうだったわぁ。レティキュラータスの息女のことなど、一先ずはどうでも良いことです。話を戻しましょう。私は、学級対抗戦の場で…開会式の場で、あのメイドの少女を偶然見つけてしまったのです。あの顔を見た瞬間……思わずその場で尻もちを付いてしまいましたよ。心臓が止まるかと思ったわぁ」
「心臓が、止まりそうになった…?」
「分からないのですか? あの、アネット・イークウェスという少女は………亡き先代オフィアーヌ家の第二夫人、アリサ・オフィアーヌと瓜二つの外見をしていたのですよ! あれは、間違いなく、アリサの遺した娘です! 恐らくは、リーゼロッテの馬鹿が仕留めそこなった、アリサが逃亡の際に抱いていたとされる赤子でしょう!」
「…………………………………は?」
私はその言葉に、思わず、頭が真っ白になってしまった。
アネットさんが…アリサお義母様の、娘……? 先代オフィアーヌ家の息女……?
彼女は、私が、逢いたくて逢いたくて仕方がなかった……生き別れの、妹、なのです、か……?
目を見開き、その場で呆然と立ち尽くしていると、アンリエッタは不気味な笑い声を溢し、開口した。
「母は、必ず、あの娘を亡き者にしてみせます。シュゼットちゃぁん、貴方も協力しなさぁい?」
「……お母様は、アネット…さんを、殺害するつもりなのですか?」
「当たり前でしょう? この世に、汚らわしいあの女の血を残しておいてやるものですか。それに…次期聖王を決める王選を目前にして、先代オフィアーヌの血を残しては、間違いなく厄介なことになるのは必然。あのアネットとかいう女が、自分に四大騎士公の血が入っていることに気が付いて、次代の聖王の騎士にでもなってみなさい。オフィアーヌ家は、あのコソドロの娘に乗っ取られることになってしまうのよぉう?」
「………」
「バルトシュタイン伯…ゴーヴェン学園長にこのことを伝えたのだけれど、彼ったら、確たる証拠がない内は手は出せない、リーゼロッテが現在調査しているからしばし待て、ですってよぉ? ふざけた話よねぇ。だから……あいつら聖騎士が動かないなら、私自らがあのアネットとかいうメイドを殺してやろうと思ったの。ウフフ、たかがメイドの小娘、聖騎士の手を借りる必要もないわぁ」
「………めろ」
「さぁて、どうやって殺してやろうかしらねぇ。単なるメイド、攫うのは簡単よね。そうだっ! 私がアリサから受けた屈辱を、瓜二つの顔である娘のアネットに受けて貰うとしようかしらぁ! あはっ! まさか、唯一の心残りだった、この手でアリサに怒りをぶつけられる日が来るとは思わなかったわぁ!! 今までの憎悪を込めて、あらゆる痛みを、あの子に味わわせてあげるとするわぁ!! あはははははははは!!!!!!」
「―――――――やめろ。殺すぞ」
私は闘気をむき出しにして、アンリエッタを睨みつける。
その瞬間、魔力が電に変わり、バチっと電撃が走り、テーブルの上にあるスタンドライトを弾き飛ばした。
その光景に、アンリエッタは一瞬顔を強張らせるが…即座に、不敵な笑みを浮かべた。
「シュゼットちゃぁん、我儘言っちゃダメよぉう? 今までもお母さんの言う通りにして間違ったことは何もなかったでしょぉう? 貴方は、このオフィアーヌ家の次期当主となる娘……。そしてこの母は、オフィアーヌ家の全てを支配する女となる。これから二人で、幸せになるのよぉう? だから、あのアネットとかいうメイドは邪魔なの。分かったかしらぁ?」
「もし、本当にアネットさんが私の実の妹なのだとしたら……私は、どんな手を使っても彼女を守ります。今度は、お前の思い通りにはさせはしない。私はもう、幼い子供じゃない。家族を守る力がある。抵抗する力がある」
「家族ぅ? 何を言っているのぉ? 貴方の家族はお母さんだけでしょぉう?」
アンリエッタと私は、リビングのお互いに睨み合う。
室内には、床に倒れた置時計の、チッチッチッチッという秒針の音だけが響いていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―――――学級対抗戦から、二日が経った。
お嬢様は……ロザレナは、結局、一度も目覚めることがなかった。
俺は椅子に座り、ベッドで苦悶げな表情を浮かべながら眠る、ロザレナの顔をじっと見つめる。
そしてその後、足元にある桶の中からタオルを取り出し、両手で水を絞った後、その濡れたタオルをロザレナの額に当ててやった。
……昨日、保険医であるマーガレット先生に往診に満月亭に来てもらったが、傷はちゃんと塞がっており、経過的には問題は無いという話だった。
だが……数日にわたり一度も目が覚めず、昏睡状態であることは、とても不自然であると――そう、彼女は言っていた。
マーガレット先生がこの病態の可能性として挙げていたのは、治癒魔術では治せないもの……病気という線だった。
病と聞くと…どうにも、嫌な考えが脳裏を過ってしまう。前世の自分の死因だったからだろうか。
……いや…きっと大丈夫だ。お嬢様は、絶対に、もうすぐ、回復なされるはずだ。そうに決まっている。
「うぅぅぅ………」
「お嬢様…、お嬢様…」
布団の中に手を入れて、うめき声を上げるロザレナの右手をギュッと握る。
お嬢様が苦しんでいるというのに、何もできない自分が、とても悔しくて仕方がない。
俺は、いったい、何をやっていたんだ。
リーゼロッテを倒すことばかりを考えていて、大切なことを見落としていた。
お嬢様を無理させてしまって、こんな状態に陥らせてしまって……付き人、失格だ……。
「……アネットちゃん、大丈夫ですか……?」
背後から声を掛けられたので、振り向いてみると、そこには、オリヴィアの姿があった。
俺は無表情のままコクリと頷くと、お嬢様へと再び視線を戻す。
「私は大丈夫です、オリヴィア。それよりも、ロザレナお嬢様が心配です」
「嘘です。アネットちゃん、自分の顔を一度鏡で見てきてください。いつもの貴方の顔とは思えない形相になっていますよ。……ちゃんと、寝ているのですか?」
「私はお嬢様に、お目覚めになられるまでずっとお傍にいると、そう言いました。主人が苦しんでいるのに、眠ってなどいられませんよ」
「駄目ですよ、アネットちゃん。私が看病の交代をしますから、今から寝てください」
「嫌です」
「アネットちゃん」
「私は、ロザレナお嬢様のメイドです。これは、私の仕事です。ですから、オリヴィアは心配しないでください」
「駄目です。寝てください」
「お断りします。私は、お嬢様を無茶させてしまった、最低の従者です。ですから、せめて、この看病だけは私にやらせてください」
「貴方も倒れてしまいますよ」
「倒れません」
「―――――アネットちゃん!!!!!」
その、オリヴィアのものとは思えない大きな怒声に、俺は思わず肩をびくりと震わせてしまう。
そんな俺の肩を優しく叩くと、オリヴィアは悲し気な声色で声を掛けてきた。
「ロザレナちゃんのことも勿論、心配です。ですが……貴方のことを心配している人もいることを、忘れないでくださいっ!! 私、アネットちゃんの親友だと、以前にそう言いましたよね? なのに何で、親友である私の言葉を無視するのですか!! 私は、すごく、悲しいです……っ!!」
「オリ、ヴィア……」
「アネットちゃんがロザレナちゃんの付き人であると自覚するのならば、自身の体調にも気を配ってください。ロザレナちゃんが起きた時、アネットちゃんが倒れていたら……主人がどう思うかくらい、考えれば分かることのはずです!!」
そう言って、オリヴィアは瞳の端に涙を貯めながら、ぎゅっと、背後から、胸に俺の頭を抱いてきた。
本来であれば、豊満な彼女の胸に抱かれたら、赤面のひとつもして慌てて離れるのだろうが……生憎と、そんな気分にはなれなかった。
ただただ、彼女の優しさが…二日間ぶっ通しで起きていた、疲弊した身体にじんわりと、染みていくだけだった。
「………オリヴィア、すいません。私、どうかしていましたね……」
「仕方がないことです。貴方は常に、みんなのことを一歩引いた目線で見て、気を配っていましたから。疲れるのも当然です」
「ですが……」
「満月亭のみんなが騒いでいる時。アネットちゃんはいつも後方から静かに私たちを見ている。私はそれを知っています」
「え…?」
「その視線は…何だか、ずっと成熟した大人の気配が漂っているように感じられました。私たちを見ている時のアネットちゃんは、とても、優しい目をしています。まるで、我が子を見ているかのような…そんな、暖かい目です」
「………」
「そんな貴方は、いつも、誰も見ていない影の中で、誰かのために頑張っているのでしょう。通常、人の腕で守られる数は限られているものです。ですが、アネットちゃんは、全員を守ろうとしている……ですから……一番大事で、大好きな人が苦しんでいるのを見たら、動揺してしまうのは当たり前のことです」
「一番大事で、大…好き…な、人……」
「そうです。アネットちゃんはみんなのことが好きですが、一番は、ロザレナちゃんなんです。みんな知ってることですよ」
……………あぁ。そうか。彼女にそう言われて、何故だかストンと、腑に落ちた。
俺、ロザレナのことが…好きだったんだ。
だから、彼女が傷付くのが見てられなかったんだ。だから、もう一人のオレは、彼女に剣を持って欲しくなかったんだ。
一人の女として、俺は…彼女をいつの間にか……愛してしまっていたんだ。
「……」
目を伏せる。すると、決まって蘇ってくるのは、愛しき我が主人の、過去の記憶だ。
『―――――――あたしが勝ったら、あんた、家来になりなさい!』
『アネット! あたしと一緒に聖騎士養成学校に入学するわよ! あたしは絶対に、剣聖になってやるんだから!』
『あたしの大好きなレティキュラータスの家をあいつに馬鹿にされるのが……悔しくて、あたしは悔しくて仕方がなかったっっっ!!』
『例え、貴方があたし以外の人を好きになったとしても、あたしはアネットのことを嫌いになったりなんてしないんだから。アネットが許してくれる限り、ずっと、側にいるわ』
『………えへへへ。久しぶりに、キス、しちゃったね』
『アネットはいつも、あたしが見ていないところで、あたしのために剣を振ってくれている。だからあたしも頑張れるの。あたしたちは二人で前へと進む、パートナーなのよ、アネット』
目を開ける。
俺は……どうかしていた。
今、俺がやるべきことは、彼女の傍で悲嘆に暮れていることではない。
ロザレナを救うために、すぐさま行動することが、今の俺のやるべきことだ。
「ありがとうございます、オリヴィア。頭がスッキリしました」
「どういたしまして。……でも、嫉妬してしまいますね。私も、ロザレナちゃんみたいに、貴方に愛されてみたかったです」
「私は、オリヴィアのことも同じくらい大好きですよ」
「あーっ、そういうの、浮気っていうんですよぉ! この聖グレクシア王国では、基本的には多重婚は認められていないんですからねっ!」
そう言ってプンプンと怒り出すオリヴィアに、俺は彼女の顔を見上げ、フフッと、笑みを浮かべた。
幕間を読んでくださって、ありがとうございました! 投稿が遅れてしまって申し訳ございません!
次から新章に入る予定…です、が、ここで以前から言っていた100話記念のアネットの前世の短編を、投稿していこうかな…と、思っております!
いつも、いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。
とても励みになっております。
みなさまのおかげで、この作品は、続けることができています。
重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました。
次回は、明日か明後日に投稿できたら良いなと、考えております。
それではみなさま、良い休日をお過ごしください。
三日月猫でした! では、また!




