第10話 元剣聖のメイドのおっさん、幼女に惚れられる。
《ロザレナ視点》
「・・・・・・・・綺麗」
あたしはただ、その姿に見惚れてしまっていた。
揺れる長い栗毛色の髪の毛。
まっすぐと前を見据える、澄んだ青い瞳。
あたしと背丈が変わらない小さな身体なのに、その背中から放たれる気配は、まるで歴戦の戦士の貫禄。
そして、幼いながらも何処かに気品と美しさが宿っている佇まいと、その気高さとは相反している、力強さがある荒々しい気配。
彼女のその不思議な様相に、あたしは思わず見惚れて、言葉を失ってしまっていた。
「・・・・・・よっと」
メイド服を着た少女、アネットは、ダガーの切っ先に付いた砂埃をヒュンと振って振り払うと、凛とした表情のままこちらへと振り返り、あたしたちの元へと歩みを進めて戻ってくる。
彼女のその強者然とした堂々とした姿は・・・・・あたしが病床の時、ベッドの上で夢想し憧れていた伝説の剣聖そのものと言えるだろう。
歴代最強、無敗の剣聖、【覇王剣】 アーノイック・ブルシュトローム。
彼の前に立つ者は総じて灰塵と成り果て、彼の振るう剣の後には必ず巨大な斬撃痕だけが残される。
最初この言い伝えを読んだ時、過去の英雄である彼を持ち上げるための、大袈裟な脚色を付けた過大すぎる評価だと思っていた。
だって、海も山も大地も斬り裂くことができる剣士だなんて・・・・そんなもの、御伽噺の中だけの存在だって、幼いあたしでも流石に理解できていたから。
でも・・・・その在り得るはずがない伝説の存在が、目の前には、いた。
ジェネディクトと名乗った男が倒れた、その廊下の先。
彼が立っていた位置からその先は・・・・・すべてものが破壊され、瓦礫の山の世界が広がっていた。
天井が崩落したのか、廊下の向こう側を見上げると、眩しい太陽の陽光が眼に突き刺さる。
正直、意味が分からなかった。
何故、ただのメイドの少女であるアネットが、たった一太刀で、このような景色を生み出せたのだろうか。
通常の剣術とは逸脱したその力の異質さが、魔法でも成し得ないであろう破壊の光景が、まったくもって理解できなかった。
だけど・・・・困惑より先にあたしの胸中に宿ったその感情・・・・それは、深い憧れの感情、だった。
(世界のすべてを斬り裂くことができる、剣聖、アーノイック・ブルシュトローム、か・・・・・)
そんな、圧倒的な強者に、かつてのあたしは憧れていた。
アーノイック・ブルシュトロームは一説によると、傲慢で自己中心的、かつ博打好きという、かなり性格に難のあった人物だったという。
それでも彼は、己の剣の腕のみで自身の不評を覆し、常に周囲を黙らせてきた。
その在り方は、元々病気がちで気弱だったあたしにとって、いつの間にか目指すべき姿のひとつになっていた。
何者にも発言権を与えず、ただ一刀の元、相手に力を示すことができさえすれば・・・・・そうすれば、あたしの大好きな優しいお父様とお母様に嫌味を吐く他の貴族たちを、黙らせることができるんじゃないかと、そう思ったから。
そうして剣の腕を高めて、四大騎士公以上に権力を持つとされる『剣聖』になりさえすれば、男児に産まれることが叶わず、家督を継ぐことができないあたしでも、この家ーーーーレティキュラータス家を再興させる力になるはずだと、そう思ったから。
だからこそあたしは、アーノイック・ブルシュトロームのような人間になろうと、彼のような暴君を目指そうと、そう思ったんだ。
だけど・・・・今この時、あたしが目指すものは・・・・あたしが本当になりたい人は・・・・・『彼』から『彼女』へと変わってしまっていた。
「アネット・イークウェス・・・・・」
最初は毒舌で口が悪いだけの、ただの生意気なメイドだと思っていた。
使用人のくせに初対面であたしの夢を真っ向から否定してくるし、第一印象からして、大人びた性格をしていて、何処かいけ好かない雰囲気を漂わせていた。
同い年なのに、まるで妹のようにあたしのことを下に見ているようなきらいがあったし・・・・とにかく、屋敷に帰って来てからというもの、あの子とは上手くやっていける自信がまるで無かった。
でも・・・・・。
でも、家を抜け出して冒険者ギルドに行ったあの時。
あの子は、あたしを責めなかった。
みんなに迷惑を掛けたというのに、怒られて当然のことをしたというのに。
家出したあたしを、よく頑張ったねと、何故か頭を撫でて褒めてくれた。
そして、奴隷商に捕まってから今に至るまでも・・・・あの子は、ずっとあたしのことを身を挺して助けてくれようとしてくれていたんだ。
同じ歳の、幼い女の子だというのに。
恐怖の色を一切見せずに、ただ前だけを見つめ続けて、あたしの手を握って引っ張って行ってくれた。
振り返って見ればあたしは、アネットと出会ってから、あの子に迷惑を掛けることしかしていない。
アネットがいてくれたからこそ、今こうしてあたしは、五体満足でこの場に立っていられているんだ。
だというのに、あたしは、彼女に何かしてあげられていたのだろうか。
あたしは・・・・何もできていない。
ただ怯えるだけで、アネットの背中を見つめていることしかできなかった。
アネットに対して好意を持っているからこそ、彼女の助けに何もなっていない弱い自分が情けなくて仕方ない。
とても、悔しくて、仕方がなかった。
「本当・・・・・アネットが男の子だったら良かったのにな」
彼女が男の子だったのなら、あたしはまず間違いなく一瞬で恋に落ちていたことだろう。
そうしたら、アネットをレティキュラータス家の婿養子にして、お礼にこの可愛いあたしをお嫁さんにしてあげて、尚且つ貴族の当主にしてあげて・・・・・一緒にこの家の復興を目指したというものを・・・。
本当に、残念だ。
「いや・・・・最早性別など関係ない、わね」
そうね。
もう、自分の感情は隠さずに認めてしまおう。
あたしは、アネットが好きだ。
アネットの横に立てるような人物に、あたしはなりたい。
伝説の『剣聖』アーノイック・ブルシュトロームではなく、今のあたしは、目の前のあのメイドの少女の隣に立てる人物に・・・・あの子と対等な存在に、なりたいのだ。
勿論、お家復興のことは忘れてはいないけど・・・今は何よりも、アネットの隣に立てなかった自分が、悔しくてたまらなかった。
《アネット視点》
「勝った・・・・・」
戦闘中、終始強気な態度を取り続けてはいたが、正直、勝てるとは思っていなかった。
ジェネディクトが、俺との剣のぶつけ合いを止め、攻撃魔法【ライトニング・アロー】を放った、あの瞬間。
俺は内心、終わったと、そう思っていた。
何故なら今の俺に城の外壁を破壊する力を持つと言われる特二級魔法を止める手段は、何も持ち合わせてはいなかったからだ。
回避すれば背後のロザレナたちが死に、立ち向かえば雷の槍に直撃し俺は焼け焦げて炭になる。
距離を取られ、攻撃魔法の態勢を取られた時点で、こちらの敗北は必至な状況だった。
だから、俺はーーーー賭けに出るしかなかった。
生前の俺の最強の奥義であった、【覇王剣】。
アレを、一か八かで放つしか・・・・・あの状況を打破できるような手段が見付からなかったのだ。
それも、【覇王剣】を今の俺・・・・アネット・イークウェスが使えるかも分からない状況下で、だ。
まったく、生前から博打事は好きだったが、こんな命を懸けた賭け事には金輪際手を出したくはねぇな。
生きるか死ぬかの場面で発動できるかも分からない技を使わざるを得ないなんて、心臓がいくつ合っても足りはしない。
俺は、ハァとため息を溢し、歩みを進める。
そうしてロザレナたちの前に立つと、ひとりひとり全員に怪我はないかと視線を向けて行った。
するとそこには、口をポカンと開け、呆然として俺を見つめているガキどもの姿があった。
まぁ、いきなりあんな大技をただのメイドの少女が使っちゃ、そんな顔にもなるわな。
くそ、面倒だな・・・・後で言い訳を考えておかなきゃならねぇなぁ。
「・・・・・アネット」
ぽつりと声を掛けてくると、瞳孔の開いた目でジッとこちらを見つめてくるロザレナ。
俺はそんな彼女に、優しく微笑みを向けた。
「はい。お嬢様。何とか、倒すことができましたよ」
「・・・・・・・・」
何故か無言で俯くロザレナ。
「あの、お嬢様?」
俺がそう声を掛けると、ロザレナは突如顔を上げ、目を潤ませ大量の涙を溢しながら、俺の元へと駆けて来る。
「アネットぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
そして、そう叫びながらピョンと大きく跳躍すると、ロザレナは俺の胸の中へと盛大に飛び込んでくるのだった。
「お、お嬢様!? そのまま走って来られるとぶつかってしまわれてーーーーうわぁ!?」
思いっきり胸に頭を擦り付けてきて、ロザレナは背中に手を回し、力いっぱいに抱き着いてくる。
まるで生き別れた恋人に再会したのかのような・・・・そんな熱のこもった抱擁だ。
俺は、今まで見たことのなかったそのお嬢様の姿に、思わず困惑の声を溢してしまう。
「ロ、ロザレナお嬢様っ!?」
倒れないように踏みとどまりながら、彼女の背中に腕を回し、何とか抱き留める。
チラリと見えた彼女のその顔は、敵の親玉が倒された喜びではなく、俺の身を案じる心配そうな気配が多分に漂っていた。
「アネット!! あたし、貴方が何回も何回も瀕死の状況に陥る度に、いつか死んじゃうのかと思って・・・・・ずっと、ずっと、怖かったんだからぁっ!!!!」
「そう、だったんですか・・・・・申し訳ありません、お嬢様。心配をお掛けしてしまいましたね」
「グスッ、ひっぐ・・・・あたし、貴方が傷付くのなんて見たくないぃ・・・・ただ指を加えて、貴方が血だらけになってる姿を傍から見ているだけなんて・・・・そんな、自分が痛い目に遭うよりも嫌なこと、もう味わいたくないぃ・・・・・」
「お嬢様・・・・・」
「うぅぅ・・・・アネット、あたし、絶対に強くなるわ。強くなって、貴方が傷付かなくても良いように、剣の腕を鍛える! いつかアネットの隣に立てるような、そんな強い剣士にあたしはなりたいのっ!」
「フフッ、お嬢様ならできますよ。私が保証します」
そう言って、俺はロザレナの背中をポンポンと撫でる。
すると彼女は、頬を染め、えへへと、可愛らしい笑みを俺に見せて来た。
「本当? あたし頑張るね! アネット!」
「はい。お嬢様の成長・・・・とても、楽しみに・・・・して、おりま・・・・・」
「アネット? ちょ、ちょっと!?」
突如身体から力が抜け、ロザレナに覆いかぶさるような態勢になってしまう。
この少女の・・・・アネットの身体で随分無理をしたせいだろうか。
もう、俺の身体は限界に近かった。
今までは火事場の馬鹿力で動けていただけで、この身体は元々10歳の幼い少女の身だ。
それを、生前の肉体を動かしていたノリで操ったら・・・・そりゃ、ぶっ壊れるのも当然というワケだ。
こりゃ、この後はまともに身体を動かすことは叶いそうもないな。
でも、今は何とかして、意識を保っていなければならない。
だって、まだ俺はお嬢様を無事に屋敷へ・・・・帰してないんだか、ら・・・・。
ここはまだ敵地・・・・俺がいなきゃ、ガキども、は・・・・・。
くそっ! もう、まともに思考することも叶いはしねぇな!
これは、少し・・・・仮眠を、取らない・・・・と・・・・・・。
「お嬢様・・・・申し訳ございません・・・・少しばかり、休息、を・・・・・・何かあったら、すぐ、起こして・・・・くだ、さ・・・・」
「ええ。・・・・・よく、頑張ったわね。今は休みなさい、アネット」
そう、ロザレナに労いの声を掛けられ、俺は頭を優しく撫でられる。
こうして、幼い少女の腕の中でーーーー俺は意識を手放したのだった。
《ロザレナ視点》
「アネットさんは、その・・・・大丈夫なのかな??」
背後から、恐る恐るといった様子で、グライスがそうあたしに声を掛けてくる。
あたしはアネットを優しく抱きすくめると、肩ごしに、彼らへと視線を向けた。
「多分、寝ているだけだと思うわ。苦しんでいる様子は見られないもの」
「そっか。それなら良かった・・・・」
そう言って、ホッと、安堵の息を吐くグライス。
そんな彼の横で、未だ呆然としている様子のアンナが、眼をまんまるとさせながら口を開いた。
「いや、アネットちゃんが無事なのは良かったよ? それは勿論良かったんだけど・・・・さぁ」
そう口にして、アンナはあたしに抱き留められているアネットの頭部へと視線を向ける。
「それよりも、その子、いったい何者なのよ?? だ、だって、傍から見て、本当意味が分からなかったわよ?? そこで伸びてる男の人倒した時なんか、特にさ!!」
その言葉に同意するように、ブンブンと頭を振って、アンナの横に立つミレーナも肯定の意を示す。
「う、うちも、アンナさんと同意見です。だって、どう見てもアネットさんの剣の腕は・・・・普通じゃありませんでした」
「そうか? あのオカマの人が弱かったってだけなんじゃないのか?」
「ギーク、流石にそれは無理があるでしょ・・・・。だって、子供である私たちが見ても、どう見てもアレは達人同士の戦いだって分かる戦闘だったわよ?」
「そ、そうです。幻影みたいに剣の影が無数になって消えては現れて、消えては現れてはしていたのを、アネットさんが華麗に避けてたのを見た時には・・・・正直、開いた口が塞がりませんでした・・・・」
「そうだね・・・・。確かに、アネットさんが子供とは思えないほど、異常な強さを持っていたことだけは事実だ。でも・・・・」
そう言ってグライスは、廊下の向こう側ーーーー瓦礫の山の上へと、静かに視線を向ける。
「でも、今は、ここから逃げ出すことが最善じゃないのかな。アネットさんが決死の想いで空けてくれた道に報いるためにも、ね」
「逃げるたって・・・・逃げ道、瓦礫で塞がれてしまっているじゃない。どうするのよ?」
「あの瓦礫の山を登っていけば、地上へ出られると思うよ。ちょっと、傾斜が急だけれど・・・・僕たちでも何とかして、登れなくはない高さだ」
「・・・・・うん。あたしは、賛成かな。早くアネットを安全なところで休ませてあげたいし・・・・こんなところにいて、また奴隷商に捕まりでもしたら、この子に会わせる顔がないわ」
「そうだね。その通りだ。じゃあ・・・・僕がアネットさんをおぶって瓦礫を上るよ。君じゃ、彼女を抱えてこの瓦礫を上がるのは大変だろう?」
そう、グライスが近付き声を掛けてきた瞬間、あたしは思わずアネットを渡すまいと強く抱きしめ、彼を思いっきり睨みつけてしまった。
「え? ええと・・・・どうしたのかな?」
「・・・・・・・。別に、なんでもないわ。とにかく、あたしがアネットを運ぶから。大丈夫だから」
「そ、そう? 無理そうだったらいつでも言ってくれて良いからね?」
そう言って、困惑した表情のグライスは、瓦礫へと向かって歩みを進め始めた。
あたしは、何となく、彼にーーーー男の子に、アネットの身体に触れて欲しくはなかった。
これは、嫉妬、なのだろうか。
だって、結構顔立ち整っている方のグライスと、素朴だけど美しい顔をしているアネットが、一緒に居たら・・・・それだけでも絵になりそうで、何となく嫌だったから。
万が一にでも、アネットが自分を助けてくれたグライスに惚れたらと思うと・・・・胸の奥がギュッと締め付けられたように痛くなる。
これが、恋、というものなのかしら。
今まで誰かを好きになったことなんてないから、分からないわ。
「フフフ、そんなに好きなのね、アネットちゃんのことが」
隣からアンナがそう、茶化すように言ってくるが、あたしはそれを無視して、アネットを一旦地面に降ろし、背中に背負い直す。
思ったよりもアネットの身体は軽かったため、これなら少しの間だけなら何とか運ぶことができそうだ。
そうしてそのまま、グライスの後を、みんなと一緒に追おうとしたーーーーその時だった。
「おい、待てよお前ら。まさか、俺の存在を忘れているのか?」
その瞬間。
首に付いていた首輪から強烈な電撃が放たれ、あたしたちはそのまま地面に膝を付けて、倒れ伏してしまった。
全身に走った針で突き刺すような痛みに何とか堪え、あたしは背後へと視線を向ける。
するとそこには・・・・ジェネディクトの部下である、黒装束の男が立っていた。
男は苛立ったようにあたしの元に近付いてくると、背中におぶっていたアネットの身体を・・・・乱暴に蹴り上げた。
「アネット!!!!」
「ったく、何なんだよ、このガキは・・・。まさか、ボスがこんな使用人のガキに負けるだなんてさ・・・いったい誰が予想できることだよ?? こんなことが、よぉ!!」
「やめてっ!! アネットを蹴らないで!!!」
「はは、だって、ジェネディクト・バルトシュタインは、『剣神』と同等の実力を持った人間だぞ?? なのに、何なんだよ、何なんだよこれはよぉ!!!!」
そう口にして、男はアネットの髪を掴み上げると、怒声を放つ。
あたしはアネットに危害を加えさせないように、男の足に飛びつくが・・・・そのままみぞおちを蹴られ、あっけなく地面に横たわってしまっていた。
「ゲホッ、ゴホッ・・・・・」
苦し気に咳き込むあたしをつまらなそうに一瞥すると、男は髪の毛を掴み宙に浮かせているアネットの顔へと視線を向ける。
「王国では数千年周期で、時折、生まれながらにして人の領域から逸脱した天才が誕生するとは帝国のジジイどもに教えられてはいたが・・・・まさか、こいつも【覇王剣】同様、『剣聖』になるべくして誕生したイレギュラーな存在だった、ってことなのか?? だったら・・・・・」
そう口にして、男は腰に付いた鞘から剣を抜き放つ。
そしてその剣の切っ先を、アネットの喉元に当てがった。
「ここで処分しておいた方が、この先のためだな。『蠍』に牙を向けたこと、ここで後悔しやがれ、イレギュラー」
「だ、駄目!! やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
あたしは必死の形相で、そう叫び声を上げる。
あたしのその悲鳴に、男が笑みを浮かべ、アネットの首に剣を突き刺そうとしたーーーーその時だった。
突如、黄色い閃光が、軌跡を描きながら、男の腕を真っ二つに両断した。
目の前に落ちていく、剣を握ったままの自身の右腕の姿に、瞠目して驚嘆する男。
だが、痛みに叫び声を上げる隙も与えずに、その『閃光』は、男の首元に手刀を当てると、即座に彼の意識を奪ったのであった。
「・・・・・・大丈夫ですか?」
何処か感情が宿っていないような・・・・その冷淡で透き通った声に、あたしは思わずポカンと口を開けて呆然としてしまう。
あたしの前に威風堂々と姿で立っているのは、耳の長い、黄金色の髪の森妖精族の少女。
昔、王都の祭典か何かで見たことがあっただけで、こんなに間近で見たのは初めてのことだが・・・・間違いない。
この少女は、あたしが目指す道の頂に立つ少女であり、いずれ必ず倒さなければならない相手だ。
現『剣聖』、【閃光剣】リトリシア・ブルシュトローム。
あたしがいずれ越えなければならない頂点の姿が、そこにあった。
最近、1:1の評価を頂いたことでモチベーションが大分下がっていましたが、何とか自分のペースで書けるところまで書いてみようかと思います。
ここまで読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
また続きも読んでくださると嬉しいです。