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第四章 第107話 学級対抗戦ー⑭ 黒炎剣


《ロザレナ視点》


「来なさい、ロザレナさん!」


 ルナティエがそう叫んだ瞬間、あたしはすかさず、シュゼットの元へと駆け抜けていく。


 彼女は即座にこちらに顔を向けるが‥‥もう、遅い。


 あたしは高く跳躍し、剣に手をかざし、いざという時のために温存しておいた必殺の剣をここで解放することに決める。


 ルナティエは、確実に相手にダメージを与えられる好機までその必殺技は取っておけと、そう言っていたが‥‥きっと、ここが、その絶好の好機なのだろう。


 シュゼットの背後で倒れるルナティエの目が、そう、あたしに訴えているのが分かった。


 ルナティエがくれた、千載一遇のチャンス。全力を以って、ここであの女との決着を付ける。


「灼熱の業火よ! 我が刀身を燃やし尽くせ! ――――――【焔剣(えんけん)】!!!!」


 鞘から剣を抜くように、木刀の刀身に手を当て、スライドさせていくと‥‥刀身はぼうっと深紅の炎に包まれて行き、炎の剣へと姿を変えていった。


 火属性魔法と、剣の融合技、【焔剣(えんけん)】。


 火の魔法を宿した剣による一撃は、大岩でさえも熱で溶かしながら真っ二つに斬り刻むことのできる、魔法剣の大技だ。


 あたしは高く跳躍し、全力を込めた一撃‥‥炎の唐竹を、シュゼットの脳天に放とうと、上段に構える。


 その光景に目を見開くと、シュゼットは突如笑みを浮かべて、不気味な嗤い声をあげ始めた。


「アハッ―――――――あははっ、あはははあははあはははははははははははははははははっっっっ!!!!!!!! それが貴方の全力ですか、ロザレナさん! 良いでしょう!! 貴方如きにこの魔法を使う気は一切ありませんでしたが‥‥こちらも全力で迎え打ってあげましょう!! 【オール・リキャスト】!!」


 その瞬間、彼女が地面の上に造り出していた石壁の魔法と、石柱は瞬く間に消えて行く。


 その光景に、ルナティエは目を見開き、叫び声を上げた。


「なっ―――――い、一瞬で使用済みの魔法を消去した、ですって!?」


「この【オール・リキャスト】は、大量の魔力を使用するからあまり使用したくはなかったのですが‥‥仕方ありませんね。さぁ―――」


 そして‥‥シュゼットは扇子を開くと、それを天高く空へと突きあげた。


「さぁ、私の本気の一撃、貴方に受けてもらいますよ、ロザレナさん!! ―――――――【アイアン・メイデン】!!」


 【アイアン・メイデン】‥‥それは、今までに一度も聞いたことのない名前の魔法だった。


 彼女の使用する魔法は、小石を飛ばす【ストーン・バレット】、石の柱を地面に生やす【アース・ランス】、無数の石の棘を地面に生やす【アース・スパイク】、追尾する石の棘を生やす【アース・スパイク・トラッキング】、石壁を出現させる【ストーン・ウォール】、の五つだけではなかったのか。


 あたしは、宙を飛びながら、その未知なる魔法に思わず冷や汗を流してしまう。


 だが‥‥。


「退いて、たまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 ここで臆せば、あたしの剣聖への道は閉ざされる。


 どんなに格上の相手だろうと、牙を立て、その身に噛みついてく!!


 それがこのあたし、ロザレナ・ウェス・レティキュラータスの戦い方だ!!!!


「終わりです」


 突如、目の前に、今まで見てきた石壁とは比べものにならないほどの大きさの石壁が‥‥20メートルはあろう巨大な石の壁が、地面から生え、現れる。


 その壁には鋭利な細長い鉄の棘が何千本も生えており、ゆっくりと、こちらに向かって静かに―――――石壁は倒れてきていた。

 

(あ‥‥これ、やばい奴だ‥‥)


 どう足掻こうが、この分厚い棘の壁から逃れる術はない。


 待っているのは、確実な圧死の未来。


 これは、『死』そのものを具現化したような‥‥そんな、異質な魔法といえる代物だった。


「さようなら、ロザレナさん。私にこの魔法を使わせたこと、誇りに思ってもよろしいですよ」


 そう、石壁の向こう側から、シュゼットの声が聴こえてくる。


 あたしは‥‥目を閉じた。


 脳内に浮かんでくるのは、あの時の――ジェネディクトを倒した時の――凛とした、アネットの後ろ姿だけ。


 あの、何者をも恐れない悠然とした立ち振る舞いに、憧れて。


 あの、見果てぬ遠くだけを見つめていた、澄んだ青い瞳に憧れて。


 あたしは、剣士の頂点【剣聖】になることを、本気で目指し始めた。


 あの子の隣に立てるような、あの子と一緒に戦えるような、そんな、理想の自分を目指して、剣を振り続けた―――――。


「だからこそ!!!!!」


 カッと、目を見開く。


 目の前にあるのは、迫りくる、巨大な棘の壁。


 あたしは、高く掲げた木刀を握りしめ、その壁を鋭く睨みつける。


 この壁は、あたし自身の壁。


 あたしが剣の頂に行く道を阻む、邪魔な壁だ。


 破壊して前に進むしか、あたしが剣聖になる道は、ない!!


「敗けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!」


 咆哮を上げる。炎の剣を、壁に向かって全力で振り降ろす。


 だけど、歯が立たない。巨大な石壁によって炎の剣は簡単に弾かれる。


 壁には傷一つ付かず、ヒビも入らない。


 その後、待っていたのは‥‥こちらを押しつぶそうと迫ってくる、石の棘と壁の姿。


 壁に付いていた石の棘は容赦なくあたしの身体を貫き、身体中を穴だらけにしてくる。


 肩が貫かれた。腹が貫かれた。腕が貫かれた。太腿が貫かれた。


 宙に血しぶきが舞う。あたしを串刺しにしながら、壁はゆっくりと地面に向かって倒れていく。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!!」


 叫び声を上げながら何とか石壁に抗おうとするが……あたしはなすすべもなく、壁に押し潰されて行く。


 まるで標本の蝶。このまま大地に押しつぶされるのを持つだけの、断頭台に立った死刑囚。それが、今のあたし。


 もう、ここで終わり。ここで、あたしの人生は終焉を迎える。


 誰もが、この状況を見てそう思うだろうが‥‥あたしは、諦めはしない。


 最後まで、足掻き続ける。


「敗けない!! あたしは‥‥っ、敗けないっっ!!!!!!」


 そう、血を吐き出しながら咆哮を上げた―――――その時。


 突如胸の内から、何かが破裂するような‥‥そんな感触がした。


 それと同時に、身体中を漆黒の闇が覆い包んでいく。 


 木刀に宿っていた炎が、ドス黒い漆黒の黒炎へと変わっていくのが見て取れた。


『―――――壊せ』


 何者かが、そう、あたしに声を掛けてきた気がした。


『―――――壊し尽くせ』


 誰かは分からない。でも、その何者かは、何かを壊したがっている。そのことだけは分かった。


『お前の道を阻む邪魔な壁を‥‥お前を縛り付ける全てのものを、完膚なきまでに蹂躙し、犯し、破壊し尽くせ―――――我が末裔よ』


 一瞬、脳内に、鎖で縛り付けられた‥‥あたしと同じ顔をした裸の少女の姿が映し出された。


 彼女は、ただ、憎悪に満ちた目で目の前の世界を睨んでいた。


 誰かは分からない。だけれど、アレ(・・)が‥‥あたしに力を貸そうとしているということだけは、何故だか理解ができた。


「あたしは‥‥こんなところで終わるわけにはいかない」


 何であろうとも、力を貸そうとしてくれているのなら歓迎する。


 むしろ、その力を奪い取ってやるくらいの気持ちだ。


 あたしは、胸の内から溢れてくる闇の力に―――身をゆだねることを決めた。


 すると、その瞬間。


 身に纏っていた黒いオーラは、爆発し――目の前の壁が、粉々に砕け散っていくのが視界に映った。

 

 あたしはその砕け散った石の合間を、足場のようにして器用に飛んでいき、宙を駆け抜けていく。


 身体が異様に軽い。身体中に石の棘が突き刺さり、大怪我をしているというのに、どこも痛くない。


 何故だろう‥‥。敗ける気がしない。


「シュゼット!!!!!!!」


 あたしは上段に構え、シュゼットの元へと落ちていく。


 彼女はそんなあたしに対して‥‥唖然としたような、心の底から、驚いた表情を浮かべていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


《シュゼット視点》


「―――――――は?」


 私が発動した巨大な石壁―――上一級魔法【アイアン・メイデン】は、突如起こった謎の爆風によって砕け散り、石片となってバラバラと地面に落ちて行った。


 その砕け散った石の合間を、足場のようにして器用に飛び、猛スピードで黒い炎がこちらに向かって飛んでくる。


 その黒炎は、身体中に無数の穴を開けながらも、大量の血をまき散らしながらも、止まることはしない。


 ただ、私の顔を紅い瞳で見下ろし、石片を蹴り上げ、駆け抜けてくる。


「ッッッッッ!!!!! 何度も何度も‥‥ッッ!! いい加減、ここで死んでください!! ロザレナ・ウェス・レティキュラータスッッッ!!!!!」


 私は扇子をロザレナへと差し向け、残り少ない魔力を絞り出し、魔法を撃ち放つ。


「【ストーン・バレット】!!!!」


 先端の尖ったひし形の小石が、地面から浮かび上がり、ロザレナの身体へ向けて射出される。


 小石の破片は、次々とロザレナの胸、腹部、肩、太腿、足、と、容赦なく襲い掛かって行く。


 だが――――その石の破片は、ロザレナの身体を纏う漆黒のオーラに当たると、魔力素(エーテル)へと還り、空中に霧散して消えていった。


 私はその光景に目を見開き、驚愕の声を溢す。


「ま、魔力の還元消滅‥‥? まさか、や、闇魔法の効果、ですか‥‥!?」


「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!」


 私から一切視線を外すことは無く、漆黒の炎の剣を上段に構えたまま、彼女は空を舞う。


「な‥‥何なのですかお前は‥‥何なのですかっっっっ!?!?!?!?」


 ルナティエは、先ほど彼女のことを‥‥『狂人』と言っていた。


 けっして折れない心と、ただ目の前の獲物だけを見据えて噛みついて行く、暴虐なる精神性。


 彼女のその立ち振る舞いは、人間ではなく、どちらかというと野生の獣に近いものだと思える。


 獣は、飢えを満たすために他者の肉を喰らい、生きるために、爪と牙によって他人の命を終わらせる。


 その精神性を持つ彼女の戦いには恐らく、敗北の二文字はない。


 彼女にとって戦いというのは、生か死かのどちらかしか存在しないのだ。


 単なる模擬戦ごときで、そこまでの覚悟を持った生徒はこの場には恐らく、どこにもいないだろう。


 今ここで、彼女という存在を見誤っていたことに、私は気が付いた。


「―――――――認めましょう。貴方は、強い。【剣聖】を目指すに相応しい器であることを、この私が‥‥シュゼット・フィリス・オフィアーヌが認めてさしあげましょう‥‥!!」


「か゛あ゛ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!!!!」


「ですが‥‥っ!! ですが、私も、ここで敗けるわけにはいかないのですよ!!!! 私は、私は―――!!!!」

  

 私にとって、強者と戦うことが、何よりの生き甲斐だった。


 今まで自身より格上だと思う相手には積極的に勝負を仕掛け、結果、何度も勝利を収めてきた。


 私のこの鉄壁の防御魔法を超える者は、どこにもいない。


 私の前で強者と名乗った輩は、皆、全て、私の魔法の前で頭を垂れることしかできなかった。


 天賦の才に選ばれた私は誰であろうと傷付けることは敵わない。そう、思っていた。


 だが――――――。


(な‥‥何なのですか、この感情は‥‥こ、この私が、まさか、あのような‥‥ただの学生、それもついこの前まで素人だった剣士に怯えている‥‥とでも言うのですか!?)


 いつの間にか、扇子を持った手が震えている。


 こちらに向かって紅い瞳を爛々と輝かせ、咆哮を上げ、突進してくる漆黒のオーラを纏った少女に、私は思わず額から玉のような汗を浮かべてしまっている。


 こんな感情、今まで抱いたことは一度もない。


 恐怖という感情など、幼い頃の―――あの雪山の中で、私は当に捨ててきたはずだ。


 おかしい。こんなことは、あってはならないことだ。あってはならない事象だ。


 このことを認めてしまっては‥‥今までの私が、本当の天才(・・・・・)というものをを知らずに、雑魚相手に良い気になってしまっていたという事実に繋がってしまう。


 そんなことは、絶対に在り得ないはずだ。だって、だって、私は――――神に選ばれた天才なのだから!!


 私は、強い!! 私は、もう、幼い頃のような搾取される弱者ではない!!!!


「絶対に‥‥絶対にあってはならない!! 私の鉄壁の護りは、誰であろうとも踏破することはできはしないのです!!!!! 【ストーン・ウォール】!!!!!!」


「砕け散れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 上段に構えた漆黒の炎の剣が、私が発現した石の壁に向けて、振り降ろされる。


 その瞬間―――――石の壁は砕け散り、私の視界は一面、闇の炎に覆われ‥‥全てが焦土へと変わっていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



《シュゼット視点》


 オフィアーヌ家のお屋敷の周囲に広がる、フィアレンスの森。


 そこは、冬になると大量の雪が降り積もり、一帯が樹氷と化す。


 王国領最北に位置する土地だからだろうか。


 オフィアーヌ領は、他の地に比べて積雪量の多い、人が暮らすには厳しい寒冷な地域となっていた。


『‥‥‥‥』


 窓の外にあるのは、一面に広がる、銀の森の世界。


 ジッと人形を抱きながらその世界を見つめていると、背後から声が掛けられた。


『シュゼットちゃん、そんなに窓を見つめてどうしたのかしら?』


 振り返ると、そこには、母、アンリエッタの姿があった。


 私はそんな彼女を無表情で見つめ、問いを投げる。


『‥‥‥‥ねぇ、お母様。どうして、お父様とアリサお義母様、そして、お兄様は死んでしまったの? 何で、聖騎士の人たちはみんな、私の家族を殺してしまったの?』


 暖炉の傍で人形を抱きしめながら、幼い私はそう、母に疑問を投げた。


 すると、返って来たのは母のこんな言葉だった。


『あんな人たちはね、死んで当然なのよぉう、シュゼットちゃん。私たちを脅かす可能性のある存在は、この世界にはいらないの。当然の報いなのよぉう?』


『もうすぐ、産まれてくるっていう‥‥私の弟か妹になる子は? その子には、もう、私は会えないの‥‥? せっかく、お姉ちゃんになれると思っていたのに‥‥アリサお義母様のお腹を撫でて、楽しみに良い子に待っていたのに‥‥そんなの、やだよ‥‥』


 そう、言葉を放った瞬間。母、アンリエッタは突如、激昂した様子を見せ始める。


『あ‥‥あんな女を、母親などと言うんじゃありません、シュゼットちゃん!! あの女は、私の夫を奪った売女なのですよっっ!! あぁ、もう!! 思い出すだけでも腹立たしい!! あんな平民風情の女が、一時でもこの私と同じ四大騎士公の夫人の地位に立っていたと考えるだけで、むしゃくしゃしてくる!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!! くそがっ!! この私に対して不敬な態度を取りやがって! あのクソ女!!』


 髪を掻きむしり、発狂しだす母。


 そして地団太を踏むと、母はゼェゼェと荒く息を吐き出し、ギロリとこちらに鋭い目を向けてくる。


『良いですかぁ? シュゼットちゃん。貴方はいつか、このオフィアーヌ家の当主になる娘なのですよぉ? きっと、いつの日か貴方は、この母の行動に感謝するようになります。今はまだ、理解できないとは思うけれど‥‥必ず、先代当主の一族がいなくなったことを喜ぶ日がきっとくるわぁ。ウフ、ウフフフフフフフッ!!!!』


『‥‥‥‥』


 顔を俯かせ、私はクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめる。


 私は、お父様も、アリサお義母様も、ギルフォードお兄様も嫌いではなかった。


 それなのに‥‥何故、お母様は私からすべてを奪っていってしまったのだろう。


 その意図が、理解できなかった。


『―――――アンリエッタ様。少し、よろしいでしょうか?』


 その時だった。突如、母の背後から、眼鏡を掛けた藍色の髪の聖騎士の女性が現れる。


 その女騎士に対して、お母様は先程までの怒り狂った様子から一変、柔和な笑みを浮かべ、背後にいる彼女へと顔を向けた。


『あら、これはこれは聖騎士団副団長の、リーゼロッテさん。アリサの件で、何か進展はありましたかぁ?』


『その件に関してなのですが‥‥やはり、以前申した通り、アリサ・オフィアーヌの死亡は確実だと思われます。何分、私が彼女に矢を放った弓兵部隊の指揮を取っていましたので。死体は発見できてはおりませんが、やはり、各兵たちの調査報告書を見ても死亡は確定的かと』


『私、貴方に、アリサの死体を見つけてきなさいって‥‥そう、命令したわよねぇ? 何で、二日前と同じことを言っているのかしらぁ? 書類上の死など、いくらでも偽装は可能でしょう?』


『ですが‥‥肺や腹部に矢が突き刺さっていたことから見ても、彼女の死は確実だと思われます。経験上、生きている可能性はほぼ間違いなくゼロだと思われますが』


『良いから‥‥良いから、さっさと、あの女の死体を私の前に持ってきなさいよ、役立たずがぁっ!! あの女の子供の、ギルフォードの死体も見つかっていないのでしょう!? ふっざけんじゃないわよ、税金泥棒が!! このままじゃ、私は安心して夜も眠れないのよ!! アリサの血族は全員、皆殺しにしなきゃ‥‥私は、気が済まないのよ!!!!』


『‥‥‥‥‥了解しました。善処致します』


 そう言って、聖騎士団副団長、リーゼロッテ・クラッシュベルは、その場を静かに去って行った。


 残ったのは、苛立った様子の母と、彼女の娘である、私だけ。


 大きなオフィアーヌ家の御屋敷が、何だか寂しく感じられた。






『‥‥‥‥お友達が、欲しいな‥‥』




 翌日。暗い部屋の中で一人、私はそう呟いた。


 その時、ふいに、お友達がいないなら‥‥造ってしまおうと、そんな考えが頭をよぎった。


 瞼を閉じ、両手を虚空に掲げ、イメージする。


 可愛らしい見た目の、私だけのお友達を。


『――――――ンゴ?』


 目を開けると、そこには、ひょうたん型の土塊の身体に手足が付き、丸い目と口を模した穴が開いた‥‥小さな、15センチ程の大きさのゴーレムの姿があった。


 私は歓喜した。


 これで、ひとりぼっちじゃなくなると。


 そのゴーレムを強く抱きしめて、私は‥‥涙を溢した。


『貴方は、これから私のお友達になるの! 名前はゴレムちゃん! よろしくねっ!』


『ンゴゴゴ!?』


 その日から、私は、ゴーレムのゴレムを連れて、色んなところに行った。


 とはいっても、屋敷の周囲にはフィアレンスの森が広がっているので、庭から出ることは許されなかったが。


 それでも、ゴレムとお庭をお散歩したり、雪ダルマを作ったり、おままごとをしたり‥‥。


 産まれてくるはずだった末の子とやりたかったことを、私は、ゴレムと一緒にいっぱいやっていった。


 そうすると、寂しさは薄れ、私は毎日が楽しくなっていった。


 ゴレムが一緒に居れば、何も怖くない。その時の私は本気で、そう、思っていた。


 だけれど―――――そんな、幸せな日が長く続くことはなかった。


 ある日。母が、分家当主のデッセル・フォン・オフィアーヌと再婚し、分家の血族の者たちを屋敷に招き入れたのだ。

第106話を読んでくださってありがとうございました。

次回も近いうちに投稿すると思いますので、また読んでくださると嬉しいです!


並行して書籍化作業もしておりますので、楽しみに待っていてくださると幸いです!


いつの間にかもう七月ですね! みなさま、日射病にはお気を付けてください!

三日月猫でした! では、また!

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― 新着の感想 ―
アネット姉さん、シュゼットのことも救ってやってください…
[一言] 第一夫人、やってる事が思いっ切り御家簒奪だなぁ。 そういえば、「剣聖」と「剣神」って、文字だけ見ると剣神の方が強そうだなぁ。
[良い点] 百合ハーレムっぽくもあり、学園闘争ものとしても今のところ楽しめてます。 [気になる点] 『もうすぐ、産まれてくるっていう‥‥私の弟か妹になる子は?…アリサお義母様のお腹を撫でて、楽しみに良…
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