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第四章 第99話 学級対抗戦ー⑥ 開戦



「‥‥‥‥」


 辺りは、静寂に包まれている。


 草原の向こう側、遠く離れた場所に見えるのは、毒蛇王(バシリスク)クラスの生徒たちの姿だ。


 黒狼(フェンリル)クラスの生徒たちは、誰一人喋ることもなく‥‥ただ静かに、視界に映る敵の姿を見据えていた。


「―――――――時間ですわ」


 ルナティエのその言葉の直後、フランシア平原に『ブオォォォン』という大きな角笛の音が鳴り響いて行く。


 その角笛の音が鳴った瞬間―――毒蛇王(バシリスク)クラスの生徒たちは雄たけびを上げながら、こちらに向かって勢いよく、駆け始めた。


 その光景に、先頭に立っていたルナティエは腕を横に振り、大きく声を張り上げる。


「まさか、開始と同時に不用意に突っ込んでくるとは‥‥笑止! みなさん! 【鶴翼の陣】で迎え撃ちますわよ!! 剣兵隊!! 前へ!!」


「「「はい!!」」」


 前衛に剣兵部隊をV字型に配置させ、相手の先兵を囲い込んで叩く、相手が攻撃の陣を取ってきた際に有利に働く陣形――カウンター型の【鶴翼の陣】。


 ルナティエの命令と共に、剣兵部隊は前へと出て、V型の陣形を取る。


 俺たち魔法兵部隊と弓兵部隊は、中間で、彼ら剣兵を援護するために杖と弓を構えた。


 背後さえ取られなければ、この陣形はかなり強力なものとして働くだろう。


 後方にまったく守りがないため、奇襲に弱いのがこの陣形の弱点ではあるのだが。


「前進! 目標は毒蛇王(バシリスク)クラスの級長、シュゼット・フィリス・オフィアーヌですわ! 皆の者、慎重に、心して戦いましょ―――――って、うぇ!? ちょ、ロザレナさん!?」


 ロザレナは地面を蹴り上げ、前衛の剣兵部隊を追い越し、猛スピードで戦場を駆け抜けていく。


 その光景に、ルナティエは慌てた様子で口を開いた。


「ちょ、この、お馬鹿さん!? 大将が先陣を駆けてどうするんですの!! 貴方の腕章が取られたら、わたくしたちのクラスの敗北が確定するのでしてよ!? お分かりになって!?」


「悪いわね、ルナティエ。後方で誰かに守られているだけは性に合わないの。あたしが目指すのは、シュゼットの首ひとつよ。剣兵隊! あたしについてきなさい!」


 その号令と共に、剣兵隊は雄たけびを上げながら、ロザレナの後を追いかけて行く。


 そんな彼女の姿にルナティエは大きくため息を吐くと、やれやれと肩をを竦め、呆れたような様子で開口する。


「まったく。バックアップするのはわたくしたちだというのに、あの女は‥‥。魔法兵部隊、弓兵部隊、ロザレナ級長の援護をするために、距離を保ちつつ、後に続きなさい! 残りの情報部隊、衛生兵部隊は後方で待機! 負傷者が出たら即座に救援にいきますわよ! 何かあったらすぐにわたくしに連絡なさい! 良いですわね!」


 ルナティエの命令に従い、俺たち魔法兵部隊は剣兵隊の背後を追いかけ、走り出した。


 まぁ、ロザレナの性格上、静かに後方で待機などできはしないだろうからな。


 指揮官であるルナティエにとってロザレナの自分勝手な行動は困ったものでしかないのだろうが‥‥別段、マイナスなことばかりではない。


 兵にとっては、将が先陣を切るというのは士気が上がるものだからな。


 狙ったわけではないにしろ、ロザレナの行動により、前衛のやる気は上がっているに違いない。


「行くわよ! 黒狼(フェンリル)クラス! 狙うは、毒蛇の首元!! あたしたちを舐め腐っているあの連中の喉笛に、思いっきり噛みついてやりましょう!! 温室育ちの犬にだって牙があるんだってこと、思い知らせてやるわ!!」


 ロザレナの叫び声と共に、黒狼(フェンリル)クラスの怒号が宙を舞った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 開戦の合図である、角笛の音が草原に響き渡った直後。


 シュゼットは先頭に立ち、遠くに見える黒狼(フェンリル)クラスの生徒たちに向けて、手に持っていた扇子をまっすぐと差し向けた。


「良いですか、みなさん。今回の学級対抗戦では、ロザレナさんには絶対に手を出さないでください。あれは、私の獲物です。他の雑魚はお好きになさってどうぞ。眼中にありませんので」


「「「はっ!」」」


「さぁ、お行きなさい、毒蛇たちよ。狼どもに毒を撒き、存分にその身を喰らうが良い」


 その言葉と共に、雄たけびを上げ、毒蛇王(バシリスク)クラスの生徒たちはシュゼットの横を通り過ぎ、戦場を駆け抜けていく。


 その光景に、シュゼットはフフッと、笑みを浮かべた。


「‥‥‥‥シュゼット、てめぇ、ロザレナを狙わないってのは‥‥本気で言ってんのか?」


 背後からアルファルドが姿を現し、シュゼットへと詰め寄って行く。


 そんな彼にニコリと、シュゼットは柔和な微笑みを浮かべた。


「ええ、本気ですよ、アルファルドくん」


「ロザレナは級長だぞ? あいつさえ仕留めれば、毒蛇王(バシリスク)クラスは勝利できんだぜ? 馬鹿かよ、てめぇは」


「ただ純粋に軍戦で力比べするだけでは、面白くはないでしょう? リーダー同士で戦った方が学級対抗戦も大いに盛り上がるというもの。そうは思いませんか?」


「てめぇの遊びに付き合わされるこっちの身にもなってみろ。級長がクラスを私物化して良いとでも思ってんのか? あぁ!?」


「別に良いんじゃないでしょうか?」


「はぁぁん!?!?」


「いつの時代も、力ある者こそが正義です。それとも、ここで私と戦い‥‥惨めな思いをしてみますか? 副級長(・・・)?」


「‥‥‥‥」


 チッと大きく舌打ちを放つと、アルファルドはシュゼットから離れ、遅れて戦場へと駆けていく。


 そんな彼の背中に、シュゼットは微笑みを浮かべ、再度、口を開いた。


「‥‥‥‥さて、ロザレナさん。貴方の真価を私に見せてください。貴方が私を愉しませてくれる存在であるか否か‥‥期待していますよ」


 口元に閉じた扇子を当てた後、シュゼットはフフフフフッと、不気味な笑い声を上げるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


《ロザレナ視点》



「!? おいおい、あれ、級長のロザレナじゃねぇか!?」


「単身でこっちに向かってきているぞ!? 馬鹿かよ!?」


 地面を蹴り上げ、あたしは右手に木刀を持ち、戦場を一人、駆け抜ける。


 初めての軍戦だというのに、あたしの心には不思議と緊張や不安はなかった。


 ただ、胸中にあるのは、この一か月の修行で自分はどこまで成長できたのだろうかという、ワクワク感だけだ。


「‥‥あたしはこの一か月で、どこまでの高みに近付けたのかな」


 あたしを奴隷商から助けてくれた、あの時のアネットの背中に、少しでも近付けているのだろうか。


 少しでも、アネットに認められる剣士になれているのだろうか。


「‥‥‥‥そうね。【剣聖】なんてものは、あたしにとってはやっぱり、ただの通過点にしか過ぎないわね」


 本当の境地は、あたしを助けてくれた、あの子のあの背中だけだ。


 大きくて、遠い、ポニーテールの少女の背中。


 あの背中に追いつくには、全然時間が足りない。


 止まって休んでいる暇なんて、あたしには無い。


「シュゼット級長には手を出すなとは言われたが‥‥向かってくる以上、見逃すわけにはいかねぇな!!」


 目の前に、毒蛇王(バシリスク)クラスの剣兵隊の剣士が複数名、木剣を構えて待ち構えている。


 その姿を確認した後、あたしは跳躍し、剣を上段に構えた。


「邪魔よ」


 そして、一番手前にいた剣兵の男の脳天に、得意の『唐竹』を放って行った。


 頭上に刀身が着弾すると、男は頭を押さえながら白目を剥き、よろめきながら、地面に膝を付く。


 残りの毒蛇王(バシリスク)の生徒たち4名は、すぐさまあたしに向かって木剣を振り降ろしてくるが‥‥まるで時が止まっているかのように、その動作は遅く見えた。


 あたしは左肩を狙った袈裟斬りを身体を屈めることで回避し、そのままそいつに足払いを掛け、転ばした。


「て、てめぇ!!!!」


 背後から頭部を狙って別の剣が振り降ろされるが、振り向きざまに木刀で弾くことで防衛することに成功。


 あたしはそのまま背後の男の腹に目掛けて、思いっきり拳をお見舞いしてやった。


「ぐ、はっ‥‥!!」


 気絶し、男は力なく地面に倒れ伏していく。


 足払いをした男が立ち上がりつつあったが、即座に彼の顔面に剣を振り降ろし、気絶させた。


 ふぅと息を吐いて一息付きたかったが、どうやら休む暇なんてなさそうだ。


 残った二人が、正面からあたしに向かって剣を振り降ろしてきていたからだ。


 しかし、その剣は先程の二人と同じく、遅すぎる一振りのもの。


 グレイレウスや、アネットの剣を見てきたあたしにとって、そんなノロマな剣、当たるはずもない。


 あたしは正面からの剣に対して一閃、横薙ぎに剣を振り払い、相殺を計った。


 その瞬間。バキッと音が鳴り響き、男たちの持っていた木剣は二人同時に半分に折れ・・・・粉々になった破片が地面へと落ちて行った。


「なっ―――――!!!!」


 瞠目してその場に立ち尽くし、驚く男。


 隙を見せるだなんて、何て間抜けなのかしら。


 グレイレウスだったら、武器を失った瞬間、即座にバックステップを取って回避の行動を取ったに違いない。


 あたしは左手の拳を握り、手前に居た男の顔面に一発、そして跳躍し、奥にいる男の顔面へと回し蹴りを放って行った。


「ぐはっ!?」「ぎぃえっ!?」


 鼻血を噴き出し、男たちは地面に倒れ伏す。


 彼らが気絶しているのを確認した後、あたしはすぐさま地面を蹴り上げ、シュゼットの元へと走り出した。


 ―――――――駆けろ、駆けろ、駆けろ、駆けろ。


 この道はきっと、剣の頂に続いている。


 今はただ、シュゼットを仕留めることだけが、あたしの目的だ。


 彼女を踏破したその時こそが、あたしが剣士として真に覚醒するその時である。


 何故か、そんな絶対的な予感が、胸中にはあった。

第99話を読んでくださってありがとうございました!!

いつも、いいね、評価、ブクマ、ありがとうございます!!

とても励みになっております!!

次回も近いうちに投稿すると思いますので、また読んでくださると嬉しいです!!


みなさま、良い休日をお過ごしくださいませ。

ではでは、三日月猫でした! ではまた~!

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― 新着の感想 ―
[一言] 袈裟斬りいなさずに躱すとか運動神経良すぎ……。
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