96. 夏の浜辺の戦い (10)
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セシルの唱えた魔術による水の渦はそのまま辺りを飲み込みながら上空へと上がっていくと、最後は一か所にまとまって、まるでウニのような形をとった。
「散れ!」
そこにセシルが手をかざすと、水は無数の槍となり、周りに渦巻いていたイカの群れへと次々と突き刺さっていく。どうやらただ水を立ち上げるだけの魔術ではないようだ。
「お、ぬるぬるが消えてる!」
「ナイスセシル!!」
水が去った後は、濡れた砂浜が残るのみで、イカの粘液は綺麗に取っ払われているようだ。先ほどの弓術のクラスメイトからもぬるぬるが消えている。恐らくは応用の一つの『癒すもの』を含めた魔術……セシル、こんな魔術使えたのか……。
「しっかし、まだうようよいやがるな……!」
セシルの魔術で数が減っているはずだし、周りの生徒たちや恐らく異変を察知した教師達も魔術や剣術でイカを討伐しているはずだが、まだまだイカはオレたちの陣をぎっしりと取り囲むように宙を舞っている。
……恐らくは、海からどんどんとこのイカが供給されているのであろう。確実に数は減らしているはずなのだが、減っている気がしない。
もしかしたら外の連中もこのイカの渦の中にいるオレたちを考慮して、渦を貫通するような攻撃を放つ事が出来ないのかもしれない。
つまるところ、現状は討伐と供給が良い感じにかみ合ってしまっているという事だろう。
このまま倒していけばいずれイカもいなくなるとは思うが、皆余力はあるとはいえ、ずっと囲まれ続け、どこからイカがやってくるか分からない状態というのは、消耗が激しそうだ。
で、この数に纏わりつかれるとなると、完全に無事、とはいかないだろう。くっそ校長め、これだと命のやり取りも覚悟が必要な案件だぞ……。
この状況を打開する方法は……周りを気にしなくても良いのであれば、1つ可能性がある。
……だけど、本当はあんなの使いたくない。けれど、ここにいる全員に少しでも命の危険があるのであれば……一か八か……何もやらないよりは良いだろう。
「ねえ」
「どうした?」
オレは少し先の方で戦っていた斥候役のクラスメイトに駆け寄って話しかけた。
「そとの人達にはにゃれろって伝えられにゃい?」
「はにゃ……?ああ、離れろって?なんで?」
「ちょっとためしたい事があってさ」
「んー……よし、わかった。やってみるわ」
うーん、詳細を何も聞かずにやってくれる辺り男前である。男前……いいなぁクソが……と、僻みはさておいて。
後は、攻撃系の魔術を使える人……このクラスだとオレを含めて6人。この囲まれた状況で一番安全な選択をするとなると……セシルだ。
「セシル、ちょっと」
「えっ、な、なに?弾幕早くしないとイカが来ちゃうよ?」
「しゅういだけにこうげきできる魔術にゃい?」
「ん、あー……ある、けど」
「じゃ、合図したらそれつかって」
「う、うん……?」
よし。後は男前斥候が外の生徒達に離れろと伝えてくれたら準備完了だ。
……あれから、使いたくないのもあって一度も使った事も、使おうと思った事もないし、方法も分からないけれど、ここまで来たらやるしかない。
……ぜってぇイカなんかには負けは認めないぞ。事、勝負においては絶対に諦めないからな!
国境の森……あの時描いたのは、多分、三日月と小さな花。おぼろげな意識の中でやったから、具体的な形なんて全く覚えていない。ただ、あの時指が自然に動いたのは、何かあの月と花をオレがどこかで覚えていたから、だと思う。
……今一度、アレを……!
「マオ……?」
心配そうにオレを見ているセシルを差し置いて、オレは自分の中の魔力に集中した。あの、銀の粒子。どこか心安らぐ懐かしい感じと……月に、花。不確かな記憶の中のナニか。
「なに……?銀の……光?」
オレが静かに呼吸をするのと同時に、セシルとオレの周りに、銀の粒子がふわふわと飛び交い始めた。うん、行けそうだ……。
そこから、指が自然に動く。あの時とは違い、意識がはっきりある分不思議な感覚が一層強い。出来上がったのはあの時よりも少しだけ形が整った三日月と、4枚の尖った花弁を広げた花。やっぱりコレになる……なんだろう、見ているとやっぱりどこか安心する。けれど、それと同時に……。
……―――哀しくて、怖い。
……いや、今は戦いに集中しないと。こんな訳の分からない感情はさっさと忘れよう。
「おぉい、伝えたぞ!遠ざかってる足音も聞こえっ……って、なんだこの光の粒!?」
向こうから斥候役のクラスメイトが走ってきた。どうやら伝え終わったようだ。さて。後は……!
「セシル!」
「水天揺らぎ、姿現せ。災禍逆巻き、暴威を示せ―――……」
……何だか随分と物騒な詠唱に複雑な魔術陣……。これはまた、オレの知らない詠唱だ……。
…………あっ。
やっべ、今気が付いたけど、あのときサキとユウが使ってた魔術って初級魔術だったよな?これ多分中級とか上級とかそういう部類な気がするけど……。だ、大丈夫?
「タイダル!!」
セシルが魔術を唱えると……アレ、何も起こらない?辺りを見まわしてみても、特に変化がないように見える。
……不発、か?くっ、やっぱりぶっつけ本番じゃダメ……か……ん?なにこの地響きみたいな音?
「ちょ、ちょぉ!?マオ、なにやったの!!?」
「ほぁ?」
セシルが驚愕してみている先には……ギラギラと青白い光を宿した大渦が俺達を取り囲むようにどんどんと大きくなっているのが見える。それは天にも昇らんというような勢いで立ち上がり、ついにはイカの群れのほぼすべてを飲み込み、それに飽き足らずさらに上へと伸びて行っている。
…………あちゃー…………外、大丈夫かなこれ……。




