95. 夏の浜辺の戦い (9)
「と、ともかく!もう魔術ぶっ放すとか言ってらんなくなったなこれ!?」
「援軍要請は!?」
「もうすでに向こうから走ってきてくれてる!」
クラスの面々は慌てながらも的確に行動をとり、オレ達援護射撃部隊を取り囲むように防御陣形をとった。
しかし、妙な気が……出力最大とは言うものの、ぶっちゃけそこまで強くしたつもりはない。何だったら同じような威力で横の1-Bクラスでユウが光線を放っていたはずだし、他の上級生たちも中級魔術や上級魔術を使って先鋒のイカを薙ぎ払っていたはず……。
一体何をしたらこんなに集まるんだ……。もしかして闇か?闇がいけないのか?いや、イカって光に集まるんじゃないの?
「マオ!前!」
「んにゃ?うおぁ!この、やみのたま!!」
オレが考え事をしていると、目の前には迫るイカ……咄嗟にさっきと同じ闇の魔術を放って散らしたが、こりゃ考え事をしている暇はなさそうだ……。
ともかく、オレたちを取り囲もうとぶわっと前方に広がっているイカの大軍をどうにかしないと。
オレは短剣を腰につけたベルトに差しなおして、両手を振り上げて魔術を詠唱した。
「やみのかべ!」
オレがその名を宣言すると、ブォンと音を立てて、四方に黒の壁が現れ、クラスを覆った。
どうせあの数に追われて囲まれちゃ逃げ場はない。イカには有効な遠距離攻撃はなさそうだし、ならばさっさとここに方円陣でも敷いて援軍を待った方が得策だ。
ちょっと視認性は悪くなるが、これでイカがやってくる進路は随分絞り込めるはずだ。
「隙間あいてるとこだけ攻撃してくれ!」
「お、おう!さすが猫耳幼女パイセン!!」
「そのよび方やめろ!!」
こんな時に軽口たたいてんじゃねーよ!まったく!
…………アレ。なんか今のオレ、軍師みたいでカッコよくない?
ふ、ふふーん。今のオレはタクティシャンマオ。冷静に戦場を分析し、仲間に的確な指示を行い、勝利を呼び込む男……!
「こらマオ!悦に浸ってないで警戒なさい!」
「あ、ハイ」
いつの間にか隣に来ていたサキに怒られてしまった……。まあ、今は戦闘の真っ最中。カッコつけるのは終わってからにしよう。
しかし、散発的にイカが四方の壁の間から直線的にツッコんでは来るが……何とか守れているな。やっぱりあまり強くはないようだ。
「おぉい!大丈夫か!!?」
オレたちが戦っている最中、壁の向こう側から声が聞こえた。恐らく援軍が到着したのだろう。ふー。少しは状況が好転しただろうか。
いや、まさかこんなことになるとは露ほども思わなかった。弱くても束になると本当に厄介だ。昔に聞いた童話に弱いネズミが100匹集まって悪い猫を追い払うって奴があった気がするが、ソレを思い出した。
…………誰が悪い猫じゃ。
「しっかし……!壁の向こう、渦を巻くようにここを取り囲んでるっぽいな……」
「援軍の姿、見えないよね……」
「多分外から減らしてくれてはいるはずだが……」
確かに、壁越しに見える景色はイカ一色である。声やら爆発音やら聞こえるが援軍の姿はまだ見えない。
「きゃぁ!?」
そんな最中、オレの背後から悲鳴が上がった。ばっと振り返ると、弓術のクラスメイトにヌルテイカが絡みついていた。
やっ、ば!
オレはすぐさま腰の短剣を抜き出して、逆手に持つと、そのイカの脳天あたりを思いっきり突き刺した。その攻撃を受けたイカはしばらくビクビクと動いていたが、動きを止めると、小さな魔核へと姿を変えた。
「あ、ありがと……マオちゃん」
「……こりゃ、みせにゃい方がよさそ……」
いやぁ……うん。なぜか倒しても粘液はしばらく残るらしく、弓術のクラスメイトは髪までぬるぬるである。
ここでばっと上着とか差し出して「それ、羽織ってろ」みたいなクールイケメンムーヴをかませれば良いのだが……。
見ての通り今のオレだと上着を貸したところで、羽織る事などできないだろう……ぐぬぬ。
「うえ!ぬるぬる被った!」
「あぁ、もう制服に粘液が!」
しかし、よく見ると、だんだんと周りが粘液に侵されてきているようだ。特に足元。粘液があちらこちらに飛び散っていて、これだと足場が悪い。転んでしまったが最後、ぬるぬる地獄である。
「ごめん、みんな!びしょ濡れになってもいい!?」
戦いのさなか、セシルが声を上げた。普段こんな大きい声出さないから、中々見られない光景だ。
「おう、濡れて重くなるならもう水着で戦うぞ!」
「どうせ皆、着てきているもんね。いいよセシル!」
「やっちまえ!」
その声に呼応し、みんな羽織ったり、水着の上から来ていた上着をバサバサと脱ぎ捨てた。本当はあまり水着姿を晒したくないが、こうなったらオレも四の五の言ってられない。
オレも皆に続いてささっと服を脱ぎすてたところで、セシルは魔力の回路を練り上げ、詠唱を始めた。
「水天呼応し、姿現せ。慈悲たる波涛、大厄を飲み込め―――……」
……ん?この詠唱、学園では習ってないぞ……?
「リプルス!」
セシルが魔術を宣言すると、足元から無数の水の波が立ち上がり、その水の渦が当たりを巻きこんでいく。しかし、その波に触れても、なぜか水に押されているような感覚はない。
どうやら高度な水の魔術らしい……え、なにこれスゴイ。あとカッコいい。後で教えてもらおう。




