94. 夏の浜辺の戦い (8)
あれから、結局もみくちゃにはされたが、しっかりとお風呂を堪能してしまった……。
特に、露天風呂って奴。アレはいいものだ、入るまではちべったいが、入ってしまえば心地よく暖かく、空には満点の星……世界は美しい。なんだかよく現実逃避するときに思っていたような気がするが、今回は普通にそう思った。折を見てまた入りたい。今度は男子風呂でな!!!
それより気がかりなのは、そこから記憶が無い事なのだが……なんだか心地よくてうたた寝していた……ような……。
それから、そのままのぼせ……あ、ダメだこれ以上は思い出してはいけない奴だ。この前しっかり思い出して痛い目を見たわけだし、き、気にしない事にしよう。
現在は朝。今はいつの間にか着せられていたユカタなる服から、今回海に着ていく服に着替えている所だ。
そういえば、そこで1つ気が付いた事がある。
お風呂でクラスの面々が「ひりひりするー」と言っているのを聞いてようやく気が付いたのだけれど、どうやらこの体……日焼けをしないようだ。
一晩経っても肌は白いままだし、赤くなったりもしていない。なんというか、色々なところで人の体からかけ離れているような気がして、少しだけ恐怖を感じた。
この事に関してはディアナ先生も気が付いたらしく、しげしげとオレの体を様子を観察していた。
……あと、しばらく寝ぼけていたから気が付かなかったが、なぜか起きたらディアナ先生が頭を撫でていた。頬をほんのり赤らめてにんまりしていたが……正直少し怖かった。ま、まっどさいえんてぃすとぉ……。
……っと。さて、服は着終わった……一応、水に落ちてもいいように、下に水着も。
というわけで、朝ご飯を食べたら、今日はいよいよイカ退治の始まりだ。この日の為に急遽編み出した様々なカッコいい魔術を華麗にぶっぱなし、有終の美を飾るのだ。
フフフ、ユウの悔しがる顔が脳裏に浮かぶぜ……!
よし、着替えおしまい。さぁてさっさと朝食をー……。
「マオ。寝ぐせが付いているぞ。ほら、整えるからこっちに来なさい」
「……はい」
……む、むう。やはりこの髪は少々面倒くさい……。
―――……。
朝10時。海岸線沿いには学園の生徒がズラリと並び、討伐開始の合図……つまり、イカ襲来の狼煙を待っていた。
オレたち1年生のクラスは西の端側の担当である。本当は中央に陣取ってバカスカ倒したいのは山々なのだが、中央の激戦地は上級生達が受け持つ事になっている。もしイカの群れが端に逸れたとして、どちらにもフォローに入れるように、というわけだ。適材適所、こればかりは仕方がない。
それにしても、本当に砂浜は生徒だらけだ。大量発生って事は魔核拾ってる時間も無さそうだし、コレ、どうやって討伐数カウントするんだ……?
「……どうやって討伐数測るのかしらね?」
「あ、それオレも思ってた」
「聞いた話だとこの日の為に校長が道楽……じゃなくて、研究で作った魔道具を使うらしいよ」
「……ちゃんとうごくの?ソレ……」
う、うーん……校長は正直、ミステリアスな人だ。あまり生徒の前に姿を見せないし、入学式で、話が長かったくらいの印象しかない……。
まぁ、こんな連合王国屈指の学園の長な訳だし、その魔道具もしっかり機能する……と、思いたい。
「……遠くに敵影ー!!会敵までは……恐らく、あと5分!うじゃうじゃ居てキモイ!!」
と、オレ達がそんな会話をしていると、斥候役のチームが大声で宣言をした。どうやら波がやってきたらしい。クラスの面々はその一声に反応し、それぞれが得意とする武器を構えた。オレも準備をしなければ。
オレは片手に短剣を構えて思いっきり魔力を込めて詠唱を始めた。
さて、ここで使う魔術だが……雷は感電するから危ないし、風は砂を巻き上げる。土は砂と水の海岸じゃ使いづらいし、炎は単純に夏だから暑い。イカだから水系統は何だかあまり効かなそう。
……と、なるとオレが使う魔術はコレだ。
「扉ひらき、姿あらわせ。時空ゆがめ、夜闇をいざにゃえ……」
オレの詠唱にあわせ、上空に現れた黒い球体がぐんぐんと大きくなっていく……球体になんか尻尾っぽいものが生えているのはもう気にしない事にした。
どうもオレは光系統の魔術が苦手らしく、辺りを照らすくらいしか出来ないのだが、闇系統の魔術は得意中の得意だ。回路、よし。詠唱、まぁよし。出力、最大!これぞ、初級魔術しか覚えていない中で編み出した究極の深淵なる闇の魔術!!
「やみの紋、ねじまげろ!!やみのおおだま!!!」
イカの群れはもうすぐそこまで迫っている。ふっははは、まずはコイツを挨拶代わりにくれてやる!!
オレの詠唱が終わったのを見計らい前衛のクラスメイトが魔術の通り道をバッと開き、コレで準備は完了だ。
「けちらせ!!!」
オレの所から放たれた特大の黒い玉は尻尾を揺らしながら猛スピードで浜辺を駆け抜け、イカの群れに一直線に向かっていき、その群体にぽっかりと丸い穴を開けた。ふっふっふ、一丁上がりだ。
しかし、隣の方でも恐らくユウが放ったであろう白い光線がイカを確実に仕留めているようだ。ま、負けるかァ!
オレはさらに特大の闇玉を放つべく、持ちうる最大の魔力を込めて、短剣を空に振り上げながら詠唱を始めようとしたところ……。
「ちょ、マオちゃん。これはマズいかも」
「は?マズい?にゃにが?」
隣に待機していた弓術を使うクラスメイトが慌てて話しかけてきた。オレは詠唱の手を止めて、首を傾げたが、クラスメイトはあっちあっちと海の方を指さしている。
「うみがどーした…………はぇ?」
目に入った光景、それは地平線を黒く染め上げる、イカの大群……が、どう見ても一丸となって、我らCクラスの方へ向けて突進してきている様子……。
分散するどころかうねるようにして大群がこっちに来ていて、代わりに中央から以東の方はほとんどイカが来ていないようだ。
…………。
「もしかしてー……や、やりすぎた?」
「よっぽどマオが美味しそうに見えちゃったみたい……?」




