93. 夏の浜辺の戦い (7)
枕投げという聖戦に挑もうとしたが、悪魔の手先に拉致されたオレは、旅館のお風呂に担ぎ込まれた。もちろん担ぎ込まれた先は横の青い暖簾を通り過ぎ、赤い暖簾である女湯である。この手際の良さはもはや芸術である……。
「マオちゃん、ゲットだぜ!」
「はーいマオちゃんご案内!」
「さっさと脱がしちゃいましょう」
と、地面におろされた次の瞬間、サキをはじめとするクラスの女子、そして、その場で待機していたであろうシィにあれよあれよと服をひん剝かれた後、体と頭にタオルを巻かれ、ものの数十秒でお風呂スタイルへと早着替えさせられた。
いや、本当に芸術点が高い……。なんだこの連携、討伐当日に発揮してくれませんかね……。
と、いうか……。
「サキ!!おめーオレがオトコにゃのわかってんだろが!」
「……? 今は女の子だから問題ないでしょう?」
サキに食ってかかったが、当の本人はキョトンとした表情でオレに返事をした。いや、もしかしたら今は問題にならないのかもしれないが、戻った時に大問題だろうが!ユウといい、サキといい、なんでこうデリカシーが無いのだ!
「それに、折角ですもの。一緒に入りましょ。ね?」
サキはそう言ってオレの頭をタオル越しに撫でた。
……嫌だと言って逃げようとしたが、もうすでに包囲網は完成しており、そもそもこんな格好で外に出るわけにも行かない。くっ、ここは形だけでも従っておくべきだろう……お、覚えていろよ……!
オレがむすっとした顔をしながらコクリと頷いたところで、周りの女子達もきゃいきゃいと騒ぎながら着替えをはじめた。
…………はっ、形は従ったが、オレは誰にも屈することは無いのだ。ということで、このままコッソリとお風呂に入って人知れず立ち去ってしまおう。
オレはじりじりと、ゆっくり距離を取り、女子達の視線が外れたタイミングで体勢を翻し、ダッシュでお風呂への扉を開けた。
「……ん?おーっ、でけー!」
扉を開けると、そこには岩の地面に大きな風呂が備わっており、向こう側にはさらに何かの部屋やら、小さい風呂やら、色々なタイプの風呂が立ち並んでいる。風呂と言えばこじんまりとした大理石のバスタブがポツンと置かれているものが主流だし、寮の風呂もここまで大きくはない。こんな巨大な風呂を見るのは初めてだ。
これは壮観……!なんとなく、レジャー施設のような感じがしてちょっとだけテンションが上がってしまう。惜しむらく……非常に惜しむらくは、これが女風呂という事なのだが……っ。
さて、早く行動しないとまた魔の手に捕まってしまう事だろう。今回風呂に連行されたのが遅かったのもあり、あまり混んでいないように思うし、選び放題だ。
しかし、共用だし体を洗わないと行けない……ここは、そこに備え付けてある蛇口とシャワーでさっさと洗ってしまおう。
オレはすぐに隠れられるように一番奥の洗い場にソロソロと気配を消して歩いていき、なんとなーくバリアになるかもと、備え付けられている木組みの桶を横に二つ積み重ねて置いておき、頭と体のタオルをとった。そして、備え付けられているシャワーを引っ張ってきて、体を軽く流して、はぁと小さく溜息をついた。
……目の前には大きい鏡があるのだが、ばっちりと猫耳幼女な姿を映し出している……この、まじまじと見せつけやがって……。
しかし、実際触ってみるとぷにぷになのだが、こう客観的に自分の姿を見ると、全体的に細っこいように思う。もう少し、色々と食べた方が良いだろうか……。
「あはっ、そんな心配しなくてもきっと成長しておっきくなるよぉ」
オレが全身の筋肉を確認するため、手で色々と体の感触を確認し、ちょうど大胸筋の張り具合を確認していたところで、後ろに影が差した。鏡には……シィが映っている。どうやら、見つかってしまったらしいが……成長して大きくなるのではなくて、オレは今大きくなりたいのだ。待ってられねぇ。
「オレはいま大きくにゃりたいの」
「そう……あ、揉むと大きくなるらしいよ?」
「もむ?」
ううん、聞いたことないけれど……体を揉みほぐすことで、癒し効果的な何かが出て、筋肉がカッチリ大きくなったりするのだろうか。どちらかというと揉むってほぐすイメージがあるから、筋肉が育つとは思わないが……。
「あと、他の人に揉んでもらった方がいいんだって」
「ふーん……じゃ、やってみて」
「えっ。予想外の反応……じゃあ……」
オレはシィに向けて右腕をひょいと差し出してみた。まぁ、ダメで元々という奴である。しかし、シィは俺の背後まで回り込むと、脇にすっと手をまわし……。
「えい」
「ひゃぁん!?」
は!?え!!?にゃぁっ!!!!?!?!?
「にゃ、にゃ、にゃ……ッ!ど、どこさわってんだ!!」
「おぉー……ぷにぷにしっとり」
「はぅっ!?は、はにゃせっ!」
あろうことか、シィは俺の胸の部分を手ですっぽりと手で覆った。いきなり何やってんだ!!?
「にゃんでむねにゃんだよ!」
「え?大きくなりたいって……」
「はぁ!?」
オレはすぐさま傍に置いてあったタオルで体を隠し、すぐそばにあった桶を前に構えた。
どうやら、シィが言っていたのは、胸の事だったらしい……いや、胸筋で胸板は欲しいが決して、その……ううぅー!!
「ばかぁーーー!!」
「えええぇ!?なんでよぉ!!」




